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2019年06月02日
神経細胞由来のエストロゲンが記憶に関わることを調べた研究
(脳でも女性ホルモンが作られて、記憶に関係しています)
神経細胞由来のエストロゲンが記憶に関わることを調べた研究
2019年4月7日
「女性ホルモン」「男性ホルモン」と呼ばれるホルモンがあることをご存知でしょう。
女性ホルモンに含まれる「エストロゲン」と「プロゲステロン」は、
そのバランスの変化によって女性の体を調節しています。
ただし、女性ホルモンは女性だけで分泌されるわけではなく、男性でも重要な役割を果たします。
今回は、神経細胞で作られるエストロゲンと記憶との関係を調べた研究をご紹介します。
図2 (2009年4月10日 独立行政法人 理化学研究所
女性ホルモン「エストロゲン」の記憶改善効果の一端を解明
−慢性脳循環障害の遺伝子改変で性差、女性の脳は男性より記憶障害に強い−)
認知症ねっとACADEMICS 認知症ねっと編集部
女性ホルモンとして知られるエストロゲンは、
「エストロン」「エストラジオール」などからなるホルモンの総称です。
中でもエストラジオール(E3)は女性の体を維持するために重要な役割を担っています。
エストラジオールは主に卵巣で作られますが、その他にも脳で作られることが知られています。
脳の大脳皮質、海馬や扁桃体、視床下部といった領域では、
男女に関わらず作られていますが、その役割は明らかではありません。
アメリカのオーガスタ大学の研究チームは、
神経細胞由来のエストロゲンの役割を調べるために、
前脳でエストロゲンを作ることができないマウスを、遺伝子操作により作成しました。
前脳のエストロゲンの働きだけを知るために、メスのマウスでは卵巣を除去しました。
前脳は思考や判断などの機能をつかさどる領域です。
研究チームはいくつかの行動実験を行い、脳のエストロゲンの働きを調べました。
まず、前脳でエストロゲンを作ることができないマウスの神経細胞を調べたところ、
オス、メスどちらでも、神経細胞の接続(シナプス)が、普通のマウスよりも少ないことが分かりました。
そして、迷路を使った実験によって、このマウスは空間を記憶する能力も劣っていました。
さらに、新しいものと古いものを区別させる実験を行ったところ、
通常のマウスよりも、以前に出会ったものを記憶する能力が劣っていることが分かりました。
電気ショックなどを与える実験では、恐怖体験を記憶する力も劣っていました。
エストロゲンを与えると記憶力が改善する
次に研究チームは、前脳でエストロゲンを作ることができないマウスに、
エストロゲンを与えて、その行動がどのように変化するかを調べました。
エストロゲンは背中から『皮下注射』によって与えました。
その結果、エストロゲンを与えられたマウスでは、記憶が改善されることが分かりました。
さらに詳しく調べるために、
エストロゲンを作ることができないマウスの海馬を取り出し、観察を行いました。
海馬では「長期増強」という現象によって記憶が長期に維持されると考えられています。
エストロゲンを作ることができないマウスでは、この長期増強の具合が小さいことが分かりました。
そこで、この海馬を薄片にしたものにエストロゲンを直接反応させたところ、
増強が起こることが確認されました。
以上の結果は、脳の神経細胞で作られるエストロゲンは、記憶に関わる機能を持つことを示唆しています。
卵巣由来のエストロゲンも記憶に関わるのかは今後の課題
認知症の中でも、とくにアルツハイマー型の認知症は、
女性のほうが男性よりもかかりやすい傾向があります。
これには、高齢になって女性ホルモンが減ることが関係しているとも言われますが、
その詳細は明らかではありません。
今回ご紹介した論文では、脳で作られるエストロゲンが記憶に関係していることが示されましたが、
卵巣で作られるエストロゲンが記憶など認知機能にどのように影響しているのかについては、
今後の研究課題です。
また、今回の研究から、前脳のエストロゲンが減っても、
外から与えることで記憶の低下を抑えられることが示されました。
今後、エストロゲンによる記憶力の回復効果が人でも確認されることを期待します。
▼ご紹介した論文
Yujiao Lu. Et al. Journal of Neuroscience. Published February 6 2019.
神経細胞由来のエストロゲンが記憶に関わることを調べた研究
2019年4月7日
「女性ホルモン」「男性ホルモン」と呼ばれるホルモンがあることをご存知でしょう。
女性ホルモンに含まれる「エストロゲン」と「プロゲステロン」は、
そのバランスの変化によって女性の体を調節しています。
ただし、女性ホルモンは女性だけで分泌されるわけではなく、男性でも重要な役割を果たします。
今回は、神経細胞で作られるエストロゲンと記憶との関係を調べた研究をご紹介します。
図2 (2009年4月10日 独立行政法人 理化学研究所
女性ホルモン「エストロゲン」の記憶改善効果の一端を解明
−慢性脳循環障害の遺伝子改変で性差、女性の脳は男性より記憶障害に強い−)
認知症ねっとACADEMICS 認知症ねっと編集部
女性ホルモンとして知られるエストロゲンは、
「エストロン」「エストラジオール」などからなるホルモンの総称です。
中でもエストラジオール(E3)は女性の体を維持するために重要な役割を担っています。
エストラジオールは主に卵巣で作られますが、その他にも脳で作られることが知られています。
脳の大脳皮質、海馬や扁桃体、視床下部といった領域では、
男女に関わらず作られていますが、その役割は明らかではありません。
アメリカのオーガスタ大学の研究チームは、
神経細胞由来のエストロゲンの役割を調べるために、
前脳でエストロゲンを作ることができないマウスを、遺伝子操作により作成しました。
前脳のエストロゲンの働きだけを知るために、メスのマウスでは卵巣を除去しました。
前脳は思考や判断などの機能をつかさどる領域です。
研究チームはいくつかの行動実験を行い、脳のエストロゲンの働きを調べました。
まず、前脳でエストロゲンを作ることができないマウスの神経細胞を調べたところ、
オス、メスどちらでも、神経細胞の接続(シナプス)が、普通のマウスよりも少ないことが分かりました。
そして、迷路を使った実験によって、このマウスは空間を記憶する能力も劣っていました。
さらに、新しいものと古いものを区別させる実験を行ったところ、
通常のマウスよりも、以前に出会ったものを記憶する能力が劣っていることが分かりました。
電気ショックなどを与える実験では、恐怖体験を記憶する力も劣っていました。
エストロゲンを与えると記憶力が改善する
次に研究チームは、前脳でエストロゲンを作ることができないマウスに、
エストロゲンを与えて、その行動がどのように変化するかを調べました。
エストロゲンは背中から『皮下注射』によって与えました。
その結果、エストロゲンを与えられたマウスでは、記憶が改善されることが分かりました。
さらに詳しく調べるために、
エストロゲンを作ることができないマウスの海馬を取り出し、観察を行いました。
海馬では「長期増強」という現象によって記憶が長期に維持されると考えられています。
エストロゲンを作ることができないマウスでは、この長期増強の具合が小さいことが分かりました。
そこで、この海馬を薄片にしたものにエストロゲンを直接反応させたところ、
増強が起こることが確認されました。
以上の結果は、脳の神経細胞で作られるエストロゲンは、記憶に関わる機能を持つことを示唆しています。
卵巣由来のエストロゲンも記憶に関わるのかは今後の課題
認知症の中でも、とくにアルツハイマー型の認知症は、
女性のほうが男性よりもかかりやすい傾向があります。
これには、高齢になって女性ホルモンが減ることが関係しているとも言われますが、
その詳細は明らかではありません。
今回ご紹介した論文では、脳で作られるエストロゲンが記憶に関係していることが示されましたが、
卵巣で作られるエストロゲンが記憶など認知機能にどのように影響しているのかについては、
今後の研究課題です。
また、今回の研究から、前脳のエストロゲンが減っても、
外から与えることで記憶の低下を抑えられることが示されました。
今後、エストロゲンによる記憶力の回復効果が人でも確認されることを期待します。
▼ご紹介した論文
Yujiao Lu. Et al. Journal of Neuroscience. Published February 6 2019.
追加プレゼント申請
2019年06月01日
日本の異性間性未経験者が増加傾向 30歳代の1割が経験なし
(人間も食ってやって寝る。
基本がないと寂しくないか?
家族ほど自分の生活の原動力になるものはないが…
男の場合は、稼ぎが少ないと女が寄ってこないみたい)
日本の異性間性未経験者が増加傾向
30歳代の1割が経験なし
2019年04月10日 15:55
東京大学大学院国際保健政策学教室のCyrus Ghaznavi氏らは、
1987〜2015年の出生動向基本調査のデータを解析し、
日本人全体での異性間性交渉未経験率(以下、未経験率)を推定。
その結果、この20年間で異性間性交渉の経験がない成人が増加傾向にあり、
30歳代の10人に1人が未経験であることが判明したとBMC Public Health(2019; 19: 355)に発表した。
1万例超の調査7回のデータを解析
解析対象は、国立社会保障・人口問題研究所が
1987〜2015年に約5年間隔で7回行った出生動向基本調査のデータ。
この調査の対象は18〜39歳(1987年調査では18〜34歳)の成人で、
各回のサンプルサイズは1万1,553〜1万7,859例であった。
Ghaznavi氏らはこのデータを用い、性・年齢別に年齢調整した未経験率を算出した。
解析の結果、全体(18〜39歳)の未経験率は、
1992〜2015年に女性では21.7%から24.6%に上昇(P<0.05)、
男性では20.0%から25.8%に上昇していた(P<0.05)。
30〜34歳の未経験率は、
1987〜2015年に女性では6.2%から11.9%に上昇(P≧0.05)、
男性では8.8%から12.7%に上昇していた(P≧0.05)。
また、35〜39歳の未経験率は、
1992年の時点では女性で4%、男性で5.5%にすぎなかったが、
2015年には女性で8.9%(P<0.05)、男性で9.5%に上昇していた(P≧0.05)。
男性では無職・非正規雇用・低収入が関連
さらに、異性間性交渉未経験に関連する因子を特定するため、
2010年調査データについてロジスティック回帰分析を行った。
その結果、25〜39歳の男性では、
パートタイムまたは非正規雇用(正規雇用者に対する年齢調整オッズ比3.82、95%CI 3.04〜4.80)
および無職(同7.87、6.06〜10.23)が異性間性交渉未経験と有意に関連していた。
また、低収入の男性ほど未経験率が高かった。
一方、25〜39歳の女性では無職および低収入層で未経験率が低かった。
日本の成人では初めての異性間性交渉の時期が他国の同年代よりも遅く、
30歳代の多くが未経験となっている。
英国、米国、オーストラリアにおける同様の調査では、
30歳代前後の異性間性交渉未経験者の割合は1〜5%である。
しかし、その他の高収入国における調査では、
若年成人における性的活動性の低下が示唆されており、
日本は世界的なトレンドを牽引している可能性がある。
今回の研究チームの主任研究者で同大学およびスウェーデン・Karolinska InstitutetのPeter Ueda氏は
「性的活動性の低下およびオンラインデートの普及や恋愛・性的関係に対する期待の変化、価値観・ライフスタイル・労働市場の傾向の変化によって配偶者選択市場がどのように進化しているか、さらに研究を行う必要がある」と指摘している。
これらの結果について、Ghaznavi氏は
「因果関係は極めて複雑だが、男性では社会経済的な問題、
つまり低収入が異性間性交渉未経験の少なくとも一因であることを示している」と指摘。
また、女性で男性とは対照的な結果となったことについて、
「既婚で性交渉経験がある専業主婦」の割合が多いためではないかと推測している。
さらに、今後の課題について
「成人後も異性間性交渉未経験の日本人が多い原因と、高い未経験率が公衆衛生および人口動態に及ぼす影響について、さらなる研究が必要である」と述べている。
(太田敦子)
基本がないと寂しくないか?
家族ほど自分の生活の原動力になるものはないが…
男の場合は、稼ぎが少ないと女が寄ってこないみたい)
日本の異性間性未経験者が増加傾向
30歳代の1割が経験なし
2019年04月10日 15:55
東京大学大学院国際保健政策学教室のCyrus Ghaznavi氏らは、
1987〜2015年の出生動向基本調査のデータを解析し、
日本人全体での異性間性交渉未経験率(以下、未経験率)を推定。
その結果、この20年間で異性間性交渉の経験がない成人が増加傾向にあり、
30歳代の10人に1人が未経験であることが判明したとBMC Public Health(2019; 19: 355)に発表した。
1万例超の調査7回のデータを解析
解析対象は、国立社会保障・人口問題研究所が
1987〜2015年に約5年間隔で7回行った出生動向基本調査のデータ。
この調査の対象は18〜39歳(1987年調査では18〜34歳)の成人で、
各回のサンプルサイズは1万1,553〜1万7,859例であった。
Ghaznavi氏らはこのデータを用い、性・年齢別に年齢調整した未経験率を算出した。
解析の結果、全体(18〜39歳)の未経験率は、
1992〜2015年に女性では21.7%から24.6%に上昇(P<0.05)、
男性では20.0%から25.8%に上昇していた(P<0.05)。
30〜34歳の未経験率は、
1987〜2015年に女性では6.2%から11.9%に上昇(P≧0.05)、
男性では8.8%から12.7%に上昇していた(P≧0.05)。
また、35〜39歳の未経験率は、
1992年の時点では女性で4%、男性で5.5%にすぎなかったが、
2015年には女性で8.9%(P<0.05)、男性で9.5%に上昇していた(P≧0.05)。
男性では無職・非正規雇用・低収入が関連
さらに、異性間性交渉未経験に関連する因子を特定するため、
2010年調査データについてロジスティック回帰分析を行った。
その結果、25〜39歳の男性では、
パートタイムまたは非正規雇用(正規雇用者に対する年齢調整オッズ比3.82、95%CI 3.04〜4.80)
および無職(同7.87、6.06〜10.23)が異性間性交渉未経験と有意に関連していた。
また、低収入の男性ほど未経験率が高かった。
一方、25〜39歳の女性では無職および低収入層で未経験率が低かった。
日本の成人では初めての異性間性交渉の時期が他国の同年代よりも遅く、
30歳代の多くが未経験となっている。
英国、米国、オーストラリアにおける同様の調査では、
30歳代前後の異性間性交渉未経験者の割合は1〜5%である。
しかし、その他の高収入国における調査では、
若年成人における性的活動性の低下が示唆されており、
日本は世界的なトレンドを牽引している可能性がある。
今回の研究チームの主任研究者で同大学およびスウェーデン・Karolinska InstitutetのPeter Ueda氏は
「性的活動性の低下およびオンラインデートの普及や恋愛・性的関係に対する期待の変化、価値観・ライフスタイル・労働市場の傾向の変化によって配偶者選択市場がどのように進化しているか、さらに研究を行う必要がある」と指摘している。
これらの結果について、Ghaznavi氏は
「因果関係は極めて複雑だが、男性では社会経済的な問題、
つまり低収入が異性間性交渉未経験の少なくとも一因であることを示している」と指摘。
また、女性で男性とは対照的な結果となったことについて、
「既婚で性交渉経験がある専業主婦」の割合が多いためではないかと推測している。
さらに、今後の課題について
「成人後も異性間性交渉未経験の日本人が多い原因と、高い未経験率が公衆衛生および人口動態に及ぼす影響について、さらなる研究が必要である」と述べている。
(太田敦子)
追加プレゼント申請
2019年05月31日
第15回 アナタの心電図は“男女”どっち?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】
(心電図に性差があることを述べるために、不要と思ったところは割愛していますー悪しからず)
第15回 アナタの心電図は“男女”どっち?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】
公開日:2019/03/18 企画・制作 ケアネット
杉山 裕章氏(京都府立医科大学)が、
症例に関する問題と解説を通して攻略法をお届けします。
皆さんは心電図に「性差」があるのをご存知ですか?
男性と女性では、波形にいくつかの違いがあるのです。
今回は、それを見極めるために、ST部分の“男女差”についてDr.ヒロが解説します。
はじめに言っておくと、今回の話もあくまでも“雑談”です。
細部まで逐一暗記しようとせず、『ふーん、そうなのかぁ』程度に思ってもらえば大丈夫。
注目するのはV1〜V4(前胸部)誘導のJ点とST角度(ST angle)の2点。
「J点」はQRS波の“おわり”で、
いわゆる“変曲点”です(第14回)。
もう一つの「ST角度」という名前は聞き慣れないかもしれないので、図で説明しましょう。
男女別のST部分の差を3つに分類したSurawicz先生によると、
J点を認識し、そこを通り基線に平行な線Aを引きます。
次に、J点と点B(J点から60ms[1.5mm]先のST部分で“ST60”と称される)を結ぶ線がなす角度(図中のC)を表します。
ST部分の“傾き”と理解すれば良いでしょう。
では、この2つを用いてST部分を
1)女性型(F型)、
2)男性型(M型)、
3)不定型(I型)の3つに分類する方法*2を紹介します。
J点・ST角度によるST型分類
まずは、V1〜V4誘導でJ点レベルが最高となる誘導に注目します。
V1〜V4誘導のいずれでもJ点が「0.1mV」、
つまり、基線からの上昇が1mm未満なのが「F型」
(ST角度は不問)です。
角度が一番キツい(最大となる)誘導で、
その角度が20°以上だったら「M型」、
それ未満なら「I型」とします。
具体的な数値は忘れてかまいませんが、
若年男性ほど角度が急峻、つまり「M型」となる傾向なんです。
ボクの経験上、ST角度はおおむねT波高が一番のところで最大となるため、
ざっと見てJ点が1mm以上であれば、
T波が最も高くツンと立った誘導を使ってST角度を調べるスタンスでOKです。
まず、女性のほうはシンプル。
全年代にわたって8割方がF型です。
残り2割、成人の場合ではM型とI型が半分ずつ占めています。
一方の男性はどうでしょう?
思春期以降、40歳くらいまではM型ないしI型で9割近くを占め、
“若さ”の象徴的な「ST上昇」が目立ちます。
ただ、よーく見ると、成人以降、M型は徐々に減り、
代わりにF型がぐんぐん増えてきます(I型は1〜2割のままほぼ一定)。
50歳前後でF型はM型を凌駕し、
最終的に今回の症例のような高齢男性では、7割がF型となる様子が読み取れます。
心電図が年をとった結果、生物学的には男性でも、心電図は“女性”…そんなことが珍しくないというワケ。
この“理由”はと言えば、皆さんお察しの通り「性ホルモン」の影響が強いようです。
“力こぶ”を連想させるST-T部分はテストステロンの影響を受けるため、
加齢によって“更年期”を迎え、最終的には枯渇してゆく…。
今回は、あまり真面目に語られることのない、性別による心電図波形の違いについて扱いました。
やや雑学的はハナシですが、ボクが医学生の頃、友達と面白いなぁと話した日々を懐かしく思いました。
Take-home Message
J点(STレベル)とST角度には性差が現れやすい(3つの区分あり)
男性に特徴的な加齢に伴うST型の変化を知っておこう
参考文献
1)Bidoggia H, et al. Am Heart J. 2000;140:430–436.
2)Surawicz B, et al. J Am Coll Cardiol. 2002;40:1870–1876.
第15回 アナタの心電図は“男女”どっち?【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】
公開日:2019/03/18 企画・制作 ケアネット
杉山 裕章氏(京都府立医科大学)が、
症例に関する問題と解説を通して攻略法をお届けします。
皆さんは心電図に「性差」があるのをご存知ですか?
男性と女性では、波形にいくつかの違いがあるのです。
今回は、それを見極めるために、ST部分の“男女差”についてDr.ヒロが解説します。
はじめに言っておくと、今回の話もあくまでも“雑談”です。
細部まで逐一暗記しようとせず、『ふーん、そうなのかぁ』程度に思ってもらえば大丈夫。
注目するのはV1〜V4(前胸部)誘導のJ点とST角度(ST angle)の2点。
「J点」はQRS波の“おわり”で、
いわゆる“変曲点”です(第14回)。
もう一つの「ST角度」という名前は聞き慣れないかもしれないので、図で説明しましょう。
男女別のST部分の差を3つに分類したSurawicz先生によると、
J点を認識し、そこを通り基線に平行な線Aを引きます。
次に、J点と点B(J点から60ms[1.5mm]先のST部分で“ST60”と称される)を結ぶ線がなす角度(図中のC)を表します。
ST部分の“傾き”と理解すれば良いでしょう。
では、この2つを用いてST部分を
1)女性型(F型)、
2)男性型(M型)、
3)不定型(I型)の3つに分類する方法*2を紹介します。
J点・ST角度によるST型分類
まずは、V1〜V4誘導でJ点レベルが最高となる誘導に注目します。
V1〜V4誘導のいずれでもJ点が「0.1mV」、
つまり、基線からの上昇が1mm未満なのが「F型」
(ST角度は不問)です。
角度が一番キツい(最大となる)誘導で、
その角度が20°以上だったら「M型」、
それ未満なら「I型」とします。
具体的な数値は忘れてかまいませんが、
若年男性ほど角度が急峻、つまり「M型」となる傾向なんです。
ボクの経験上、ST角度はおおむねT波高が一番のところで最大となるため、
ざっと見てJ点が1mm以上であれば、
T波が最も高くツンと立った誘導を使ってST角度を調べるスタンスでOKです。
まず、女性のほうはシンプル。
全年代にわたって8割方がF型です。
残り2割、成人の場合ではM型とI型が半分ずつ占めています。
一方の男性はどうでしょう?
思春期以降、40歳くらいまではM型ないしI型で9割近くを占め、
“若さ”の象徴的な「ST上昇」が目立ちます。
ただ、よーく見ると、成人以降、M型は徐々に減り、
代わりにF型がぐんぐん増えてきます(I型は1〜2割のままほぼ一定)。
50歳前後でF型はM型を凌駕し、
最終的に今回の症例のような高齢男性では、7割がF型となる様子が読み取れます。
心電図が年をとった結果、生物学的には男性でも、心電図は“女性”…そんなことが珍しくないというワケ。
この“理由”はと言えば、皆さんお察しの通り「性ホルモン」の影響が強いようです。
“力こぶ”を連想させるST-T部分はテストステロンの影響を受けるため、
加齢によって“更年期”を迎え、最終的には枯渇してゆく…。
今回は、あまり真面目に語られることのない、性別による心電図波形の違いについて扱いました。
やや雑学的はハナシですが、ボクが医学生の頃、友達と面白いなぁと話した日々を懐かしく思いました。
Take-home Message
J点(STレベル)とST角度には性差が現れやすい(3つの区分あり)
男性に特徴的な加齢に伴うST型の変化を知っておこう
参考文献
1)Bidoggia H, et al. Am Heart J. 2000;140:430–436.
2)Surawicz B, et al. J Am Coll Cardiol. 2002;40:1870–1876.
2019年05月30日
急性大動脈解離、初の「診療の質指標」を開発
(急性動脈解離ー阿藤海さんの亡くなった病気!
タイプA(上行大動脈解離有)対タイプB(同無)
院内死亡率が24.3%と4.5%、
手術施行例の院内死亡率が11.8%と7.2%、
内科的治療施行例の院内死亡率が49.7%と4.2%)
急性大動脈解離、初の「診療の質指標」を開発
2019年04月09日 05:05
院内死亡率が25〜30%と非常に高いことで知られる
急性大動脈解離(acute aortic dissection; AAD)の日本における治療状況を明らかにするため、
武蔵野赤十字病院(東京都)循環器内科の山口徹雄氏らが大規模データベースを解析し、
そのデータを基に診療の質指標(Quality Indicator; QI)を作成、
詳細を第83回日本循環器学会(3月29〜31日)で報告した。
同氏は「本邦においてAADのガイドラインに沿った治療が
十分に行われているかどうかの基礎データが乏しかった。
今回作成したQIの達成率はアウトカムと有意な関連が確認され、
今後の診療の質均てん化や診療ギャップの改善に有用と考えられる」と述べた。
JROAD-DPCデータベースからAADの診療実態を検証
山口氏らは循環器疾患診療実態調査(JROAD-DPC)データベースを活用し、
2012年4月から2015年3月までにAADで入院した患者3万1,905例を同定。
そのうち、検査入院の患者やAADのタイプが不明な患者などを除外した
1万8,348例(タイプA = 1万131例、タイプB = 8,217例)のアウトカムを検討した。
タイプAは上行大動脈から裂けるタイプで、通常、緊急手術が必要。
手術不能で内科的治療のみを行った場合の院内死亡率は50%にもなる。
タイプBでは上行大動脈の解離はなく、下行大動脈から裂けるタイプ。
一般的には内科的治療を行うが、重症例では手術が必要で、その場合の院内死亡率は20〜30%になる。
AADのガイドラインには、
診断(CTでの診断を推奨)、
降圧の仕方(β遮断薬を推奨)、
タイプAや複雑なタイプBに対する手術施行方法など、
エビデンスに基づく記載はあるが、
実際の診療でエビデンス通りの治療が確実に行われているかどうかは確認されていない。
自治体指定の救急救命センターへの搬送は50%強
タイプA群、タイプB群の平均年齢に差はなかった。
タイプA群は男性が46.9%、タイプB群は女性が69.6%、
病院搬送時点でタイプA群の13.4%、タイプB群の0.9%が昏睡状態であった。
自治体が指定する救急救命センターへの搬送割合は
タイプA群57.4%、タイプB群54.3%で、
約半数近くが救急救命センターでない病院へ運ばれている。
運ばれた施設の心臓血管外科医および循環器内科専門医の数は、
タイプA群でそれぞれ5人、11人、タイプB群でそれぞれ4人と10人であった。
造影CTによる診断がなされたのはタイプA群で82.6%、タイプB群で91.8%、
血行動態把握に重要な動脈圧ラインによる血圧測定が実施されていたのは
タイプA群で76.9%、タイプB群で52.8%。
β遮断薬の処方は79.1%と82.8%だった。
タイプA群とB群の治療内容と転帰は、
外科手術が66.0%と2.9%、
TEVAR(ステントグラフト)が0.6%と4.4%、
術中経食道心エコーが76.6%と26.3%、院内死亡率が24.3%と4.5%、
手術施行例の院内死亡率が11.8%と7.2%、
内科的治療施行例の院内死亡率が49.7%と4.2%であった。
また、総医療費はタイプA群が626万円、タイプB群は118万円であった。
QIが治療転帰と相関―AAD診療の評価や改善に向けた活用に期待
次に山口氏らは、デルファイ変法※によるQI(診療の質指標、Quality Indicator)の作成を試みた。
PubMedやMEDLINEの文献検索により最終的に36の文献を選び出し、QIの候補を選定、
専門家会議・デルファイ変法で
構造に関わる指標を5項目
(@救命センター指定の有無
A心臓血管外科医の数
B循環器専門医の数
C年間の大動脈手術件数
D年間の血管内治療件数)、
過程に関わる指標4項目
(E診断のためのCT施行
F術中経食道心エコー検査の施行
G動脈圧ラインによる血圧管理
Hβ遮断薬処方)を設定した。
9つのQI指標が満たされた数が
7〜9個、4〜6個、0〜3個の3群に分け、
7〜9個の死亡オッズ比(OR)を1として解析したところ、
タイプA群、タイプB群のいずれにおいても、
4〜6個、0〜3個とQI達成数が少なくなるほど、死亡ORが高くなっていることが確認された。
さらに、
構造のQI(3〜5個 vs. 1〜2個 vs. 0個)、
過程のQI(3〜4個 vs. 1〜2個 vs. 0個)で分けて調べても、
それぞれのQI達成数が少ないほど死亡のORが高く、
今回作成したQIがアウトカムと関連することが示された。
山口氏は、全国規模のAADデータであり、
症例数が約1万8,000例と多いこと、
臨床試験ではないリアルワールドのデータであることなどを今回の研究の強みとして挙げる一方、
限界は、退院後の長期追跡データがないこと、
観察研究であることから測定できない因子がある、治療選択決定の理由が不明である、
ことなどだと述べた。
最後に同氏は「AADのQIを報告した論文は世界的にもなく、
今後、この指標を用いたAAD診療の評価や改善が期待される」と講演を結んだ。
※ 米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)およびランド研究所(RAND Corporation)で開発されたQI 作成の国際的な標準方法。RAND/UCLA 適切性評価法とも呼ばれる。
(JCS2019取材班)
タイプA(上行大動脈解離有)対タイプB(同無)
院内死亡率が24.3%と4.5%、
手術施行例の院内死亡率が11.8%と7.2%、
内科的治療施行例の院内死亡率が49.7%と4.2%)
急性大動脈解離、初の「診療の質指標」を開発
2019年04月09日 05:05
院内死亡率が25〜30%と非常に高いことで知られる
急性大動脈解離(acute aortic dissection; AAD)の日本における治療状況を明らかにするため、
武蔵野赤十字病院(東京都)循環器内科の山口徹雄氏らが大規模データベースを解析し、
そのデータを基に診療の質指標(Quality Indicator; QI)を作成、
詳細を第83回日本循環器学会(3月29〜31日)で報告した。
同氏は「本邦においてAADのガイドラインに沿った治療が
十分に行われているかどうかの基礎データが乏しかった。
今回作成したQIの達成率はアウトカムと有意な関連が確認され、
今後の診療の質均てん化や診療ギャップの改善に有用と考えられる」と述べた。
JROAD-DPCデータベースからAADの診療実態を検証
山口氏らは循環器疾患診療実態調査(JROAD-DPC)データベースを活用し、
2012年4月から2015年3月までにAADで入院した患者3万1,905例を同定。
そのうち、検査入院の患者やAADのタイプが不明な患者などを除外した
1万8,348例(タイプA = 1万131例、タイプB = 8,217例)のアウトカムを検討した。
タイプAは上行大動脈から裂けるタイプで、通常、緊急手術が必要。
手術不能で内科的治療のみを行った場合の院内死亡率は50%にもなる。
タイプBでは上行大動脈の解離はなく、下行大動脈から裂けるタイプ。
一般的には内科的治療を行うが、重症例では手術が必要で、その場合の院内死亡率は20〜30%になる。
AADのガイドラインには、
診断(CTでの診断を推奨)、
降圧の仕方(β遮断薬を推奨)、
タイプAや複雑なタイプBに対する手術施行方法など、
エビデンスに基づく記載はあるが、
実際の診療でエビデンス通りの治療が確実に行われているかどうかは確認されていない。
自治体指定の救急救命センターへの搬送は50%強
タイプA群、タイプB群の平均年齢に差はなかった。
タイプA群は男性が46.9%、タイプB群は女性が69.6%、
病院搬送時点でタイプA群の13.4%、タイプB群の0.9%が昏睡状態であった。
自治体が指定する救急救命センターへの搬送割合は
タイプA群57.4%、タイプB群54.3%で、
約半数近くが救急救命センターでない病院へ運ばれている。
運ばれた施設の心臓血管外科医および循環器内科専門医の数は、
タイプA群でそれぞれ5人、11人、タイプB群でそれぞれ4人と10人であった。
造影CTによる診断がなされたのはタイプA群で82.6%、タイプB群で91.8%、
血行動態把握に重要な動脈圧ラインによる血圧測定が実施されていたのは
タイプA群で76.9%、タイプB群で52.8%。
β遮断薬の処方は79.1%と82.8%だった。
タイプA群とB群の治療内容と転帰は、
外科手術が66.0%と2.9%、
TEVAR(ステントグラフト)が0.6%と4.4%、
術中経食道心エコーが76.6%と26.3%、院内死亡率が24.3%と4.5%、
手術施行例の院内死亡率が11.8%と7.2%、
内科的治療施行例の院内死亡率が49.7%と4.2%であった。
また、総医療費はタイプA群が626万円、タイプB群は118万円であった。
QIが治療転帰と相関―AAD診療の評価や改善に向けた活用に期待
次に山口氏らは、デルファイ変法※によるQI(診療の質指標、Quality Indicator)の作成を試みた。
PubMedやMEDLINEの文献検索により最終的に36の文献を選び出し、QIの候補を選定、
専門家会議・デルファイ変法で
構造に関わる指標を5項目
(@救命センター指定の有無
A心臓血管外科医の数
B循環器専門医の数
C年間の大動脈手術件数
D年間の血管内治療件数)、
過程に関わる指標4項目
(E診断のためのCT施行
F術中経食道心エコー検査の施行
G動脈圧ラインによる血圧管理
Hβ遮断薬処方)を設定した。
9つのQI指標が満たされた数が
7〜9個、4〜6個、0〜3個の3群に分け、
7〜9個の死亡オッズ比(OR)を1として解析したところ、
タイプA群、タイプB群のいずれにおいても、
4〜6個、0〜3個とQI達成数が少なくなるほど、死亡ORが高くなっていることが確認された。
さらに、
構造のQI(3〜5個 vs. 1〜2個 vs. 0個)、
過程のQI(3〜4個 vs. 1〜2個 vs. 0個)で分けて調べても、
それぞれのQI達成数が少ないほど死亡のORが高く、
今回作成したQIがアウトカムと関連することが示された。
山口氏は、全国規模のAADデータであり、
症例数が約1万8,000例と多いこと、
臨床試験ではないリアルワールドのデータであることなどを今回の研究の強みとして挙げる一方、
限界は、退院後の長期追跡データがないこと、
観察研究であることから測定できない因子がある、治療選択決定の理由が不明である、
ことなどだと述べた。
最後に同氏は「AADのQIを報告した論文は世界的にもなく、
今後、この指標を用いたAAD診療の評価や改善が期待される」と講演を結んだ。
※ 米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)およびランド研究所(RAND Corporation)で開発されたQI 作成の国際的な標準方法。RAND/UCLA 適切性評価法とも呼ばれる。
(JCS2019取材班)
2019年05月29日
iPS再生医療でいよいよ「臓器」、23年にも腎臓実用 大日本住友、透析患者など腎移植が必要な重症の腎不全患者向け
(いよいよ『臓器』再生が始まる!まずは腎臓)
臨床ニュース
iPS再生医療でいよいよ「臓器」、23年にも腎臓実用
大日本住友、透析患者など腎移植が必要な重症の腎不全患者向け
化学工業日報2019年4月10日 (水)配信 腎・泌尿器疾患その他
製薬会社によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療の研究開発が、
いよいよ「臓器」の再生に踏み込んでいく。
大日本住友製薬は5日、慈恵大学・東京慈恵会医科大学、明治大学それぞれの研究成果を利用して、
腎臓の再生医療の実現を目指すと発表した。
透析患者など腎移植が必要な重症の腎不全患者向けで、
3年後にもiPS由来腎臓を人に移植する臨床試験を始める。
大日本住友は2023〜27年度の間に上市する計画だ。
腎臓再生医療の根幹の技術は、
慈恵医大の横尾隆教授らが見いだした「胎生臓器ニッチ法」と呼ぶ研究成果だ。
動物は母胎の間、幹細胞をあらゆる臓器に分化させるタイミングと場所がある。
横尾教授らはそれを「臓器ニッチ」と名付けた。
この臓器ニッチを狙って別の動物の臓器の前駆細胞を注入すると、
臓器に分化誘導できることを見いだした。
今回の研究開発で用いるのは、
明大バイオリソース研究国際インスティテュートの長嶋比呂志所長らの研究成果である「ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ」。
この改変ブタの胎仔から採取した腎原基(胎児期の腎臓)はヒトに移植すると、
ブタ由来の細胞が消え、ヒトの細胞に置き換わるよう遺伝子を改変した。
つまりヒトの腎臓再生用に遺伝子改変したブタだ。
これらの技術を組み合わせて腎臓再生に取り組む。
腎臓前駆細胞に分化・誘導させたヒトiPS細胞を、
改変ブタから取り出した腎原基に注入し患者に移植する。
移植した後に臓器を発生させるニッチの働きを促し、腎臓を再生する。
再生できた腎臓が排出する尿を流す尿路形成術を行って機能を持った腎臓を実現する。
事業化に向けて慈恵医大発ベンチャーのバイオス、明大発ベンチャーのポル・メド・テックも参画し、
大日本住友が全面支援する。
慈恵医大の横尾教授によると、すでにブタを用いた実験で30グラムほどの腎臓の再生に成功した。
人間の腎臓の5分の1の大きさだが、尿を作る機能的腎臓を1割でも再生できれば腎臓移植の置き換えが可能という。
世界では530万〜1050万人が腎臓の移植を必要としている。
一方で実際に腎移植を行えるのはその一部にとどまる。
臓器不足や医療費などの問題を背景に、腎臓再生のニーズは高い。
大日本住友などは実用化に向けてまず、
カニクイザルサルを用いた実験を行い、有効性と安全性をさらに確かめていく。
その後、ヒトに対する臨床試験を実施し、承認取得を目指す。
大日本住友は日本のみならず世界で実用化を進め、
将来、年間500億円以上の新事業として育成する方針だ。
iPSを用いた再生医療は目の難病やパーキンソン病、脊髄損傷などに臨床研究や治験として臨床応用に進み始めた。
これらの再生医療は分化・誘導した細胞を患部に移植する「細胞医薬」という性格のものが多い。
製薬会社も事業として取り組みやすく、参入企業が増えてきた。
一方、臓器の再生は心臓に心筋シートを移植する臨床研究が昨年始まったが、
臓器をまるごと再生する取り組みは珍しく、日本の製薬会社が事業化に取り組むのは初の事例だ。
大日本住友では研究の進展を見極めた結果、
「工業化の実現に大きな課題はない」と判断し、腎臓再生に本格参入を決めた。
臨床ニュース
iPS再生医療でいよいよ「臓器」、23年にも腎臓実用
大日本住友、透析患者など腎移植が必要な重症の腎不全患者向け
化学工業日報2019年4月10日 (水)配信 腎・泌尿器疾患その他
製薬会社によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療の研究開発が、
いよいよ「臓器」の再生に踏み込んでいく。
大日本住友製薬は5日、慈恵大学・東京慈恵会医科大学、明治大学それぞれの研究成果を利用して、
腎臓の再生医療の実現を目指すと発表した。
透析患者など腎移植が必要な重症の腎不全患者向けで、
3年後にもiPS由来腎臓を人に移植する臨床試験を始める。
大日本住友は2023〜27年度の間に上市する計画だ。
腎臓再生医療の根幹の技術は、
慈恵医大の横尾隆教授らが見いだした「胎生臓器ニッチ法」と呼ぶ研究成果だ。
動物は母胎の間、幹細胞をあらゆる臓器に分化させるタイミングと場所がある。
横尾教授らはそれを「臓器ニッチ」と名付けた。
この臓器ニッチを狙って別の動物の臓器の前駆細胞を注入すると、
臓器に分化誘導できることを見いだした。
今回の研究開発で用いるのは、
明大バイオリソース研究国際インスティテュートの長嶋比呂志所長らの研究成果である「ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ」。
この改変ブタの胎仔から採取した腎原基(胎児期の腎臓)はヒトに移植すると、
ブタ由来の細胞が消え、ヒトの細胞に置き換わるよう遺伝子を改変した。
つまりヒトの腎臓再生用に遺伝子改変したブタだ。
これらの技術を組み合わせて腎臓再生に取り組む。
腎臓前駆細胞に分化・誘導させたヒトiPS細胞を、
改変ブタから取り出した腎原基に注入し患者に移植する。
移植した後に臓器を発生させるニッチの働きを促し、腎臓を再生する。
再生できた腎臓が排出する尿を流す尿路形成術を行って機能を持った腎臓を実現する。
事業化に向けて慈恵医大発ベンチャーのバイオス、明大発ベンチャーのポル・メド・テックも参画し、
大日本住友が全面支援する。
慈恵医大の横尾教授によると、すでにブタを用いた実験で30グラムほどの腎臓の再生に成功した。
人間の腎臓の5分の1の大きさだが、尿を作る機能的腎臓を1割でも再生できれば腎臓移植の置き換えが可能という。
世界では530万〜1050万人が腎臓の移植を必要としている。
一方で実際に腎移植を行えるのはその一部にとどまる。
臓器不足や医療費などの問題を背景に、腎臓再生のニーズは高い。
大日本住友などは実用化に向けてまず、
カニクイザルサルを用いた実験を行い、有効性と安全性をさらに確かめていく。
その後、ヒトに対する臨床試験を実施し、承認取得を目指す。
大日本住友は日本のみならず世界で実用化を進め、
将来、年間500億円以上の新事業として育成する方針だ。
iPSを用いた再生医療は目の難病やパーキンソン病、脊髄損傷などに臨床研究や治験として臨床応用に進み始めた。
これらの再生医療は分化・誘導した細胞を患部に移植する「細胞医薬」という性格のものが多い。
製薬会社も事業として取り組みやすく、参入企業が増えてきた。
一方、臓器の再生は心臓に心筋シートを移植する臨床研究が昨年始まったが、
臓器をまるごと再生する取り組みは珍しく、日本の製薬会社が事業化に取り組むのは初の事例だ。
大日本住友では研究の進展を見極めた結果、
「工業化の実現に大きな課題はない」と判断し、腎臓再生に本格参入を決めた。
2019年05月28日
がん死亡率が米国に逆転される理由 日本のがん対策の問題点
(日本の無策ーがん対策に対しても25年、何も手を打ってこなかった!!)
がん死亡率が米国に逆転される理由
日本のがん対策の問題点
大阪国際がんセンターがん対策センター特別研究員 大島 明
2019年04月01日 16:58
米国ではがん死亡率が25年で27%低下
Medical Tribune新聞版は2019年1月24日号の1面トップで、
米国がん協会(ACS)が公表した最新のがん統計について報じた(関連記事「米・がん死亡率、25年間で27%低下」)。
この統計では、1971年のニクソン米国大統領(当時)のがんに対する戦争宣言以来のがん対策の取り組みの成果として、
米国のがん死亡率(男女合計、2000年米国人口を標準とした年齢調整死亡率)はピーク時の1991年から2016年までの25年間で27%低下し、
部位別には肺がん、大腸がん、乳がんなど多くの部位で死亡率が減少していたことが示されている(CA Cancer J Clin 2019; 69: 7-34)。
これらは、タバコ・コントロールによる喫煙率の低下とがん検診の普及、そして治療の進歩によるものと考える。
それでは、日本のがん死亡率はどのように推移しているのだろうか。
小文では、日本のがん死亡率の推移を示してその要因を検討した上で、
日本の部位別がん死亡のトップの肺がん(男性)と大腸がん(女性)について、
日米の死亡率の推移を比較し、その差をもたらした要因について検討する。
さらに、今後のあるべきがん対策について提言したい。
日本のがん死亡率の減少はがん対策の成果ではない
実は、日本のがん死亡率(男女合計、1985年日本人人口を標準とした年齢調整死亡率)も、
ピーク時の1996年から2017年までの21年間に28%減少している。
しかし、これを部位別に見ると、胃がんと肝がんの死亡率の減少によるところが大きい。
胃がん死亡率の減少は、
上水道の整備などの衛生環境の改善や冷蔵庫の普及に伴う食生活の変化などによる胃がん罹患率の減少に基づくもので、
胃がん検診の果たした役割は小さい。
現に米国でも1930年代には、
胃がん死亡が部位別死亡の圧倒的なトップの座を占めていたが、
特別の対策なしに大きく減少した。
また、1990年ごろまでの日本の肝がん死亡率の増加は、
第2次世界大戦後の混乱期における注射薬物と不潔な注射器・針による肝炎の蔓延によるものであったが、
一般的な公衆衛生対策としての肝炎対策の普及に伴って肝がん死亡率は減少した。
すなわち、米国と異なり、
日本のがん死亡率は、特異的ながん対策の結果として減少したとは言えない。
1984年に対がん10カ年総合戦略が開始され、
2007年に施行されたがん対策基本法の下、
がん対策推進基本計画(第1期、第2期、第3期)が進められてきたが、
これらに基づく対策の成果として日本のがん死亡率が減少したとは言えないと考える。
肺がん死亡率:近く日米が逆転するのは必至、原因はたばこ対策の遅れ
日本の部位別がん死亡のトップは、
男性では肺がん、
女性では大腸がんである。
この2つのがんによる死亡率の推移を米国と比較すると、日本のがん対策の問題点が明らかとなる。
図1には、WHO Cancer Mortality Databaseに基づき作成した日本と米国における肺がんの年齢調整死亡率(標準人口:WHOの世界人口、3年移動平均)の推移を示した。
男性の肺がん死亡率の推移を見ると、
日本の肺がん死亡率の減少速度は米国のそれよりもはるかに鈍く、
近く日米の肺がん死亡率が逆転するのは必至である。
これは、日米のタバコ・コントロールの取り組みの差によると考える。
WHOのレポートによると、
2016年における男性の年齢調整喫煙率(標準人口:WHO世界人口)は、
米国の24.6%に対して日本は33.7%とほぼ10%ポイント高いままとどまっている。
日本は、
たばこ規制枠組み条約に盛り込まれたたばこ税・価格の大幅引き上げ、
たばこ広告の規制、たばこパッケージの画像入り警告表示、
クイットライン(無料の禁煙電話相談)などの取り組みが遅れている。
国際条約の批准国として条約を履行しなければならないのは当然であるが、
図1に見られるような事態を招いたことを直視して、
国民の健康の維持増進のため、早急にたばこ規制の取り組みを強化するべきである。
大腸がん死亡率:逆転を許した原因は大腸内視鏡検査の非推奨
次に、図2の女性の大腸がん死亡率の推移を見ると、
米国では順調に減少しているのに対し、日本では明確な減少傾向は認められず、
2002年には逆転し、
日本の方が米国よりも高くなってしまっていた(男性の大腸がん死亡率も同様の傾向である)。
(図1、2ともWHO Cancer Mortality Database)
これは、日米の大腸内視鏡検査の受診状況の差によるものと考えられる。
米国の大腸がん検診ガイドラインでは、
全大腸内視鏡検査の利益が
合併症や不便さ、コストを上回ると判断され、
2008年に50〜75歳を対象に一次スクリーニング(10年に1回)として導入されているのに対して、
日本の大腸がん検診ガイドライン(2005年に公表されたまま更新されていない)では、
40歳以上に対して一次スクリーニングとして便潜血検査を推奨し、
全大腸内視鏡検査に関しては死亡率減少を示す効果はあるものの、
無視できない不利益があるという理由で非推奨としている。
早急に新しいエビデンス(N Engl J Med 2018;378:1734-1740)に基づいてガイドラインを改訂し、
大腸内視鏡検査によるスクリーニングの導入に向けての作業を開始するとともに、
検診対象者を特定してコール・リコールができるような体制を整備するべきである。
情報提供だけでは駄目
図1、2に示したような事態は、日本でのがん対策の多くが情報提供にとどまり、
環境整備に向けての取り組みが極めて乏しかったためであると考える。
単なる情報提供にとどまらず、
喫煙率減少に向けての環境整備と
大腸内視鏡検査によるスクリーニングの実施に向けての環境整備の取り組みが早急に必要である。
がん死亡率が米国に逆転される理由
日本のがん対策の問題点
大阪国際がんセンターがん対策センター特別研究員 大島 明
2019年04月01日 16:58
米国ではがん死亡率が25年で27%低下
Medical Tribune新聞版は2019年1月24日号の1面トップで、
米国がん協会(ACS)が公表した最新のがん統計について報じた(関連記事「米・がん死亡率、25年間で27%低下」)。
この統計では、1971年のニクソン米国大統領(当時)のがんに対する戦争宣言以来のがん対策の取り組みの成果として、
米国のがん死亡率(男女合計、2000年米国人口を標準とした年齢調整死亡率)はピーク時の1991年から2016年までの25年間で27%低下し、
部位別には肺がん、大腸がん、乳がんなど多くの部位で死亡率が減少していたことが示されている(CA Cancer J Clin 2019; 69: 7-34)。
これらは、タバコ・コントロールによる喫煙率の低下とがん検診の普及、そして治療の進歩によるものと考える。
それでは、日本のがん死亡率はどのように推移しているのだろうか。
小文では、日本のがん死亡率の推移を示してその要因を検討した上で、
日本の部位別がん死亡のトップの肺がん(男性)と大腸がん(女性)について、
日米の死亡率の推移を比較し、その差をもたらした要因について検討する。
さらに、今後のあるべきがん対策について提言したい。
日本のがん死亡率の減少はがん対策の成果ではない
実は、日本のがん死亡率(男女合計、1985年日本人人口を標準とした年齢調整死亡率)も、
ピーク時の1996年から2017年までの21年間に28%減少している。
しかし、これを部位別に見ると、胃がんと肝がんの死亡率の減少によるところが大きい。
胃がん死亡率の減少は、
上水道の整備などの衛生環境の改善や冷蔵庫の普及に伴う食生活の変化などによる胃がん罹患率の減少に基づくもので、
胃がん検診の果たした役割は小さい。
現に米国でも1930年代には、
胃がん死亡が部位別死亡の圧倒的なトップの座を占めていたが、
特別の対策なしに大きく減少した。
また、1990年ごろまでの日本の肝がん死亡率の増加は、
第2次世界大戦後の混乱期における注射薬物と不潔な注射器・針による肝炎の蔓延によるものであったが、
一般的な公衆衛生対策としての肝炎対策の普及に伴って肝がん死亡率は減少した。
すなわち、米国と異なり、
日本のがん死亡率は、特異的ながん対策の結果として減少したとは言えない。
1984年に対がん10カ年総合戦略が開始され、
2007年に施行されたがん対策基本法の下、
がん対策推進基本計画(第1期、第2期、第3期)が進められてきたが、
これらに基づく対策の成果として日本のがん死亡率が減少したとは言えないと考える。
肺がん死亡率:近く日米が逆転するのは必至、原因はたばこ対策の遅れ
日本の部位別がん死亡のトップは、
男性では肺がん、
女性では大腸がんである。
この2つのがんによる死亡率の推移を米国と比較すると、日本のがん対策の問題点が明らかとなる。
図1には、WHO Cancer Mortality Databaseに基づき作成した日本と米国における肺がんの年齢調整死亡率(標準人口:WHOの世界人口、3年移動平均)の推移を示した。
男性の肺がん死亡率の推移を見ると、
日本の肺がん死亡率の減少速度は米国のそれよりもはるかに鈍く、
近く日米の肺がん死亡率が逆転するのは必至である。
これは、日米のタバコ・コントロールの取り組みの差によると考える。
WHOのレポートによると、
2016年における男性の年齢調整喫煙率(標準人口:WHO世界人口)は、
米国の24.6%に対して日本は33.7%とほぼ10%ポイント高いままとどまっている。
日本は、
たばこ規制枠組み条約に盛り込まれたたばこ税・価格の大幅引き上げ、
たばこ広告の規制、たばこパッケージの画像入り警告表示、
クイットライン(無料の禁煙電話相談)などの取り組みが遅れている。
国際条約の批准国として条約を履行しなければならないのは当然であるが、
図1に見られるような事態を招いたことを直視して、
国民の健康の維持増進のため、早急にたばこ規制の取り組みを強化するべきである。
大腸がん死亡率:逆転を許した原因は大腸内視鏡検査の非推奨
次に、図2の女性の大腸がん死亡率の推移を見ると、
米国では順調に減少しているのに対し、日本では明確な減少傾向は認められず、
2002年には逆転し、
日本の方が米国よりも高くなってしまっていた(男性の大腸がん死亡率も同様の傾向である)。
(図1、2ともWHO Cancer Mortality Database)
これは、日米の大腸内視鏡検査の受診状況の差によるものと考えられる。
米国の大腸がん検診ガイドラインでは、
全大腸内視鏡検査の利益が
合併症や不便さ、コストを上回ると判断され、
2008年に50〜75歳を対象に一次スクリーニング(10年に1回)として導入されているのに対して、
日本の大腸がん検診ガイドライン(2005年に公表されたまま更新されていない)では、
40歳以上に対して一次スクリーニングとして便潜血検査を推奨し、
全大腸内視鏡検査に関しては死亡率減少を示す効果はあるものの、
無視できない不利益があるという理由で非推奨としている。
早急に新しいエビデンス(N Engl J Med 2018;378:1734-1740)に基づいてガイドラインを改訂し、
大腸内視鏡検査によるスクリーニングの導入に向けての作業を開始するとともに、
検診対象者を特定してコール・リコールができるような体制を整備するべきである。
情報提供だけでは駄目
図1、2に示したような事態は、日本でのがん対策の多くが情報提供にとどまり、
環境整備に向けての取り組みが極めて乏しかったためであると考える。
単なる情報提供にとどまらず、
喫煙率減少に向けての環境整備と
大腸内視鏡検査によるスクリーニングの実施に向けての環境整備の取り組みが早急に必要である。
2019年05月27日
糖尿病はがん発症に関連しない?
(糖尿病そのものでがん発症が促進されることはなかった!
また、新しい知見)
糖尿病はがん発症に関連しない?〜JPHC研究
提供元:ケアネット 公開日:2019/04/10
日本人集団における糖尿病とがんリスクについて、
多目的コホート研究(JPHC研究)での前向きメンデルランダム化解析により、
これらの関連を裏付ける強いエビデンスは見いだされなかったことを、
国立がん研究センターの後藤 温氏らが報告した。
従来の回帰モデルを用いたコホート研究では、
2型糖尿病患者のがんリスク増加が一貫して示されていた。
しかし、因果の逆転や糖尿病とがんに共通する危険因子による残余交絡が存在する可能性があり、
糖尿病そのものががん発症に寄与しているかどうかは不明であった。
International Journal of Cancer誌オンライン版2019年3月30日号に掲載。
JPHC研究における40〜69歳の適格な3万2,949人から、
サブコホート『1万536人』および『新規がん』と診断された『3,541人』を用いて症例コホート研究を実施した。
すでに知られている29個の2型糖尿病感受性遺伝子多型を用いて、
糖尿病とがん全体および部位ごとのがんリスクとの関連について、
逆分散加重法を用いてハザード比を推定した。
主な結果は以下のとおり
・『糖尿病の確率が2倍』になることによる『がんのハザード比』(HR)は、
『がん全体で1.03』(95%信頼区間[CI]:0.92〜1.15)、
膵臓がんで1.08(同:0.73〜1.59)、
肝臓がんで0.80(0.57〜1.14)、
結腸がんで0.90(同:0.74〜1.10)であった。
・追加解析として、
日本人における大腸がんの大規模ゲノムワイド関連解析の公開データを用いて分析したところ、
HRは1.00(95%CI:0.93〜1.07)であり、より精確な結果が得られた。
(ケアネット 金沢 浩子)
原著論文はこちら
Goto A, et al. Int J Cancer. 2019 Mar 30. [Epub ahead of print]
また、新しい知見)
糖尿病はがん発症に関連しない?〜JPHC研究
提供元:ケアネット 公開日:2019/04/10
日本人集団における糖尿病とがんリスクについて、
多目的コホート研究(JPHC研究)での前向きメンデルランダム化解析により、
これらの関連を裏付ける強いエビデンスは見いだされなかったことを、
国立がん研究センターの後藤 温氏らが報告した。
従来の回帰モデルを用いたコホート研究では、
2型糖尿病患者のがんリスク増加が一貫して示されていた。
しかし、因果の逆転や糖尿病とがんに共通する危険因子による残余交絡が存在する可能性があり、
糖尿病そのものががん発症に寄与しているかどうかは不明であった。
International Journal of Cancer誌オンライン版2019年3月30日号に掲載。
JPHC研究における40〜69歳の適格な3万2,949人から、
サブコホート『1万536人』および『新規がん』と診断された『3,541人』を用いて症例コホート研究を実施した。
すでに知られている29個の2型糖尿病感受性遺伝子多型を用いて、
糖尿病とがん全体および部位ごとのがんリスクとの関連について、
逆分散加重法を用いてハザード比を推定した。
主な結果は以下のとおり
・『糖尿病の確率が2倍』になることによる『がんのハザード比』(HR)は、
『がん全体で1.03』(95%信頼区間[CI]:0.92〜1.15)、
膵臓がんで1.08(同:0.73〜1.59)、
肝臓がんで0.80(0.57〜1.14)、
結腸がんで0.90(同:0.74〜1.10)であった。
・追加解析として、
日本人における大腸がんの大規模ゲノムワイド関連解析の公開データを用いて分析したところ、
HRは1.00(95%CI:0.93〜1.07)であり、より精確な結果が得られた。
(ケアネット 金沢 浩子)
原著論文はこちら
Goto A, et al. Int J Cancer. 2019 Mar 30. [Epub ahead of print]
2019年05月26日
理解難しい口腔内状態、数値化で分かりやすく
(口腔内は便の菌の数と同じ数の菌が繁殖している!!)
理解難しい口腔内状態、数値化で分かりやすく
多職種連携推進の一助に
2019年03月19日 17:52
近年、口腔細菌が誤嚥性肺炎や感染性心内膜炎などの全身疾患に関与することが報告され、
医科における口腔ケアの重要性が強調されてきている。
しかし歯科以外の職種にとって、口腔内の状態を理解するのは難しいのが実情である。
そこで広島大学病院では、患者の口腔内状態を数値化し、
歯科と医科での情報共有を促進する取り組みを行っている。
同院診療支援部歯科衛生部門歯科衛生士の倉本祐里氏が、
第34回日本環境感染学会(2月22〜23日)でその概要を紹介した。
口腔内の細菌数は便中とほぼ同じ
最初に倉本氏は、感染予防における口腔ケアの有効性について説明した。
口腔内は体内で最も細菌が多い場所だということは、意外と知られていない。
皮膚の菌数は103〜106/cm2なのに対し、
歯垢では1011/gに上る。それは便中の菌数とほぼ同じといわれている。
そして、細菌は歯垢だけでなく舌表面にも多く存在している。
舌は舌乳頭と呼ばれる凹凸のある組織で覆われているため細菌が停滞しやすい上、
食渣や剝離上皮など細菌の栄養が豊富にある。
また、湿潤で37℃程度という口腔内環境も、細菌が育つのに適している。
口腔内二大感染症である齲蝕と歯周病は、いずれも口腔内細菌が原因で生じる。
さらに、院内肺炎の原因菌の8割以上が、
嫌気性菌や肺炎球菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌など、口腔内にも生息している細菌で占められている。
こうしたことから、同氏は「適切な口腔ケアを行い、口腔内の細菌数を減らすことが感染予防につながる」と強調した。
"広大式評価シート"で医科歯科の情報共有を目指す
口腔ケアを効果的に行うためには、まず患者の口腔内状態を把握する必要がある。
広島大学病院では、こうした情報を多職種間で共有するための方策として、
独自に作成した評価シートを用いて、口腔内状態の数値化に取り組んでいる。
その1つが口腔内感染源リスク評価シートである。
倉本氏ら歯科衛生士が歯科医師とともに行う検査の際に使用するもので、
齲蝕、歯周病、粘膜炎、舌苔、乾燥度、口腔内細菌数などについてそれぞれの程度に応じた点数を定め、
合計点によりリスク分類をしている。
また、看護師との情報共有のために作成したのが口腔内環境評価シートである。
4段階評価となっている点が特徴であり、
中間の「どちらでもない」が選択されがちな3段階評価と異なり、
少しの異常でも早期の発見が期待できる。
これにより歯科が速やかに介入することが可能となり、
専門的な口腔ケアを強化できる仕かけになっている(図)。
(広島大学病院連携口腔ケアサポートチーム提供)
例えば、歯肉は
「ピンク色で引き締まっている(リスク評価点0、以下同)」
「浮腫があり発赤を伴うこともある(1)」
「ブラッシングなどの刺激による出血(2)」
「わずかな刺激で出血/自然出血(3)」
のいずれに該当するかをチェックする。
(2)(3)は歯石除去や抜歯などの歯科治療を要する状態のため、
歯科に紹介するようシート上に明記されている。
さらに、
歯周炎評価指標PISA(periodontal inflamed surface area)を取り入れ、
歯周病の影響を数値化する試みも行っている。
PISAは歯周ポケットの深さと、ポケット測定時の出血から算出する、歯周組織の炎症表面積を表す。
歯を1本ずつ評価するのではなく、
歯周全体の炎症を数値化して評価することができるため、
炎症の程度が理解しやすいという。
同氏は「数値など他職種にも理解しやすい指標を日常診療に取り入れて口腔内を評価し、
臨床研究でエビデンスを構築していくことが、質の高い口腔ケアの実現につながると考える」と展望した。
(長谷部弥生)
理解難しい口腔内状態、数値化で分かりやすく
多職種連携推進の一助に
2019年03月19日 17:52
近年、口腔細菌が誤嚥性肺炎や感染性心内膜炎などの全身疾患に関与することが報告され、
医科における口腔ケアの重要性が強調されてきている。
しかし歯科以外の職種にとって、口腔内の状態を理解するのは難しいのが実情である。
そこで広島大学病院では、患者の口腔内状態を数値化し、
歯科と医科での情報共有を促進する取り組みを行っている。
同院診療支援部歯科衛生部門歯科衛生士の倉本祐里氏が、
第34回日本環境感染学会(2月22〜23日)でその概要を紹介した。
口腔内の細菌数は便中とほぼ同じ
最初に倉本氏は、感染予防における口腔ケアの有効性について説明した。
口腔内は体内で最も細菌が多い場所だということは、意外と知られていない。
皮膚の菌数は103〜106/cm2なのに対し、
歯垢では1011/gに上る。それは便中の菌数とほぼ同じといわれている。
そして、細菌は歯垢だけでなく舌表面にも多く存在している。
舌は舌乳頭と呼ばれる凹凸のある組織で覆われているため細菌が停滞しやすい上、
食渣や剝離上皮など細菌の栄養が豊富にある。
また、湿潤で37℃程度という口腔内環境も、細菌が育つのに適している。
口腔内二大感染症である齲蝕と歯周病は、いずれも口腔内細菌が原因で生じる。
さらに、院内肺炎の原因菌の8割以上が、
嫌気性菌や肺炎球菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌など、口腔内にも生息している細菌で占められている。
こうしたことから、同氏は「適切な口腔ケアを行い、口腔内の細菌数を減らすことが感染予防につながる」と強調した。
"広大式評価シート"で医科歯科の情報共有を目指す
口腔ケアを効果的に行うためには、まず患者の口腔内状態を把握する必要がある。
広島大学病院では、こうした情報を多職種間で共有するための方策として、
独自に作成した評価シートを用いて、口腔内状態の数値化に取り組んでいる。
その1つが口腔内感染源リスク評価シートである。
倉本氏ら歯科衛生士が歯科医師とともに行う検査の際に使用するもので、
齲蝕、歯周病、粘膜炎、舌苔、乾燥度、口腔内細菌数などについてそれぞれの程度に応じた点数を定め、
合計点によりリスク分類をしている。
また、看護師との情報共有のために作成したのが口腔内環境評価シートである。
4段階評価となっている点が特徴であり、
中間の「どちらでもない」が選択されがちな3段階評価と異なり、
少しの異常でも早期の発見が期待できる。
これにより歯科が速やかに介入することが可能となり、
専門的な口腔ケアを強化できる仕かけになっている(図)。
(広島大学病院連携口腔ケアサポートチーム提供)
例えば、歯肉は
「ピンク色で引き締まっている(リスク評価点0、以下同)」
「浮腫があり発赤を伴うこともある(1)」
「ブラッシングなどの刺激による出血(2)」
「わずかな刺激で出血/自然出血(3)」
のいずれに該当するかをチェックする。
(2)(3)は歯石除去や抜歯などの歯科治療を要する状態のため、
歯科に紹介するようシート上に明記されている。
さらに、
歯周炎評価指標PISA(periodontal inflamed surface area)を取り入れ、
歯周病の影響を数値化する試みも行っている。
PISAは歯周ポケットの深さと、ポケット測定時の出血から算出する、歯周組織の炎症表面積を表す。
歯を1本ずつ評価するのではなく、
歯周全体の炎症を数値化して評価することができるため、
炎症の程度が理解しやすいという。
同氏は「数値など他職種にも理解しやすい指標を日常診療に取り入れて口腔内を評価し、
臨床研究でエビデンスを構築していくことが、質の高い口腔ケアの実現につながると考える」と展望した。
(長谷部弥生)
2019年05月25日
においが知覚できないと短命に
動物として、根幹をなす感覚であり、当然でしょう!
においが知覚できないと短命に
2019年03月20日 06:00
食物のにおいがヒトの体内の生理学的なプロセスや老化に影響するという研究結果を、
ドイツ・University of CologneのThorsten Hoppe氏らがNat Metab(2019年2月18日オンライン版)に発表した。
線虫(Caenorhabditis elegans)を用いたこの研究では、
その要因が
たった2種類の嗅覚に関係する神経細胞にあることや、
においを知覚できない個体では寿命が短くなることも分かったという。
プロテオスタシスに影響
食物のにおいは身体のさまざまな生理学的プロセスに影響を与える。
例えば、実際に食物を口に入れる前から、
においによる刺激で唾液や消化酵素の分泌が促され、
摂取した食物を消化管で消化する態勢が整えられる。
健康な生体では、
こうした調節が蛋白質の合成や分解のバランスを維持する機構(プロテオスタシス)の下で行われている。
また、プロテオスタシスは細胞のリサイクルや加齢のプロセスにおいても重要な役割を果たしている。
Hoppe氏らは今回、C. elegansを用いた研究で
食物のにおいがプロテオスタシスに影響を与えることを突き止めた。
C. elegansは神経系を構成する358種類の神経細胞のうち、2種類の細胞が嗅覚系の一部を成しており、
これらがにおいの知覚に重要であることが分かったという。
においが消化管の生理学的な機構に与える影響については、
C. elegansの腸内で緑色蛍光蛋白質(GFP)が分解・再合成される程度を調べて明らかにした。
具体的には、においによってC. elegans内の緑色蛍光の発光シグナルが強くなるに従い、
細胞の不要物の蓄積が進み、蛋白質の分解不全と強く関連していることが示された。
アルツハイマー病やパーキンソン病との関連も今後検討
また、においがプロテオスタシスに影響を与えるプロセスは、
遺伝子発現を制御するmicroRNA(miRNA)分子の1つであるmir-71を介することも明らかにされた。
mir-71は、嗅覚神経細胞の遺伝子プログラムを調節し、
またその後の消化管における蛋白質分解のプロセスを制御している。
しかし、この機構が阻害されると
細胞のリサイクルに支障を来すだけでなく、
生物の寿命が短縮する。
つまり、においを知覚する機能が失われた線虫は、寿命が大幅に短くなるという。
こうした機構は、
においシグナルの適切な処理に中心的な役割を果たしており、
腸内細胞の機能も調節しているという。
Hoppe氏は
「においによる影響を細胞レベルで検討した研究は少ないが、
嗅覚の機能不全がさまざまな神経変性疾患と関連することはよく知られている」と指摘。
その上で、「今後は、嗅覚がアルツハイマー病やパーキンソン病などの加齢と関連する疾患に与える影響について検討したい」と述べている。(岬りり子)
においが知覚できないと短命に
2019年03月20日 06:00
食物のにおいがヒトの体内の生理学的なプロセスや老化に影響するという研究結果を、
ドイツ・University of CologneのThorsten Hoppe氏らがNat Metab(2019年2月18日オンライン版)に発表した。
線虫(Caenorhabditis elegans)を用いたこの研究では、
その要因が
たった2種類の嗅覚に関係する神経細胞にあることや、
においを知覚できない個体では寿命が短くなることも分かったという。
プロテオスタシスに影響
食物のにおいは身体のさまざまな生理学的プロセスに影響を与える。
例えば、実際に食物を口に入れる前から、
においによる刺激で唾液や消化酵素の分泌が促され、
摂取した食物を消化管で消化する態勢が整えられる。
健康な生体では、
こうした調節が蛋白質の合成や分解のバランスを維持する機構(プロテオスタシス)の下で行われている。
また、プロテオスタシスは細胞のリサイクルや加齢のプロセスにおいても重要な役割を果たしている。
Hoppe氏らは今回、C. elegansを用いた研究で
食物のにおいがプロテオスタシスに影響を与えることを突き止めた。
C. elegansは神経系を構成する358種類の神経細胞のうち、2種類の細胞が嗅覚系の一部を成しており、
これらがにおいの知覚に重要であることが分かったという。
においが消化管の生理学的な機構に与える影響については、
C. elegansの腸内で緑色蛍光蛋白質(GFP)が分解・再合成される程度を調べて明らかにした。
具体的には、においによってC. elegans内の緑色蛍光の発光シグナルが強くなるに従い、
細胞の不要物の蓄積が進み、蛋白質の分解不全と強く関連していることが示された。
アルツハイマー病やパーキンソン病との関連も今後検討
また、においがプロテオスタシスに影響を与えるプロセスは、
遺伝子発現を制御するmicroRNA(miRNA)分子の1つであるmir-71を介することも明らかにされた。
mir-71は、嗅覚神経細胞の遺伝子プログラムを調節し、
またその後の消化管における蛋白質分解のプロセスを制御している。
しかし、この機構が阻害されると
細胞のリサイクルに支障を来すだけでなく、
生物の寿命が短縮する。
つまり、においを知覚する機能が失われた線虫は、寿命が大幅に短くなるという。
こうした機構は、
においシグナルの適切な処理に中心的な役割を果たしており、
腸内細胞の機能も調節しているという。
Hoppe氏は
「においによる影響を細胞レベルで検討した研究は少ないが、
嗅覚の機能不全がさまざまな神経変性疾患と関連することはよく知られている」と指摘。
その上で、「今後は、嗅覚がアルツハイマー病やパーキンソン病などの加齢と関連する疾患に与える影響について検討したい」と述べている。(岬りり子)
2019年05月24日
橋本病の症状改善に甲状腺全摘出術が有効
(慢性疲労!良性疾患で全摘を勧められるのは珍しい
治療により甲状腺機能が正常となったにもかかわらず症状が改善しない橋本病患者では、甲状腺全摘出術が症状改善に有効)
橋本病の症状改善に甲状腺全摘出術が有効
150例対象のRCT
2019年04月05日 06:05
橋本病では甲状腺機能が低下することにより、重度の疲労感などの症状が現れる。
治療としては甲状腺ホルモン補充療法があるが、
一部で奏効せずに持続的な症状に悩まされるケースもある。
ノルウェー・Telemark HospitalのIvar Guldvog氏らは、
治療により甲状腺機能が正常となったにもかかわらず症状が改善しない橋本病患者では、
甲状腺全摘出術が症状改善に有効であることをランダム化比較試験(RCT)で明らかにし、
Ann Intern Med(2019年3月12日オンライン版)に報告した。
甲状腺機能正常で症状持続する患者が対象
対象は、ノルウェーの二次医療施設を受診し血清抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体が
1,000IU/mLを超える18〜79歳の橋本病患者で、
甲状腺ホルモン補充療法により甲状腺機能は正常状態が得られているが、
持続的な橋本病の症状を呈する150例。
対象を甲状腺全摘出術群とホルモン補充療法群に1:1でランダムに割り付け、
6カ月ごとに症状を評価し18カ月間追跡した。
主要評価項目は、18カ月間の追跡終了時における健康関連QOL測定用自己記入式質問票SF-36の全体的健康感(general health)スコア。
副次評価項目は、
手術による有害事象、
SF-36の全体的健康感以外の7項目(身体機能、身体的日常役割機能、体の痛み、活力、社会生活機能、精神的日常役割機能、心の健康)のサブスコア、
疲労質問票で測定した疲労スコア(総疲労と慢性疲労)、
TPO抗体(6、12、18カ月時)の変化とした。
全摘出術群でのみ症状改善
SF-36全体的健康感の平均スコアは、
ベースライン時は両群ともに38ポイント(95%CI 34〜41ポイント)だったが、
追跡期間終了時には全摘出術群が64ポイント(同59〜68ポイント)に増加したのに対し、
補充療法群では35ポイント(同30〜39ポイント)とほとんど変化せず、
両群に29ポイント(同22〜35ポイント、P<0.001)の差が認められた(図)。
総疲労の平均スコアは、
ベースライン時は両群ともに23ポイント(95%CI 22〜24ポイント)だったが、
追跡期間終了時には全摘出術群が14ポイント(同13〜16ポイント)に減少したのに対し、
補充療法群では24ポイント(同22〜25ポイント)とほとんど変化せず、
両群の差は9.3ポイント(同7.4〜11.2ポイント、P<0.001)であった。
慢性疲労の患者の割合は、ベースライン時は両群ともに83%(95%CI 76〜88%)だったが、
追跡期間終了時には全摘出術群は35%(同25〜46%)に低下したのに対し、
補充療法群では74%(同62〜83%)とほとんど変化せず、
両群に39ポイント(同23〜53ポイント、P<0.001)の差が認められた。
抗TPO抗体も低下
血清抗TPO抗体の中央値は、
全摘出術群ではベースライン時の2,232IU/mL〔四分位範囲(IQR)1,278〜4,263IU/mL〕から
18カ月後には152IU/mL(同100〜286 IU/mL)に低下したのに対し、
補充療法群ではベースライン時の2,052IU/mL(同1,204〜3,791IU/mL)から
18カ月後も1,300IU/mLと高いままで、
群間差は1,148IU/mL(95%CI 1,080〜1,304IU/mL、P<0.001)であった。
今回の研究では追跡期間が18カ月と限られているが、
血清抗TPO抗体1,000IU/mL以上で甲状腺機能低下症以外の症状が重度の橋本病患者において、
甲状腺全摘出術によってのみ健康関連QOLおよび疲労スコアが改善、血清抗TPO抗体が低下した。
これらのことから、Guldvog氏は
「ホルモン補充療法により甲状腺機能が正常にコントロールされているにもかかわらず症状が持続する橋本病患者では、甲状腺全摘出術を考慮すべきである」
としている。
(宇佐美陽子)
治療により甲状腺機能が正常となったにもかかわらず症状が改善しない橋本病患者では、甲状腺全摘出術が症状改善に有効)
橋本病の症状改善に甲状腺全摘出術が有効
150例対象のRCT
2019年04月05日 06:05
橋本病では甲状腺機能が低下することにより、重度の疲労感などの症状が現れる。
治療としては甲状腺ホルモン補充療法があるが、
一部で奏効せずに持続的な症状に悩まされるケースもある。
ノルウェー・Telemark HospitalのIvar Guldvog氏らは、
治療により甲状腺機能が正常となったにもかかわらず症状が改善しない橋本病患者では、
甲状腺全摘出術が症状改善に有効であることをランダム化比較試験(RCT)で明らかにし、
Ann Intern Med(2019年3月12日オンライン版)に報告した。
甲状腺機能正常で症状持続する患者が対象
対象は、ノルウェーの二次医療施設を受診し血清抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体が
1,000IU/mLを超える18〜79歳の橋本病患者で、
甲状腺ホルモン補充療法により甲状腺機能は正常状態が得られているが、
持続的な橋本病の症状を呈する150例。
対象を甲状腺全摘出術群とホルモン補充療法群に1:1でランダムに割り付け、
6カ月ごとに症状を評価し18カ月間追跡した。
主要評価項目は、18カ月間の追跡終了時における健康関連QOL測定用自己記入式質問票SF-36の全体的健康感(general health)スコア。
副次評価項目は、
手術による有害事象、
SF-36の全体的健康感以外の7項目(身体機能、身体的日常役割機能、体の痛み、活力、社会生活機能、精神的日常役割機能、心の健康)のサブスコア、
疲労質問票で測定した疲労スコア(総疲労と慢性疲労)、
TPO抗体(6、12、18カ月時)の変化とした。
全摘出術群でのみ症状改善
SF-36全体的健康感の平均スコアは、
ベースライン時は両群ともに38ポイント(95%CI 34〜41ポイント)だったが、
追跡期間終了時には全摘出術群が64ポイント(同59〜68ポイント)に増加したのに対し、
補充療法群では35ポイント(同30〜39ポイント)とほとんど変化せず、
両群に29ポイント(同22〜35ポイント、P<0.001)の差が認められた(図)。
総疲労の平均スコアは、
ベースライン時は両群ともに23ポイント(95%CI 22〜24ポイント)だったが、
追跡期間終了時には全摘出術群が14ポイント(同13〜16ポイント)に減少したのに対し、
補充療法群では24ポイント(同22〜25ポイント)とほとんど変化せず、
両群の差は9.3ポイント(同7.4〜11.2ポイント、P<0.001)であった。
慢性疲労の患者の割合は、ベースライン時は両群ともに83%(95%CI 76〜88%)だったが、
追跡期間終了時には全摘出術群は35%(同25〜46%)に低下したのに対し、
補充療法群では74%(同62〜83%)とほとんど変化せず、
両群に39ポイント(同23〜53ポイント、P<0.001)の差が認められた。
抗TPO抗体も低下
血清抗TPO抗体の中央値は、
全摘出術群ではベースライン時の2,232IU/mL〔四分位範囲(IQR)1,278〜4,263IU/mL〕から
18カ月後には152IU/mL(同100〜286 IU/mL)に低下したのに対し、
補充療法群ではベースライン時の2,052IU/mL(同1,204〜3,791IU/mL)から
18カ月後も1,300IU/mLと高いままで、
群間差は1,148IU/mL(95%CI 1,080〜1,304IU/mL、P<0.001)であった。
今回の研究では追跡期間が18カ月と限られているが、
血清抗TPO抗体1,000IU/mL以上で甲状腺機能低下症以外の症状が重度の橋本病患者において、
甲状腺全摘出術によってのみ健康関連QOLおよび疲労スコアが改善、血清抗TPO抗体が低下した。
これらのことから、Guldvog氏は
「ホルモン補充療法により甲状腺機能が正常にコントロールされているにもかかわらず症状が持続する橋本病患者では、甲状腺全摘出術を考慮すべきである」
としている。
(宇佐美陽子)