2019年05月28日
がん死亡率が米国に逆転される理由 日本のがん対策の問題点
(日本の無策ーがん対策に対しても25年、何も手を打ってこなかった!!)
がん死亡率が米国に逆転される理由
日本のがん対策の問題点
大阪国際がんセンターがん対策センター特別研究員 大島 明
2019年04月01日 16:58
米国ではがん死亡率が25年で27%低下
Medical Tribune新聞版は2019年1月24日号の1面トップで、
米国がん協会(ACS)が公表した最新のがん統計について報じた(関連記事「米・がん死亡率、25年間で27%低下」)。
この統計では、1971年のニクソン米国大統領(当時)のがんに対する戦争宣言以来のがん対策の取り組みの成果として、
米国のがん死亡率(男女合計、2000年米国人口を標準とした年齢調整死亡率)はピーク時の1991年から2016年までの25年間で27%低下し、
部位別には肺がん、大腸がん、乳がんなど多くの部位で死亡率が減少していたことが示されている(CA Cancer J Clin 2019; 69: 7-34)。
これらは、タバコ・コントロールによる喫煙率の低下とがん検診の普及、そして治療の進歩によるものと考える。
それでは、日本のがん死亡率はどのように推移しているのだろうか。
小文では、日本のがん死亡率の推移を示してその要因を検討した上で、
日本の部位別がん死亡のトップの肺がん(男性)と大腸がん(女性)について、
日米の死亡率の推移を比較し、その差をもたらした要因について検討する。
さらに、今後のあるべきがん対策について提言したい。
日本のがん死亡率の減少はがん対策の成果ではない
実は、日本のがん死亡率(男女合計、1985年日本人人口を標準とした年齢調整死亡率)も、
ピーク時の1996年から2017年までの21年間に28%減少している。
しかし、これを部位別に見ると、胃がんと肝がんの死亡率の減少によるところが大きい。
胃がん死亡率の減少は、
上水道の整備などの衛生環境の改善や冷蔵庫の普及に伴う食生活の変化などによる胃がん罹患率の減少に基づくもので、
胃がん検診の果たした役割は小さい。
現に米国でも1930年代には、
胃がん死亡が部位別死亡の圧倒的なトップの座を占めていたが、
特別の対策なしに大きく減少した。
また、1990年ごろまでの日本の肝がん死亡率の増加は、
第2次世界大戦後の混乱期における注射薬物と不潔な注射器・針による肝炎の蔓延によるものであったが、
一般的な公衆衛生対策としての肝炎対策の普及に伴って肝がん死亡率は減少した。
すなわち、米国と異なり、
日本のがん死亡率は、特異的ながん対策の結果として減少したとは言えない。
1984年に対がん10カ年総合戦略が開始され、
2007年に施行されたがん対策基本法の下、
がん対策推進基本計画(第1期、第2期、第3期)が進められてきたが、
これらに基づく対策の成果として日本のがん死亡率が減少したとは言えないと考える。
肺がん死亡率:近く日米が逆転するのは必至、原因はたばこ対策の遅れ
日本の部位別がん死亡のトップは、
男性では肺がん、
女性では大腸がんである。
この2つのがんによる死亡率の推移を米国と比較すると、日本のがん対策の問題点が明らかとなる。
図1には、WHO Cancer Mortality Databaseに基づき作成した日本と米国における肺がんの年齢調整死亡率(標準人口:WHOの世界人口、3年移動平均)の推移を示した。
男性の肺がん死亡率の推移を見ると、
日本の肺がん死亡率の減少速度は米国のそれよりもはるかに鈍く、
近く日米の肺がん死亡率が逆転するのは必至である。
これは、日米のタバコ・コントロールの取り組みの差によると考える。
WHOのレポートによると、
2016年における男性の年齢調整喫煙率(標準人口:WHO世界人口)は、
米国の24.6%に対して日本は33.7%とほぼ10%ポイント高いままとどまっている。
日本は、
たばこ規制枠組み条約に盛り込まれたたばこ税・価格の大幅引き上げ、
たばこ広告の規制、たばこパッケージの画像入り警告表示、
クイットライン(無料の禁煙電話相談)などの取り組みが遅れている。
国際条約の批准国として条約を履行しなければならないのは当然であるが、
図1に見られるような事態を招いたことを直視して、
国民の健康の維持増進のため、早急にたばこ規制の取り組みを強化するべきである。
大腸がん死亡率:逆転を許した原因は大腸内視鏡検査の非推奨
次に、図2の女性の大腸がん死亡率の推移を見ると、
米国では順調に減少しているのに対し、日本では明確な減少傾向は認められず、
2002年には逆転し、
日本の方が米国よりも高くなってしまっていた(男性の大腸がん死亡率も同様の傾向である)。
(図1、2ともWHO Cancer Mortality Database)
これは、日米の大腸内視鏡検査の受診状況の差によるものと考えられる。
米国の大腸がん検診ガイドラインでは、
全大腸内視鏡検査の利益が
合併症や不便さ、コストを上回ると判断され、
2008年に50〜75歳を対象に一次スクリーニング(10年に1回)として導入されているのに対して、
日本の大腸がん検診ガイドライン(2005年に公表されたまま更新されていない)では、
40歳以上に対して一次スクリーニングとして便潜血検査を推奨し、
全大腸内視鏡検査に関しては死亡率減少を示す効果はあるものの、
無視できない不利益があるという理由で非推奨としている。
早急に新しいエビデンス(N Engl J Med 2018;378:1734-1740)に基づいてガイドラインを改訂し、
大腸内視鏡検査によるスクリーニングの導入に向けての作業を開始するとともに、
検診対象者を特定してコール・リコールができるような体制を整備するべきである。
情報提供だけでは駄目
図1、2に示したような事態は、日本でのがん対策の多くが情報提供にとどまり、
環境整備に向けての取り組みが極めて乏しかったためであると考える。
単なる情報提供にとどまらず、
喫煙率減少に向けての環境整備と
大腸内視鏡検査によるスクリーニングの実施に向けての環境整備の取り組みが早急に必要である。
がん死亡率が米国に逆転される理由
日本のがん対策の問題点
大阪国際がんセンターがん対策センター特別研究員 大島 明
2019年04月01日 16:58
米国ではがん死亡率が25年で27%低下
Medical Tribune新聞版は2019年1月24日号の1面トップで、
米国がん協会(ACS)が公表した最新のがん統計について報じた(関連記事「米・がん死亡率、25年間で27%低下」)。
この統計では、1971年のニクソン米国大統領(当時)のがんに対する戦争宣言以来のがん対策の取り組みの成果として、
米国のがん死亡率(男女合計、2000年米国人口を標準とした年齢調整死亡率)はピーク時の1991年から2016年までの25年間で27%低下し、
部位別には肺がん、大腸がん、乳がんなど多くの部位で死亡率が減少していたことが示されている(CA Cancer J Clin 2019; 69: 7-34)。
これらは、タバコ・コントロールによる喫煙率の低下とがん検診の普及、そして治療の進歩によるものと考える。
それでは、日本のがん死亡率はどのように推移しているのだろうか。
小文では、日本のがん死亡率の推移を示してその要因を検討した上で、
日本の部位別がん死亡のトップの肺がん(男性)と大腸がん(女性)について、
日米の死亡率の推移を比較し、その差をもたらした要因について検討する。
さらに、今後のあるべきがん対策について提言したい。
日本のがん死亡率の減少はがん対策の成果ではない
実は、日本のがん死亡率(男女合計、1985年日本人人口を標準とした年齢調整死亡率)も、
ピーク時の1996年から2017年までの21年間に28%減少している。
しかし、これを部位別に見ると、胃がんと肝がんの死亡率の減少によるところが大きい。
胃がん死亡率の減少は、
上水道の整備などの衛生環境の改善や冷蔵庫の普及に伴う食生活の変化などによる胃がん罹患率の減少に基づくもので、
胃がん検診の果たした役割は小さい。
現に米国でも1930年代には、
胃がん死亡が部位別死亡の圧倒的なトップの座を占めていたが、
特別の対策なしに大きく減少した。
また、1990年ごろまでの日本の肝がん死亡率の増加は、
第2次世界大戦後の混乱期における注射薬物と不潔な注射器・針による肝炎の蔓延によるものであったが、
一般的な公衆衛生対策としての肝炎対策の普及に伴って肝がん死亡率は減少した。
すなわち、米国と異なり、
日本のがん死亡率は、特異的ながん対策の結果として減少したとは言えない。
1984年に対がん10カ年総合戦略が開始され、
2007年に施行されたがん対策基本法の下、
がん対策推進基本計画(第1期、第2期、第3期)が進められてきたが、
これらに基づく対策の成果として日本のがん死亡率が減少したとは言えないと考える。
肺がん死亡率:近く日米が逆転するのは必至、原因はたばこ対策の遅れ
日本の部位別がん死亡のトップは、
男性では肺がん、
女性では大腸がんである。
この2つのがんによる死亡率の推移を米国と比較すると、日本のがん対策の問題点が明らかとなる。
図1には、WHO Cancer Mortality Databaseに基づき作成した日本と米国における肺がんの年齢調整死亡率(標準人口:WHOの世界人口、3年移動平均)の推移を示した。
男性の肺がん死亡率の推移を見ると、
日本の肺がん死亡率の減少速度は米国のそれよりもはるかに鈍く、
近く日米の肺がん死亡率が逆転するのは必至である。
これは、日米のタバコ・コントロールの取り組みの差によると考える。
WHOのレポートによると、
2016年における男性の年齢調整喫煙率(標準人口:WHO世界人口)は、
米国の24.6%に対して日本は33.7%とほぼ10%ポイント高いままとどまっている。
日本は、
たばこ規制枠組み条約に盛り込まれたたばこ税・価格の大幅引き上げ、
たばこ広告の規制、たばこパッケージの画像入り警告表示、
クイットライン(無料の禁煙電話相談)などの取り組みが遅れている。
国際条約の批准国として条約を履行しなければならないのは当然であるが、
図1に見られるような事態を招いたことを直視して、
国民の健康の維持増進のため、早急にたばこ規制の取り組みを強化するべきである。
大腸がん死亡率:逆転を許した原因は大腸内視鏡検査の非推奨
次に、図2の女性の大腸がん死亡率の推移を見ると、
米国では順調に減少しているのに対し、日本では明確な減少傾向は認められず、
2002年には逆転し、
日本の方が米国よりも高くなってしまっていた(男性の大腸がん死亡率も同様の傾向である)。
(図1、2ともWHO Cancer Mortality Database)
これは、日米の大腸内視鏡検査の受診状況の差によるものと考えられる。
米国の大腸がん検診ガイドラインでは、
全大腸内視鏡検査の利益が
合併症や不便さ、コストを上回ると判断され、
2008年に50〜75歳を対象に一次スクリーニング(10年に1回)として導入されているのに対して、
日本の大腸がん検診ガイドライン(2005年に公表されたまま更新されていない)では、
40歳以上に対して一次スクリーニングとして便潜血検査を推奨し、
全大腸内視鏡検査に関しては死亡率減少を示す効果はあるものの、
無視できない不利益があるという理由で非推奨としている。
早急に新しいエビデンス(N Engl J Med 2018;378:1734-1740)に基づいてガイドラインを改訂し、
大腸内視鏡検査によるスクリーニングの導入に向けての作業を開始するとともに、
検診対象者を特定してコール・リコールができるような体制を整備するべきである。
情報提供だけでは駄目
図1、2に示したような事態は、日本でのがん対策の多くが情報提供にとどまり、
環境整備に向けての取り組みが極めて乏しかったためであると考える。
単なる情報提供にとどまらず、
喫煙率減少に向けての環境整備と
大腸内視鏡検査によるスクリーニングの実施に向けての環境整備の取り組みが早急に必要である。
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