2019年06月13日
もう蛋白尿はチェックしなくてよいのか
蛋白尿陽性者は陰性者に比べCKD(慢性腎臓病)の進展が早く生存率が低い!
検診で尿タンパク(+)で3(経過観察)とされていても、再検されることを強く勧めます
もう蛋白尿はチェックしなくてよいのか
厚労省・AMED研究班報告から
2019年04月11日 13:45
研究の背景:nephropathy(糸球体障害)からkidney disease(腎臓病)へ
最近、糖尿病(性)腎症の概念が変化し、
かつては@所見なし→Aアルブミン尿→B蛋白尿→C推算糸球体濾過量(eGFR)低下→D透析
という流れで進むと考えられていたものが、
かなりの頻度で蛋白尿を示さずにeGFRが低下する患者が存在することが明らかになっている。
このため2016年以降、糖尿病性の糸球体障害(nephropathy)と考えられていた糖尿病(性)腎症は、
尿細管間質の変化も含めた腎臓病(kidney disease)、
すなわち糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease;DKD)として捉えるべきとされるようになった
(Diabetes Care 2016;39:S4-5、関連記事「変わる糖尿病腎症の概念、治療も変わる?」)。
では今後は、eGFRの変化のみに注視し、アルブミン尿や蛋白尿には目を向ける必要はないのであろうか。
このたび、その質問に対する答えが
わが国の厚生労働省・日本医療研究開発機構(AMED)の研究班(班長:金沢大学・和田隆志教授)
から出された(Diabetes Care 2019年3月4日オンライン版)。
この腎生検を伴う報告は圧倒的な説得力があろう。
わが国の誇るべき研究結果と考え、ご紹介したい。
研究のポイント1:日本を代表する18病院の腎生検レジストリ研究
本研究は、1985年1月1日〜2016年12月31日に日本を代表する18病院※で実施された
腎生検のレジストリデータを後ろ向きに解析したものである。
腎生検の結果、DKD以外の腎疾患が診断されたり、
検体が不適切であったりした患者は除外され、
その後の経過を3カ月以上追跡できていない患者も除外された。
また、血清学的にDKD以外の腎疾患が診断される患者も除外された。
その上で、腎生検の結果は以下のような分類法で分類された。
(1)Fioretto分類(Diabetologia 1996;39:1569-1576)
カテゴリー1:正常かほぼ正常(メサンギウム拡大、尿細管間質・動脈性変化、動脈ヒアリン沈着といった点での軽度の変化)
カテゴリー2:典型的糖尿病(性)腎症(糸球体、尿細管間質、動脈性変化がバランスの良い重症度で生じている状態)
カテゴリー3:非典型的糖尿病(性)腎症(糸球体変化がないか軽度でありながら、間質や動脈性の変化が重症である状態)
(2)Tervaert分類(J Am Soc Nephrol 2010;21:556-563)
クラス1:光学顕微鏡で評価した糸球体基底膜の肥厚と軽度で非特異的な変化
クラス2:軽症(2a)あるいは重症(2b)のメサンギウム拡大を呈しているものの、結節性病変や糸球体の50%以上での全節性硬化は呈していない状況
クラス3:結節性病変はあるものの、糸球体の50%以上での全節性硬化は呈していない状況
クラス4:糸球体の50%以上での全節性硬化がある状況
(3)日本糖尿病(性)腎症分類(糸球体病変)
@びまん性病変:グレード0〜3
A内皮下スペース拡大:グレード0〜3
B結節性病変:グレード0〜1
C滲出性病変:グレード0〜1
Dメサンギウム分解/微小動脈瘤:グレード0〜1
E血管極血管新生:グレード0〜1
F全節性硬化:グレード0〜1
G分節性硬化:グレード0〜1
H糸球体拡大:グレード0〜1
(4)日本糖尿病(性)腎症分類(間質性病変)
@interstitial fibrosis and tubular atrophy (IFTA;間質の線維化および尿細管萎縮の評価):グレード0〜3
A間質性細胞浸潤:グレード0〜3
(5)日本糖尿病(性)腎症分類(血管性病変)
@ 動脈ヒアリン沈着:グレード0〜3
A 内膜壁肥厚:グレード0〜3
有効な腎生検が実施された患者の、
その後の経過観察期間において以下のアウトカムの発症が検討された。
主要アウトカム:慢性腎臓病(CKD)の進展
〔@末期腎不全(透析導入、腎移植、腎不全死)、
AeGFRの50%以上の低下、
B血清クレアチニン値の倍増―のいずれか〕
二次アウトカム:全死亡率
本研究はレジストリ研究であり、ランダム化比較試験ではないが、
蛋白尿の存在がアウトカムに及ぼす影響の因果関係を追及すべく、
統計解析においては、プロペンシティスコアマッチングを実施した。
マッチされたのは年齢、性、糖尿病罹病期間、腎生検時の腎機能(eGFR)である。
研究のポイント2:蛋白尿の有無で病理像は異なっていた
1985年1月1日〜2016年12月31日に腎生検の結果、
895例の患者がDKDと診断された。
うち13例は、DKD以外の病変の存在やその後の経過観察期間が3カ月未満
であるといった理由により除外された。
また、腎生検の時点でeGFRが60mL/分/1.73m2以上の人を除外すると、
残りは526例となった。
この526例のうち、88例は尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)が300mg/gCr未満
の蛋白尿陰性者であり、438例が蛋白尿陽性者であった。
そこから年齢、性、糖尿病罹病期間、腎生検時の腎機能(eGFR)でマッチするように患者を抽出し、
82例の蛋白尿陰性者と164例の蛋白尿陽性者が選択された(1 : 2のマッチング)。
プロペンシティスコアマッチング後の両者の臨床特性を比較すると、
蛋白尿陰性者の方がレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬の内服が少ないながら血圧が低めで、
HbA1cは高めである一方、LDL-Cは低めで、ヘモグロビン(Hb)が高かった。
また、蛋白尿陰性者と陽性者の病理像を比較すると、
陰性者では正常像あるいはそれに近い像を呈する人が多かった
(Fioretto分類カテゴリー1が62%)のに対し、
陽性者では典型的な糖尿病(性)腎症の像を呈する人が多かった
(Fioretto分類カテゴリー2が66%)。
また、糸球体病変だけでなく、
間質性病変や血管性病変についても蛋白尿陰性者の方が軽症であることが判明した。
研究のポイント3:蛋白尿陽性者は陰性者に比べCKDの進展が早く生存率が低い
こうした臨床特性や病理像の異なる蛋白尿陰性者と陽性者で、
その後のCKDの進展(主要アウトカム)や全死亡率(二次アウトカム)を見ると、
図1、2の通りで、
蛋白尿陽性者に対する陰性者の腎症進展のハザード比は
0.15(陽性者:231人/1,000人・年 vs.陰性者:30人/1,000人・年 )
と有意に低く、
年齢、性、糖尿病罹病期間、eGFR基礎値を調整後に検討しても同様であった
(ハザード比0.13)。
(図1〜2ともDiabetes Care 2019年3月4日オンライン版)
例えば、腎生検後5年においてCKDの進展のない確率を求めると、
蛋白尿陰性者では86.6%(95%CI 72.5〜93.8%)、
陽性者では30.3%(同22.4〜38.6%)であり、
5年生存率を求めると、
陰性者では98.3%(同88.7〜99.8%)、
陽性者では82.6%(同73.6〜88.8%)であった。
なお、念のためRAS阻害薬の有無で層別解析しても、この結果は同様であったという。
また、蛋白尿陰性者に限定してCKDの進展を予測する因子を求めたところ、
Hbが低いこと、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を使用していること、
IFTA(間質の線維化および尿細管萎縮の評価)が重症であることが抽出され、
多変量解析を行うとIFTAが重症であることのみが残った。
私の考察:蛋白尿のチェックはやはり重要
Diabetic nephropathy(糖尿病による糸球体症)から
diabetic kidney disease(糖尿病による腎臓病)へ
と概念が変わる中で、
蛋白尿の有無にかかわらず末期腎不全まで進行してしまう人がいるのだから
と蛋白尿を軽視する向きがいるかもしれない。
しかし、今回の研究は、やはり蛋白尿の有無は極めて重要であることをはっきりと示した。
また、蛋白尿の存在は糸球体だけでなく、間質性病変や血管性病変の進行を意味していることが分かった。
さらに、蛋白尿陰性者での腎症進展の要因として間質性病変の重症度が重要であることも見えてきた。
やはり、蛋白尿(糸球体病変)も重要ではあるが、
蛋白尿以外の要素(間質性病変)も重要なのである。
※虎の門病院、虎の門病院分院、金沢大学病院、藤田医科大学病院、国立病院機構千葉東病院、新潟大学病院、東北大学病院、筑波大学病院、福岡大学病院、獨協医科大学埼玉医療センター、神戸大学病院、金沢医科大学病院、長崎大学病院、奈良医科大学、琉球大学病院、岡山大学病院、聖マリアンナ医科大学病院、名古屋大学病院(論文の記載順に従う。奈良医科大学のみ病院名でなく大学名なのは論文ママ)
検診で尿タンパク(+)で3(経過観察)とされていても、再検されることを強く勧めます
もう蛋白尿はチェックしなくてよいのか
厚労省・AMED研究班報告から
2019年04月11日 13:45
研究の背景:nephropathy(糸球体障害)からkidney disease(腎臓病)へ
最近、糖尿病(性)腎症の概念が変化し、
かつては@所見なし→Aアルブミン尿→B蛋白尿→C推算糸球体濾過量(eGFR)低下→D透析
という流れで進むと考えられていたものが、
かなりの頻度で蛋白尿を示さずにeGFRが低下する患者が存在することが明らかになっている。
このため2016年以降、糖尿病性の糸球体障害(nephropathy)と考えられていた糖尿病(性)腎症は、
尿細管間質の変化も含めた腎臓病(kidney disease)、
すなわち糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease;DKD)として捉えるべきとされるようになった
(Diabetes Care 2016;39:S4-5、関連記事「変わる糖尿病腎症の概念、治療も変わる?」)。
では今後は、eGFRの変化のみに注視し、アルブミン尿や蛋白尿には目を向ける必要はないのであろうか。
このたび、その質問に対する答えが
わが国の厚生労働省・日本医療研究開発機構(AMED)の研究班(班長:金沢大学・和田隆志教授)
から出された(Diabetes Care 2019年3月4日オンライン版)。
この腎生検を伴う報告は圧倒的な説得力があろう。
わが国の誇るべき研究結果と考え、ご紹介したい。
研究のポイント1:日本を代表する18病院の腎生検レジストリ研究
本研究は、1985年1月1日〜2016年12月31日に日本を代表する18病院※で実施された
腎生検のレジストリデータを後ろ向きに解析したものである。
腎生検の結果、DKD以外の腎疾患が診断されたり、
検体が不適切であったりした患者は除外され、
その後の経過を3カ月以上追跡できていない患者も除外された。
また、血清学的にDKD以外の腎疾患が診断される患者も除外された。
その上で、腎生検の結果は以下のような分類法で分類された。
(1)Fioretto分類(Diabetologia 1996;39:1569-1576)
カテゴリー1:正常かほぼ正常(メサンギウム拡大、尿細管間質・動脈性変化、動脈ヒアリン沈着といった点での軽度の変化)
カテゴリー2:典型的糖尿病(性)腎症(糸球体、尿細管間質、動脈性変化がバランスの良い重症度で生じている状態)
カテゴリー3:非典型的糖尿病(性)腎症(糸球体変化がないか軽度でありながら、間質や動脈性の変化が重症である状態)
(2)Tervaert分類(J Am Soc Nephrol 2010;21:556-563)
クラス1:光学顕微鏡で評価した糸球体基底膜の肥厚と軽度で非特異的な変化
クラス2:軽症(2a)あるいは重症(2b)のメサンギウム拡大を呈しているものの、結節性病変や糸球体の50%以上での全節性硬化は呈していない状況
クラス3:結節性病変はあるものの、糸球体の50%以上での全節性硬化は呈していない状況
クラス4:糸球体の50%以上での全節性硬化がある状況
(3)日本糖尿病(性)腎症分類(糸球体病変)
@びまん性病変:グレード0〜3
A内皮下スペース拡大:グレード0〜3
B結節性病変:グレード0〜1
C滲出性病変:グレード0〜1
Dメサンギウム分解/微小動脈瘤:グレード0〜1
E血管極血管新生:グレード0〜1
F全節性硬化:グレード0〜1
G分節性硬化:グレード0〜1
H糸球体拡大:グレード0〜1
(4)日本糖尿病(性)腎症分類(間質性病変)
@interstitial fibrosis and tubular atrophy (IFTA;間質の線維化および尿細管萎縮の評価):グレード0〜3
A間質性細胞浸潤:グレード0〜3
(5)日本糖尿病(性)腎症分類(血管性病変)
@ 動脈ヒアリン沈着:グレード0〜3
A 内膜壁肥厚:グレード0〜3
有効な腎生検が実施された患者の、
その後の経過観察期間において以下のアウトカムの発症が検討された。
主要アウトカム:慢性腎臓病(CKD)の進展
〔@末期腎不全(透析導入、腎移植、腎不全死)、
AeGFRの50%以上の低下、
B血清クレアチニン値の倍増―のいずれか〕
二次アウトカム:全死亡率
本研究はレジストリ研究であり、ランダム化比較試験ではないが、
蛋白尿の存在がアウトカムに及ぼす影響の因果関係を追及すべく、
統計解析においては、プロペンシティスコアマッチングを実施した。
マッチされたのは年齢、性、糖尿病罹病期間、腎生検時の腎機能(eGFR)である。
研究のポイント2:蛋白尿の有無で病理像は異なっていた
1985年1月1日〜2016年12月31日に腎生検の結果、
895例の患者がDKDと診断された。
うち13例は、DKD以外の病変の存在やその後の経過観察期間が3カ月未満
であるといった理由により除外された。
また、腎生検の時点でeGFRが60mL/分/1.73m2以上の人を除外すると、
残りは526例となった。
この526例のうち、88例は尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)が300mg/gCr未満
の蛋白尿陰性者であり、438例が蛋白尿陽性者であった。
そこから年齢、性、糖尿病罹病期間、腎生検時の腎機能(eGFR)でマッチするように患者を抽出し、
82例の蛋白尿陰性者と164例の蛋白尿陽性者が選択された(1 : 2のマッチング)。
プロペンシティスコアマッチング後の両者の臨床特性を比較すると、
蛋白尿陰性者の方がレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬の内服が少ないながら血圧が低めで、
HbA1cは高めである一方、LDL-Cは低めで、ヘモグロビン(Hb)が高かった。
また、蛋白尿陰性者と陽性者の病理像を比較すると、
陰性者では正常像あるいはそれに近い像を呈する人が多かった
(Fioretto分類カテゴリー1が62%)のに対し、
陽性者では典型的な糖尿病(性)腎症の像を呈する人が多かった
(Fioretto分類カテゴリー2が66%)。
また、糸球体病変だけでなく、
間質性病変や血管性病変についても蛋白尿陰性者の方が軽症であることが判明した。
研究のポイント3:蛋白尿陽性者は陰性者に比べCKDの進展が早く生存率が低い
こうした臨床特性や病理像の異なる蛋白尿陰性者と陽性者で、
その後のCKDの進展(主要アウトカム)や全死亡率(二次アウトカム)を見ると、
図1、2の通りで、
蛋白尿陽性者に対する陰性者の腎症進展のハザード比は
0.15(陽性者:231人/1,000人・年 vs.陰性者:30人/1,000人・年 )
と有意に低く、
年齢、性、糖尿病罹病期間、eGFR基礎値を調整後に検討しても同様であった
(ハザード比0.13)。
(図1〜2ともDiabetes Care 2019年3月4日オンライン版)
例えば、腎生検後5年においてCKDの進展のない確率を求めると、
蛋白尿陰性者では86.6%(95%CI 72.5〜93.8%)、
陽性者では30.3%(同22.4〜38.6%)であり、
5年生存率を求めると、
陰性者では98.3%(同88.7〜99.8%)、
陽性者では82.6%(同73.6〜88.8%)であった。
なお、念のためRAS阻害薬の有無で層別解析しても、この結果は同様であったという。
また、蛋白尿陰性者に限定してCKDの進展を予測する因子を求めたところ、
Hbが低いこと、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を使用していること、
IFTA(間質の線維化および尿細管萎縮の評価)が重症であることが抽出され、
多変量解析を行うとIFTAが重症であることのみが残った。
私の考察:蛋白尿のチェックはやはり重要
Diabetic nephropathy(糖尿病による糸球体症)から
diabetic kidney disease(糖尿病による腎臓病)へ
と概念が変わる中で、
蛋白尿の有無にかかわらず末期腎不全まで進行してしまう人がいるのだから
と蛋白尿を軽視する向きがいるかもしれない。
しかし、今回の研究は、やはり蛋白尿の有無は極めて重要であることをはっきりと示した。
また、蛋白尿の存在は糸球体だけでなく、間質性病変や血管性病変の進行を意味していることが分かった。
さらに、蛋白尿陰性者での腎症進展の要因として間質性病変の重症度が重要であることも見えてきた。
やはり、蛋白尿(糸球体病変)も重要ではあるが、
蛋白尿以外の要素(間質性病変)も重要なのである。
※虎の門病院、虎の門病院分院、金沢大学病院、藤田医科大学病院、国立病院機構千葉東病院、新潟大学病院、東北大学病院、筑波大学病院、福岡大学病院、獨協医科大学埼玉医療センター、神戸大学病院、金沢医科大学病院、長崎大学病院、奈良医科大学、琉球大学病院、岡山大学病院、聖マリアンナ医科大学病院、名古屋大学病院(論文の記載順に従う。奈良医科大学のみ病院名でなく大学名なのは論文ママ)
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/8883419
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック