2016年02月11日
黒板をひっかく音は「低音」が決め手だって本当?
人間にとって重要な情報源である「音」。ことばを聞き取るコミュニケーション・ツールとしてだけでなく、危険の察知や心やすらぐ音楽など、感情と密接な要素が多い。
「黒板をひっかく音」は、なぜ嫌われるのか? 子どものイタズラの定番として知られるこの音は、意外なことにサルの鳴き声とそっくりの音色で、古代の記憶が「危険」のシグナルと判断するため不快に感じる。かん高い音でありながら、聞き取れないほどの低い周波数をカットすると、なんとか堪えられるようになるフシギな音なのだ。
■古代の記憶が「危険」を伝える音
黒板をひっかく音を不快に感じるのはナゼか? 興味本位ならアリだが、理由がわかったところでなにに応用するか悩んでしまうようなテーマを研究したひとがいる。アメリカ・イリノイ州にあるノースウェスタン大学のヒレンブランド氏らの研究チームは、この音がイヤがれる理由を研究し、2006年にイグ・ノーベル賞を受賞しているのだ。聴覚の専門家である同氏に加え、心理学の専門家も加えた研究チームにというから、その本気度がうかがえる。
この音が不快に感じるのは、サルの鳴き声に似ているからだ。
ここでのサルは「マカク属」と呼ばれる種で、危険を伝えるときの鳴き声が「黒板ひっかき音」と波形が似ているため、同じ音のように聞こえる。また、人間とサルは同じ霊長(れいちょう)類であることから、黒板の音=危険を伝える声=不快、と結論づけられているのだ。
赤ちゃんの泣き声と発情期のネコの鳴き声など、自然界にはまったく違うのに同じように聞こえる音は少なくない。とくに危険を感じた際の鳴き声は、仲間にも警戒をうながす役割も果たすので、目覚まし時計と同様に「心地よくない」音が用いられる。この鳴き声はヒトの世界ではすでに使われていないものの、黒板ひっかき音が古代の記憶を呼び覚まし、警戒=不快を感じさせているのではないかと考察されている。
■低周波が不快の原因
さらにフシギなのは、低音をカットすると聞きづらさが薄れる点だ。
黒板ひっかき音を文字で表現するなら、誰もが高音と表現するだろうが、音を加工すると、
・高音をカット … ほとんど変わらない(=聞きづらい)
・低音をカット … やや改善された
と、高音よりも低音が嫌われる要素であることが分かった。よりにもよって3〜6ヘルツと、極端に低い音が不快感を生み出していたのだ。
人間が聞こえる音の高さは20〜20,000ヘルツ前後といわれ、20ヘルツ未満は「低周波」と表現されるのが一般的だ。つまり、問題となる3〜6ヘルツは音として聞こえているわけでないのに、心理的に作用していることを意味している。
音の高さをあらわすヘルツは、1秒間に起きる波の数をあらわすので、3ヘルツなら毎秒3回のうねりや振動になる。これらは音として聞こえなくても「からだ」で感じるひとが多く、公害源にもなっているぐらいだから、不快と感じて当然だ。
低周波を受ける環境ではイライラする、頭が重い、よく眠れないなどの不快感をうったえるひとが多く、なかには自立神経失調症にまで発展することもある。警戒をうながす音色、不快と感じる低周波が含まれていれば、誰もがイヤだと思うことの動かぬ証拠と言えるだろう。
・黒板ひっかき音は、サルが危険を伝えるときの鳴き声とよく似ている
・低周波と呼ばれる3〜6ヘルツの低音も含まれ、カットすると聞きづらさが減る