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2013年04月01日

霊使い達の黄昏・14



 はい、皆様こんばんわ。土斑猫です。
 今日は「霊使い」の日。と、言うわけで「霊使い達の黄昏」20話掲載です。



  では、コメントレスです。

 エマさん

 アカネちゃんの名前、そういえばそうでしたね。あかね色から取られたんでしたね。
その夕焼け空があかねちゃんの心を癒やす……うーん。良いシーンダナーw


 ありがとうございますー。
 まあ、実際は赤い〇ツネと緑のタ〇キからつけられたんでしょうが・・・www


 救急車が走ってきたようですが、何か厄災が起きたのでしょうか?
 ふむ、悪魔の子、無関係の人を襲うようには見えませんが……。誰がけがしたのであろーか。
 図書館で掴んだ何かが、アカネちゃんをつき動かしているようですが、なんなんでしょね。あの娘に聞きたいことというのは。
 素直に教えてくれるとも思えませんが……。
 

 それに関しては次回をお楽しみにw>救急車
 さぁ、どうでしょうねー?教えてくれるかなーw>聞きたいこと


 そうそう、個人的な印象なんですが、
 最後らへんの不吉な雰囲気が出ている描写とか表現とか、結構苦手だったりします^^;
 あまりそういう文学的表現に関心がないというか、さらっと読み飛ばしてしまうタチでして(すみませんorz)
 誰々がこうした〜。何々がどうなった〜。という実質的な意味のある文章しか主に書かない私の読み方だとそうなってしまう^^;
 それはそれで、私の文章だと「説明がくどい」みたいに言われることもあるんですけどねorz
 でも、こういう表現も勉強になるので、もう一度舐めるように読み返しますよーw
 
 
 アウチッ!!
 そうでしたか・・・(汗)
 すんません・・・。
 まあ、文形の好き嫌いは誰にでもあるので(小生にもありますw)仕方ないかと。
 そういう時はどんどん読み飛ばしてくださいw
 しかし、当時の小生(今でもその気ありますが・・・(汗))、この手の表現に凝ってた節があるので今後も出てくるかと・・・。
 そん時は、生温かく読み飛ばしてください。
 いやほんと、すんません・・・。


 ではでは、また次の感想で!^^

 はい。お待ちしておりまーす。


焔.jpg




                     ―14―


 ・・・それは、今から一ヶ月ほど前の事・・・
 『何か・・・おかしいぞ。主・・・』
 「ああ、そうだな・・・」
 黒い噴煙が立ち込める空を見上げながら、ヒータとしもべのきつね火はそう言い合った。
 その日、ヒータは新たなしもべの獲得と自己の鍛錬をかね、炎山・バーニング・ブラッドの麓、炎樹海を訪れていた。
 確かに、久方ぶりの訪問ではあった。
 しかし、それを考慮に入れたとしても―
 何かがおかしかった。
 暗い空のその下では、大きくそそり立つ巨山がいつも通り、その天辺に開いた火口から真っ赤な血を流し続けている。
 辺りに響き渡る低い地響きも、変わらない。
 炎樹海の木々も、炎々と燃えるその枝葉を静かに揺らしている。
 変わらぬ光景。
 いつもの風景。
 けれど。
 けれど―
 何かが違う。
 何かが抜けている。
 「――!!」
 途端、何かに思い当たった様にヒータが走り始めた。
 その方向は―
 『お、おい!!主、何処行くんだよ!?そっちは―』
 ヒータの向かっている場所に気付いたきつね火が、慌てた様に声を上げた。
 『“ラヴァル”の集落じゃないか!!』
 ―“ラヴァル”―
 それは、この地域に居を構える原住民族の名。
 紅く灼熱した岩石状の皮膚が特徴の彼らは、その姿に相応しく好戦的な種族であった。
 特に、隣接する地域に住むジェムナイトとの確執は有名であり、平和的な種族である彼らに一方的に小競り合いを仕掛けるその姿は、この世界でも有数の蛮族の一つとしてその名を知らしめていた。
 実際、ヒータもこの辺りを訪れた際に彼らに遭遇し、冷や汗ものの経験をした事が幾度かあった。
 そのため、彼女もこの辺りを散策する際には、極力彼らに出会わない様に注意していた。
 一部の、例外を除いては―
 しかし、今ヒータは自らその彼らの集落に向かって走っていた。
 『主、危ないよ!!勝手に集落に近づいて、ラヴァルの奴らの癇に障ったりしたら・・・』
 耳元で、相方が喚いているが気にもしない。
 火炎草の群落を飛び越え、燃える藻の茂みを潜り抜ける。
 そうやって、炎樹海を抜けた先の広場。
 そこに、ラヴァルの集落があった。
 しかし―
 「何だよ・・・これ・・・」
 茫然と呟くヒータ。
 集落の姿はそのまま残っている。
 領主の住まっていた城。民達の暮らしていた家々。家畜小屋。
 全てがそのまま、残されている。
 けれど。
 だけど。
 気配が、なかった。
 そこに在るべき、生ける者達の気配がなかった。
 『誰も・・・いない・・・?』
 「そんな、馬鹿な!?」
 ヒータは、そのまま集落の中に走り込む。
 バンッ バンッ バンッ
 家々の扉を次々と開けていく。
 集落の中心にある作業場を覗き込み、家畜小屋を見て回る。
 兵舎の中を探索し、果ては領主の城にまでも入り込んだ。
 しかし、結果は同じ。
 いなかった。
 集落を彩る民達も
 城を守る兵達も。
 その兵達が駆るモンスター達も。
 そして、この地を統べる領主さえも。
 その全てが消えていた。
 「・・・どうなって、やがんだ・・・?」
 集落の真ん中で、ヒータは途方に暮れる。
 と、その時―
 クン!?
 きつね火の鼻が何かを捉えた。
 『主、誰かいる!!』
 「何!?何処だ!?」
 『こっちだ!!』
 きつね火が走り出す。
 その後を追うヒータ。
 「そいつ、ラヴァルなのか!?そこらの、野生モンスターじゃないのか!?」
 『特有の、焼けた硝石みたいな匂いがする!!間違いなく、ラヴァルだ!!』
 かくして、彼女らの行き着いた先に、“彼”はいた。
 ラヴァル特有の灼熱した岩石の体表。大木の様に太い手足。ガッシリとした体躯。
 集落の隅で佇んでいるその後ろ姿に、ヒータは覚えがあった。
 「お前・・・フロギスか!?」
 その声に、フロギスと呼ばれた彼はゆっくりと振り返る。
 「ひー・・・た・・・?」
 丸く無垢な目がヒータを映し、呟く様な声がその名を呼んだ。


 ―『ラヴァル・フロギス』―
 木こりである彼は、好戦的なラヴァルの中にあって珍しく温和な性格であり、その仕事場である炎火山(バーニングブラッドを中心に連なる大小の火山)において、ヒータとしばしば面識のある仲であった。
 「一体、何があったんだよ!?他の連中は・・・妖女のやつやカエンのおっさんはどうした!?」
 フロギス(彼)のみならず、実はヒータはラヴァルのメンバーの何人かと密かに親しい仲にあった。
 フロギス同様、性格が温和な者。ヒータと馬の合った者。その理由は多々なれど、皆単身この地を訪れるヒータを気遣い、気の荒い他の面子と遭遇しない様、動向を教えてくれたりしていた。
 他の連中に気付かれたら立場が危うくなるのではと心配するヒータに、彼らは気にするなと笑ったものだった。
 「なあ、どうしたんだよ!?教えてくれ!!そうしょぼくれてちゃ、分かんねぇだろ!?」
 そう詰め寄るヒータに、フロギスはその円らな瞳を瞬かせながら答える。
 「分カラナイ・・・」
 「分からない・・・?」
 「おれ、炎火山ノ奥デ木、切ッテタ。ソシタラ、突然村ノ方ノ空ニ見タ事ナイ魔法陣ガ浮カンデ・・・」
 「・・・・・・。」
 「急イデ戻ッタラ、モウ皆、イナカッタ・・・」
 その言葉に、ヒータは息を呑む。
 「皆、皆、イナクナッテシマッタ!!ろーど様モ、妖女も、かえんサンモ、皆、皆!!」
 フロギスの瞳から、紅く灼熱した雫がこぼれる。地面に落ちた雫が、ジュッジュッと小さな穴を穿った。

 
 結局、そこではフロギスが話す以上の事は分からなかった。
 集落を出て、街に来てはどうかとヒータは言った。
 しかし、フロギスはゆっくりと首を振る。
 自分は集落(ここ)を守る。
 いつか、皆が帰って来た時のためにと。


 この事件は、街ではほんの一時、紙面の片隅を賑わせただけで終わった。
 ただでさえ争いの多いこの世界。
 日々、大小の部族が戦いの中で台等しては消えてゆく。
 そんな中で、いかに世間に名の知れた部族とはいえ、所詮は一地方の小さな、それも蛮族と呼ばれる輩達。その繁亡に興味を持つ者は少なかった。
 皆が思ったのだろう。
 大方、ちょっかいを出した他の種族の逆鱗に触れ、返り討ちにあったのだろうと。
 そしてこの事件も、他の大きな時勢の波の中に流され、人々の記憶から消えていく。
 まるで、そこには最初から何もなかったかの様に。
 それでもこの一件は、ヒータの胸の内に大きなしこりとして残り続けていた。
 人知れず消えていった、友人達への想いとともに―

 ゴウッ
 吹き荒ぶ熱風が朱色の髪を揺らす。
 ゴヒュッ
 ゴァアアアッ
 今、そこでは二つの力がうなりを上げていた。
 息の詰まる様な強風と、焼け付くような猛炎がせめぎ合い、ぶつかり合っていた。
 その中を、ヒータは真っ直ぐに前を見つめて歩いて行く。
 その目には、叩きつける風に対するひるみも、燃え盛る炎に対する恐れもない。
 彼女はただ、ローブをはためかせ、炎熱の嵐の中を歩いて行く。
 いつまでも続くかと思われた灼熱の壁。
 しかし、どんな存在にも、終わりはある。
 最後の一歩。
 ついに壁は途切れ、ヒータの前にそれを成していた者達の姿が現れた。
 【な!?お、おい、何だ、お前!?】
 戸惑ったような声を上げたのは、吹き荒ぶ風の奏者。
 翠の翼と緑玉の鎧を身に纏った騎士、『ダイガスタ・エメラル』。
 【あぁん?何だぁ、またテメェか!?】
 鬱陶しそうに声を荒げたのは、燃え猛る焔の主君。
 紅蓮の大鰭と灼熱する岩石の鱗で身を覆った火蜥蜴、『ラヴァルバル・チェイン』。
 対峙する二人の目は、自然と自分たちの間に割って入った少女に向けられた。
 【何やってんだ!?こんな所にいたらまきこまれるぞ!!早く逃げろ!!】
 エメラルの言葉に、ヒータはしかし、ひどく冷静な眼差しを向ける。
 「あんた・・・」
 【え?】
 「ここはオレにまかせてくれねぇか・・・?」
 【な!?】
 突然の提案に、仰天するエメラル。
 【何言ってる!!こんな化物、お前みたいな娘にどうにか出来る筈ないだろ!?】
 「あんた、風属性だろ?」
 【え?あ、ああ・・・】
 「風に煽られりゃ、火は大きくなるばかりだ。あんたに“コイツ”は倒せない。」
 【!!】
 「オレはこれでも“炎術師”だ。あんたよりは、火(コイツ)の扱いに長けてる・・・。」
 言葉に詰まるエメラル。
 【だ、だけどよ・・・】
 彼が、何とか言い募ろうとしたその時―
 【危ない!!】
 エメラルの中の、“もう一人”が叫ぶ。
 ゴォウッ
 二人の会話の隙を狙ったチェインが、巨大な炎弾を放ってきた。
 しかし―
 バシィッ
 掲げられたヒータの杖が、その炎弾を受け止める。
 ギュルルルルッ
 杖はそのまま回転し、炎弾を巻き込む様に吸収した。
 【チッ!】
 舌打ちするチェイン。
 【おお・・・!?】
 「これで、少しは信用してくれたかい?」
 そう言って、不敵に笑うヒータ。
 【エメラルさん、ここはこの娘の言うとおり、お任せしましょう。】
 【カーム!?】
 自分の内で響いた声に、エメラルは驚きの声を上げる。
 【どうやら、確かにこの場はこの娘の方が適任の様です。それに・・・】
 ダイガスタ・エメラルの中のもう一つの眼差しが、ヒータを見つめる。
 【私はもう一度・・・いえ、今度こそ、本当の意味で信じてみたいんです。“この子達”を・・・】
 【!!】
 ”彼女”の意識が、一心となる彼に重なる。
 その意に、何かを察するエメラル。
 やがて、その顔がコクリと頷く。
 【・・・頼めるか?】
 「ああ!!」
 エメラルの問いに、ヒータはハッキリとそう答えると言った。
 「村の入り口の方でも騒ぎが起こってる。もうあんた等の仲間とオレのダチが行ってるけど、それだけじゃ手にあまりそうなんだ。あんたはそのフォローに行ってくれ。」
 【!!、それって、ひょっとしてウィンちゃん!?】
 カームの声に、黙って頷くヒータ。
 【大変!!早く行かないと!!】
 【分かった!!】
 そして、ダイガスタ・エメラルはその大翼を広げる。
 【おい。】
 「ん?」
 【お前、名は?】
 「・・・ヒータ。火霊使いのヒータだ。」
 【そうか・・・。死ぬなよ。ヒータ。】
 「端から、んなつもりはねえよ。」
 その答えに、エメラルの鉄面の向こうが満足そうに微笑んだ様な気がした。
 次の瞬間―
 バシュンッ
 ダイガスタ・エメラルの身体が空高く舞い上がる。
 【逃がすかよ!!】
 それに向かって、チェインが紅蓮の炎弾を放つ。
 しかし―
 キュキュンッ
 同時に放たれた朱色の炎弾が、それを尽く相殺した。
 【ぬぅ・・・!!】
 遠くに消えていくエメラルの姿を、忌々しげに見送るチェイン。
 「どこ見てやがる?テメェの相手はオレだろ?」
 その声に振り返れば、しもべの稲荷火を従えてこちらを見つめるヒータの姿。
 【ちっ・・・。さっきと言い、今と言い、癇に障る餓鬼だぜ・・・。】
 苛立たしげに牙を鳴らすラヴァルバル・チェイン。
 「そうかよ。悪かったな。けどよ・・・。」
 そう言って、ヒータは杖を構える。
 「オレはオレで、テメェに訊きてぇ事があるんだよ・・・。」
 朱い瞳がチェインの姿を映し、炎の様に艶と輝いた。


 【あぁん?俺に訊きたい事だぁ?】
 ヒータの言葉に、チェインは怪訝気に目を細める。
 「ああ・・・。ぜひ訊きたい事がな・・・。」
 ジリジリと距離を取りながら、ヒータは言う。
 「あんた、“ラヴァル”って知ってっか・・・?」
 【――!】
 チェインの四眼が、ピクリと動く。
 【さぁて・・・。知らねぇなぁ・・・?】
 「そうか・・・?」
 ヒータの目が、何かを確信した様に細まる。 
「こっから南、炎火山の麓に住んでた部族だ。荒っぽい連中でさ、あっちこっちにケンカ吹っかけちゃあ騒動を起こしてた・・・。世間じゃ結構有名だったんだぜ?」
 【ほう?悪ぃなあ。こんな生活してちゃあ、どうも世間様の事にゃ疎くなっていけねぇ。】
 おどけた様に、両手をあげるチェイン。
 しかし、構わずヒータは続ける。
 「んで、一ヶ月程前、そいつらが突然消えちまった・・・。」
 【・・・へえ、それはそれは・・・。】
 「ホントに、キレイさっぱりだ。何も遺さずにな・・・」
 沈黙に包まれる炎樹海。
 誰もいなくなった集落。
 遺されたフロギスの涙。
 何を遺す事もなく、消えた友人達。
 「オレはそいつらと少なからず縁があってな、ずっと引っかかってたんだ。その事が・・・。」
 朱色の炎をいただく杖が、チェインに向けられる。
 「それでよ、あんたの見てくれがそいつらに良く似てるのさ・・・。」
 その身から噴出す紅蓮の炎。
 身体を覆う、灼熱した岩石状の鱗。
 それが、ラヴァルの者達の姿と重なる。
 「だから、何か知ってんじゃねぇかと思ってよ・・・。」
 【・・・・・・。】
 かけられる、真意の問い。
 しかし、チェインは答えない。
 ただ、濁った赤色の四眼でヒータを見つめる。
 「なぁ、どうだい?」
 【・・・・・・。】
 やはり、答えはない。
 「なぁ・・・」
 【あーーあ!!】
 突然、チェインが大あくびをした。鬱陶しそうに、長い首をコキコキと回らす。
 【持って回った言い方すんじゃねぇよ!!ウザッてぇ!!言いてえ事があるなら、はっきり言いな!!】
 「ああ、そうかよ!!なら言ってやらぁ!!」
 その言葉に、ヒータも声を荒げる。
 「さっき、テメェの炎を往なした時気付いたんだ!!その炎は、その紅蓮の炎はラヴァルの炎だ!!間違いなくな!!だが、テメェはラヴァルじゃねえ!!ラヴァルじゃねえテメェが、何でその炎を持ってる!?操れる!?さぁ、答えてもらおうじゃねえか!!」
 【――!!】
 「・・・・・・。」
 二人の間に流れる、しばしの静寂。
 やがて―
 【・・・カ・・・カカ・・・】
 「!?」
 【ヒカカカカ・・・ヒーカッカッカッカッカッ!!】
 身をよじって笑い出す、ラヴァルバル・チェイン。
 「・・・何が可笑しいんだ?」
 ヒータの言葉に返るのは、嘲笑を纏った声。
 【いいねぇ!!たまらねぇ!!その青くせぇ正義感!!腹が千切れるぜぇ!!】
 そして嘲りの笑いの中、言葉は紡がれる。
 【いいぜ!!答えてやるよ!!笑わせてもらった礼になぁ!!】
 笑う火蜥蜴の大鰭がバサリと翻り、紅い火の粉を散らす。
 その邪悪を孕んだ熱風に、ヒータは顔をしかめる。
 【そうさ!!こいつはラヴァルさ!!ラヴァルの力さ!!】
 その紅い四眼を爛々と輝かせながら、チェインは言う。
 【そうよ!!リチュア(俺ら)がやったのよ!!リチュア(俺ら)が、あいつ等を喰ってやったのさ!!】
 「喰った・・・?」
 絶句する、ヒータ。
 その様を見たチェインは、ますます楽しげに顔を歪ませる。
 【すげぇだろ!?ノエリア様が、俺らの頭がやったのさ。一部族丸ごと喰っちまうなんて、ホントにすげぇ!!ほれぼれしたぜ!!】
 その目に狂気の色さえ浮かべながら、紅蓮の火蜥蜴は哄笑を上げる。
 背筋に走る、嫌悪の悪寒。
 【最高だったぜぇ!?この身にラヴァル(あいつら)の力が、命が雪崩れ込んでくるあの感覚ぁ!!とんでもねぇ快感だった!!】
 ヒータの中の熱が、急激に形を変えていく。
 細く、鋭く。だけど、より熱く。
 「・・・黙れよ・・・。」
 【それだけじゃねぇ!!力と一緒に入ってくる、苦しみや絶望、悲しみなんかの感触もたまんなかったなぁ!!上の連中が儀式に凝るのも分かるぜ!!それこそ、女犯すのの何倍も・・・】  
 と―
 ゴバァッ
 【グゲェッ!!】
 突然宙を裂いた炎弾が、チェインの口内を直撃した。
 口を押さえ、のたうつチェイン。
 【こ・・・この餓鬼・・・!?】
 怒りに燃える視線の先で、杖を構え直したヒータが言う。
 「黙れっつってんだろ・・・?耳が腐るんだよ。」
 ヒータの静かに燃え立つ声が、チェインを打ち据える。
 その傍らでは、稲荷火が同じ様に怒りに全身を震わせ、唸り声を上げていた。
 「・・・つまり何か?リチュア(てめぇら)は力なんかを得るために、ラヴァルの奴らを生贄にしたってのか?」
 【・・・・・・。】
 口から白煙を漏らしながら荒い息をつくチェインに、返す言葉はない。
 そんな彼に構わず、ヒータは続ける。
 「確かにラヴァルは厄介な連中だったよ・・・。気が荒くて、喧嘩っぱやくてな。だけど・・・。」
 ヒータの脳裏に、かつてのラヴァル達の姿が甦る。
 生きるに厳しい土地に生まれた彼ら。
 生きる為に、常に戦いを選ばざるを得なかった彼ら。
 それ故に、蛮猛ならざるを得なかった彼ら。
 それでも、己らの生き様に誇りを見出していた彼ら。
 弱い者は襲わず。
 卑怯な手は使わず。
 無意に殺める事はせず。
 ただただ、己らに強いられた生き方を受け入れ、それを高みに昇華しようとしていた彼ら。
 そして何より、そんな生き方から脱落せざるを得なかった者達を、迫害する事もなく仲間として受け入れていた彼ら。
 「そんな奴らでもなぁ、生きてたんだよ!!一生懸命に!!その命を燃やして!!」
 そう。
 かつての友人達は言っていた。
 自分達を、哀れだなどとは思わない。
 だからといって、正しいなどとも思わない。
 だけど、掲げる誇りに嘘はつかない。
 たとえ蛮族と呼ばれようと。
 たとえ戦狂いと蔑まれようと。
 胸ここに抱く、誇りは絶対。
 そんな一族に生まれた事を、後悔はしないと。
 その信念を。
 その想いを。
 ヒータは尊いと思った。
 だから。
 だから、彼女は叫ぶ。
 「確かにな、生き物は他のやつを食わなきゃ生きていけねぇ時もある!!戦わなきゃ、守れない時だってある!!だけど、それは平等な命と命のぶつけ合いだ!!燃やし合って、傷つき合いながら、必死の思いで勝ち取るものなんだ!!それが誇りだ!!生きるっていう、炎の誇りだ!!あいつらは、ラヴァルはそれを分かってた!!」
 ヒータの杖の炎がゴゥと燃え立つ。
 まるで、その昂ぶりを表すかの様に。
 「だけど、リチュア(テメェら)はそうじゃねぇ!!誇りも、矜持もありゃしねぇ!!自分達だけ、安全な高みから薄笑み浮かべて喰い散らかすだけだ!!そんな奴らに、ラヴァル(あいつら)をどうこうする権利なんかありゃしねぇんだよ!!」
 ありったけの想いを吐き出すヒータ。
 その目の前で、グツグツと沸き立つ長虫の身体が蠢く。
 【・・・言いてぇ事は、それだけか・・・?】
 ようやくダメージから立ち直ったのか、チェインがズルリとその身を起こす。
 その手に握られるのは、真っ赤に焼け付く鎖刃。
 【気に喰わねぇ・・・。全く、気に喰わねぇ事この上ねぇ餓鬼だぜ・・・。】
 真っ赤な殺意に滾る四眼でヒータをねめつけながら、チェインは鎖刃を構える。
 【胸糞の悪い屁理屈こねやがって。正義の代弁者にでもなったつもりか?あぁ!?】
 「・・・そんなんじゃねぇよ。」
 しかし、その視線を受け流しながらヒータは答える。
 「オレはアウスみたいに賢くねぇ。ライナやダルクみたいに信念もねぇ。ましてや、ウィンやエリアみたいに守るべきものもねぇ。テメェの言う通り、ただの餓鬼さ。だから・・・」
 彼女の手の中で、ヒュヒュンと杖が踊る。
 「行動原理も、至極単純なんだよ!!」
 踊っていた杖がピタリと止まる。
 それを構え、ヒータは言う。
 「ダチ達とその仲間の仇、キッチリと討たせてもらうぜ!!」
 凛とした声が、燃え立つ炎の中に響いた。



                                        続く
タグ:霊使い
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