アフィリエイト広告を利用しています

2012年10月23日

霊使い達の黄昏・4

26C9550B-E75A-4B04-B5C6-1645A2B5013D.jpeg


 どうも。土斑猫です。
 今回の作品は、前作の「宿題」シリーズに比べて、全般的にシリアス路線になる予定です。
 さて、上手く話を繰れるかどうか、どうぞしばしお付き合いくださいませ。
 それではコメントレス


 久しぶりに感想を書く時間ができたので久々に書かせていただきます。

 はい。お久ですー(喜)

 如月蓮華が里香とはまったくの別の意味で強いことで里香よりも大胆になっているため、駐輪場事件では里香の珍しい落ち込みっぷりがあったりしてちょっと新鮮でよかったですww

 そろそろ暴走しかけてます。この娘ww
 例の件は、里香の数少ない弱味と認識しておりますww


 今回の事件が今後にどんなふうに影響するのかが期待です。

 大まかな構想は出来上がってますが、細かい肉付けに苦労している今日この頃です(汗)

 感想が一つ一つに書けないかもしれませんが、しっかり読めるときに読ませていただいてるので続きがんばってください。

 読んでいただけるだけで御の字です!!今後も、どうぞよしなに!!                

                     ―4―


 ・・・そこは、ガスタの村から数キロ離れた場所。
 そこに、広いミストバレー湿地帯の中でも特に『怨霊の湿地帯』と呼ばれる場所がある。他の地よりも泥濘が多く、厚く茂った木々のせいで昼間も薄暗い。視界が利かず、動きがとりにくい上、危険なモンスターが潜んでいる事も多い。
 この地を住まいとしているガスタの人々ですら、滅多な事では近づかない。そんな場所だった。
 しかし、今日に限ってはその場所で、酷く不似合いな声が響いていた。
 「あーもう、何なのよ!!今の嵐はー!!」
 響いていたのは女性の声。それも、歳若い少女の声である。
 「アタシの『猛毒の風(カンタレラ・ブリーズ)』がかき消されちゃったじゃない!!一体、どーなってんのよー!!」
 「エリアル、余り騒ぐな。姦しくて仕方ない。」
 それに被さるのは、若い男の声。
 「これが大人しくしてられるかっつーの!!人がどんだけ苦労して術式構築したと思ってんのよ!!」
 がなりたてる少女の声に、また一つ別の声が重なる。
 「ふむ・・・。『大嵐(ティターンズ・ブラスト)』か。はて、かの村で唯一の使い手も毒に侵されたと聞いておったが。他にも使える者がいたか?だとしたら、クポポ・・・大したものじゃ。」
 老いた老人の様なその声は、暗い水底でしゃべる様な濁りをもって響く。
 「何誉めてんのよ!!あームカつく!!ちょっと、ヴィジョン!!あんた、村まで行って誰が術を使ったのか調べてきなさい!!」
 名を呼ばれたらしい男の声が、驚いた様に答える。
 「は、はい?一体、どうしますので?」
 「決まってるじゃない!!そいつの事、八つ裂きにしてやんのよ!!」
 「ひぇ!?そ、そんな・・・」
 極めて物騒な言葉に、男の声が震える。いかにも気が弱そうだ。
 「何よ!!何か文句ある!?」
 「クポポポ、そう急くでない。」
 濁った声が、苛立つ少女の声を制する。
 「お主の術は、十分に役を果たしてくれた。後は、機を待つだけ・・・」
 「“機”って何よ!?」
 若い男の声が、代わって説明する。
 「今、奴らの村は悲しみと憤怒の中にある。そして、行き場のない悲しみと憤怒は、やがてお互いの猜疑へと変わる・・・。」
 「クポポ・・・その通り。この災厄の手引きをした者がおるのではないか?我の息子は死んだのに、何故隣の息子は生きているのか・・・とな。」
 「猜疑は亀裂となり、亀裂は割れ目となる・・・。」
 「・・・そうなれば、アイツらの結束は瓦解するってか?」
 「そう。その時こそ、好機・・・。」
 「我らはその時を待てばいい。ゆっくり、ゆっくりとな・・・。」
 クポポポポ・・・
 立ち込める闇の中に、濁った嘲笑が静かに響いて、消えた。


 ヒュウウウウウウウ・・・
 広い湿地帯を眼下に臨みながら、ウィンとエリアを乗せたタートル・バードはガスタの村を目指して空を駆けていた。
 「・・・見えるモンスターの数が増えてきたわね。」
 地上を見下ろしていたエリアが、そう呟く。
 「そうだね。毒は吹き飛ばしたけど、身体に染みた毒までは消せてない筈なのに。何でだろ?」
 同じ様に眼下を見ていたウィンが、首を捻る。
 それを聞いたエリアが、呆れた様に叫んだ。
 「はぁ!?アンタ、ひょっとして何の考えもなしに、あんな術使ったわけ!?」
 「え?あ、だってさ、カームさん達が風壁で毒を遮ってたでしょ?だから、もっと大きな風なら毒を全部吹き飛ばせるかなって・・・。」
 「アンタ、ホントに馬鹿ね!!」
 「ひゃんっ!!」
 怒鳴られ、首をすくめるウィン。
 「リリー先生の話聞いてなかったの!?あの毒は『猛毒の風(カンタレラ・ブリーズ)』!!ある一族が、風属性モンスターを殲滅するために作り出した秘術!!魔法なのよ!!ま・ほ・う!!」
 「そ・・・そう言えば、エーちゃんもさっきそんな事を・・・」
 ウィンの言葉に、エリアは頷く。
 「アンタが今さっき使った風の術、“破術”の効果があったでしょう?何度も言うけど、あの“毒”は“魔法”。あの風に文字通り、“消された”のよ。それは、あの風が身体を通った生き物も同じ。解毒されたのよ。みんな。」
 「それじゃあ!!」
 パッと顔を輝かせるウィン。
 その笑顔が言わんとする事を察しながらも、エリアは大げさに溜息をつく。
 「アンタのお父様とやらも大変ね。毒でぶっ倒れて、やっと起き上がってみたら待ってるのがこんな猪突猛進のお馬鹿娘だなんて。」
 「むう!!あたし猪じゃないし、馬鹿でもないもん!!」
 「はいはい。」
 むくれながらも、喜びに浮き立つウィン。だが、ふと何か思い当たった様に真顔に戻る。
 「・・・そう言えば・・・」
 緑の瞳が、エリアを見つめる。
 「・・・何よ?」
 「どうしてエーちゃん、そんな魔法知ってたの?それも、あんなに詳しく。先生からも習ってないし、ムスト様だって知らなかったのに・・・。」
 「・・・・・・。」
 「ねえ、何で?」
 それは、純粋な好奇の瞳。
 それを受けたエリアが、視線を逸らす。
 まるで、その純粋さが耐え難いと言わんばかりに。
 「村についたら話すわ。ゆっくりとね・・・。」
 「?」
 そんなエリアの態度に、ウィンは首を傾げるばかりだった。

 
 村に着いたウィンを待っていたのは、回復した村人達による賛美の嵐だった。
 ある者は涙を浮かべ、またある者はその顔に歓喜の笑みを溢れさせ、一族を救った小さな英雄を褒め称えた。
 『ちぇっ。何か、面白くないなぁ。』
 群集から一歩離れた所で、揉みくちゃにされるウィンを眺めていたエリア。その足元でギゴバイトがそう言って鼻を鳴らした。
 「何が?」
 エリアが問う。
 『だってさ、ウィンさんをあの毒の風の中空まで運んだのはエリアだし、例の術だってエリアが魔力を分けてあげたから成功したんじゃんか。なのに、皆ウィンさんばっかり・・・。』
 そうブツブツ言うギゴバイトの頭を、エリアは微笑みながら撫でる。
 「ありがと。でも、仕方ないわ。アタシはガスタここでは所詮、余所者だもの。」
 『エリアも、何か変だよ。いつもなら、「主役はアタシよ〜」って猛アピールする所じゃない!!何でそんなに大人しいのさ?今日に限って!!』
 そんなギゴバイトの言葉にも、エリアはどこか寂しげに微笑むだけ。
 『?』
 不審に思ったギゴバイトが、さらに言い募ろうとしたその時―
 ヒュンッ
 ガッ
 「痛っ!!」
 『エリア!?』
 突然飛んできた石が、エリアの肩に当たった。
 『おい!!何だよ!?誰だよ!?こんな事したヤツは!!』
 響き渡る、ギゴバイトの怒りの声。
 その剣幕に、浮かれ騒いでいた村人達がシンと静まる。
 『誰だって訊いてんだよ!!出て来い!!』
 肩を押さえて顔をしかめているエリアを庇いながら、ギゴバイトは怒鳴る。
 ―と、
 「そいつだ!!」
 響いてきたのは、少年の声。
 ざわめく村人達を押し分けて出てきたのは、その顔にまだ幼さを残す一人の少年。
 ギゴバイトはその顔に見覚えがあった。
 先刻、療養所の中でラズリーに『カムイ』と呼ばれていた少年である。
 そして、彼に続くように数人の村人がゾロゾロと進み出てくる。
 彼らは皆、一様に険しい視線をエリアに注ぐ。
 それは、怒りなどと言う生やさしいものではない。深い悲しみに彩られた、憎悪の視線。
 『な・・・何だよ!?一体!!』
 「そいつだ!!」
 うろたえるギゴバイトの声を遮る様に、エリアを指差し、カムイは叫ぶ。
 「オレ、見たんだ!!死霊の湿地帯の辺りで、“そいつ”が変な術を使っている所を!!あの毒の風が吹いてきたのは、そのすぐ後だった!!“そいつ”がやったんだ!!“そいつ”が、あの毒の風を流したんだ!!」
 ザワリ
 静まり返っていた村人達の間に、ざわめきが走る。
 『な・・・な・・・!?』
 「・・・・・・。」
 絶句するギゴバイト。
 エリアは押し黙ったまま、何も言わない。 
 「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
 慌てて飛び出したウィンが、エリアとカムイ達の間に割って入る。
 「エーちゃんは、今朝まであたしといっしょに魔法族の里の魔法学校にいたんだよ!?この事件を知ったのも、ザっくん・・・ザンボルトが教えてくれたからで・・・!!そんな事、出来るわけないよ!!」
 必死に弁解するウィン。しかし、カムイは引かない。
 「でも、オレは見たんだ!!間違いなく、“そいつ”だった!!」
 「待ってってば!!あたしの話を・・・」
 「そいつが殺したんだ!!」
 その叫びに、ウィンは思わず息を呑む。
 「そいつが・・・そいつが殺したんだ!!オレの・・・オレ達の家族を・・・!!」
 カムイの叫びはいつしか涙へと変わり、そして嗚咽へと変わる。
 「・・・返せよ・・・オレの・・・父さんと、母さんを・・・返して、くれよぉ・・・!!」
 そう言って、崩れ落ちるカムイ。そんな彼を労わる村人達を見て、ウィンはハッとした。
 カムイの後ろについていた村人達は、あの白い布に覆われた村人達が安置されていた部屋にいた者達。
 例え毒が消されても、もう戻ってくる事のない人々を親しき仲に持つ者達だった。
 誰も、何も言わなかった。
 否、言えなかった。
 静まり返った中に、カムイの泣き声だけが響く。
 ザワザワ・・・ザワザワ・・・
 泣き続けるカムイの周りで、村人たちがざわめき始めた。
 それまで周囲に満ちていた歓喜の空気は消え、代わりに異様な空気が満ち始める。
 それは、“猜疑”という名の、暗く、どこまでも暗く沈み込んでいく負の感情。
 その空気の変化に、ウィンとギゴバイトが息を呑んだ瞬間―
 カツンッ
 カムイの後ろにいた少女が投げた小石が、ウィンの足元で跳ねた。
 それが、張り詰めていた糸を切った。
 ヒュンッ
 ヒュンッ
 ヒュンッ
 カムイの後ろから、幾つもの小石がエリアに向かって投げ付けられる。
 しかし、それを止める者はいない。
 ただ、立ち尽くすエリアを見つめ、囁きあうだけ。
 「やめて!!やめてよ!!」
 『おい止めろ!!止めろってば!!』
 降り注ぐ石の中で、ウィンとギゴバイトは必死にエリアを庇う。
 「エーちゃん!!何とか言って!!このままじゃ、本当にエーちゃんが犯人にされちゃう!!」
 その身に石の雨を浴びながら、黙りこくっていたエリアに向かってウィンは言う。
 ―と、
 「ウィン・・・さっき、約束したわね・・・。」
 「・・・え・・・?」
 エリアの口から出た言葉に、ウィンは思わずポカンとする。
 「何であたしが、『猛毒の風(カンタレラ・ブリーズ)』に詳しいか、教えるって・・・」
 「い、今はそんな事言ってる場合じゃ・・・!!」
 「今だから言うのよ・・・。」
 「・・・え・・・?」
 訳が分からないと言った体のウィンを、エリアは手で退けて前に出る。飛んできた石が額に当たり、血が滲むがそれを気にする様子もない。そしてエリアは一度大きく息を吸い、そして話し始めた。
 「・・・その昔、とある事情で故郷を放逐された一族があった。彼らは流れ着いた僻地で、痩せた土地を耕して作物を作り、沼や川で漁をして何とか日々の糧を得ていたわ。だけど、その地には凶暴な『スピア・ドラゴン』の巣があったの。ドラゴン達は度々一族を襲い、その都度に沢山の犠牲者が出た・・・。一族の生活は、いつもドラゴンの襲来に怯えながらのものだったわ。でも、とうとう、その脅威に耐えかねてね、一族の力を結集して、一つの特殊魔法(オリジナル・スペル)を造った。」
 「エーちゃん・・・?」
 表情の消えた顔で言葉を紡ぐエリアに、戸惑うウィン。
 ざわめいていた村人達もいつしか押し黙り、エリアの言葉に耳を傾ける。
 「術の効果は絶大だったわ。ドラゴン達は見る見る衰弱して、次々と息絶えていった。でも、誤算はその後に起こったの・・・。」
 誰も、何も言わない。
 ただエリアの声だけが、淡々と流れる。
 「その“術”の効果は、ドラゴンだけに留まらなかった・・・。他の風属性を持つ動植物達にすらも影響を及ぼして、根絶やしにしてしまった。結果、土地の生態系は崩壊して、不毛の地へと変わってしまったわ。結局、その一族達も荒れ果てたその土地を捨てざるを得なくなってしまった。以来、一族は自戒の意味も込めてその術を“禁忌”にしたの・・・。」
 「エーちゃん・・・まさか・・・!?」
 何かを察したウィンの顔から、血の気が引いていく。
 それを見たエリアが、ゆっくりと頷く。
 しばしの間。
 そして―
 「そう・・・あたしの、あたしの一族が造ったのよ・・・!!あの、『猛毒の風(カンタレラ・ブリーズ)』を!!」
 縊られた喉から搾り出すような、けれどはっきりとした声で、エリアはそう言い放った。

 
 始めに訪れたのは、沈黙だった。
 その場にいる誰もが、エリアの言葉の意を直ぐには飲み込みかねていた。
 しかし、やがてそれは染みていく。
 ゆっくりと。
 しかし、確実に。
 染み込み、溜まり、逆流し、そして―
 「―――っ!!」
 弾けた。
 声にならない叫びを上げ、村人達がエリアに殺到する。
 その中には手に木の棒や石を持った者、携帯していた刃物を抜く者までもいた。
 そこにあるのは、あまりにも純粋で明確な害意。
 凶事の中、村人達の間に澱の様に溜まっていた猜疑や憤怒、憎悪の念は、唐突に穿たれた出口―エリアに向かって、一斉に吹き出そうとしていた。
 「エーちゃん!!逃げてー!!」
 ウィンの絶叫も、村人達の怒号に飲み込まれる。
 エリアは動かない。
 まるで、全ての責めを受けようとするかの様に、諦観した眼差しで迫り来る村人達を見つめる。
 『やめろー!!』
 その人々の奔流を防ごうと、ギゴバイトが飛び出す。
 しかし、猛る人々の猛威を遮るには彼はあまりにも非力だった。
 あえなく殴り倒され、蹴り飛ばされ、エリアの足元に転がる。
 「ギゴ!!」
 その様を見て、我に帰った様に叫ぶエリア。
 自身に群がる群集の中、気絶しているギゴバイトを抱き上げると守る様にその胸に掻き抱く。
 しかしその姿も、今の村人の目には激情を煽るものとしか映らない。
 無数の手が、その腕の中からギゴバイトをもぎ取ろうと蠢く。
 無数の爪が、その身を引き裂こうと白い肌に食い込む。
 髪を鷲掴みにされたエリアが、短く悲鳴を上げる。
 そこにはもはや、人が人として持つべき理性もなければ、人が人として守るべき道義もなかった。
 あるのはただただ、行き場所を求めて暴走する怒りと言う名の狂気だけ。
 一人の男の手が、エリアの襟を掴む。
 その手にあるのは、冷たく光る小刀。
 無骨な手がエリアの襟首を絞める様に捻り上げ、手の凶器を振り下ろす。
 ウィンが声にならない悲鳴を上げたその瞬間―
 バチィンッ
 小さな影が舞い、鋭い音と共に固い鎧に覆われた足がその男の手を打った。
 低い呻きを上げて、エリアを放す男。
 バチンッ
 バチンッ
 バチンッ
 立て続けに響く炸裂音。
 小さな影が躍る度、エリアに群がっていた者達が次々と弾き飛ばされていく。
 そして―
 バチィンッ
 一際高い音と共に最後の一人が弾き飛ばされ、エリアと村人達の間に空間が空く。
 次の瞬間―
 ゴバァアアアッ
 轟音とともに、激しくうねる水流がその空間に雪崩れ込む。
 水流はそのまま高い水壁となり、エリア達と村人達を隔てた。
 ギゴバイトを胸に抱いたまま、へたり込んだエリアは呆然とその水の壁を見つめる。
 「少しは、頭が冷えたか?」
 そんな声とともに響く、ガシャリという重たい足音。
 歩み寄って来るのは、ジェムナイト・サフィア。その横に、小さな影―ラズリーがふわりと舞い降りる。
 「何でそいつをかばうんだ!?」
 「ジェムはガスタ(俺達)の味方じゃなかったのか!?」
 「お願い、仇を!!あの人の仇を!!」
 「勘違い召されるな!!」
 水壁の向こうから飛んでくる声を、サフィアは厳しい声で一喝する。
 「ジェム我らが従うは、誠の正義のみ!!そこにいかな理由があれど、道義に外れし暴威を許す道理はない!!」
 しかし、水壁の向こうから聞こえてくる怒りの声はまるで収まる様子を見せない。
 「やれやれ、しばらく放っておくしかないようだな。」
 手に負えないと言った態で、サフィアは首を振る。
 「大丈夫ですか?」
 ラズリーが、座り込んでいたエリアを労わりながら、彼女と気絶してるギゴバイトの傷に薬をすり込んでいく。
 「・・・あんた達は疑わないわけ?あたしの事・・・。」
 自嘲気味に問うエリアに向かって、ラズリーは首を振る。
 「貴女が悪しき者でない事は、もう見切っています。ジェム(わたし達)は、正しき事を決して見誤りません。」
 キッパリとそう言うラズリーに、エリアは苦笑する。
 「エーちゃん!!」
 走り寄ってきたウィンが、エリアに抱きつこうとする。
 しかし―
 「来るな!!」
 突然響いたエリアの叫びが、それを制した。
 ビクリと動きを止めるウィン。 
 「エーちゃん・・・?」
 「あんた、また話聞いてなかったの?」
 エリアはそう言って、戸惑うウィンを見上げる。
 光の失せた瞳。それがウィンの足をすくませた。
 「いい?『猛毒の風(カンタレラ・ブリーズ)』はあたしの一族が造ったの。あたしの一族だけが使えるの。つまりあんたの村を、お父様を、家族をこんな目に合わせたのは、あたしの仲間・・・。」
 一語一語、言い聞かせる様にエリアは言う。
 「そ、それは・・・。」
 「分かるわね?アタシはガスタ(あんた達)の敵の仲間。敵の仲間は敵・・・。近寄らないで・・・。」
 「・・・何で・・・何でそんな事言うの・・・!?」
 エリアの態度に呆然とするウィン。その瞳から、ポロポロと涙が溢れる。
 「エーちゃんは、あたしに力を貸してくれたじゃない!!あたしの村を、助けてくれたじゃない・・・!!」
 行き場を失った手を、ギュウっと握りこむ。痛く、爪が食い込む程に、握りこむ。
 「関係ない・・・。関係ないよ・・・!!何処の誰かも知らない奴がやった事なんて、関係ない!!エーちゃんは助けてくれた・・・!!あたし達を助けてくれた・・・!!確かなのはそれだけ・・・。それだけで十分なのに・・・!!」
 「・・・それでも、アタシはアンタの敵よ・・・。」
 涙をこぼすウィンから目を逸らしながら、エリアは立ち上がる。
 「・・・手当て、ありがとう・・・。」
 オロオロしているラズリーにそう言うと、エリアはまだ気絶しているギゴバイトを抱き上げて踵を返す。
 「あ・・・あの、どちらへ・・・?」
 ラズリーの問いに、エリアは振り向きもせずに答える。
 「村を出るのよ。こんな所にいたら、どんな目に会わせられるか分かったもんじゃないからね・・・。」
 そして、その足を村の出口へと向ける。それに、慌てて追いすがるウィン。
 「待って!!それならあたしも・・・」
 「しつこい!!」
 再び飛んできた声が、ウィンの足を止める。
 「何度も言わせないで!!あたしはあんたの敵!!ついてくるな!!」
 「エーちゃん・・・」
 ペタリと座り込み、顔を両手で覆うウィン。その姿に振り向く事もせず、エリアは村の出口へと向かう。しかし―
 「・・・ウィン嬢のためか?」
 不意にかけられた声に、その足が止まる。
 顔を上げれば、そこには成り行きを見守っていたサフィアの姿。
 「今、ガスタの方々は冷静な思考を欠いておられる。そんな中で、ウィン嬢が貴女をかばえば、猜疑の目は彼女にまで及ぶ。故に、心にもない事を言って突き放した。違うか?」
 「・・・・・・。」
 その問いに、答えはない。しかし、それを見越していたかの様にサフィアは続ける。
 「貴女は、今回の凶事の裏で糸を引いた者がいる事を知っていたのだな?」
 その言葉に、エリアの肩がピクリと揺れた。
 「それ故、自身に疑いが向けられた時、あえてそれを一身に引き寄せたのだ。村人同士の間に猜疑が生まれ、結束に軋轢が生まれる事を防ぐためにな。」
 しかし、そんな指摘にエリアはつまらなそうに答える。
 「・・・あんまり買い被らないでくれる?そんな小知恵、回らないわよ。アタシは、アウスじゃない・・・。」
 「アウス?はて、どなたかな?」
 「ウィンあの馬鹿の仲間よ。あんたみたいに慇懃だけど、その実知恵が回って腹の中は真っ黒。アイツを敵に回すなら、暗黒界の悪魔達を相手にする方が何ぼかましって代物。」
 その言い様に、目を丸くするサフィア。
 「・・・何とも、大した御仁の様だな・・・。」
 「縁があったら会えるかもね?“あれ”なら一周して、逆にアンタみたいのと気が合うかも。」
 そう言ってクスリと笑うと、エリアはまた歩を進め始める。
 「・・・どうしても、行かれるのか?」
 「言ったでしょう?村ここにいちゃあ、どんな目に会わせられるか分からないのよ。」
 繰り返されるその言葉。しかし、サフィアはその裏に別の意を見て取る。
 故に、彼はあえて言を重ねた。
 「一つ、苦言を呈したい。」
 「しつこいわね。何よ?」
 今度は立ち止まらず、エリアは声だけを返す。
 「貴女の心と覚悟には敬意を表する。しかし、その自己犠牲の精神だけはいただけない。」
 「・・・え?」
 当惑するエリア。結局、その足は再び止まる。
 「一族の咎は己の咎。そう思われたか?だが、それは違う。」
 静かな声で、諭す様にサフィアは語る。
 「咎とは個人自身が負うべきもの。その血を引くとは言え、他の者までが負うべき道理はない。」
 淡々と紡がれるその声が、届いているのかいないのか。エリアは何も言わず立ち尽くす。
 「今の貴女には、一族の枷以上に守るべきものがあるであろう?そして、それは決して一方向だけに向けられるものではない。」
 そう言ってチラリと見やるのは、背後の光景。
 そこには、地に崩れて涙をこぼすウィンと、彼女を慰めるラズリーの姿。
 「自身を労われよ。己が為ではなく、己を想う者達の為に。其を介さぬ自己犠牲など、所詮態の良い自己満足に過ぎぬ事を、貴女は理解しておくべきだ。」
 「・・・・・・。」
 それを黙って聞いていたエリアの肩が、小刻みに震え出す。
 まるで、込み上げてくる何かをこらえる様に。
 「・・・何よ。結構痛い事言うじゃない・・・。ますます、アウスあいつみたいだわ・・・。」
 声の震えを押さえながら、背を向けたままサフィアに言う。
 その頬に一瞬、光るものが見えたが、サフィアはあえて気付かないふりをした。
 「・・・分かった。“一応”、心がけとく。でも・・・」
 エリアはグイッと顔を拭うと、クルリとサフィアに向かって向き直る。
 振り向いたその顔は、いつも通りの不敵な表情を湛えていた。
 「その代わり、あたしの頼みも一つ聞いてくんない?」
 「ふむ?」
 その言葉に首を傾げながらも、サフィアは迷う事なく答える。
 「如何様でも。」
 それを聞いたエリアは、突然サフィアに向かって頭を下げた。
 「“ウィンあの馬鹿”と“この村”、絶対に守って・・・!!」
 伝える願いの強さを示す様に、深く、深く下げられる頭。
 いつもの彼女から見れば、余りにも不似合いな姿。
 サフィアは微笑むと、腰を屈め、その肩に手を置いた。
 「・・・承った。」
 その答えにエリアは顔を上げると、サフィアの顔を正面から見つめる。
 蒼く澄んだ瞳の輝き。サフィアはそれを、自分の守護石の様だと思った。
 「約束よ・・・!!もし、破ったりしたら、承知しないからね・・・!!」
 蒼い瞳でじっと己を見据えるエリアに対して、サフィアははっきりと言い放つ。
 「ジェムは約定を違えない。貴女の友とこの村は、我が誇りと守護石の輝きにかけて、必ずや護ろう。」
 それを聞いたエリアは、ようやく安心した様にホッと息をつく。
 「お願い・・・。」
 最後に呟く様にそう言うと、エリアは踵を返し、再び歩み始める。
 水壁の向こうからは、相変わらず村人達の怒声が聞こえている。
 ウィンは地に崩れ落ちたまま、肩を震わせている。
 ラズリーとプチリュウは、そんな彼女のそばから離れられない。
 その意を察したサフィアは、もう何も言わない。
 ギゴバイトは、彼女の腕の中で気を失ったまま。
 ―止める者は誰もいない。
 憎悪、悲嘆、哀憐、畏敬・・・。
 その背に、数多の想いを負いながらエリアは歩く。
 一歩、また一歩と遠ざかるその姿。
 そして、エリアの姿はガスタの村から消えていった。

                                     

                                   続く
タグ:霊使い
この記事へのコメント
コメントを書く

お名前: 必須項目

メールアドレス:


ホームページアドレス:

コメント: 必須項目

この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/1405855

この記事へのトラックバック
プロフィール
土斑猫(まだらねこ)さんの画像
土斑猫(まだらねこ)
プロフィール
<< 2024年10月 >>
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
カテゴリーアーカイブ
狙いはハジメ 古より響く闇の嘶き(学校の怪談・完結(作・ナオシーさん)(11)
説明(2)
ペット(401)
雑談(254)
テーマ(8)
番外記事(105)
連絡(50)
水仙月(半分の月がのぼる空・完結)(9)
輪舞(半分の月がのぼる空・完結)(5)
不如帰(半分の月がのぼる空・完結)(2)
郭公(半分の月がのぼる空・完結)(3)
ハッピー・バースディ(半分の月がのぼる空・完結)(3)
ハッピー・クッキング(半分の月がのぼる空・完結)(3)
子守唄(半分の月がのぼる空・完結)(4)
蛍煌(半分の月がのぼる空・完結)(9)
真夏の夜の悪夢(半分の月がのぼる空・完結)(3)
想占(半分の月がのぼる空・完結)(13)
霊使い達の宿題シリーズ(霊使い・完結)(48)
皐月雨(半分の月がのぼる空・その他・連載中)(17)
霊使い達の黄昏(霊使い・完結)(41)
霊使い・外伝シリーズ(霊使い・連載中)(14)
十三月の翼(天使のしっぽ・完結)(60)
霊使い達の旅路(霊使い・連載中)(9)
十三月の翼・外伝(天使のしっぽ・完結)(10)
虫歯奇譚・歯痛殿下(学校の怪談・完結)(3)
十二の天使と十二の悪魔 (天使のしっぽ・連載中)(1)
死を招く遊戯・黄昏のカードマスター(学校の怪談・完結)(5)
絆を紡ぐ想い・澎侯の霊樹とマヨイガの森(学校の怪談・完結)(13)
無限憎歌(学校の怪談・完結)(12)
レオ受難!!・鎮守の社のおとろし(学校の怪談・完結)(11)
漫画(13)
想い歌(半分の月がのぼる空・完結)(20)
コメントレス(7)
電子書籍(2)
R-18ss(3)
トニカク……!(1)
残暑(半分の月がのぼる空・連載中)(5)
Skeb依頼品(3)
最新記事
最新コメント
検索
ファン
リンク集
EI_vI91XS2skldb1437988459_1437989639.png
バナーなぞ作ってみました。ご自由にお使いください。
月別アーカイブ