新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
2019年02月19日
米400,000人以上のデータベースを元に、電子タバコも、血管にはよくない。脳卒中、心筋梗塞、狭心症の危険性が高い!
電子たばこは脳卒中のリスク増加と関連する
Univadis Medical News 2019.01
電子たばこと脳卒中のリスクの関連性を調べた過去最大の研究の結果。
来週開催される米国脳卒中協会2019年国際脳卒中会議で発表される予定の予備研究によると、電子たばこの使用は脳卒中のリスクを有意に増加させる可能性がある。
この種のものとしては過去最大の研究において、研究者らは米国に住む400000人以上のデータベースである2016年行動危険因子サーベイランスシステム調査のデータを調べた。
合計66795人の回答者が電子たばこを定期的に使用したことがあると報告した。
電子たばこを全く使用したことがないと回答した回答者343856人を対照群とした。
未使用者と比べて電子たばこの使用者は年齢が若く、ボディ・マス・インデックスが低く、糖尿病の割合が低かった。
電子たばこの使用者は調整後の脳卒中確率が有意に高いことが判明した(オッズ比 [OR] 1.71)。
電子たばこの使用は心筋梗塞(OR 1.59)、狭心症または冠動脈性心疾患(OR 1.4)のリスク増加とも関連することが分かった。
電子たばこ使用者の約4.2%が脳卒中の罹患を報告した。
しかし、電子たばこ使用を原因とする死亡は研究データでは示されなかった。
米国脳卒中協会2019年国際脳卒中会議は2月6日〜2月8日にハワイで開催される。
2019年02月18日
緑内障は、成人になって失明にいたる一番頻度の高い怖い病気です
緑内障は、成人になって失明にいたる一番頻度の高い怖い病気です。
『正常眼圧緑内障、未治療のままだと5年で進行』
厚生労働省研究班の調査によると、
我が国における失明原因の第1位を占め、最近、日本緑内障学会で行った大規模な調査(多治見スタディ)によると、40歳以上の日本人における緑内障有病率は、『5%』、20人に1人が緑内障でした。
しかも発見された緑内障の患者さんのうち、それまで緑内障と診断されていたのは、全体の1割に過ぎませんでした。
9割は症状がないか、緑内障の症状として気づいていない!
眼科を受診されたことがある方なら、空気を目の表面に吹き当てて、「眼圧12mmHgで、正常ですね」と言われたことが、あると思います。
21mmHgを越えると眼圧が高いと、『緑内障』と診断されますが、
緑内障の中でも、眼圧が高くならない、目に痛みが発生しない、正常眼圧緑内障が50%存在します。
一番見えている部分は最後に見えなくなりますが、その周囲からボヤーとして見えづらくなっているのですが、気づかないことが多いようです。
光彩と水晶体の間で作られる房水は眼球のなかを充し、眼球を球状に保つために必要です。
この房水が増えすぎて、視神経がずっと圧迫されていることで、視神経が傷ついてしまいます。
症状としては、視野の欠損(見えない、ピントが合わないところが出てくる)ですが、視野の中心ではなく、その周りの下半分とか上半分とか右半分とかが徐々に見えなくなってきているので、気づいた時には、
知らない間に、はっけりと見えなくなっていて、変性して(死んで)しまった視神経は蘇りません!
発症してからの治療は、それ以上、視力障害、視野欠損を進行させない治療になります。
30歳前後からは、目の検診をお勧めします。
2016年の統計では
1 『緑内障(28.6%!!)』
2 網膜色素変性症(14.0%)
3 糖尿病網膜症(12.8%)
4 黄斑変性(8.0%)
5 網脈絡膜萎縮(4.9%)
この調査は成人の中途失明患者さんの割合を示したもので、患者数の増減は触れていませんが、平均寿命が長くなるにつれて患者総数は増えていると考えられます。
最近の緑内障の診断と治療の進歩は目覚しく、以前のような「緑内障=失明」という概念は古くなりつつありますが、現代医学を駆使しても失明から救えないきわめて難治性の緑内障が存在します。
早期発見・早期治療が失明を減らす!
正常眼圧緑内障、未治療のままだと5年で進行
提供元:ケアネット 公開日:2019/02/05
東京大学の坂田 礼氏らは、
緑内障の進行において、
乳頭出血(DH)の罹患または既往、
長期の眼圧(IOP)変動、および
垂直陥凹乳頭径比(v-C/D)の上昇
が関連していたことを明らかにした。
Ophthalmology誌オンライン版2018年12月31日号掲載の報告。
研究グループは、正常眼圧緑内障(NGT)の自然進行の特徴と進行に関与する危険因子を特定する目的で、未治療の日本人NGT患者に対して『5年間の前向きコホート研究』を行った。
対象患者は、ベースライン時点で未治療、IOPが15mmHg以下のNTG患者であった。視野(VF)検査を3ヵ月ごと、視神経乳頭/乳頭周囲網膜の写真撮影を6ヵ月ごとに行い、未治療のまま追跡調査した。
主要評価項目は、VFおよび視神経乳頭/乳頭周囲網膜の悪化とし、ハンフリー自動視野検査のSITA(Swedish Interactive Thresholding Algorithm)プログラム24-2を用いて、3人の研究者が独立して判定した。また、病態進行の評価には生命表解析を用い、Cox比例ハザードモデルにて緑内障の進行におけるリスク因子を解析した。
主な結果は以下のとおり。
・本試験には、90例が登録された(平均年齢:53.9歳、ベースライン時のIOP:12.3mmHg、平均偏差[MD]:−2.8dB)。
・MD slopeの平均値は−0.33dB/年(中央値:−0.23、95%信頼区間[CI]:−0.44〜−0.22)。
・緑内障の5年進行率は、
VFまたは視神経乳頭/乳頭周囲網膜の悪化(基準1)が66%(95%CI:55〜78)、
VFの悪化(基準2)が52%(95%CI:37〜60)、
視神経乳頭/乳頭周囲網膜の悪化(基準3)が50%(95%CI:38〜71)であった。
・DHの罹患または既往(p<0.001)、
長期のIOP変動(p=0.020)、
およびv-C/Dの上昇(p=0.018)は、基準1における有意な予測因子であった。
・長期のIOP変動(p=0.011)、およびv-C/Dの上昇(p=0.036)は、基準2における有意な予測因子であった。
・DHの罹患または既往(p=0.0018)、および長期のIOP変動(p=0.022)は、基準3における有意な予測因子であった。 (ケアネット)
原著論文はこちら
Sakata R, et al. Ophthalmology. 2018 Dec 31. [Epub ahead of print]
『正常眼圧緑内障、未治療のままだと5年で進行』
厚生労働省研究班の調査によると、
我が国における失明原因の第1位を占め、最近、日本緑内障学会で行った大規模な調査(多治見スタディ)によると、40歳以上の日本人における緑内障有病率は、『5%』、20人に1人が緑内障でした。
しかも発見された緑内障の患者さんのうち、それまで緑内障と診断されていたのは、全体の1割に過ぎませんでした。
9割は症状がないか、緑内障の症状として気づいていない!
眼科を受診されたことがある方なら、空気を目の表面に吹き当てて、「眼圧12mmHgで、正常ですね」と言われたことが、あると思います。
21mmHgを越えると眼圧が高いと、『緑内障』と診断されますが、
緑内障の中でも、眼圧が高くならない、目に痛みが発生しない、正常眼圧緑内障が50%存在します。
一番見えている部分は最後に見えなくなりますが、その周囲からボヤーとして見えづらくなっているのですが、気づかないことが多いようです。
光彩と水晶体の間で作られる房水は眼球のなかを充し、眼球を球状に保つために必要です。
この房水が増えすぎて、視神経がずっと圧迫されていることで、視神経が傷ついてしまいます。
症状としては、視野の欠損(見えない、ピントが合わないところが出てくる)ですが、視野の中心ではなく、その周りの下半分とか上半分とか右半分とかが徐々に見えなくなってきているので、気づいた時には、
知らない間に、はっけりと見えなくなっていて、変性して(死んで)しまった視神経は蘇りません!
発症してからの治療は、それ以上、視力障害、視野欠損を進行させない治療になります。
30歳前後からは、目の検診をお勧めします。
2016年の統計では
1 『緑内障(28.6%!!)』
2 網膜色素変性症(14.0%)
3 糖尿病網膜症(12.8%)
4 黄斑変性(8.0%)
5 網脈絡膜萎縮(4.9%)
この調査は成人の中途失明患者さんの割合を示したもので、患者数の増減は触れていませんが、平均寿命が長くなるにつれて患者総数は増えていると考えられます。
最近の緑内障の診断と治療の進歩は目覚しく、以前のような「緑内障=失明」という概念は古くなりつつありますが、現代医学を駆使しても失明から救えないきわめて難治性の緑内障が存在します。
早期発見・早期治療が失明を減らす!
正常眼圧緑内障、未治療のままだと5年で進行
提供元:ケアネット 公開日:2019/02/05
東京大学の坂田 礼氏らは、
緑内障の進行において、
乳頭出血(DH)の罹患または既往、
長期の眼圧(IOP)変動、および
垂直陥凹乳頭径比(v-C/D)の上昇
が関連していたことを明らかにした。
Ophthalmology誌オンライン版2018年12月31日号掲載の報告。
研究グループは、正常眼圧緑内障(NGT)の自然進行の特徴と進行に関与する危険因子を特定する目的で、未治療の日本人NGT患者に対して『5年間の前向きコホート研究』を行った。
対象患者は、ベースライン時点で未治療、IOPが15mmHg以下のNTG患者であった。視野(VF)検査を3ヵ月ごと、視神経乳頭/乳頭周囲網膜の写真撮影を6ヵ月ごとに行い、未治療のまま追跡調査した。
主要評価項目は、VFおよび視神経乳頭/乳頭周囲網膜の悪化とし、ハンフリー自動視野検査のSITA(Swedish Interactive Thresholding Algorithm)プログラム24-2を用いて、3人の研究者が独立して判定した。また、病態進行の評価には生命表解析を用い、Cox比例ハザードモデルにて緑内障の進行におけるリスク因子を解析した。
主な結果は以下のとおり。
・本試験には、90例が登録された(平均年齢:53.9歳、ベースライン時のIOP:12.3mmHg、平均偏差[MD]:−2.8dB)。
・MD slopeの平均値は−0.33dB/年(中央値:−0.23、95%信頼区間[CI]:−0.44〜−0.22)。
・緑内障の5年進行率は、
VFまたは視神経乳頭/乳頭周囲網膜の悪化(基準1)が66%(95%CI:55〜78)、
VFの悪化(基準2)が52%(95%CI:37〜60)、
視神経乳頭/乳頭周囲網膜の悪化(基準3)が50%(95%CI:38〜71)であった。
・DHの罹患または既往(p<0.001)、
長期のIOP変動(p=0.020)、
およびv-C/Dの上昇(p=0.018)は、基準1における有意な予測因子であった。
・長期のIOP変動(p=0.011)、およびv-C/Dの上昇(p=0.036)は、基準2における有意な予測因子であった。
・DHの罹患または既往(p=0.0018)、および長期のIOP変動(p=0.022)は、基準3における有意な予測因子であった。 (ケアネット)
原著論文はこちら
Sakata R, et al. Ophthalmology. 2018 Dec 31. [Epub ahead of print]
2019年02月15日
確かにタミフル(オセルタミビル)が出てくるまで、薬がなくても困らなかった疾患だった。
確かにタミフル(オセルタミビル)が出てくるまで、薬がなくても困らなかった疾患だった。
高リスク患者(高齢者や2-5歳未満の小児、慢性疾患患者や免疫不全者、妊娠女性など)以外は、解熱薬で熱を下げて、栄養を摂って、寝ていれば治ったよね。
臨床ニュース
ゾフルーザ不採用の亀田、インフルエンザ治療のそもそも論【時流◆抗インフル薬2018-19】
亀田総合病院感染症科部長・細川直登氏に聞く
m3.com編集部2019年1月28日 (月)配信 一般内科疾患小児科疾患一般外科疾患感染症投薬に関わる問題
バロキサビルマルボキシル(商品名ゾフルーザ)の本格登場が話題の本インフルエンザシーズンにおいて、シーズン入り直前の2018年11月に「ゾフルーザ採用見送り」というタイトルのブログ記事を掲載し、全国の医療関係者の耳目を集めた亀田総合病院(千葉県鴨川市)。
流行真っ只中の今、“宣言”に込めた真意を、同院感染症科部長の細川直登氏に尋ねた。(取材・まとめ:m3.com編集部・軸丸靖子)
「その新薬でなければならない理由があったのか」
――貴院感染症科のブログに「ゾフルーザ採用見送り」というタイトルの記事が公開されたのが2018年11月。その1カ月後には、理由を解説された記事を追加掲載されました。それだけ反響があったのでしょうか?
反響はかなりありましたね。Twitterで「亀田の英断」などというツイートもあったという話ですが(笑)、そんな思い切ったことをしたつもりは僕らにはないのです。
われわれは元々、ゾフルーザは「今すぐに使うべき薬ではない」と認識していました。
こうした基幹病院では地域の医療機関から問い合わせを受けることも多いので、当科Facebook担当の黒田浩一医師が記事にしてアップしてくれたのです。
新薬は大抵、登場当初はすごく評価が高いものですが、数年たつと評価が変わることがままあります。
新薬の承認に向けた臨床試験では、対象が限定的な上、医師の監視下で投与されますから、効果は過大評価されがちです。逆に、副作用のように「確率は低いけれど大きな問題」は見えにくくなり、大抵は市販後に分かります 。
その薬以外に方法はなく、患者さんにもよく説明して承諾が得られていれば、市販後調査の結果評価が変わってもよい。しかし、抗インフルエンザウイルス薬はそういうタイプの薬ではない、というのがわれわれの考え方です。
無論、誰かが試みなければ知見は得られないのですから、新薬の使用を批判する気は毛頭ありません。しかし、新薬を投与した患者さんに副作用が出た場合、その医師はやはり「その薬でなければならない理由があったのか」を問われます。これは新薬の使用を決める際の、重要なポイントになります。
医師は新しいものが好き、患者も好き?
医師は皆、医学を学んできている科学者です。科学は「something new」がなければ駄目な世界なので、新発見に高い価値が置かれ、「新しいもの=良いもの」となりがちです。ですが、新しくてもよくよく吟味すると良くない点が見えてくることがあります。このときに重要なファクターになるのが、「何のためのものか」ということです。
例えば、あなたの担当医に「これはまだ誰も試したことのない、世界初の新薬です。あなたの病気に効くかもしれないから、ちょっと試してみましょうか」と言われたとします。その病気が感冒だったら、試しますか?
――いいえ、感冒ですから。
その感冒に対して、「医療レベルの高い国であればどこでも使われていて、これが今一番良いとされている治療法があります。一番治る確率が高い方法ですが、これはどうですか」と言われたらどうしますか?
さらに、あなたの病気は感冒ではなく末期癌で、明日には死ぬかもしれない状態だとして、「この新薬だったら一発逆転できるかもしれない。世界でまだ誰も試したことのない新薬だし、だめなら死んでしまうけれど、うまくいけば生き続けられる可能性は3割くらいあるかもしれません」と言われたらどうしますか?
――明日死ぬかもしれないなら、賭けてみます。
そういうことです。インフルエンザは明日死んでしまう病気ではない。毎年ほぼ必ず流行る、自然現象のような感染症です。大抵は薬を使わなくても治りますし、インフルエンザによって人類が滅亡の危機に瀕したこともありません。スペイン風邪の時には世界で何千万人もが死亡しましたが、医療環境が異なる現代でそれを懸念する必要はありません。
そもそも、インフルエンザはオセルタミビル(商品名タミフル)が登場するまでは薬がなくても困らなかった疾患です。高リスク患者(高齢者や2-5歳未満の小児、慢性疾患患者や免疫不全者、妊娠女性など)以外は、解熱薬で熱を下げて、栄養を摂って、寝ていてもらえるのが多分一番良い。
だから、われわれは市販後に分かってくる知見を待って、使うかどうかを決めるというスタンスなのです。他の先生方に影響を与えようというものではありません。 どの薬を使うかは、あくまでもそれぞれの施設で、プロである医師が判断すべきものと思っています。
健常成人へのタミフルは効果わずか
ゾフルーザの評価をするには、現状の抗インフルエンザウイルス薬の評価がどうなっているかを押さえなければなりません。
タミフルやザナミビル(商品名リレンザ)といったノイラミニダーゼ阻害薬については、2014年にコクラン共同計画によるシステマティックレビューの結果が公表されています(Cochrane Database Syst Rev 2014; (4): CD008965)。
製造販売元からデータ提供を得るなどして、107件の臨床試験データを再分析した結果、健常な成人インフルエンザ患者では、ノイラミニダーゼ阻害薬を投与すると有症状期間が約1日短縮することが分かりました(タミフルは7日間から6.3日間、リレンザは6.6日間から6.0日間に短縮)。
タミフルによる入院や合併症の減少効果は認められず、肺炎については、肺炎の定義が各臨床試験によってバラバラで、評価ができる状態ではないことが分かりました。リレンザでは入院についてのデータがありませんでした。
各国で国家備蓄されるタミフルをもってしても、ささやかな治療効果しか得られないというこの結果から、コクランのレビューアーらは、タミフルの国家備蓄を中止するよう英国政府に進言しています。世界保健機関(WHO)も必須医薬品のリストからタミフルを外し、「補足的な薬」に格下げしました。
一方で、インフルエンザの合併症高リスク患者については、タミフルは死亡リスクや入院リスクを減少させることが確認されています(Ann Intern Med 2012;156:512-524)。われわれも、高リスク患者や妊娠女性においては、発症48時間以内を基本に抗ウイルス薬を投与していますし、症例によっては48時間を超えても投与を検討することがあります。
日本で昨シーズン最も多く使われたラニナミビル(イナビル)については、成人でタミフルへの非劣性が確認されていますが、海外12カ国で行われた第II相試験では、プラセボに比較した有効性が示せませんでした。既存薬に非劣性だからといって、プラセボに優るとは限らないのです。
気になるゾフルーザの耐性問題
ゾフルーザについては、CAPSTONE-1の結果が論文になっています(N Engl J Med 2018; 379: 913-923)。重症化や合併症のリスクを持たない12-64歳のインフルエンザ患者を対象とした第II、III相臨床試験で、インフルエンザの有症状期間がプラセボに対して26.5時間有意に短縮し、タミフルに対しては非劣性を示したという結果でした。
この試験で注目されたのは、ゾフルーザによるウイルス排出期間の短縮効果です。ゾフルーザ投与群では、タミフルやプラセボより早くウイルスの排泄が減りました。この知見からは、「ゾフルーザを服用した患者では、学校や会社を休む期間が短く済むのではないか」という解釈をされることがあるかもしれません。
ここで問題になるのが、ゾフルーザの大きな懸念点――耐性です。ゾフルーザでは、ゾフルーザ低感受性に関与する遺伝子変異が出やすいことが分かっています。これは、投与した薬が途中で効かなくなる場合があることを意味します。
ゾフルーザのインタビューフォームによると、同薬の半減期は約4日間(95.8±18.2時間)と非常に長い。だからこそ単回投与でも体の中に薬がとどまることできるのですが、その間にウイルスが変異してしまうかもしれない。最初はウイルスの増殖が止まっても、途中で薬の効かないウイルスに変異して、消えずにとどまる可能性があるということです。
そうすると、変異したウイルスの排出期間はむしろ長くなります。一度減ったウイルスが、薬の効かないウイルスになってリバウンドする可能性もあります。実際、ゾフルーザ投与から3日目以降に、一過性のウイルス価の上昇が見られたケースが観察されています。ただし、変異したウイルスがどのくらい増えるか、流行しやすいのかは不明です。
ゾフルーザに期待する効果
ゾフルーザはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性選択的阻害薬という、全く新しい作用機序の薬なので、タミフルが効かなかったウイルスに効果を発揮する可能性があります。
また、まだ論文になっていませんが、高リスク者を対象に行われたCAPSTONE-2(2018年10月に米国感染症学会で発表)では、ゾフルーザ投与患者で二次性肺炎に対する抗菌薬使用やインフルエンザ関連合併症が有意に減ったということでした。今後、インフルエンザによる死亡を減らす可能性があるかもしれない。これらの部分で、私はゾフルーザに期待を持っています。
ゾフルーザがその効果を発揮するためには、今は耐性ウイルスを増やさないことが重要です。ですからわれわれは、今は使わないと決めました。使わなければ明日にも患者さんが死んでしまう薬ではないのですから、慌てる必要は何もないのです。
「1回だけ飲めば良い」は評価の本分ではない
――ゾフルーザは薬価が高いことも議論されています。
ゾフルーザの薬価は1回4789円、体重80kg以上の患者さんだと2倍の約9500円です。タミフルのジェネリックならば1治療当たり5日間の薬代は1360円ですから、3.5倍以上の差になります。
インフルエンザは、1シーズンで何百万人、多ければ1000万人単位で罹患者が出る感染症です。ゾフルーザとタミフル(ジェネリック)の差額に投与患者数をかけた額が、わが国の医療保険財政の新たな負荷になります。われわれ臨床医は、「それだけのお金をかけて余りある効果が得られるのか」を、冷静に考える必要があります。
――ゾフルーザの単回経口投与という特色は、選択の理由になりますか? 重症化リスクの高い高齢者では、吸入タイプの抗ウイルス薬よりアドヒアランスが良いと考えられます。
それは本末転倒ですね。薬剤なのですから、評価の本分は治療効果と副作用であるべきで、それに比べれば服用方法は大きな論点ではありません。効果について考察せずに、「1回服用だから良い」という部分だけをフィーチャーするのはおかしい。
ゾフルーザの服用方法が特色だと思うのは、「既存薬と効果も副作用も同じで、大して悪いことは起こらないだろう」という前提があるからでしょう。患者さんがそれを言うなら分かりますが、医師がその前提を無批判に受け入れてしまってはいけないと思います。
――患者さんに「新薬を試したい」と言われたら、どうしますか?
経験上そうはなりません。患者さんの希望は当然聞くけれど、全て希望通りにすることが良い医療ではありません。患者さんには冷静な選択をするための情報提供を十分にしなければなりませんが、インフルエンザ診療のように時間の制約がある場合は、専門家が薬のベネフィットとリスクを適切に評価し、方針をある程度決めて患者さんに提案するのが、医師としてのプロの仕事だと私は思います 。
高リスク患者(高齢者や2-5歳未満の小児、慢性疾患患者や免疫不全者、妊娠女性など)以外は、解熱薬で熱を下げて、栄養を摂って、寝ていれば治ったよね。
臨床ニュース
ゾフルーザ不採用の亀田、インフルエンザ治療のそもそも論【時流◆抗インフル薬2018-19】
亀田総合病院感染症科部長・細川直登氏に聞く
m3.com編集部2019年1月28日 (月)配信 一般内科疾患小児科疾患一般外科疾患感染症投薬に関わる問題
バロキサビルマルボキシル(商品名ゾフルーザ)の本格登場が話題の本インフルエンザシーズンにおいて、シーズン入り直前の2018年11月に「ゾフルーザ採用見送り」というタイトルのブログ記事を掲載し、全国の医療関係者の耳目を集めた亀田総合病院(千葉県鴨川市)。
流行真っ只中の今、“宣言”に込めた真意を、同院感染症科部長の細川直登氏に尋ねた。(取材・まとめ:m3.com編集部・軸丸靖子)
「その新薬でなければならない理由があったのか」
――貴院感染症科のブログに「ゾフルーザ採用見送り」というタイトルの記事が公開されたのが2018年11月。その1カ月後には、理由を解説された記事を追加掲載されました。それだけ反響があったのでしょうか?
反響はかなりありましたね。Twitterで「亀田の英断」などというツイートもあったという話ですが(笑)、そんな思い切ったことをしたつもりは僕らにはないのです。
われわれは元々、ゾフルーザは「今すぐに使うべき薬ではない」と認識していました。
こうした基幹病院では地域の医療機関から問い合わせを受けることも多いので、当科Facebook担当の黒田浩一医師が記事にしてアップしてくれたのです。
新薬は大抵、登場当初はすごく評価が高いものですが、数年たつと評価が変わることがままあります。
新薬の承認に向けた臨床試験では、対象が限定的な上、医師の監視下で投与されますから、効果は過大評価されがちです。逆に、副作用のように「確率は低いけれど大きな問題」は見えにくくなり、大抵は市販後に分かります 。
その薬以外に方法はなく、患者さんにもよく説明して承諾が得られていれば、市販後調査の結果評価が変わってもよい。しかし、抗インフルエンザウイルス薬はそういうタイプの薬ではない、というのがわれわれの考え方です。
無論、誰かが試みなければ知見は得られないのですから、新薬の使用を批判する気は毛頭ありません。しかし、新薬を投与した患者さんに副作用が出た場合、その医師はやはり「その薬でなければならない理由があったのか」を問われます。これは新薬の使用を決める際の、重要なポイントになります。
医師は新しいものが好き、患者も好き?
医師は皆、医学を学んできている科学者です。科学は「something new」がなければ駄目な世界なので、新発見に高い価値が置かれ、「新しいもの=良いもの」となりがちです。ですが、新しくてもよくよく吟味すると良くない点が見えてくることがあります。このときに重要なファクターになるのが、「何のためのものか」ということです。
例えば、あなたの担当医に「これはまだ誰も試したことのない、世界初の新薬です。あなたの病気に効くかもしれないから、ちょっと試してみましょうか」と言われたとします。その病気が感冒だったら、試しますか?
――いいえ、感冒ですから。
その感冒に対して、「医療レベルの高い国であればどこでも使われていて、これが今一番良いとされている治療法があります。一番治る確率が高い方法ですが、これはどうですか」と言われたらどうしますか?
さらに、あなたの病気は感冒ではなく末期癌で、明日には死ぬかもしれない状態だとして、「この新薬だったら一発逆転できるかもしれない。世界でまだ誰も試したことのない新薬だし、だめなら死んでしまうけれど、うまくいけば生き続けられる可能性は3割くらいあるかもしれません」と言われたらどうしますか?
――明日死ぬかもしれないなら、賭けてみます。
そういうことです。インフルエンザは明日死んでしまう病気ではない。毎年ほぼ必ず流行る、自然現象のような感染症です。大抵は薬を使わなくても治りますし、インフルエンザによって人類が滅亡の危機に瀕したこともありません。スペイン風邪の時には世界で何千万人もが死亡しましたが、医療環境が異なる現代でそれを懸念する必要はありません。
そもそも、インフルエンザはオセルタミビル(商品名タミフル)が登場するまでは薬がなくても困らなかった疾患です。高リスク患者(高齢者や2-5歳未満の小児、慢性疾患患者や免疫不全者、妊娠女性など)以外は、解熱薬で熱を下げて、栄養を摂って、寝ていてもらえるのが多分一番良い。
だから、われわれは市販後に分かってくる知見を待って、使うかどうかを決めるというスタンスなのです。他の先生方に影響を与えようというものではありません。 どの薬を使うかは、あくまでもそれぞれの施設で、プロである医師が判断すべきものと思っています。
健常成人へのタミフルは効果わずか
ゾフルーザの評価をするには、現状の抗インフルエンザウイルス薬の評価がどうなっているかを押さえなければなりません。
タミフルやザナミビル(商品名リレンザ)といったノイラミニダーゼ阻害薬については、2014年にコクラン共同計画によるシステマティックレビューの結果が公表されています(Cochrane Database Syst Rev 2014; (4): CD008965)。
製造販売元からデータ提供を得るなどして、107件の臨床試験データを再分析した結果、健常な成人インフルエンザ患者では、ノイラミニダーゼ阻害薬を投与すると有症状期間が約1日短縮することが分かりました(タミフルは7日間から6.3日間、リレンザは6.6日間から6.0日間に短縮)。
タミフルによる入院や合併症の減少効果は認められず、肺炎については、肺炎の定義が各臨床試験によってバラバラで、評価ができる状態ではないことが分かりました。リレンザでは入院についてのデータがありませんでした。
各国で国家備蓄されるタミフルをもってしても、ささやかな治療効果しか得られないというこの結果から、コクランのレビューアーらは、タミフルの国家備蓄を中止するよう英国政府に進言しています。世界保健機関(WHO)も必須医薬品のリストからタミフルを外し、「補足的な薬」に格下げしました。
一方で、インフルエンザの合併症高リスク患者については、タミフルは死亡リスクや入院リスクを減少させることが確認されています(Ann Intern Med 2012;156:512-524)。われわれも、高リスク患者や妊娠女性においては、発症48時間以内を基本に抗ウイルス薬を投与していますし、症例によっては48時間を超えても投与を検討することがあります。
日本で昨シーズン最も多く使われたラニナミビル(イナビル)については、成人でタミフルへの非劣性が確認されていますが、海外12カ国で行われた第II相試験では、プラセボに比較した有効性が示せませんでした。既存薬に非劣性だからといって、プラセボに優るとは限らないのです。
気になるゾフルーザの耐性問題
ゾフルーザについては、CAPSTONE-1の結果が論文になっています(N Engl J Med 2018; 379: 913-923)。重症化や合併症のリスクを持たない12-64歳のインフルエンザ患者を対象とした第II、III相臨床試験で、インフルエンザの有症状期間がプラセボに対して26.5時間有意に短縮し、タミフルに対しては非劣性を示したという結果でした。
この試験で注目されたのは、ゾフルーザによるウイルス排出期間の短縮効果です。ゾフルーザ投与群では、タミフルやプラセボより早くウイルスの排泄が減りました。この知見からは、「ゾフルーザを服用した患者では、学校や会社を休む期間が短く済むのではないか」という解釈をされることがあるかもしれません。
ここで問題になるのが、ゾフルーザの大きな懸念点――耐性です。ゾフルーザでは、ゾフルーザ低感受性に関与する遺伝子変異が出やすいことが分かっています。これは、投与した薬が途中で効かなくなる場合があることを意味します。
ゾフルーザのインタビューフォームによると、同薬の半減期は約4日間(95.8±18.2時間)と非常に長い。だからこそ単回投与でも体の中に薬がとどまることできるのですが、その間にウイルスが変異してしまうかもしれない。最初はウイルスの増殖が止まっても、途中で薬の効かないウイルスに変異して、消えずにとどまる可能性があるということです。
そうすると、変異したウイルスの排出期間はむしろ長くなります。一度減ったウイルスが、薬の効かないウイルスになってリバウンドする可能性もあります。実際、ゾフルーザ投与から3日目以降に、一過性のウイルス価の上昇が見られたケースが観察されています。ただし、変異したウイルスがどのくらい増えるか、流行しやすいのかは不明です。
ゾフルーザに期待する効果
ゾフルーザはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性選択的阻害薬という、全く新しい作用機序の薬なので、タミフルが効かなかったウイルスに効果を発揮する可能性があります。
また、まだ論文になっていませんが、高リスク者を対象に行われたCAPSTONE-2(2018年10月に米国感染症学会で発表)では、ゾフルーザ投与患者で二次性肺炎に対する抗菌薬使用やインフルエンザ関連合併症が有意に減ったということでした。今後、インフルエンザによる死亡を減らす可能性があるかもしれない。これらの部分で、私はゾフルーザに期待を持っています。
ゾフルーザがその効果を発揮するためには、今は耐性ウイルスを増やさないことが重要です。ですからわれわれは、今は使わないと決めました。使わなければ明日にも患者さんが死んでしまう薬ではないのですから、慌てる必要は何もないのです。
「1回だけ飲めば良い」は評価の本分ではない
――ゾフルーザは薬価が高いことも議論されています。
ゾフルーザの薬価は1回4789円、体重80kg以上の患者さんだと2倍の約9500円です。タミフルのジェネリックならば1治療当たり5日間の薬代は1360円ですから、3.5倍以上の差になります。
インフルエンザは、1シーズンで何百万人、多ければ1000万人単位で罹患者が出る感染症です。ゾフルーザとタミフル(ジェネリック)の差額に投与患者数をかけた額が、わが国の医療保険財政の新たな負荷になります。われわれ臨床医は、「それだけのお金をかけて余りある効果が得られるのか」を、冷静に考える必要があります。
――ゾフルーザの単回経口投与という特色は、選択の理由になりますか? 重症化リスクの高い高齢者では、吸入タイプの抗ウイルス薬よりアドヒアランスが良いと考えられます。
それは本末転倒ですね。薬剤なのですから、評価の本分は治療効果と副作用であるべきで、それに比べれば服用方法は大きな論点ではありません。効果について考察せずに、「1回服用だから良い」という部分だけをフィーチャーするのはおかしい。
ゾフルーザの服用方法が特色だと思うのは、「既存薬と効果も副作用も同じで、大して悪いことは起こらないだろう」という前提があるからでしょう。患者さんがそれを言うなら分かりますが、医師がその前提を無批判に受け入れてしまってはいけないと思います。
――患者さんに「新薬を試したい」と言われたら、どうしますか?
経験上そうはなりません。患者さんの希望は当然聞くけれど、全て希望通りにすることが良い医療ではありません。患者さんには冷静な選択をするための情報提供を十分にしなければなりませんが、インフルエンザ診療のように時間の制約がある場合は、専門家が薬のベネフィットとリスクを適切に評価し、方針をある程度決めて患者さんに提案するのが、医師としてのプロの仕事だと私は思います 。
2019年02月13日
脂質異常症(高脂血症)とは
脂質異常症(高脂血症)とは
中性脂肪値は前日の食事(脂っこい、揚げ物、炒め物、食物繊維が少ない)が反映します。
絶えず600以上の方やLDL-Cが190以上の方は家族性高脂血症を除外する必要があります。
代謝内科を専門にしている病医院を受診してください!
LDL-Cは組織に脂という原材料を送っています。脂から細胞膜や酵素やホルモンなどが作られています。
女性は女性ホルモンのおかげで、ストレスに強く、組織の柔軟性が保たれ、男性は成人とともに動脈硬化が始まるのに対して、閉経を迎える50歳前後から、女性ホルモンが作れなくなるため材料のコレステロールが余ってしまいます。
なので、閉経後LDL-Cが100から140ー160に上昇してしまいます。
LDL-Cを必ず下げないといけない病気があります。
狭心症、心筋梗塞です。
再び、発病すると、死に至ることが多いので、この場合、薬を使って、LDL-Cを100以下、可能ならば70以下に下げないといけません。
健康な人の血管の内膜表面を覆っている「内皮細胞」の層は、血液から必要な成分を取り込み、他の成分は入り込まないようにしています。
このほかに、血液が固まるのを防いだり、血液が内皮細胞にくっつかないようにしたりする大切な役目も果たしています。
最近になって、内皮細胞の層でさまざまな物質(生理活性物質)がつくられ、放出されていることがわかってきました。この細胞の役割は極めて大きいのです。
高血圧や糖尿病や感染などが刺激になって内皮細胞が傷害されると、血中の単球(白血球)が内皮細胞にくっつくようになります。さらにこの単球は内皮細胞の間から潜り込み、「マクロファージ」と呼ばれる状態に変身します。
血液中のコレステロールが多すぎると、この「マクロファージ」が“呼び寄せ役”になって、脂肪物質がどんどん取り込まれてたまり、内膜が厚くなってきます。時間の経過とともにこの“呼び寄せ役”自体も壊れて、「粥状」になります(「おかゆ」か「ヨーグルト」、もしくは「柔らかいチーズ」のような状態を思い浮かべてください)。
「高血圧や糖尿病などが刺激になって内皮細胞が傷つけられると、その部分の血管壁の中に脂肪物質がたまって厚くなり、“おかゆ”のような状態になる」と理解してください。
5つの危険因子
動脈硬化の原因は一つではありません。
この変化を起こしたり、進めたりする条件を「危険因子」と呼んでいますが、その中には「男性であること」「齢をとること」のように、自分ではどうにもならないものから、「高血圧」「高脂血症」「喫煙」「肥満」「糖尿病」「ストレス」などのように、自分の意志次第でコントロールできるものもあります。
こうした危険因子を多く持つ人ほど、動脈硬化が加速度的に速まることがわかっています。
危険因子の中でも「高血圧」「高脂血症」「喫煙」は特に重要で、3大危険因子になっています。
米・マサチューセッツ州のフラミンガムで、危険因子と心臓病の関係を明らかにするための疫学調査が行われました。その結果、総コレステロールに高血圧、喫煙、耐糖能異常(糖尿病)、さらに心電図異常(左室肥大)が加わるにつれ、心筋梗塞や狭心症など“心臓事故”の頻度が高くなっています。
中性脂肪値は前日の食事(脂っこい、揚げ物、炒め物、食物繊維が少ない)が反映します。
絶えず600以上の方やLDL-Cが190以上の方は家族性高脂血症を除外する必要があります。
代謝内科を専門にしている病医院を受診してください!
LDL-Cは組織に脂という原材料を送っています。脂から細胞膜や酵素やホルモンなどが作られています。
女性は女性ホルモンのおかげで、ストレスに強く、組織の柔軟性が保たれ、男性は成人とともに動脈硬化が始まるのに対して、閉経を迎える50歳前後から、女性ホルモンが作れなくなるため材料のコレステロールが余ってしまいます。
なので、閉経後LDL-Cが100から140ー160に上昇してしまいます。
LDL-Cを必ず下げないといけない病気があります。
狭心症、心筋梗塞です。
再び、発病すると、死に至ることが多いので、この場合、薬を使って、LDL-Cを100以下、可能ならば70以下に下げないといけません。
健康な人の血管の内膜表面を覆っている「内皮細胞」の層は、血液から必要な成分を取り込み、他の成分は入り込まないようにしています。
このほかに、血液が固まるのを防いだり、血液が内皮細胞にくっつかないようにしたりする大切な役目も果たしています。
最近になって、内皮細胞の層でさまざまな物質(生理活性物質)がつくられ、放出されていることがわかってきました。この細胞の役割は極めて大きいのです。
高血圧や糖尿病や感染などが刺激になって内皮細胞が傷害されると、血中の単球(白血球)が内皮細胞にくっつくようになります。さらにこの単球は内皮細胞の間から潜り込み、「マクロファージ」と呼ばれる状態に変身します。
血液中のコレステロールが多すぎると、この「マクロファージ」が“呼び寄せ役”になって、脂肪物質がどんどん取り込まれてたまり、内膜が厚くなってきます。時間の経過とともにこの“呼び寄せ役”自体も壊れて、「粥状」になります(「おかゆ」か「ヨーグルト」、もしくは「柔らかいチーズ」のような状態を思い浮かべてください)。
「高血圧や糖尿病などが刺激になって内皮細胞が傷つけられると、その部分の血管壁の中に脂肪物質がたまって厚くなり、“おかゆ”のような状態になる」と理解してください。
5つの危険因子
動脈硬化の原因は一つではありません。
この変化を起こしたり、進めたりする条件を「危険因子」と呼んでいますが、その中には「男性であること」「齢をとること」のように、自分ではどうにもならないものから、「高血圧」「高脂血症」「喫煙」「肥満」「糖尿病」「ストレス」などのように、自分の意志次第でコントロールできるものもあります。
こうした危険因子を多く持つ人ほど、動脈硬化が加速度的に速まることがわかっています。
危険因子の中でも「高血圧」「高脂血症」「喫煙」は特に重要で、3大危険因子になっています。
米・マサチューセッツ州のフラミンガムで、危険因子と心臓病の関係を明らかにするための疫学調査が行われました。その結果、総コレステロールに高血圧、喫煙、耐糖能異常(糖尿病)、さらに心電図異常(左室肥大)が加わるにつれ、心筋梗塞や狭心症など“心臓事故”の頻度が高くなっています。
2019年02月11日
子どもの歯が折れたら
子どもの歯が折れたら
慌てず適切に対処を
子どもが何かの拍子に転んで歯をぶつけると、折れたり、抜けてしまったりすることがある。
親はつい慌ててしまうが、いくつかのポイントを押さえておけば、落ち着いて対処することができる。
レオーネキッズデンタルクリニック(東京都荒川区)の荻原栄和院長に、子どもの歯が折れた場合の対処法や注意点、予防策について聞いた。
対処法を知れば、いざというときも安心
▽ポイントは三つ
荻原院長によると、子どもの歯の外傷は、年代によって三つに分けられるという。
最初は1〜1歳半のつかまり立ちをして歩き始める時期。
次いで、活動性が増す3〜5歳ごろ。
そして、体育の授業や部活動のある小学校高学年以降だ。
5歳頃までは顎の骨が柔らかく、何かにぶつけると、歯が抜けたり埋まってしまったりするケースが多いという。
押さえておきたい対処法のポイントは三つ。
第一に、折れた歯は乾燥を防ぐため、洗わずにすぐに牛乳の中に入れる。
「元に戻せるかどうかは、歯の根の周りにある歯根膜の保存状態に大きく左右されるので、
洗浄は歯科医師に任せてください」と荻原院長。
幼稚園や保育所、学校によっては、歯の保存液が常備されている所もあるという。
牛乳や保存液が無い場合は、コンタクトレンズの保存液や水道水などで保存する方法もある。
第二に、転んだときに頭を打っていることがあるので、
嘔吐(おうと)があれば小児科や脳外科への受診を優先する。
第三に、歯科医院への受診は60分以内が望ましい。
ただし、「元に戻せるのは、原則として永久歯です。乳歯の場合は、後の永久歯に影響が及ぶのと、5歳以降は上顎が発達する時期なので、そのままにすることが大半です」と荻原院長は説明する。
▽生活環境の見直しを
歯の外傷を予防するために、荻原院長は「子どもが転ばないよう、生活環境を見直してほしい」と訴える。例えば、高さの違うダイニングテーブルとこたつを一緒に置くなど、子どもの目線が散漫になるような家具の配置は避ける。
食事中は椅子の上に立たせない、
外に出る際は、サンダルではなくきちんとした靴を履かせ、
未就学児であれば手をつなぐなどの配慮もしたい。
「生活の中で、子どもが転ばない工夫がどれだけできるかで、歯の外傷をかなり防げるはずです」
荻原院長は緊急時に備え、日本小児歯科学会のホームページを参考に、小児歯科治療の専門医や認定医がいる歯科医院を、普段からかかりつけにしておくことを勧めている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/01/30 06:00)
慌てず適切に対処を
子どもが何かの拍子に転んで歯をぶつけると、折れたり、抜けてしまったりすることがある。
親はつい慌ててしまうが、いくつかのポイントを押さえておけば、落ち着いて対処することができる。
レオーネキッズデンタルクリニック(東京都荒川区)の荻原栄和院長に、子どもの歯が折れた場合の対処法や注意点、予防策について聞いた。
対処法を知れば、いざというときも安心
▽ポイントは三つ
荻原院長によると、子どもの歯の外傷は、年代によって三つに分けられるという。
最初は1〜1歳半のつかまり立ちをして歩き始める時期。
次いで、活動性が増す3〜5歳ごろ。
そして、体育の授業や部活動のある小学校高学年以降だ。
5歳頃までは顎の骨が柔らかく、何かにぶつけると、歯が抜けたり埋まってしまったりするケースが多いという。
押さえておきたい対処法のポイントは三つ。
第一に、折れた歯は乾燥を防ぐため、洗わずにすぐに牛乳の中に入れる。
「元に戻せるかどうかは、歯の根の周りにある歯根膜の保存状態に大きく左右されるので、
洗浄は歯科医師に任せてください」と荻原院長。
幼稚園や保育所、学校によっては、歯の保存液が常備されている所もあるという。
牛乳や保存液が無い場合は、コンタクトレンズの保存液や水道水などで保存する方法もある。
第二に、転んだときに頭を打っていることがあるので、
嘔吐(おうと)があれば小児科や脳外科への受診を優先する。
第三に、歯科医院への受診は60分以内が望ましい。
ただし、「元に戻せるのは、原則として永久歯です。乳歯の場合は、後の永久歯に影響が及ぶのと、5歳以降は上顎が発達する時期なので、そのままにすることが大半です」と荻原院長は説明する。
▽生活環境の見直しを
歯の外傷を予防するために、荻原院長は「子どもが転ばないよう、生活環境を見直してほしい」と訴える。例えば、高さの違うダイニングテーブルとこたつを一緒に置くなど、子どもの目線が散漫になるような家具の配置は避ける。
食事中は椅子の上に立たせない、
外に出る際は、サンダルではなくきちんとした靴を履かせ、
未就学児であれば手をつなぐなどの配慮もしたい。
「生活の中で、子どもが転ばない工夫がどれだけできるかで、歯の外傷をかなり防げるはずです」
荻原院長は緊急時に備え、日本小児歯科学会のホームページを参考に、小児歯科治療の専門医や認定医がいる歯科医院を、普段からかかりつけにしておくことを勧めている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/01/30 06:00)
2019年02月10日
風疹抗体検査促進、39〜46歳男性から〔読売新聞〕
風疹抗体検査促進、39〜46歳男性から〔読売新聞〕
2019年01月29日 17:25
厚生労働省は、風疹対策で新たに定期接種の対象とする『39〜56歳の男性』のうち、
2019年度は39〜46歳に対し、
免疫の有無を調べる抗体検査を受けるよう積極的に促すことを決めた。
対象者には市町村から抗体検査の受診券を送る。
風疹が成人男性を中心に流行していることを受け、
厚労省は昨年12月、39〜56歳の男性約1610万人について、
予防接種法に基づく定期接種の対象にする対策を打ち出した。
予防接種を公的に受ける機会がなく、抗体の保有率が他の年代より低い世代だ。
21年度末までの約3年間、抗体検査とワクチン接種の費用を原則無料にする。
19年度は、患者数が特に多い1972年4月2日〜79年4月1日生まれの人について積極的に検査を促す。
検査で免疫が十分でないことがわかれば、ワクチンを接種する。
ただし、47〜56歳でも希望すれば、無料で検査を受けられる。(2019年1月29日 読売新聞)
現在、風疹は前例届け出が必要になっています。
子供の症状は、比較わかりやすいですが、成人の場合、症状に乏しく、慣れた皮膚科の先生でも診断に困ることがあります。
最近は咽頭ぬぐい液のPCR法にて、ウイルス遺伝子を増幅して判定するキットが出てきています。
血液検査で、風疹IgM抗体を調べることができますが、発症後3日以上たたないと、上昇していないことが多く、2週間後にもう1回採血して、前回と比べて風疹IgM値が上昇して、風疹だったと判明しても、すでに拡散してしまっているので、意味がありません。
会社は学級閉鎖がありません。また、通勤の閉鎖された交通機関の中で撒き散らすこともあります。
感染力はインフルエンザの数倍です。
風しんに対する免疫が不十分な妊娠20週頃までの妊婦が風しんウイルスに感染すると、先天性風しん症候群(白内障、難聴、心奇形など)の子どもが生まれてくる可能性が高くなります。
社会全体で、風疹ワクチン接種がさけばれている所以です!
2019年01月29日 17:25
厚生労働省は、風疹対策で新たに定期接種の対象とする『39〜56歳の男性』のうち、
2019年度は39〜46歳に対し、
免疫の有無を調べる抗体検査を受けるよう積極的に促すことを決めた。
対象者には市町村から抗体検査の受診券を送る。
風疹が成人男性を中心に流行していることを受け、
厚労省は昨年12月、39〜56歳の男性約1610万人について、
予防接種法に基づく定期接種の対象にする対策を打ち出した。
予防接種を公的に受ける機会がなく、抗体の保有率が他の年代より低い世代だ。
21年度末までの約3年間、抗体検査とワクチン接種の費用を原則無料にする。
19年度は、患者数が特に多い1972年4月2日〜79年4月1日生まれの人について積極的に検査を促す。
検査で免疫が十分でないことがわかれば、ワクチンを接種する。
ただし、47〜56歳でも希望すれば、無料で検査を受けられる。(2019年1月29日 読売新聞)
現在、風疹は前例届け出が必要になっています。
子供の症状は、比較わかりやすいですが、成人の場合、症状に乏しく、慣れた皮膚科の先生でも診断に困ることがあります。
最近は咽頭ぬぐい液のPCR法にて、ウイルス遺伝子を増幅して判定するキットが出てきています。
血液検査で、風疹IgM抗体を調べることができますが、発症後3日以上たたないと、上昇していないことが多く、2週間後にもう1回採血して、前回と比べて風疹IgM値が上昇して、風疹だったと判明しても、すでに拡散してしまっているので、意味がありません。
会社は学級閉鎖がありません。また、通勤の閉鎖された交通機関の中で撒き散らすこともあります。
感染力はインフルエンザの数倍です。
風しんに対する免疫が不十分な妊娠20週頃までの妊婦が風しんウイルスに感染すると、先天性風しん症候群(白内障、難聴、心奇形など)の子どもが生まれてくる可能性が高くなります。
社会全体で、風疹ワクチン接種がさけばれている所以です!
2019年02月08日
アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病;AD)に承認されている薬は効かない、却って悪化させるかもしれないーもっと多くの結果が待たれる!
アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病;AD)に承認されている薬は効かない、却って悪化させるかもしれないーもっと多くの結果が待たれる!
軽度アルツハイマー病に対するコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプトに代表される、後発品としてドネペジル)のベネフィット 提供元:ケアネット 公開日:2019/01/29
アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI-AD)および軽度のアルツハイマー型認知症(ADdem)に対するコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)の認知機能アウトカムについて、米国・セントルイス・ワシントン大学のJee-Young Han氏らが検討を行った。Alzheimer Disease and Associated Disorders誌オンライン版2019年1月10日号の報告。
対象は、MCI-AD(臨床認知症評価法[CDR]:0または0.5)もしくは軽度ADdem(CDR:0.5または1)と臨床的に診断された『2,242例』。
患者データは、National Alzheimer's Coordinating Center(NACC)の統一データセット(Uniform Data Set)より抽出した。CDR合計スコアおよび神経心理学的パフォーマンスの年次変化は、一般化線形混合モデルを用いて算出した。
ChEIを使用する患者間で、使用開始前後の勾配を比較した。
また、ChEI使用患者と非使用患者のスコア変化の比較も行った。
主な結果は以下のとおり。
・ChEI使用患者の割合は、
MCI-AD群944例中34%、
ADdem群1,298例中72%であった。
・MCI-AD群、ADdem群ともに、
認知機能低下はChEI『使用開始後』に、
より大きかった。
たとえば、MCI-AD患者のCDR合計スコアは、
ChEI開始前の0.03ポイント/年から、
開始後の0.61ポイント/年に変化した
(p<0.0001)。
・MCI-AD群、ADdem群ともに、
ChEI使用患者では、
非使用患者『よりも早く認知機能低下』が認められた。
たとえば、MCI-AD患者のCDR合計スコアは、
ChEI使用患者で『0.61』ポイント/年、
非使用患者で『0.24』ポイント/年であった(p<0.0001)。
著者らは「本研究は、ChEI使用がMCI-ADおよび軽度ADdemの認知機能を、『改善しない可能性がある』ことを示唆している」としている。(鷹野敦夫)
原著論文はこちら
Han JY, et al. Alzheimer Dis Assoc Disord. 2019 Jan 10. [Epub ahead of print]
軽度アルツハイマー病に対するコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプトに代表される、後発品としてドネペジル)のベネフィット 提供元:ケアネット 公開日:2019/01/29
アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI-AD)および軽度のアルツハイマー型認知症(ADdem)に対するコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)の認知機能アウトカムについて、米国・セントルイス・ワシントン大学のJee-Young Han氏らが検討を行った。Alzheimer Disease and Associated Disorders誌オンライン版2019年1月10日号の報告。
対象は、MCI-AD(臨床認知症評価法[CDR]:0または0.5)もしくは軽度ADdem(CDR:0.5または1)と臨床的に診断された『2,242例』。
患者データは、National Alzheimer's Coordinating Center(NACC)の統一データセット(Uniform Data Set)より抽出した。CDR合計スコアおよび神経心理学的パフォーマンスの年次変化は、一般化線形混合モデルを用いて算出した。
ChEIを使用する患者間で、使用開始前後の勾配を比較した。
また、ChEI使用患者と非使用患者のスコア変化の比較も行った。
主な結果は以下のとおり。
・ChEI使用患者の割合は、
MCI-AD群944例中34%、
ADdem群1,298例中72%であった。
・MCI-AD群、ADdem群ともに、
認知機能低下はChEI『使用開始後』に、
より大きかった。
たとえば、MCI-AD患者のCDR合計スコアは、
ChEI開始前の0.03ポイント/年から、
開始後の0.61ポイント/年に変化した
(p<0.0001)。
・MCI-AD群、ADdem群ともに、
ChEI使用患者では、
非使用患者『よりも早く認知機能低下』が認められた。
たとえば、MCI-AD患者のCDR合計スコアは、
ChEI使用患者で『0.61』ポイント/年、
非使用患者で『0.24』ポイント/年であった(p<0.0001)。
著者らは「本研究は、ChEI使用がMCI-ADおよび軽度ADdemの認知機能を、『改善しない可能性がある』ことを示唆している」としている。(鷹野敦夫)
原著論文はこちら
Han JY, et al. Alzheimer Dis Assoc Disord. 2019 Jan 10. [Epub ahead of print]
2019年02月05日
脳梗塞の世界最新の総説
仲田和正先生は、2年で全科を、さらに半年麻酔科を研修されたのち、整形外科医として38年。現在西伊豆健育会病院病院長をされ、総合診療科医として活躍されています。
メディカルトリビューンの『脳梗塞の最新の総説』から転載。
専門的ですが、参考になると思います。
脳梗塞の世界最新の総説
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正 2019年01月22日 06:05
Lancet(2018; 392: 1247-1256)に脳梗塞の総説がありました。世界最新の総説です。
この数年、脳梗塞には驚くべき進歩がありました。
これを読んでつくづく1次医療機関で悠長に造影CTやMRIは撮るべきではないと思いました。
次の超重要ポイント6行だけ暗記してください。
「脳卒中患者来院したら即座に単純CT、脳出血否定。MRIで時間無駄にするな!
症状からNIHSS 6点以上は全例 (ラクナ梗塞も) 4.5時間以内血栓溶解考慮
Early CT signから中大脳動脈(MCA)梗塞疑ったらASPECTS 6点以上は4.5時間以内血栓溶解ASPECTS 低点数は血栓溶解で脳出血リスク高い
造影CT、CT perfusion行いMCA近位血栓は血管内治療(stent retrieval)効果大なので6時間以内開始。Door-to-balloon time 目標30分!」
「脳梗塞」総説最重要点は下記12点です。
脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点(中等症)以上は全例血栓溶解考慮(NIHSS;関連リンク1参照)
血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間、まれに24時間
血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解(ASPECT;関連リンク2参照)
3次病院に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
3次病院では造影CT、CT perfusionなどからstent retrieval決める
実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
1. 脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
今まで当、西伊豆健育会病院では脳梗塞患者は発症誤4.5時間を過ぎていれば、
「もうtPAの適応がないから仕方がないね」と当院に入院させてアスピリンで経過を見ておりました。
ところがこれが許されなくなったのです。
MCA近位血栓なら6時間以内stent retrievalが有効だからです。
なお、オザグレルナトリウム(商品名カタクロット、キサンボン)やエダラボン(同ラジカット)は日本国内だけで使用されている薬剤です。このLancet総説では「1,000種以上の神経保護薬とされる薬剤は実験から実用には至らなかった」(1000 putative neuroprotective compounds have not been translated from the laboratory to humans.)の1行で片付けられています。
この数年、脳梗塞治療で大変大きなブレークスルー(breakthrough)がありました。
従来tPAによるMCA近位血栓の再開通率は高くありませんでした。
しかし2015〜16年、なんと6つの血管内治療(stent retrieval)のトライアルが圧倒的効果(overwhelming efficacy!)を示したのです。
血管内治療とはstent retrievalといってカテーテルを血栓に通しワイヤの網を広げて血栓を魚のように絡め取るものです。
当、西伊豆健育会病院に来る患者さんは漁師さんも多いですが、80歳過ぎても現役で網や釣りで魚を捕らえており毎日実に楽しそうです。趣味と仕事が一致しておりうらやましい人生です。海女さんも80歳過ぎて現役の方がいます。変形性膝関節症があっても海の中では無重力でどうってことはないので、かえって自由に動けるのです。アワビ1つで数千円もしますから海女さんは高給取りです。
なお血栓吸引(contact aspiration)はstent retrievalに勝るものではありませんが、安上がりなので現在ランダム化比較試験(RCT)が進行中(COMPASS trial)です。
脳梗塞治療結果は次の通りです。
・脳梗塞発症後4.5時間以内のtPAはオッズ比(OR)1.37で有効
・脳梗塞でtPA+stent retrievalはOR 2.49で有効!!!
・頸動脈内膜切除術は相対リスク比(RR)0.53〜0.77で有効
2.脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点以上は全例血栓溶解考慮
脳梗塞患者の25%が血栓溶解適応であり10〜12%が血管内治療適応です。
脳梗塞患者の症状を下記NIHSSでカウントして6点以上はほぼ全例、血栓溶解考慮です。
NIHSSは11機能42点(integer、整数)のスコアで次のようにスコア化します。
0〜5点:軽症(mild)
6〜15点: 中等症(moderate)
15点〜:重症(severe)
【NIHSS : National Institutes of Health Stroke Scale】
なお血栓溶解の禁忌は次の通りです。
・発症後4.5時間を超える場合
・非外傷性頭蓋内出血の既往
・胸部大動脈解離が強く疑われる
・CTやMRIで広範な早期虚血性変化の存在
3.血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
アルテプラーゼの対象は、全ての虚血性脳血管障害〔アテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症、その他の原因確定・未確定の脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)を含む〕です。
血栓溶解の対象にラクナ梗塞も含まれていますから、1次病院で単純CTにより出血が確認できないからといってさらにMRIでラクナ梗塞などを確認することの意味がありません。時間の無駄です。
過去には脳梗塞にウロキナーゼ、streptokinaseが使用されましたが効果がないどころか脳出血が増え結局使われなくなりました。小生が研修医のころはよく使っていましたしシチコリン(商品名ニコリン)なんてのも点滴していました。オーベンに「これって効くんですか?」と聞いたら「さあー?」という返事でした。
一方、アルテプラーゼは脳梗塞に有効であることが確認され商業化されました。
NINDS tPA stroke trialではアルテプラーゼ0.9mg/kg静注はプラセボに比し3カ月後のアウトカムが良好で当初、発症から3時間以内の使用条件で許可されました。なお国内での用量は0.6mg/kg静注、上限60mgまでです。
ECASSU、ATLANTIS-B trialではアルテプラーゼが発症後6時間以内で投与され、投与が早いほど有効であり、発症後4.5時間でその効果は消失しました。4.5時間以後の投与は脳出血が増加し無効でした。これらのトライアルから投与は発症後4.5時間以内になりました。
しかしIST-3 trialと最近、1万例のシステマチックレビューとメタ解析では「3時間以内投与が望ましいが6時間以内投与も効果あり」としています。IST-3のサブ解析でleukoaraiosisがベースにある患者で血栓溶解はより有効としています。なお日本国内では発症から4.5時間たっていたらアルテプラーゼは禁忌です。
一方、前もって抗血小板薬が投与されているとアルテプラーゼ使用で脳出血リスクが高くなります。アルテプラーゼ投与90分以内のアスピリン静注のトライアルは脳出血が増加し途中で中止されました。ただしアルテプラーゼはMCA近位血管の閉塞では効果が不十分です。
なおtenecteplaseは国内で販売されていませんが、アルテプラーゼに比しフィブリン特異性が高く作用時間が長く再灌流率が高いとのことです(EXTEND-IA TNK trial、NEJM2018; 378: 1573-1582)。今後はアルテプラーゼからtenecteplaseに代わっていくのかもしれません。
4.血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内
血管内治療(stent retrieval)は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内です。
発症2.5時間以内の血管内治療でなんと91%が機能的自立(functional independence)を果たしました(SWIFT-PRIME trial)!!しかし次の1時間で10%低下し、さらに以後1時間に20%ずつ低下していったというのです。時間との勝負なのです。
血管内治療までのスピードが鍵なのです! タクシーで高速道路を走り料金メーターがカシャカシャ上がって、気が気ではない自分を想像してください。
MCA梗塞で治療しないと「1分当たり190万のニューロン」が失われます。
これは「1分の遅延で1.8日の健康生活が失われる」ことなのだそうです。余分な検査を追加して遅延するごとにアウトカムは悪化します。
1次医療機関で、悠長に造影CTだのMRIなど撮っていてはなりません!!
2015年、2016年に6つのトライアル(MR CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、REVASCAT、SWIFT-PRIME、THRACE)で脳前方血管系の大きな血管の血管内治療(endovascular therapy)、すなわちstent retrievalは圧倒的効果が確認され標準治療となりました。
どのトライアルも18歳以上で発症後12時間以内に行われ標準治療(血栓溶解)に比べ圧倒的効果を示しました。多くの患者は発症後6時間以内にstent retrievalが行われましたが、ESCAPE trialでは5.5〜12時間で行われた患者もあったとのことです。
DAWN trialではえりすぐりの患者(highly selected patient)で6〜24時間以内でも血管内治療が有効だったとしています。患者選択にはCT perfusionまたはMRI perfusionが必要です。
DEFFUSE-3 trialでは患者選択をCT perfusionかMRI perfusionで行い、発症後6〜16時間以内の血管内治療が有効でした。EXTEND、POSITIVE trialでは患者選択にperfusion -weightedかdiffusion weighted imagingを使用して発症後24時間までの患者を調べています。
まとめると「血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内、早ければ早いほど良い」というところでしょうか。
5.血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
血管内治療は過去5年、もっぱらstent retrievalが行われてきました。関連リンクの動画のようなものです。カテを血管内に挿入して血栓を貫きワイヤの網を開いて絡め取ります。
ASTER trialでは血栓吸引(contact aspiration)が行われましたが再開通率はstent retrievalを超えませんでした。しかし血栓吸引は安上がりなのでトライアル(COMPASS)が継続されています。
ARISE U trialはEmboTrap deviceの効果を確認しています。これはワイヤでできた網だけど少し形状が異なるものです。You Tubeで見てみましたが普通のstent retrievalと何が違うのかよく分かりませんでした。ウォシュレット(TOTO)とシャワートイレ(INAX)くらいの差でしょうか。
6.MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
昔は24時間でTIAと脳梗塞を分けましたが、これはもはや時代遅れで時間で両者は区別できません。TIAは脳虚血の一番軽症のものです。
MRIでのDWI(diffusion weighted imaging)変化と症状1時間持続は、不可逆的梗塞と強く関連するそうです。
DWIで変化する領域はpenumbra(可逆的領域)でなくまさに脳梗塞のcore(不可逆的領域)に相当します。
脳梗塞の症状が1時間超えたらヤバいと思えばよさそうです。
7. MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解
では当、西伊豆健育会病院のような小病院で脳梗塞を疑ったときはどうするかというと次のような手順です。
来院したら即座に単純CTを撮り脳出血をまず否定します。症状からNIHSS 6点以上は血栓溶解を考慮します。
MRIは時間の無駄です。MRIのDWIにより脳梗塞発症数分で虚血性変化が分かりますが、撮像に時間がかかり過ぎます。「1分の遅延で1.8日の健康生活が失われる」のです。単純CTでの低濃度領域はDWIとよく関連します(不可逆的なcore)。
症状からMCA梗塞を疑ったら単純CTで early CT signを捜します。次のような所見です。
【Early CT sign】
・Hyperdense MCA sign : MCA内の血栓である高吸収構造の確認
・レンズ核の輪郭不鮮明化
・皮質・白質境界の不鮮明化
・島皮質の不鮮明化(insular ribbon sign)
・脳溝の消失
・脳実質の低信号化
MCAの梗塞面積の評価には下記のASPECTSのスコアを使います。CTの2つのスライスからMCAの10領域で梗塞域を10から引き算します。初期虚血性変化(early ischemic change)がどこにもなければ10点、全領域にあれば0点です。
このLancet総説にはスコア点数のはっきりした線引きは書かれていませんでした。調べてみるとこのスコア7点以下は3カ月後の機能予後不良です。ASPECTS 6点か7点以上で血栓溶解の適応とするようです。
【ASPECTS:Alberta Stroke Program Early CT Score、MD-Calc】
関連リンク6のASPECTSの絵でinsular ribbonの緑印が抜けていますが、シルビウス裂の奥の島皮質表面のことです。リボンはちょうちょうの形のことでなく帯のことです。Insular ribbon signは島皮質の皮質・白質境界の不鮮明化のことをいいます。
MCAのM1近位で閉塞すると穿通枝のレンズ核線条体動脈(LSA)がやられますから内包や放線冠が障害され強い半身麻痺が起こります。もしM2での閉塞ならLSAは障害されませんから半身麻痺は軽度です。
ですから「単純CTで基底核の変化がある場合はM1閉塞の可能性が高い」と思えばよいのかなと思いました。M1閉塞ならstent retrieval適応です。
なお基底核の中で尾状核は前大脳動脈(ACA)から出るHeubner(ホイブナー)反回動脈支配(A.comの手前で分枝)です。また視床は後大脳動脈(PCA)支配です。
8.3次医療機関に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
脳MCA近位血栓の有無は造影CTを撮らないと分かりません。MCA近位血栓は血栓溶解療法の再開通率が低く、血管内治療の方が成功率は高いのです。
この総説では、単純CTと造影CTの同時撮影を勧めていますが、当院のような小病院で造影CTは行うべきではないと思いました。というのは、脳外科医は造影CTからわれわれよりずっと多くの情報を得ています。すなわち、aortic archの蛇行、Willis動脈輪の状態、くも膜の側副血行、血栓の場所・サイズ・性状まで把握するというのです。側副血行の程度は健側と比較すれば分かります。というわけで、当院で「なんちゃって造影CT」は撮るべきでないと思いました。
だいたい小生、脳造影CTにaortic archまで含めるなんて考えてもみませんでした。
造影CTは撮らず症状からNIHSS 6点以上(血栓溶解適応)、単純CTでASPECTS 6点以上(血栓溶解適応)なら一刻も早くとっとと3次医療機関へ転送を行うのです。
3次医療機関に電話し造影CT、CT perfusionの準備をしてもらいます。3次病院到着から血管内治療開始までの時間(door-to-needle time)目標は30分以内です。
2011年、ヘルシンキ大学病院ではdoor-to-needle timeの中央値がなんと20分だったというのです。中央値20分ということは10分台も多いということです。努力次第で20分に短縮できるのです。米国の循環器センター1位のクリーブランドクリニックでは、 急性冠疾患に対しPCIは2015年に1万1,601例行いましたが、来院からPCIまでのdoor to balloon time は58分でした。
9.回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
ACLSの「救命の連鎖、chain of survival」と同様、脳梗塞のdoor-to-needle timeを短縮するため「回復の連鎖、chain of recovery」が必要だというのです。つまり消防署連絡→パラメディック→病院への継ぎ目のない(seamless)リレーが必要です。これには前もって脳梗塞患者搬送を予告しない限り時間短縮はできません。
10.患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
血管内治療は第3次医療機関でしかできませんが血栓溶解は小病院でも可能です。この総説によると、患者搬送には次の2つの方法があるというのです。
@ Mothership model(母船モデル)
これは脳梗塞患者を一次脳卒中センターは飛ばして直接、3次医療機関に送り、そこで血栓溶解と血管内治療を行う方法です。
A Drip and ship model (血栓溶解しつつ搬送)
まず一次脳卒中センターへ送り血栓溶解を行いつつ3次医療機関へ送るというものです。
可能ならtelemedicine (画像相談)ができれば理想的です。
現在mothership modelとdrip and ship modelの2つを比較したトライアルが進行中だそうです。
なお米国では最近、Mobile stroke unitsといって、なんとCTと簡易検査ができる救急車があり画像診断と血栓溶解が車内で可能というのです。現在、mobile stroke unitを使用した場合と、病院へ直接搬送した場合の比較トライアルが行われています。医学の進歩は誠に日進月歩であるなあとつくづく感心しました。
11.3次病院では造影CT、CT perfusionなど行い血管内治療決める
3次病院でどのような検査をやるのかというと、以下のような検査があります。
【造影CT(CTA)】
単純CTと併せて撮影し近位血管閉塞が分かります。これからaortic archの蛇行、Willis動脈輪、くも膜の側副血行、血栓の場所・サイズ・性状を把握します。
【Multiphase CT angiography】
造影剤を注入して3つのphaseすなわちpeak arterial、peak venous、late venousを撮ることにより時間分解的評価(time-resolved assessment)が可能となります。CTAで患側と健側のくも膜血管を比較することにより脳の虚血域が分かりますし、multiphaseで血管充盈の遅延も分かります。
【CT perfusion(CT灌流画像)】
造影剤を急速静注しながらCT撮像し脳血流を定量的評価します。CT perfusionはヨード剤を使うため脳血流関門を通過せず毛細血管床の灌流を評価できます。一方、PETなどの核医学検査は関門を通過し脳実質に入ります。
CT perfusionで分かるのは以下のような項目です。
・脳血流量(CBF; cerebral blood flow)
・脳血液量(CBV; cerebral blood volume)
・平均通過時間(MTT; mean transit time)
・ピーク到達時間(TTP; time to peak)
CBV低下領域は最終梗塞巣、その周囲のCBF低下領域は可逆性領域とされますがCBFが正常の30%未満は不可逆的とみられます。
CT perfusionはCBFやその遅延が分かり、また脳梗塞とmimicsとの鑑別ができます。例えば脳梗塞では血液灌流が減少しますが、てんかん発作ではその50%で血流が増加するのだそうです。
また造影CTは大きな血管しか分かりませんがCT perfusionは毛細血管、細静脈(venule)まで分かります。これにより定量的に不可逆的損傷部位(core)と回復可能部位(ischemic penumbra)の領域が分かるのです。また単に血流が減少しているだけで機能正常な部位(benign oligaemia)も分かります。
【MRIのDWI】
これにより脳梗塞発症数分で虚血性変化が分かりますが撮像に時間がかかり過ぎます。単純CTでの低濃度領域はDWIとよく関連し不可逆的なischemic coreです。MRIは特に小梗塞、多発梗塞の発見に有用です。また特に脳の後方循環系梗塞はCTだと頭蓋骨のアーチファクトで分かりにくくMRIの方が分かりやすいのです。
【DWIとFLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)のミスマッチ】
DWIとFLAIRのミスマッチから血栓溶解の患者選択を行うことができます。DWIで描出される領域は脳梗塞のcore (不可逆的領域)だからです。なおFLAIRは水の信号をなくし組織のT2の違いを際立たせた撮像です。脳脊髄液からの信号がないため脳表や脳室周囲のT2の延長する病変の検出が容易となります。T1とT2の影響を強く受けた画像です。
【Time of flight MR angiography(TOF)】
造影剤なしで脳動脈が分かります。
【Susceptibility-weighted imaging(SWI)】
組織の鉄による磁化率アーチファクトを利用して微細な出血が分かりT2*よりも鋭敏です。高い感度で脳内出血、単純CTで分からぬようなmicrobleedsが分かりamyloid angiopathyの存在を疑うことができ、血栓溶解後の脳内出血が高いことが予測できます。
【Contrast-enhanced dynamic MR angiography】
これは時間分解性評価(time-resolved assessment)が可能です。
【MR perfusion imaging 】
これはガドリニウムを使用してCT perfusionと同様の画像を得ます。
12. 実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
新たな治療として音響血栓溶解sonothrombolysisや、なんとiron nanoparticlesの磁力促進血栓溶解(magnetically enhanced thrombolysis)の研究が行われています。また血管内治療の前にpeptide NA-1(別名Tat-NR2B9c)の使用が評価中です(ESCAPE-NA1 trial)。
先に述べたように1,000種以上の神経保護薬は実験から実用に至りませんでした。(1000 putative neuroprotective compounds have not been translatedfrom the laboratory to humans.)。硫酸マグネシウム(Mg)の病院前使用は安全であり血管内治療でischaemic penumbraが救済できるかのトライアルが行われています。
なお高血糖、高血圧、低血圧、高体温はいずれも予後不良因子です。
「脳卒中患者来院したら即座に単純CT、脳出血否定。MRIで時間無駄にするな!
症状からNIHSS 6点以上は全例 (ラクナ梗塞も)4.5時間以内血栓溶解考慮
Early CT signからMCA梗塞疑ったらASPECTS 6点以上は4.5時間以内血栓溶解、ASPECTS 低点数は血栓溶解で脳出血リスク高い
造影CT、CT perfusion行いMCA近位血栓はstent retrieval効果大なので6時間以内開始。Door-to-balloon time 目標30分!」
Lancet(2018; 392: 1247-1256)「脳梗塞」総説の最重要点12点の怒濤の反復です。
脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点(中等症)以上は全例血栓溶解考慮
血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間、まれに24時間
血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解
3次病院に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
3次病院では造影CT、CT perfusionなどからstent retrieval決める
実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
メディカルトリビューンの『脳梗塞の最新の総説』から転載。
専門的ですが、参考になると思います。
脳梗塞の世界最新の総説
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正 2019年01月22日 06:05
Lancet(2018; 392: 1247-1256)に脳梗塞の総説がありました。世界最新の総説です。
この数年、脳梗塞には驚くべき進歩がありました。
これを読んでつくづく1次医療機関で悠長に造影CTやMRIは撮るべきではないと思いました。
次の超重要ポイント6行だけ暗記してください。
「脳卒中患者来院したら即座に単純CT、脳出血否定。MRIで時間無駄にするな!
症状からNIHSS 6点以上は全例 (ラクナ梗塞も) 4.5時間以内血栓溶解考慮
Early CT signから中大脳動脈(MCA)梗塞疑ったらASPECTS 6点以上は4.5時間以内血栓溶解ASPECTS 低点数は血栓溶解で脳出血リスク高い
造影CT、CT perfusion行いMCA近位血栓は血管内治療(stent retrieval)効果大なので6時間以内開始。Door-to-balloon time 目標30分!」
「脳梗塞」総説最重要点は下記12点です。
脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点(中等症)以上は全例血栓溶解考慮(NIHSS;関連リンク1参照)
血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間、まれに24時間
血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解(ASPECT;関連リンク2参照)
3次病院に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
3次病院では造影CT、CT perfusionなどからstent retrieval決める
実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
1. 脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
今まで当、西伊豆健育会病院では脳梗塞患者は発症誤4.5時間を過ぎていれば、
「もうtPAの適応がないから仕方がないね」と当院に入院させてアスピリンで経過を見ておりました。
ところがこれが許されなくなったのです。
MCA近位血栓なら6時間以内stent retrievalが有効だからです。
なお、オザグレルナトリウム(商品名カタクロット、キサンボン)やエダラボン(同ラジカット)は日本国内だけで使用されている薬剤です。このLancet総説では「1,000種以上の神経保護薬とされる薬剤は実験から実用には至らなかった」(1000 putative neuroprotective compounds have not been translated from the laboratory to humans.)の1行で片付けられています。
この数年、脳梗塞治療で大変大きなブレークスルー(breakthrough)がありました。
従来tPAによるMCA近位血栓の再開通率は高くありませんでした。
しかし2015〜16年、なんと6つの血管内治療(stent retrieval)のトライアルが圧倒的効果(overwhelming efficacy!)を示したのです。
血管内治療とはstent retrievalといってカテーテルを血栓に通しワイヤの網を広げて血栓を魚のように絡め取るものです。
当、西伊豆健育会病院に来る患者さんは漁師さんも多いですが、80歳過ぎても現役で網や釣りで魚を捕らえており毎日実に楽しそうです。趣味と仕事が一致しておりうらやましい人生です。海女さんも80歳過ぎて現役の方がいます。変形性膝関節症があっても海の中では無重力でどうってことはないので、かえって自由に動けるのです。アワビ1つで数千円もしますから海女さんは高給取りです。
なお血栓吸引(contact aspiration)はstent retrievalに勝るものではありませんが、安上がりなので現在ランダム化比較試験(RCT)が進行中(COMPASS trial)です。
脳梗塞治療結果は次の通りです。
・脳梗塞発症後4.5時間以内のtPAはオッズ比(OR)1.37で有効
・脳梗塞でtPA+stent retrievalはOR 2.49で有効!!!
・頸動脈内膜切除術は相対リスク比(RR)0.53〜0.77で有効
2.脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点以上は全例血栓溶解考慮
脳梗塞患者の25%が血栓溶解適応であり10〜12%が血管内治療適応です。
脳梗塞患者の症状を下記NIHSSでカウントして6点以上はほぼ全例、血栓溶解考慮です。
NIHSSは11機能42点(integer、整数)のスコアで次のようにスコア化します。
0〜5点:軽症(mild)
6〜15点: 中等症(moderate)
15点〜:重症(severe)
【NIHSS : National Institutes of Health Stroke Scale】
なお血栓溶解の禁忌は次の通りです。
・発症後4.5時間を超える場合
・非外傷性頭蓋内出血の既往
・胸部大動脈解離が強く疑われる
・CTやMRIで広範な早期虚血性変化の存在
3.血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
アルテプラーゼの対象は、全ての虚血性脳血管障害〔アテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症、その他の原因確定・未確定の脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)を含む〕です。
血栓溶解の対象にラクナ梗塞も含まれていますから、1次病院で単純CTにより出血が確認できないからといってさらにMRIでラクナ梗塞などを確認することの意味がありません。時間の無駄です。
過去には脳梗塞にウロキナーゼ、streptokinaseが使用されましたが効果がないどころか脳出血が増え結局使われなくなりました。小生が研修医のころはよく使っていましたしシチコリン(商品名ニコリン)なんてのも点滴していました。オーベンに「これって効くんですか?」と聞いたら「さあー?」という返事でした。
一方、アルテプラーゼは脳梗塞に有効であることが確認され商業化されました。
NINDS tPA stroke trialではアルテプラーゼ0.9mg/kg静注はプラセボに比し3カ月後のアウトカムが良好で当初、発症から3時間以内の使用条件で許可されました。なお国内での用量は0.6mg/kg静注、上限60mgまでです。
ECASSU、ATLANTIS-B trialではアルテプラーゼが発症後6時間以内で投与され、投与が早いほど有効であり、発症後4.5時間でその効果は消失しました。4.5時間以後の投与は脳出血が増加し無効でした。これらのトライアルから投与は発症後4.5時間以内になりました。
しかしIST-3 trialと最近、1万例のシステマチックレビューとメタ解析では「3時間以内投与が望ましいが6時間以内投与も効果あり」としています。IST-3のサブ解析でleukoaraiosisがベースにある患者で血栓溶解はより有効としています。なお日本国内では発症から4.5時間たっていたらアルテプラーゼは禁忌です。
一方、前もって抗血小板薬が投与されているとアルテプラーゼ使用で脳出血リスクが高くなります。アルテプラーゼ投与90分以内のアスピリン静注のトライアルは脳出血が増加し途中で中止されました。ただしアルテプラーゼはMCA近位血管の閉塞では効果が不十分です。
なおtenecteplaseは国内で販売されていませんが、アルテプラーゼに比しフィブリン特異性が高く作用時間が長く再灌流率が高いとのことです(EXTEND-IA TNK trial、NEJM2018; 378: 1573-1582)。今後はアルテプラーゼからtenecteplaseに代わっていくのかもしれません。
4.血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内
血管内治療(stent retrieval)は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内です。
発症2.5時間以内の血管内治療でなんと91%が機能的自立(functional independence)を果たしました(SWIFT-PRIME trial)!!しかし次の1時間で10%低下し、さらに以後1時間に20%ずつ低下していったというのです。時間との勝負なのです。
血管内治療までのスピードが鍵なのです! タクシーで高速道路を走り料金メーターがカシャカシャ上がって、気が気ではない自分を想像してください。
MCA梗塞で治療しないと「1分当たり190万のニューロン」が失われます。
これは「1分の遅延で1.8日の健康生活が失われる」ことなのだそうです。余分な検査を追加して遅延するごとにアウトカムは悪化します。
1次医療機関で、悠長に造影CTだのMRIなど撮っていてはなりません!!
2015年、2016年に6つのトライアル(MR CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、REVASCAT、SWIFT-PRIME、THRACE)で脳前方血管系の大きな血管の血管内治療(endovascular therapy)、すなわちstent retrievalは圧倒的効果が確認され標準治療となりました。
どのトライアルも18歳以上で発症後12時間以内に行われ標準治療(血栓溶解)に比べ圧倒的効果を示しました。多くの患者は発症後6時間以内にstent retrievalが行われましたが、ESCAPE trialでは5.5〜12時間で行われた患者もあったとのことです。
DAWN trialではえりすぐりの患者(highly selected patient)で6〜24時間以内でも血管内治療が有効だったとしています。患者選択にはCT perfusionまたはMRI perfusionが必要です。
DEFFUSE-3 trialでは患者選択をCT perfusionかMRI perfusionで行い、発症後6〜16時間以内の血管内治療が有効でした。EXTEND、POSITIVE trialでは患者選択にperfusion -weightedかdiffusion weighted imagingを使用して発症後24時間までの患者を調べています。
まとめると「血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内、早ければ早いほど良い」というところでしょうか。
5.血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
血管内治療は過去5年、もっぱらstent retrievalが行われてきました。関連リンクの動画のようなものです。カテを血管内に挿入して血栓を貫きワイヤの網を開いて絡め取ります。
ASTER trialでは血栓吸引(contact aspiration)が行われましたが再開通率はstent retrievalを超えませんでした。しかし血栓吸引は安上がりなのでトライアル(COMPASS)が継続されています。
ARISE U trialはEmboTrap deviceの効果を確認しています。これはワイヤでできた網だけど少し形状が異なるものです。You Tubeで見てみましたが普通のstent retrievalと何が違うのかよく分かりませんでした。ウォシュレット(TOTO)とシャワートイレ(INAX)くらいの差でしょうか。
6.MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
昔は24時間でTIAと脳梗塞を分けましたが、これはもはや時代遅れで時間で両者は区別できません。TIAは脳虚血の一番軽症のものです。
MRIでのDWI(diffusion weighted imaging)変化と症状1時間持続は、不可逆的梗塞と強く関連するそうです。
DWIで変化する領域はpenumbra(可逆的領域)でなくまさに脳梗塞のcore(不可逆的領域)に相当します。
脳梗塞の症状が1時間超えたらヤバいと思えばよさそうです。
7. MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解
では当、西伊豆健育会病院のような小病院で脳梗塞を疑ったときはどうするかというと次のような手順です。
来院したら即座に単純CTを撮り脳出血をまず否定します。症状からNIHSS 6点以上は血栓溶解を考慮します。
MRIは時間の無駄です。MRIのDWIにより脳梗塞発症数分で虚血性変化が分かりますが、撮像に時間がかかり過ぎます。「1分の遅延で1.8日の健康生活が失われる」のです。単純CTでの低濃度領域はDWIとよく関連します(不可逆的なcore)。
症状からMCA梗塞を疑ったら単純CTで early CT signを捜します。次のような所見です。
【Early CT sign】
・Hyperdense MCA sign : MCA内の血栓である高吸収構造の確認
・レンズ核の輪郭不鮮明化
・皮質・白質境界の不鮮明化
・島皮質の不鮮明化(insular ribbon sign)
・脳溝の消失
・脳実質の低信号化
MCAの梗塞面積の評価には下記のASPECTSのスコアを使います。CTの2つのスライスからMCAの10領域で梗塞域を10から引き算します。初期虚血性変化(early ischemic change)がどこにもなければ10点、全領域にあれば0点です。
このLancet総説にはスコア点数のはっきりした線引きは書かれていませんでした。調べてみるとこのスコア7点以下は3カ月後の機能予後不良です。ASPECTS 6点か7点以上で血栓溶解の適応とするようです。
【ASPECTS:Alberta Stroke Program Early CT Score、MD-Calc】
関連リンク6のASPECTSの絵でinsular ribbonの緑印が抜けていますが、シルビウス裂の奥の島皮質表面のことです。リボンはちょうちょうの形のことでなく帯のことです。Insular ribbon signは島皮質の皮質・白質境界の不鮮明化のことをいいます。
MCAのM1近位で閉塞すると穿通枝のレンズ核線条体動脈(LSA)がやられますから内包や放線冠が障害され強い半身麻痺が起こります。もしM2での閉塞ならLSAは障害されませんから半身麻痺は軽度です。
ですから「単純CTで基底核の変化がある場合はM1閉塞の可能性が高い」と思えばよいのかなと思いました。M1閉塞ならstent retrieval適応です。
なお基底核の中で尾状核は前大脳動脈(ACA)から出るHeubner(ホイブナー)反回動脈支配(A.comの手前で分枝)です。また視床は後大脳動脈(PCA)支配です。
8.3次医療機関に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
脳MCA近位血栓の有無は造影CTを撮らないと分かりません。MCA近位血栓は血栓溶解療法の再開通率が低く、血管内治療の方が成功率は高いのです。
この総説では、単純CTと造影CTの同時撮影を勧めていますが、当院のような小病院で造影CTは行うべきではないと思いました。というのは、脳外科医は造影CTからわれわれよりずっと多くの情報を得ています。すなわち、aortic archの蛇行、Willis動脈輪の状態、くも膜の側副血行、血栓の場所・サイズ・性状まで把握するというのです。側副血行の程度は健側と比較すれば分かります。というわけで、当院で「なんちゃって造影CT」は撮るべきでないと思いました。
だいたい小生、脳造影CTにaortic archまで含めるなんて考えてもみませんでした。
造影CTは撮らず症状からNIHSS 6点以上(血栓溶解適応)、単純CTでASPECTS 6点以上(血栓溶解適応)なら一刻も早くとっとと3次医療機関へ転送を行うのです。
3次医療機関に電話し造影CT、CT perfusionの準備をしてもらいます。3次病院到着から血管内治療開始までの時間(door-to-needle time)目標は30分以内です。
2011年、ヘルシンキ大学病院ではdoor-to-needle timeの中央値がなんと20分だったというのです。中央値20分ということは10分台も多いということです。努力次第で20分に短縮できるのです。米国の循環器センター1位のクリーブランドクリニックでは、 急性冠疾患に対しPCIは2015年に1万1,601例行いましたが、来院からPCIまでのdoor to balloon time は58分でした。
9.回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
ACLSの「救命の連鎖、chain of survival」と同様、脳梗塞のdoor-to-needle timeを短縮するため「回復の連鎖、chain of recovery」が必要だというのです。つまり消防署連絡→パラメディック→病院への継ぎ目のない(seamless)リレーが必要です。これには前もって脳梗塞患者搬送を予告しない限り時間短縮はできません。
10.患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
血管内治療は第3次医療機関でしかできませんが血栓溶解は小病院でも可能です。この総説によると、患者搬送には次の2つの方法があるというのです。
@ Mothership model(母船モデル)
これは脳梗塞患者を一次脳卒中センターは飛ばして直接、3次医療機関に送り、そこで血栓溶解と血管内治療を行う方法です。
A Drip and ship model (血栓溶解しつつ搬送)
まず一次脳卒中センターへ送り血栓溶解を行いつつ3次医療機関へ送るというものです。
可能ならtelemedicine (画像相談)ができれば理想的です。
現在mothership modelとdrip and ship modelの2つを比較したトライアルが進行中だそうです。
なお米国では最近、Mobile stroke unitsといって、なんとCTと簡易検査ができる救急車があり画像診断と血栓溶解が車内で可能というのです。現在、mobile stroke unitを使用した場合と、病院へ直接搬送した場合の比較トライアルが行われています。医学の進歩は誠に日進月歩であるなあとつくづく感心しました。
11.3次病院では造影CT、CT perfusionなど行い血管内治療決める
3次病院でどのような検査をやるのかというと、以下のような検査があります。
【造影CT(CTA)】
単純CTと併せて撮影し近位血管閉塞が分かります。これからaortic archの蛇行、Willis動脈輪、くも膜の側副血行、血栓の場所・サイズ・性状を把握します。
【Multiphase CT angiography】
造影剤を注入して3つのphaseすなわちpeak arterial、peak venous、late venousを撮ることにより時間分解的評価(time-resolved assessment)が可能となります。CTAで患側と健側のくも膜血管を比較することにより脳の虚血域が分かりますし、multiphaseで血管充盈の遅延も分かります。
【CT perfusion(CT灌流画像)】
造影剤を急速静注しながらCT撮像し脳血流を定量的評価します。CT perfusionはヨード剤を使うため脳血流関門を通過せず毛細血管床の灌流を評価できます。一方、PETなどの核医学検査は関門を通過し脳実質に入ります。
CT perfusionで分かるのは以下のような項目です。
・脳血流量(CBF; cerebral blood flow)
・脳血液量(CBV; cerebral blood volume)
・平均通過時間(MTT; mean transit time)
・ピーク到達時間(TTP; time to peak)
CBV低下領域は最終梗塞巣、その周囲のCBF低下領域は可逆性領域とされますがCBFが正常の30%未満は不可逆的とみられます。
CT perfusionはCBFやその遅延が分かり、また脳梗塞とmimicsとの鑑別ができます。例えば脳梗塞では血液灌流が減少しますが、てんかん発作ではその50%で血流が増加するのだそうです。
また造影CTは大きな血管しか分かりませんがCT perfusionは毛細血管、細静脈(venule)まで分かります。これにより定量的に不可逆的損傷部位(core)と回復可能部位(ischemic penumbra)の領域が分かるのです。また単に血流が減少しているだけで機能正常な部位(benign oligaemia)も分かります。
【MRIのDWI】
これにより脳梗塞発症数分で虚血性変化が分かりますが撮像に時間がかかり過ぎます。単純CTでの低濃度領域はDWIとよく関連し不可逆的なischemic coreです。MRIは特に小梗塞、多発梗塞の発見に有用です。また特に脳の後方循環系梗塞はCTだと頭蓋骨のアーチファクトで分かりにくくMRIの方が分かりやすいのです。
【DWIとFLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)のミスマッチ】
DWIとFLAIRのミスマッチから血栓溶解の患者選択を行うことができます。DWIで描出される領域は脳梗塞のcore (不可逆的領域)だからです。なおFLAIRは水の信号をなくし組織のT2の違いを際立たせた撮像です。脳脊髄液からの信号がないため脳表や脳室周囲のT2の延長する病変の検出が容易となります。T1とT2の影響を強く受けた画像です。
【Time of flight MR angiography(TOF)】
造影剤なしで脳動脈が分かります。
【Susceptibility-weighted imaging(SWI)】
組織の鉄による磁化率アーチファクトを利用して微細な出血が分かりT2*よりも鋭敏です。高い感度で脳内出血、単純CTで分からぬようなmicrobleedsが分かりamyloid angiopathyの存在を疑うことができ、血栓溶解後の脳内出血が高いことが予測できます。
【Contrast-enhanced dynamic MR angiography】
これは時間分解性評価(time-resolved assessment)が可能です。
【MR perfusion imaging 】
これはガドリニウムを使用してCT perfusionと同様の画像を得ます。
12. 実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
新たな治療として音響血栓溶解sonothrombolysisや、なんとiron nanoparticlesの磁力促進血栓溶解(magnetically enhanced thrombolysis)の研究が行われています。また血管内治療の前にpeptide NA-1(別名Tat-NR2B9c)の使用が評価中です(ESCAPE-NA1 trial)。
先に述べたように1,000種以上の神経保護薬は実験から実用に至りませんでした。(1000 putative neuroprotective compounds have not been translatedfrom the laboratory to humans.)。硫酸マグネシウム(Mg)の病院前使用は安全であり血管内治療でischaemic penumbraが救済できるかのトライアルが行われています。
なお高血糖、高血圧、低血圧、高体温はいずれも予後不良因子です。
「脳卒中患者来院したら即座に単純CT、脳出血否定。MRIで時間無駄にするな!
症状からNIHSS 6点以上は全例 (ラクナ梗塞も)4.5時間以内血栓溶解考慮
Early CT signからMCA梗塞疑ったらASPECTS 6点以上は4.5時間以内血栓溶解、ASPECTS 低点数は血栓溶解で脳出血リスク高い
造影CT、CT perfusion行いMCA近位血栓はstent retrieval効果大なので6時間以内開始。Door-to-balloon time 目標30分!」
Lancet(2018; 392: 1247-1256)「脳梗塞」総説の最重要点12点の怒濤の反復です。
脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点(中等症)以上は全例血栓溶解考慮
血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間、まれに24時間
血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解
3次病院に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
3次病院では造影CT、CT perfusionなどからstent retrieval決める
実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
2019年02月03日
脳の老化は足から!さあ、スキマ時間でロコトレを
脳の老化は足から!さあ、スキマ時間でロコトレを
『大腿骨頚部骨折』をご存知でしょうか?
80歳前後の方が、転倒、横倒しに倒れた場合、大腿骨頚部骨折となることが多い。
太ももの骨は股のつけ根で、45°内側に頚部という部分につながり骨頭と呼ばれる凸の部分が、骨盤の臼蓋と呼ばれる凹の部分にはまって股関節を作っています。
この頚部に無理がかかって折れてしまい、起立歩行するために、また、寝ていてからだをひねるだけで激痛がはしるので、手術が必要になります。
2足歩行ができなくなると、ヒトは急激に寿命に近づきます。
片方の大腿骨頚部骨折になると、約50%の人が、2年以内にもう片方の大腿骨頚部骨折をおこすことがわかっています。
家で簡単にできるロコトレは、スキマ時間で、できる運動です!
片足立ちは左右1分間ずつ、1日3回、
スクワットはゆっくり5回、1日3回、
何かにつかまって、運動してください。
脳の老化も予防できますので、できるだけ毎日運動してください!
『大腿骨頚部骨折』をご存知でしょうか?
80歳前後の方が、転倒、横倒しに倒れた場合、大腿骨頚部骨折となることが多い。
太ももの骨は股のつけ根で、45°内側に頚部という部分につながり骨頭と呼ばれる凸の部分が、骨盤の臼蓋と呼ばれる凹の部分にはまって股関節を作っています。
この頚部に無理がかかって折れてしまい、起立歩行するために、また、寝ていてからだをひねるだけで激痛がはしるので、手術が必要になります。
2足歩行ができなくなると、ヒトは急激に寿命に近づきます。
片方の大腿骨頚部骨折になると、約50%の人が、2年以内にもう片方の大腿骨頚部骨折をおこすことがわかっています。
家で簡単にできるロコトレは、スキマ時間で、できる運動です!
片足立ちは左右1分間ずつ、1日3回、
スクワットはゆっくり5回、1日3回、
何かにつかまって、運動してください。
脳の老化も予防できますので、できるだけ毎日運動してください!
2019年02月02日
『ゾフルーザは本当に夢の薬?』 抗インフルエンザ薬の使い方
抗インフルエンザ薬について科学的にわかりやすく書いてあります!インフルエンザについてもよくわかります!
健康な成人はインフルエンザにかかっても、2−3日、高熱、倦怠感、頭痛、関節雨痛が苦しめられますが、1週間もすれば治ります。
抗インフルエンザ薬は、発熱後48時間以内に服用すれば、症状が1日早く治まるというメリットはあります。
発症して5日間、かつ、解熱後まる2日経過すれば、登校しても良いという『学校法』に準拠して、職場でも休職が必須です。
抗菌剤でも問題になっていますが、耐性ウイルスの出現が10%弱ある『ゾフルーザ』
増殖したインフルエンザウイルスが、細胞から出芽する際に、膜を合成させないようにする、タミフルに代表されるノイラミニダーゼが効かない時の切り札として温存すべきと、下記の記事では紹介されています。
私も賛成です。
『ゾフルーザは本当に夢の薬?』
抗インフルエンザ薬の使い方
2019/1/24 岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター)
『そもそも、インフルエンザと臨床診断した場合に抗インフルエンザ薬を全例に処方すべきなのでしょうか?』
私は、特に健康な成人において、抗インフルエンザ薬は必須ではないと考えています。
なぜならば、抗インフルエンザ薬の効果は極めて限定的である一方で、
一定確率で副作用のリスクがあり、
確実にコストが余計にかかるからです。
米国感染症学会のガイドラインでも、低いエビデンスレベルと推奨度で条件付きで考慮するとなっています1)。
健常者への抗インフルエンザ薬の効果としては、
48時間以内に投与された場合、
プラセボと比較し、わずかに解熱など症状の改善が早まるとのエビデンスがあります2)。
しかし、合併症を防いだり、死亡率を下げたりという効果報告は結果が割れており、
十分に証明されていません。
効果はあるとしてもごく僅かで、特に合併症のリスクが少ない患者ではほとんど差がないと考えてよいでしょう。
また、一定数で吐き気、下痢、呼吸困難など副作用が認められます3)。
少しでも早く症状が改善することに価値を感じる先生もおられるかもしれませんが、
合併症や死亡のリスクの少ない患者層に一律に抗インフルエンザ薬を処方してしまえば、
医療費の高騰や耐性ウイルスを増やす懸念もあります。
つまり、健常者への抗インフルエンザ薬を一律処方することはリスクとベネフィットのバランスが悪いと私は考えています。
ただ、ここには価値観の問題も関わりますので、
患者にメリットとデメリットを説明した上で処方するかを決めるのが現実的でしょう。
もし処方するならば発症後48時間以内(できればもっと早く)に、というのが原則であり、
早期の投与が症状短縮により有効です。
一方でリスク因子を有する患者(表1)は、積極的に抗インフルエンザ薬を処方すべきです。
リスクのある患者では、発症後48時間を超えていても、処方を検討してもよいでしょう。
表1 抗インフルエンザ薬の積極的な投与が推奨される合併症のハイリスク患者(米国感染症学会ガイドラインを基に作成)
・『5歳未満の小児(特に2歳未満)』
・『65歳以上の成人』
・『喘息を含む慢性気道疾患、心血管疾患(高血圧は除く)、腎疾患、肝疾患、糖尿病を含む代謝疾患、てんかんを含む神経疾患』
・『免疫抑制薬服用者やHIV感染者』
・『妊婦や出産後』
・アスピリンを使用中のライ症候群リスクがある人
・BMI 40kg/m2以上の肥満者
・『高齢者施設に居住する人』
抗インフルエンザ薬を処方する場合、迅速検査の結果は必須ではありません。
抗インフルエンザ薬の恩恵は投与が早い方が大きいため、翌日に再診させて再検査する必要もありません。
もし先生が臨床症状からインフルエンザを強く疑い、抗インフルエンザ薬を処方すると判断しているならば、薬を処方して自宅静養を指示すべきです。
翌日の再診再検査は、患者さんもつらく、コストもかかり、周囲への感染拡大のリスクにもなるため、良いことはあまりないのです。
抗インフルエンザ薬は何を処方すべきか?
現在承認されている抗インフルエンザ薬には4つの系統、7つの薬剤があります。
3つの系統とは、
ウイルスの脱核を阻害するM2蛋白阻害薬(アマンタジン((商品名シンメトレル他))はA型インフルエンザにしか効果がない上、既に耐性ウイルスが多くを占めているため、原則使用しません。また、ポリメラーゼ阻害薬としてファビピラビル((アビガン))が承認されていますが、催奇形性があるため、国が使用を判断したときのみに投与が認められており、日常診療で使うことはありません)、
ウイルスで複製された遺伝子が細胞外へ出るための酵素を阻害するノイラミニダーゼ阻害薬、
ウイルスのRNA合成を阻害するキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬とポリメラーゼ阻害薬です。
現在、インフルエンザ治療に用いる薬剤の中心はA型B型のいずれにも有効なノイラミニダーゼ阻害薬が中心なっています。
米国感染症学会のガイドラインでもノイラミニダーゼ阻害薬を単剤で使用することが推奨されています1)。
我が国では、ノイラミニダーゼ阻害薬として、
内服薬のオセルタミビル(タミフル他)、
吸入薬のザナミビル(リレンザ)、ラニナミビル(イナビル)、
点滴薬のペラミビル(ラピアクタ)の4剤が承認されています。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
最も広く使われているオセルタミビルは一時期、投与後の異常行動や飛び降りが問題になりましたが、
その因果関係は否定的と判断されており、
今シーズンからは10歳代への投与差し控えも撤回されました。
そのため、安全性が最も明瞭で評価されている薬剤ということになります。
さらに臨床試験も最も豊富であり、2018年6月からはジェネリックも登場しており、最も安価です。
ラニナミビルは1回吸入で治療が完結する便利な薬剤ですが、
海外では臨床試験でオセルタミビルに対する非劣性が証明できず、発売されていません3)。
またオセルタミビルに比べ発熱期間が長いことも報告されるなど
効果がオセルタミビルに対して低いと考えられます。
また、吸入薬は局所投与となるため、
重篤なインフルエンザ、喘息のような気道過敏性がある患者や吸入困難な患者への投与は制限されてしまいます。
ただし、オセルタミビル耐性ウイルスには効果があります。
ザナミビルもオセルタミビル耐性ウイルスには効果があり、ウイルス耐性も起きにくいですが、吸入薬であることなどから、あまり我が国では用いられていません。
ペラミビルは点滴薬であり、
重症例や内服吸入ができない症例に使える薬剤と期待していますが、
そのエビデンスが乏しいところが問題です。
重症例では経管チューブからオセルタミビルを投与する方が良いかもしれません。
またオセルタミビル耐性ウイルスには交差耐性を有するため、こちらにも注意が必要です4)。
以上から、オセルタミビルが最もエビデンスが豊富であり、安全性、コストをトータルに考えると、現時点では私は原則としてオセルタミビルを第一選択薬として推奨します。
『ゾフルーザ』はメディアでは大きく扱われているが…
では、昨年発売されたバロキサビル(ゾフルーザ)はどうでしょう?
バロキサビルは1回服用するだけでよい便利な新規抗インフルエンザ薬であり、マスコミ報道では「患者の97%が要求する」とのデータも提示されていました。
ただ、その患者さんのニーズが新薬の利益だけでなく、
不利益も理解した上でなければ、
それは科学に基づいた医療ではなく、
単なるマーケティングの成功にすぎません。
科学的に見ると、
重症化リスクの低い患者への投与では、オセルタミビル投与時と比較して臨床的な改善効果は非劣性でした5)。
つまり、薬の効き具合では引き分けなのです。
ウイルスの減少スピードはバロキサビルの方が速かったというデータから、
1回の投与で完結することと合わせてバロキサビルを勧める医師もいるようですが、
あくまで重要なのは治験時の1次エンドポイントである臨床効果の改善なのです。
仮に1歩譲って、副評価項目のウイルスの抑制が高いことを評価するとしても、
薬価が高いことや、
まだ長期使用の副作用の懸念があること、
1日1回投与で半減期が長いため、
副作用出現の際に重症化したり治癒が遅れることが懸念されます。
実際に筆者はバロキサビルによると思われる遷延した薬疹を既に経験しています。
また、治験時に『9.7%の薬剤耐性ウイルスが出現』していることにも注視しなくてはなりません5)。
この薬剤に対してウイルスが急速に耐性化する懸念があるのです。
バロキサビルの利点は、1回投与で完結できるだけではありません。
オセルタミビルのようなノイミラミニダーゼ阻害剤に耐性となったウイルスや、
人類に脅威となる高病原性の新型ウイルス出現の際の治療薬としても使用できる可能性があるにもかかわらず、
「1回投与で便利なため患者が希望する」という理由だけでその切り札を失ってもよいのでしょうか?
オセルタミビル耐性ウイルスを過度に懸念するのも、理由にはなりません。
流行するウイルスの動向には注意が必要ですが、
国立感染症研究所からの情報では
2018シーズンのタミフル耐性ウイルスの検出は解析株では存在せず、まれなようです6)。
以上から筆者はバロキサビルを現時点で推奨しません。
一部の有名病院ではこのような理由から本薬剤の採用を見合わせているのです
(関連記事:亀田がゾフルーザの採用を見合わせた理由)。
日本感染症学会も、日本小児科学会も本薬剤の位置付けは不明確として積極的な推奨を見送っていることも留意すべきでしょう7)、8)。
新薬の利益、不利益を客観的に評価して慎重に処方する姿勢が大切ではないでしょうか。
なお、米国感染症学会では、今回のガイドライン策定後にゾフルーザが承認されたため、
今回のガイドラインでは推奨の有無については言及していません。
過去に発売後、副作用で消えた抗菌薬が幾つもあります。
また新薬の安易な処方が薬剤耐性(AMR)の原因の1つと指摘されています。
過去の歴史に反省なく、新薬であるゾフルーザがいきなり処方シェアを拡大するようならば、
この国のAMR対策が成功するのかはなはだ疑問です。
むしろ、今シーズンに抗インフルエンザ薬を使うならば、
ジェネリックが利用できるようになり、10歳代への使用も可能となった今こそ、オセルタミビルを選択すべきではないでしょうか。
※ なお、岡氏は塩野義製薬より、診療科への奨学寄付金を受けている。他の抗インフルエンザ薬の販売メーカーからの資金提供は受けていない。
【参考文献】
1)米国感染症学会「Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America」(2018)
2)Cochrane Database Syst Rev 2014;4:CD008965 PMID:24718923
3)Biota Reports Top-Line Data From Its Phase 2 "IGLOO" Trial of Laninamivir Octanoate(2014)
4)Takashita E,et al.Antivirai Res.2015;117:27-38.
5)Hayden FG,et al. N Engl J Med 2018;379:913-23.
6)国立感染症研究所 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス
7)日本感染症学会ホームページ キャップ依存型エンドヌクレアーゼ阻害剤について
8)日本小児科学会ホームページ2018/2019シーズンのインフルエンザ治療
著者プロフィール
岡秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科准教授)●おかひであき氏。
2000年日本大学卒。日本大学第一内科で研修後、横浜市立大学、神戸大学、東京高輪病院などを経て、2017年より現職。
健康な成人はインフルエンザにかかっても、2−3日、高熱、倦怠感、頭痛、関節雨痛が苦しめられますが、1週間もすれば治ります。
抗インフルエンザ薬は、発熱後48時間以内に服用すれば、症状が1日早く治まるというメリットはあります。
発症して5日間、かつ、解熱後まる2日経過すれば、登校しても良いという『学校法』に準拠して、職場でも休職が必須です。
抗菌剤でも問題になっていますが、耐性ウイルスの出現が10%弱ある『ゾフルーザ』
増殖したインフルエンザウイルスが、細胞から出芽する際に、膜を合成させないようにする、タミフルに代表されるノイラミニダーゼが効かない時の切り札として温存すべきと、下記の記事では紹介されています。
私も賛成です。
『ゾフルーザは本当に夢の薬?』
抗インフルエンザ薬の使い方
2019/1/24 岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター)
『そもそも、インフルエンザと臨床診断した場合に抗インフルエンザ薬を全例に処方すべきなのでしょうか?』
私は、特に健康な成人において、抗インフルエンザ薬は必須ではないと考えています。
なぜならば、抗インフルエンザ薬の効果は極めて限定的である一方で、
一定確率で副作用のリスクがあり、
確実にコストが余計にかかるからです。
米国感染症学会のガイドラインでも、低いエビデンスレベルと推奨度で条件付きで考慮するとなっています1)。
健常者への抗インフルエンザ薬の効果としては、
48時間以内に投与された場合、
プラセボと比較し、わずかに解熱など症状の改善が早まるとのエビデンスがあります2)。
しかし、合併症を防いだり、死亡率を下げたりという効果報告は結果が割れており、
十分に証明されていません。
効果はあるとしてもごく僅かで、特に合併症のリスクが少ない患者ではほとんど差がないと考えてよいでしょう。
また、一定数で吐き気、下痢、呼吸困難など副作用が認められます3)。
少しでも早く症状が改善することに価値を感じる先生もおられるかもしれませんが、
合併症や死亡のリスクの少ない患者層に一律に抗インフルエンザ薬を処方してしまえば、
医療費の高騰や耐性ウイルスを増やす懸念もあります。
つまり、健常者への抗インフルエンザ薬を一律処方することはリスクとベネフィットのバランスが悪いと私は考えています。
ただ、ここには価値観の問題も関わりますので、
患者にメリットとデメリットを説明した上で処方するかを決めるのが現実的でしょう。
もし処方するならば発症後48時間以内(できればもっと早く)に、というのが原則であり、
早期の投与が症状短縮により有効です。
一方でリスク因子を有する患者(表1)は、積極的に抗インフルエンザ薬を処方すべきです。
リスクのある患者では、発症後48時間を超えていても、処方を検討してもよいでしょう。
表1 抗インフルエンザ薬の積極的な投与が推奨される合併症のハイリスク患者(米国感染症学会ガイドラインを基に作成)
・『5歳未満の小児(特に2歳未満)』
・『65歳以上の成人』
・『喘息を含む慢性気道疾患、心血管疾患(高血圧は除く)、腎疾患、肝疾患、糖尿病を含む代謝疾患、てんかんを含む神経疾患』
・『免疫抑制薬服用者やHIV感染者』
・『妊婦や出産後』
・アスピリンを使用中のライ症候群リスクがある人
・BMI 40kg/m2以上の肥満者
・『高齢者施設に居住する人』
抗インフルエンザ薬を処方する場合、迅速検査の結果は必須ではありません。
抗インフルエンザ薬の恩恵は投与が早い方が大きいため、翌日に再診させて再検査する必要もありません。
もし先生が臨床症状からインフルエンザを強く疑い、抗インフルエンザ薬を処方すると判断しているならば、薬を処方して自宅静養を指示すべきです。
翌日の再診再検査は、患者さんもつらく、コストもかかり、周囲への感染拡大のリスクにもなるため、良いことはあまりないのです。
抗インフルエンザ薬は何を処方すべきか?
現在承認されている抗インフルエンザ薬には4つの系統、7つの薬剤があります。
3つの系統とは、
ウイルスの脱核を阻害するM2蛋白阻害薬(アマンタジン((商品名シンメトレル他))はA型インフルエンザにしか効果がない上、既に耐性ウイルスが多くを占めているため、原則使用しません。また、ポリメラーゼ阻害薬としてファビピラビル((アビガン))が承認されていますが、催奇形性があるため、国が使用を判断したときのみに投与が認められており、日常診療で使うことはありません)、
ウイルスで複製された遺伝子が細胞外へ出るための酵素を阻害するノイラミニダーゼ阻害薬、
ウイルスのRNA合成を阻害するキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬とポリメラーゼ阻害薬です。
現在、インフルエンザ治療に用いる薬剤の中心はA型B型のいずれにも有効なノイラミニダーゼ阻害薬が中心なっています。
米国感染症学会のガイドラインでもノイラミニダーゼ阻害薬を単剤で使用することが推奨されています1)。
我が国では、ノイラミニダーゼ阻害薬として、
内服薬のオセルタミビル(タミフル他)、
吸入薬のザナミビル(リレンザ)、ラニナミビル(イナビル)、
点滴薬のペラミビル(ラピアクタ)の4剤が承認されています。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
最も広く使われているオセルタミビルは一時期、投与後の異常行動や飛び降りが問題になりましたが、
その因果関係は否定的と判断されており、
今シーズンからは10歳代への投与差し控えも撤回されました。
そのため、安全性が最も明瞭で評価されている薬剤ということになります。
さらに臨床試験も最も豊富であり、2018年6月からはジェネリックも登場しており、最も安価です。
ラニナミビルは1回吸入で治療が完結する便利な薬剤ですが、
海外では臨床試験でオセルタミビルに対する非劣性が証明できず、発売されていません3)。
またオセルタミビルに比べ発熱期間が長いことも報告されるなど
効果がオセルタミビルに対して低いと考えられます。
また、吸入薬は局所投与となるため、
重篤なインフルエンザ、喘息のような気道過敏性がある患者や吸入困難な患者への投与は制限されてしまいます。
ただし、オセルタミビル耐性ウイルスには効果があります。
ザナミビルもオセルタミビル耐性ウイルスには効果があり、ウイルス耐性も起きにくいですが、吸入薬であることなどから、あまり我が国では用いられていません。
ペラミビルは点滴薬であり、
重症例や内服吸入ができない症例に使える薬剤と期待していますが、
そのエビデンスが乏しいところが問題です。
重症例では経管チューブからオセルタミビルを投与する方が良いかもしれません。
またオセルタミビル耐性ウイルスには交差耐性を有するため、こちらにも注意が必要です4)。
以上から、オセルタミビルが最もエビデンスが豊富であり、安全性、コストをトータルに考えると、現時点では私は原則としてオセルタミビルを第一選択薬として推奨します。
『ゾフルーザ』はメディアでは大きく扱われているが…
では、昨年発売されたバロキサビル(ゾフルーザ)はどうでしょう?
バロキサビルは1回服用するだけでよい便利な新規抗インフルエンザ薬であり、マスコミ報道では「患者の97%が要求する」とのデータも提示されていました。
ただ、その患者さんのニーズが新薬の利益だけでなく、
不利益も理解した上でなければ、
それは科学に基づいた医療ではなく、
単なるマーケティングの成功にすぎません。
科学的に見ると、
重症化リスクの低い患者への投与では、オセルタミビル投与時と比較して臨床的な改善効果は非劣性でした5)。
つまり、薬の効き具合では引き分けなのです。
ウイルスの減少スピードはバロキサビルの方が速かったというデータから、
1回の投与で完結することと合わせてバロキサビルを勧める医師もいるようですが、
あくまで重要なのは治験時の1次エンドポイントである臨床効果の改善なのです。
仮に1歩譲って、副評価項目のウイルスの抑制が高いことを評価するとしても、
薬価が高いことや、
まだ長期使用の副作用の懸念があること、
1日1回投与で半減期が長いため、
副作用出現の際に重症化したり治癒が遅れることが懸念されます。
実際に筆者はバロキサビルによると思われる遷延した薬疹を既に経験しています。
また、治験時に『9.7%の薬剤耐性ウイルスが出現』していることにも注視しなくてはなりません5)。
この薬剤に対してウイルスが急速に耐性化する懸念があるのです。
バロキサビルの利点は、1回投与で完結できるだけではありません。
オセルタミビルのようなノイミラミニダーゼ阻害剤に耐性となったウイルスや、
人類に脅威となる高病原性の新型ウイルス出現の際の治療薬としても使用できる可能性があるにもかかわらず、
「1回投与で便利なため患者が希望する」という理由だけでその切り札を失ってもよいのでしょうか?
オセルタミビル耐性ウイルスを過度に懸念するのも、理由にはなりません。
流行するウイルスの動向には注意が必要ですが、
国立感染症研究所からの情報では
2018シーズンのタミフル耐性ウイルスの検出は解析株では存在せず、まれなようです6)。
以上から筆者はバロキサビルを現時点で推奨しません。
一部の有名病院ではこのような理由から本薬剤の採用を見合わせているのです
(関連記事:亀田がゾフルーザの採用を見合わせた理由)。
日本感染症学会も、日本小児科学会も本薬剤の位置付けは不明確として積極的な推奨を見送っていることも留意すべきでしょう7)、8)。
新薬の利益、不利益を客観的に評価して慎重に処方する姿勢が大切ではないでしょうか。
なお、米国感染症学会では、今回のガイドライン策定後にゾフルーザが承認されたため、
今回のガイドラインでは推奨の有無については言及していません。
過去に発売後、副作用で消えた抗菌薬が幾つもあります。
また新薬の安易な処方が薬剤耐性(AMR)の原因の1つと指摘されています。
過去の歴史に反省なく、新薬であるゾフルーザがいきなり処方シェアを拡大するようならば、
この国のAMR対策が成功するのかはなはだ疑問です。
むしろ、今シーズンに抗インフルエンザ薬を使うならば、
ジェネリックが利用できるようになり、10歳代への使用も可能となった今こそ、オセルタミビルを選択すべきではないでしょうか。
※ なお、岡氏は塩野義製薬より、診療科への奨学寄付金を受けている。他の抗インフルエンザ薬の販売メーカーからの資金提供は受けていない。
【参考文献】
1)米国感染症学会「Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America」(2018)
2)Cochrane Database Syst Rev 2014;4:CD008965 PMID:24718923
3)Biota Reports Top-Line Data From Its Phase 2 "IGLOO" Trial of Laninamivir Octanoate(2014)
4)Takashita E,et al.Antivirai Res.2015;117:27-38.
5)Hayden FG,et al. N Engl J Med 2018;379:913-23.
6)国立感染症研究所 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス
7)日本感染症学会ホームページ キャップ依存型エンドヌクレアーゼ阻害剤について
8)日本小児科学会ホームページ2018/2019シーズンのインフルエンザ治療
著者プロフィール
岡秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科准教授)●おかひであき氏。
2000年日本大学卒。日本大学第一内科で研修後、横浜市立大学、神戸大学、東京高輪病院などを経て、2017年より現職。