2019年02月15日
確かにタミフル(オセルタミビル)が出てくるまで、薬がなくても困らなかった疾患だった。
確かにタミフル(オセルタミビル)が出てくるまで、薬がなくても困らなかった疾患だった。
高リスク患者(高齢者や2-5歳未満の小児、慢性疾患患者や免疫不全者、妊娠女性など)以外は、解熱薬で熱を下げて、栄養を摂って、寝ていれば治ったよね。
臨床ニュース
ゾフルーザ不採用の亀田、インフルエンザ治療のそもそも論【時流◆抗インフル薬2018-19】
亀田総合病院感染症科部長・細川直登氏に聞く
m3.com編集部2019年1月28日 (月)配信 一般内科疾患小児科疾患一般外科疾患感染症投薬に関わる問題
バロキサビルマルボキシル(商品名ゾフルーザ)の本格登場が話題の本インフルエンザシーズンにおいて、シーズン入り直前の2018年11月に「ゾフルーザ採用見送り」というタイトルのブログ記事を掲載し、全国の医療関係者の耳目を集めた亀田総合病院(千葉県鴨川市)。
流行真っ只中の今、“宣言”に込めた真意を、同院感染症科部長の細川直登氏に尋ねた。(取材・まとめ:m3.com編集部・軸丸靖子)
「その新薬でなければならない理由があったのか」
――貴院感染症科のブログに「ゾフルーザ採用見送り」というタイトルの記事が公開されたのが2018年11月。その1カ月後には、理由を解説された記事を追加掲載されました。それだけ反響があったのでしょうか?
反響はかなりありましたね。Twitterで「亀田の英断」などというツイートもあったという話ですが(笑)、そんな思い切ったことをしたつもりは僕らにはないのです。
われわれは元々、ゾフルーザは「今すぐに使うべき薬ではない」と認識していました。
こうした基幹病院では地域の医療機関から問い合わせを受けることも多いので、当科Facebook担当の黒田浩一医師が記事にしてアップしてくれたのです。
新薬は大抵、登場当初はすごく評価が高いものですが、数年たつと評価が変わることがままあります。
新薬の承認に向けた臨床試験では、対象が限定的な上、医師の監視下で投与されますから、効果は過大評価されがちです。逆に、副作用のように「確率は低いけれど大きな問題」は見えにくくなり、大抵は市販後に分かります 。
その薬以外に方法はなく、患者さんにもよく説明して承諾が得られていれば、市販後調査の結果評価が変わってもよい。しかし、抗インフルエンザウイルス薬はそういうタイプの薬ではない、というのがわれわれの考え方です。
無論、誰かが試みなければ知見は得られないのですから、新薬の使用を批判する気は毛頭ありません。しかし、新薬を投与した患者さんに副作用が出た場合、その医師はやはり「その薬でなければならない理由があったのか」を問われます。これは新薬の使用を決める際の、重要なポイントになります。
医師は新しいものが好き、患者も好き?
医師は皆、医学を学んできている科学者です。科学は「something new」がなければ駄目な世界なので、新発見に高い価値が置かれ、「新しいもの=良いもの」となりがちです。ですが、新しくてもよくよく吟味すると良くない点が見えてくることがあります。このときに重要なファクターになるのが、「何のためのものか」ということです。
例えば、あなたの担当医に「これはまだ誰も試したことのない、世界初の新薬です。あなたの病気に効くかもしれないから、ちょっと試してみましょうか」と言われたとします。その病気が感冒だったら、試しますか?
――いいえ、感冒ですから。
その感冒に対して、「医療レベルの高い国であればどこでも使われていて、これが今一番良いとされている治療法があります。一番治る確率が高い方法ですが、これはどうですか」と言われたらどうしますか?
さらに、あなたの病気は感冒ではなく末期癌で、明日には死ぬかもしれない状態だとして、「この新薬だったら一発逆転できるかもしれない。世界でまだ誰も試したことのない新薬だし、だめなら死んでしまうけれど、うまくいけば生き続けられる可能性は3割くらいあるかもしれません」と言われたらどうしますか?
――明日死ぬかもしれないなら、賭けてみます。
そういうことです。インフルエンザは明日死んでしまう病気ではない。毎年ほぼ必ず流行る、自然現象のような感染症です。大抵は薬を使わなくても治りますし、インフルエンザによって人類が滅亡の危機に瀕したこともありません。スペイン風邪の時には世界で何千万人もが死亡しましたが、医療環境が異なる現代でそれを懸念する必要はありません。
そもそも、インフルエンザはオセルタミビル(商品名タミフル)が登場するまでは薬がなくても困らなかった疾患です。高リスク患者(高齢者や2-5歳未満の小児、慢性疾患患者や免疫不全者、妊娠女性など)以外は、解熱薬で熱を下げて、栄養を摂って、寝ていてもらえるのが多分一番良い。
だから、われわれは市販後に分かってくる知見を待って、使うかどうかを決めるというスタンスなのです。他の先生方に影響を与えようというものではありません。 どの薬を使うかは、あくまでもそれぞれの施設で、プロである医師が判断すべきものと思っています。
健常成人へのタミフルは効果わずか
ゾフルーザの評価をするには、現状の抗インフルエンザウイルス薬の評価がどうなっているかを押さえなければなりません。
タミフルやザナミビル(商品名リレンザ)といったノイラミニダーゼ阻害薬については、2014年にコクラン共同計画によるシステマティックレビューの結果が公表されています(Cochrane Database Syst Rev 2014; (4): CD008965)。
製造販売元からデータ提供を得るなどして、107件の臨床試験データを再分析した結果、健常な成人インフルエンザ患者では、ノイラミニダーゼ阻害薬を投与すると有症状期間が約1日短縮することが分かりました(タミフルは7日間から6.3日間、リレンザは6.6日間から6.0日間に短縮)。
タミフルによる入院や合併症の減少効果は認められず、肺炎については、肺炎の定義が各臨床試験によってバラバラで、評価ができる状態ではないことが分かりました。リレンザでは入院についてのデータがありませんでした。
各国で国家備蓄されるタミフルをもってしても、ささやかな治療効果しか得られないというこの結果から、コクランのレビューアーらは、タミフルの国家備蓄を中止するよう英国政府に進言しています。世界保健機関(WHO)も必須医薬品のリストからタミフルを外し、「補足的な薬」に格下げしました。
一方で、インフルエンザの合併症高リスク患者については、タミフルは死亡リスクや入院リスクを減少させることが確認されています(Ann Intern Med 2012;156:512-524)。われわれも、高リスク患者や妊娠女性においては、発症48時間以内を基本に抗ウイルス薬を投与していますし、症例によっては48時間を超えても投与を検討することがあります。
日本で昨シーズン最も多く使われたラニナミビル(イナビル)については、成人でタミフルへの非劣性が確認されていますが、海外12カ国で行われた第II相試験では、プラセボに比較した有効性が示せませんでした。既存薬に非劣性だからといって、プラセボに優るとは限らないのです。
気になるゾフルーザの耐性問題
ゾフルーザについては、CAPSTONE-1の結果が論文になっています(N Engl J Med 2018; 379: 913-923)。重症化や合併症のリスクを持たない12-64歳のインフルエンザ患者を対象とした第II、III相臨床試験で、インフルエンザの有症状期間がプラセボに対して26.5時間有意に短縮し、タミフルに対しては非劣性を示したという結果でした。
この試験で注目されたのは、ゾフルーザによるウイルス排出期間の短縮効果です。ゾフルーザ投与群では、タミフルやプラセボより早くウイルスの排泄が減りました。この知見からは、「ゾフルーザを服用した患者では、学校や会社を休む期間が短く済むのではないか」という解釈をされることがあるかもしれません。
ここで問題になるのが、ゾフルーザの大きな懸念点――耐性です。ゾフルーザでは、ゾフルーザ低感受性に関与する遺伝子変異が出やすいことが分かっています。これは、投与した薬が途中で効かなくなる場合があることを意味します。
ゾフルーザのインタビューフォームによると、同薬の半減期は約4日間(95.8±18.2時間)と非常に長い。だからこそ単回投与でも体の中に薬がとどまることできるのですが、その間にウイルスが変異してしまうかもしれない。最初はウイルスの増殖が止まっても、途中で薬の効かないウイルスに変異して、消えずにとどまる可能性があるということです。
そうすると、変異したウイルスの排出期間はむしろ長くなります。一度減ったウイルスが、薬の効かないウイルスになってリバウンドする可能性もあります。実際、ゾフルーザ投与から3日目以降に、一過性のウイルス価の上昇が見られたケースが観察されています。ただし、変異したウイルスがどのくらい増えるか、流行しやすいのかは不明です。
ゾフルーザに期待する効果
ゾフルーザはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性選択的阻害薬という、全く新しい作用機序の薬なので、タミフルが効かなかったウイルスに効果を発揮する可能性があります。
また、まだ論文になっていませんが、高リスク者を対象に行われたCAPSTONE-2(2018年10月に米国感染症学会で発表)では、ゾフルーザ投与患者で二次性肺炎に対する抗菌薬使用やインフルエンザ関連合併症が有意に減ったということでした。今後、インフルエンザによる死亡を減らす可能性があるかもしれない。これらの部分で、私はゾフルーザに期待を持っています。
ゾフルーザがその効果を発揮するためには、今は耐性ウイルスを増やさないことが重要です。ですからわれわれは、今は使わないと決めました。使わなければ明日にも患者さんが死んでしまう薬ではないのですから、慌てる必要は何もないのです。
「1回だけ飲めば良い」は評価の本分ではない
――ゾフルーザは薬価が高いことも議論されています。
ゾフルーザの薬価は1回4789円、体重80kg以上の患者さんだと2倍の約9500円です。タミフルのジェネリックならば1治療当たり5日間の薬代は1360円ですから、3.5倍以上の差になります。
インフルエンザは、1シーズンで何百万人、多ければ1000万人単位で罹患者が出る感染症です。ゾフルーザとタミフル(ジェネリック)の差額に投与患者数をかけた額が、わが国の医療保険財政の新たな負荷になります。われわれ臨床医は、「それだけのお金をかけて余りある効果が得られるのか」を、冷静に考える必要があります。
――ゾフルーザの単回経口投与という特色は、選択の理由になりますか? 重症化リスクの高い高齢者では、吸入タイプの抗ウイルス薬よりアドヒアランスが良いと考えられます。
それは本末転倒ですね。薬剤なのですから、評価の本分は治療効果と副作用であるべきで、それに比べれば服用方法は大きな論点ではありません。効果について考察せずに、「1回服用だから良い」という部分だけをフィーチャーするのはおかしい。
ゾフルーザの服用方法が特色だと思うのは、「既存薬と効果も副作用も同じで、大して悪いことは起こらないだろう」という前提があるからでしょう。患者さんがそれを言うなら分かりますが、医師がその前提を無批判に受け入れてしまってはいけないと思います。
――患者さんに「新薬を試したい」と言われたら、どうしますか?
経験上そうはなりません。患者さんの希望は当然聞くけれど、全て希望通りにすることが良い医療ではありません。患者さんには冷静な選択をするための情報提供を十分にしなければなりませんが、インフルエンザ診療のように時間の制約がある場合は、専門家が薬のベネフィットとリスクを適切に評価し、方針をある程度決めて患者さんに提案するのが、医師としてのプロの仕事だと私は思います 。
高リスク患者(高齢者や2-5歳未満の小児、慢性疾患患者や免疫不全者、妊娠女性など)以外は、解熱薬で熱を下げて、栄養を摂って、寝ていれば治ったよね。
臨床ニュース
ゾフルーザ不採用の亀田、インフルエンザ治療のそもそも論【時流◆抗インフル薬2018-19】
亀田総合病院感染症科部長・細川直登氏に聞く
m3.com編集部2019年1月28日 (月)配信 一般内科疾患小児科疾患一般外科疾患感染症投薬に関わる問題
バロキサビルマルボキシル(商品名ゾフルーザ)の本格登場が話題の本インフルエンザシーズンにおいて、シーズン入り直前の2018年11月に「ゾフルーザ採用見送り」というタイトルのブログ記事を掲載し、全国の医療関係者の耳目を集めた亀田総合病院(千葉県鴨川市)。
流行真っ只中の今、“宣言”に込めた真意を、同院感染症科部長の細川直登氏に尋ねた。(取材・まとめ:m3.com編集部・軸丸靖子)
「その新薬でなければならない理由があったのか」
――貴院感染症科のブログに「ゾフルーザ採用見送り」というタイトルの記事が公開されたのが2018年11月。その1カ月後には、理由を解説された記事を追加掲載されました。それだけ反響があったのでしょうか?
反響はかなりありましたね。Twitterで「亀田の英断」などというツイートもあったという話ですが(笑)、そんな思い切ったことをしたつもりは僕らにはないのです。
われわれは元々、ゾフルーザは「今すぐに使うべき薬ではない」と認識していました。
こうした基幹病院では地域の医療機関から問い合わせを受けることも多いので、当科Facebook担当の黒田浩一医師が記事にしてアップしてくれたのです。
新薬は大抵、登場当初はすごく評価が高いものですが、数年たつと評価が変わることがままあります。
新薬の承認に向けた臨床試験では、対象が限定的な上、医師の監視下で投与されますから、効果は過大評価されがちです。逆に、副作用のように「確率は低いけれど大きな問題」は見えにくくなり、大抵は市販後に分かります 。
その薬以外に方法はなく、患者さんにもよく説明して承諾が得られていれば、市販後調査の結果評価が変わってもよい。しかし、抗インフルエンザウイルス薬はそういうタイプの薬ではない、というのがわれわれの考え方です。
無論、誰かが試みなければ知見は得られないのですから、新薬の使用を批判する気は毛頭ありません。しかし、新薬を投与した患者さんに副作用が出た場合、その医師はやはり「その薬でなければならない理由があったのか」を問われます。これは新薬の使用を決める際の、重要なポイントになります。
医師は新しいものが好き、患者も好き?
医師は皆、医学を学んできている科学者です。科学は「something new」がなければ駄目な世界なので、新発見に高い価値が置かれ、「新しいもの=良いもの」となりがちです。ですが、新しくてもよくよく吟味すると良くない点が見えてくることがあります。このときに重要なファクターになるのが、「何のためのものか」ということです。
例えば、あなたの担当医に「これはまだ誰も試したことのない、世界初の新薬です。あなたの病気に効くかもしれないから、ちょっと試してみましょうか」と言われたとします。その病気が感冒だったら、試しますか?
――いいえ、感冒ですから。
その感冒に対して、「医療レベルの高い国であればどこでも使われていて、これが今一番良いとされている治療法があります。一番治る確率が高い方法ですが、これはどうですか」と言われたらどうしますか?
さらに、あなたの病気は感冒ではなく末期癌で、明日には死ぬかもしれない状態だとして、「この新薬だったら一発逆転できるかもしれない。世界でまだ誰も試したことのない新薬だし、だめなら死んでしまうけれど、うまくいけば生き続けられる可能性は3割くらいあるかもしれません」と言われたらどうしますか?
――明日死ぬかもしれないなら、賭けてみます。
そういうことです。インフルエンザは明日死んでしまう病気ではない。毎年ほぼ必ず流行る、自然現象のような感染症です。大抵は薬を使わなくても治りますし、インフルエンザによって人類が滅亡の危機に瀕したこともありません。スペイン風邪の時には世界で何千万人もが死亡しましたが、医療環境が異なる現代でそれを懸念する必要はありません。
そもそも、インフルエンザはオセルタミビル(商品名タミフル)が登場するまでは薬がなくても困らなかった疾患です。高リスク患者(高齢者や2-5歳未満の小児、慢性疾患患者や免疫不全者、妊娠女性など)以外は、解熱薬で熱を下げて、栄養を摂って、寝ていてもらえるのが多分一番良い。
だから、われわれは市販後に分かってくる知見を待って、使うかどうかを決めるというスタンスなのです。他の先生方に影響を与えようというものではありません。 どの薬を使うかは、あくまでもそれぞれの施設で、プロである医師が判断すべきものと思っています。
健常成人へのタミフルは効果わずか
ゾフルーザの評価をするには、現状の抗インフルエンザウイルス薬の評価がどうなっているかを押さえなければなりません。
タミフルやザナミビル(商品名リレンザ)といったノイラミニダーゼ阻害薬については、2014年にコクラン共同計画によるシステマティックレビューの結果が公表されています(Cochrane Database Syst Rev 2014; (4): CD008965)。
製造販売元からデータ提供を得るなどして、107件の臨床試験データを再分析した結果、健常な成人インフルエンザ患者では、ノイラミニダーゼ阻害薬を投与すると有症状期間が約1日短縮することが分かりました(タミフルは7日間から6.3日間、リレンザは6.6日間から6.0日間に短縮)。
タミフルによる入院や合併症の減少効果は認められず、肺炎については、肺炎の定義が各臨床試験によってバラバラで、評価ができる状態ではないことが分かりました。リレンザでは入院についてのデータがありませんでした。
各国で国家備蓄されるタミフルをもってしても、ささやかな治療効果しか得られないというこの結果から、コクランのレビューアーらは、タミフルの国家備蓄を中止するよう英国政府に進言しています。世界保健機関(WHO)も必須医薬品のリストからタミフルを外し、「補足的な薬」に格下げしました。
一方で、インフルエンザの合併症高リスク患者については、タミフルは死亡リスクや入院リスクを減少させることが確認されています(Ann Intern Med 2012;156:512-524)。われわれも、高リスク患者や妊娠女性においては、発症48時間以内を基本に抗ウイルス薬を投与していますし、症例によっては48時間を超えても投与を検討することがあります。
日本で昨シーズン最も多く使われたラニナミビル(イナビル)については、成人でタミフルへの非劣性が確認されていますが、海外12カ国で行われた第II相試験では、プラセボに比較した有効性が示せませんでした。既存薬に非劣性だからといって、プラセボに優るとは限らないのです。
気になるゾフルーザの耐性問題
ゾフルーザについては、CAPSTONE-1の結果が論文になっています(N Engl J Med 2018; 379: 913-923)。重症化や合併症のリスクを持たない12-64歳のインフルエンザ患者を対象とした第II、III相臨床試験で、インフルエンザの有症状期間がプラセボに対して26.5時間有意に短縮し、タミフルに対しては非劣性を示したという結果でした。
この試験で注目されたのは、ゾフルーザによるウイルス排出期間の短縮効果です。ゾフルーザ投与群では、タミフルやプラセボより早くウイルスの排泄が減りました。この知見からは、「ゾフルーザを服用した患者では、学校や会社を休む期間が短く済むのではないか」という解釈をされることがあるかもしれません。
ここで問題になるのが、ゾフルーザの大きな懸念点――耐性です。ゾフルーザでは、ゾフルーザ低感受性に関与する遺伝子変異が出やすいことが分かっています。これは、投与した薬が途中で効かなくなる場合があることを意味します。
ゾフルーザのインタビューフォームによると、同薬の半減期は約4日間(95.8±18.2時間)と非常に長い。だからこそ単回投与でも体の中に薬がとどまることできるのですが、その間にウイルスが変異してしまうかもしれない。最初はウイルスの増殖が止まっても、途中で薬の効かないウイルスに変異して、消えずにとどまる可能性があるということです。
そうすると、変異したウイルスの排出期間はむしろ長くなります。一度減ったウイルスが、薬の効かないウイルスになってリバウンドする可能性もあります。実際、ゾフルーザ投与から3日目以降に、一過性のウイルス価の上昇が見られたケースが観察されています。ただし、変異したウイルスがどのくらい増えるか、流行しやすいのかは不明です。
ゾフルーザに期待する効果
ゾフルーザはキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性選択的阻害薬という、全く新しい作用機序の薬なので、タミフルが効かなかったウイルスに効果を発揮する可能性があります。
また、まだ論文になっていませんが、高リスク者を対象に行われたCAPSTONE-2(2018年10月に米国感染症学会で発表)では、ゾフルーザ投与患者で二次性肺炎に対する抗菌薬使用やインフルエンザ関連合併症が有意に減ったということでした。今後、インフルエンザによる死亡を減らす可能性があるかもしれない。これらの部分で、私はゾフルーザに期待を持っています。
ゾフルーザがその効果を発揮するためには、今は耐性ウイルスを増やさないことが重要です。ですからわれわれは、今は使わないと決めました。使わなければ明日にも患者さんが死んでしまう薬ではないのですから、慌てる必要は何もないのです。
「1回だけ飲めば良い」は評価の本分ではない
――ゾフルーザは薬価が高いことも議論されています。
ゾフルーザの薬価は1回4789円、体重80kg以上の患者さんだと2倍の約9500円です。タミフルのジェネリックならば1治療当たり5日間の薬代は1360円ですから、3.5倍以上の差になります。
インフルエンザは、1シーズンで何百万人、多ければ1000万人単位で罹患者が出る感染症です。ゾフルーザとタミフル(ジェネリック)の差額に投与患者数をかけた額が、わが国の医療保険財政の新たな負荷になります。われわれ臨床医は、「それだけのお金をかけて余りある効果が得られるのか」を、冷静に考える必要があります。
――ゾフルーザの単回経口投与という特色は、選択の理由になりますか? 重症化リスクの高い高齢者では、吸入タイプの抗ウイルス薬よりアドヒアランスが良いと考えられます。
それは本末転倒ですね。薬剤なのですから、評価の本分は治療効果と副作用であるべきで、それに比べれば服用方法は大きな論点ではありません。効果について考察せずに、「1回服用だから良い」という部分だけをフィーチャーするのはおかしい。
ゾフルーザの服用方法が特色だと思うのは、「既存薬と効果も副作用も同じで、大して悪いことは起こらないだろう」という前提があるからでしょう。患者さんがそれを言うなら分かりますが、医師がその前提を無批判に受け入れてしまってはいけないと思います。
――患者さんに「新薬を試したい」と言われたら、どうしますか?
経験上そうはなりません。患者さんの希望は当然聞くけれど、全て希望通りにすることが良い医療ではありません。患者さんには冷静な選択をするための情報提供を十分にしなければなりませんが、インフルエンザ診療のように時間の制約がある場合は、専門家が薬のベネフィットとリスクを適切に評価し、方針をある程度決めて患者さんに提案するのが、医師としてのプロの仕事だと私は思います 。
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