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2019年03月15日
2018年(平成30年)10月にアレルギー情報をまとめたポータルサイトが開設されました(https://allergyportal.jp/)
2018年(平成30年)10月にアレルギー情報をまとめたポータルサイトが開設されました(https://allergyportal.jp/)。
「何か体に異変を感じた際、とにかくまずはここにアクセスしてください、基本の情報をここで手に入れてください」との思いを込めて作成されています。
「食物アレルギーの対策が未熟だったと痛感」
【平成の医療史30年◆アレルギー疾患編】
アレルギー治療の変遷を西間三馨氏に聞く―Vol.2
アレルギー診療のガイドライン作成や吸入ステロイドの普及に努めた
国立病院機構福岡病院名誉院長である西間三馨氏に、平成を通じたアレルギー疾患の変遷を聞く企画。
第2回では、アレルギー診療にまつわる2つの事件が臨床現場にもたらした変化を振り返る。
アナフィラキシーショックに対する学校の体制は一気に変化した。
(聞き手・まとめ:m3.com編集部・宮内諭/2018年12月17日取材、全3回連載)
2018年、正しいアレルギー情報を届けるwebサイト開設
――平成の30年史で大きな転換点となった出来事はありますか?
アレルギー領域での大きな事件といえば、
2009年(平成21年)頃から表面化してきた「茶のしずく石けん事件」ですね。
ある商品を使った方に重篤なアレルギーが引き起こされたというものでしたが、結局、原因は石けんに含まれていた加水分解小麦でした。
被害者数は2000人以上にのぼりました。
この石けんを製造していた会社は福岡県にあるので、多くの患者が国立病院機構福岡病院に来院しました。
問診すると皆、「この石けんを使い始めてからアレルギーが出た」と言うのです。
確かに、小麦の多い職場で働く方がパウダーを大量に吸うことで喘息や鼻炎、アトピー性皮膚炎が引き起こされるという事例は報告されていましたが、
石けんを使用するだけでアナフィラキシーショックが引き起こされるとは信じられない、
と思っていました。
しかし、その後も同じような患者が立て続けに来院していると岸川禮子アレルギー科医長の報告でさすがにおかしいと感じ、全国の主な病院に問い合わせてみると、福岡、島根、神奈川の3カ所の病院で60例ほど見つかりました。
――事件はどのような経過をたどったのでしょうか?
販売会社は当初、自社の製品が原因だと認めようとしませんでしたが、
国立病院機構相模原病院の福冨友馬医師(現・同院臨床研究センター診断・治療薬開発研究室室長)は、見事に基礎的・臨床的に解析して加水分解小麦が原因であることを証明していきました。
最終的に会社も自主回収に応じ、和解金も支払いましたが、
『厚生労働省や消費者庁、そしてマスコミの動きは鈍く』、いたずらに被害者を増やしてしまいました。
今思い返すと、壮大な人体実験だったと言えるでしょうね。
食物アレルギーが皮膚の感作から発症し、それがアナフィラキシーショックまで引き起こすということが図らずも証明されてしまったのです。
この事件を通し、アレルギーの正しい知識を提供するサイトが必要だと痛感しました。
そこで、厚生労働省と日本アレルギー学会の協力の下、
2018年(平成30年)10月にアレルギー情報をまとめたポータルサイトが開設されました(https://allergyportal.jp/)。
「何か体に異変を感じた際、とにかくまずはここにアクセスしてください、基本の情報をここで手に入れてください」との思いを込めて作成されています。
1990年代のステロイドバッシング以降、
今もアトピー性皮膚炎や花粉症をターゲットとした怪しいビジネスが、
叩いても叩いても雨後の筍のように現れています。
このようなビジネスにだまされる人を一人でも減らすよう、更新を続けていかなければなりません。
また、皆がアクセスしやすいようにまだまだ工夫の余地は残されています。
しかし、公的な機関のバックアップの下、このようなサイトを公開できたというのは極めて大きいことだと感じています。
食物アレルギーに対する学校の体制が一気に変化
――その他にも転換点はありますか?
2012年(平成24年)、東京都調布市で、牛乳アレルギーを持った小学5年生の女子児童が給食に出たチーズ入りのチヂミを食べてしまい、アナフィラキシーショックで亡くなるという痛ましい事件がありました。
彼女はアドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン)を持っていましたが、
学校の対処が十分ではなく、エピペンの打つタイミングも遅れたのです。
私は、この事件の原因を分析する文部科学省の有識者会議の座長を務め、
どのような状況で事件が起きたのか、
再発防止のためにはどのような体制を作ればよいか、
などを分析しました。
その結果の一部として、
日本小児アレルギー学会から、アナフィラキシーショックを疑うケースでエピペンを使用すべき13の兆候を発表しました。
「意識がもうろうとしている」、
「声がかすれる」などに
一つでも当てはまれば、そばにいる人は迷わずエピペンを打つというような、詳しい事故防止対策、緊急時の対処方法を定めたのです。
しかし、あれはつらい事件でした。
学校現場における食物アレルギーの対応策が未熟ではあったのですが、
私達医療者の責任も大きいと痛感しました。
事故後、学校の体制は一気に変わりましたね。
それまで、学校の中に医療は絶対持ち込ませない、
薬を飲ませるのだって抵抗する、
注射なんて論外、という風潮でしたが、
事故後は、エピペンがごく普通に学校で使われるようになったのです。
学校の抵抗をなくし、エピペンの使用を徹底するために文科省は尽力しました。
最近、文科省はしょっちゅう叩かれていますが、ちゃんとなすべきことも行っています。
給食についても、食物アレルギー疾患を持ったお子さんの家族から学校生活管理指導表(アレルギー疾患についての詳しい情報を主治医が記した用紙)が出されれば、きちんと対応を取るようになりましたからね。
今、食物アレルギー治療については、経口免疫療法の開発が進んでいます。
全く食べられなかったお子さんであっても、
少量であればもし誤食してもショック死しない程度までには治すことができるようになりつつあります。
しかし、まだ定量的、客観的なデータに沿った治療法は確立されていません。
ましてや治療薬も有望なものはありません。今後の研究開発に期待しています。
「何か体に異変を感じた際、とにかくまずはここにアクセスしてください、基本の情報をここで手に入れてください」との思いを込めて作成されています。
「食物アレルギーの対策が未熟だったと痛感」
【平成の医療史30年◆アレルギー疾患編】
アレルギー治療の変遷を西間三馨氏に聞く―Vol.2
アレルギー診療のガイドライン作成や吸入ステロイドの普及に努めた
国立病院機構福岡病院名誉院長である西間三馨氏に、平成を通じたアレルギー疾患の変遷を聞く企画。
第2回では、アレルギー診療にまつわる2つの事件が臨床現場にもたらした変化を振り返る。
アナフィラキシーショックに対する学校の体制は一気に変化した。
(聞き手・まとめ:m3.com編集部・宮内諭/2018年12月17日取材、全3回連載)
2018年、正しいアレルギー情報を届けるwebサイト開設
――平成の30年史で大きな転換点となった出来事はありますか?
アレルギー領域での大きな事件といえば、
2009年(平成21年)頃から表面化してきた「茶のしずく石けん事件」ですね。
ある商品を使った方に重篤なアレルギーが引き起こされたというものでしたが、結局、原因は石けんに含まれていた加水分解小麦でした。
被害者数は2000人以上にのぼりました。
この石けんを製造していた会社は福岡県にあるので、多くの患者が国立病院機構福岡病院に来院しました。
問診すると皆、「この石けんを使い始めてからアレルギーが出た」と言うのです。
確かに、小麦の多い職場で働く方がパウダーを大量に吸うことで喘息や鼻炎、アトピー性皮膚炎が引き起こされるという事例は報告されていましたが、
石けんを使用するだけでアナフィラキシーショックが引き起こされるとは信じられない、
と思っていました。
しかし、その後も同じような患者が立て続けに来院していると岸川禮子アレルギー科医長の報告でさすがにおかしいと感じ、全国の主な病院に問い合わせてみると、福岡、島根、神奈川の3カ所の病院で60例ほど見つかりました。
――事件はどのような経過をたどったのでしょうか?
販売会社は当初、自社の製品が原因だと認めようとしませんでしたが、
国立病院機構相模原病院の福冨友馬医師(現・同院臨床研究センター診断・治療薬開発研究室室長)は、見事に基礎的・臨床的に解析して加水分解小麦が原因であることを証明していきました。
最終的に会社も自主回収に応じ、和解金も支払いましたが、
『厚生労働省や消費者庁、そしてマスコミの動きは鈍く』、いたずらに被害者を増やしてしまいました。
今思い返すと、壮大な人体実験だったと言えるでしょうね。
食物アレルギーが皮膚の感作から発症し、それがアナフィラキシーショックまで引き起こすということが図らずも証明されてしまったのです。
この事件を通し、アレルギーの正しい知識を提供するサイトが必要だと痛感しました。
そこで、厚生労働省と日本アレルギー学会の協力の下、
2018年(平成30年)10月にアレルギー情報をまとめたポータルサイトが開設されました(https://allergyportal.jp/)。
「何か体に異変を感じた際、とにかくまずはここにアクセスしてください、基本の情報をここで手に入れてください」との思いを込めて作成されています。
1990年代のステロイドバッシング以降、
今もアトピー性皮膚炎や花粉症をターゲットとした怪しいビジネスが、
叩いても叩いても雨後の筍のように現れています。
このようなビジネスにだまされる人を一人でも減らすよう、更新を続けていかなければなりません。
また、皆がアクセスしやすいようにまだまだ工夫の余地は残されています。
しかし、公的な機関のバックアップの下、このようなサイトを公開できたというのは極めて大きいことだと感じています。
食物アレルギーに対する学校の体制が一気に変化
――その他にも転換点はありますか?
2012年(平成24年)、東京都調布市で、牛乳アレルギーを持った小学5年生の女子児童が給食に出たチーズ入りのチヂミを食べてしまい、アナフィラキシーショックで亡くなるという痛ましい事件がありました。
彼女はアドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン)を持っていましたが、
学校の対処が十分ではなく、エピペンの打つタイミングも遅れたのです。
私は、この事件の原因を分析する文部科学省の有識者会議の座長を務め、
どのような状況で事件が起きたのか、
再発防止のためにはどのような体制を作ればよいか、
などを分析しました。
その結果の一部として、
日本小児アレルギー学会から、アナフィラキシーショックを疑うケースでエピペンを使用すべき13の兆候を発表しました。
「意識がもうろうとしている」、
「声がかすれる」などに
一つでも当てはまれば、そばにいる人は迷わずエピペンを打つというような、詳しい事故防止対策、緊急時の対処方法を定めたのです。
しかし、あれはつらい事件でした。
学校現場における食物アレルギーの対応策が未熟ではあったのですが、
私達医療者の責任も大きいと痛感しました。
事故後、学校の体制は一気に変わりましたね。
それまで、学校の中に医療は絶対持ち込ませない、
薬を飲ませるのだって抵抗する、
注射なんて論外、という風潮でしたが、
事故後は、エピペンがごく普通に学校で使われるようになったのです。
学校の抵抗をなくし、エピペンの使用を徹底するために文科省は尽力しました。
最近、文科省はしょっちゅう叩かれていますが、ちゃんとなすべきことも行っています。
給食についても、食物アレルギー疾患を持ったお子さんの家族から学校生活管理指導表(アレルギー疾患についての詳しい情報を主治医が記した用紙)が出されれば、きちんと対応を取るようになりましたからね。
今、食物アレルギー治療については、経口免疫療法の開発が進んでいます。
全く食べられなかったお子さんであっても、
少量であればもし誤食してもショック死しない程度までには治すことができるようになりつつあります。
しかし、まだ定量的、客観的なデータに沿った治療法は確立されていません。
ましてや治療薬も有望なものはありません。今後の研究開発に期待しています。
2019年03月14日
『咳喘息』の定義、治療法が一部変更されました!
『咳喘息』の定義、治療法が一部変更されました!
世界初、喀痰の診療ガイドラインを作成ー咳嗽ガイドラインの改訂版に追加
2018年05月15日 06:15
咳嗽(がいそう;せき)は日常診療で高頻度に遭遇する症状の1つである。
日本呼吸器学会では2005年に『咳嗽に関するガイドライン(GL)』を作成し、2012年には第2版を刊行した。
しかし、咳嗽と密接に関連し、診療上重要な意味を持つ喀痰のGLは存在しなかった。
そこで同学会では今年(2018年)、咳嗽に関するGLの改訂版に喀痰の項目を追加した
『咳嗽・喀痰の診断と治療のGL』(新GL)を刊行する予定である。
元・東京女子医科大学内科学第一講座主任教授(現・英GSK Global Medical Expert)で新GLの作成委員長を務める玉置淳氏は、そのポイントを第58回日本呼吸器学会(4月27〜29日)で紹介した。
咳嗽治療薬を追記、代表的な喀痰治療薬を記載
新GLでは、近年新たに判明した咳嗽の発生機序に言及。
神経線維の1つとして知られるC線維に存在するイオンチャネルのP2X3受容体、TRPV1受容体などが咳反射を亢進するメカニズムを説明している。
また、成人遷延性咳嗽や慢性咳嗽については、検査から診断、投与すべき治療薬までを示したフローチャートを新規に掲載した。
咳嗽に対する直接的治療薬に関しては、
中枢性鎮咳薬にコデインとデキストロメトルファン、
知覚神経に作用する薬剤にリドカインを記載している点は従来通りだが、
間接的治療薬として抗コリン薬、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を新たに追加した。
一方、喀痰治療薬としては、
分泌物産生の抑制効果を有するマクロライド系抗菌薬やフドステイン、抗コリン薬など、
分泌物排除の促進効果を有するブロムヘキシン、N‒アセチルシステイン、デオキシリボヌクレアーゼ、L‒カルボシステイン、アンブロキソールなどを列記
咳喘息の過剰診断を防ぐための変更
新GLでは咳喘息の診断基準も改訂された。
従来は
@喘鳴を伴わない咳が8週間(場合によっては3週間)以上持続し、聴診でも息切れを認めない
A気管支拡張薬(β刺激薬またはテオフィリン製剤など)が有効
−の2点を基準としていた。
しかし、今回は@の「場合によっては3週間」、
Aの「テオフィリン製剤」の文言が削除されたという。
その理由を、玉置氏は
「咳喘息はかねてから過剰診断の多さが指摘されていたため、咳の持続期間をより厳密に定める必要があった。
加えて、現在咳喘息に対する気管支拡張薬はβ刺激薬が一般的になっている点を考慮し、テオフィリン製剤は割愛した」と説明した。
(有効血中濃度が狭く、中毒域に達した場合、痙攣(ケイレン)から低酸素脳症を最悪引き起こすこともあり、小児、高齢者には害が多いため、欧米では喘息薬としても使用しなくなった「管理人註」)
さらに、
中等症以上の咳喘息に対する長期管理薬として長時間作用性抗コリン(LAMA)、
発作治療として中用量のSMART療法〔吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬の配合剤の頓用〕が追記されたという。
咳嗽の新概念、喀痰におけるFAQも
新GLでは、近年提唱された咳嗽の概念で、原因不明かつ難治性の慢性咳嗽であるUCC(Unexplained Chronic Cough)の特徴や傾向についても解説。
その定義を
@8週間以上続く咳
Aさまざまな(気管支喘息の)検査で(気管支喘息の)陽性所見〔好酸球性気道炎症、気道過敏性の亢進、呼気一酸化窒素(NO)の上昇〕を認めない−とし、
ICSやβ刺激薬(気管支喘息で効く薬)が無効である点などを記述しているという。
(要は”気管支喘息ではありません”ということです「管理人註」)
なお、喀痰に関連するFAQ(よくある質問)も掲載しており、
病的気道粘液産生の経路を図示し、
びまん性汎細気管支炎や気管支拡張症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴う喀痰に対する各種治療法の有用性を、エビデンスに基づき示している。
このように説明した玉置氏は、「古くから咳嗽や喀痰で苦しむ患者は多く見られた。新GLがそういった患者を救う一助になってほしい」と期待を寄せた。(陶山 慎晃)
世界初、喀痰の診療ガイドラインを作成ー咳嗽ガイドラインの改訂版に追加
2018年05月15日 06:15
咳嗽(がいそう;せき)は日常診療で高頻度に遭遇する症状の1つである。
日本呼吸器学会では2005年に『咳嗽に関するガイドライン(GL)』を作成し、2012年には第2版を刊行した。
しかし、咳嗽と密接に関連し、診療上重要な意味を持つ喀痰のGLは存在しなかった。
そこで同学会では今年(2018年)、咳嗽に関するGLの改訂版に喀痰の項目を追加した
『咳嗽・喀痰の診断と治療のGL』(新GL)を刊行する予定である。
元・東京女子医科大学内科学第一講座主任教授(現・英GSK Global Medical Expert)で新GLの作成委員長を務める玉置淳氏は、そのポイントを第58回日本呼吸器学会(4月27〜29日)で紹介した。
咳嗽治療薬を追記、代表的な喀痰治療薬を記載
新GLでは、近年新たに判明した咳嗽の発生機序に言及。
神経線維の1つとして知られるC線維に存在するイオンチャネルのP2X3受容体、TRPV1受容体などが咳反射を亢進するメカニズムを説明している。
また、成人遷延性咳嗽や慢性咳嗽については、検査から診断、投与すべき治療薬までを示したフローチャートを新規に掲載した。
咳嗽に対する直接的治療薬に関しては、
中枢性鎮咳薬にコデインとデキストロメトルファン、
知覚神経に作用する薬剤にリドカインを記載している点は従来通りだが、
間接的治療薬として抗コリン薬、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を新たに追加した。
一方、喀痰治療薬としては、
分泌物産生の抑制効果を有するマクロライド系抗菌薬やフドステイン、抗コリン薬など、
分泌物排除の促進効果を有するブロムヘキシン、N‒アセチルシステイン、デオキシリボヌクレアーゼ、L‒カルボシステイン、アンブロキソールなどを列記
咳喘息の過剰診断を防ぐための変更
新GLでは咳喘息の診断基準も改訂された。
従来は
@喘鳴を伴わない咳が8週間(場合によっては3週間)以上持続し、聴診でも息切れを認めない
A気管支拡張薬(β刺激薬またはテオフィリン製剤など)が有効
−の2点を基準としていた。
しかし、今回は@の「場合によっては3週間」、
Aの「テオフィリン製剤」の文言が削除されたという。
その理由を、玉置氏は
「咳喘息はかねてから過剰診断の多さが指摘されていたため、咳の持続期間をより厳密に定める必要があった。
加えて、現在咳喘息に対する気管支拡張薬はβ刺激薬が一般的になっている点を考慮し、テオフィリン製剤は割愛した」と説明した。
(有効血中濃度が狭く、中毒域に達した場合、痙攣(ケイレン)から低酸素脳症を最悪引き起こすこともあり、小児、高齢者には害が多いため、欧米では喘息薬としても使用しなくなった「管理人註」)
さらに、
中等症以上の咳喘息に対する長期管理薬として長時間作用性抗コリン(LAMA)、
発作治療として中用量のSMART療法〔吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬の配合剤の頓用〕が追記されたという。
咳嗽の新概念、喀痰におけるFAQも
新GLでは、近年提唱された咳嗽の概念で、原因不明かつ難治性の慢性咳嗽であるUCC(Unexplained Chronic Cough)の特徴や傾向についても解説。
その定義を
@8週間以上続く咳
Aさまざまな(気管支喘息の)検査で(気管支喘息の)陽性所見〔好酸球性気道炎症、気道過敏性の亢進、呼気一酸化窒素(NO)の上昇〕を認めない−とし、
ICSやβ刺激薬(気管支喘息で効く薬)が無効である点などを記述しているという。
(要は”気管支喘息ではありません”ということです「管理人註」)
なお、喀痰に関連するFAQ(よくある質問)も掲載しており、
病的気道粘液産生の経路を図示し、
びまん性汎細気管支炎や気管支拡張症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴う喀痰に対する各種治療法の有用性を、エビデンスに基づき示している。
このように説明した玉置氏は、「古くから咳嗽や喀痰で苦しむ患者は多く見られた。新GLがそういった患者を救う一助になってほしい」と期待を寄せた。(陶山 慎晃)
2019年03月13日
麻疹感染女性、新幹線で新大阪―東京間往復〔読売新聞〕
風疹ワクチン接種とおなじで、一時、麻疹ワクチン接種も親御さんが回避した時代の副産物です。
徳川将軍も麻疹で死んでいます!感染力が高く、致死率も高い感染症です。予防が何より!
麻疹感染女性、新幹線で新大阪―東京間往復〔読売新聞〕
2019年02月15日 16:16
大阪府は14日、麻疹(はしか)への感染が判明した40歳代の女性が、今月8〜10日に新幹線で新大阪―東京間を往復していたと発表した。府は、乗客に感染の恐れがあるとして、注意を呼びかけている。
発表によると、女性は8日午前11時56分新大阪発の東海道新幹線「のぞみ340号」と、10日午後6時東京発の「のぞみ121号」に乗車。発熱や発疹を訴えて12日に府内の医療機関を受診し、13日、感染が判明した。
大阪府内のはしか患者は今年に入って46人(12日現在)と、昨年1年間(15人)の3倍に上っている。
(2019年2月15日 読売新聞)
麻疹は「はしか」とも呼ばれ、感染力は極めて強く、免疫がない人は90%以上が発病します。
江戸時代までの日本では麻疹は「命定め」の病として恐れられていました。
現在ではビタミンAが不足すると麻疹の重症化を招きやすいことが知られており、発展途上国では死亡率が10〜30%に達する場合があると言われています。
我が国においても麻疹は最近まで度々大きな流行を繰り返していましたが、
ワクチンの接種率の向上や多くの関係者の努力により、国内の麻疹の発症者数は大きく減少しました。
症状
典型的な麻疹の発症例では、感染後10〜14日間の潜伏期を経て、以下の経過をたどります。
(1)カタル期:38℃前後の発熱、上気道炎症状等、経過中に頬粘膜にコプリック斑出現
(2)発疹期:39℃以上の発熱、頭頚部より発疹が出現して全身に広がる
(3)回復期
カタル期が最も感染力が強い時期となっており、カタル期で麻疹であることに気づかずに行動することが、感染を広げる原因となります。
合併症として肺炎、中耳炎、脳炎、心筋炎等があり、2000年に大阪で麻疹が流行した際には入院率は40%を超えました。未だに有効な治療方法はありません。
感染経路
麻疹は麻疹ウイルスが人から人へ感染していく感染症です。
他の生物は媒介しません。
人から人への感染経路としては空気(飛沫核)感染の他に、飛沫感染、接触感染もあります。
麻疹は空気感染によって拡がる代表的な感染症であり、その感染力は強く、1人の発症者から12〜14人に感染させるといわれています。
麻疹発症者が周囲の人に感染させることが可能な期間(感染可能期間)は、発熱等の症状が出現する1日前から発疹出現後4〜5日目くらいまでです。
学校保健安全法施行規則では、麻疹に罹患した場合は解熱後3日間を経過するまで出席停止とされています。
予防
麻疹は空気(飛沫核)感染する感染症です。
麻疹ウイルスの直径は100〜250nmであり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクを装着しても感染を防ぐことは困難です。
麻疹の感染発症を防ぐ唯一の予防手段は、予めワクチンを接種して麻疹に対する免疫を獲得しておくことです。
合併症
麻しんにはさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。
その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、
特にこの二つの合併症は麻疹による二大死因となり、注意が必要です。
麻疹の合併症には以下にあげるものがあります。
ア)肺炎:麻疹の合併症で最も多いのは肺炎です。
麻疹の肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。
○ウイルス性肺炎:ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎であり、病初期に認められることが多いです。抗ウイルス剤ありません!
○細菌性肺炎:細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、
原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬投与による治療が必要です。
○巨細胞性肺炎:細胞性免疫不全の状態の時に麻疹を発症した場合にみられる肺炎です。
肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いです。
発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。
イ)中耳炎:細菌の二次感染により生じ、麻しん患者の約5〜15%にみられ、肺炎と並んで頻度の多い合併症です。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。
ウ)クループ症候群:クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は乳幼児の麻しんの合併症として多くみられるもののひとつです。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。
吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理が必要になる場合があります。
エ)脳炎:麻疹を発症した1,000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併します。
発生頻度は高くはありませんが、肺炎とともに麻疹発症者の主要な2大死因の1つとされており、要注意です。
発疹出現後2〜6日頃に発症することが多く、麻疹そのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。
脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。
オ)亜急性硬化性全脳炎(SSPE):麻疹に罹患して治癒した後7〜10年後に発症する中枢神経疾患であり、M蛋白が変異した麻疹ウイルスの中枢神経系への持続感染によって発症するといわれています。
発症の頻度は麻しん罹患者10万例に1人と極めて低いですが、
知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示し、
発症から平均6〜9か月で死の転帰をとる、
進行性の予後不良疾患です。
この疾患の本態は未だに不明であり、有効な治療方法はありません。
修飾麻疹とは
麻疹に対する免疫は持っているけれども、不十分な人が麻しんウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあります。このような場合を『修飾麻疹』と呼んでいます。
例えば、潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出現しない、発疹が手足だけで全身には出ない、発疹は急速に出現するけれども融合しない、などです。
感染力は弱いものの周囲の人への感染源になるので注意が必要です。
通常合併症は少なく、経過も短いため、風疹など他の発熱発疹性疾患と誤診されることもあります。
以前は母体由来の移行抗体が残存している乳児や、ヒトガンマグロブリン製剤を投与された後に見られていました。
最近では、麻疹ワクチン既接種者が、その後長期間麻疹ウイルスに曝露せず、ブースター効果(免疫増強効果)が得られないままに体内での麻疹抗体が減衰して麻しんに罹患する場合〔このような人をsecondary vaccine failure(SVF)と呼びます〕が多く見られるようになっています。
参考資料として
・Measles Fact sheet. WHO ホームページ
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs286/en/
・国立感染症研究所ホームページ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
・岡部信彦,多屋馨子:予防接種に関する Q&A 集.一般社団法人日本ワクチン産業協会,2014年
・Control of Communicable Diseases Manual 19th Edition. An official report of the American Public Health Association: 2008
・Communicable Disease Control and Health Protection Handbook the 3rd Edition.Hawker J. MD., Begg N. MD., et al: Blackwell Publishing Ltd. 2012
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2018/5
徳川将軍も麻疹で死んでいます!感染力が高く、致死率も高い感染症です。予防が何より!
麻疹感染女性、新幹線で新大阪―東京間往復〔読売新聞〕
2019年02月15日 16:16
大阪府は14日、麻疹(はしか)への感染が判明した40歳代の女性が、今月8〜10日に新幹線で新大阪―東京間を往復していたと発表した。府は、乗客に感染の恐れがあるとして、注意を呼びかけている。
発表によると、女性は8日午前11時56分新大阪発の東海道新幹線「のぞみ340号」と、10日午後6時東京発の「のぞみ121号」に乗車。発熱や発疹を訴えて12日に府内の医療機関を受診し、13日、感染が判明した。
大阪府内のはしか患者は今年に入って46人(12日現在)と、昨年1年間(15人)の3倍に上っている。
(2019年2月15日 読売新聞)
麻疹は「はしか」とも呼ばれ、感染力は極めて強く、免疫がない人は90%以上が発病します。
江戸時代までの日本では麻疹は「命定め」の病として恐れられていました。
現在ではビタミンAが不足すると麻疹の重症化を招きやすいことが知られており、発展途上国では死亡率が10〜30%に達する場合があると言われています。
我が国においても麻疹は最近まで度々大きな流行を繰り返していましたが、
ワクチンの接種率の向上や多くの関係者の努力により、国内の麻疹の発症者数は大きく減少しました。
症状
典型的な麻疹の発症例では、感染後10〜14日間の潜伏期を経て、以下の経過をたどります。
(1)カタル期:38℃前後の発熱、上気道炎症状等、経過中に頬粘膜にコプリック斑出現
(2)発疹期:39℃以上の発熱、頭頚部より発疹が出現して全身に広がる
(3)回復期
カタル期が最も感染力が強い時期となっており、カタル期で麻疹であることに気づかずに行動することが、感染を広げる原因となります。
合併症として肺炎、中耳炎、脳炎、心筋炎等があり、2000年に大阪で麻疹が流行した際には入院率は40%を超えました。未だに有効な治療方法はありません。
感染経路
麻疹は麻疹ウイルスが人から人へ感染していく感染症です。
他の生物は媒介しません。
人から人への感染経路としては空気(飛沫核)感染の他に、飛沫感染、接触感染もあります。
麻疹は空気感染によって拡がる代表的な感染症であり、その感染力は強く、1人の発症者から12〜14人に感染させるといわれています。
麻疹発症者が周囲の人に感染させることが可能な期間(感染可能期間)は、発熱等の症状が出現する1日前から発疹出現後4〜5日目くらいまでです。
学校保健安全法施行規則では、麻疹に罹患した場合は解熱後3日間を経過するまで出席停止とされています。
予防
麻疹は空気(飛沫核)感染する感染症です。
麻疹ウイルスの直径は100〜250nmであり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクを装着しても感染を防ぐことは困難です。
麻疹の感染発症を防ぐ唯一の予防手段は、予めワクチンを接種して麻疹に対する免疫を獲得しておくことです。
合併症
麻しんにはさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。
その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、
特にこの二つの合併症は麻疹による二大死因となり、注意が必要です。
麻疹の合併症には以下にあげるものがあります。
ア)肺炎:麻疹の合併症で最も多いのは肺炎です。
麻疹の肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。
○ウイルス性肺炎:ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎であり、病初期に認められることが多いです。抗ウイルス剤ありません!
○細菌性肺炎:細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、
原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬投与による治療が必要です。
○巨細胞性肺炎:細胞性免疫不全の状態の時に麻疹を発症した場合にみられる肺炎です。
肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いです。
発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。
イ)中耳炎:細菌の二次感染により生じ、麻しん患者の約5〜15%にみられ、肺炎と並んで頻度の多い合併症です。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。
ウ)クループ症候群:クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は乳幼児の麻しんの合併症として多くみられるもののひとつです。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。
吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理が必要になる場合があります。
エ)脳炎:麻疹を発症した1,000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併します。
発生頻度は高くはありませんが、肺炎とともに麻疹発症者の主要な2大死因の1つとされており、要注意です。
発疹出現後2〜6日頃に発症することが多く、麻疹そのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。
脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。
オ)亜急性硬化性全脳炎(SSPE):麻疹に罹患して治癒した後7〜10年後に発症する中枢神経疾患であり、M蛋白が変異した麻疹ウイルスの中枢神経系への持続感染によって発症するといわれています。
発症の頻度は麻しん罹患者10万例に1人と極めて低いですが、
知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示し、
発症から平均6〜9か月で死の転帰をとる、
進行性の予後不良疾患です。
この疾患の本態は未だに不明であり、有効な治療方法はありません。
修飾麻疹とは
麻疹に対する免疫は持っているけれども、不十分な人が麻しんウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあります。このような場合を『修飾麻疹』と呼んでいます。
例えば、潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出現しない、発疹が手足だけで全身には出ない、発疹は急速に出現するけれども融合しない、などです。
感染力は弱いものの周囲の人への感染源になるので注意が必要です。
通常合併症は少なく、経過も短いため、風疹など他の発熱発疹性疾患と誤診されることもあります。
以前は母体由来の移行抗体が残存している乳児や、ヒトガンマグロブリン製剤を投与された後に見られていました。
最近では、麻疹ワクチン既接種者が、その後長期間麻疹ウイルスに曝露せず、ブースター効果(免疫増強効果)が得られないままに体内での麻疹抗体が減衰して麻しんに罹患する場合〔このような人をsecondary vaccine failure(SVF)と呼びます〕が多く見られるようになっています。
参考資料として
・Measles Fact sheet. WHO ホームページ
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs286/en/
・国立感染症研究所ホームページ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
・岡部信彦,多屋馨子:予防接種に関する Q&A 集.一般社団法人日本ワクチン産業協会,2014年
・Control of Communicable Diseases Manual 19th Edition. An official report of the American Public Health Association: 2008
・Communicable Disease Control and Health Protection Handbook the 3rd Edition.Hawker J. MD., Begg N. MD., et al: Blackwell Publishing Ltd. 2012
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2018/5
2019年03月10日
その『じんましん』は本当に蕁麻疹?
『膨疹』ってご存知ですか?
<Dr.デルぽんの診察室観察日記 >
第1回 その『じんましん』は本当に蕁麻疹?
私がまだ大学で働いていた頃のこと。
時間外受付のナースに「じんましんの患者さんがいます」と呼ばれていったところ、診察で皮膚を見たら「『中毒疹』だった」ということがありました。
日頃、皮膚科の外来でも「じんましんが出来て…」と自己申告してくる患者さんは割といます。
「どれ膨疹でも出ているかな」と服をあげて診ると、
丘疹が集蔟した「湿疹」だったり。
紅暈を帯びた小水疱が帯状に並んだ「帯状疱疹」だったり…と。意外と正しい蕁麻疹ではなかったりします。
こうした発言を聞いていると、
どうも「何か赤いものができた」ことを指し、
「じんましん」と称しているようです。
医療者にとっての蕁麻疹とは必ずしも一致しないため、
問診で「じんましん」と書かれていても、すぐには信じないようになりました。
もちろんなかには、過去に蕁麻疹の経験があり自己判断できる患者さんや、実際に膨疹を写真に撮って見せてくれる、正しい蕁麻疹の患者さんもいます。
前情報が何であれ、問診や診察で正しい診断はつくのですが、冒頭ナースの例もあり、患者さんの主訴を鵜呑みにしないことは大事だなあと思った次第です。
Dr.デルぽん 皮膚科専門医
『デルマな日常』のブロガー。
鋭い観察眼で、皮膚疾患を見逃さず、同時に診察室の患者やスタッフの面白い挙動も見逃さない!
最近のマイブームは、綿菓子製造機。
好きなキャラは、「赤い彗星のシャア」や「JOJOの宿敵DIO」などのイケメンヒール(悪役)。
現在、『joy.net』『PHPくらしラクーる』などで好評連載中。
<Dr.デルぽんの診察室観察日記 >
第1回 その『じんましん』は本当に蕁麻疹?
私がまだ大学で働いていた頃のこと。
時間外受付のナースに「じんましんの患者さんがいます」と呼ばれていったところ、診察で皮膚を見たら「『中毒疹』だった」ということがありました。
日頃、皮膚科の外来でも「じんましんが出来て…」と自己申告してくる患者さんは割といます。
「どれ膨疹でも出ているかな」と服をあげて診ると、
丘疹が集蔟した「湿疹」だったり。
紅暈を帯びた小水疱が帯状に並んだ「帯状疱疹」だったり…と。意外と正しい蕁麻疹ではなかったりします。
こうした発言を聞いていると、
どうも「何か赤いものができた」ことを指し、
「じんましん」と称しているようです。
医療者にとっての蕁麻疹とは必ずしも一致しないため、
問診で「じんましん」と書かれていても、すぐには信じないようになりました。
もちろんなかには、過去に蕁麻疹の経験があり自己判断できる患者さんや、実際に膨疹を写真に撮って見せてくれる、正しい蕁麻疹の患者さんもいます。
前情報が何であれ、問診や診察で正しい診断はつくのですが、冒頭ナースの例もあり、患者さんの主訴を鵜呑みにしないことは大事だなあと思った次第です。
Dr.デルぽん 皮膚科専門医
『デルマな日常』のブロガー。
鋭い観察眼で、皮膚疾患を見逃さず、同時に診察室の患者やスタッフの面白い挙動も見逃さない!
最近のマイブームは、綿菓子製造機。
好きなキャラは、「赤い彗星のシャア」や「JOJOの宿敵DIO」などのイケメンヒール(悪役)。
現在、『joy.net』『PHPくらしラクーる』などで好評連載中。
2019年03月07日
人工知能AIの進歩で人間力のない医者は淘汰される!
人工知能AIの進歩で人間力のない医者は淘汰される!
「患者は一人ひとり背景の異なる個別的な存在。
そのことを、コミュニケーションを通して理解し、患者と向き合ってほしい」
私たちCOMLが1992年に模擬患者の活動を始めた当時、
医学部の教授たちは「コミュニケーションなんて先輩の背中を見て学ぶものであり、教えてどうする?」
と冷ややかな反応でした。
しかし偏差値が高いというだけで医学部に入学してくる学生が増え、
異なる世代の人と話したことがない若者すらいます。
そのような中で、やはり『コミュニケーションのスキルを向上』させるためには
『訓練』が必要だと時代が変化してきたのです。
これからきっと、医療界にもAI(人工知能)が台頭してくることでしょう。
画像の読影や病理診断をはじめ、病気の診断などはAIがかなりの部分をカバーすることになるかもしれません。
となれば、医師に求められるものは、病気を理解したうえで一人ひとりの患者に応じた説明やサポートというコミュニケーションの部分が多くなるかもしれません。
私たちCOMLが模擬患者活動を始めた理由は、
「患者は一人ひとり背景の異なる個別的な存在。
そのことを、コミュニケーションを通して理解し、患者と向き合ってほしい」
という思いからでした。
もしかすると、そこにようやくスポットライトが当たる時代になったのかもしれないと感じています。
山口 育子 ( やまぐち いくこ ) 氏
認定NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML理事長
[略歴]
大阪市生まれ。自らの患者体験から、患者の自立と主体的医療への必要性を痛感していた1991年11月COMLと出会う。活動趣旨に共感し、1992年2月にCOMLのスタッフとなり、相談、編集、渉外などを担当。
2002年4月に法人化したNPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの専務理事兼事務局長を経て、2011年8月理事長に就任。著書に『賢い患者』(岩波新書)。
「患者は一人ひとり背景の異なる個別的な存在。
そのことを、コミュニケーションを通して理解し、患者と向き合ってほしい」
私たちCOMLが1992年に模擬患者の活動を始めた当時、
医学部の教授たちは「コミュニケーションなんて先輩の背中を見て学ぶものであり、教えてどうする?」
と冷ややかな反応でした。
しかし偏差値が高いというだけで医学部に入学してくる学生が増え、
異なる世代の人と話したことがない若者すらいます。
そのような中で、やはり『コミュニケーションのスキルを向上』させるためには
『訓練』が必要だと時代が変化してきたのです。
これからきっと、医療界にもAI(人工知能)が台頭してくることでしょう。
画像の読影や病理診断をはじめ、病気の診断などはAIがかなりの部分をカバーすることになるかもしれません。
となれば、医師に求められるものは、病気を理解したうえで一人ひとりの患者に応じた説明やサポートというコミュニケーションの部分が多くなるかもしれません。
私たちCOMLが模擬患者活動を始めた理由は、
「患者は一人ひとり背景の異なる個別的な存在。
そのことを、コミュニケーションを通して理解し、患者と向き合ってほしい」
という思いからでした。
もしかすると、そこにようやくスポットライトが当たる時代になったのかもしれないと感じています。
山口 育子 ( やまぐち いくこ ) 氏
認定NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML理事長
[略歴]
大阪市生まれ。自らの患者体験から、患者の自立と主体的医療への必要性を痛感していた1991年11月COMLと出会う。活動趣旨に共感し、1992年2月にCOMLのスタッフとなり、相談、編集、渉外などを担当。
2002年4月に法人化したNPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの専務理事兼事務局長を経て、2011年8月理事長に就任。著書に『賢い患者』(岩波新書)。
2019年03月06日
心臓超音波検査;心エコー(UCG)の僧帽弁逆流速度が患者の予後に直結!
心臓超音波検査;心エコー(UCG)の僧帽弁逆流速度が患者の予後に直結!
高齢化の進展により弁膜症患者数は増加しており、中でも『僧帽弁逆流症(閉鎖不全症)』は最もよくみられる弁膜症の一つ
心機能が低下したり心房細動や肺高血圧症などの合併症が生じたりした場合に、手術を検討していた。
国立循環器病研究センター(国循)で
2012年から2015年までに心エコー図検査を実施した僧帽弁逆流症患者1,312名のうち、
無症状の器質性僧帽弁逆流症患者188名について僧帽弁通過血流速度(注1)と予後の関係について解析した。
その結果、僧帽弁通過血流速度のE波が大きい患者ほど、
心血管死やうっ血性心不全、左室機能低下、心房細動、肺高血圧症などの心血管イベントを有意に多く発症することが明らかになった。
今後の展望・課題
E波の測定は、他の心エコーによる逆流の評価法と比べて、より簡便かつ測定者間での誤差が非常に少ないため、今後、適切な治療時期や治療法を検討するに当たり、広く活用できる指標となると考えられる。
2018年4月よりわが国でも僧帽弁逆流症に対するカテーテル治療「MitraClip」が保険償還されており、
今後「MitraClip」も含めた僧帽弁逆流症の治療指針となる弁膜症治療ガイドライン策定等にも役立つことが期待されている。
(注1)僧帽弁通過血流速度
左心房から左心室に向かって僧帽弁を通過する血流のスピード。心エコー図検査で「パルスドプラ法」を用いて計測したものが左室流入血流波形で(図1)、非常に簡便性の高いエコー指標である。E波は、僧帽弁逆流症の患者では大きくなるということは知られていたが、予後予測因子として使えるかどうかの検証は行われていなかった。
高齢化の進展により弁膜症患者数は増加しており、中でも『僧帽弁逆流症(閉鎖不全症)』は最もよくみられる弁膜症の一つ
心機能が低下したり心房細動や肺高血圧症などの合併症が生じたりした場合に、手術を検討していた。
国立循環器病研究センター(国循)で
2012年から2015年までに心エコー図検査を実施した僧帽弁逆流症患者1,312名のうち、
無症状の器質性僧帽弁逆流症患者188名について僧帽弁通過血流速度(注1)と予後の関係について解析した。
その結果、僧帽弁通過血流速度のE波が大きい患者ほど、
心血管死やうっ血性心不全、左室機能低下、心房細動、肺高血圧症などの心血管イベントを有意に多く発症することが明らかになった。
今後の展望・課題
E波の測定は、他の心エコーによる逆流の評価法と比べて、より簡便かつ測定者間での誤差が非常に少ないため、今後、適切な治療時期や治療法を検討するに当たり、広く活用できる指標となると考えられる。
2018年4月よりわが国でも僧帽弁逆流症に対するカテーテル治療「MitraClip」が保険償還されており、
今後「MitraClip」も含めた僧帽弁逆流症の治療指針となる弁膜症治療ガイドライン策定等にも役立つことが期待されている。
(注1)僧帽弁通過血流速度
左心房から左心室に向かって僧帽弁を通過する血流のスピード。心エコー図検査で「パルスドプラ法」を用いて計測したものが左室流入血流波形で(図1)、非常に簡便性の高いエコー指標である。E波は、僧帽弁逆流症の患者では大きくなるということは知られていたが、予後予測因子として使えるかどうかの検証は行われていなかった。
2019年03月05日
医師32年目、4月からは33年目に突入!
医師32年目、4月からは33年目に突入!
切ったことのない臓器は口腔、脳神経、腎臓、心臓
切ったことのある臓器は、甲状腺、乳腺、肺、肝・胆・膵・脾、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、副腎、膀胱、子宮、卵巣。
一般外科医として、甲状腺がん、乳がんの外科切除、後者の化学療法、緩和終末医療、
消化器外科医として、外科切除、化学療法、緩和医療、終末医療を
消化器内視鏡医として、主に消化管の止血術、粘膜切除術、食道静脈瘤に対する硬化療法を
中でも、大腸カメラによる、診断、治療を数多く手がけてきました。
4年前に、老眼、白内障による眼精疲労が顕著となり、メスとカメラをおきました。
転職して内科医として循環器、脳血管、認知症、呼吸器、消化器、糖尿病代謝、腎内、進行癌などを対象に充実した生活を送っています。総合診療科医として患者さんを外来、入院で治療しています。
また、産業医として、50人未満事業所の1次検診後の指導を行っています。
医学博士(甲種)、臨床と基礎の橋渡しができれば、と考え、病理学教室の大学院生となり、20体の病理解剖をさせていただいて、剖検医の資格をいただきました。
大腸がんの病理組織診断とK-ras点突然変異および細胞回転の指標であるPCNA(今はKi67がメインになりました)免疫染色陽性率との関連を調べて、医学博士号を取得しました。
30年前からMacユーザーです。博士号論文の仕事は統計処理が必要だったので、エクセル(当時はMacでしか動きませんでした)で入力して、ロータス123でDOSマシーン用に変換し、衛生学の教授に指導してもらって統計解析を行いました。また、3年後に予後調査を行い、Windowsのハル坊というソフトで多変量解析を行い、英文雑誌に載りました。
胃カメラでスリットパターンを胃腫瘍に投影し、3D解析できないかと工学部の教授と提携し、修士論文2編を作ってもらって、結果を内視鏡学会雑誌に投稿しました。医療機器にはできませんでしたが。
全国大会、地方会で数多くの発表もしました。
また、それを症例報告、論文にして雑誌に投稿しました。
外科系学会、内視鏡学会をやめたので、元消化器外科専門医指導医、元消化器外科化学療法認定医、元消化器内視鏡学会専門医、元外科学会専門医指導医となり、一抹の寂しさが。
2次予防(脳梗塞、心筋梗塞になった人の再発予防)だけではなく、1次予防を促すため、患者さんに食を通して、生活習慣の改善を図っています。
看護師、介護士への講義だけではなく、ネットや講演を通じて、生活習慣病への気づき、日常生活のちょっとした工夫で、健康寿命が延びることを、具体的に平易な言葉で広く知ってもらうことが、現在の目標です!
人間の体の不思議、神秘にひかれ、患者を救える医師という職業に憧れ、切除だけではなく、再建が必要となり、心、肺、腎、栄養代謝がわかっていなければ、術後管理ができない広く、奥の深い消化器外科医を選択しました。
おかげで、メスをおいても総合診療科になれました!
2年目に関連病院に出向し、同門の病院長に、週2回、診療に来る整形外科大学講師の付き人を命じられ、2年間、診察と手術に(夕方、麻酔を私がかけて、第1助手として)参加したので、”門前の小僧、経を覚える”で、手術や関節内注射はしませんが、脊柱管狭窄症などの診断や治療方針を立てることができるようになりました。
週2回、CT読影に来られる放射線科講師(のちの教授)に症例のプレゼンを時間外に命じられましたが、読影のコツを教えていただいて、県立中央病院に赴任した際に、放射線科医が見落とした十二指腸下水平脚の破裂を診断できました。頭部、頚部、胸部、全腹部CTの読影もお手の物になりました。
今、問題になっている働き方改革に逆行する外科医時代でした。
切ったことのない臓器は口腔、脳神経、腎臓、心臓
切ったことのある臓器は、甲状腺、乳腺、肺、肝・胆・膵・脾、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、副腎、膀胱、子宮、卵巣。
一般外科医として、甲状腺がん、乳がんの外科切除、後者の化学療法、緩和終末医療、
消化器外科医として、外科切除、化学療法、緩和医療、終末医療を
消化器内視鏡医として、主に消化管の止血術、粘膜切除術、食道静脈瘤に対する硬化療法を
中でも、大腸カメラによる、診断、治療を数多く手がけてきました。
4年前に、老眼、白内障による眼精疲労が顕著となり、メスとカメラをおきました。
転職して内科医として循環器、脳血管、認知症、呼吸器、消化器、糖尿病代謝、腎内、進行癌などを対象に充実した生活を送っています。総合診療科医として患者さんを外来、入院で治療しています。
また、産業医として、50人未満事業所の1次検診後の指導を行っています。
医学博士(甲種)、臨床と基礎の橋渡しができれば、と考え、病理学教室の大学院生となり、20体の病理解剖をさせていただいて、剖検医の資格をいただきました。
大腸がんの病理組織診断とK-ras点突然変異および細胞回転の指標であるPCNA(今はKi67がメインになりました)免疫染色陽性率との関連を調べて、医学博士号を取得しました。
30年前からMacユーザーです。博士号論文の仕事は統計処理が必要だったので、エクセル(当時はMacでしか動きませんでした)で入力して、ロータス123でDOSマシーン用に変換し、衛生学の教授に指導してもらって統計解析を行いました。また、3年後に予後調査を行い、Windowsのハル坊というソフトで多変量解析を行い、英文雑誌に載りました。
胃カメラでスリットパターンを胃腫瘍に投影し、3D解析できないかと工学部の教授と提携し、修士論文2編を作ってもらって、結果を内視鏡学会雑誌に投稿しました。医療機器にはできませんでしたが。
全国大会、地方会で数多くの発表もしました。
また、それを症例報告、論文にして雑誌に投稿しました。
外科系学会、内視鏡学会をやめたので、元消化器外科専門医指導医、元消化器外科化学療法認定医、元消化器内視鏡学会専門医、元外科学会専門医指導医となり、一抹の寂しさが。
2次予防(脳梗塞、心筋梗塞になった人の再発予防)だけではなく、1次予防を促すため、患者さんに食を通して、生活習慣の改善を図っています。
看護師、介護士への講義だけではなく、ネットや講演を通じて、生活習慣病への気づき、日常生活のちょっとした工夫で、健康寿命が延びることを、具体的に平易な言葉で広く知ってもらうことが、現在の目標です!
人間の体の不思議、神秘にひかれ、患者を救える医師という職業に憧れ、切除だけではなく、再建が必要となり、心、肺、腎、栄養代謝がわかっていなければ、術後管理ができない広く、奥の深い消化器外科医を選択しました。
おかげで、メスをおいても総合診療科になれました!
2年目に関連病院に出向し、同門の病院長に、週2回、診療に来る整形外科大学講師の付き人を命じられ、2年間、診察と手術に(夕方、麻酔を私がかけて、第1助手として)参加したので、”門前の小僧、経を覚える”で、手術や関節内注射はしませんが、脊柱管狭窄症などの診断や治療方針を立てることができるようになりました。
週2回、CT読影に来られる放射線科講師(のちの教授)に症例のプレゼンを時間外に命じられましたが、読影のコツを教えていただいて、県立中央病院に赴任した際に、放射線科医が見落とした十二指腸下水平脚の破裂を診断できました。頭部、頚部、胸部、全腹部CTの読影もお手の物になりました。
今、問題になっている働き方改革に逆行する外科医時代でした。
2019年03月01日
咽頭がんのリスクにも影響ー子宮頸がんで問題のウイルス
ヒトパピローマウイルスは子宮頸がんだけでなく、喉のがんの原因になります!
咽頭がんのリスクにも影響ー子宮頸がんで問題のウイルス
感染すると子宮頸(けい)がんや尖圭(せんけい)コンジローマなどを一定の確率で引き起こすことが知られているヒトパピロマウイルス(HPV)。
しかし、HPVの危険性はこれだけにとどまらない。
咽頭がんの一部の中咽頭部がん=用語説明=の患者の多くで患部にHPVの感染が報告され、
喫煙や過度の飲酒などと並んでHPV感染が発症リスクとして影響していることが分かってきた。
◇飲酒・喫煙原因と異なる治療効果
吉本世一・国立がん研究センター中央病院頭頸部外科科長
このHPVは子宮頸部(けいぶ)や中咽頭などの粘膜に付着して増殖し、
免疫などの攻撃を生き延びて長期間の継続感染に移行した場合、
確率は低いが細胞のがん化につながる、といわれている。
「中咽頭がんは、
HPVの影響を受けているものと
過度の飲酒や喫煙が主な原因と推定されるものに大別できる、
と言う方が正しい表現かもしれない。
なぜなら、治療効果も治療後の展開も大きく異なるからだ」。
国立がん研究センター中央病院の吉本世一頭頸部外科科長は、こう説明する。
吉本科長によると、
20年以上前から目立った飲酒や喫煙歴がないのに
へんとう腺に腫瘍が生じる中咽頭がんの患者が一定の割合がいて、
これらの患者では非常に『放射線治療の効果が高い』ことが臨床経験上分かっていた。
2000年を過ぎた頃から、これらの患者が患部にHPV感染が確認されるようになった。
検査を進めていくと、
欧米で中咽頭がん患者全体の70〜80%、
日本やアジアでも50%以上が
感染していることが明らかになった。
このため、同センターの一般向けのがん啓発サイトは「中咽頭がんの発生には、喫煙・飲酒との強い関連があります。
また、HPVが中咽頭がんの発生する危険性を高めることがわかっています」と記載し、
がんの進行状況や病期の評価を、
HPV感染の代用マーカーである特定のタンパク質(p16)に対する免疫染色の結果に応じて
2種類に分けて紹介している。
高橋渉・東京大学医学部付属病院放射線科医師
◇良い治療成績
このHPVの影響を受けた中咽頭がんの治療はどのようなものだろうか。
「中咽頭がんの治療としては、
放射線照射と抗がん剤などの化学療法を組み合わせたものと、手術がある。
HPVに起因する場合はどちらの治療成績も非常に良く、再発の有無などの予後も良好だ。
発病年齢も異なり、
HPV陰性(非感染)の中咽頭がんの患者は60〜70代の発病が多いのに対して、
HPV陽性(感染)の場合は50代が中心で、40代の患者も珍しくない」。
東京大学医学部付属病院放射線科で咽頭がんを専門とする高橋渉医師はこう話す。
「同じような腫瘍の大きさでも『HPV陽性では、より軽い進行度』に評価される。
また、以前はリンパ節に複数の転移があれば進行がんで深刻な状況であると診断していたが、
現在ではHPV陽性中咽頭がんではリンパ節転移があっても早期で根治が望める例が少なくないと考えられている。
診断当時は、リンパ節転移が複数あったことから『進行咽頭がん』で根治が難しいと判断されたHPV陽性の患者さんの中には、放射線治療がうまくいき、大きな副作用なく過ごしている方が多くいる」
このような経緯から、現在課題になっているのがHPV陽性中咽頭がんの患者に対する治療のあり方だ。
「多くの患者で治癒が望めるため、治療の副作用をより少なくし、
治療後の生活の質(QOL)を向上させるため、放射線の照射範囲を狭めたり、
化学療法を軽いものに変更したりできないか、世界中で研究が進んでいる。
治療現場でも患者の状況に応じて、より細かく治療法を調整している」と高橋医師は言う。
咽頭部の図解(国立がん研究センターがん情報サービスより)
◇HPV感染かを確認
喫煙や過度の飲酒の影響か、
HPVが原因かは、
治療に大きく影響する。
治療する側はもちろん、患者側も自身がHPVに持続感染しているか、少なくとも中咽頭がんと診断された段階では確認しておく必要がある。
前出の国立がん研究センター中央病院の吉本外科科長は「咽頭がんの治療を担当する専門医は重要性を熟知し、必ず検査を実施している。
患者からも積極的に説明を求めてほしい」と指摘する。
◇ワクチン摂種へ議論を
もう一つ問題なのが、HPV自体の感染予防のあり方だ。
中咽頭がんには有効な検診方法がなく、進行するまで自覚症状が出にくいため、早期発見のチャンスは高くない。
東京大学医学部付属病院放射線科の中川恵一准教授は
「感染経路については議論があるかもしれないが、
HPVが多くの人に感染しており、感染自体を防ぐためには男女共に
幼少期のHPVワクチン接種が有効なのは確かだ」と話す。
HPVワクチンをめぐっては、副反応と疑われる健康被害が報告され、訴訟を含めた社会問題となっている。
それでも中川准教授は「世界保健機関(WHO)の報告!や厚生労働省の調査でもワクチン接種と健康被害の関連は否定されている!。
早急にワクチン摂種推進に向けた議論を始めるべきだ!」と力説する。
中咽頭部は、
鼻の奥から食道につながる咽頭の管の中間部分で、口上部の軟口蓋から舌の奥の付け根の舌根までが含まれる。
鼻や口から入った空気と、口からの飲食物の両方が通る。
中咽頭がん全体の発病率は10万人に1人といわれ、
『その約半数でHPVの感染が原因』とされる。(喜多壮太郎・鈴木豊)
(2019/02/17 06:05)
咽頭がんのリスクにも影響ー子宮頸がんで問題のウイルス
感染すると子宮頸(けい)がんや尖圭(せんけい)コンジローマなどを一定の確率で引き起こすことが知られているヒトパピロマウイルス(HPV)。
しかし、HPVの危険性はこれだけにとどまらない。
咽頭がんの一部の中咽頭部がん=用語説明=の患者の多くで患部にHPVの感染が報告され、
喫煙や過度の飲酒などと並んでHPV感染が発症リスクとして影響していることが分かってきた。
◇飲酒・喫煙原因と異なる治療効果
吉本世一・国立がん研究センター中央病院頭頸部外科科長
このHPVは子宮頸部(けいぶ)や中咽頭などの粘膜に付着して増殖し、
免疫などの攻撃を生き延びて長期間の継続感染に移行した場合、
確率は低いが細胞のがん化につながる、といわれている。
「中咽頭がんは、
HPVの影響を受けているものと
過度の飲酒や喫煙が主な原因と推定されるものに大別できる、
と言う方が正しい表現かもしれない。
なぜなら、治療効果も治療後の展開も大きく異なるからだ」。
国立がん研究センター中央病院の吉本世一頭頸部外科科長は、こう説明する。
吉本科長によると、
20年以上前から目立った飲酒や喫煙歴がないのに
へんとう腺に腫瘍が生じる中咽頭がんの患者が一定の割合がいて、
これらの患者では非常に『放射線治療の効果が高い』ことが臨床経験上分かっていた。
2000年を過ぎた頃から、これらの患者が患部にHPV感染が確認されるようになった。
検査を進めていくと、
欧米で中咽頭がん患者全体の70〜80%、
日本やアジアでも50%以上が
感染していることが明らかになった。
このため、同センターの一般向けのがん啓発サイトは「中咽頭がんの発生には、喫煙・飲酒との強い関連があります。
また、HPVが中咽頭がんの発生する危険性を高めることがわかっています」と記載し、
がんの進行状況や病期の評価を、
HPV感染の代用マーカーである特定のタンパク質(p16)に対する免疫染色の結果に応じて
2種類に分けて紹介している。
高橋渉・東京大学医学部付属病院放射線科医師
◇良い治療成績
このHPVの影響を受けた中咽頭がんの治療はどのようなものだろうか。
「中咽頭がんの治療としては、
放射線照射と抗がん剤などの化学療法を組み合わせたものと、手術がある。
HPVに起因する場合はどちらの治療成績も非常に良く、再発の有無などの予後も良好だ。
発病年齢も異なり、
HPV陰性(非感染)の中咽頭がんの患者は60〜70代の発病が多いのに対して、
HPV陽性(感染)の場合は50代が中心で、40代の患者も珍しくない」。
東京大学医学部付属病院放射線科で咽頭がんを専門とする高橋渉医師はこう話す。
「同じような腫瘍の大きさでも『HPV陽性では、より軽い進行度』に評価される。
また、以前はリンパ節に複数の転移があれば進行がんで深刻な状況であると診断していたが、
現在ではHPV陽性中咽頭がんではリンパ節転移があっても早期で根治が望める例が少なくないと考えられている。
診断当時は、リンパ節転移が複数あったことから『進行咽頭がん』で根治が難しいと判断されたHPV陽性の患者さんの中には、放射線治療がうまくいき、大きな副作用なく過ごしている方が多くいる」
このような経緯から、現在課題になっているのがHPV陽性中咽頭がんの患者に対する治療のあり方だ。
「多くの患者で治癒が望めるため、治療の副作用をより少なくし、
治療後の生活の質(QOL)を向上させるため、放射線の照射範囲を狭めたり、
化学療法を軽いものに変更したりできないか、世界中で研究が進んでいる。
治療現場でも患者の状況に応じて、より細かく治療法を調整している」と高橋医師は言う。
咽頭部の図解(国立がん研究センターがん情報サービスより)
◇HPV感染かを確認
喫煙や過度の飲酒の影響か、
HPVが原因かは、
治療に大きく影響する。
治療する側はもちろん、患者側も自身がHPVに持続感染しているか、少なくとも中咽頭がんと診断された段階では確認しておく必要がある。
前出の国立がん研究センター中央病院の吉本外科科長は「咽頭がんの治療を担当する専門医は重要性を熟知し、必ず検査を実施している。
患者からも積極的に説明を求めてほしい」と指摘する。
◇ワクチン摂種へ議論を
もう一つ問題なのが、HPV自体の感染予防のあり方だ。
中咽頭がんには有効な検診方法がなく、進行するまで自覚症状が出にくいため、早期発見のチャンスは高くない。
東京大学医学部付属病院放射線科の中川恵一准教授は
「感染経路については議論があるかもしれないが、
HPVが多くの人に感染しており、感染自体を防ぐためには男女共に
幼少期のHPVワクチン接種が有効なのは確かだ」と話す。
HPVワクチンをめぐっては、副反応と疑われる健康被害が報告され、訴訟を含めた社会問題となっている。
それでも中川准教授は「世界保健機関(WHO)の報告!や厚生労働省の調査でもワクチン接種と健康被害の関連は否定されている!。
早急にワクチン摂種推進に向けた議論を始めるべきだ!」と力説する。
中咽頭部は、
鼻の奥から食道につながる咽頭の管の中間部分で、口上部の軟口蓋から舌の奥の付け根の舌根までが含まれる。
鼻や口から入った空気と、口からの飲食物の両方が通る。
中咽頭がん全体の発病率は10万人に1人といわれ、
『その約半数でHPVの感染が原因』とされる。(喜多壮太郎・鈴木豊)
(2019/02/17 06:05)
2019年02月26日
減塩に味ぽんを薦めています!
減塩に味ぽんを薦めています!
酢とだしが効いているので、減塩醤油よりも少ない量でいけるはずです!
■診察室での会話
医師 どんな風に減塩をされていますか?
患者 しょう油をなるべく使わないようにしています。
医師 それはいいですね。味付けは、どうされていますか?
(味付けの確認)
患者 ポン酢を使うようにしています。
医師 そうですか。どんなポン酢ですか?
(ポン酢の種類も確認)
患者 普通に売っている、○○というポン酢を使っています。
医師 なるほど。じつはポン酢は大きく分けると3種類あるんですが。
種類によって含まれている塩分量が全然違うんです。
患者 えっ、そうなんですか!(驚きの声)
医師 Aさんが使っている味付けポン酢は、薄口醤油より塩分量は
少ないのですが、減塩醤油と同じくらいの塩分量です
(大さじ1杯で1.4g)。
患者 ポン酢は酢だから、塩分はないと思っていました。
これからは気を付けます。
●ポイント
ポン酢には3種類ある。そして、味付けポン酢だからといって、使いすぎないようにアドバイス
●資料
大さじ1杯の塩分量
薄口しょうゆ 2.9g
濃口しょうゆ 2.6g
減塩しょうゆ 1.4g
味付けポン酢 1.4g
ポン酢 0g
ポン酢の種類
(1)ポン酢(かんきつ果汁に醸造酢を加えたもの)
(2)味付けポン酢(かんきつ果汁に醸造酢としょう油を加えたもの)
(3)ダシ入り味付けぽん酢(かんきつ果汁に醸造酢としょう油、昆布や鰹のだしを加えたもの)
講師紹介
坂根 直樹 ( さかね なおき ) 氏
京都医療センター 臨床研究センター 予防医学研究室長
酢とだしが効いているので、減塩醤油よりも少ない量でいけるはずです!
■診察室での会話
医師 どんな風に減塩をされていますか?
患者 しょう油をなるべく使わないようにしています。
医師 それはいいですね。味付けは、どうされていますか?
(味付けの確認)
患者 ポン酢を使うようにしています。
医師 そうですか。どんなポン酢ですか?
(ポン酢の種類も確認)
患者 普通に売っている、○○というポン酢を使っています。
医師 なるほど。じつはポン酢は大きく分けると3種類あるんですが。
種類によって含まれている塩分量が全然違うんです。
患者 えっ、そうなんですか!(驚きの声)
医師 Aさんが使っている味付けポン酢は、薄口醤油より塩分量は
少ないのですが、減塩醤油と同じくらいの塩分量です
(大さじ1杯で1.4g)。
患者 ポン酢は酢だから、塩分はないと思っていました。
これからは気を付けます。
●ポイント
ポン酢には3種類ある。そして、味付けポン酢だからといって、使いすぎないようにアドバイス
●資料
大さじ1杯の塩分量
薄口しょうゆ 2.9g
濃口しょうゆ 2.6g
減塩しょうゆ 1.4g
味付けポン酢 1.4g
ポン酢 0g
ポン酢の種類
(1)ポン酢(かんきつ果汁に醸造酢を加えたもの)
(2)味付けポン酢(かんきつ果汁に醸造酢としょう油を加えたもの)
(3)ダシ入り味付けぽん酢(かんきつ果汁に醸造酢としょう油、昆布や鰹のだしを加えたもの)
講師紹介
坂根 直樹 ( さかね なおき ) 氏
京都医療センター 臨床研究センター 予防医学研究室長
2019年02月25日
突然やってくる!? 外国人患者さん対応エピソード
船員の外傷、疾病を見たことがありますが、通関の職員の方がついてきてくれたのと、勤務医ですので、支払いのことまで気が回りませんでした。
突然やってくる!? 外国人患者さん対応エピソード
公開日:2017/10/13 企画・制作 ケアネット
訪日外国人の増加に伴い、医療機関でも外国人患者さんへ対応する機会が増えることが予想されています。
しかし言語や文化の違いから、思わぬ事態に発展することも珍しくありません。
本コラムでは、医療機関での体制作りの参考としていただくために、全国の医療機関に医療通訳サービスを提供する一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチの澤田 真弓氏に実際にあった事例を紹介していただきます。
第7回 訪日外国人患者の医療費で未収を発生させないために
<Case7>
高齢の中国人夫婦が来院。妻が骨折と診断され手術が必要となり、すぐに入院することになりました。
医事課職員が概算医療費(※約300万円)の提示と支払い方法の確認をしたところ、夫婦が持っているカードは中国国内で主にデビットカードとして発行されている「銀聯(ぎんれん)カード」のみでした。
病院の会計では銀聯カードの決済対応はしておらず…。
※日本国民は、通常3割負担なので、自己負担額は、90万。
65歳以上が60万、75歳以上で30万円、
所得により、上限10万円、20万円までの負担なので、それ以上は後日還付されます(入院する前に市役所で手続を取っておけば、3ヶ月を待たずに、最初から上限額でOKになります)管理人注。
対談相手
市立千歳市民病院
事務局次長 貫田 雅寿 氏
事務局総務課調整係 係長 黒田 尚樹 氏
事務局医事課医事係 主任 菊地 真一 氏
JIGH:今回は、北海道千歳市の市立千歳市民病院事務局の貫田さん、黒田さん、菊地さんにお話を伺います。このご夫婦の支払いはどうなったのでしょうか。
菊地:支払い方法について相談した結果、コンビニATMで引き出し限度額を毎日引き出してもらうことで、何とか退院日までに全額をお支払いいただくことができました。
JIGH:北海道では訪日外国人数が右肩上がりで増加しており、「外国人患者さんの受け入れ」は注目度の高いトピックだと伺っています。この事例では、会計時の支払いについての課題が浮き彫りになっていますね。
菊地:私たちの病院は空港のすぐ近くにあるので、患者さんが空港から運ばれてきたり、帰国直前の患者さんが来院したりすることがあります。
そういった方々は手元に現金(日本円)がなかったり、この事例のように利用できるクレジットカードを持っていなかったりして、医療費の未払いが発生するリスクがどうしてもあります。
JIGH:医療費の未払い防止のため、何か対策は取られているのでしょうか。
貫田:今回紹介した事例を受け、銀聯カード決済の導入を決定しました。
北海道にはアジア圏からの観光客が多く、実際に銀聯カードしか持っていないという方も多くいらっしゃいます。
銀聯カードの決済手数料は少し高いのですが、患者さんに対するサービス向上という側面のほかに、高額となる医療費の未払いリスクを回避するという点でメリットの方が勝るという判断で、導入しました。
JIGH:先進的な取り組みですね。導入後の利用状況はいかがですか。
黒田:これまで実際に銀聯カードで決済をされた患者さんは、1名です。
ただ、この患者さんは脳神経外科での手術が必要で、医療費は700万円と高額でした。
利用実績は少ないものの、今後もいつ発生するか分からない高額医療費の未収を防ぐための、体制整備という意味合いが大きいですね。
JIGH:銀聯カードへの対応のほか、未収金発生防止のために取り組まれていることがあれば教えてください。
菊地:外国人患者さんが受診されたら、
まず医事課職員が医療費の概算を事前に提示し、支払い方法について確認します。
保険に加入されている外国人患者さんは、肌感覚では4割程度という印象です。
ただしほとんどの場合、いったんは患者さんが医療機関に医療費を支払う保険内容になっているので、どうしても患者さんに支払い義務が発生します。
そのため事前のオペレーションを徹底し、患者さんに納得していただくことで、未払いリスクを回避するようにしています。
JIGH:やはり体制整備が重要ということですね。本日はありがとうございました。
<本事例からの学び>
訪日外国人患者さんの医療費未払い防止には、多様な支払い方法への対応と、事前の概算確認が重要!
澤田 真弓 ( さわだ まゆみ ) 氏
一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ / mediPhone 理事 CEO
[略歴]
東京外国語大学 外国語学部 欧米第一課程 英語専攻卒業。北京大学漢語進修プログラム修了後、インペリアルカレッジロンドンにて経営学修士号取得。帰国後、グーグル株式会社を経て、JIGHに参画。2014年、電話医療通訳のmediPhone(メディフォン)を立ち上げ、全国の医療機関に予約なしで、電話1本でつながる医療通訳サービスを提供する。利用施設数は300以上(2017年2月時点)。10言語に対応(英語・中国語・韓国語・ベトナム語・ヒンディー語・タイ語・ロシア語・スペイン語・ポルトガル語・フランス語)。
突然やってくる!? 外国人患者さん対応エピソード
公開日:2017/10/13 企画・制作 ケアネット
訪日外国人の増加に伴い、医療機関でも外国人患者さんへ対応する機会が増えることが予想されています。
しかし言語や文化の違いから、思わぬ事態に発展することも珍しくありません。
本コラムでは、医療機関での体制作りの参考としていただくために、全国の医療機関に医療通訳サービスを提供する一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチの澤田 真弓氏に実際にあった事例を紹介していただきます。
第7回 訪日外国人患者の医療費で未収を発生させないために
<Case7>
高齢の中国人夫婦が来院。妻が骨折と診断され手術が必要となり、すぐに入院することになりました。
医事課職員が概算医療費(※約300万円)の提示と支払い方法の確認をしたところ、夫婦が持っているカードは中国国内で主にデビットカードとして発行されている「銀聯(ぎんれん)カード」のみでした。
病院の会計では銀聯カードの決済対応はしておらず…。
※日本国民は、通常3割負担なので、自己負担額は、90万。
65歳以上が60万、75歳以上で30万円、
所得により、上限10万円、20万円までの負担なので、それ以上は後日還付されます(入院する前に市役所で手続を取っておけば、3ヶ月を待たずに、最初から上限額でOKになります)管理人注。
対談相手
市立千歳市民病院
事務局次長 貫田 雅寿 氏
事務局総務課調整係 係長 黒田 尚樹 氏
事務局医事課医事係 主任 菊地 真一 氏
JIGH:今回は、北海道千歳市の市立千歳市民病院事務局の貫田さん、黒田さん、菊地さんにお話を伺います。このご夫婦の支払いはどうなったのでしょうか。
菊地:支払い方法について相談した結果、コンビニATMで引き出し限度額を毎日引き出してもらうことで、何とか退院日までに全額をお支払いいただくことができました。
JIGH:北海道では訪日外国人数が右肩上がりで増加しており、「外国人患者さんの受け入れ」は注目度の高いトピックだと伺っています。この事例では、会計時の支払いについての課題が浮き彫りになっていますね。
菊地:私たちの病院は空港のすぐ近くにあるので、患者さんが空港から運ばれてきたり、帰国直前の患者さんが来院したりすることがあります。
そういった方々は手元に現金(日本円)がなかったり、この事例のように利用できるクレジットカードを持っていなかったりして、医療費の未払いが発生するリスクがどうしてもあります。
JIGH:医療費の未払い防止のため、何か対策は取られているのでしょうか。
貫田:今回紹介した事例を受け、銀聯カード決済の導入を決定しました。
北海道にはアジア圏からの観光客が多く、実際に銀聯カードしか持っていないという方も多くいらっしゃいます。
銀聯カードの決済手数料は少し高いのですが、患者さんに対するサービス向上という側面のほかに、高額となる医療費の未払いリスクを回避するという点でメリットの方が勝るという判断で、導入しました。
JIGH:先進的な取り組みですね。導入後の利用状況はいかがですか。
黒田:これまで実際に銀聯カードで決済をされた患者さんは、1名です。
ただ、この患者さんは脳神経外科での手術が必要で、医療費は700万円と高額でした。
利用実績は少ないものの、今後もいつ発生するか分からない高額医療費の未収を防ぐための、体制整備という意味合いが大きいですね。
JIGH:銀聯カードへの対応のほか、未収金発生防止のために取り組まれていることがあれば教えてください。
菊地:外国人患者さんが受診されたら、
まず医事課職員が医療費の概算を事前に提示し、支払い方法について確認します。
保険に加入されている外国人患者さんは、肌感覚では4割程度という印象です。
ただしほとんどの場合、いったんは患者さんが医療機関に医療費を支払う保険内容になっているので、どうしても患者さんに支払い義務が発生します。
そのため事前のオペレーションを徹底し、患者さんに納得していただくことで、未払いリスクを回避するようにしています。
JIGH:やはり体制整備が重要ということですね。本日はありがとうございました。
<本事例からの学び>
訪日外国人患者さんの医療費未払い防止には、多様な支払い方法への対応と、事前の概算確認が重要!
澤田 真弓 ( さわだ まゆみ ) 氏
一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ / mediPhone 理事 CEO
[略歴]
東京外国語大学 外国語学部 欧米第一課程 英語専攻卒業。北京大学漢語進修プログラム修了後、インペリアルカレッジロンドンにて経営学修士号取得。帰国後、グーグル株式会社を経て、JIGHに参画。2014年、電話医療通訳のmediPhone(メディフォン)を立ち上げ、全国の医療機関に予約なしで、電話1本でつながる医療通訳サービスを提供する。利用施設数は300以上(2017年2月時点)。10言語に対応(英語・中国語・韓国語・ベトナム語・ヒンディー語・タイ語・ロシア語・スペイン語・ポルトガル語・フランス語)。