2019年03月15日
2018年(平成30年)10月にアレルギー情報をまとめたポータルサイトが開設されました(https://allergyportal.jp/)
2018年(平成30年)10月にアレルギー情報をまとめたポータルサイトが開設されました(https://allergyportal.jp/)。
「何か体に異変を感じた際、とにかくまずはここにアクセスしてください、基本の情報をここで手に入れてください」との思いを込めて作成されています。
「食物アレルギーの対策が未熟だったと痛感」
【平成の医療史30年◆アレルギー疾患編】
アレルギー治療の変遷を西間三馨氏に聞く―Vol.2
アレルギー診療のガイドライン作成や吸入ステロイドの普及に努めた
国立病院機構福岡病院名誉院長である西間三馨氏に、平成を通じたアレルギー疾患の変遷を聞く企画。
第2回では、アレルギー診療にまつわる2つの事件が臨床現場にもたらした変化を振り返る。
アナフィラキシーショックに対する学校の体制は一気に変化した。
(聞き手・まとめ:m3.com編集部・宮内諭/2018年12月17日取材、全3回連載)
2018年、正しいアレルギー情報を届けるwebサイト開設
――平成の30年史で大きな転換点となった出来事はありますか?
アレルギー領域での大きな事件といえば、
2009年(平成21年)頃から表面化してきた「茶のしずく石けん事件」ですね。
ある商品を使った方に重篤なアレルギーが引き起こされたというものでしたが、結局、原因は石けんに含まれていた加水分解小麦でした。
被害者数は2000人以上にのぼりました。
この石けんを製造していた会社は福岡県にあるので、多くの患者が国立病院機構福岡病院に来院しました。
問診すると皆、「この石けんを使い始めてからアレルギーが出た」と言うのです。
確かに、小麦の多い職場で働く方がパウダーを大量に吸うことで喘息や鼻炎、アトピー性皮膚炎が引き起こされるという事例は報告されていましたが、
石けんを使用するだけでアナフィラキシーショックが引き起こされるとは信じられない、
と思っていました。
しかし、その後も同じような患者が立て続けに来院していると岸川禮子アレルギー科医長の報告でさすがにおかしいと感じ、全国の主な病院に問い合わせてみると、福岡、島根、神奈川の3カ所の病院で60例ほど見つかりました。
――事件はどのような経過をたどったのでしょうか?
販売会社は当初、自社の製品が原因だと認めようとしませんでしたが、
国立病院機構相模原病院の福冨友馬医師(現・同院臨床研究センター診断・治療薬開発研究室室長)は、見事に基礎的・臨床的に解析して加水分解小麦が原因であることを証明していきました。
最終的に会社も自主回収に応じ、和解金も支払いましたが、
『厚生労働省や消費者庁、そしてマスコミの動きは鈍く』、いたずらに被害者を増やしてしまいました。
今思い返すと、壮大な人体実験だったと言えるでしょうね。
食物アレルギーが皮膚の感作から発症し、それがアナフィラキシーショックまで引き起こすということが図らずも証明されてしまったのです。
この事件を通し、アレルギーの正しい知識を提供するサイトが必要だと痛感しました。
そこで、厚生労働省と日本アレルギー学会の協力の下、
2018年(平成30年)10月にアレルギー情報をまとめたポータルサイトが開設されました(https://allergyportal.jp/)。
「何か体に異変を感じた際、とにかくまずはここにアクセスしてください、基本の情報をここで手に入れてください」との思いを込めて作成されています。
1990年代のステロイドバッシング以降、
今もアトピー性皮膚炎や花粉症をターゲットとした怪しいビジネスが、
叩いても叩いても雨後の筍のように現れています。
このようなビジネスにだまされる人を一人でも減らすよう、更新を続けていかなければなりません。
また、皆がアクセスしやすいようにまだまだ工夫の余地は残されています。
しかし、公的な機関のバックアップの下、このようなサイトを公開できたというのは極めて大きいことだと感じています。
食物アレルギーに対する学校の体制が一気に変化
――その他にも転換点はありますか?
2012年(平成24年)、東京都調布市で、牛乳アレルギーを持った小学5年生の女子児童が給食に出たチーズ入りのチヂミを食べてしまい、アナフィラキシーショックで亡くなるという痛ましい事件がありました。
彼女はアドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン)を持っていましたが、
学校の対処が十分ではなく、エピペンの打つタイミングも遅れたのです。
私は、この事件の原因を分析する文部科学省の有識者会議の座長を務め、
どのような状況で事件が起きたのか、
再発防止のためにはどのような体制を作ればよいか、
などを分析しました。
その結果の一部として、
日本小児アレルギー学会から、アナフィラキシーショックを疑うケースでエピペンを使用すべき13の兆候を発表しました。
「意識がもうろうとしている」、
「声がかすれる」などに
一つでも当てはまれば、そばにいる人は迷わずエピペンを打つというような、詳しい事故防止対策、緊急時の対処方法を定めたのです。
しかし、あれはつらい事件でした。
学校現場における食物アレルギーの対応策が未熟ではあったのですが、
私達医療者の責任も大きいと痛感しました。
事故後、学校の体制は一気に変わりましたね。
それまで、学校の中に医療は絶対持ち込ませない、
薬を飲ませるのだって抵抗する、
注射なんて論外、という風潮でしたが、
事故後は、エピペンがごく普通に学校で使われるようになったのです。
学校の抵抗をなくし、エピペンの使用を徹底するために文科省は尽力しました。
最近、文科省はしょっちゅう叩かれていますが、ちゃんとなすべきことも行っています。
給食についても、食物アレルギー疾患を持ったお子さんの家族から学校生活管理指導表(アレルギー疾患についての詳しい情報を主治医が記した用紙)が出されれば、きちんと対応を取るようになりましたからね。
今、食物アレルギー治療については、経口免疫療法の開発が進んでいます。
全く食べられなかったお子さんであっても、
少量であればもし誤食してもショック死しない程度までには治すことができるようになりつつあります。
しかし、まだ定量的、客観的なデータに沿った治療法は確立されていません。
ましてや治療薬も有望なものはありません。今後の研究開発に期待しています。
「何か体に異変を感じた際、とにかくまずはここにアクセスしてください、基本の情報をここで手に入れてください」との思いを込めて作成されています。
「食物アレルギーの対策が未熟だったと痛感」
【平成の医療史30年◆アレルギー疾患編】
アレルギー治療の変遷を西間三馨氏に聞く―Vol.2
アレルギー診療のガイドライン作成や吸入ステロイドの普及に努めた
国立病院機構福岡病院名誉院長である西間三馨氏に、平成を通じたアレルギー疾患の変遷を聞く企画。
第2回では、アレルギー診療にまつわる2つの事件が臨床現場にもたらした変化を振り返る。
アナフィラキシーショックに対する学校の体制は一気に変化した。
(聞き手・まとめ:m3.com編集部・宮内諭/2018年12月17日取材、全3回連載)
2018年、正しいアレルギー情報を届けるwebサイト開設
――平成の30年史で大きな転換点となった出来事はありますか?
アレルギー領域での大きな事件といえば、
2009年(平成21年)頃から表面化してきた「茶のしずく石けん事件」ですね。
ある商品を使った方に重篤なアレルギーが引き起こされたというものでしたが、結局、原因は石けんに含まれていた加水分解小麦でした。
被害者数は2000人以上にのぼりました。
この石けんを製造していた会社は福岡県にあるので、多くの患者が国立病院機構福岡病院に来院しました。
問診すると皆、「この石けんを使い始めてからアレルギーが出た」と言うのです。
確かに、小麦の多い職場で働く方がパウダーを大量に吸うことで喘息や鼻炎、アトピー性皮膚炎が引き起こされるという事例は報告されていましたが、
石けんを使用するだけでアナフィラキシーショックが引き起こされるとは信じられない、
と思っていました。
しかし、その後も同じような患者が立て続けに来院していると岸川禮子アレルギー科医長の報告でさすがにおかしいと感じ、全国の主な病院に問い合わせてみると、福岡、島根、神奈川の3カ所の病院で60例ほど見つかりました。
――事件はどのような経過をたどったのでしょうか?
販売会社は当初、自社の製品が原因だと認めようとしませんでしたが、
国立病院機構相模原病院の福冨友馬医師(現・同院臨床研究センター診断・治療薬開発研究室室長)は、見事に基礎的・臨床的に解析して加水分解小麦が原因であることを証明していきました。
最終的に会社も自主回収に応じ、和解金も支払いましたが、
『厚生労働省や消費者庁、そしてマスコミの動きは鈍く』、いたずらに被害者を増やしてしまいました。
今思い返すと、壮大な人体実験だったと言えるでしょうね。
食物アレルギーが皮膚の感作から発症し、それがアナフィラキシーショックまで引き起こすということが図らずも証明されてしまったのです。
この事件を通し、アレルギーの正しい知識を提供するサイトが必要だと痛感しました。
そこで、厚生労働省と日本アレルギー学会の協力の下、
2018年(平成30年)10月にアレルギー情報をまとめたポータルサイトが開設されました(https://allergyportal.jp/)。
「何か体に異変を感じた際、とにかくまずはここにアクセスしてください、基本の情報をここで手に入れてください」との思いを込めて作成されています。
1990年代のステロイドバッシング以降、
今もアトピー性皮膚炎や花粉症をターゲットとした怪しいビジネスが、
叩いても叩いても雨後の筍のように現れています。
このようなビジネスにだまされる人を一人でも減らすよう、更新を続けていかなければなりません。
また、皆がアクセスしやすいようにまだまだ工夫の余地は残されています。
しかし、公的な機関のバックアップの下、このようなサイトを公開できたというのは極めて大きいことだと感じています。
食物アレルギーに対する学校の体制が一気に変化
――その他にも転換点はありますか?
2012年(平成24年)、東京都調布市で、牛乳アレルギーを持った小学5年生の女子児童が給食に出たチーズ入りのチヂミを食べてしまい、アナフィラキシーショックで亡くなるという痛ましい事件がありました。
彼女はアドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン)を持っていましたが、
学校の対処が十分ではなく、エピペンの打つタイミングも遅れたのです。
私は、この事件の原因を分析する文部科学省の有識者会議の座長を務め、
どのような状況で事件が起きたのか、
再発防止のためにはどのような体制を作ればよいか、
などを分析しました。
その結果の一部として、
日本小児アレルギー学会から、アナフィラキシーショックを疑うケースでエピペンを使用すべき13の兆候を発表しました。
「意識がもうろうとしている」、
「声がかすれる」などに
一つでも当てはまれば、そばにいる人は迷わずエピペンを打つというような、詳しい事故防止対策、緊急時の対処方法を定めたのです。
しかし、あれはつらい事件でした。
学校現場における食物アレルギーの対応策が未熟ではあったのですが、
私達医療者の責任も大きいと痛感しました。
事故後、学校の体制は一気に変わりましたね。
それまで、学校の中に医療は絶対持ち込ませない、
薬を飲ませるのだって抵抗する、
注射なんて論外、という風潮でしたが、
事故後は、エピペンがごく普通に学校で使われるようになったのです。
学校の抵抗をなくし、エピペンの使用を徹底するために文科省は尽力しました。
最近、文科省はしょっちゅう叩かれていますが、ちゃんとなすべきことも行っています。
給食についても、食物アレルギー疾患を持ったお子さんの家族から学校生活管理指導表(アレルギー疾患についての詳しい情報を主治医が記した用紙)が出されれば、きちんと対応を取るようになりましたからね。
今、食物アレルギー治療については、経口免疫療法の開発が進んでいます。
全く食べられなかったお子さんであっても、
少量であればもし誤食してもショック死しない程度までには治すことができるようになりつつあります。
しかし、まだ定量的、客観的なデータに沿った治療法は確立されていません。
ましてや治療薬も有望なものはありません。今後の研究開発に期待しています。
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/8638633
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック