2019年03月13日
麻疹感染女性、新幹線で新大阪―東京間往復〔読売新聞〕
風疹ワクチン接種とおなじで、一時、麻疹ワクチン接種も親御さんが回避した時代の副産物です。
徳川将軍も麻疹で死んでいます!感染力が高く、致死率も高い感染症です。予防が何より!
麻疹感染女性、新幹線で新大阪―東京間往復〔読売新聞〕
2019年02月15日 16:16
大阪府は14日、麻疹(はしか)への感染が判明した40歳代の女性が、今月8〜10日に新幹線で新大阪―東京間を往復していたと発表した。府は、乗客に感染の恐れがあるとして、注意を呼びかけている。
発表によると、女性は8日午前11時56分新大阪発の東海道新幹線「のぞみ340号」と、10日午後6時東京発の「のぞみ121号」に乗車。発熱や発疹を訴えて12日に府内の医療機関を受診し、13日、感染が判明した。
大阪府内のはしか患者は今年に入って46人(12日現在)と、昨年1年間(15人)の3倍に上っている。
(2019年2月15日 読売新聞)
麻疹は「はしか」とも呼ばれ、感染力は極めて強く、免疫がない人は90%以上が発病します。
江戸時代までの日本では麻疹は「命定め」の病として恐れられていました。
現在ではビタミンAが不足すると麻疹の重症化を招きやすいことが知られており、発展途上国では死亡率が10〜30%に達する場合があると言われています。
我が国においても麻疹は最近まで度々大きな流行を繰り返していましたが、
ワクチンの接種率の向上や多くの関係者の努力により、国内の麻疹の発症者数は大きく減少しました。
症状
典型的な麻疹の発症例では、感染後10〜14日間の潜伏期を経て、以下の経過をたどります。
(1)カタル期:38℃前後の発熱、上気道炎症状等、経過中に頬粘膜にコプリック斑出現
(2)発疹期:39℃以上の発熱、頭頚部より発疹が出現して全身に広がる
(3)回復期
カタル期が最も感染力が強い時期となっており、カタル期で麻疹であることに気づかずに行動することが、感染を広げる原因となります。
合併症として肺炎、中耳炎、脳炎、心筋炎等があり、2000年に大阪で麻疹が流行した際には入院率は40%を超えました。未だに有効な治療方法はありません。
感染経路
麻疹は麻疹ウイルスが人から人へ感染していく感染症です。
他の生物は媒介しません。
人から人への感染経路としては空気(飛沫核)感染の他に、飛沫感染、接触感染もあります。
麻疹は空気感染によって拡がる代表的な感染症であり、その感染力は強く、1人の発症者から12〜14人に感染させるといわれています。
麻疹発症者が周囲の人に感染させることが可能な期間(感染可能期間)は、発熱等の症状が出現する1日前から発疹出現後4〜5日目くらいまでです。
学校保健安全法施行規則では、麻疹に罹患した場合は解熱後3日間を経過するまで出席停止とされています。
予防
麻疹は空気(飛沫核)感染する感染症です。
麻疹ウイルスの直径は100〜250nmであり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクを装着しても感染を防ぐことは困難です。
麻疹の感染発症を防ぐ唯一の予防手段は、予めワクチンを接種して麻疹に対する免疫を獲得しておくことです。
合併症
麻しんにはさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。
その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、
特にこの二つの合併症は麻疹による二大死因となり、注意が必要です。
麻疹の合併症には以下にあげるものがあります。
ア)肺炎:麻疹の合併症で最も多いのは肺炎です。
麻疹の肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。
○ウイルス性肺炎:ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎であり、病初期に認められることが多いです。抗ウイルス剤ありません!
○細菌性肺炎:細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、
原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬投与による治療が必要です。
○巨細胞性肺炎:細胞性免疫不全の状態の時に麻疹を発症した場合にみられる肺炎です。
肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いです。
発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。
イ)中耳炎:細菌の二次感染により生じ、麻しん患者の約5〜15%にみられ、肺炎と並んで頻度の多い合併症です。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。
ウ)クループ症候群:クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は乳幼児の麻しんの合併症として多くみられるもののひとつです。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。
吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理が必要になる場合があります。
エ)脳炎:麻疹を発症した1,000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併します。
発生頻度は高くはありませんが、肺炎とともに麻疹発症者の主要な2大死因の1つとされており、要注意です。
発疹出現後2〜6日頃に発症することが多く、麻疹そのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。
脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。
オ)亜急性硬化性全脳炎(SSPE):麻疹に罹患して治癒した後7〜10年後に発症する中枢神経疾患であり、M蛋白が変異した麻疹ウイルスの中枢神経系への持続感染によって発症するといわれています。
発症の頻度は麻しん罹患者10万例に1人と極めて低いですが、
知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示し、
発症から平均6〜9か月で死の転帰をとる、
進行性の予後不良疾患です。
この疾患の本態は未だに不明であり、有効な治療方法はありません。
修飾麻疹とは
麻疹に対する免疫は持っているけれども、不十分な人が麻しんウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあります。このような場合を『修飾麻疹』と呼んでいます。
例えば、潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出現しない、発疹が手足だけで全身には出ない、発疹は急速に出現するけれども融合しない、などです。
感染力は弱いものの周囲の人への感染源になるので注意が必要です。
通常合併症は少なく、経過も短いため、風疹など他の発熱発疹性疾患と誤診されることもあります。
以前は母体由来の移行抗体が残存している乳児や、ヒトガンマグロブリン製剤を投与された後に見られていました。
最近では、麻疹ワクチン既接種者が、その後長期間麻疹ウイルスに曝露せず、ブースター効果(免疫増強効果)が得られないままに体内での麻疹抗体が減衰して麻しんに罹患する場合〔このような人をsecondary vaccine failure(SVF)と呼びます〕が多く見られるようになっています。
参考資料として
・Measles Fact sheet. WHO ホームページ
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs286/en/
・国立感染症研究所ホームページ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
・岡部信彦,多屋馨子:予防接種に関する Q&A 集.一般社団法人日本ワクチン産業協会,2014年
・Control of Communicable Diseases Manual 19th Edition. An official report of the American Public Health Association: 2008
・Communicable Disease Control and Health Protection Handbook the 3rd Edition.Hawker J. MD., Begg N. MD., et al: Blackwell Publishing Ltd. 2012
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2018/5
徳川将軍も麻疹で死んでいます!感染力が高く、致死率も高い感染症です。予防が何より!
麻疹感染女性、新幹線で新大阪―東京間往復〔読売新聞〕
2019年02月15日 16:16
大阪府は14日、麻疹(はしか)への感染が判明した40歳代の女性が、今月8〜10日に新幹線で新大阪―東京間を往復していたと発表した。府は、乗客に感染の恐れがあるとして、注意を呼びかけている。
発表によると、女性は8日午前11時56分新大阪発の東海道新幹線「のぞみ340号」と、10日午後6時東京発の「のぞみ121号」に乗車。発熱や発疹を訴えて12日に府内の医療機関を受診し、13日、感染が判明した。
大阪府内のはしか患者は今年に入って46人(12日現在)と、昨年1年間(15人)の3倍に上っている。
(2019年2月15日 読売新聞)
麻疹は「はしか」とも呼ばれ、感染力は極めて強く、免疫がない人は90%以上が発病します。
江戸時代までの日本では麻疹は「命定め」の病として恐れられていました。
現在ではビタミンAが不足すると麻疹の重症化を招きやすいことが知られており、発展途上国では死亡率が10〜30%に達する場合があると言われています。
我が国においても麻疹は最近まで度々大きな流行を繰り返していましたが、
ワクチンの接種率の向上や多くの関係者の努力により、国内の麻疹の発症者数は大きく減少しました。
症状
典型的な麻疹の発症例では、感染後10〜14日間の潜伏期を経て、以下の経過をたどります。
(1)カタル期:38℃前後の発熱、上気道炎症状等、経過中に頬粘膜にコプリック斑出現
(2)発疹期:39℃以上の発熱、頭頚部より発疹が出現して全身に広がる
(3)回復期
カタル期が最も感染力が強い時期となっており、カタル期で麻疹であることに気づかずに行動することが、感染を広げる原因となります。
合併症として肺炎、中耳炎、脳炎、心筋炎等があり、2000年に大阪で麻疹が流行した際には入院率は40%を超えました。未だに有効な治療方法はありません。
感染経路
麻疹は麻疹ウイルスが人から人へ感染していく感染症です。
他の生物は媒介しません。
人から人への感染経路としては空気(飛沫核)感染の他に、飛沫感染、接触感染もあります。
麻疹は空気感染によって拡がる代表的な感染症であり、その感染力は強く、1人の発症者から12〜14人に感染させるといわれています。
麻疹発症者が周囲の人に感染させることが可能な期間(感染可能期間)は、発熱等の症状が出現する1日前から発疹出現後4〜5日目くらいまでです。
学校保健安全法施行規則では、麻疹に罹患した場合は解熱後3日間を経過するまで出席停止とされています。
予防
麻疹は空気(飛沫核)感染する感染症です。
麻疹ウイルスの直径は100〜250nmであり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクを装着しても感染を防ぐことは困難です。
麻疹の感染発症を防ぐ唯一の予防手段は、予めワクチンを接種して麻疹に対する免疫を獲得しておくことです。
合併症
麻しんにはさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。
その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、
特にこの二つの合併症は麻疹による二大死因となり、注意が必要です。
麻疹の合併症には以下にあげるものがあります。
ア)肺炎:麻疹の合併症で最も多いのは肺炎です。
麻疹の肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。
○ウイルス性肺炎:ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎であり、病初期に認められることが多いです。抗ウイルス剤ありません!
○細菌性肺炎:細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、
原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬投与による治療が必要です。
○巨細胞性肺炎:細胞性免疫不全の状態の時に麻疹を発症した場合にみられる肺炎です。
肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いです。
発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。
イ)中耳炎:細菌の二次感染により生じ、麻しん患者の約5〜15%にみられ、肺炎と並んで頻度の多い合併症です。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。
ウ)クループ症候群:クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は乳幼児の麻しんの合併症として多くみられるもののひとつです。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。
吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理が必要になる場合があります。
エ)脳炎:麻疹を発症した1,000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併します。
発生頻度は高くはありませんが、肺炎とともに麻疹発症者の主要な2大死因の1つとされており、要注意です。
発疹出現後2〜6日頃に発症することが多く、麻疹そのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。
脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。
オ)亜急性硬化性全脳炎(SSPE):麻疹に罹患して治癒した後7〜10年後に発症する中枢神経疾患であり、M蛋白が変異した麻疹ウイルスの中枢神経系への持続感染によって発症するといわれています。
発症の頻度は麻しん罹患者10万例に1人と極めて低いですが、
知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示し、
発症から平均6〜9か月で死の転帰をとる、
進行性の予後不良疾患です。
この疾患の本態は未だに不明であり、有効な治療方法はありません。
修飾麻疹とは
麻疹に対する免疫は持っているけれども、不十分な人が麻しんウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあります。このような場合を『修飾麻疹』と呼んでいます。
例えば、潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出現しない、発疹が手足だけで全身には出ない、発疹は急速に出現するけれども融合しない、などです。
感染力は弱いものの周囲の人への感染源になるので注意が必要です。
通常合併症は少なく、経過も短いため、風疹など他の発熱発疹性疾患と誤診されることもあります。
以前は母体由来の移行抗体が残存している乳児や、ヒトガンマグロブリン製剤を投与された後に見られていました。
最近では、麻疹ワクチン既接種者が、その後長期間麻疹ウイルスに曝露せず、ブースター効果(免疫増強効果)が得られないままに体内での麻疹抗体が減衰して麻しんに罹患する場合〔このような人をsecondary vaccine failure(SVF)と呼びます〕が多く見られるようになっています。
参考資料として
・Measles Fact sheet. WHO ホームページ
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs286/en/
・国立感染症研究所ホームページ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
・岡部信彦,多屋馨子:予防接種に関する Q&A 集.一般社団法人日本ワクチン産業協会,2014年
・Control of Communicable Diseases Manual 19th Edition. An official report of the American Public Health Association: 2008
・Communicable Disease Control and Health Protection Handbook the 3rd Edition.Hawker J. MD., Begg N. MD., et al: Blackwell Publishing Ltd. 2012
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2018/5
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