2019年02月05日
脳梗塞の世界最新の総説
仲田和正先生は、2年で全科を、さらに半年麻酔科を研修されたのち、整形外科医として38年。現在西伊豆健育会病院病院長をされ、総合診療科医として活躍されています。
メディカルトリビューンの『脳梗塞の最新の総説』から転載。
専門的ですが、参考になると思います。
脳梗塞の世界最新の総説
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正 2019年01月22日 06:05
Lancet(2018; 392: 1247-1256)に脳梗塞の総説がありました。世界最新の総説です。
この数年、脳梗塞には驚くべき進歩がありました。
これを読んでつくづく1次医療機関で悠長に造影CTやMRIは撮るべきではないと思いました。
次の超重要ポイント6行だけ暗記してください。
「脳卒中患者来院したら即座に単純CT、脳出血否定。MRIで時間無駄にするな!
症状からNIHSS 6点以上は全例 (ラクナ梗塞も) 4.5時間以内血栓溶解考慮
Early CT signから中大脳動脈(MCA)梗塞疑ったらASPECTS 6点以上は4.5時間以内血栓溶解ASPECTS 低点数は血栓溶解で脳出血リスク高い
造影CT、CT perfusion行いMCA近位血栓は血管内治療(stent retrieval)効果大なので6時間以内開始。Door-to-balloon time 目標30分!」
「脳梗塞」総説最重要点は下記12点です。
脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点(中等症)以上は全例血栓溶解考慮(NIHSS;関連リンク1参照)
血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間、まれに24時間
血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解(ASPECT;関連リンク2参照)
3次病院に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
3次病院では造影CT、CT perfusionなどからstent retrieval決める
実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
1. 脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
今まで当、西伊豆健育会病院では脳梗塞患者は発症誤4.5時間を過ぎていれば、
「もうtPAの適応がないから仕方がないね」と当院に入院させてアスピリンで経過を見ておりました。
ところがこれが許されなくなったのです。
MCA近位血栓なら6時間以内stent retrievalが有効だからです。
なお、オザグレルナトリウム(商品名カタクロット、キサンボン)やエダラボン(同ラジカット)は日本国内だけで使用されている薬剤です。このLancet総説では「1,000種以上の神経保護薬とされる薬剤は実験から実用には至らなかった」(1000 putative neuroprotective compounds have not been translated from the laboratory to humans.)の1行で片付けられています。
この数年、脳梗塞治療で大変大きなブレークスルー(breakthrough)がありました。
従来tPAによるMCA近位血栓の再開通率は高くありませんでした。
しかし2015〜16年、なんと6つの血管内治療(stent retrieval)のトライアルが圧倒的効果(overwhelming efficacy!)を示したのです。
血管内治療とはstent retrievalといってカテーテルを血栓に通しワイヤの網を広げて血栓を魚のように絡め取るものです。
当、西伊豆健育会病院に来る患者さんは漁師さんも多いですが、80歳過ぎても現役で網や釣りで魚を捕らえており毎日実に楽しそうです。趣味と仕事が一致しておりうらやましい人生です。海女さんも80歳過ぎて現役の方がいます。変形性膝関節症があっても海の中では無重力でどうってことはないので、かえって自由に動けるのです。アワビ1つで数千円もしますから海女さんは高給取りです。
なお血栓吸引(contact aspiration)はstent retrievalに勝るものではありませんが、安上がりなので現在ランダム化比較試験(RCT)が進行中(COMPASS trial)です。
脳梗塞治療結果は次の通りです。
・脳梗塞発症後4.5時間以内のtPAはオッズ比(OR)1.37で有効
・脳梗塞でtPA+stent retrievalはOR 2.49で有効!!!
・頸動脈内膜切除術は相対リスク比(RR)0.53〜0.77で有効
2.脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点以上は全例血栓溶解考慮
脳梗塞患者の25%が血栓溶解適応であり10〜12%が血管内治療適応です。
脳梗塞患者の症状を下記NIHSSでカウントして6点以上はほぼ全例、血栓溶解考慮です。
NIHSSは11機能42点(integer、整数)のスコアで次のようにスコア化します。
0〜5点:軽症(mild)
6〜15点: 中等症(moderate)
15点〜:重症(severe)
【NIHSS : National Institutes of Health Stroke Scale】
なお血栓溶解の禁忌は次の通りです。
・発症後4.5時間を超える場合
・非外傷性頭蓋内出血の既往
・胸部大動脈解離が強く疑われる
・CTやMRIで広範な早期虚血性変化の存在
3.血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
アルテプラーゼの対象は、全ての虚血性脳血管障害〔アテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症、その他の原因確定・未確定の脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)を含む〕です。
血栓溶解の対象にラクナ梗塞も含まれていますから、1次病院で単純CTにより出血が確認できないからといってさらにMRIでラクナ梗塞などを確認することの意味がありません。時間の無駄です。
過去には脳梗塞にウロキナーゼ、streptokinaseが使用されましたが効果がないどころか脳出血が増え結局使われなくなりました。小生が研修医のころはよく使っていましたしシチコリン(商品名ニコリン)なんてのも点滴していました。オーベンに「これって効くんですか?」と聞いたら「さあー?」という返事でした。
一方、アルテプラーゼは脳梗塞に有効であることが確認され商業化されました。
NINDS tPA stroke trialではアルテプラーゼ0.9mg/kg静注はプラセボに比し3カ月後のアウトカムが良好で当初、発症から3時間以内の使用条件で許可されました。なお国内での用量は0.6mg/kg静注、上限60mgまでです。
ECASSU、ATLANTIS-B trialではアルテプラーゼが発症後6時間以内で投与され、投与が早いほど有効であり、発症後4.5時間でその効果は消失しました。4.5時間以後の投与は脳出血が増加し無効でした。これらのトライアルから投与は発症後4.5時間以内になりました。
しかしIST-3 trialと最近、1万例のシステマチックレビューとメタ解析では「3時間以内投与が望ましいが6時間以内投与も効果あり」としています。IST-3のサブ解析でleukoaraiosisがベースにある患者で血栓溶解はより有効としています。なお日本国内では発症から4.5時間たっていたらアルテプラーゼは禁忌です。
一方、前もって抗血小板薬が投与されているとアルテプラーゼ使用で脳出血リスクが高くなります。アルテプラーゼ投与90分以内のアスピリン静注のトライアルは脳出血が増加し途中で中止されました。ただしアルテプラーゼはMCA近位血管の閉塞では効果が不十分です。
なおtenecteplaseは国内で販売されていませんが、アルテプラーゼに比しフィブリン特異性が高く作用時間が長く再灌流率が高いとのことです(EXTEND-IA TNK trial、NEJM2018; 378: 1573-1582)。今後はアルテプラーゼからtenecteplaseに代わっていくのかもしれません。
4.血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内
血管内治療(stent retrieval)は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内です。
発症2.5時間以内の血管内治療でなんと91%が機能的自立(functional independence)を果たしました(SWIFT-PRIME trial)!!しかし次の1時間で10%低下し、さらに以後1時間に20%ずつ低下していったというのです。時間との勝負なのです。
血管内治療までのスピードが鍵なのです! タクシーで高速道路を走り料金メーターがカシャカシャ上がって、気が気ではない自分を想像してください。
MCA梗塞で治療しないと「1分当たり190万のニューロン」が失われます。
これは「1分の遅延で1.8日の健康生活が失われる」ことなのだそうです。余分な検査を追加して遅延するごとにアウトカムは悪化します。
1次医療機関で、悠長に造影CTだのMRIなど撮っていてはなりません!!
2015年、2016年に6つのトライアル(MR CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、REVASCAT、SWIFT-PRIME、THRACE)で脳前方血管系の大きな血管の血管内治療(endovascular therapy)、すなわちstent retrievalは圧倒的効果が確認され標準治療となりました。
どのトライアルも18歳以上で発症後12時間以内に行われ標準治療(血栓溶解)に比べ圧倒的効果を示しました。多くの患者は発症後6時間以内にstent retrievalが行われましたが、ESCAPE trialでは5.5〜12時間で行われた患者もあったとのことです。
DAWN trialではえりすぐりの患者(highly selected patient)で6〜24時間以内でも血管内治療が有効だったとしています。患者選択にはCT perfusionまたはMRI perfusionが必要です。
DEFFUSE-3 trialでは患者選択をCT perfusionかMRI perfusionで行い、発症後6〜16時間以内の血管内治療が有効でした。EXTEND、POSITIVE trialでは患者選択にperfusion -weightedかdiffusion weighted imagingを使用して発症後24時間までの患者を調べています。
まとめると「血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内、早ければ早いほど良い」というところでしょうか。
5.血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
血管内治療は過去5年、もっぱらstent retrievalが行われてきました。関連リンクの動画のようなものです。カテを血管内に挿入して血栓を貫きワイヤの網を開いて絡め取ります。
ASTER trialでは血栓吸引(contact aspiration)が行われましたが再開通率はstent retrievalを超えませんでした。しかし血栓吸引は安上がりなのでトライアル(COMPASS)が継続されています。
ARISE U trialはEmboTrap deviceの効果を確認しています。これはワイヤでできた網だけど少し形状が異なるものです。You Tubeで見てみましたが普通のstent retrievalと何が違うのかよく分かりませんでした。ウォシュレット(TOTO)とシャワートイレ(INAX)くらいの差でしょうか。
6.MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
昔は24時間でTIAと脳梗塞を分けましたが、これはもはや時代遅れで時間で両者は区別できません。TIAは脳虚血の一番軽症のものです。
MRIでのDWI(diffusion weighted imaging)変化と症状1時間持続は、不可逆的梗塞と強く関連するそうです。
DWIで変化する領域はpenumbra(可逆的領域)でなくまさに脳梗塞のcore(不可逆的領域)に相当します。
脳梗塞の症状が1時間超えたらヤバいと思えばよさそうです。
7. MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解
では当、西伊豆健育会病院のような小病院で脳梗塞を疑ったときはどうするかというと次のような手順です。
来院したら即座に単純CTを撮り脳出血をまず否定します。症状からNIHSS 6点以上は血栓溶解を考慮します。
MRIは時間の無駄です。MRIのDWIにより脳梗塞発症数分で虚血性変化が分かりますが、撮像に時間がかかり過ぎます。「1分の遅延で1.8日の健康生活が失われる」のです。単純CTでの低濃度領域はDWIとよく関連します(不可逆的なcore)。
症状からMCA梗塞を疑ったら単純CTで early CT signを捜します。次のような所見です。
【Early CT sign】
・Hyperdense MCA sign : MCA内の血栓である高吸収構造の確認
・レンズ核の輪郭不鮮明化
・皮質・白質境界の不鮮明化
・島皮質の不鮮明化(insular ribbon sign)
・脳溝の消失
・脳実質の低信号化
MCAの梗塞面積の評価には下記のASPECTSのスコアを使います。CTの2つのスライスからMCAの10領域で梗塞域を10から引き算します。初期虚血性変化(early ischemic change)がどこにもなければ10点、全領域にあれば0点です。
このLancet総説にはスコア点数のはっきりした線引きは書かれていませんでした。調べてみるとこのスコア7点以下は3カ月後の機能予後不良です。ASPECTS 6点か7点以上で血栓溶解の適応とするようです。
【ASPECTS:Alberta Stroke Program Early CT Score、MD-Calc】
関連リンク6のASPECTSの絵でinsular ribbonの緑印が抜けていますが、シルビウス裂の奥の島皮質表面のことです。リボンはちょうちょうの形のことでなく帯のことです。Insular ribbon signは島皮質の皮質・白質境界の不鮮明化のことをいいます。
MCAのM1近位で閉塞すると穿通枝のレンズ核線条体動脈(LSA)がやられますから内包や放線冠が障害され強い半身麻痺が起こります。もしM2での閉塞ならLSAは障害されませんから半身麻痺は軽度です。
ですから「単純CTで基底核の変化がある場合はM1閉塞の可能性が高い」と思えばよいのかなと思いました。M1閉塞ならstent retrieval適応です。
なお基底核の中で尾状核は前大脳動脈(ACA)から出るHeubner(ホイブナー)反回動脈支配(A.comの手前で分枝)です。また視床は後大脳動脈(PCA)支配です。
8.3次医療機関に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
脳MCA近位血栓の有無は造影CTを撮らないと分かりません。MCA近位血栓は血栓溶解療法の再開通率が低く、血管内治療の方が成功率は高いのです。
この総説では、単純CTと造影CTの同時撮影を勧めていますが、当院のような小病院で造影CTは行うべきではないと思いました。というのは、脳外科医は造影CTからわれわれよりずっと多くの情報を得ています。すなわち、aortic archの蛇行、Willis動脈輪の状態、くも膜の側副血行、血栓の場所・サイズ・性状まで把握するというのです。側副血行の程度は健側と比較すれば分かります。というわけで、当院で「なんちゃって造影CT」は撮るべきでないと思いました。
だいたい小生、脳造影CTにaortic archまで含めるなんて考えてもみませんでした。
造影CTは撮らず症状からNIHSS 6点以上(血栓溶解適応)、単純CTでASPECTS 6点以上(血栓溶解適応)なら一刻も早くとっとと3次医療機関へ転送を行うのです。
3次医療機関に電話し造影CT、CT perfusionの準備をしてもらいます。3次病院到着から血管内治療開始までの時間(door-to-needle time)目標は30分以内です。
2011年、ヘルシンキ大学病院ではdoor-to-needle timeの中央値がなんと20分だったというのです。中央値20分ということは10分台も多いということです。努力次第で20分に短縮できるのです。米国の循環器センター1位のクリーブランドクリニックでは、 急性冠疾患に対しPCIは2015年に1万1,601例行いましたが、来院からPCIまでのdoor to balloon time は58分でした。
9.回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
ACLSの「救命の連鎖、chain of survival」と同様、脳梗塞のdoor-to-needle timeを短縮するため「回復の連鎖、chain of recovery」が必要だというのです。つまり消防署連絡→パラメディック→病院への継ぎ目のない(seamless)リレーが必要です。これには前もって脳梗塞患者搬送を予告しない限り時間短縮はできません。
10.患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
血管内治療は第3次医療機関でしかできませんが血栓溶解は小病院でも可能です。この総説によると、患者搬送には次の2つの方法があるというのです。
@ Mothership model(母船モデル)
これは脳梗塞患者を一次脳卒中センターは飛ばして直接、3次医療機関に送り、そこで血栓溶解と血管内治療を行う方法です。
A Drip and ship model (血栓溶解しつつ搬送)
まず一次脳卒中センターへ送り血栓溶解を行いつつ3次医療機関へ送るというものです。
可能ならtelemedicine (画像相談)ができれば理想的です。
現在mothership modelとdrip and ship modelの2つを比較したトライアルが進行中だそうです。
なお米国では最近、Mobile stroke unitsといって、なんとCTと簡易検査ができる救急車があり画像診断と血栓溶解が車内で可能というのです。現在、mobile stroke unitを使用した場合と、病院へ直接搬送した場合の比較トライアルが行われています。医学の進歩は誠に日進月歩であるなあとつくづく感心しました。
11.3次病院では造影CT、CT perfusionなど行い血管内治療決める
3次病院でどのような検査をやるのかというと、以下のような検査があります。
【造影CT(CTA)】
単純CTと併せて撮影し近位血管閉塞が分かります。これからaortic archの蛇行、Willis動脈輪、くも膜の側副血行、血栓の場所・サイズ・性状を把握します。
【Multiphase CT angiography】
造影剤を注入して3つのphaseすなわちpeak arterial、peak venous、late venousを撮ることにより時間分解的評価(time-resolved assessment)が可能となります。CTAで患側と健側のくも膜血管を比較することにより脳の虚血域が分かりますし、multiphaseで血管充盈の遅延も分かります。
【CT perfusion(CT灌流画像)】
造影剤を急速静注しながらCT撮像し脳血流を定量的評価します。CT perfusionはヨード剤を使うため脳血流関門を通過せず毛細血管床の灌流を評価できます。一方、PETなどの核医学検査は関門を通過し脳実質に入ります。
CT perfusionで分かるのは以下のような項目です。
・脳血流量(CBF; cerebral blood flow)
・脳血液量(CBV; cerebral blood volume)
・平均通過時間(MTT; mean transit time)
・ピーク到達時間(TTP; time to peak)
CBV低下領域は最終梗塞巣、その周囲のCBF低下領域は可逆性領域とされますがCBFが正常の30%未満は不可逆的とみられます。
CT perfusionはCBFやその遅延が分かり、また脳梗塞とmimicsとの鑑別ができます。例えば脳梗塞では血液灌流が減少しますが、てんかん発作ではその50%で血流が増加するのだそうです。
また造影CTは大きな血管しか分かりませんがCT perfusionは毛細血管、細静脈(venule)まで分かります。これにより定量的に不可逆的損傷部位(core)と回復可能部位(ischemic penumbra)の領域が分かるのです。また単に血流が減少しているだけで機能正常な部位(benign oligaemia)も分かります。
【MRIのDWI】
これにより脳梗塞発症数分で虚血性変化が分かりますが撮像に時間がかかり過ぎます。単純CTでの低濃度領域はDWIとよく関連し不可逆的なischemic coreです。MRIは特に小梗塞、多発梗塞の発見に有用です。また特に脳の後方循環系梗塞はCTだと頭蓋骨のアーチファクトで分かりにくくMRIの方が分かりやすいのです。
【DWIとFLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)のミスマッチ】
DWIとFLAIRのミスマッチから血栓溶解の患者選択を行うことができます。DWIで描出される領域は脳梗塞のcore (不可逆的領域)だからです。なおFLAIRは水の信号をなくし組織のT2の違いを際立たせた撮像です。脳脊髄液からの信号がないため脳表や脳室周囲のT2の延長する病変の検出が容易となります。T1とT2の影響を強く受けた画像です。
【Time of flight MR angiography(TOF)】
造影剤なしで脳動脈が分かります。
【Susceptibility-weighted imaging(SWI)】
組織の鉄による磁化率アーチファクトを利用して微細な出血が分かりT2*よりも鋭敏です。高い感度で脳内出血、単純CTで分からぬようなmicrobleedsが分かりamyloid angiopathyの存在を疑うことができ、血栓溶解後の脳内出血が高いことが予測できます。
【Contrast-enhanced dynamic MR angiography】
これは時間分解性評価(time-resolved assessment)が可能です。
【MR perfusion imaging 】
これはガドリニウムを使用してCT perfusionと同様の画像を得ます。
12. 実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
新たな治療として音響血栓溶解sonothrombolysisや、なんとiron nanoparticlesの磁力促進血栓溶解(magnetically enhanced thrombolysis)の研究が行われています。また血管内治療の前にpeptide NA-1(別名Tat-NR2B9c)の使用が評価中です(ESCAPE-NA1 trial)。
先に述べたように1,000種以上の神経保護薬は実験から実用に至りませんでした。(1000 putative neuroprotective compounds have not been translatedfrom the laboratory to humans.)。硫酸マグネシウム(Mg)の病院前使用は安全であり血管内治療でischaemic penumbraが救済できるかのトライアルが行われています。
なお高血糖、高血圧、低血圧、高体温はいずれも予後不良因子です。
「脳卒中患者来院したら即座に単純CT、脳出血否定。MRIで時間無駄にするな!
症状からNIHSS 6点以上は全例 (ラクナ梗塞も)4.5時間以内血栓溶解考慮
Early CT signからMCA梗塞疑ったらASPECTS 6点以上は4.5時間以内血栓溶解、ASPECTS 低点数は血栓溶解で脳出血リスク高い
造影CT、CT perfusion行いMCA近位血栓はstent retrieval効果大なので6時間以内開始。Door-to-balloon time 目標30分!」
Lancet(2018; 392: 1247-1256)「脳梗塞」総説の最重要点12点の怒濤の反復です。
脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点(中等症)以上は全例血栓溶解考慮
血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間、まれに24時間
血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解
3次病院に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
3次病院では造影CT、CT perfusionなどからstent retrieval決める
実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
メディカルトリビューンの『脳梗塞の最新の総説』から転載。
専門的ですが、参考になると思います。
脳梗塞の世界最新の総説
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正 2019年01月22日 06:05
Lancet(2018; 392: 1247-1256)に脳梗塞の総説がありました。世界最新の総説です。
この数年、脳梗塞には驚くべき進歩がありました。
これを読んでつくづく1次医療機関で悠長に造影CTやMRIは撮るべきではないと思いました。
次の超重要ポイント6行だけ暗記してください。
「脳卒中患者来院したら即座に単純CT、脳出血否定。MRIで時間無駄にするな!
症状からNIHSS 6点以上は全例 (ラクナ梗塞も) 4.5時間以内血栓溶解考慮
Early CT signから中大脳動脈(MCA)梗塞疑ったらASPECTS 6点以上は4.5時間以内血栓溶解ASPECTS 低点数は血栓溶解で脳出血リスク高い
造影CT、CT perfusion行いMCA近位血栓は血管内治療(stent retrieval)効果大なので6時間以内開始。Door-to-balloon time 目標30分!」
「脳梗塞」総説最重要点は下記12点です。
脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点(中等症)以上は全例血栓溶解考慮(NIHSS;関連リンク1参照)
血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間、まれに24時間
血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解(ASPECT;関連リンク2参照)
3次病院に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
3次病院では造影CT、CT perfusionなどからstent retrieval決める
実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
1. 脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
今まで当、西伊豆健育会病院では脳梗塞患者は発症誤4.5時間を過ぎていれば、
「もうtPAの適応がないから仕方がないね」と当院に入院させてアスピリンで経過を見ておりました。
ところがこれが許されなくなったのです。
MCA近位血栓なら6時間以内stent retrievalが有効だからです。
なお、オザグレルナトリウム(商品名カタクロット、キサンボン)やエダラボン(同ラジカット)は日本国内だけで使用されている薬剤です。このLancet総説では「1,000種以上の神経保護薬とされる薬剤は実験から実用には至らなかった」(1000 putative neuroprotective compounds have not been translated from the laboratory to humans.)の1行で片付けられています。
この数年、脳梗塞治療で大変大きなブレークスルー(breakthrough)がありました。
従来tPAによるMCA近位血栓の再開通率は高くありませんでした。
しかし2015〜16年、なんと6つの血管内治療(stent retrieval)のトライアルが圧倒的効果(overwhelming efficacy!)を示したのです。
血管内治療とはstent retrievalといってカテーテルを血栓に通しワイヤの網を広げて血栓を魚のように絡め取るものです。
当、西伊豆健育会病院に来る患者さんは漁師さんも多いですが、80歳過ぎても現役で網や釣りで魚を捕らえており毎日実に楽しそうです。趣味と仕事が一致しておりうらやましい人生です。海女さんも80歳過ぎて現役の方がいます。変形性膝関節症があっても海の中では無重力でどうってことはないので、かえって自由に動けるのです。アワビ1つで数千円もしますから海女さんは高給取りです。
なお血栓吸引(contact aspiration)はstent retrievalに勝るものではありませんが、安上がりなので現在ランダム化比較試験(RCT)が進行中(COMPASS trial)です。
脳梗塞治療結果は次の通りです。
・脳梗塞発症後4.5時間以内のtPAはオッズ比(OR)1.37で有効
・脳梗塞でtPA+stent retrievalはOR 2.49で有効!!!
・頸動脈内膜切除術は相対リスク比(RR)0.53〜0.77で有効
2.脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点以上は全例血栓溶解考慮
脳梗塞患者の25%が血栓溶解適応であり10〜12%が血管内治療適応です。
脳梗塞患者の症状を下記NIHSSでカウントして6点以上はほぼ全例、血栓溶解考慮です。
NIHSSは11機能42点(integer、整数)のスコアで次のようにスコア化します。
0〜5点:軽症(mild)
6〜15点: 中等症(moderate)
15点〜:重症(severe)
【NIHSS : National Institutes of Health Stroke Scale】
なお血栓溶解の禁忌は次の通りです。
・発症後4.5時間を超える場合
・非外傷性頭蓋内出血の既往
・胸部大動脈解離が強く疑われる
・CTやMRIで広範な早期虚血性変化の存在
3.血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
アルテプラーゼの対象は、全ての虚血性脳血管障害〔アテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症、その他の原因確定・未確定の脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)を含む〕です。
血栓溶解の対象にラクナ梗塞も含まれていますから、1次病院で単純CTにより出血が確認できないからといってさらにMRIでラクナ梗塞などを確認することの意味がありません。時間の無駄です。
過去には脳梗塞にウロキナーゼ、streptokinaseが使用されましたが効果がないどころか脳出血が増え結局使われなくなりました。小生が研修医のころはよく使っていましたしシチコリン(商品名ニコリン)なんてのも点滴していました。オーベンに「これって効くんですか?」と聞いたら「さあー?」という返事でした。
一方、アルテプラーゼは脳梗塞に有効であることが確認され商業化されました。
NINDS tPA stroke trialではアルテプラーゼ0.9mg/kg静注はプラセボに比し3カ月後のアウトカムが良好で当初、発症から3時間以内の使用条件で許可されました。なお国内での用量は0.6mg/kg静注、上限60mgまでです。
ECASSU、ATLANTIS-B trialではアルテプラーゼが発症後6時間以内で投与され、投与が早いほど有効であり、発症後4.5時間でその効果は消失しました。4.5時間以後の投与は脳出血が増加し無効でした。これらのトライアルから投与は発症後4.5時間以内になりました。
しかしIST-3 trialと最近、1万例のシステマチックレビューとメタ解析では「3時間以内投与が望ましいが6時間以内投与も効果あり」としています。IST-3のサブ解析でleukoaraiosisがベースにある患者で血栓溶解はより有効としています。なお日本国内では発症から4.5時間たっていたらアルテプラーゼは禁忌です。
一方、前もって抗血小板薬が投与されているとアルテプラーゼ使用で脳出血リスクが高くなります。アルテプラーゼ投与90分以内のアスピリン静注のトライアルは脳出血が増加し途中で中止されました。ただしアルテプラーゼはMCA近位血管の閉塞では効果が不十分です。
なおtenecteplaseは国内で販売されていませんが、アルテプラーゼに比しフィブリン特異性が高く作用時間が長く再灌流率が高いとのことです(EXTEND-IA TNK trial、NEJM2018; 378: 1573-1582)。今後はアルテプラーゼからtenecteplaseに代わっていくのかもしれません。
4.血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内
血管内治療(stent retrieval)は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内です。
発症2.5時間以内の血管内治療でなんと91%が機能的自立(functional independence)を果たしました(SWIFT-PRIME trial)!!しかし次の1時間で10%低下し、さらに以後1時間に20%ずつ低下していったというのです。時間との勝負なのです。
血管内治療までのスピードが鍵なのです! タクシーで高速道路を走り料金メーターがカシャカシャ上がって、気が気ではない自分を想像してください。
MCA梗塞で治療しないと「1分当たり190万のニューロン」が失われます。
これは「1分の遅延で1.8日の健康生活が失われる」ことなのだそうです。余分な検査を追加して遅延するごとにアウトカムは悪化します。
1次医療機関で、悠長に造影CTだのMRIなど撮っていてはなりません!!
2015年、2016年に6つのトライアル(MR CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、REVASCAT、SWIFT-PRIME、THRACE)で脳前方血管系の大きな血管の血管内治療(endovascular therapy)、すなわちstent retrievalは圧倒的効果が確認され標準治療となりました。
どのトライアルも18歳以上で発症後12時間以内に行われ標準治療(血栓溶解)に比べ圧倒的効果を示しました。多くの患者は発症後6時間以内にstent retrievalが行われましたが、ESCAPE trialでは5.5〜12時間で行われた患者もあったとのことです。
DAWN trialではえりすぐりの患者(highly selected patient)で6〜24時間以内でも血管内治療が有効だったとしています。患者選択にはCT perfusionまたはMRI perfusionが必要です。
DEFFUSE-3 trialでは患者選択をCT perfusionかMRI perfusionで行い、発症後6〜16時間以内の血管内治療が有効でした。EXTEND、POSITIVE trialでは患者選択にperfusion -weightedかdiffusion weighted imagingを使用して発症後24時間までの患者を調べています。
まとめると「血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間以内、まれに24時間以内、早ければ早いほど良い」というところでしょうか。
5.血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
血管内治療は過去5年、もっぱらstent retrievalが行われてきました。関連リンクの動画のようなものです。カテを血管内に挿入して血栓を貫きワイヤの網を開いて絡め取ります。
ASTER trialでは血栓吸引(contact aspiration)が行われましたが再開通率はstent retrievalを超えませんでした。しかし血栓吸引は安上がりなのでトライアル(COMPASS)が継続されています。
ARISE U trialはEmboTrap deviceの効果を確認しています。これはワイヤでできた網だけど少し形状が異なるものです。You Tubeで見てみましたが普通のstent retrievalと何が違うのかよく分かりませんでした。ウォシュレット(TOTO)とシャワートイレ(INAX)くらいの差でしょうか。
6.MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
昔は24時間でTIAと脳梗塞を分けましたが、これはもはや時代遅れで時間で両者は区別できません。TIAは脳虚血の一番軽症のものです。
MRIでのDWI(diffusion weighted imaging)変化と症状1時間持続は、不可逆的梗塞と強く関連するそうです。
DWIで変化する領域はpenumbra(可逆的領域)でなくまさに脳梗塞のcore(不可逆的領域)に相当します。
脳梗塞の症状が1時間超えたらヤバいと思えばよさそうです。
7. MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解
では当、西伊豆健育会病院のような小病院で脳梗塞を疑ったときはどうするかというと次のような手順です。
来院したら即座に単純CTを撮り脳出血をまず否定します。症状からNIHSS 6点以上は血栓溶解を考慮します。
MRIは時間の無駄です。MRIのDWIにより脳梗塞発症数分で虚血性変化が分かりますが、撮像に時間がかかり過ぎます。「1分の遅延で1.8日の健康生活が失われる」のです。単純CTでの低濃度領域はDWIとよく関連します(不可逆的なcore)。
症状からMCA梗塞を疑ったら単純CTで early CT signを捜します。次のような所見です。
【Early CT sign】
・Hyperdense MCA sign : MCA内の血栓である高吸収構造の確認
・レンズ核の輪郭不鮮明化
・皮質・白質境界の不鮮明化
・島皮質の不鮮明化(insular ribbon sign)
・脳溝の消失
・脳実質の低信号化
MCAの梗塞面積の評価には下記のASPECTSのスコアを使います。CTの2つのスライスからMCAの10領域で梗塞域を10から引き算します。初期虚血性変化(early ischemic change)がどこにもなければ10点、全領域にあれば0点です。
このLancet総説にはスコア点数のはっきりした線引きは書かれていませんでした。調べてみるとこのスコア7点以下は3カ月後の機能予後不良です。ASPECTS 6点か7点以上で血栓溶解の適応とするようです。
【ASPECTS:Alberta Stroke Program Early CT Score、MD-Calc】
関連リンク6のASPECTSの絵でinsular ribbonの緑印が抜けていますが、シルビウス裂の奥の島皮質表面のことです。リボンはちょうちょうの形のことでなく帯のことです。Insular ribbon signは島皮質の皮質・白質境界の不鮮明化のことをいいます。
MCAのM1近位で閉塞すると穿通枝のレンズ核線条体動脈(LSA)がやられますから内包や放線冠が障害され強い半身麻痺が起こります。もしM2での閉塞ならLSAは障害されませんから半身麻痺は軽度です。
ですから「単純CTで基底核の変化がある場合はM1閉塞の可能性が高い」と思えばよいのかなと思いました。M1閉塞ならstent retrieval適応です。
なお基底核の中で尾状核は前大脳動脈(ACA)から出るHeubner(ホイブナー)反回動脈支配(A.comの手前で分枝)です。また視床は後大脳動脈(PCA)支配です。
8.3次医療機関に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
脳MCA近位血栓の有無は造影CTを撮らないと分かりません。MCA近位血栓は血栓溶解療法の再開通率が低く、血管内治療の方が成功率は高いのです。
この総説では、単純CTと造影CTの同時撮影を勧めていますが、当院のような小病院で造影CTは行うべきではないと思いました。というのは、脳外科医は造影CTからわれわれよりずっと多くの情報を得ています。すなわち、aortic archの蛇行、Willis動脈輪の状態、くも膜の側副血行、血栓の場所・サイズ・性状まで把握するというのです。側副血行の程度は健側と比較すれば分かります。というわけで、当院で「なんちゃって造影CT」は撮るべきでないと思いました。
だいたい小生、脳造影CTにaortic archまで含めるなんて考えてもみませんでした。
造影CTは撮らず症状からNIHSS 6点以上(血栓溶解適応)、単純CTでASPECTS 6点以上(血栓溶解適応)なら一刻も早くとっとと3次医療機関へ転送を行うのです。
3次医療機関に電話し造影CT、CT perfusionの準備をしてもらいます。3次病院到着から血管内治療開始までの時間(door-to-needle time)目標は30分以内です。
2011年、ヘルシンキ大学病院ではdoor-to-needle timeの中央値がなんと20分だったというのです。中央値20分ということは10分台も多いということです。努力次第で20分に短縮できるのです。米国の循環器センター1位のクリーブランドクリニックでは、 急性冠疾患に対しPCIは2015年に1万1,601例行いましたが、来院からPCIまでのdoor to balloon time は58分でした。
9.回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
ACLSの「救命の連鎖、chain of survival」と同様、脳梗塞のdoor-to-needle timeを短縮するため「回復の連鎖、chain of recovery」が必要だというのです。つまり消防署連絡→パラメディック→病院への継ぎ目のない(seamless)リレーが必要です。これには前もって脳梗塞患者搬送を予告しない限り時間短縮はできません。
10.患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
血管内治療は第3次医療機関でしかできませんが血栓溶解は小病院でも可能です。この総説によると、患者搬送には次の2つの方法があるというのです。
@ Mothership model(母船モデル)
これは脳梗塞患者を一次脳卒中センターは飛ばして直接、3次医療機関に送り、そこで血栓溶解と血管内治療を行う方法です。
A Drip and ship model (血栓溶解しつつ搬送)
まず一次脳卒中センターへ送り血栓溶解を行いつつ3次医療機関へ送るというものです。
可能ならtelemedicine (画像相談)ができれば理想的です。
現在mothership modelとdrip and ship modelの2つを比較したトライアルが進行中だそうです。
なお米国では最近、Mobile stroke unitsといって、なんとCTと簡易検査ができる救急車があり画像診断と血栓溶解が車内で可能というのです。現在、mobile stroke unitを使用した場合と、病院へ直接搬送した場合の比較トライアルが行われています。医学の進歩は誠に日進月歩であるなあとつくづく感心しました。
11.3次病院では造影CT、CT perfusionなど行い血管内治療決める
3次病院でどのような検査をやるのかというと、以下のような検査があります。
【造影CT(CTA)】
単純CTと併せて撮影し近位血管閉塞が分かります。これからaortic archの蛇行、Willis動脈輪、くも膜の側副血行、血栓の場所・サイズ・性状を把握します。
【Multiphase CT angiography】
造影剤を注入して3つのphaseすなわちpeak arterial、peak venous、late venousを撮ることにより時間分解的評価(time-resolved assessment)が可能となります。CTAで患側と健側のくも膜血管を比較することにより脳の虚血域が分かりますし、multiphaseで血管充盈の遅延も分かります。
【CT perfusion(CT灌流画像)】
造影剤を急速静注しながらCT撮像し脳血流を定量的評価します。CT perfusionはヨード剤を使うため脳血流関門を通過せず毛細血管床の灌流を評価できます。一方、PETなどの核医学検査は関門を通過し脳実質に入ります。
CT perfusionで分かるのは以下のような項目です。
・脳血流量(CBF; cerebral blood flow)
・脳血液量(CBV; cerebral blood volume)
・平均通過時間(MTT; mean transit time)
・ピーク到達時間(TTP; time to peak)
CBV低下領域は最終梗塞巣、その周囲のCBF低下領域は可逆性領域とされますがCBFが正常の30%未満は不可逆的とみられます。
CT perfusionはCBFやその遅延が分かり、また脳梗塞とmimicsとの鑑別ができます。例えば脳梗塞では血液灌流が減少しますが、てんかん発作ではその50%で血流が増加するのだそうです。
また造影CTは大きな血管しか分かりませんがCT perfusionは毛細血管、細静脈(venule)まで分かります。これにより定量的に不可逆的損傷部位(core)と回復可能部位(ischemic penumbra)の領域が分かるのです。また単に血流が減少しているだけで機能正常な部位(benign oligaemia)も分かります。
【MRIのDWI】
これにより脳梗塞発症数分で虚血性変化が分かりますが撮像に時間がかかり過ぎます。単純CTでの低濃度領域はDWIとよく関連し不可逆的なischemic coreです。MRIは特に小梗塞、多発梗塞の発見に有用です。また特に脳の後方循環系梗塞はCTだと頭蓋骨のアーチファクトで分かりにくくMRIの方が分かりやすいのです。
【DWIとFLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)のミスマッチ】
DWIとFLAIRのミスマッチから血栓溶解の患者選択を行うことができます。DWIで描出される領域は脳梗塞のcore (不可逆的領域)だからです。なおFLAIRは水の信号をなくし組織のT2の違いを際立たせた撮像です。脳脊髄液からの信号がないため脳表や脳室周囲のT2の延長する病変の検出が容易となります。T1とT2の影響を強く受けた画像です。
【Time of flight MR angiography(TOF)】
造影剤なしで脳動脈が分かります。
【Susceptibility-weighted imaging(SWI)】
組織の鉄による磁化率アーチファクトを利用して微細な出血が分かりT2*よりも鋭敏です。高い感度で脳内出血、単純CTで分からぬようなmicrobleedsが分かりamyloid angiopathyの存在を疑うことができ、血栓溶解後の脳内出血が高いことが予測できます。
【Contrast-enhanced dynamic MR angiography】
これは時間分解性評価(time-resolved assessment)が可能です。
【MR perfusion imaging 】
これはガドリニウムを使用してCT perfusionと同様の画像を得ます。
12. 実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
新たな治療として音響血栓溶解sonothrombolysisや、なんとiron nanoparticlesの磁力促進血栓溶解(magnetically enhanced thrombolysis)の研究が行われています。また血管内治療の前にpeptide NA-1(別名Tat-NR2B9c)の使用が評価中です(ESCAPE-NA1 trial)。
先に述べたように1,000種以上の神経保護薬は実験から実用に至りませんでした。(1000 putative neuroprotective compounds have not been translatedfrom the laboratory to humans.)。硫酸マグネシウム(Mg)の病院前使用は安全であり血管内治療でischaemic penumbraが救済できるかのトライアルが行われています。
なお高血糖、高血圧、低血圧、高体温はいずれも予後不良因子です。
「脳卒中患者来院したら即座に単純CT、脳出血否定。MRIで時間無駄にするな!
症状からNIHSS 6点以上は全例 (ラクナ梗塞も)4.5時間以内血栓溶解考慮
Early CT signからMCA梗塞疑ったらASPECTS 6点以上は4.5時間以内血栓溶解、ASPECTS 低点数は血栓溶解で脳出血リスク高い
造影CT、CT perfusion行いMCA近位血栓はstent retrieval効果大なので6時間以内開始。Door-to-balloon time 目標30分!」
Lancet(2018; 392: 1247-1256)「脳梗塞」総説の最重要点12点の怒濤の反復です。
脳MCA近位血栓は血栓溶解よりstent retrievalが圧倒的効果!!
脳梗塞患者を症状からNIHSSで評価、6点(中等症)以上は全例血栓溶解考慮
血栓溶解はアルテプラーゼ(tPA)を4.5時間以内に。tenecteplaseはより有効かも
血管内治療は可能なら6時間以内、どんなに遅れても12時間、まれに24時間
血管内治療はstent retrievalが標準、変法でEmboTrap、吸引も
MRIのDWI変化と、症状1時間継続は不可逆性梗塞と強く関連
MCA梗塞はearly CT signでASPECTS計算、6点以上は血栓溶解
3次病院に予告・搬送、造影CT、CT perfusion準備、door-to-needle time 30分
回復の連鎖(chain of recovery)でdoor-to-needle timeを短縮せよ!
患者搬送にはMothership modelとDrip and ship modelがある
3次病院では造影CT、CT perfusionなどからstent retrieval決める
実験段階で音響血栓溶解、磁力促進血栓溶解、硫酸Mgの病院前使用など
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