2014年02月08日
「迷宮」中野ブロードウェイ、アキバ超え成るか?
JR中央線の中野駅近くにそびえる中野ブロードウェイ(東京・中野)。ショッピングセンター付き大型マンションの走りとされるが、今やマンガやアニメの関連店舗が集積する「サブカルチャーの殿堂」として知られるようになった。芸術家の村上隆氏も出店して「ポップアートの殿堂」に進化させようという動きもある。外国人客も増加しており、「クールジャパン」を手軽に体験できるスポットとして秋葉原を超える日も近いかもしれない。
■「まんだらけ」から鮮魚店まで
中野ブロードウェイは駅の北口正面に伸びる商店街「中野サンモール」の先にある。1階のメーンの通路は商店街とほぼ同じ道幅で、アーケードをまっすぐ進んでいくといつの間にか入ってしまうような印象だ。4階までが商業施設、10階までが住宅部分だが、入り口は分けられている。
正面にあるエスカレーターは2階を突き抜けて3階に直通しており、慣れない人はとまどうだろう。2階に行くには階段しかない。天井も低く、各フロアに間口の狭いテナントが密集する。1966年の開業とあって、レトロな中にも混沌とした独特の雰囲気だ。「迷宮」と呼ばれることもある。
早速探検してみよう。エスカレーターを上った先に漫画古書販売のまんだらけ中野店がある。
まんだらけはここだけで20店舗以上を運営する最大のテナント。ひところは空き店舗が目立っていた中野ブロードウェイにサブカル関連の店が集まるきっかけにもなった。3階には広いメーン店舗があり、主力商品である中古の漫画本がずらりと並ぶ。
3冊210円といったお得なコーナーもあれば、驚くような高額の希少本も。買い取りコーナーがあるのも3階で、「お宝」と思う漫画本をお持ちなら挑戦してみるのもいいだろう。
アニメのセル画、声優のサイン色紙、少年誌のバックナンバー、特撮ドラマの脚本――。漫画本以外の希少なグッズを求めるなら階段を使って4階に上るといい。
まんだらけの古川益三社長が急ぐのがコンセプトショップ「変や」の仕入れだ。ショーケースに並ぶマジンガーZの巨大人形やブリキのロボットといった日本の中古玩具を購入する外国人が増えているためだ。
「徹夜で海外のオークションから落札して仕入れていても次から次へとまた海外に売れていく」
商品を購入しなくてもショーケースを眺めて楽しんでいく外国人も多いという。「訪日外国人の人気スポットになっている。学生旅行の定番コースに設定されているらしい」と古川社長は話す。
2階に下りると、そこはフィギュアの世界。アニメや特撮の関連玩具を飾り付けたショーケースが目立つ。ショーケースの一角を貸し出すレンタル店も多くあり、一般のコレクターが自慢の商品を思い思いの価値観で並べて委託販売している。
レンタル店の一つ、キューブスタイルは304のショーケースを貸し出しているが、ゲームセンターのクレーンゲームの景品を飾る人が多いという。新商品が投入された初日に景品のフィギュアを売りに出す人も少なくない。
激戦区だけに価格もこなれており「景品が欲しいなら実はゲームをやるより買った方が安い。どこに最安値があるか探すだけでも楽しい」と店員は話す。
同社のショーケースを利用している中野区在住の30歳代主婦はディズニーのフィギュアを並べて満足顔だ。値札をみると数百円台が多く「周辺を見て安値を狙った。もうけたいというより趣味の範囲。見せて楽しみ、売れたらうれしい」
とはいえ、サブカル関連の店舗ばかりでもないのが面白いところ。中華、すしなどの飲食店や衣料品店、美容室や占いの店などが各フロアに点在し、昔ながらの商店街といった面影もある。
地下1階は生活感あふれるエリア。青果店や鮮魚店、ドラッグストアなどがあり、地元住民の利用が多い。年配の人も歩いているので、通行には配慮を忘れずに。
■村上隆氏がギャラリー出店
そんな中野ブロードウェイが世界を見据えた進化を遂げつつある。世界的な芸術家、村上隆氏が外国人を招待できる一大ギャラリーにしようと出店を進めたのがきっかけだ。
「焼き肉はできないかな」――。中野ブロードウェイで若手芸術家のギャラリーを展開する村上氏が次に出店を見据えるのは接待にも使える本格的な飲食店だ。中野のギャラリー運営を担当する当麻篤マネジャーの携帯電話にはひっきりなしに村上氏から着信があり、次々と検討項目の指示が出る。
日本のポップカルチャーを芸術に昇華させたと評価される村上氏と焼肉店は一見つながらないが、海外では著名な画廊が飲食店を運営していることは珍しくない。
村上氏が芸術家として所属するフランスの画廊、エマニュエル・ペロタンもその一つ。VIPを接待するためで、飲酒や音楽を楽しむバーやクラブを持つこともある。
「日本のアート・マーケットを世界水準に」と願う村上氏にとって中野ブロードウェイはギャラリー展開の格好の実験場だ。
最初の出店は2008年。来日したVIPに日本のサブカルを紹介する応接室を設けた。当初は秋葉原を出店先の候補に考えていたが、雑居ビルの立ち並ぶ街中の引率は難しい。
思いついたのが一つのビルで完結する中野ブロードウェイで、これが好評を得た。10〜12年にギャラリーを追加出店。13年にはカフェも開いた。
ギャラリーには漫画やアニメなどに影響を受けた若い芸術家たちの作品が並ぶ。日本の現代アートの登竜門として世界から注目を集める。
中野ブロードウェイ商店街振興組合の青木武理事長は「村上氏が人の流れを変えた」という。「美大生など美術関係者が増えたし、何より外国人を見かけることが多くなった」
■コンパクトな「迷宮」、魅力に
こうした外国人客はさまざまなサブカルに興味津々だ。
「平日にも外国人が来店するようになった。今まで無かったこと」と話すのはメード喫茶「黒猫メイド魔法カフェ」の担当者。スマートフォンのカバーなどにアニメキャラクターを印刷するサービスを手掛けるプリントマウスでも「ふらっと来店して身ぶり手ぶりで発注していく外国人が結構な数いる」
一方の秋葉原では、外国人向け観光案内所に「アニメやコスプレに興味があるのに、どこにいったらいいのか分かりにくい」との苦情が舞い込むことがあるという。表通りの免税店には外国人がたくさん来店しているが、奥まった雑居ビルにある個性的なサブカル店にたどり着くのは難しそうだ。
サブカルの街として「小さなアキバ」とみられがちな中野だが、ブロードウェイを中心にしたそのコンパクトさが、かえってアキバにはない魅力につながっているようだ。(桜井佑介)
日本経済新聞より引用しました。
■「まんだらけ」から鮮魚店まで
中野ブロードウェイは駅の北口正面に伸びる商店街「中野サンモール」の先にある。1階のメーンの通路は商店街とほぼ同じ道幅で、アーケードをまっすぐ進んでいくといつの間にか入ってしまうような印象だ。4階までが商業施設、10階までが住宅部分だが、入り口は分けられている。
正面にあるエスカレーターは2階を突き抜けて3階に直通しており、慣れない人はとまどうだろう。2階に行くには階段しかない。天井も低く、各フロアに間口の狭いテナントが密集する。1966年の開業とあって、レトロな中にも混沌とした独特の雰囲気だ。「迷宮」と呼ばれることもある。
早速探検してみよう。エスカレーターを上った先に漫画古書販売のまんだらけ中野店がある。
まんだらけはここだけで20店舗以上を運営する最大のテナント。ひところは空き店舗が目立っていた中野ブロードウェイにサブカル関連の店が集まるきっかけにもなった。3階には広いメーン店舗があり、主力商品である中古の漫画本がずらりと並ぶ。
3冊210円といったお得なコーナーもあれば、驚くような高額の希少本も。買い取りコーナーがあるのも3階で、「お宝」と思う漫画本をお持ちなら挑戦してみるのもいいだろう。
アニメのセル画、声優のサイン色紙、少年誌のバックナンバー、特撮ドラマの脚本――。漫画本以外の希少なグッズを求めるなら階段を使って4階に上るといい。
まんだらけの古川益三社長が急ぐのがコンセプトショップ「変や」の仕入れだ。ショーケースに並ぶマジンガーZの巨大人形やブリキのロボットといった日本の中古玩具を購入する外国人が増えているためだ。
「徹夜で海外のオークションから落札して仕入れていても次から次へとまた海外に売れていく」
商品を購入しなくてもショーケースを眺めて楽しんでいく外国人も多いという。「訪日外国人の人気スポットになっている。学生旅行の定番コースに設定されているらしい」と古川社長は話す。
2階に下りると、そこはフィギュアの世界。アニメや特撮の関連玩具を飾り付けたショーケースが目立つ。ショーケースの一角を貸し出すレンタル店も多くあり、一般のコレクターが自慢の商品を思い思いの価値観で並べて委託販売している。
レンタル店の一つ、キューブスタイルは304のショーケースを貸し出しているが、ゲームセンターのクレーンゲームの景品を飾る人が多いという。新商品が投入された初日に景品のフィギュアを売りに出す人も少なくない。
激戦区だけに価格もこなれており「景品が欲しいなら実はゲームをやるより買った方が安い。どこに最安値があるか探すだけでも楽しい」と店員は話す。
同社のショーケースを利用している中野区在住の30歳代主婦はディズニーのフィギュアを並べて満足顔だ。値札をみると数百円台が多く「周辺を見て安値を狙った。もうけたいというより趣味の範囲。見せて楽しみ、売れたらうれしい」
とはいえ、サブカル関連の店舗ばかりでもないのが面白いところ。中華、すしなどの飲食店や衣料品店、美容室や占いの店などが各フロアに点在し、昔ながらの商店街といった面影もある。
地下1階は生活感あふれるエリア。青果店や鮮魚店、ドラッグストアなどがあり、地元住民の利用が多い。年配の人も歩いているので、通行には配慮を忘れずに。
■村上隆氏がギャラリー出店
そんな中野ブロードウェイが世界を見据えた進化を遂げつつある。世界的な芸術家、村上隆氏が外国人を招待できる一大ギャラリーにしようと出店を進めたのがきっかけだ。
「焼き肉はできないかな」――。中野ブロードウェイで若手芸術家のギャラリーを展開する村上氏が次に出店を見据えるのは接待にも使える本格的な飲食店だ。中野のギャラリー運営を担当する当麻篤マネジャーの携帯電話にはひっきりなしに村上氏から着信があり、次々と検討項目の指示が出る。
日本のポップカルチャーを芸術に昇華させたと評価される村上氏と焼肉店は一見つながらないが、海外では著名な画廊が飲食店を運営していることは珍しくない。
村上氏が芸術家として所属するフランスの画廊、エマニュエル・ペロタンもその一つ。VIPを接待するためで、飲酒や音楽を楽しむバーやクラブを持つこともある。
「日本のアート・マーケットを世界水準に」と願う村上氏にとって中野ブロードウェイはギャラリー展開の格好の実験場だ。
最初の出店は2008年。来日したVIPに日本のサブカルを紹介する応接室を設けた。当初は秋葉原を出店先の候補に考えていたが、雑居ビルの立ち並ぶ街中の引率は難しい。
思いついたのが一つのビルで完結する中野ブロードウェイで、これが好評を得た。10〜12年にギャラリーを追加出店。13年にはカフェも開いた。
ギャラリーには漫画やアニメなどに影響を受けた若い芸術家たちの作品が並ぶ。日本の現代アートの登竜門として世界から注目を集める。
中野ブロードウェイ商店街振興組合の青木武理事長は「村上氏が人の流れを変えた」という。「美大生など美術関係者が増えたし、何より外国人を見かけることが多くなった」
■コンパクトな「迷宮」、魅力に
こうした外国人客はさまざまなサブカルに興味津々だ。
「平日にも外国人が来店するようになった。今まで無かったこと」と話すのはメード喫茶「黒猫メイド魔法カフェ」の担当者。スマートフォンのカバーなどにアニメキャラクターを印刷するサービスを手掛けるプリントマウスでも「ふらっと来店して身ぶり手ぶりで発注していく外国人が結構な数いる」
一方の秋葉原では、外国人向け観光案内所に「アニメやコスプレに興味があるのに、どこにいったらいいのか分かりにくい」との苦情が舞い込むことがあるという。表通りの免税店には外国人がたくさん来店しているが、奥まった雑居ビルにある個性的なサブカル店にたどり着くのは難しそうだ。
サブカルの街として「小さなアキバ」とみられがちな中野だが、ブロードウェイを中心にしたそのコンパクトさが、かえってアキバにはない魅力につながっているようだ。(桜井佑介)
日本経済新聞より引用しました。
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