2011年02月11日
バックミラー越しの恋
繊細なボーカルと、アクースティックで、牧歌的なサウンドが心に沁みます。
テキサスの良心とでも呼びたい優しい音楽です。
1. I'm Walking the Dog
2. Muleshoe
3. Contrabandistas
4. Yellow Flowers
5. Cold Wind
6. Rock Your Baby to Sleep
7. Rear View Mirror
8. Colorado River Blues (Cotton Blossoms)
9. ¿Donde Está la Cervesa?
10. Place in My Heart
11. May the Lord Watch Over You
これはロックでしょうか?
そこにはひとかけらの攻撃性も感じません。
メッセージ性はどうでしょう。
歌詞の内容が分からないのが歯がゆいですが、少なくとも声高に何かを主張したりしている風には思えません。
かといって、ごく身近なことを内省的に歌っている、という感じでもないのです。
これは、カントリーでしょうか?
楽器編成は、曲によって、スチール・ギター、フィドル、ドブロ、マンドリン、アコーディオンなどが参加してます。
でも、そこから紡ぎだされるサウンドは、カントリーの風味はあまり感じられず、あえて定型のスタイルを避けているかのようです。
ボビーのボーカルは、優しくか細い印象がありますが、一方で芯の強さも感じさせます。
声質は、若干鼻にかかっていて、私は、ナチュラル・ヨーデラーと呼びたいです。
高い音域を出そうとすると、自然と声が裏返り気味になる、そんな感じが魅力的です。
全体のサウンドの印象は、エレキ・ギターもしっかり入ったサウンドでありながら、アクースティックな印象が強いです。
ひと昔かふた昔前に流行った、あのアンプラグドの雰囲気です。
時折り効果的に聴こえる、アクーステイック・ギターのフラット・ピッキングの単弦弾きが、とてもおしゃれです。
郷愁を誘う、あくまで優しい、そして時に異国情緒をさそう音楽です。
テキサスの広大なイメージはあまり感じません。
例えば、延々と続くハイウェイを走るようなイメージはなく、むしろひなびた村、それも山村でのゆったりと時が流れる生活を歌ったもののように感じたりします。
さて、このアルバムは、フリーダ&ファイアドッグスの中心メンバーで、ほとんどの曲を書いていた、ベーシスト(本作ではギター)のボビー・アール・スミスの00年リリースのソロ・アルバムです。
フリーダ&ファイアドッグスは、アトラッティックのジェリー・ウェクスラーが、オースティンに赴き、ウイリー・ネルソンとダグ・サームに続くアーティストとして契約すべく働きかけていたバンドでした。
ただ、残念ながら、バンド側の逡巡により時期を逸してしまい、レコード・デビューすることなく消えていったバンドでした。
しっかりと完成していたアルバム1枚分の音源は、埋もれていく運命だったかもしれない中、いくつかの幸運の積み重ねと関係者の尽力によって、数十年の時を経て、現在は、私たちの耳に届くようになっています。
ファイアドッグス解散後のボビーは、ダグ・サームのバンドに参加したのち、アルヴィン・クロウと活動をともにしていた時期もあったようです。
(ただし、ダグ・サームの録音に参加した痕跡は、私は見つけられていません。)
フリーダ&ファイアドッグスの紅一点で、ブルースに深く傾倒する女性ピアニスト、マーシャ・ボールは、バンド解散後、ソロとして成功して現在まで精力的に活動しています。
最近作は、アリゲーターからリリースされています。
ファイアドッグスのリード・ギタリスト、ジョン・X・リードは、もともと、こちらもテキサスの伝説的なバンド、フラットランダースのオリジナル・メンバーで、ファイアドッグスの活動を経て、一時はダグ・サームとも活動していた人です。
サー・ダグラス・クインテットの同窓会的ライヴ、Live Love(Very Much Alive)と、Back To The 'Dilloで、リードの名前を見つけることがでます。
そして、姉妹ボーカルをフロントにした、テハス・ダムスでも、ギターを弾いていました。
ちなみに、テハス・ダムスのアルバムには、ダグ・サームがバホ・セストで参加しています。
さて、このアルバムには、懐かしいボビーの旧友たちが、こぞって参加しています。
ギターとコーラスで、ジョン・X・リードが、ピアノとコーラスで、マーシャ・ボールが、そして、ファイアドッグスのレパートリーの再演、Cold Windでは、ジミー・デイル・ギルモアが、ボビーとデュエットしています。
ジミーは、もちろんフラットランダースの中心メンバーの一人です。
そのほか、名人セッション・メンたちもまた参加しています。
フィドルには、元テキサス・プレイボーイズのジョニー・ギンブル。
ピアノには、元アスリープ・アット・ザ・ホイールのフロイド・ドミノ。
そして、アコーディオンで、フラーコ・ヒメネスが参加しています。
もう悪くなりようがない、そう思いませんか。
そのとおりです。
冒頭のI'm Walking The Dogと、スペイ語まじりで歌われる、¿Donde Está la Cervesa? 以外は、全てボビーの自作ないしは、共作によるものです。
その音楽性の豊かさ、既存のスタイルに依存しない曲づくりに好感を持ちます。
I'm Walking The Dogは、50年代のカントリー・スター、ウェブ・ピアースのヒット曲のカバーです。
原曲は、ナッシュビル・サウンドによるイージー・リスニング・カントリーですが、ここではカントリー風味は押さえられていて、フラット・ピッキングの響きと、静かに寄り添うリズム隊のサウンドが、素敵です。
ニッティ・グリッティ・ダート・バンドの永遠の絆セッションを連想させる仕上がりになっています。
( 余談ですが、ウェブ・ピアースは、なぜかヴァン・モリスンのお気に入りのようで、1枚のアルバムで3曲もカバーしている例があります。)
ブンチャン、ブンチャンと優しいリズムにのって歌われる美しいワルツ曲、Your Flowersも魅力的です。
また、明るい子守唄ののような、Rock Your Baby To Sleepもいいです。
ジミー・ロジャースを連想せずにはいられない、Colorado River Bluesもいいです。
ここでは、ナチュラル・ヨーデルではなく、はっきりとボビーによるヨーデル唱法を聴く事が出来ます。
そして、May The Load Wacth Over Youは、フロイド・ドミノの力強いタッチのピアノによって、ボビーとバックのクワイア(ゲストたちによるコーラス)が、次第に高みへと駆け昇って行くようなゴスベル・ナンバーです。
間奏では、フロイドのソロもかっこいいです。
駄曲なしの傑作アルバムであるといいたいです。
恐らくは、寡作で、次はいつになるか分からない、ゆったりとした時の流れに暮らしている、そんなおとぎ話のようなイメージが、ボビーから感じられますが、ぜひとも新作を望みたい気持ちで一杯です。
関連記事はこちら
回想のファイアドッグス
テキサスのご婦人がた
テキサスの良心とでも呼びたい優しい音楽です。
Rear View Mirror
Bobby Earl Smith
Bobby Earl Smith
1. I'm Walking the Dog
2. Muleshoe
3. Contrabandistas
4. Yellow Flowers
5. Cold Wind
6. Rock Your Baby to Sleep
7. Rear View Mirror
8. Colorado River Blues (Cotton Blossoms)
9. ¿Donde Está la Cervesa?
10. Place in My Heart
11. May the Lord Watch Over You
これはロックでしょうか?
そこにはひとかけらの攻撃性も感じません。
メッセージ性はどうでしょう。
歌詞の内容が分からないのが歯がゆいですが、少なくとも声高に何かを主張したりしている風には思えません。
かといって、ごく身近なことを内省的に歌っている、という感じでもないのです。
これは、カントリーでしょうか?
楽器編成は、曲によって、スチール・ギター、フィドル、ドブロ、マンドリン、アコーディオンなどが参加してます。
でも、そこから紡ぎだされるサウンドは、カントリーの風味はあまり感じられず、あえて定型のスタイルを避けているかのようです。
ボビーのボーカルは、優しくか細い印象がありますが、一方で芯の強さも感じさせます。
声質は、若干鼻にかかっていて、私は、ナチュラル・ヨーデラーと呼びたいです。
高い音域を出そうとすると、自然と声が裏返り気味になる、そんな感じが魅力的です。
全体のサウンドの印象は、エレキ・ギターもしっかり入ったサウンドでありながら、アクースティックな印象が強いです。
ひと昔かふた昔前に流行った、あのアンプラグドの雰囲気です。
時折り効果的に聴こえる、アクーステイック・ギターのフラット・ピッキングの単弦弾きが、とてもおしゃれです。
郷愁を誘う、あくまで優しい、そして時に異国情緒をさそう音楽です。
テキサスの広大なイメージはあまり感じません。
例えば、延々と続くハイウェイを走るようなイメージはなく、むしろひなびた村、それも山村でのゆったりと時が流れる生活を歌ったもののように感じたりします。
さて、このアルバムは、フリーダ&ファイアドッグスの中心メンバーで、ほとんどの曲を書いていた、ベーシスト(本作ではギター)のボビー・アール・スミスの00年リリースのソロ・アルバムです。
フリーダ&ファイアドッグスは、アトラッティックのジェリー・ウェクスラーが、オースティンに赴き、ウイリー・ネルソンとダグ・サームに続くアーティストとして契約すべく働きかけていたバンドでした。
ただ、残念ながら、バンド側の逡巡により時期を逸してしまい、レコード・デビューすることなく消えていったバンドでした。
しっかりと完成していたアルバム1枚分の音源は、埋もれていく運命だったかもしれない中、いくつかの幸運の積み重ねと関係者の尽力によって、数十年の時を経て、現在は、私たちの耳に届くようになっています。
ファイアドッグス解散後のボビーは、ダグ・サームのバンドに参加したのち、アルヴィン・クロウと活動をともにしていた時期もあったようです。
(ただし、ダグ・サームの録音に参加した痕跡は、私は見つけられていません。)
フリーダ&ファイアドッグスの紅一点で、ブルースに深く傾倒する女性ピアニスト、マーシャ・ボールは、バンド解散後、ソロとして成功して現在まで精力的に活動しています。
最近作は、アリゲーターからリリースされています。
ファイアドッグスのリード・ギタリスト、ジョン・X・リードは、もともと、こちらもテキサスの伝説的なバンド、フラットランダースのオリジナル・メンバーで、ファイアドッグスの活動を経て、一時はダグ・サームとも活動していた人です。
サー・ダグラス・クインテットの同窓会的ライヴ、Live Love(Very Much Alive)と、Back To The 'Dilloで、リードの名前を見つけることがでます。
そして、姉妹ボーカルをフロントにした、テハス・ダムスでも、ギターを弾いていました。
ちなみに、テハス・ダムスのアルバムには、ダグ・サームがバホ・セストで参加しています。
さて、このアルバムには、懐かしいボビーの旧友たちが、こぞって参加しています。
ギターとコーラスで、ジョン・X・リードが、ピアノとコーラスで、マーシャ・ボールが、そして、ファイアドッグスのレパートリーの再演、Cold Windでは、ジミー・デイル・ギルモアが、ボビーとデュエットしています。
ジミーは、もちろんフラットランダースの中心メンバーの一人です。
そのほか、名人セッション・メンたちもまた参加しています。
フィドルには、元テキサス・プレイボーイズのジョニー・ギンブル。
ピアノには、元アスリープ・アット・ザ・ホイールのフロイド・ドミノ。
そして、アコーディオンで、フラーコ・ヒメネスが参加しています。
もう悪くなりようがない、そう思いませんか。
そのとおりです。
冒頭のI'm Walking The Dogと、スペイ語まじりで歌われる、¿Donde Está la Cervesa? 以外は、全てボビーの自作ないしは、共作によるものです。
その音楽性の豊かさ、既存のスタイルに依存しない曲づくりに好感を持ちます。
I'm Walking The Dogは、50年代のカントリー・スター、ウェブ・ピアースのヒット曲のカバーです。
原曲は、ナッシュビル・サウンドによるイージー・リスニング・カントリーですが、ここではカントリー風味は押さえられていて、フラット・ピッキングの響きと、静かに寄り添うリズム隊のサウンドが、素敵です。
ニッティ・グリッティ・ダート・バンドの永遠の絆セッションを連想させる仕上がりになっています。
( 余談ですが、ウェブ・ピアースは、なぜかヴァン・モリスンのお気に入りのようで、1枚のアルバムで3曲もカバーしている例があります。)
ブンチャン、ブンチャンと優しいリズムにのって歌われる美しいワルツ曲、Your Flowersも魅力的です。
また、明るい子守唄ののような、Rock Your Baby To Sleepもいいです。
ジミー・ロジャースを連想せずにはいられない、Colorado River Bluesもいいです。
ここでは、ナチュラル・ヨーデルではなく、はっきりとボビーによるヨーデル唱法を聴く事が出来ます。
そして、May The Load Wacth Over Youは、フロイド・ドミノの力強いタッチのピアノによって、ボビーとバックのクワイア(ゲストたちによるコーラス)が、次第に高みへと駆け昇って行くようなゴスベル・ナンバーです。
間奏では、フロイドのソロもかっこいいです。
駄曲なしの傑作アルバムであるといいたいです。
恐らくは、寡作で、次はいつになるか分からない、ゆったりとした時の流れに暮らしている、そんなおとぎ話のようなイメージが、ボビーから感じられますが、ぜひとも新作を望みたい気持ちで一杯です。
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投稿者:エル・テッチ|02:31|テキサス・ミュージック
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