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2019年01月01日
ゼロの剣
アコールの店へようこそ!あら、こちらの剣をご所望ですか?こちらはですね、大昔にいた「ウタヒメ」という種族の女性が使っていた武器です。その女性は大変に美しく、長い銀髪で舞うように敵を倒していった……という逸話が残っております。
しかもその「ウタヒメ」は戦っている最中に歌を歌う事で魔素の放出を増強させるという特徴的な能力を持っていました。能力が開放される時の歌には、誰もが皆魅了されたと言います。どうです?気になりませんか?
「ウタヒメ」の持っていた武器はいくつか存在するのですが、この武器を持っていた「ウタヒメ」は最強の一人と言われています。その武器がこのお値段で出るのはちょっと普通では考えられません。いやぁ、私も商売をやっておりますが、これほどお値打ちな武器には滅多に巡り会えないですよ……
え?この武器を使っていたのは聖女か?いやそれは……え?具体的に言うと処女かどうか?えーっと、それは、処女だったという証言はなかったというか、むしろ積極的に男性と交わっていたというか……あっ、お客様!待ってください!お客様〜!
2019年01月02日
マナの杖
アコールの店へようこそ!ほほう、こちらの武器に興味がおありですねぇ〜?なかなかΩ高い……いや、お目が高い!あ、今のはダジャレです。「Ω(オメガ)」と「お目が」をかけた……あ、そういうのはいいですか?すみません。
この武器は天使の教会という宗教団体の司教だった少女が、大人になってから使用していた曰く付きの武器です。天使の教会は当時のヨーロッパ地方で大いに流行った宗教でして、信者のあまりの熱狂ぶりを表す「赤目」という言葉が今でも残っているくらいです。
少女が大人になった頃にはその宗教団体としての天使の教会は消滅……というか、敵対する勢力によって皆殺しにされていたのですが、何らかの理由で少女だけは生き延びたらしいんですよね。
この武器が貴重なのは、そうした少女の曰く付きである事と同時に、大災厄以降の分岐に於いて袋小路になっている枝の中で生まれた武器だからです。なかなかこういう掘り出し物はありませんよ?一本いかがですか?
2019年01月03日
ワンの戦輪
アコールの店へようこそ!ああ、こちらの武器ですか?こちらは、この先の未来に発生する「教会都市」という場所のリーダーが持っていた武器……え?「未来って何か?」ですって?まあいいじゃないですか、そんな事は。
「教会都市」っていうのはアレですよ。大災厄以降に発生した巨大廃墟あるじゃないですか?あれを改修して街を作るらしいんですよね?鉄筋コンクリートの建物って意外に丈夫なんですよねぇ……え?「鉄筋コンクリートが何か?」ええと、まあ、そういう強い煉瓦みたいなモノがあるんです。はい。
実はその「教会都市」を発端として、この欧州の地は大変な混乱に陥るんです。国家や都市機能はメチャクチャになるので、もし今、土地や地位をお持ちでしたら、早めに貴金属なんかの価値が変わらないモノに変えておくのをオススメしますよ。
価値といえば、遠い将来には、金や銀よりもさらに高価な通貨が現れるんですよね……それは「仮想通貨」って言って、全然重くない、見る事も出来ない、不思議なお金です。人間の進化はスゴイですよね!え?何で将来の事を知ってるかって?それは……ヒ・ミ・ツです!
2019年01月04日
アコールの本
8月2日
B群がどこで発生したのかはよくわかっていない。おそらく、未発見の枝の中にいるんだろう。ここまで発見されないのは、特異点近辺に監視者を立て、私達を近づけないようにしている為だと思う。
3月12日
前回の大災厄時にはB群が地上に大量発生していた。こちらの航空兵器に対抗する武器ももちこんでいて、手に負えない状態になりつつある。今はなんとか抑え込んでいるが、このままでは手に負えなくなる。早急に対処が必要だ。
6月5日
監視モデル中心だった私達にも変革が必要に思われる。換装可能な武装パーツの開発は進んでいるがさらなる投資が必要だ。記憶回収を進める為、武器の流通はもっと大きくする必要がある。やることは大量にある。
8月8日
前記録者がB群によって破壊された。取り込まれた可能性も存在する為、協会に支援を要請する。
2019年01月05日
ミハイルの槍
アコールの店へようこそ!お、こちらの武器は不思議な武器ですよ〜。色んなルートがある中で「ライブラリ」と呼ばれる世界線から回収された武器です。「ライブラリ」は不思議な人形達が支配する空間で、なかなかこの武器を手に入れるのは苦労しました!
この武器を使っていたのは少年なんですが、ここだけの話……実は!少年はドラゴンだったのです!!……あれ、あまり驚きませんね?え?「色々ファンタジーな話を聞きすぎて飽きてきた?」そんな事言わないでくださいよー!サービスしますから!
1万年以上生きていたドラゴンは、戦争によってその生命を落としました。ですが、強力な魔素の効能により、復活する事が出来たのです。対「花」用の兵器として造られたドラゴンにはそれだけの能力が備わっていた。この武器はその力が秘められていると考えられています。
少年はとてもカワイイ子だったらしいんですけど、ちょっと欠点がありまして……実はオシッコやウンコを我慢出来なくてどこでもしちゃうんです。動物っぽい、ものすごく汚い感じなんですけど、この武器はちゃ〜んと洗ってありますから……あれ?お客様?どこ行きました?お客様ー!!
2019年01月06日
謀略と背徳
2019年01月07日
紺碧の鋭刃
なんだい?ボウヤ……ああ、この刀かい?不思議な武器だろう?これは鎖の部分を持って振り回すんだが、鎖を連結させる事で遠くの敵を倒す事が出来るんだ。例えば、この船の上からだって、水中の敵を倒せる。危ないから触っちゃダメだよ?
あと、あんまり海を覗き込むのも良くないね。あそこには怪物がいるんだ。どんな怪物かって?そうだねぇ、体の長さはこの船と同じくらいあって、大きな口と鋭い牙があるんだ。それと、とてもキレイな声で鳴くんだよ。歌うようにね。
ボウヤも気をつけろよ?怪物は若い男が好きなんだ。台風が近づくと、その男を狙って嵐の合間に船を襲ってくる。見つかったら絶対に逃げられないから、ボウヤはおとなしく部屋で寝てた方がいいな。
どうしてそこまでその怪物狩りにこだわるかって?ああ、実はそいつは人魚だったんだ。俺みたいな馬鹿な王子の為に、人間になろうとして失敗したらしい。だからせめて、この手で楽にしてやろうと思ってるんだ。これ以上、被害が広がらないうちにね……
2019年01月08日
歪なる飢餓
さむくて さむくて どうしようもなく さむくて そんな よるに ぼくは あのひと に ひろわれた んだ ぼくの からだを あらうと あのひとは わらいながら なにかを しゃべってた それが なにか わからなかったけど ぼくは すこし うれしく なった
あのひとは ぼくが げいをすると たべものを くれた ぼくは いっしょうけんめい げいをした そしたら たくさん たべものを くれた ぼくは きもちが あったかくなって そのまま ゆっくり ねむる おかあさんの ゆめを みられると いいなあ
さいきん あのひとが ちいさくなった ぼくのすんでる こやも ちいさくなった たべものもちいさくなった ぼくは おなかがへって へって しかたなかった なんでもいいから おなかにいれたい なんでも なんでも……
ねえ ぼくは いつから こんなに おなかが へってるんだろう? あのひとは どこにいったの? だれか おしえて だれか だれか……
2019年01月09日
奇術師の杖
サァサァ、素晴らしいサーカスの始まりだ!大きな象の曲芸や、口から火を噴く男、空中ブランコにトラの火の輪くぐりもあるよ!……って、こんな場所で叫んでても客は来ない、か。最近はこのサーカスもすっかり寂れて、商売上がったりだな……
大体、ウチのサーカスは地味過ぎるんだよ。筋肉や技術に任せた複雑で玄人好みのワザはスゴイが、一回観たら終わりだしな。客を何度も引き寄せるには、なんつーか、もっとこうケレン味のある派手な要素が必要なんだよ……例えば、ものすごく美人でセクシーなオネェちゃんとか。いや、ウチの団員には無理だけど。
そうだ。曲芸の合間にちょっとした笑いを取るってのはどうだろう?そうだな。このステッキを振り回しながら、おかしな化粧をして歩き回るんだ。曲芸をわざと失敗して笑いを取るのもいい。何せ大衆は間抜けの失敗を観るのがたまらなく好きなんだからな。
ふふっ……今日も儲かった。象のクソを踏んでわざと転んだのがウケたな。こうやって馬鹿のフリして金を取るのはたまらない。明日はどうやって……おっ、あそこにあるキレイな刀を使ってみようか。あの武器を杖替わりにして転び、危うく突き刺さりそうになるって演技で……
2019年01月10日
千年樹の嘆き
おや旅のお方、誰かお探しかい?え?銀髪の少年?……ああ、そういう子もいたねぇ。そうそう、小さな妹がいたんだ。子供ふたりで健気に暮らしていて村では皆に好かれていたよ。食べ物や服のお下がりなんかをもらっていたっけ。
でも、大きくなったらその子、平原にいるイノシシを狩りに行ったりしてたんだ。あの大きなイノシシだよ?しかもまだマモノがいた時代だ。どうやってイノシシを倒したのかみんな不思議がってたんだ。うん。
え?その銀髪の少年がどうなったかって?もちろん大昔に死んださ。それからしばらくして住んでた村も無くなったらしい。ほら、ちょうどこのあたりがその村のあった場所だ。あそこの小さな池に浮いてる花は昔は貴重な花だったらしいよ?
何でそんな大昔の事を知ってるかって?さあ……よく覚えてないねぇ。年を取るといろんな記憶が曖昧になってくるからねぇ。私も昔は、どこかでその少年に出会った気がするんだよ……どこかで……なんて言う名前だったかねぇ……
2019年02月01日
ポッド042
「当機は随行支援ユニット『ポッド042』」
小さな箱型の機械が、無機質な声で話しかけてくる。
宙に浮かぶポッドに、私は事務的な応答をする。
戦場で役立つ情報以外に、言葉は必要ない。
「推奨:敵機械生命体の速やかな破壊」
ポッドから放たれる弾丸が、易々と敵の装甲を貫く。
その射撃には一片の迷いもなく、無慈悲なように見える。
もっとも、彼に「慈悲」という感情があれば、の話だが。
「敵の破壊を確認。次の目的地をマップにマーク」
過酷な戦闘の余韻のなか、ポッドの冷静な声が耳に届く。
私の背後を護ったときの傷が、ポッドの側面に残っている。
「何の為に傷つくのか」……私はその意味を考えていた。
「報告:感謝」
暖かな木漏れ日の下、ふと、ポッドを軽く撫でてみた。
返ってきたのは、いつもと変わらない無機質な声。
心なしか嬉しそうだったのは、きっと私の気のせいだろう。
2019年02月02日
ポッド153
ポッド153
「報告:商業施設の廃墟にて過去の文化財を発見」
ポッド042
「推奨:文化財から得られる人類の情報の収集」
ポッド153
「了解:この文化財の構造の解析を行う」
「解析完了、この文化財に関するデータを検索」
「汎用OSを搭載した小型通信端末」
「通称『スマートフォン』と推測」
ポッド042
「提案:スマートフォンの修復」
ポッド153
「報告:修復完了」
「メモリー内に保存されたデータを発見」
「データの再構成を試行……」
「データの再構成完了」
「メモリー内に複数のアプリケーションを確認」
ポッド042
「要請:アプリケーションの情報の開示」
ポッド153
「報告:人類が制作したソーシャルゲーム」
「ガチャと呼ばれる課金システムを実装」
「莫大な利益を生み出していた、との報告がある」
ポッド042
「提案:アプリケーション起動」
ポッド153
「了解」
「『シノアリス』起動」
ポッド153
「警告:ヨクボウのダウンロードが進行中」
ギシン
「アレアレアレ……」
ポッド042
「疑問:ライブラリという概念」
アンキ
「私達ヲ呼び出しテしまってイインデスカ?」
ギシン
「世界観ダイジョウブですか?」
アンキ
「ナイトメアになってしまうノデスカ?」
ギシン
「シカシ戦う皆様は大歓迎イタシマス!」
「ヨウこそ、最悪の世界へ」
2019年02月03日
白の契約
戦闘中に不具合。プロセスを強制終了し、戦闘継続。
飛び散る血・血・血・油。
巨大な廃工場の内部で、機械生命体の叫びと絶叫が木霊する。
あれは敵だ。だから倒さなくてはならない。
機械達の中には親子のような姿をした者がいた。
彼等は泣き叫びながら、私に命乞いをする。
そんな敵を何十匹、何百匹と倒してゆく。
自分の心が凍っていくのを感じる。
機械達が踊るように周りを取り囲む。
許さない、許さない、許さない。彼等は口々にそう叫んでいる。
私は剣を抜き、戦いを挑む。
夢はいつもそこで覚めるのだ。
目が覚めると、虫の声が鳴っている。
最近、休眠時間が伸びている。不具合だろうか。
長い夢を見ていたような気がする。
彼の寝顔を見ながら、私は、唇を強く噛み締めた。
2019年02月04日
白の約定
2019年02月05日
黒の倨傲
その槍を持って一度舞えば、100人を魅了し、1年の寿命を奪われる。そんな呪われた噂が立ったのは、舞踏家一門の頭領が若くして死んだ時だった。彼は普段から好んで、薄気味悪い槍を使って舞っていたのだ。
頭領の死後、彼が好んで使った槍は使用する事を禁じられ、蔵の奥へとしまわれた。もともとあの槍は南蛮から来た赤い目の商人が売っていた物だったが、頭領が値切りに値切って信じられない程の安値で手に入れた物だった。
南蛮から来た武器の割に、不思議と日本の文化を感じさせる顔の装飾が槍には施されていた。顔にはどこか血を拭ったような汚れがついており、掃除を任せられている小間使いも恐ろしがって近寄らなくなってしまう。
薄気味悪くて、捨てるにも捨てられず困っていたその時、あの南蛮の商人がフラリとやってきて引き取ると申し出たのだ。彼は売った値段と同じ小銭で槍を引き取ると、薄い笑みを浮かべ、妙な音でこう言った。「ごチソうさまでシタ」
2019年02月06日
四◯式斬機刀
2019年02月07日
三式戦術槍
どこか遠い国からやってきたと言われるその武器の最初の印象は「無骨」という一言だった。錆びた柄、意味不明の機械、こぼれた刃……槍と言われて売られていたが、その用途には重すぎるように見える。仕入れたは良いものの、こんなモノが売れるんだろうか……?
ウチの王様には困ったもんだ。「3日以内に一番重い武器を持ってきた者に褒美を与える」なんて急に言い出すんだから。なんでも勇者を選抜するのに使うらしいが、言われたこっちはたまったもんじゃない。だから、ガラクタ屋でこのクソ重い槍を見つけた時は、自分に女神さまが付いてるかと思ったね。
相手の国を滅ぼした時に武器を奪い、それを誇るのは武勇の証だ。ただ、奴らの国から奪ったこの武器はどうも使い勝手が悪い。小便を垂れ流しながら命乞いをしていた王が大事にしていたから、さぞや価値のあるものだと思ったんだが、鑑定士によると単なるガラクタらしい。ガッカリにも程がある。
機械生命体との戦いで発見されたその武器は、おそろしく経年劣化していたが、研究部によって未発見の回路が発見された事で一躍話題の武器となった。旧世界にそのようなテクノロジーがある事は考えづらい事から、研究者の間では偽装を疑う声も上がっているが、今後の戦闘に役立つ事は間違いないだろう。
2019年02月08日
鉄パイプ
2019年02月09日
エミールヘッド
2019年02月10日
百獣の剣王
【0806-0002】
報告:巨大工場の地下深くに新たに旧世界の生産施設の稼働が確認された。機械生命体の反応は確認されていない。
推測:自動化された人類遺跡が現在まで活動を継続していた。
推奨:司令部への報告と、さらなる調査。
【0806-0006】
報告:巨大工場の地下深くに存在する制御システムは、旧世界の人類が作り出した物である事が判明した。
推奨:調査の継続と、各種システムのデータバックアップ及び解析。
【0806-0018】
報告:調査対象である工場制御システムの調査が完了。内部のデータから人類情報が検出され、人類の人格データを利用した物である事が判明した。本件については慎重に調査を進める事に決定された。以上。
【0806-0021】
報告:調査対象である工場は旧世界の人類が作り出した兵器工場と判明。工場制御には当時の国家元首と国民の人格データが生きながらにしてシステムに組み込まれた事も確認されている。
疑問:人類の戦争に対する非合理的な生産活動。
2019年02月11日
7号の杖
美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい
美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい
美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい
美味しい美味しい美味しい美味しい美味しい不味いよ美味しい
美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美
しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美し
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美しい苦しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美
しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美しい美し
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好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好
き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き
大好き大好き大好き大好き大好き抱きたい大好き大好き大好き
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コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコ
ワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワタスケテイコ
2019年03月01日
白の書
2019年03月02日
黒の書
2019年03月03日
カイネの剣
2019年03月04日
ハルアヘッド
今度連れてこられるのは、双子らしい。
白い壁と白いベッド、それ以外には何もない、まるで牢屋だ。
少しでも気晴らしになるものがあればいいのだが……
<ファイル_25_12:定期記録>
様子を見に行くと、姉は不安がる弟を優しく励ましていた。
それは、たった二人で耐えるにはあまりにも重い役割だ。
彼らが背負うものは、人類の希望とも等しいのだから。
<ファイル_26_06:定期記録>
実験が決行される日、その姉から手紙を渡された。
彼女は最後まで弟の安全を願っていた。
その願いを引き受けると、彼女は足早に去っていった。
<報告書:生体兵器開発について>
被験体(姉)の経過は順調に思われたが、容態が急変。
現状自我にあたるものは確認できていない。早急に被験体(弟)への作業に着手する。
2019年03月05日
デボル&ポポルの杖
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ポポルさんへ
スープのつくりかたをおしえてくれてありがとう!おかあさんすっごくよろこんでくれました!
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村の子供から手渡された一枚の紙切れ。これは彼らが自我を持ち始めたことと関係があるのだろうか。
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ポポルさんへ
ポポルさんがくれた薬のおかげで、だいぶ楽になりました。まだ家の外には出れないけど、お礼だけさせてください。
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記録によれば、人間は感情を紙に書きつづり、他者に伝えていたようだ。彼らはどこで「それ」を学習したのだろう。
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ポポルさんへ
あなたのことが好きです。もしよかったら、僕と付き合ってもらえませんか?お返事待っています。
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彼らが紙切れに込めたモノを、私は少しも理解できない。それなのに、この胸に感じる違和感は一体、何なのだろう……
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ポポルへ
書置きですまない。今日は帰りが遅くなりそうなんだ。先に寝ていてくれ。
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もう、デボルったら。私にそんな気を使わなくてもいいのに。うふふ。
2019年03月06日
鉄塊
とある荒野より発掘されたその剣は、
剣と呼ぶには余りに大きい代物だった。
戦闘に使うには重く、儀礼用にしては武骨過ぎる。
考古学者たちは、この剣の意義が分からなかった。
その剣が出土した地層と、同じ時代の文献を調べると、
この剣に関する逸話が見付かった。
どうやうこの剣の持ち主であった騎士は、
たった一人で、争う二国を二つとも滅ぼしたと言う。
この剣の材質を調べてみると、驚くことに、
鉄以外に、人間の骨や血の成分が含まれていた。
考古学者たちは、戦死者の装備や遺体から作られた、
戦争の戒めを目的として作られた物だろうと考えた。
戦争が起きて、考古学者たちは逸話が真実であると知る。
剣を保管していた倉庫に、文献にある騎士が現れたのだ。
騎士の正体、それは剣に宿る数多の怨霊の群れ。
彼等は戦争を繰り返す愚かな生者を、決して赦さない。
2019年03月07日
百獣の双槍
2019年03月08日
迷宮の歌
人々が教会で祈りを捧げていました。彼らの視線の先には、牛の頭を模した不気味な石像が鎮座しています。会堂に立ち込める厳粛な空気。それは神に捧げる生贄を決めるための、祈りの時間でした。長い沈黙を破り、司祭は神のお告げを伝えます。生贄に選ばれたのは物静かな少女でした。司祭に導かれ教会の奥へ消えていった少女の目からは、涙がこぼれていました。
人々が去った後の静まり返った教会に、少年が呆然と立ち尽くしています。少年は生贄に選ばれた少女の幼馴染であり、密かな恋心を抱いていました。いつも内気な少女のことを、少年はずっと見守ってきたつもりです。そして、自分だけに見せてくれる少女のくだけた笑顔は、少年の宝物でした。少年は周りに誰もいないことを確かめて、教会の奥へと踏み出します。
薄暗い廊下の奥で、少年はひとつだけ明りの灯る部屋を見つけました。中を覗き込むと、少女がひとりで泣いています。少年は少女の手を引き、教会から走って逃げ出しました。もう大丈夫だよ、これからもずっと一緒にいよう。肩を震わせながら泣き続ける少女に、少年は優しく声を掛けました。しかし少女はその言葉には答えず、うつむいたまま何かを呟いています。
少女の声は次第に大きくなって、やがて叫びに変わりました。「ああ神さま!やっとあたしを選んでくれた!このあたしを!もっと愛して!もットもットもぉットォォぉォォぉぉぉォ!」少女は感涙にむせびながら、隠し持っていた鋭利な牛の角を自らの胸に突き刺しました。少女の血を吸い赤く染まったその角は、まるで命を持ったかのように、妖艶に輝いていました。
2019年03月09日
不死鳥の槍
男は愛する妻のため戦場へと赴く。戦火の中、男は胸を貫かれ腹を斬り裂かれても、決して膝をつくことはない。彼は不死の体を持つ戦士だった。不死でもなければ、体躯にも腕力にも恵まれない男がここまで生き延びることもなかっただろう。
男が不死の体となったのは、一羽の美しい小鳥に出会ったあの日からだった。妻を一途に想う男に心打たれ、小鳥は自らの羽根を一枚差し出しながら言う。「この羽根を身に着けている限り、あなたは愛する人と寄り添えるでしょう」
ひとつ戦争が終わるたび、男はその報酬を手に妻と暮らす故郷の村へと帰る。妻に着飾らせてやることもできない、裕福とは程遠い暮らし。それでも、最愛の妻と一緒に暮らせることが彼にとっての生き甲斐だった。
男は愛する妻のため戦場へと赴く。戦火の中、男は胸を貫かれ腹を切り裂かれ、そして絶命した。その日、故郷の村では、男が肌身離さず大切にしていたはずの美しい羽根を、商人に売りつける妻の姿があった。