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2019年03月10日

不浄なる斧

不浄なる斧
夜の闇を焼くように、劫火が家を包み込んでいる。少年はかろうじて家から逃げおおせたが、父も母も兄弟も、大切なものはすべて炎とともに消え去った。少年に残されたのは、家に火をかけた野盗が打ち捨てていった1本の戦斧と、身体中に這う火傷の痕だけだった。なぜ自分だけがこんな目に遭うのかと、少年は自身の不遇を呪いながら、火傷が癒えるのを待ち続けた。

数年後、少年は青年へと成長した。しかし火傷の痕は悪化する一方で、どんな良薬を使っても回復の兆しは見られない。傷痕に湧いた蛆を削ぎ落すたび、鬱屈とした感情と痛みが走る。この苦痛を少しでも紛うわそうと、青年はある傭兵団に入った。戦いの中、殺戮の瞬間だけは痛みを忘れられることに気づいた青年は、ようやく苦痛から逃れる方法が見つかったと喜んだ。

隣国間の紛争に参加した傭兵団は、敵国の村を蹂躙した。青年は火傷の痛みを狂気で塗り潰すかのように、自身の不遇を他者にも強要するかのように、戦斧を振るう。一軒の民家に押し入った青年は、命乞いする父親の頭を断ち割り、嬲るうちに息絶えた母親の身体を弄り続け、燃え盛る炉に赤子を投げ入れた。青年にとっては、火傷の痛みを忘れられる唯一の時間だった。

殺戮を愉しんだ青年は、もう用はないとばかりに、死体の転がる部屋に火をかける。青年が民家から出ると、炎に巻かれる家を見つめて泣く少女がいた。その姿を見た刹那、幼き日の自分からすべてを奪った劫火の記憶と、激しい火傷の痛みが青年を貫く。この苦しみから解放される本当の方法を悟った青年は、自らの身体に火を放つと、血塗られた戦斧を少女に手渡した。

2019年03月11日

侘寂

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『掟0:気に入らない掟は、住民投票で変える事が出来る』
私は王の側近、副官であります。今まで掟は絶対的なものでしたが、変えたい掟に一票を投ずる 『投票の儀』を行うこととなりました。さて、投票箱にはどんな意見が来ているのか……

『掟451:昼間から飲酒をしてはならない』
変えたい理由の欄には、お酒が好きだから……やはり匿名の投票では、このような私利私欲を満たすだけの意見も見受けられますな。もっと民意を反映できる仕組みに改善しなくては。

『掟356:王の館への謁見は、1日に1度までとする』
変えたい理由は、もっと王と一緒に居たいから……?これはもしやフィーアが……いやいや、あの真面目な娘に限ってこのような惚気た意見は出しますまい。ひとまず、次の意見を……

『掟68:王の側近は、常に王の傍らで奉仕すること』
理由の欄には、いつもありがとう。たまには休んでくれ……まさか王が投票を?長年従事した身として感激ですぞ。民も私の働きを見ているはず。賛同してくれるに違いありません。

※厳正な審議の結果、今回は投票の多かった『掟451:昼間から飲酒をしてはならない』が廃止されることとなった。

2019年03月12日

愛用の鍋

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ヨナね とくべつなレシピをおべんきょうしたの!
これをたべたら どんなけがでも なおっちゃうんだって。
みんなも たいせつなひとに つくってあげてね!

よういするものは しかのおにく ウミガメのたまご
おにわでとれた しんせんなおやさいと やくそう
あとはさいごに さそりのつめを たくさんいれます!

おなべのなかに あつめたものを ぜんぶいれたら
あとは ふたをして よるがくるまで にこみます!
しろいゆげをみてると なんだか うっとりしてきちゃう。

……………………………………あっ! もうこんなじかん!
ふたをとって ふわっと かおりがたったら かんせい!
はやくおにいちゃんに たべさせてあげたいなぁ。

2019年06月25日

スリイの鋏

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アコールの店へようこそ!えーっと、こちらの武器ですか?
あ〜うーん……いえ、あんまりこの武器を欲しがるお客様はいらっしゃらなくて少し動揺してしまいました。いえ、いいんです。いいんですけどね、なんというか、元々の持ち主が結構エキセントリックな方でして。

この武器を使っていたのは大昔に「森の国」という場所を統治していた女性です。彼女は類まれなる美貌の持ち主で、一部の国民からは絶大な信頼を得ていました。紫色の長い髪を持ち、この武器で適当に切っていたそうです。常に気怠げで、国の統治も殆ど放置状態だった……とも伝えられています。

普段は無気力な彼女ですが、唯一の趣味が「人形遊び」でした。ハサミで糸を切り、布をつなぎ合わせ、綿を詰め……薄暗い森の奥にあるお城の中で、一日中、一人で人形を作ってはそれを並べて遊んでいたとか。彼女の遊びは本気でした。その遊びを邪魔した者は、誰であれ無残に処刑される程に。

やがて彼女は普通の人形では満足出来なくなっていきました。
もっとリアルで、もっと上質な素材に興味を持ち始めたのです。その先は語るもおぞましい展開に……とまあ、若干ホラーめいた噂があるんですよね。まあ、単なる噂ですけど。そういえば刃の部分に薄黒い血が付いてて何度洗ってもまた戻るんですよ……不思議ですよね。

ファイブの槍

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アコールの店へようこそ!
こちらは「海の国」を治めていた女性が携えていた槍になります。使われていた年代は……すみません。ちょっと記録にないですね。まあ、大丈夫。切れ味は抜群ですから。この前試し斬りで振り回してただけで何人か死んでしまいましたから。

この武器を持っていた女性はあらゆる欲望が強かったそうです。性欲、食欲、睡眠欲、権利欲、金欲……人の欲望は留まるところを知らない、と言いますが、この方は別格でした。欲望を満たしては飽き、すぐに別の欲望を満たす。その循環だけで生きている方でした。

特に有名だったのが性欲です。ありとあらゆる物を対象に、
じっくり、ねっとりと楽しまれたとか。何をじっくり、ねっとりと楽しんだのかは記録に残っていませんが、そういう細かい部分を記録に残さないのは大変な失敗だと思うんですよ。そう思いませんか?

そういえば、人間は満たされると欲望を失うらしいですね?全部満たされて、全ての欲望を失ってしまった人は、何をして生きていくかわからなくなって孤独になるそうです。ある程度欠けていないと幸福を感じられない……人の業の深さは恐ろしい。そう感じます。それじゃあ、私はお昼ご飯を食べに行ってきますね。ではでは!

2019年06月26日

フォウの爪

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アコールの店へようこそ!こちらの武器ですね。こちらは、最近まで「山の国」を統治していた女性が使っていた物です。女性が使うにはちょっと大きすぎる気もしますが、最近はパワフルな方が多いんでしょうか?え?私?私はご覧の通り、武器を売るだけでこの武器を持ち上げる事すら出来ません。嘘ですけど。

こちらを使っていた女性は大変に品行方正で礼儀正しい方だったようです。その一方で様々な噂もあるのですが……女性はそういう謎めいた一面がある方が魅力的ですよね。え?私ですか?私は何も隠し事していませんよ。嘘ですけど。

統治者の女性には大柄の男性がお供としてついていたそうです。がっしりとした筋肉の鎧につつまれた彼は体を張って女性を守ります……いや、守りはするんですけど、何かにつけて「ご褒美です」とか「プレイです」とか言ってたらしく。世の中には色んな性癖がありますね。え?私の性癖?えーと、殴るのが趣味です。嘘ですけど。

なんだか今日は嘘をたくさんついてしまいました。こんな事ばかりしていると神様に怒られるかもしれませんね。神様がいるとすれば、ですが。ところで、貴方は嘘をつきませんか?もし嘘をついているとしたら……その代償を何で支払うおつもりですか?

トウの剣

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アコールの店へようこそ!こちらの武器にご興味がおありですか?こちらは遠い未来に「砂の国」と呼ばれる国を治めていた女性が持っていた武器です。あの時代は女性の統治者が多かったんですよね。

当時にしては本当に珍しい事でしたが、統治者としての性格は明るく朗らかだったそうです。砂の国は貧しかったらしいのですが、彼女の明るさで支えられていたのかもしれませんね。一方で、彼女は細腕にもかかわらず、かなりの力持ちだったそうです。一説によると岩を両断する程の腕力があったとか。

そんな彼女ですが、大変に美形な恋人がいたそうです。ちょっと頭が悪かったらしいのですが、二人は支え合い、貧しい国を一生懸命ささえていたとか……そりゃまあ、イケメンの恋人が居たら何でも支えられますよね。恋は全てを解決する。うん。

しかしどうやったら彼氏とか彼女とか出来るんでしょうか。長年武器商人をやっているので「また会いに来るから」と言ってくださる方も結構いらっしゃるんですが、結局お会い出来ないんですよね。その方の使っていた武器が戻ってくる事はよくあるんですけど。
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