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2019年03月08日

迷宮の歌

迷宮の歌
人々が教会で祈りを捧げていました。彼らの視線の先には、牛の頭を模した不気味な石像が鎮座しています。会堂に立ち込める厳粛な空気。それは神に捧げる生贄を決めるための、祈りの時間でした。長い沈黙を破り、司祭は神のお告げを伝えます。生贄に選ばれたのは物静かな少女でした。司祭に導かれ教会の奥へ消えていった少女の目からは、涙がこぼれていました。

人々が去った後の静まり返った教会に、少年が呆然と立ち尽くしています。少年は生贄に選ばれた少女の幼馴染であり、密かな恋心を抱いていました。いつも内気な少女のことを、少年はずっと見守ってきたつもりです。そして、自分だけに見せてくれる少女のくだけた笑顔は、少年の宝物でした。少年は周りに誰もいないことを確かめて、教会の奥へと踏み出します。

薄暗い廊下の奥で、少年はひとつだけ明りの灯る部屋を見つけました。中を覗き込むと、少女がひとりで泣いています。少年は少女の手を引き、教会から走って逃げ出しました。もう大丈夫だよ、これからもずっと一緒にいよう。肩を震わせながら泣き続ける少女に、少年は優しく声を掛けました。しかし少女はその言葉には答えず、うつむいたまま何かを呟いています。

少女の声は次第に大きくなって、やがて叫びに変わりました。「ああ神さま!やっとあたしを選んでくれた!このあたしを!もっと愛して!もットもットもぉットォォぉォォぉぉぉォ!」少女は感涙にむせびながら、隠し持っていた鋭利な牛の角を自らの胸に突き刺しました。少女の血を吸い赤く染まったその角は、まるで命を持ったかのように、妖艶に輝いていました。
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