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2013年09月05日

霊使い達の黄昏・20




 こんばんわ。土斑猫です。
 いや〜遅れました。
 ホントに遅れました。
 誠に申し訳ありませんorz
 いやね、新しいPCに苦戦してたら、古い方のPCまでヘソ曲げちゃってね。
 何かウィルスセキュリティが働かなくなちゃって・・・(泣)
 今度の土曜日に、新しいソフト買いに行ってきます・・・orz
 と言う訳で、「霊使い達の黄昏」20話、ようやく掲載です。


 
たゆる想いは黄昏に集う.jpg


                     ―20―


 カシャカシャ
 カシャカシャ
 堕ちて来た宵の中に、無機質な音が絡む様に響き渡る。
 闇色の水に濡れた鱗はヌメヌメと光沢を放ち、鋭い歯牙の並んだ巨口からは白く濁った呼気が漏れる。
 三対の節足は、互いのつなぎ目を軋ませる様に蠢めき、翼の様な大鰭が緩慢に開閉する。
 青白い複眼がギョロギョロと動き、己の周囲の贄達を見回した。
 「・・・何・・・だよ・・・?“コイツ”、は・・・?」
 その姿に例え様もない怖気を感じながら、ダイガスタ・スフィアードは茫然と呟く。
 「ン・・・フゥ・・・」
 そんな彼女の視線の先で、その怪物の頭に“生えた”少女が、ク・・・と身を伸ばす。
 華奢な身体が艶かしい曲線を描いて、弓なりに反った。
 「アア・・・久シブリ。コノ感ジ・・・。」
 身を起こしながらそんな事を言うと、少女―エリアルは愛しげに己が身体をかき抱いた。
 「あれは・・・何・・・?」
 「あの化けモンの頭に生えてんの、さっきの娘・・・だよな・・・?」
 魔性と化した少女の上を旋回する、ウィング・イーグル。
 その背の上で、カームとエメラルもまた、自分達の目を疑っていた。
 「・・・儀式(リチュアル)・モンスター・・・。だけど、自分の身まで巻き込むなんて・・・!!」
 何が起こったのかを、学んだ知識から察するウィン。
 知っているからこそ、そこにある狂気のおぞましさに総毛立つ。
 と、その耳に・・・
 ギョオオオオオオオオッ
 キシャアアアアアアアッ
 ジュラァアアアアアアッ
 村の奥の方から聞こえてくる、異様な雄叫びの群。
 「なっ!?」
 「――っ!!この声!!」
 「まさか、他にも!?」
 驚愕の目で、村の奥を振り仰ぐウィン達。
 彼女達が、思わずそれに気を取られたのはほんの一瞬。
 しかし―
 「危ない!!」
 唐突に、下から響いてくる声。
 それがスフィアードのものだと気付き、視線を戻した瞬間、
 ギロリ
 ウィンの目の前で、青白い複眼が蠢いた。
 「「「―――っ!!」」」
 息を呑む三人の前にあったのは、大鰭を翼の様に開いて空に舞う魔形の姿。
 その頭部に生えたエリアルが、憎々しさと嘲りの混じった声で言う。
 「サッキハ、ヨクモヤッテクレタヨネ。タップリト、オ返シシテヤルカラ!!」
 グゴォオオオオオオオッ
 雄叫びと共に、怪物―『イビリチュア・マインドオーガス』がその脚を振り上げる。
 「落チロ!!」
 「いけない!!うぃっちん、戻って!!」
 そう叫びながら、ウィンはウィング・イーグルの背を杖で叩く。
 召喚を解かれたウィング・イーグルが消えるのと、その場を棍棒の様な節足が唸りを上げて通り過ぎるのは、ほぼ同時だった。
 「お、おお!?」
 「きゃあ!?」
 急に足場を失い、成す術なく落下するウィン達。
 硬い地面が猛スピードで迫る中、ウィンがカームに叫ぶ。
 「カームさん!!“風”を!!」
 「え?あ、はい〜!!」
 杖を構え、念を込める二人。
 その下に展開する、朱い魔法陣。
 二人の声が、同時に紡ぐ。
 「「『ガスタのつむじ風(ガスタ・レラシゥ)』!!」」
 途端、魔法陣から巻き起こるつむじ風。落ちる三人の身体を受け止める。
 風はそのままクッションの様にたわみながら、皆を優しく地へと下ろした。
 「・・・あ、焦ったぜ・・・。」
 そう言って、冷や汗を拭うエメラル。
 「ウィンちゃん、大丈夫〜!?」
 「あ、あたしは・・・」
 「平気。」と言いかけたウィンの周りが、突然暗くなる。
 「!!」
 思わず上を向いた三人の視界に飛び込んできたのは、自分達を押し潰さんと迫ってくる巨大な妖魚の腹。
 「うぉお!?」
 「いけない!!避けて!!」
 「は、はい〜!!」
 慌てて影の中から転げ出るウィン達。
 ズシィイイイイイイイイン
 間一髪、逃げ出した三人がいた場所に叩き落ちる巨体。
 「アン、惜シイ!!上カラ下カラ、内蔵ヒリ出サセテヤロウト思ッタノニ!!」
 黒光りする魚体をズズズッと蠢かせながら、マインドオーガスは舌打ちをする。
 「冗談じゃねぇ!!」
 「そうです〜!!女の子がそんな下品な言葉使っちゃいけません〜!!」
 「突っ込む所、そこじゃねえだろ・・・」
 「・・・マァ、イイワ。一度ニ殺ッチャウヨリ、一人ヅツ切リ刻ンダ方ガ楽シイシネ。」
 言いながら、マインドオーガスはウィン達に向き直る。
 「け・・・。魚に三枚に下ろされるなんざ洒落にもならねぇよ・・・。」
 「皆の無念の為にも、負けられません・・・。」
 各々に武器を構えるエメラルとカーム。
 しかし、その身体には先に受けた『戦壊障(バトル・ブレイク)』のダメージが色濃く残っている。
 恐らくは、二人とも立っているだけで精一杯。
 もう、頼みのエクシーズ体にもなれないだろう。
 その事を見てとったウィンは、自分の傍らを舞うプチリュウに向かって声をかける。
 「ぷっちん、憑依装着!!」
 『合点!!』
 途端、光に包まれるウィンとプチリュウの姿。
 「きゃっ!?」
 「な、何だ!!」
 「――!!コノ光ハ・・・!?」
 驚く皆の前で、羽衣を身に纏ったウィンと、猛々しい風龍へと姿を変えたプチリュウが姿を現す。
 「ウィンちゃん・・・」
 「カームさんとエメラルさんは休んでて。ここは、あたしとリーズさんで押さえる!!」
 そう言うと、ウィンは杖を構えてマインドオーガスに対峙する。
 と、その様を見ていたマインドオーガスが顔を歪める。
 「ソノ格好・・・。ソウカ。アンタ、“アイツ”ノ同輩ネ・・・。」
 「え・・・?」
 「イイワ。相手シテアゲル。アンタハ、特別念入リニ切リ刻ンデアゲルカラ・・・」
 その愛らしい顔に、禍々しい笑みを浮かべながらマインドオーガスは言う。
 「ト・・・。ソノ前ニ・・・」
 ブゥンッ
 バチィッ
 不意にその尾鰭が振られ、後方で傅く様に動きを止めていたギガ・ガガギゴの頬を打った。
 「アンタ、イツマデボサットシテンノヨ!?サッサト仕事、始メナサイ!!」
 ギ・・・ガァ・・・
 その言葉に答える様に低く唸ると、ギガ・ガガギゴは再びその巨体を動かし始める。
 「ギゴ君・・・。」
 目の前に立ち塞がる二体の巨獣を前に、それでもウィンの目は逃げる事なく彼らを見据えた。


 同じ頃、村の入り口と療養所を結ぶ道では・・・。
 「こんな・・・」
 「おいおい・・・、ついてないにも程があるだろ・・・。この状況・・・。」
 互いの背を合わせながら、ライナとダルクは共に青ざめた顔で周囲を見回していた。
 そんな彼女達の周囲を囲むのは、不気味に蠢く三つの巨影。
 一つは巨人。
 青銅色の鱗に身を包み、鋭い鰭骨で全身を飾った、半人半魚の巨人。
 一つは巨怪。
 ウジュウジュと蠢く触手の群の頂に、清楚な少女の半身を掲げた異様の海魔。
 一つは巨龍。
 長くのたうつ身体に、白赤のたてがみ。無骨な腕に大剣を握った異形の邪龍。
 そんな怪物達がライナとダルクを取り囲み、禍しい光を湛えた眼差しで彼女らを見下ろしていた。
 「ぎゅぽぽぽぽ・・・ドウシタ?娘。コノ姿ハ前ニ一度見テオロウ?今更、驚ク事デモアルマイ?」
 驚愕を隠せないと言った態のライナを見て、青銅の魚人―『イビリチュア・ソウルオーガ』がせせら笑う。
 「・・・こんなに沢山の儀式を、一度に執行するなんて・・・。」
 「ぎゅぽぽ・・・我ラガ盟主、のえりあ様ニトッテハ造作モナイ事ヨ。」
 言いながら、ズシリと一歩、ソウルオーガが前に出る。
 「く・・・」
 ジリ・・・と後ずさるライナ。
 「御主ニハ、れいんぼー・るいんデノ貸シガアッタノ・・・マズハソレヲ返ストシヨウ。」
 暗くくぐもった声。水掻きの張った足が、黒い水を弾いてビチャリと湿った音を立てた。
 鋭い爪の生えた手が、ゆっくりとライナに向けられる。
 それに向かって、身構えるライナ。
 しかし―
 「オゥ、忘レル所ジャッタワ・・・」
 不意に、魚人の顔がニヤリと歪んだ。
 「興ヲ削グ邪魔者ニハ、消エテモラワントノウ!!」
 突然そう言うと、ソウルオーガは自分の傍らに立つ海魔に向かって叫んだ。
 「ヤレイ!!『がすとくらーけ』!!」
 その瞬間、無数の触手の上でダラリとうなだれていた少女がガバリと身を起こす。
 バサリと振り乱れた赤髪の中から現れる、可憐な、しかし生気のない顔。
 ジュウララララララッ
 薄い花弁の様な口が、裂けんばかりに咆哮を上げる。
 同時に、その下ある海魔の身体がガバリと口を開き―
 ゴブゥアァアアアア
 空に向かって濁紫の爆煙を大量に吹き上げた。
 「!!」
 思わず空を振り仰ぐライナ。
 その視線の先で、煙が弾ける。
 「ジェアァアアアーッ!!」
 響き渡る悲鳴。
 紫煙に包まれた丸い身体が、その空間ごとグニャグニャと歪む。
 「モイ君!?」
 絶叫の様な声で、ライナが“彼”の名を呼ぶ。
 その叫びが終わらないうちに、煙は濁った欠片を散らしながら消えていく。
 やがてそれが完全に消えた時、“彼”の姿ももろともに消えていた。
 「あ・・・あぁ・・・?」
 忘我の視線が、消えたモイスチャー星人の姿を追って虚空を彷徨う。
 そんな彼女を嘲る様に、ソウルオーガが笑った。
 「ぎゅぽぽぽぽぽぽ。何ヲ泣キソウナ顔ヲシテオル?何、心配ハイラヌ。”あれ”ハ己ノ居ルベキ場所二戻ッタダケヨ。」
 「自分の・・・居るべき場所・・・?」
 言葉の意をとれないライナを、この上なく愉快そうな眼差しが見つめる。
 「ソウ。コヤツ・・・『いびりちゅあ・がすとくらーけ』ノ『輪廻狂典(フレネーゾ・ウトピオ)』ハ、受ケタ者ヲ生マレシ地ヘト強制送還スルモノ・・・。”アレ”ハ帰ッタノヨ。己ノ生マレシ地ヘナ・・・。死ンデハ、オラヌ。モットモ・・・」
 言いながら歪む。歪な顔。
 「二度ト会エルカドウカマデハ、責任持チカネルガナ・・・。」
 愕然とするライナを前に、彼はまたギュポポと笑った。


 ギィガァアアアアアッ
 響き渡る雄叫びと共に、鋼の爪が空を裂く。
 「クッ!!」
 それを『風の鏡(レラ・シトゥキ)』で受け止める、ダイガスタ・スフィアード。
 しかし―
 ギャガガガガガガッ
 反衝して己が主を傷つける筈のそれは、等のギガ・ガガギゴの身体を逸れて明後日の方向の地面に突き刺さる。
 「・・・相手を傷つけない様にってのは・・・中々骨が折れるもんだねぇ・・・。」
 ハァ、と息をつくスフィアードの額を汗が流れる。
 ガガギゴを傷つけないために、防戦一方を強いられる彼女。その体力は、徐々にではあるが確実に削られていた。
 しかし、そんな彼女の想いに構う事もなく、ギガ・ガガギゴはその鋼爪を冷淡に振り下ろす。
 そして、その先にいるのは―
 「この!!」
 再び展開する『風の鏡(レラ・シトゥキ)』。
 反衝した斬撃が、後方の瓦礫を弾く。
 「アンタ・・・あくまでも”この子”を狙うのかい・・・?」
 そう呟くスフィアードの後ろには、佇むだけのカムイの姿。
 ギィガァアッ
 苛立たしげな声を上げて、ギガ・ガガギゴが蹴足を放つ。
 ズゥンッ
 「グゥッ!?」
 全身の骨がバラバラになりそうな衝撃を受け止めながら、それでもスフィアードはその場を退かない。
 「・・・よっぽど、怒ってんだね・・・。この子の事・・・。」
 軋む杖を身体で支えながら、スフィアードは苦笑する。
 「分かるよ・・・アンタの気持ち・・・。許せないよな。許せる訳ないよな・・・。だけど・・・」
 杖を持つ両手に、力がこもる。
 「それは、アタイも同じなんだよ!!」
 細い腕が風を纏い、渾身の力をもってギガ・ガガギゴの足を押し返す。
 ギィイッ
 バランスを崩し、仰向けに転がる巨体。
 絶好の勝機。
 しかし、追い打ちはない。
 その代わり、この間に上がる呼吸を少しでも落ち着かせようと大きく息を吐きながら、スフィアードはポソリと呟く。
 「・・・もう、失くさせゃしない・・・。亡くさせるもんか・・・仲間を・・・家族を・・・!!」
 ギィ・・・
 そんな彼女を、半身を起こしたギガ・ガガギゴが忌々しげな目で見つめた。


 そんな彼女らの様子を、エリアル―イビリチュア・マインドオーガスは酷く冷ややかな目で見ていた。
 「全ク、何ツマラナイ茶番二付キ合ッテンダカ。サッサト仕事済マセロッテ言ッタノニ・・・」
 そうボヤく彼女の背後で、緑の人影が踊る。
 「『風の刺嘴(レラ・エウシ)』!!」
 声と共に、穿ち込む様な風を纏った杖がマインドオーガスに突き立てられる。
 しかし―
 ギィンッ
 「キャンッ!?」
 硬い音を立ててあえなく弾き返される、風の槍。
 悲鳴と共に、ウィンの身体が地に転がる。
 「何ヨ?アンタモ懲リナイワネェ。ソンナヒョロッポイ槍ナンカ、効キヤシナイッテノニ。」
 「く・・・」
 嘲るマインドオーガスに、歯噛みをするウィン。
 『風の刺嘴(レラ・エウシ)』。憑依装着状態になったウィンの特殊攻撃。
 装備魔法(クロス・スペル)、『炎華襲撃(ビッグバン・シュート)』と同じく、守備力の低い相手の防御を貫く効果がある。
 しかし、今回は相手の守備力が上回っているため、その貫通効果が十分に生きないでいた。
 「ホラ、ぼうっトシテルト刻ンジャウワヨ!!」
 地に転がるウィンに向かって、マインドオーガスが襲いかかる。
 『シャアアアッ!!』
 その爪がウィンにかかる寸前、守る様に間に入った風龍が烈風を吐きつける。
 「アア、モウ!!うざっタイワネェ!!」
 髪が乱れるのを嫌がる様な素振りを見せて身を引く、マインドオーガス。
 『大丈夫か!?ウィン!!』
 「う、うん。ありがとう、ぷっちん。」
 体勢を立て直しながら、礼を言うウィン。
 『けど、厄介だぞ。あいつ、責めも守りも隙がない。』
 「うん・・・。多分、あたし達だけの力じゃ・・」
 悔しげに言いかけたその時、
 「ウァアッ!!」
 突然響いた声が、彼女の目を奪った。
 

 「・・・こいつは、ちょっとヤバイかな・・・?」
 目の前の光景に、スフィアードはゴクリと息を呑んだ。
 彼女の前に立ったギガ・ガガギゴの口に蒼白い光が収束を始めていた。
 最大の攻撃、『水槍閃(アークヴォ・ランツォ)』が放たれる前兆。
 対するスフィアードは、巨体から繰り出される攻撃を何度も受け止めた影響でもはや疲労の極みにあった。
 頼みの綱である風の鏡(レラ・シトゥキ)も、満足に使えるか疑わしい。
 「カムイ・・・」
 荒い息をつきながら、後ろで佇むカムイに語りかける。
 「あの一撃は、何とか食い止める。だから、アンタは逃げろ・・・!!」
 しかし、カムイは動かない。
 忘我の表情のまま、ただ立ち尽くすだけ。
 「カムイ!!」
 怒鳴るスフィアード。
 けれど、その声は空風の様に虚しく彼の身体を通り過ぎるだけ。
 「カム・・・」
 もう一度、叫ぼうとする。
 その意識を逸した一瞬が、隙になった。
 カァ・・・
 その身を不気味に照らす、蒼白い光。
 ハッと戻した視線に迫る、高熱、高圧の水閃。
 「くっ!!」
  咄嗟に風の鏡レラ・シトゥキを展開する。
 しかし、間に合わない。
 バチィッ
 ぶつかり合う、水の熱閃と風の烈渦。
 跳ね上がる、水の穂先。
 しかし、中途半端に展開した風もその威力を殺しきれない。
 余った負荷が、疲弊したスフィアードの身体を打ち据える。
 「ウァアッ!!」
 全身を襲う衝撃。
 軽い身体が、悲鳴と共に宙を舞う。
 「リーズさん!!」
 叫ぶウィンの声が、酷く遠くに聞こえる。
 回る視界の隅に、馬鹿の様に立ち尽くす”彼”の姿が映る。
 (カムイ―)
 声はもう出ない。
 出ない声で、”彼”の名を呼ぶ。
 けれど、想いは届かない。
 (おじさん・・・おばさん・・・ごめん―)
 消えゆく意識の中、スフィアードの胸を過ぎったのは、今は亡き愛しき者たちへの想いだった。


 「ぎゅぽぽぽぽ・・・」
 昏い黄昏の堕ちた中、水底で汚泥が泡立つ様な声が響く。
 青黒い巨体を震わせ、イビリチュア・ソウルオーガは満足気に笑う。
 「サテ、無粋ナ“邪魔者”ハ消エタ。ソロソロ、第二幕ヲ始メルトシヨウカノ・・・。」
 「第・・・二幕・・・?」
 周囲を取り囲む魔性の者達。
 彼らから注がれる視線に怖気を感じながら、ライナは問う。
 「ソウ。のえりあ様ニ奉ゲル、愉快ナ愉快ナ喜劇ノ第二幕ヨ・・・。」
 答えるソウルオーガの口から、冷たい呼気が白く流れる。
 「オ主達二ハ、ソノ劇ノ”華”トナッテ貰ウトシヨウ・・・」
 ゴボゴボ・・・ゴボ・・・
 ライナの耳に、どこからともなく聞こえる水音。
 見れば、水かきの張った大きな手に、黒く濁った水が湧き出す様に溢れ出していた。
 「全テハのえりあ様ノ為・・・全テハのえりあ様ノ御心ノママ・・・」
 呪詛の様に紡がれる言葉。
 それに習う様に、他の2体も動き始める。
 邪龍が手にした刀をゆっくりと掲げる。
 海魔がジュクジュクと奇怪な音を立てて、その触手を蠢かす。
 「サア、舞ウガイイ・・・。」
 手の上の濁水が、丸い水球を形作っていく。
 黒い水晶玉に、歪んで映るライナの顔。
 反対側に映る、魚妖の顔も歪む。
 歪に。
 歪に。
 歪んだ顔が。
 歪な言葉を。
 歪に紡ぐ。
 「可憐ニナ・・・。」
 そして、ソウルオーガはその濁った水球をライナに向かって叩きつけた。



                                     続く
タグ:霊使い
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