2019年05月16日
農業のファクトフルネス
最近のベストセラーになっている「ファクトフルネス」を読みました。
内容を簡単に言えば「世界はみんなが思っているほど悪い状況ではなく、むしろ良くなってきている」ということですかね。
ただ、それを説明するにあたり統計を引用したり、著者自身の途上国での医療活動を通じた体験談、考えも織り交ぜられており、非常に納得させられるものでした。
本書を通じて、自分の知らない世界で起こっていることに対し悲観的に捉えていることが多いことを感じさせられました。
アフリカでは今でも貧困に苦しむ人が相当多いと思っていましたし、かなりの人が病気に苦しんでいるイメージでした。
このようなことは、他の事例でも起こり得ることではないでしょうか。
日本の農業に対する皆様のイメージは、どんな感じですか?
以下では、私がこの業界に入る前の悲観的なイメージも含めながら、皆様が持っていると思われる農業に対するイメージについて、検証してみました。
ただし北海道、かつ畜産のことしか知りませんので、限定的にはなりますが。
1.農業は厳しくて、農家がどんどん辞めていっている?
農業が厳しいかどうかについては後ほど検討しますが、農家が減っているかどうかについては、残念ながら減っています。
例えば、2歳以上の雌の乳用牛を飼養している農家数を見ると、
2010年から2018年にかけて、全国では21,900戸から15,700戸に、北海道では7,690戸から6,140戸に減少しています。
肉用牛の飼養戸数で見ても、同様に全国では74,400戸から48,300戸に、北海道では3,020戸から2,570戸に減少しています。
また飼養頭数でみると、前者では全国で1,484,000頭から1,328,000頭に。
北海道では826,800頭から790,900頭に。
後者では全国で2,892,000頭から2,514,000頭に。
北海道では538,600頭から524,500頭に減少してはいます。
それでも、飼養戸数の減少に比べれば、頭数の減少は緩やかです。
1戸あたりの飼養頭数が増えているからです。
ですので、悲観的に見れば(あるいは何らかの農業政策を要求する立場の人からは)農業が厳しくて農家が減っていると言えますし、違う視点で見れば、大規模化が進んでおり維持できている、とも言えます。
2.最近牛乳やお肉が高いのは、農家が減って生産量が減っているから?
まず牛乳については、生産量は年々減っています。
生乳余りによる廃棄が社会問題となった2005年には全国の生乳生産量は8,285,215tありました。
ですが、2010年に7,720,456t、2017年に7,276,523tと大きく減少しています。
(ただし北海道では、2005年3,861,171t、2010年3,901,651t、2017年3,892,895tと維持しています)。
北海道だけで見ると、農家戸数は減っていても大規模化などにより生産量は維持していますが、全国的には農家戸数、生産量ともに減少しているため不足してきているのでしょう。
また、幸い牛乳や乳製品の需要も高いようで、乳脂肪を下げた飲みやすい牛乳や、チーズ人気の高まりも影響しているかもしれません。
一方肉用牛のと畜頭数を見ると、2005年1,230,180頭、2010年1,218,663頭、2017年1,045,191tと減少しています。豚については2005年16,242,549頭、2010年16,807,094頭、2017年16,336,984頭と維持しているようです。
牛肉については生産量も減っていますし、最近の健康ブームでの人気も影響しているかもしれません(牛肉を食べて長寿、という番組も時々見ますし)。
3.農家の生活は今でも苦しい?
この問いについては、北海道と本州では大きく異なりますし、また米作、畑作、酪農、畜産、養豚など、種類によっても差があります。
酪農で見ると、搾乳牛1頭あたり所得は2005年で167,667円、2010年128,028円、2017年には299,559円と大きく向上しています。
最近の好調ぶりを反映した数値になっています。
肉用牛経営については統計の数値が見つけられない(そのような統計調査をやっていないかもしれませんが)ためはっきりとは言えませんが、自分の農場で子牛を産ませている、いわゆる繁殖経営は好調、他から牛を買ってくる経営は苦しい所が多い、というのが実感です。
北海道の畑作経営は規模が大きく、政策の助けもあり、経営が良い所が多いのではないかと思います。
以上、北海道についての実感はこのようなところです。
概ね苦しくはないと思っています。
もしかしたら、本州の兼業農家が苦しい、というのも私の思い込みなのかもしれませんが…。
4.農家の牛乳は乳業メーカーから買いたたかれている?
現在放送中の朝ドラ「なつぞら」。
農協がまとめて出荷するように変えたいお父さんと、農家が自由に売るべきだと主張するじいちゃん。
しかし、じいちゃんは天陽くんの家の牛乳が買いたたかれている実態を知り、考えを改める、という…。
かつてはこういうこともあったのかもしれません。
さすがに私が生まれる前の時代ですので、よくわかりません。
ただ、その後農業団体による一元集荷や、農業者による乳業会社の設立など、農業者自らが状況を打開するために活動してきた経緯はあります。
北海道の生産者が受け取る生乳のキロ単価は、最近100円を超えました。ほんの10年前には75円くらいだったように記憶していますので、急激に上がっていることがわかるかと思います。
75円の頃は苦しい酪農家がたくさんいました。しかしここまで乳価が上がれば、ほとんどの酪農家は順調でしょう。
乳価は農業団体と乳業メーカーの交渉で決まっています。
かつてのように買いたたかれる、という状況ではないですね。
5.農家は休みがなく忙しい?
自然が相手、生き物が相手の農業ですから、毎日休みがなく忙しい。そういったイメージがあるかと思います。
以下、私の実感としては…。
畑作農家は、忙しい時期は朝(日が昇ってから)から晩(日が落ちてもライト付けて作業することも)まで忙しい。
雨が降れば畑に入れないので(トラクターがぬかるんで動けなくなったりなどの理由で)、お休み。
雪が積もる時期になれば、事務仕事はありますが忙しくはないと思います。ただ、ハウスでの作業がある農家もいます。
まとめれば、種撒きと収穫期は天候に左右されながらすごく忙しい、それ以外の時期は極端に忙しいわけではない、冬は旅行に行ったりもできる、ということになるでしょうか。
酪農については、朝晩の搾乳がありますので、休めません。
ただし1日の作業がすごく忙しいかというと、農場による、ということになるでしょう。効率化が進んでいれば、1日7時間くらいの作業時間の方も結構います。
外部組織に作業委託をしているかどうかでもかなり変わります。
子牛を預託牧場に預けたり、牧草の収穫をコントラクターに任せたり、酪農ヘルパーに搾乳作業をお願いしたりすることができればその分余裕ができます。
地域によっては預託牧場がなかったり、あっても一杯で預かってもらえなかったり、コントラクターがなかったり、ヘルパー人員に余裕がなかったり、という所もあります。
どこにも委託できず全部自分でやっていたら、相当忙しい日々を過ごすことになるでしょう。
最近では搾乳ロボットなど自動化技術が普及しつつあります。
酪農の省力化は今後一層進むでしょう。
ただし、搾乳ロボットが搾乳をすべてやることになったとしても、完全にロボット任せにしてお出かけ、というのはまだ難しそうです。故障やトラブルがあったら困りますから…。
肉用牛も、毎日のエサやりがあるので休めません。
ただしエサやり作業はだいたい機械でやりますので、息子が研修旅行で不在中は親父が全部やる、といったことはできているでしょう(酪農だと、ヘルパーにお願いして家族+ヘルパーというような形が多いでしょうか)。
あと、酪農や畜産の従業員については、労働基準法などもありますので毎日休みなく、ということはないのですが、だいたいの農場では4週4休から4週6休といった感じなのではないでしょうか。
1日の労働時間は7時間くらいになっているでしょう。
統計値は以下のサイトより引用しました。
北海道農政事務所
http://www.maff.go.jp/hokkaido/toukei/kikaku/database/tikusan/tikusan.html
農林水産省(畜産統計、畜産物流通調査)
http://www.maff.go.jp/
一般社団法人Jミルク 酪農乳業情報
http://www.j-milk.jp/gyokai/index.html
内容を簡単に言えば「世界はみんなが思っているほど悪い状況ではなく、むしろ良くなってきている」ということですかね。
ただ、それを説明するにあたり統計を引用したり、著者自身の途上国での医療活動を通じた体験談、考えも織り交ぜられており、非常に納得させられるものでした。
本書を通じて、自分の知らない世界で起こっていることに対し悲観的に捉えていることが多いことを感じさせられました。
アフリカでは今でも貧困に苦しむ人が相当多いと思っていましたし、かなりの人が病気に苦しんでいるイメージでした。
このようなことは、他の事例でも起こり得ることではないでしょうか。
日本の農業に対する皆様のイメージは、どんな感じですか?
以下では、私がこの業界に入る前の悲観的なイメージも含めながら、皆様が持っていると思われる農業に対するイメージについて、検証してみました。
ただし北海道、かつ畜産のことしか知りませんので、限定的にはなりますが。
1.農業は厳しくて、農家がどんどん辞めていっている?
農業が厳しいかどうかについては後ほど検討しますが、農家が減っているかどうかについては、残念ながら減っています。
例えば、2歳以上の雌の乳用牛を飼養している農家数を見ると、
2010年から2018年にかけて、全国では21,900戸から15,700戸に、北海道では7,690戸から6,140戸に減少しています。
肉用牛の飼養戸数で見ても、同様に全国では74,400戸から48,300戸に、北海道では3,020戸から2,570戸に減少しています。
また飼養頭数でみると、前者では全国で1,484,000頭から1,328,000頭に。
北海道では826,800頭から790,900頭に。
後者では全国で2,892,000頭から2,514,000頭に。
北海道では538,600頭から524,500頭に減少してはいます。
それでも、飼養戸数の減少に比べれば、頭数の減少は緩やかです。
1戸あたりの飼養頭数が増えているからです。
ですので、悲観的に見れば(あるいは何らかの農業政策を要求する立場の人からは)農業が厳しくて農家が減っていると言えますし、違う視点で見れば、大規模化が進んでおり維持できている、とも言えます。
2.最近牛乳やお肉が高いのは、農家が減って生産量が減っているから?
まず牛乳については、生産量は年々減っています。
生乳余りによる廃棄が社会問題となった2005年には全国の生乳生産量は8,285,215tありました。
ですが、2010年に7,720,456t、2017年に7,276,523tと大きく減少しています。
(ただし北海道では、2005年3,861,171t、2010年3,901,651t、2017年3,892,895tと維持しています)。
北海道だけで見ると、農家戸数は減っていても大規模化などにより生産量は維持していますが、全国的には農家戸数、生産量ともに減少しているため不足してきているのでしょう。
また、幸い牛乳や乳製品の需要も高いようで、乳脂肪を下げた飲みやすい牛乳や、チーズ人気の高まりも影響しているかもしれません。
一方肉用牛のと畜頭数を見ると、2005年1,230,180頭、2010年1,218,663頭、2017年1,045,191tと減少しています。豚については2005年16,242,549頭、2010年16,807,094頭、2017年16,336,984頭と維持しているようです。
牛肉については生産量も減っていますし、最近の健康ブームでの人気も影響しているかもしれません(牛肉を食べて長寿、という番組も時々見ますし)。
3.農家の生活は今でも苦しい?
この問いについては、北海道と本州では大きく異なりますし、また米作、畑作、酪農、畜産、養豚など、種類によっても差があります。
酪農で見ると、搾乳牛1頭あたり所得は2005年で167,667円、2010年128,028円、2017年には299,559円と大きく向上しています。
最近の好調ぶりを反映した数値になっています。
肉用牛経営については統計の数値が見つけられない(そのような統計調査をやっていないかもしれませんが)ためはっきりとは言えませんが、自分の農場で子牛を産ませている、いわゆる繁殖経営は好調、他から牛を買ってくる経営は苦しい所が多い、というのが実感です。
北海道の畑作経営は規模が大きく、政策の助けもあり、経営が良い所が多いのではないかと思います。
以上、北海道についての実感はこのようなところです。
概ね苦しくはないと思っています。
もしかしたら、本州の兼業農家が苦しい、というのも私の思い込みなのかもしれませんが…。
4.農家の牛乳は乳業メーカーから買いたたかれている?
現在放送中の朝ドラ「なつぞら」。
農協がまとめて出荷するように変えたいお父さんと、農家が自由に売るべきだと主張するじいちゃん。
しかし、じいちゃんは天陽くんの家の牛乳が買いたたかれている実態を知り、考えを改める、という…。
かつてはこういうこともあったのかもしれません。
さすがに私が生まれる前の時代ですので、よくわかりません。
ただ、その後農業団体による一元集荷や、農業者による乳業会社の設立など、農業者自らが状況を打開するために活動してきた経緯はあります。
北海道の生産者が受け取る生乳のキロ単価は、最近100円を超えました。ほんの10年前には75円くらいだったように記憶していますので、急激に上がっていることがわかるかと思います。
75円の頃は苦しい酪農家がたくさんいました。しかしここまで乳価が上がれば、ほとんどの酪農家は順調でしょう。
乳価は農業団体と乳業メーカーの交渉で決まっています。
かつてのように買いたたかれる、という状況ではないですね。
5.農家は休みがなく忙しい?
自然が相手、生き物が相手の農業ですから、毎日休みがなく忙しい。そういったイメージがあるかと思います。
以下、私の実感としては…。
畑作農家は、忙しい時期は朝(日が昇ってから)から晩(日が落ちてもライト付けて作業することも)まで忙しい。
雨が降れば畑に入れないので(トラクターがぬかるんで動けなくなったりなどの理由で)、お休み。
雪が積もる時期になれば、事務仕事はありますが忙しくはないと思います。ただ、ハウスでの作業がある農家もいます。
まとめれば、種撒きと収穫期は天候に左右されながらすごく忙しい、それ以外の時期は極端に忙しいわけではない、冬は旅行に行ったりもできる、ということになるでしょうか。
酪農については、朝晩の搾乳がありますので、休めません。
ただし1日の作業がすごく忙しいかというと、農場による、ということになるでしょう。効率化が進んでいれば、1日7時間くらいの作業時間の方も結構います。
外部組織に作業委託をしているかどうかでもかなり変わります。
子牛を預託牧場に預けたり、牧草の収穫をコントラクターに任せたり、酪農ヘルパーに搾乳作業をお願いしたりすることができればその分余裕ができます。
地域によっては預託牧場がなかったり、あっても一杯で預かってもらえなかったり、コントラクターがなかったり、ヘルパー人員に余裕がなかったり、という所もあります。
どこにも委託できず全部自分でやっていたら、相当忙しい日々を過ごすことになるでしょう。
最近では搾乳ロボットなど自動化技術が普及しつつあります。
酪農の省力化は今後一層進むでしょう。
ただし、搾乳ロボットが搾乳をすべてやることになったとしても、完全にロボット任せにしてお出かけ、というのはまだ難しそうです。故障やトラブルがあったら困りますから…。
肉用牛も、毎日のエサやりがあるので休めません。
ただしエサやり作業はだいたい機械でやりますので、息子が研修旅行で不在中は親父が全部やる、といったことはできているでしょう(酪農だと、ヘルパーにお願いして家族+ヘルパーというような形が多いでしょうか)。
あと、酪農や畜産の従業員については、労働基準法などもありますので毎日休みなく、ということはないのですが、だいたいの農場では4週4休から4週6休といった感じなのではないでしょうか。
1日の労働時間は7時間くらいになっているでしょう。
統計値は以下のサイトより引用しました。
北海道農政事務所
http://www.maff.go.jp/hokkaido/toukei/kikaku/database/tikusan/tikusan.html
農林水産省(畜産統計、畜産物流通調査)
http://www.maff.go.jp/
一般社団法人Jミルク 酪農乳業情報
http://www.j-milk.jp/gyokai/index.html
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