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2016年08月26日
アガサ・クリスティから (61) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その5)
(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その5)
Agatha Eleven Missing=アガサ・クリスティ失踪事件
新進気鋭の推理小説作家が、ある日、自宅を出たまま行方不明になり、翌日、彼女の乗っていた自動車といくつかの残留品のみが発見された。
この謎の失踪事件に世間は騒然となった。
のべ数千人の大規模な警察の捜査。
新聞報道も過熱した。
数百人もの一般人たちも捜査協力をしたが、事件は謎のままであった。
遂には、当時の推理小説家ドロシー・L・セイヤーズやコナン・ドイルにも助言が求められたほどであった。
一説によると、当時、オカルトに凝っていたコナン・ドイルは、オカルト的な手法でこの事件の謎を解明しようとしたとも言われている。
世間の注目を集めたマスコミの報道や追及の中で、ついに夫の浮気相手である恋人「ナンシー・ニール」の名前まで公表されてしまう。
この事件は迷宮入りするかに思われた。
大規模の警察の捜査や世間の関心を集めた過熱報道にも関わらず、失踪事件は相変わらず、謎のままだったからである。
ところが、11日後の12月14日、突然に事件は解決する。
あっけない幕切れであった。
(次号に続く)
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2016年08月20日
アガサ・クリスティから (60) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その4)
(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その4)
マスコミの報道は過熱した。
新進気鋭の女流推理小説家がある日、突然、行方不明になってしまったのである。
・・・・・捜査と同時進行にアガサ・クリスティの家族を含むプライベートの繊細な問題が明るみに出ることになってしまった・・・・・。
失踪・・・・・その背後に夫の浮気が浮き彫りになり、このスキャンダルの矛先は、当然、夫アーチボルト・クリスティに向けられた。
最初は沈黙を保っていた夫も釈明せざる得ない状況に追い込まれていた・・・・・妻殺しの嫌疑が掛かっていたのだ。
夫は、マスコミのインタービューに対して、自分の見解を述べる。
「妻の失踪は、妻自身の意志によるものだと思う。」
しかし夫自身は、その要因であると思われる自身の浮気問題を口をつぐんだままだったので、却って疑惑の目を向けられることとなる。
記者たちの執拗な取材により、ついに彼がひた隠しにしていた名前が世間に出ることになる。
浮気相手のナンシー・ニールの名前が新聞に掲載されたのである。
(次号に続く)
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2016年08月15日
アガサ・クリスティから (59) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その3)
(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その3)
1926年12月3日(金)21時45分頃、アガサ・クリスティは行先も告げないまま、車で出かけたきり戻ってこなかった・・・・・11日間に渡るアガサ・クリスティ失踪事件の始まりであった。
翌12月4日、朝8時過ぎにアガサの車が発見される。
場所は、サリー州ギルフォードの郊外にある小道の脇。
斜面を滑り落ちて草むらに突っ込んでいたところをフレデリック・ドアという自動車検査係の男が発見したのだった。
車内には運転していたと思われるアガサ・クリスティの姿はなかった。
しかし痕跡は皆無ではなく、アガサの毛皮のコート、スーツケース、運転免許証も残されていた。
11時頃にはサリー州警察本部に事故の一報が入った。
*************
【ミセス・アガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティ】
◎自宅であるパークシャー・サニングデールのスタイルズ荘より失踪。
12月3日金曜日の午後9時45分にドライブをしてくると行先も告げないまま、自宅を車で出た後、消息を絶つ。
●35歳(本当は36歳であった。誤報かも?知れない。)
●身長:5フィート7インチ
●容姿:少し白髪が混じった赤味がかった断髪。色白でほっそりした体型。
●失踪時のいでたち:グレー濃淡色のカーディガン、緑色のジャンパー、グレー色のスカート(メリヤス編み)
ベロアの小さな帽子。
パールがひとつ付いたプラチナの指輪。
(ちなみに結婚指輪ははめていない。)
●失踪時の所持品:黒色のハンドバックと、その中に5ポンドか10ポンド入りの財布。
*************
これを受けたケンウォード本部長補の指揮による捜査が開始され、翌5日には大捜査が行われた。
また5日夜には、アガサ・クリスティの失踪を知らせる広告が新聞に大きく掲載されることになり、これを機にマスコミも過熱していくこととなる。
(次号に続く)
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2016年08月14日
アガサ・クリスティから (58) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その2)
(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その2)
【Agatha Eleven Missing】と呼ばれているアガサ・クリスティ失踪事件は、1926年12月3日金曜日の夜、行先も告げず車で出かけたまま、11日間、女流推理小説家アガサ・クリスティが行方不明だった事件を指す。
ミステリー界に残る謎の失踪事件であった。
当時、アガサ・クリスティは6社もの出版社から断りを経たのち、苦労して作家としてデビューをつかみ、失踪事件同年に出版した「アクロイド殺害事件」で注目を浴びていた売り出し中の推理小説作家であった。
(*「アクロイド殺害事件」は本ブログのアガサ・クリスティからBアクロイド殺害事件#その@〜アガサ・クリスティからC アクロイド殺害事件#そのAを参照)
そのトリックは本ブログでも取り上げさせて頂いたが、当時の推理ミステリー小説界および推理ミステリー作家をも賛否両論の渦に巻き込むほどの話題作でもあった。
その作品の稀有さと勝るとも劣らない謎の失踪事件を推理小説家であるアガサ・クリスティ自身が、現実に起こしたのである。
当時の大騒ぎぶりは想像かたくない。
今もっていくつかの説が残りつつも、当事者であるアガサ・クリスティは没するまで一切、口を開かないまま終わった謎の失踪事件でもあった。
真相は、死後も謎のままなのである。
いくつかの仮説が残ってはいるが・・・・・。
どれも肯定すべき確たる証拠も、否定すべき確たる証拠もないのである。
謎・・・・・が残ったのである。
当時も今も彼女の失踪事件に関する謎は残ったままなのだが、夫であった元空軍大佐アーチボルド・クリスティとの関係が間違いなく引き金となっているという見解は変わりないように思われる。
かなり昔の話で、今から90年前のことであるのだが、人の気持ちは変わらないものなのかも?知れない。
つまり今も有り得るような?夫婦関係のもつれが原因になっているようなのだ。
年下の夫アーチボルト・クリスティは、空軍大佐を退役後、新しい仕事(金融関係)に就いていた。
しかし仕事は順調とは言いがたく、自尊心を傷つけられる中、地元ゴルフクラブで10歳年下であるナンシー・ニールという女性と恋に落ちる。
いわゆる不倫関係となるのだった。
一方のアガサは、1926年の早春、最愛の母が亡くなる。
アガサはひどく落ち込んでいた。
なお悪いことに夫婦仲はしだいに悪くなり、そのうえ既に愛人を作っていた夫から、離婚も迫られるようになっていた。
まだ幼少期であった夫婦の一人娘のロザリンドのこともあり、二人は一緒の生活を継続しやり直すことにしたが、うまく行かずに夫婦仲は大きな不和と亀裂に陥っていた。
そんなある日の夜、正式には1926年12月3日(金)午後9時45分頃にアガサは、行先も告げないままに車で出掛けたまま・・・・・行方不明になってしまったのである。
ロンドンのパーティから帰宅したアガサの秘書兼娘の家庭教師でもあったシャーロットは、おろおろしているメイドからアガサの外出を聞き、夫との不和のこともあったアガサを随分と心配した。
(当時、アガサは家事はメイドを雇い、仕事の秘書(兼 娘ロザリンドの家庭教師)であるシャーロットをロンドン近郊の田園都市サニングデールの大邸宅に家族と共に住まわせていた。
ちなみにこの邸宅の名をスタイルズ荘という。アガサの処女作の「スタイルズ荘の怪事件」と同名である。)
クリスティ家の内情をよく知っていたシャーロットはいろいろ心配した挙句、徹夜でアガサの帰りを待ったが、彼女はその日から行方不明になってしまったのである。
(次号に続く)
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2016年08月07日
アガサ・クリスティから (57) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その1)
(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その1)
これまでは、アガサ・クリスティの作品を取り上げさせて頂いていたが、今回はその作者であるアガサ・クリスティ自身を題材にしてみようと思う。
ご存知の方も多いかと思われるが、彼女は学校教育=画一的なアカデミック教育を受けてはいない。
彼女の親の方針で、年頃になり外に出るまでは、母親による教育を受けていたとされる。
幼少期に皆と学校に通うことがなかった彼女は、家にある本箱の本に熱中したとも言われている。
ゆえにか?!彼女が活躍した推理小説・ミステリー界に独特の感性やアイディアを持ち込めたのだともいえると思う。
もちろん、有識者の間で良く練られた学校教育やアカデミック(学問の分野で正統的で堅実なさま。学究的。あるいは、伝統的、格式的で、新しさや生気に乏しいさま。)を否定するつもりはない。
それはそれで、王道になっている意味合いや良さもあるのだ。
しかし、一長一短で、時にいわゆるアカデミックな常識が、新しい発見や意識の上や創造力や創作上の足かせになることもあるのだと。
つまり、これが「答え」なのだ!と画一的な教育を施されているうちに、そのことになんの疑問も抱かず、また、もしかしたら異なる「答え」があるかもしれない?等と思うこともなく、そのもの自体の本質にせまることもなく、意識がスル―状態になってしまうことが多々あると思う。
まず意識のスイッチが入らないのである。既にそういうことになっているということで。
無意識にスル―状態で、物事の本質にフォーカスすることもなく過ぎていく・・・。
誰かがそこを突破したものを発見すると、ああ、そうなんだ。
改めて考えたこともなかったが、そういえば、そうかも?知れない。
ああ、何故?気がつかなかったのだろう。自分でも見つけられたはずなのに・・・。
と、自分が見つけられなかったことを不思議に感じたりすることも。
しかし、最初から自分の意識は疑問に思うこともなく、そのあるものを大きくスル―しているのだ。
それはアカデミックな常識に、ある意味、洗脳されていた・・・足かせのようなものだと。
幼い頃から天才的な画家であったパブロ・ピカソは、晩年、まだ教育が施される前の子供の絵が素晴らしいと気づく。全くの自由なのである。
ちなみにピカソは、幼少時、鳩の足を見ただけで全体像が描けたという。写実的にも素晴らしい絵もたくさんある。
そして、青年時代の青の時代や桃色の時代やキューブリックの時代を経て、晩年、子供のような自由な絵を目指す。自分の中にある絵画のアカデミックな全てを超える試みだったのだと思う。
創造力の翼は、無垢の子供の中に眠っている。
アガサ・クリスティは、もちろんピカソと違う経緯を歩んでいる。
彼女は、画一的な学校教育やアカデミックな常識に足かせをされることなく、大きくなったのであった。
創造力を育てながら。
皆と同じ教育を受けなかったことで、自然に皆と同じアイディアにならなくて済んだのかも?知れない。
物を作る人にとって大切な独創性を 彼女は特に大きく努力するまでもなく、最初から自然に彼女の中で育てて来たのだろうと思う。
(創造力の翼を自由に育てた一方、アカデミックである体系的な教育を受けなかったせいか、彼女のスペルの綴り間違いは人よりも多かったとも言われている。)
そんな彼女は、今まで紹介した作品の中にもある・・・・・推理小説界全体を巻き込んで、賛否両論になった著名な作品やアイディアやトリックなどで瞬く間にミステリー界の女王になった。
アガサ・クリスティ。
有名すぎる作品やトリックを扱うミステリー界の女王。
その作品群は十分ミステリーなのだが、彼女自身の現実にも大いなるミステリーが潜む。
人気を博してきた初期の頃、彼女は謎の失踪事件を起こしていたのだった。あるいは巻き込まれていた?!
失踪事件から見つかった彼女は、その後、一切、そのことを語らなかったと言われている。
今、現在も(大きな意味では謎)であるアガサ・クリスティの失踪事件を次号では、取り上げたいと思う。
次号に続く。
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2016年07月10日
アガサ・クリスティから (56) (茶色の服を来た男*その35)
(茶色の服を来た男*その35)
あれから、もう2年がたった。
アンとジョン(かつてハリー・レイバンと名乗っていた「茶色の服を着た男」だった。)は、依然として島に住んでいる。
アンの【おとぎ話のような結婚式】は、当時ずいぶんと騒がれたのであった。
今、アンの前の粗削りな木製の机の上には、スーザンの手紙が乗っている。
親愛なる森の中の赤ちゃんたち・・・・・大あつあつの精神異常者たち。
あたくし、驚かなかったわ・・・・・全然。
あなたとパリや嫁入り衣装のことを話しながらも、こんなことが実現するのかしら?と思っていたわ・・・・・それよりも、いつかあなたは突然姿を消して、その昔ジプシーたちがやったように、火ばしを飛び越える結婚式をやるんではないかって気がしていたの。それにしてもふたりとも完全に精神異常者ね!あの莫大な遺産を断るなんて、めちゃですよ。
レース大佐が、あたくしとそのことで相談したいっていってきたんだけど、しばらくは、そのままにしておいたほうがいいわっていってやったの。
彼がハリーに代わって財産を管理していくでしょう。
彼はそれには最適よ。だって結局、蜜月なんて永久に続くものではないもの・・・・・山猫のようなあなたがそばにいて、いちいち口を出すということがないから、あたくし安心して思うことが書けるわ・・・・・荒れ野の恋は、一応かなりの間つづくかもしれないけど、ある日のこと突然にあなたが、パーク・レーンの家に住んで、パリ仕立てのドレスを着て、豪華な毛皮をつけて、いちばん大型の自動車と最新型の乳母車を持ち、そしてフランス人の女中と北欧人のナースをやとうということを思いつくってことも、あるでしょうからね!いいえ、きっとあるわ!
でも、親愛なる精神異常者たちよ、ハネムーンは、うんとお楽しみなさい。そしてなるべく長続きさせることだわ。そして、美食をしながら楽しく体重を増しつつあるこのあたくしのことも、ときおりは思い出して下さいね!
あなたがたの仲良しの
スーザン・ブレイア
追伸:結婚のお祝いとしてフライパンを一揃えと、そしてあたくしを思い出してくださるようにフォワ・グラのパイを大きな壺に入れてお送りします。
もう一通の手紙がある。
これは、前のよりもかなり遅れて来たもので、それと一緒に大きな小包みが着いたのであった。この手紙はボリビア国のどこかから出したものらしかった。
実は、私達にはなじみある(しかしながら”彼”ということで本名明記は避けて来た)例の国際的犯罪組織の謎のボス”大佐”である。彼は捕まえられたのであるが、保留先でまんまと逃げ伸びていたのだった。
親愛なるアン・ベディングフェルドと、その手紙の冒頭にはあった・・・・・内容を要約すると、以下である。
どうしてもアンに手紙を書かずにはいられなくなった。とあった。
わしは、あんたを遺著管理人に指定したいと思う。それで、わしの日記を送ります。レースと彼の一味には何の役にも立つまいが、あんたが読むと面白いと思われるに違いない。好きなようにお使いになってけっこうです。
デイリー・バジェット紙に【私の会った犯罪者たち】という読み物を掲載することをおすすめする。ただし、条件はただひとつ、このわしを中心人物とすることです。
手紙にはアンに悪意は抱いていなかったことや、万一の場合にと備えていた資金を無事、手にして逃げおおせたこと、ちょっとした手づるもあること。
妙な友人アーサー・ミンクスに会ったら、決して忘れておらん。と伝えて欲しいこと。奴はぎっくとなることと思う。と綴られていた。
だいたいにおいて、わしはクリスチャン的寛容の精神を施してきたと思っています。ともあった。
・・・・・あのパジェットにさえも・・・・・風の便りで6番目の子供をもうけたと聞き、銀製のマッグカップ(”あほう”という意味あり)と名付け親になってあげても良いよ。という葉書を送ったらしい。
あのパジェットのやつが真面目な顔で、マッグカップ葉書を持って、ロンドン警視庁に行くさまが見えるようだ。とも記してあった。
最後には、あんたは、いつかきっと、わしと結婚しなかったことを後悔するに違いない。と締めくくられていた。
ハリー(本名ジョン)はまさに烈火のごとく怒った。
彼に言わせると、アンを殺そうとした人物であり、親友の死の原因ともなった男であった。
どうしようもない悪党であると。
アン自身は、悪党であることは知ってはいたが、心底、憎むことは出来なかった。
しかし、ナディーナ・・・・・色仕掛けで他の目的を達せようとし、人を裏切ることが平気だった彼女を許すことは出来なかった。
この間、缶詰の包みに使われていた古いデイリー・バジェットに【茶色の服を着た男】の見出しが目についた。
とてもとても昔のことのように思われる。
アン自身も事件が終わったあと、このデイリー・バジェット新聞とも縁が切れていた。
そして風変わりな結婚から2年。
アンの前には、坊やが日向に寝そべって、両足をバタバタさせている。
この子ももうひとりの【茶色の服を着た男】といってよいかもしれない。
ほとんど裸のままだが、これがアフリカの盛装なのだ・・・・・まるで、うれたイチゴのような色。
そして、この子はいつでも土を掘り返している。
考古学者だった父に似たのだと思う。
いずれは、考古学者だったアンの父のように 更新世の土に夢中になることだろう。
この子が生まれた時、スーザンがこんな電報を打ってきた。
「精神異常者の島に新客到来をお祝いします。こんどのは長頭型なの、それとも短頭型?」
アンは、経済的でずばり一語の電報をお返しした。
「平頭型!」
(「茶色の服を着た男」終。)
(次号からはまた別のアガサ・クリスティの作品です。宜しくお願い致します。)
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2016年07月03日
アガサ・クリスティから (55) (茶色の服を来た男*その34)
(茶色の服を来た男*その34)
「あなたは、ずっとハリー・レイバンで通す気だったの?」
彼はそれでも良いと思っていた。と言った。
彼の父である鉱山王が残していった莫大な遺産もレイス大佐が生存する遠縁者として遺産相続し、ありがたく使ってくれるらしい。とも言っていた。そして彼の方が、その財産も有益に使うことが出来るだろうとも。
長い旅路・・・アンが偶然から飛び込んでしまったこの冒険も終わりが近づいていた。
アンは、ハリー・レイバンもとい、ジョン・ハロルド・イーアズリーと結婚することになった。
アンが、追い掛けて来た「茶色の服を来た男」とその背景にある事件も紐解くうちに、「茶色の服を来た男」に強く惹かれ合い、結婚にまで至ることになったのである。
人間の縁や運命の不思議さでもある。
実際は感傷に浸る間もなく、アンは結婚の準備に大変忙しくしていた。
新居は、ジョンの父である鉱山王サー・ローレンス・イーアズリーの残した別荘をリフォームして住むことになった。
そして、アンはスーザンの邸宅から、お嫁に行くことになったのだった。
何もかもが夢のようでもあり、また、何処か現実ばなれしたようにも、アンは感じていた。
そんなある夜、ノックがして出てみると、そこにはアンの夫となるはずのジョン・ハロルド・イーアズリーが立っていた。
「僕と一緒に逃げて欲しいんだ、アン。もう、こんな馬鹿げたことに我慢ならないし、もう待てないんだ。」
「私のパリ仕立てのウェディングドレスはどうなるの?」
ジョンはそんなものには耐えられないと言った。
本当は、アンだって、そんなことはどうでも良かったのだった。
アフリカの嫁いでいく花嫁のように頭にフライパンなどの道具は載せてはいなかったが、愛する夫の後をアンは歩いて行った・・・黙々とひたすら夜道を歩いた。
2人は結婚式前に駆け落ちしてしまったのである・・・。
(次号に続く)
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「あなたは、ずっとハリー・レイバンで通す気だったの?」
彼はそれでも良いと思っていた。と言った。
彼の父である鉱山王が残していった莫大な遺産もレイス大佐が生存する遠縁者として遺産相続し、ありがたく使ってくれるらしい。とも言っていた。そして彼の方が、その財産も有益に使うことが出来るだろうとも。
長い旅路・・・アンが偶然から飛び込んでしまったこの冒険も終わりが近づいていた。
アンは、ハリー・レイバンもとい、ジョン・ハロルド・イーアズリーと結婚することになった。
アンが、追い掛けて来た「茶色の服を来た男」とその背景にある事件も紐解くうちに、「茶色の服を来た男」に強く惹かれ合い、結婚にまで至ることになったのである。
人間の縁や運命の不思議さでもある。
実際は感傷に浸る間もなく、アンは結婚の準備に大変忙しくしていた。
新居は、ジョンの父である鉱山王サー・ローレンス・イーアズリーの残した別荘をリフォームして住むことになった。
そして、アンはスーザンの邸宅から、お嫁に行くことになったのだった。
何もかもが夢のようでもあり、また、何処か現実ばなれしたようにも、アンは感じていた。
そんなある夜、ノックがして出てみると、そこにはアンの夫となるはずのジョン・ハロルド・イーアズリーが立っていた。
「僕と一緒に逃げて欲しいんだ、アン。もう、こんな馬鹿げたことに我慢ならないし、もう待てないんだ。」
「私のパリ仕立てのウェディングドレスはどうなるの?」
ジョンはそんなものには耐えられないと言った。
本当は、アンだって、そんなことはどうでも良かったのだった。
アフリカの嫁いでいく花嫁のように頭にフライパンなどの道具は載せてはいなかったが、愛する夫の後をアンは歩いて行った・・・黙々とひたすら夜道を歩いた。
2人は結婚式前に駆け落ちしてしまったのである・・・。
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2016年06月22日
アガサ・クリスティから (54) (茶色の服を来た男*その33)
(茶色の服を来た男*その33)
「アン、この男の名はハリー・ルーカスではないんだよ。ハリー・ルーカスは戦死してしまっているんだ。この男は、ジョン・ハロルド・イーアズリーだよ。」
そう告げると、レイス大佐はアンと彼を残し立ち去って行った。
残された2人には、気まずい空気がながれた。
「アン、僕を許してくれ。許すと言ってくれ。」
彼はアンの手を握りしめたが、ほとんど機械的にアンは手を引っ込めた。
「あなたは何故、私をだましたの?」
アンは今から思えばだが、そういえば思い当たる節があった。
結局は2人とも死んでしまい実現はしなかったが、カートンを通じてナディーナから、ダイヤを買い戻すと言う話しだ。
ダイヤを買い戻すことへの(資金)に対する強い自信。
もしハリー・レイバンが、貧しかったハリー・ルーカスなら、あり得ない話であり、あり得ない資金であった。
アンは、ハリー・レイバン=ハリー・ルーカスと思い込んでいた本名ジョン・ハロルド・イーアズリーに向かい合った。
「本名を隠すなんて、私を信じてくれてはいなかったの?」
「何と言ったらいいのか?君に分かって貰えるのか僕には分からない。
権力とか富とか言うもの・・・僕はそんなものが恐ろしくなった。僕は僕という人間だけを、君に好きになって欲しかったんだ・・・勲章とか礼服とかいうものをとった裸の僕だけを。」
「と、いうことはあなたは私を信頼出来なかったってこと?」
「そう思いたけりゃ、そうでもいいが、しかし少し違うんだ。僕はいろいろな目に合わされて、疑りっぽくなっていたので、いつでも裏の裏を考える癖がついていた。だから、君が僕を好きになってくれたあの好きになり方が、なんともたまらなく嬉しかったんだよ。」
彼は言った。
今まで、鉱山王の息子でいて、苦労したことを。お金や権力が人を自他とも狂わせてしまうことを身を持って知っているのだ。
キンバリーでのダイヤ盗難事件があった時に、父であるサー・ローレンス・イーアズリーは全精力を傾けて、盗難ダイヤに相当する額を払い、事件を揉み消した。
しかし息子ジョンとの会見では、その素行を信じることが出来ない鉱山王に息子は一言の言い訳もせず、ほぼ勘当に近い決別となった。
父との不愉快な会見から、憤りと意気消沈して出てきた彼を待っていてくれたのは、親友であるハリー・ルーカスであった。
二人の純粋な夢は冤罪という形で破れてしまい、投げやりになっていた。
一週間とせぬ間に戦争があり、二人は兵士に志願した。
その際に身分証明書を交換したのだった。
ジョン・ハロルド・イーアズリーの身分証明書を持ったハリー・ルーカスは勇敢にも敵の中に飛び込んで行き、戦死したのだった。
・・・生き残ったジョン・ハロルド・イーアズリーは身分証明書の交換の真実を語り、戦死を訂正する気もなかった。
またジョンが交換し持っていたハリー・ルーカスの身分証明書・・・実際のハリーは、ジョンとして戦死、書類上のハリーは戦争中に行方不明となっていた。
純粋な夢が冤罪に仕立て上げられ、父との確執、身分証明書を交換した親友の戦死・・・ジョン・ハロルド・イーアズリーは、ハリー・ルーカスと名前を変えて、以前見知っていたビクトリア滝の近くにある小さな島に住み着いた。
そして、たまに観光客を舟に乗せて、滝の周辺を案内していた。
ある日のこと、ナディーナの夫であったキンバリーのデ・ベールス社のダイヤモンド鑑定士カートンが、その観光客に紛れていた。
カートンは、ナディーナとホテルで会食していた彼のことを覚えていたが、ハリーとジョンのどちらがどちらかは知らなかった。
しかし、例の国際犯罪組織のボス”大佐”は彼がハリー・ルーカスではなく、ジョン・ハロルド・イーアズリーであることを知っていたらしい。
色々なことが少しづつ、紐解けていった。
ナディーナを心から愛していたのは、物静かだが意志の強いハリー・ルーカスの方だったのだ。
ジョンは、金がなんになる?と言った。
お金で幸福を買うことは出来ない。と言った。
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2016年06月15日
アガサ・クリスティから (53) (茶色の服を来た男*その32)
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「では、あなたはご存知だったのですか?」
「僕は、一度会った人の顔は絶対に忘れないのだ。君がまだ子供だったころ、一度会ったことがある。」
レイバンとレイス大佐の会話を聞いていたアンが言った。
「これは一体、どう言うことなの?」
アンは面食らい、2人の顔を交互に見た。
2人はじっと睨み合っていたが、レースの方が勝った。
ハリーがちょっと目をそらした。
「あなたの勝ちらしいです。この人に私の本名を教えてやって下さい。」
「アン、この男の名はハリー・ルーカスではないんだよ。ハリー・ルーカスは戦死してしまっているんだ。この男は、ジョン・ハロルド・イーアズリーだよ。」
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2016年06月06日
アガサ・クリスティから (52) (茶色の服を来た男*その31)
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再び、偽電報でおびき寄せられたアンが、ボス以外とは商談しない。と断言すると、チチェスターでもあり、ミス・ペティグルーでもあった男は脱兎のごとく、その場を後にした。
しばらくして通された部屋には、国際犯罪組織の謎のボス=大佐が居た。
もちろん、アンの予想通りのよく知った人物”彼”であった。
相変わらず、とても自然な振る舞いで優しく、アンに話しかけていた。
”彼”は、アンに言った。
「で、いつ?から、正体を知ったの?」
*******************
アンは答えた。
「パジェットさんのフィレンツェの休暇が、実はマーロウに居たという話を聞いた時・・・。」
”彼”は、うなづいた。
パジェットが全ての計画を台無しにしたのだと。
実際のパジェットは自分が見たことの重大性に気づかず、フィレンツェの嘘がバレるのを恐れて、自分が誰かに見られていないかどうか?を気にしていた。と”彼”は言った。
正直に答えるようにうながされたアンは、一部を除き、本当に正直に答えたのだった。
国際犯罪組織の謎のボス・大佐である”彼”もアンの話が本当であろうと認めた。
そして、”彼”からも色々な話を聞いた。
パジェットの毒殺者のような風貌と中世にいたかのような心をユーモアで、迎え入れたのだが、あまりにも真面目すぎ、困っていた。
そのパジェットを随分前から始末しようと思っていたこと。
しかし、真面目が故に始末出来ず、ついつい、ここまで来たこと。
ユーモアに溺れすぎてもいけないのだと、愚痴っていた。
ナディーナは、キンバリーでダイヤ盗難事件があった際(もちろん、”大佐”の計画である。)、すり替えたダイヤを一部保管していた。
それをちらつかせて、ボスである”大佐”を脅迫してきたのだった。
”彼”が言うには、裏切り、脅迫などしない限りは、女性に対しては親切な方らしい。
確かに”彼”は、話が面白い魅力ある親切な旅行者であった。
しかし忘れてはいけない。
”彼”は国際犯罪組織の謎のボス”大佐”であり、数多くの犯罪に手を染め、ナディーナを殺した冷血漢でもあるのだ。
”彼”の親切で自然な態度を見ていると殺人者であることを忘れそうになるアンだった。
またハリー・レイバンを雇い入れたのもナディーナとダイヤの取引があると踏んだのもあったらしい。
ミンクス演じるミス・ペティグルーは、通産省の前あたりで、パジェットに逢わせ、「今、政府筋から頼まれて秘書に雇われることになりました。」と言わせたらしい。
「滝」の時のアリバイもこの芸達者な役者の一人二役だったのだ。
政府が持たせた紛失した書類も、レイバンに罪をかぶせた上、この後に脅迫に使おうとしていたふしがあった。
またアンはこの革命は失敗に終わり、犯罪組織も失敗に終わると言ったが、”彼”は一笑に付した。
アンのことをやはり仕事の意味が分かっていない女だなと言った。
仕事としては十分、成功なのだと。
国際犯罪組織としては、革命などどうでも良いのだ。
革命に乗じて武器を出来る限り、沢山売りつける商売が成功さえすれば良い話なのだ。
若い頃から、この商売をして来た彼は、今回、前払いで大量の金儲けをし、革命が終わりかけた頃、哀れな”彼”は縛られ監禁状態で被害者として見つかる筋書きだと”彼”は嬉しそうに話してもいた。
アンの処分をどうするべきか?と言う話題になった。
”彼”は、結婚という処遇が良いと言った。妻が夫を裏切る訳にもいかないだろうという訳で。
事実、”彼”は彼女が好きだったようだ。
他の女性にはないその冒険心と若く美しいとこに、惹かれていたようだった。
しかし、当然ながらアンは好きな人がいると断った。
”彼は、女性は趣味が悪いと言った。
自分の半分の価値もないような黙りこくったレイス大佐やゴロツキのようなハリー・レイバンに惹かれるとは。
アンは”彼”の言わんとするところも、よく分かっていた。
しかしだ・・・。
結局、ダイヤと引き換えにハリー・レイバンの身の潔癖を証明するとの口約束を元に、アンはレイバンに手紙を書くよううながされた。
締めくくりの言葉は?と聞かれ、ありきたりな愛の言葉とアンの名を添えて、手紙は出された。
アンは別の部屋に連れて行かれた。
なぜか?小型拳銃がアンの化粧ポーチの中にあるのを発見した。
何故か?は分からなかったが、とりあえず、それを目立たぬようストッキングの中に隠し持った。
拳銃が暴発して足に当たったら?もしくは服がふくらんで見えないか?をアンは心配していた。
出された食事は来るべき時の為に全部を平らげた。
ついにその時が来て、アンは、”大佐”に呼ばれて、その部屋に来た。
そこにハリー・レイバンが来た。
「ようこそ、私の蜘蛛がハエに言ったとさ。」
と国際犯罪組織のボス”大佐”は言った。
「ふざけるな!」
レイバンは噛み付いた。
”大佐”はダイヤの在りかが、レイバンではなく、自分の預かった荷物の中にあると言った。
フィルムケース、重く接着剤で固められたもの。
そしてパジェットが言っていたキールモーデン・キャッスル号のボーイが賭けの対象物にしていたもの。
それを火の手があがった炎にぶちまけた。
しばらくしてレイバンは目でアンに合図をして、例の小型拳銃を”大佐”に尽きつせさせた。
これには”大佐”も驚き、人払いをさせ、取引きをして逃すように頼み出したが、レイバンは断固拒否した。
階下では既に連絡を受けたレイス大佐とその仲間が取り囲んでいた。
やはりレイス大佐は諜報局員の一員で、ナディーナはもちろん、国際犯罪組織やそのボスである”大佐”を長年追っていたのだった。
既にレイバンの説得にてチチェスターでもあり、ミス・ペティグルーでもあるミンクスもすっかり寝返っていたのだった。
そして”大佐”が投げたはずのダイヤ入りのフィルムケースは、スーザンの手によって小石に入れ替えられ、既に中のダイヤは例のキリンの中に隠されていたのだった。
つまり、”.大佐”は今回ばかりは、何もかもうまく行かなかったのだ。
沈む舟からはネズミも逃げ出すのか・・・こうして国際犯罪組織の謎のボスは捕まえられ、別の護衛をつけられたまま、アン達とは別ルートで運ばれて行った。
もう障害は何もないはずだった。
アンとレイバンは、国際犯罪組織のアジトから戻る為、途中で民家にお世話になっていた。
しかし、レイバンとの間に何か言い難い溝のようなものが横たわっていた。
その朝も出かけてしまいその場にいないレイバンとの溝を考えながら、縁側で物思いにアンはふけっていた。
馬で様子を見に来たレイス大佐が近づいて来たのも気がつかないままに。
「アン、もう君達ふたりを阻むものは誰もいないんだ。彼の本名ももちろん知っているよね?」
レイス大佐は言った。
アンは答えた。
「もちろんよ。彼の本当の名は、ハリー・ルーカス。」
しばらくレイス大佐の沈黙があった。
「アン、覚えているかい?僕はしなければならないことがあると言ったのを。君の大切な愛する人レイバンの身の潔癖を証明することが出来たんだ。
私には若い頃、好きな女性がいたが、彼女は去って行った。それからは仕事一筋で来たんだ。若い人は若い人達同士の方がいい。アンとレイバンももう迷うことはない。私には仕事がある。」
アンは、その話を聞いてレイス大佐をなんだか恐ろしい人物だと思い込んでいたことを申し訳なく思った。
そして、二人の男性を同時に愛することが出来ないことも悔やまれた程であった・・・。
「あなたは、もっともっと高みに行ける人だと思うわ。」
そこにレイバンが帰って来た。
「やあ、ハリー・ルーカス君。」
レイス大佐はレイバンに声を掛けた。
それを聞いたレイバンは真っ赤な顔をした。
「それじゃあ、あなたは御存知だったのですか?」
(次回に続く)
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