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2016年10月23日

アガサ・クリスティから (71) (ミス・マープルと十三の謎*序章)








(ミス・マープルと十三の謎*序章)






ミス・マープルの家に集まった人達。





甥の作家、女流画家、元ロンドン警視庁の警視総監、教区の牧師、弁護士。





ひょんな話の流れから、自分だけが結末を知っている怪事件の話をして、皆それぞれの解決を推理しあおうではないかということになった。





◎作家レイモンドは、物書きは創造力豊かで、人間性を洞察する力があると・・・普通の人が見逃してしまうような動機もつかめそうだと言う。


◎画家ジョイスは、自身が女性で画家でもあり、本当に様々な種類、様々な境遇の人々のあいだを放浪して来た中で、磨き上げた直観があると言う。(村から出たことがない老婦人ミス・マープルには思いもつかないような人生を知っているとも。)


◎元ロンドン警視庁の警視総監クリザリング卿は、自身の畑の話はしないことにしている。と控えめに言った。
捜査係の想像力が豊かな方が良いという意見については、素人考えであると言う。


◎牧師のペンダー博士は、本の表紙だけ見ていたら中身は分からないが、そんな風に表面だけでは、決してわからない人間の性格の一面を(いろいろきかされる牧師だけに)知っているのだと言う。


◎弁護士ペザリックは、想像することは危険であって、証拠物件をふるいにかけようとするには、事実を集め、そしてその事実を、事実としてながめる能力・・・真相をつかもうとするには、これが唯一の論理的方法だと言う。






画家ジョイスが、言った。

「そうすると、わたしたちはちょっとした各方面の代表者の集まりのようですわね。
どうでしょう、クラブをつくったら?
今日は何曜だったかしら?
火曜、ね、火曜クラブとすればいいわ。
毎週集まって、順番にひとりずつ問題を出してゆくの。
自分だけが知っている、もちろん、その結末も知っているある事件をね。
えーと、私たち何人かしら?
ひとり、ふたり、三人、四人、五人。
本当は六人いなくっちゃねえ。」






「わたしをお忘れになっていますよ、あなた。」
ミス・マープルは明るく笑った。





画家のジョイスは面食らったが、すぐに歓迎の意を表した。





「ほんとうに面白そうだと思いましたの。」と、ミス・マープル。
「とくにこんなに頭の切れる紳士がたがいらっしゃるんですものね。
私自身は少しも利口じゃありませんけど、何年もこのセント・メリー・ミード村に住んでいますと人間というものがよくわかるようになるものですよ。」





「あなたのご協力は貴重なものになりますよ、きっと。」ヘンリー卿は丁重に言った。





この時点では、この白髪で桜色の頬をした、色白の優しそうで品の良い老婦人ミス・マープルが、事件をどんどん読み解いていくとは、誰も思わなかったのである。

広く世の中を見て来たわけでもなく、ただ小さな村にずっといて、年老いて、口元に穏やかな微笑みを浮かべて、ひざの上に置いた毛糸を編んでいるだけの善良な老婦人・・・。


「とても人のいい、でも、てんで時代遅れの方」のはずのミス・マープルが、たまたま、その場に居たことで、この火曜クラブに参加することになった。



メンバー一同は、紳士的かつ寛容に受け入れたのだが、最初は、彼女の存在は、各方面で活躍している人たちの集まりであるこの【推理クラブ】からすれば、論外だったのである。
小さな村からほとんど出たことがない、ただ人が良い老婦人なだけで。




(次号に続く)



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2016年10月02日

アガサ・クリスティから (70) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その14)







(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その14)





・・・・・不思議な失踪事件は、大きな関心を集めたまま、11日後、あっけなく事件は幕切れになる。
謎を残したまま・・・アガサ・クリスティは生涯、この件について言及することはなかった・・・。





アガサ・クリスティ名義の推理ミステリー小説長編は計66作品ある。
(他作品:アガサ・クリスティ名義の短編、戯曲、詩集、エッセイ、他の作家とのリレー小説など。時にアガサ・クリスティ―・マローワン名義の「ベツレヘムの星」やエッセイ、メアリ・ウェストマコット名義の愛の小説シリーズなど、有り。)





失踪事件の後から、生涯を通じて、アガサ・クリスティはこの事件について口を閉ざしてしまった。




その膨大な作品群の中(長編)に、もしかしたら・・・ではあるが、このアガサ・クリスティの謎の失踪事件の影が一部ににじみ出ているとしたら?・・・という仮定のもとに、いくつか取り上げてみたいと思う。





〜〜〜〜〜





◎ひとつは、前述したように【予告殺人】に何らかの痕跡めいたものを感じたのである。





実際の事件にあった新聞広告・・・当時、夫の愛人姓を偽名で使用し、失踪していたアガサ。
アガサ若しくはそれに近い人しか知り得ない(テレサ・ニール)という名の女性を探すような新聞広告。
この短い時期に、アガサ・クリスティが愛人姓を偽名で使用、かつ失踪したまま、まだ手掛かりがない状況下で出された新聞広告。



【最近、アフリカから戻ったテレサ・ニールの所在を知っている方はご一報を。EC4タイムズ社私書箱R702】という奇妙な広告がタイムズ紙に掲載されていた。



誰も知り得ようないアガサの偽名、しかもアガサ失踪時の短い時期に出された広告・・・。



誰が、テレサ・ニールという架空の名前を知り、何のために広告を出したのか?



彼女が自ら出てくるのではなく、彼女を探させようとしたのだろうか?



何のために?



記憶喪失ならば、随分とまた謎が増えたとしか言いようがない。




一方、フィクションである【予告殺人】では、やはり新聞広告が出され、この新聞広告を目くらましに使っているのだ。
また作中でも名前のすり替え=誰かと誰かが入れ替わっていたり、偽名を使い遺産相続現場に潜伏していることもあった。


【予告殺人】作中の新聞広告・・・・・・・・アガサ失踪当時の新聞広告。
【予告殺人】作中の偽名や入れ替わったり・・・アガサ失踪当時、夫の愛人姓を偽名で使用した件。


うがった見方かも知れないが、少し現実の失踪事件の一部、影がにじみ出たかのような・・・気がしないでもない。





〜〜〜〜〜





●今回、取り上げようと思うのは、やはりアガサの長編の中からいくつ抜粋してなのだが、アリバイ工作やトリックに関してではない。



アガサ・クリスティが描く推理ミステリー小説の中にある人間ドラマ・・・特に男女関係・・・その中でも特に三角関係について取り上げてみたいと思う。




******




現実のアガサ・クリスティ・・・・・失踪当時のアガサ・クリスティはある深刻な家庭問題を抱えていた。



夫アーチボルト・クリスティは、いつしかゴルフクラブで知り合ったナンシー・ニールという若い女性と愛人関係に陥ってしまっていた。
それだけでも屈辱的だったに違いないが、なお悪いことに、ついに夫はアガサ・クリスティと別れ、彼女と一緒になると言い出したという。



アガサ・クリスティの苦悩は計り知れない。
その年は、仕事では【アクロイド殺害事件】でフェアか?アンフェアか?の大論争があり、最愛の母も亡くしていた。
そして支えてくれべき夫は、他の女性と浮気どころか、結婚するとまで言い出したのである。



大きな夫婦喧嘩はもちろんのこと、今後についての話し合い・・・子供=娘がなんとか夫婦をつなぎとめてはいたが、限界に近かった。



そんなアガサはストレスで眠れない深刻な神経衰弱状態だったと言われている。



失踪事件はそれが、引き金になったのだと・・・。



現実のアガサ・クリスティは、夫、夫の愛人ナンシー・ニールとのはざまで、もがき苦しんだのである。
(結果は失踪事件後、しばらくしてアガサは夫と離婚、そして夫はナンシー・ニールと再婚する。またアガサは後年、考古学者と再婚するのだが。)



******



アガサ・クリスティの作品を読んでいると、初期の【茶色の服を着た男】にあった男性像は、その後はなかったように思う。
いわゆる格好の良い、心身とも魅力的な男性。
主人公アンは、怖いもの知らずで冒険をし、無邪気な恋愛も出来たのだ。
そしてハッピーエンド。
ある意味、ハラハラ・ドキドキはするが、冒険活劇風爽快ロマンであった。



1926年にアガサ・クリスティの失踪事件はあったのだが、【茶色の服を着た男】はその2年前1924年の出版である。
作品には、まだ、事件の影は感じられない。




今回取り上げる作品は、既にこのブログでも取り上げたものや、まだのものがあるのだが、いずれもその三角関係に着目してみたいと思う。




***



◎【ナイルに死す】1937年刊行


若く美しい大富豪:リネット・リッジウェイ
リネットの友人で落ちぶれ貴族の娘:ジャクリーン・ド・ベルフォール
ジャクリーンの婚約者:サイモン・ドイル


友人ジャクリーンの婚約者サイモン・ドイルを奪い、結婚してしまうリネット。
二人の新婚旅行にあきらめきれないジャクリーンはつきまう。

若さ・美貌・賢さ・莫大な財産・愛するサイモンとの結婚など、全てを持っているリネットの周りは、実は敵だらけでもあった。
愛の勝者も含め、人生のすべての面においての条件は勝者であったリネット。
しかし、リネットは一度もジャクリーンに勝つことが出来ないものがあったのだ。・・・・・ジャクリーンのサイモン・ドイルに対する愛の深さとでも言うべきか・・・・・。

結末は、愛について勝者も敗者もないのだと・・・・・思いの深さ・・・・・。善悪を別として・・・。



***



◎【5匹の子豚】1943年刊行


有名な画家:アミアス・クレイル
アミアスの夫人:カロリン
アミアスの絵画のモデルで若く美しい愛人:エルサー・グリヤー


夫殺しで獄中死したカロリンの無実を訴える手紙を読んだ娘が、自身の結婚前に真実を知りたいとポアロを訪ねてくる。



上記の三角関係は、当時、3人に接した人や周辺の人たちから見ると、完全に若く美しいエルサーの愛の勝利だったのである。
どこにも疑う余地なく、二人は愛し合っていて、だからこそカロリンが殺害したのだと思われた。
それは当事者3人の間でも周知の事実であったはずだった・・・・・。




マザー・グース童謡をモチーフにポアロは探しようのないように思われる過去を、依頼した娘の為に解きほぐしていく。



真相とは・・・・・ここではネタバレではない、3人の間柄とは・・・・・画家アミアスが、若く美しいエルサーに強く惹かれ、愛し合ったのは本当だった。
しかしアミアスは画家としての仕事を終えると急速に彼女への興味を失ってしまったのである。
妻カロリンは、芸術家肌のアミアスのいつもの癖を知っていた。
彼女は恋敵であるエルサ―を逆に気の毒に思い、夫アミアスを攻めてもいる。
しかし彼女は、夫アミアスが、妻である彼女の元に帰ってくることは知っていたのである。
夫アミアスも妻カロリンも、このことを愛人エルサーは知らないはずだと思っていた。
偶然にも夫婦の会話を漏れ聞いたエルサーの衝撃。
彼女は若く美しく、絶対的な自信に満ち溢れ、これまで挫折を知らなかった。
愛していたアミアスを亡くした後、エルサーは若くして、心が死んでしまったように生きていた・・・。



***



◎【ゼロ時間へ】1944年刊行


テニスを始めスポーツ万能の魅力的な男性:ネヴィル・ストレンジ
若く美しいネヴィルの2番目の妻:ケイ
不思議な感じを持つ最初の妻:オードリイ



この一堂に会しては気まずい3人が、ネヴィルの後見人であり、お金持ちのカミラ・トレリシアン夫人のところで休暇を一緒に過ごすことになる。
そして事件に巻き込まれていくのだが・・・。



ネタばれは避けたいので、この三角関係しか書けないが、若くて美しいケイの目を曇らせるもの・・・最初の妻である大人しい、決して美人とは言えないが、不思議な魅力あるオードリィだった。
しかしケイは現在、人気を誇るオールマイティかつ富豪でもあるネヴィルの妻であり、自身も若く美しい勝者であるにも関わらずである。
実際、ネヴィルの本当の意識はオードリィにあるとどこかで感じていたのであろう・・・・・そんな結末であった。



***



(上記にあげた3作品は、ほんの一例で、また他作品については後述予定。)




この3作品は、ストーリーもアリバイ工作もトリックも全く異なるアガサ・クリスティの長編推理小説なのだが、事件の核になる三角関係にある共通点があるように思う。



●元々は夫と妻、婚約者同士のごく幸せなカップルである。

●そこに若く・美しく輝く女性が現れ、パートナーの男性を奪われるのである。
婚約者・妻とは別れて、美しい若い女性と一緒に。
結婚あるいは、そうなるであろう途中である。
周りも、若く美しい自信に満ち溢れている女性が、愛を勝ち得たものだと信じてもいる。
(道徳的にではなく、事実として、男性が、目の前にいるさえない婚約者や妻よりも、若く美しい魅力あふれる女性を選んでしまったのだと思っているのだ。)

●アガサ・クリスティは作中、またはラストに男女の仲がそんなに単純に出来ていないことを描いている。
彼女の描いた3作品は、若く美しく輝く女性が本当の勝者ではなく、ぱっとさえない、愛人に寝取られてしまった、周りが新しい人と比べて敗者に思う元妻や元婚約者の方に愛の軍配を挙げているのだった。



実際・・・・・どうなのであろう?


現実は、ケースバイケースだろうとは思いながらも。


アガサが思う愛の深淵の表現なのか、はたまたアガサ・クリスティの元の妻や婚約者が愛に勝つという深い願望的な結末なのか・・・。


彼女が別名義で書いた愛のシリーズ小説にも、愛についての苦悩が描かれているという・・・。


アガサ自身は、生涯語ることがなかった失踪事件だったが、彼女に深い影響を与えたには違いなかった。


彼女の作品には、再婚相手の考古学者にも影響を受けた作品が沢山ある。(後述予定)
上記の【ナイルに死す】もエジプトの遺跡が描かれている。
風光明媚なエジプトが背景にある。



少なくともアガサ・クリスティにとって、2人の夫から、有形無形問わず、色々な影響を受けていたのは違いない。



愛の三角形・・・・・アガサの失踪事件も上記3作品も男性の二股が原因なので、その男性が腹ただしいだけなのだが・・・・・この悩ましいトライアングルの男性は、実の主役ではない。
彼らは、脇役に過ぎないのだ。
本当には愛の勝者も敗者もないのだが、愛の主役は間違いなく、女性側にあるような気がしたのだった・・・・・。
アガサ・クリスティの失踪事件や彼女の作品を通してみると、確かにそんな気がしたのだった。


アガサ・クリスティ読書はまだまだ続きます。



(次号に続く)



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2016年09月29日

アガサ・クリスティから (69) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その13)




アガサ・クリスティから (69)
(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その13)





1926年・・・アガサ・クリスティは、世間を席巻することになる。



●ひとつは、新進推理小説家アガサ・クリスティが出版した「アクロイド殺害事件」。

この話題作の奇抜なトリックと意外な犯人をめぐって、他の推理小説家を巻き込んだミステリー・ファン間で、フェアか?アンフェアか?の大論争を起こす。



●それ以上に世間を驚かせたのは、前述してきた・・・アガサ・クリスティの謎の失踪事件である。

こちらは推理小説というフィクションのお話ではなく、現実に生身のアガサ・クリスティが起こした失踪事件である。
実際、警察の大捜査や新聞などマスコミや世間を巻き込んでの大騒ぎとなった失踪事件である。




・・・・・不思議な失踪事件の謎と共に大きな関心を集めたまま、11日後、あっけなく事件は幕切れになる。





有名な温泉地のホテルで、夫の愛人姓を名乗るアガサ・クリスティは発見され、夫と共に自宅に戻ることになる。
騒がしい世間に対して、夫からは精神科医の【記憶喪失症】という診断書を提示する。




その後、生涯通じて、アガサはこの件を自ら語ることはなかった。




1928年、アガサ・クリスティは夫アーチボルト・クリスティと離婚する。

かねてから噂されていた(アガサ失踪事件の原因と言われていた)夫の愛人ナンシー・ニールは、アーチボルト・クリスティと再婚。




因みに彼女も1930年、中東に旅行した際、14歳年下考古学者マックス・マーロンと出会い、再婚する。




●こうして彼女の謎の失踪事件(Agatha Eleven Missing)は、いくたの謎を残したまま、終結していったのである。




以下は、彼女の失踪事件・・・謎のままのアガサ・クリスティの失踪事件について触れている作品群の一部である。(参考参照。)



〜〜〜〜〜〜



「アガサ 愛の失踪事件」・・・ 原題【Agatha】
(1979年、イギリス・アメリカ合作映画)

1926年12月に起きた推理ミステリー作家アガサ・クリスティの失踪事件を題材にしたこの映画は、事実をモデルにしながら、独自の見解も盛り込んだフィクションである。


(主な出演者)

アガサ・クリスティ・・・・・・・・・・ヴァネッサ・レッドグレーブ

夫:アーチボルト・クリスティ・・・・・ティモシー・ダルトン

アメリカ人ジャーナリスト・・・・・・・ダスティン・ホフマン



〜〜〜〜〜〜



●All About Agatha Christie
・・・・・・・・外部リンク(http://www.all-about-agatha-christie.com/)

●Agatha Christie:The Official Online Home
・・・・・・・・外部リンク(http://www.agathachristie.com/)

●アガサ・クリスティ日本オフィシャルサイト
・・・・・・・・外部リンク(http://www.hayakawa-online.co.jp/christie/)




●(河出書房新社)
・・・・・・・・「世界史 ミステリー事件の真実」

●ジャネット・モーガン著
・・・・・・・・「アガサ・クリスティの生涯(上・下)」

●井出 守著
・・・・・・・・「迷宮入り事件の謎」

●コリン・ウィルソン著
・・・・・・・・「世界不思議百科」

●ジャレッド・ケイド著
・・・・・・・・「なぜアガサ・クリスティは失踪したのか?」

●乾信一郎訳
・・・・・・・・「アガサ・クリスティ自伝(上・下)」

●(PHP文庫)
・・・・・・・・世界博学倶楽部「世界史迷宮入り事件ファイル」

・・・・・・・・「世界の未解決事件53」


【その他・・・・・多数の外部リンクや書籍有り。】






(次号に続く)



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2016年09月16日

アガサ・クリスティから (68) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その12)







(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その12)






なぜ?失踪事件は、起きたのか?は、未だに謎を多く残し、伝記作家の間でも諸説分かれるところである。




またアガサ・クリスティ自身も生涯にわたり、この件については完全に黙秘を通したのである。




彼女は離婚後、クリスティ姓を変えることを希望したが、既に作家の名として知名度が高いゆえ、出版社の強い意向でアガサ・クリスティのまま作家生活を送ることになる。



(余談だが・・・著名なペンネームになってしまったクリスティという旧姓と、やはり彼女が生み出した有名な探偵エルキュール・ポアロが、生涯、彼女にとっての苦痛となったのは、なんとも皮肉なことである。)




彼女の数ある作品から、アガサの身の上に現実に起こってしまった謎の失踪事件の痕跡のようなもの・・・私個人の主観かつ想像の域は出ないのだが・・・何かしらこの事件の影を感じられるようなところを切り取って行きたいと思う。



(彼女の失踪事件には、謎の新聞広告が出されていた事実がある・・・。以下、後述。)



アガサ・クリスティから (64)の(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その8)でも、少し触れたのだが、彼女の作品に新聞広告をアリバイ工作に使うものがあるのだ。



1950年に発表されたミス・マープルが活躍する【予告殺人】である。
彼女の失踪事件は、1926年。
自身の失踪事件からは、24年後のアガサ・クリスティの作品である。



***因みにこのブログでは、アガサ・クリスティから(12)(予告殺人事件#その0)〜アガサ・クリスティから(14)(予告殺人事件#その2)に記載***





〜〜〜〜〜



〜(予告殺人事件)より〜

ある日のこと、村人達が皆、見るという地元新聞の広告に皆が驚いていた。
そこには「殺人のお知らせを申し上げます。・・・10月29日金曜日、午後6時半よりリトル・パドック館にて・・・」とあった。
リトル・パドック館の持ち主のレティシア・ブラックロックは、半ば 呆れつつ、このイタズラの犯人=パーティーか余興のサプライズに思いを寄せる。
親友であるドラ・バンナーは心配するが、当日の村人達を想定しながらブラックロックは簡単な飲み物などの用意をする。

image.jpeg

当日、女主人ブラックロックの予想通り、野次馬の村人達は色々な口実を設け、予告のあった時間あたりにリトル・パドック館に集まり始める。
広告に予告された時間6時半きっかりに停電になり、銃声が鳴り響く。

image.jpeg

その時でさえ、パーティーの余興だと思った人もいた位である。

しかし明かりがつき、本当に人が殺されるのを知ってから、現場はパニックとなる。
殺された人物は、村のホテルに勤務する従業員のスイス人だった。
警察の捜査が始まり、現場にいた1人1人を調べて行く。




騙したはずが騙されていた。
そのようなことも、この【予告殺人】のお話の中でも見受けられた。




(以下は、(予告殺人#その0)〜(予告殺人#その2)参照。)






〜〜〜〜〜





この【予告殺人】に符合するような失踪事件からの事実とは・・・




●夫の愛人の名前はナンシー・ニールであり、滞在客のテレサは、愛人の姓ニールを名乗っていた。

実は【予告殺人】の作中には、遺産相続の件で、ある人が ある人にすり替わっている。
あるいは、ある人は偽名で遺産相続に近い現場に来ているという内容がある。

実際のアガサ失踪事件では遺産相続は関係がないが、発見されたアガサ・クリスティは、夫の愛人の姓である(ニール)を名乗っているという事実がある。
つまり動機(作中は遺産相続。失踪事件は夫への故意の復讐?!若しくは夫の裏切りに対する絶望からの記憶喪失?!)は異なるが、名前のすり替えが行われていることは一致しているとも言える。





●アガサ・クリスティ謎の失踪中に、【最近、アフリカから戻ったテレサ・ニールの所在を知っている方はご一報を。EC4タイムズ社私書箱R702】という奇妙な広告がタイムズ紙に掲載されていた。



アリバイ工作の内容や目的や手法は違えど、(新聞広告を掲載する)のは、自身の失踪事件と、彼女の作品【予告殺人】は同じである。

また(作品のネタばれは出来るだけ避けたいので、曖昧な表現になりつつあるが・・・)作中の新聞広告は、ある意味、事件の「目くらまし」に使われているのである。

この場合の「目くらまし」とは・・・人の目をそこに集め、真実から目を背けさせるような。
または、その広告を見た人達の動きを【予告殺人】ではアリバイ工作に利用していること。

アガサ・クリスティの失踪事件では、アリバイ工作というか?失踪したアガサを誰かに見つけさせようとしているとも受け取れるような新聞広告であった。
もちろん、失踪したアガサが使った(名前)を共犯でもない限りは、他の人は知らないはずの時点で、この新聞広告は出されているのである。
限りなく、彼女若しくは彼女に近いものが、この新聞広告を出したのだと言っても過言ではないように思う。





・・・・・生涯、この失踪事件に口を閉ざしたアガサ・クリスティは、本当にこの問題に苦悩していたに違いないと思われる。

これは私のあくまでも個人的見解や推測の域を出ないのだが・・・彼女が最も嫌がっていたこの問題について、彼女は生涯、語ることはなかったが・・・その陰影のようなものが、事件から数十年たった時にふとしたところに現れているのではないか?と思われるのである。

彼女が生涯黙秘した失踪事件の断片が、無意識か?意識的に暗示したのか?は不明なのだが・・・数十年の時を経て・・・彼女の書く小説の一部ににじみ出ているのではないだろうか?




そんな風に想像しながら、【予告殺人】を読んでみると、ある女性の親友の存在にも、実際のアガサの義妹でもあり、親友でもあった(ナン・ワッツ)の存在が思い浮かんでくるのだった・・・。

もし【予告殺人】の作中のどこかに彼女の思いもにじみ出ているのだとしたら?・・・彼女にとって、(ナン・ワッツ)は本当に親友であったのだろうと・・・思えたのである。
(注:あくまでも私自身の個人的見解と推測の域です。)






(次号に続く)

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2016年09月11日

アガサ・クリスティから (67) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その11)





(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その11)





世間を騒がせていたアガサ・クリスティの失踪事件は、11日間で幕を閉じた。



前述でも取り上げた、いくつかある憶測また仮説とは・・・




@記憶喪失説・・・・・・・文字通り、記憶喪失による説。

A計画説・・・・・・・・・夫をこらしめるために計画し実行したが、騒ぎが大きくなってしまった説。

B共犯との復讐説・・・・・愛人のいる夫に対する復讐を兼ねた当てつけを親しかった義妹と企てたという説。

C売名行為説・・・・・・・アガサ・クリスティの内気な性質から、もっとも考えにくい説であるとされている。また、彼女が生涯、この件については完全に沈黙を保ったことを考えると、売名行為説とは程遠いようだと認識されている。

●風変わりなものでは、Dトリック実験説なるものもあった。





*****************





当時も今も、アガサ・クリスティの失踪事件は謎が残ったままである。



上記の説のどれもが、なんとなく言い得ているようでいて、しかし、一片のピースが欠けたクロスワードパズルのように、どこか、しっくりこないような・・・・・謎が相変わらず、横たわっているようである。



彼女は、ミステリーの女王と言われたほど、沢山の推理小説やミステリー小説を書き残したのだが(多くの作品と共に多くの独創的なトリックやアリバイ工作なども作中に残したのである。)、ミステリー推理小説作家としての最大の謎解きを作品の本のみならずに、現実に彼女が体現してしまった失踪事件とでも、いうべきであろうか?!
たぶん?偶然なのだろうが・・・前代未聞の事件であったことは、当時も今も変わりはない。



彼女の苦悩を思えば・・・仕方なく起こってしまった失踪なのだ。とも心中察するにあまりあるのだが・・・。




アガサ・クリスティの失踪事件は、1926年に起こったことであった。






その2年後・・・1928年、アガサは、夫アーチボルトと離婚。

アーチボルトは、かねてから愛人であったナンシー・ニールと再婚する。





1930年、アガサは、中東を旅した際に出会った14歳年下の考古学者マックス・マローワンと出会い、9月に再婚する。




*****************




なぜ?失踪事件は、起きたのか?は、未だに謎を多く残し、伝記作家の間でも諸説分かれるところである。
因みに自伝では、事件については何一つとして触れられてはいない。



またアガサ・クリスティ自身も生涯にわたり、この件については完全に黙秘を通した。



次号では、アガサ・クリスティ(彼女は離婚後、クリスティ姓を変えることを希望したが、既に作家の名として知名度が高いゆえ、出版社の強い意向でアガサ・クリスティのまま作家生活を送ることになる。)の作品から、いくつか・・・私個人の主観かつ想像の域は出ないのだが、何かしら、この事件の影を感じられるようなところを切り取って行きたいと思う。






(次号に続く)

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2016年09月09日

アガサ・クリスティから (66) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その10)





(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その10)







世間を騒がせていたアガサ・クリスティの失踪事件は、11日間で幕を閉じた。








いくつかある憶測また仮説とは・・・




●記憶喪失説・・・・・・・文字通り、記憶喪失による説。

●計画説・・・・・・・・・夫をこらしめるために計画し実行したが、騒ぎが大きくなってしまった説。

●共犯との復讐説・・・・・愛人のいる夫に対する復讐を兼ねた当てつけを親しかった義妹と企てたという説。

●売名行為説・・・・・・・アガサ・クリスティの内気な性質から、もっとも考えにくい説であるとされている。

●風変わりなものでは、Dトリック実験説なるものもあった。

彼女の書いている作品の中に使用するトリックの実験を行っているのではないか?という推測であった。




**************



今回は、(共犯との復讐説)にスポットを当てたいと思う。



●共犯との復讐説・・・彼女は、ある人物と、自分を裏切った浮気から離婚協議を起こした夫に復讐するために、失踪したというもの。
ある人物とは、義妹であり、親友でもあった女性(ナン・ワッツ)。

この説は、大のクリスティファン(←彼は、アガサ・クリスティに関するクイズ番組にて全問正解したほどであるアガサ・クリスティ・マニア。)であり、英国推理作家協会会員であるジャレッド・ケイドが立てた仮説である。


彼の説は、(ナン・ワッツ)の娘ジュディス・ガードナーという人物の証言を元に組み立てたと言われている。


つまり、アガサの義妹でもあり、親友でもあるナンに深い信頼を寄せていた彼女の協力を得て、夫に対する復讐として失踪事件を企て、実行したというものである。





この説によると、アガサは、彼女を裏切った夫を懲らしめるために、ワッツの協力を得て、失踪事件を計画的に起こしたのである。


まず彼女は、家族に行先を告げないままに車で外出をする。
あらかじめ立てていた計画通りに車を乗り捨て、ナンの自宅に一泊し、準備を万全にしてから、ハロゲート・ハイドロパシックホテル(ロンドンから北へ250m程に行った高級ホテル)に入った。


自分がハロゲートに向かった旨は、夫アーチボルトの弟に宛てた手紙の中に示唆してあった。
夫が彼女の居場所をすぐに見つけられるようにしたつもりだったのだが、騒ぎは思いも寄らず、大きなものとなり、しばらく身動きがつかなくなっていた。


夫に恥をかかせるために行われた狂言による失踪・・・。


いずれにせよ、度重なるストレス(アクロイド殺害事件のトリックにおけるフェアか?アンフェアか?の大論争・最愛の母の死など)の上に、夫の許せない裏切り・・・当時、愛人がいた夫との離婚協議に悩み、追い詰められ、苦悩し、憔悴しきっていた彼女の取った行為が失踪事件だったのだ。


その失踪事件は謎も多く、前述したようにいくつもの説がある中で、この【共犯との復讐説】もその一つに過ぎない。


因みにアガサの義妹であり、親友である(ナン・ナッツ)の娘からの証言を元に組み立てられたこの説は、比較的、矛盾点も少なく整合性があるのだが、何故か、それほど重要視されてはいないとのことである。






(次号に続く)

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2016年09月07日

アガサ・クリスティから (65) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その9)








(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その9)






世間を騒がせていたアガサ・クリスティの失踪事件は、11日間で幕を閉じた。








いくつかある憶測また仮説とは・・・




●記憶喪失説・・・・・・・文字通り、記憶喪失による説。

●計画説・・・・・・・・・夫をこらしめるために計画し実行したが、騒ぎが大きくなってしまった説。

●共犯との復讐説・・・・・愛人のいる夫に対する復讐を兼ねた当てつけを親しかった義妹と企てたという説。

●売名行為説・・・・・・・アガサ・クリスティの内気な性質から、もっとも考えにくい説であるとされている。

●風変わりなものでは、Dトリック実験説なるものもあった。

彼女の書いている作品の中に使用するトリックの実験を行っているのではないか?という推測であった。




**************



今回は、計画説にスポットを当てたいと思う。



●計画説・・・彼女は、最初から周到な準備をして、夫を困らせる為に、あるいは夫の気を引くために、失踪したというもの。


アガサ・クリスティが、夫アーチボルト・クリスティの愛人問題やそれに伴う離婚協議に悩んでいたことは事実である。
その夫に対する(当てつけ)的な失踪であるのではないか?とも推測されていた。


夫アーチボルトは、ハロゲート・ハイドロパシックホテルにおいて、(愛人の姓ニールを名乗るテレサ=失踪していたアガサ)を引き取ったのち、【記憶喪失症】という精神科医の診断書を提示して見せた。



しかし、これで幕引きを願った夫婦の思惑とは異なり、マスコミや世間は様々な憶測で、この失踪事件をとらえていたのだった。
上記に挙げたいくつかの憶測や仮説・・・。



計画説は、そのひとつである。

アガサ・クリスティは、夫アーチボルト・クリスティの愛人ナンシー・ニールの件、またそれに端を発した離婚騒ぎに心身とも疲れ果てていた。
もちろん、ストレスは最大であったろうことは間違いないのだが、その渦中で、彼女は夫の愛人の名を世間に公表して、夫の顔を潰したい。困らせたい。心配させたい。の想いで、失踪事件を企てたのではないのか?という説もあった。



憶測の通りであるのなら、アガサの狙い通り、ナンシー・ニールの名前が世間で流出したし、夫の顔も潰れた・・・しかしアガサが思うよりも大騒動となり、彼女が当初考えていた予定通りに家に戻ることが不可能になったのではないか?という見方もあった。



つまり、アガサは、夫にこれみよがしの(当てつけ)の為に失踪事件を計画し、実行した。
ナンシー・ニールの名前が世間に流れたことも想定内であった。
しかし、これでアガサが、失踪事件を辞めて家に戻ろうとしたときには、最初の予定とは異なり、世間やマスコミが大騒動をしていて簡単に出てくる訳にはいかなかった。という説なのである。



前述したように(アガサ・クリスティ 作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失踪事件その8を参照。)記憶喪失にしては、いくつかの不明な点とも符合するとも言えなくはない。




○夫アーチボルトの弟に、ハロゲート・ハイドロパシックホテルを示唆するような手紙を送っている。
(しかも手紙の投函が、失踪した翌日午前3時から午前8時の間。)

○ハロッズ百貨店に自分のダイヤモンド指輪の修理依頼をし、数日後、引き取っている点。
(修理依頼が、やはり失踪した翌日であること。)

○わざわざ夫の愛人の姓(ニール)を偽名で使用していること。

○当時、誰も知り得なかったはずの偽名テレサ・ニールを探すような新聞広告が出ていること。

○突然、記憶喪失で、突然、失踪した割には高価な流行りの衣装を身にまとい、潤沢な資金を持っていたこと。
(まるで用意していたようだ。とも言われた大金の所持金。本人は、いざという時の為の非常用ベルトを身につけていて、そこから出したとの証言。しかし記憶喪失に掛かっている女性が、身に着けていた非常用ベルトから大金を引き出し、あれこれ出来るのだろうか?という疑問符が残っている。)



もちろん、アガサ・クリスティは、一度(記憶喪失に掛かっていたの・・・。)と言ったきり、生涯、この件については口を閉ざしたままであった。



次回は、この計画説にも近いが、【共犯との復讐説】を取り上げてみたいと思う。






(次号に続く)

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2016年09月04日

アガサ・クリスティから (64) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その8)





(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その8)





世間を騒がせていたアガサ・クリスティの失踪事件は、11日間で幕を閉じた。



アガサ・クリスティが別人の名前(テレサ・ニールという夫の愛人の姓を名乗っていた。)を使用し、滞在していたホテルで発見されるまでの間、センセーショナルな報道により、彼女および家族のプライベートな部分も流出していた。



最愛の母の死。夫の浮気・・・・・そして現在、離婚協議中であることも・・・・・。



もちろん、世間は夫に疑惑の目を向けたのだった。
アガサがいなくなると、一番得をするのは夫であるアーチボルト・クリスティ大佐であった。



愛人と一緒になるために邪魔になるアガサを亡き者にしようとしたのではないか?という悪意ある憶測も乱れ飛んだ。



そんな状態に夫は、完璧なアリバイを提示したうえで、【アガサの失踪に関して有力な情報を提供してくれた方には500ポンド(当時のレートから換算すると現在の約200万円)の謝礼を払います。】と新聞広告を載せたのである。


街には懸賞金目当てで、謎を探す人たちが集まっていた。
一説によると、一攫千金=懸賞金目当ての人達は、約15,000人程も集まったとのこと。



また有名な推理小説作家コナン・ドイル(あのシャーロック・ホームズの産みの親)などにも捜査を協力していたほどであった。

当時、オカルトに凝っていたコナン・ドイルは、霊媒師の元にアガサが使用していた手袋を手渡し、謎を解明しようとしていたとも言われている。




大騒動の末にあっけない幕切れ・・・
しかし、当時も今も、真相に謎が残ったままである。

またアガサ・クリスティ自身、当時もその後も、亡くなるまで失踪事件について、詳細を言及しないままであった。



それゆえに、”謎”は謎のまま、解明されずに眠ったままになったのである。



真贋ないまぜになった、その混沌とした中で、彼女の謎の失踪事件について前述(アガサ・クリスティから(63) 作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失踪事件その7を参照。)したようにいくつかの仮説や憶測がたてられた。

代表的なものを当時の記録などを元にいくつか検証していきたいと思う。



@記憶喪失説
・・・・・確かに当時のアガサ・クリスティに係るストレスは、相当ひどいものであったに違いない。

◎推理小説家としては、有名な「アクロイド殺害事件」における前代未聞のトリック、それを支えたプロット、意外な真犯人などが、他の推理小説家やミステリーファンまでも巻き込んだ❝フェア❞か?❝アンフェア❞か?の大論争。
今までにない注目を浴びたのも事実ではあるが、一方で、今までに味わったことがない過度のストレスはあったに違いない。


◎最愛なる母との死別。
この件だけでも、最大ストレスがかかっている。


◎夫の浮気のみならず、離婚を要求されてもいた。
ストレスは最大限まで、彼女を深刻な悩みに追いやっていた・・・。


ひとつでもストレス指数はかなり高いものをいくつも抱え、彼女は限界に近く、不眠や食欲不振にさいなまれ、精神的にかなり危うい状態だったとされる・・・・・。


極度のストレスによる記憶喪失と、我を忘れるヒステリー状態が原因と言えなくもない。



草むらから見つかったアガサの車・・・自動車事故による強い脳震盪などが原因の記憶喪失もあげられていた。



実際、アガサが発見された後、引き取った夫は、精神科医の【記憶喪失】という診断書を提出している。



しかし、当時も今も世間はこの診断に納得せず、疑問を抱く者もいた。



〜〜記憶喪失とは符号しない事実〜〜

アガサは失踪当時、カーディガン・ニットのスカート・ベロアの帽子といった普段着で、数ポンドの現金しか持っていなかったはずだが・・・発見された時のアガサは高価な流行服で身を着飾り、300ポンドもの大金を所持していた。


失踪した日は12月3日(金曜日の夜)

翌日4日(土曜日)の朝8時過ぎには、サリー州郊外で、道路脇斜面を滑り落ちて、ライトがついたままの状態のアガサの車が草むらで発見された。
車にアガサ自身はおらず、スーツケースや彼女の免許証など、いくつかのものが残されていたのである。

それゆえに事件性がある失踪事件として、大規模な捜査も行われたのである。


しかしながら、失踪翌日(12月4日の午前3時〜8時までの間)に彼女は、夫アーチボルトの弟キャンベル宛てに手紙を出したことが、後に判明している。
キャンベルには、 アガサの行き先ハロゲート・ハイドロパシックホテルであることを示唆する文面があったとも言われている。


また失踪翌日4日朝、彼女はハロッズ百貨店にダイヤモンド指輪の修理を依頼して、7日にヨークシャーで受け取っているのだ。



失踪翌日4日といえば、アガサの車が自宅から離れた所の草むらで発見され、事件性がある失踪事件としてサリー州警察本部にも連絡が行き、翌5日からの大捜査に繋がった日でもある。



ハロゲート・ハイドロパシックホテルの給仕長が、アガサの失踪事件を新聞報道で知り、テレサ・ニールという滞在客が失踪した女流作家にそっくりであると警察に通報。


それを受けた警察は数日に渡り、ひそかに調査していた。


その時に判明したことが、2つあった。

ひとつは、夫の愛人の名前はナンシー・ニールであり、滞在客のテレサは、愛人の姓ニールを名乗っていた。

もうひとつは、【最近、アフリカから戻ったテレサ・ニールの所在を知っている方はご一報を。EC4タイムズ社私書箱R702】という奇妙な広告をタイムズ紙に掲載していることが分かったのであった。
(これについては、後述したいと思うが、彼女の作品「予告殺人」に新聞広告をアリバイ工作に使っていたことを彷彿させるような事柄でもある。もちろん、目的や動機は全く異なるのではあるが、新聞広告という手段は同じである。)



警察や新聞社、世間を巻き込んでの大捜査の間、本人であるアガサは高価な流行服に身を包んで、夫の愛人の姓を名乗って、ハロゲート・ハイドロパシックホテルに滞在し、他の滞在客とダンスや散歩を楽しみ、優雅に過ごしていたという。

また失踪翌日の居場所を示唆するような夫の弟への手紙投函と、ダイヤモンドリングの修理をハロッズ百貨店に依頼するなど、本当の記憶喪失者ならば腑に落ちない事柄が多い。


〜〜真相は藪の中である〜〜


その他の説

A計画説

B共犯との復讐説

C売名行為説


●風変わりなものでは、Dトリック実験説なるものもあった。

彼女の書いている作品の中に使用するトリックの実験を行っているのではないか?という推測であった。



また次号では、A計画説・以降の説を取り上げていく予定です。

(次号に続く)

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2016年09月01日

アガサ・クリスティから (63) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その7)




(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その7)





アガサ・クリスティの失踪事件は、11日間で、あっけなく終わった。



しかしその真相は、アガサ・クリスティ没後の今日も謎を残したままである・・・・・様々な人達が、その謎について自分なりの考えをはりめぐらせてもいる状態。
その中で大きく分けるといくつかの仮説が浮かび上がってくるのである。



●1926年・・・アガサ・クリスティにとっては大きな出来事が、いくつも重なった年であった。

◎数々の出版社で不採用になったのち、ようやく作家デビューが出来たアガサ・クリスティは、この年に【アクロイド殺害事件】を発表。
今までにないプロット・・・大胆なトリックと意外な真犯人・・・この話題作をめぐって、同業の推理小説作家やミステリーファンまで巻き込んだ推理について大論争が起き、一躍有名になった。

◎最愛の母を亡くす。

◎そして、この年にアガサ・クリスティは、謎の失踪事件を起こすのである。




この年については、彼女にとって、とてつもない大きなストレスが掛かっていたことは間違いないようなのである。

ストレスとは・・・・・いいことも悪いことも含め、自身に大きな変化があるときに本人にかかってくる心理的負荷とも言える。

◎確かに推理小説家としてのトリックについて、フェアかアンフェアかの大論争&注目度。

◎母の死における喪失感。(彼女は母の独特の信念で、幼少期に学校教育を受けず、母からの教育を受けていた位に他の人以上に母との関係は濃密であった。)

◎そして引き金になったに違いないとも言われている夫婦仲・・・・・夫アーチボルト・クリスティには、当時、ナンシー・ニールという愛人がおり、アガサ・クリスティと別れたがっていたとも言われている。


さしずめ、ストレス指数はMax(マックス=最大)であったに違いない・・・・・。




アガサ・クリスティは11日間の謎の失踪事件を起こした後、ヨークシャーのハロゲート・ハイドロパシック・ホテルから、それらしき人物がいるとの情報を得て、夫が確認後、引き取られ自宅に戻っていた。
もちろん、世間を騒がせていた失踪事件について、報道陣も黙っていなかった。
一体、どういうことなのか?説明すべきではないのかという圧力もあった。
夫は、黙秘は長く続けることは出来なかった。

記者団の代表者1名に声明を発表した。

「彼女は完全に記憶を失っており、自分が誰かも分からない状態で・・・・・夫である私のことも分からない状態ですし、何故ハロゲートにいたのか?ということすら分かっていないのです・・・・・。」




アーチボルト・クリスティが裏付けとして、精神科医の「記憶喪失」という診断書を提示するも、失踪事件に沸いていた大衆もマスコミ陣も簡単に納得はしてくれなかった。

幕引きを願った夫婦の願いとは裏腹にマスコミによる執拗な追及は続いた・・・・・心無い非難やジョーク、あまり良くない憶測の数々、悪しき噂たち・・・・・この時の経験が、アガサ・クリスティのマスコミ嫌いを加速させ、晩年まで苦手であったとされる。



何より発見されたアガサ・クリスティがホテル滞在中に名乗っていた(テレサ・ニール)という名前が、夫の愛人である(ナンシー・ニール)を彷彿させるものであっただけに 憶測は絶えることがなかった。





いくつかある憶測また仮説とは・・・

●記憶喪失説・・・・・・・文字通り、記憶喪失による説。

●計画説・・・・・・・・・夫をこらしめるために計画し実行したが、騒ぎが大きくなってしまった説。

●共犯との復讐説・・・・・愛人のいる夫に対する復讐を兼ねた当てつけを親しかった義妹と企てたという説。

●売名行為説・・・・・・・アガサ・クリスティの内気な性質から、もっとも考えにくい説であるとされている。




次号は上記の説を少し掘り下げてみたいと思う。




(次号に続く)

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2016年08月28日

アガサ・クリスティから (62) (作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その6)





(作者アガサ・クリスティ自身のミステリー*失跡事件その6)




大捜査もむなしく、迷宮入りする可能性も出て来たアガサ・クリスティ失踪事件は、11日後にあっけなく事態は終息した。
つまり、失踪事件はあっさり解決したのである。



まず、ヨークシャーのハロゲート・ハイドロパシック・ホテルから一報が入ったのである。
ホテル滞在中の女性客=テレサ・ニールと名乗っているが、どうもアガサ・クリスティらしい。という報告であった。



警察と夫であるアーチボルト・クリスティ、そして新聞記者たちのマスコミもどこかから情報を入手し、一同、ホテルに駆けつけることになる。
影に隠れて、夫のアーチボルトが該当する女性を確認したところ、間違いなくアガサ・クリスティその人自身だと判明。



夫アーチボルト・クリスティは、夫婦二人だけの話し合いをするためにホテルの部屋に引き上げた。
そして翌日には、人目を避けながら、彼女を自宅に連れて帰ったのである。
家族が彼女を無事保護することで、この事件は解決というピリオドが打たれた。
その間、なんの説明もなされないままに・・・・・。



大捜査も功を奏さず、迷宮入りか?という手前で偶然にも発見され、この新進気鋭の女流推理小説作家の11日間の失踪事件は解決する・・・・・しかし、何故か?という大きな謎は、アガサ・クリスティが存命中も没後も今なお、本当の真相は解明されぬままなのである。



憶測含む、いくつかの仮説が残ってはいるが・・・・・次回はその仮説たちやその後のクリスティ夫妻を綴ってみたいと思う。




(次号に続く)

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