2016年06月22日
アガサ・クリスティから (54) (茶色の服を来た男*その33)
(茶色の服を来た男*その33)
「アン、この男の名はハリー・ルーカスではないんだよ。ハリー・ルーカスは戦死してしまっているんだ。この男は、ジョン・ハロルド・イーアズリーだよ。」
そう告げると、レイス大佐はアンと彼を残し立ち去って行った。
残された2人には、気まずい空気がながれた。
「アン、僕を許してくれ。許すと言ってくれ。」
彼はアンの手を握りしめたが、ほとんど機械的にアンは手を引っ込めた。
「あなたは何故、私をだましたの?」
アンは今から思えばだが、そういえば思い当たる節があった。
結局は2人とも死んでしまい実現はしなかったが、カートンを通じてナディーナから、ダイヤを買い戻すと言う話しだ。
ダイヤを買い戻すことへの(資金)に対する強い自信。
もしハリー・レイバンが、貧しかったハリー・ルーカスなら、あり得ない話であり、あり得ない資金であった。
アンは、ハリー・レイバン=ハリー・ルーカスと思い込んでいた本名ジョン・ハロルド・イーアズリーに向かい合った。
「本名を隠すなんて、私を信じてくれてはいなかったの?」
「何と言ったらいいのか?君に分かって貰えるのか僕には分からない。
権力とか富とか言うもの・・・僕はそんなものが恐ろしくなった。僕は僕という人間だけを、君に好きになって欲しかったんだ・・・勲章とか礼服とかいうものをとった裸の僕だけを。」
「と、いうことはあなたは私を信頼出来なかったってこと?」
「そう思いたけりゃ、そうでもいいが、しかし少し違うんだ。僕はいろいろな目に合わされて、疑りっぽくなっていたので、いつでも裏の裏を考える癖がついていた。だから、君が僕を好きになってくれたあの好きになり方が、なんともたまらなく嬉しかったんだよ。」
彼は言った。
今まで、鉱山王の息子でいて、苦労したことを。お金や権力が人を自他とも狂わせてしまうことを身を持って知っているのだ。
キンバリーでのダイヤ盗難事件があった時に、父であるサー・ローレンス・イーアズリーは全精力を傾けて、盗難ダイヤに相当する額を払い、事件を揉み消した。
しかし息子ジョンとの会見では、その素行を信じることが出来ない鉱山王に息子は一言の言い訳もせず、ほぼ勘当に近い決別となった。
父との不愉快な会見から、憤りと意気消沈して出てきた彼を待っていてくれたのは、親友であるハリー・ルーカスであった。
二人の純粋な夢は冤罪という形で破れてしまい、投げやりになっていた。
一週間とせぬ間に戦争があり、二人は兵士に志願した。
その際に身分証明書を交換したのだった。
ジョン・ハロルド・イーアズリーの身分証明書を持ったハリー・ルーカスは勇敢にも敵の中に飛び込んで行き、戦死したのだった。
・・・生き残ったジョン・ハロルド・イーアズリーは身分証明書の交換の真実を語り、戦死を訂正する気もなかった。
またジョンが交換し持っていたハリー・ルーカスの身分証明書・・・実際のハリーは、ジョンとして戦死、書類上のハリーは戦争中に行方不明となっていた。
純粋な夢が冤罪に仕立て上げられ、父との確執、身分証明書を交換した親友の戦死・・・ジョン・ハロルド・イーアズリーは、ハリー・ルーカスと名前を変えて、以前見知っていたビクトリア滝の近くにある小さな島に住み着いた。
そして、たまに観光客を舟に乗せて、滝の周辺を案内していた。
ある日のこと、ナディーナの夫であったキンバリーのデ・ベールス社のダイヤモンド鑑定士カートンが、その観光客に紛れていた。
カートンは、ナディーナとホテルで会食していた彼のことを覚えていたが、ハリーとジョンのどちらがどちらかは知らなかった。
しかし、例の国際犯罪組織のボス”大佐”は彼がハリー・ルーカスではなく、ジョン・ハロルド・イーアズリーであることを知っていたらしい。
色々なことが少しづつ、紐解けていった。
ナディーナを心から愛していたのは、物静かだが意志の強いハリー・ルーカスの方だったのだ。
ジョンは、金がなんになる?と言った。
お金で幸福を買うことは出来ない。と言った。
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