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2023年04月21日

【2023年4月追記】飛躍の翼 歓迎の宴 あとがき

夜分遅くに今晩は。
ビジネスでも趣味でも行動が遅い、『暇人の独り言』管理人です。





趣味と言えば、本ブログにも置いている拙作『光の翼』は元々「小説家になろう」で掲載を開始したものなのですが、よく見てみるとこの2019年は10月26日時点でまだ2回しか更新していませんでした



…もはや、言い訳する余地も無い程の遅筆でございます。
さらに言えばこのブログでも3ヶ月は停滞していた





ただ、掲載を開始したからには完結させる気持ちも変わっていません。
時間はかかっても、今後も投稿を続けるつもりです。


…こんなペースで寿命が尽きるまでに間に合うかなあ。















さて。
今回の記事は、この度掲載した拙作の最新話「歓迎の宴」についてのあとがきです。





ソミュティーにあるティグラーブの実家を借りることになった風刃達。
村に挨拶しに行ったところ、新たな住人として大歓迎されました。



…作者自身、こんな祭り騒ぎをしてソミュティーの面々は疲れないのかと呆れ混じりに思いますが、彼らのおかげで明るく気楽な話を作れたので、感謝もしています。





平和な回ではあったものの、災厄の刃(クラディース)やその首領ディザーについての話を聞いた嵐刃は何か疑いを抱いていたり、ソミュティーの宴会と同時刻には良からぬことをやっているらしき集団がいたりと、終盤にはきな臭さも漂わせています。





…しかし、これらについてのあとがきはもう少し先の機会に。
今回はこの辺で終了とします。





それでは、また。















【以下 2023年4月追記】




夕方前に、今日は。
『暇人の独り言』管理人です。



ここ数日、拙作の改稿済の部分を毎日掲載して来ましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか。
続きはまだ書き直しが終わっていないので、またもや拙作もブログの更新も当分時間が空く予感ですが、程々にお付き合い下されば幸いです。





今回掲載した「歓迎の宴」改稿版では、これまでと同様に無駄な部分を省いたところ、紅炎が射的に興じる場面や風刃と氷華のヨーヨー釣り対決を跡形無くカットする事になりました。
作者としては気に入っていたので惜しくもあったけれど、本筋に不要だったから仕方ない。





ところで風刃が焼きそばとカレーを買おうとしていたのは、思い切り作者が地元の夏祭りでやっていた事そのままです。
やはり実体験は使い易さが最強だ。



憎きコロナのせいでその夏祭りも自然消滅した気配があるのですが、あのウイルスがもっと黙ったら復活してくれないものかと、薄い望みを抱いています。
posted by 暇人 at 15:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼11 歓迎の宴2

立ち寄った射的の屋台で、紅炎は大活躍を見せた。
自身の武器としてモデルガン、僕の得物として模造刀、ついでにポテトチップスの袋2つを手に入れたのだ。
観衆から驚嘆の声を浴びながら去り、ヴォルグさんの焼き鳥屋台で腹ごしらえと相成ったのは、午後7時30分の事だった。





「美味い!」
「おお〜!こりゃいいわ〜!」
とり皮やつくねを味わう僕も、ハツとねぎまを平らげる紅炎も、第一声で絶賛した。
旨みがしっかり肉の中に閉じ込められていて、歯応えも丁度良い、実に絶妙な仕上がりだった。
「ヘエ。やるモンだな、村長サン。」
「いえいえ、とんでもない。こうして村で祭りをする度にやっている屋台ですが、いまだにうっかり火加減を間違う事もあるのですよ。」
緑色の三角巾を頭に巻いたヴォルグさんが、掌に弱火を浮かべながら謙遜する。
「それにしたって、自分よかずっと火の扱い上手いっすよ〜。あれだけの火力で焼いたのに焦がさねえわ、串は全然熱くならねえわって、ビックリっすわ。」
「はっはっは…恐れ入ります。」
ヴォルグさんは白く長い顎鬚を右手でいじりながら、静かに笑った。
「ところで駆君、食べなくて良いのか?」
「えエ。もう腹一杯ですから。」
「え〜、あんだけで〜?クー坊、小食だな〜。」
駆君はつくねを2本頼んだだけで、以後は水しか飲んでいない。
「野菜とか果物ならもうちッとは食うンだが…この手の油モンは程々にした方が良いしな。」
「ひゃ〜。マジで健康志向すげえな〜。」
「だな。…それに比べて…。」
僕の右隣に腰掛けるシュオルドは、今なお両手を活発に動かし、多種の焼き鳥を口内に叩き込んでいる。
既に30本もの串から鶏肉を綺麗さっぱり消し去っていたが、更に追加で注文を出してさえいた。
「こっちの胃袋はどこまで入るんだか…。」
「大食い大会とか、余裕で優勝できるんでねえの?」
「拙者もそう自惚れていたが…3年程前に村での大食い大会に出た際、メイアに敗れた。」
「メイア…ッて、あのヘビのアネゴか?あンな細い身体してンのに…?」
シュオルドは浅く首肯する。
「あと一歩のところではあったが、上には上がいるという言葉を痛感させられた。以来、大食い大会には出向いた事がない。」
「何だ、そりゃ〜。こんなに食えるのに、もったいねえな〜。」
「耳に痛い御言葉だが、拙者とて武人を志す男。同じ栄冠を目指すならば、武の争いで目指したい。」
「はは、言うもんだな。じゃ、ここの人達集めて格闘大会でもやってみるか?」
「…賛同したいが、ヴォルグ村長の圧勝が目に見えているな。」





僕達が言葉もなく視線をやると、ヴォルグさんは気恥ずかしそうに唇の端を持ち上げた。





「まだ私が若かった頃、ディザーが暴れておりましてな。奴に抗っていたのもあって、それなりに魄力が上がったのですよ。」
「忌み子や災厄の刃(クラディース)がこの村を襲わぬのは、カオス=エメラルドの破片がないのに加え、ヴォルグ村長を迂闊に攻められないゆえだと考えられている。用心棒を仰せつかった拙者としては、立つ瀬のない話だが…。」
「何を仰いますか、シュオルドさん。貴男やメイアさんがいるお陰で、ソミュティーは皆が安心して暮らせる村となっているのですよ。」
力なく笑いながら自嘲気味に呟くシュオルドを、ヴォルグさんがフォローした。
「え…メイアも、そんなに強いんですか?」
「ええ。彼女は守りに特化した使い手でしてな。防御や回避においては、魔界全土でも優秀な方ですよ。」
「おわ〜…ソミュティーって、すげえ面子が揃ってるんすね〜。」
「…それでもこちらからディザーに仕掛けるのは、とても無理ですがな。」
視線を落としたヴォルグさんが、小さな嘆息と共に弱弱しく漏らす。
「そう言えばディザーッてヤロー、4年前にはもう250万なンて魄力してやがッたらしいな。」
「はい。…とは言え、全盛期とは比べ物にならぬほど弱体化していますよ。時のあやつは、魄力値1000万だったと見られておりますので。」
過去の話とは言え、余りにも次元の違う数値に、ひととき感情すら忘れて黙り込んでしまった。
「…聞けば聞くほど、とんでもないな…そんな奴、よく封印できましたね…。」
「それはひとえに、当時の腕利き達が揃い踏みしたお陰です。特にこちらのリーダーは、ディザーの魄力を僅かながら上回ってくれていましたからな。」
「くッ…スケールがデカ過ぎて、理解が追い付かねエ…。」
「ははは、無理もありませんよ。当時目の前で成り行きを見ていた者達すら、ほとんどが呆然と立ち尽くしていただけでしたからね。」
頭を抱える駆君に、私もぼんやりしていた口でしたと、ヴォルグさんが付け加えた。
「…ともあれ、そのリーダーのお陰でディザーを封印できまして。4年ほど前にあやつの封印が破られるまでの数十年間、魔界はひとときの平和を享受できたというわけです。」
「ほえ〜。人間界だったら、ヒーロー扱いだな〜。」
「はは、魔界でもそうでしたよ。…ただ、そのリーダーは気が短い方でしてね。うっかり怒らせた日には鉄拳制裁も免れないもので、ある意味ディザーよりおぞましいと語り草になっておりました…。」
ヴォルグさんはそこで苦笑いし、腹部を見つめる。
その仕草は、自身も「うっかり」をやらかした部類だと、暗に語っていた。





「…しかしそンなにすげエ使い手なら、またディザーとやらをどうにかしてくれッて頼めば手っ取り早いンじゃねエのか?」
「それが…彼はここ4年、連絡が付かないのです。」
「…亡くなったんですか?」
ヴォルグさんはゆっくりと首を横に振った。
「詳しい状況は、分かっておりません。間違いなく言えるのは、現状では彼には頼りたくとも頼れないという事だけですな。」
「そうか…。」
駆君が腕組みをしながら重々しくこぼし、押し黙る。
「…ま、しょうがねえか。ティグラーブとも約束しちまったし、俺らでディザーだろうが災厄の刃(クラディース)だろうが、きっちり片付けちまわねえとな〜。」
「そうだな…。」
陽気に軽く述べる紅炎に応じながら、頭の中では違う事を考えていた。
昨晩ディザーの出で立ちを耳にした時の表情と、いち早く席を外す際の雰囲気。
恐らくあいつも―
「…嵐刃殿?如何した?」
「あ…いや、別に。ちょっと考え事してただけだよ。」
「おや。何かお悩みなら、お話を伺いますが?」
「いえ、また今度で大丈夫です。」
無理をせず微笑み、努めて穏やかに答える。
「…そうですか。では、またその時に。」
何かを感じた様な間があったが、ヴォルグさんは特に踏み込んでは来なかった。
「改めて言っておきますが、今日より皆さんは我々ソミュティーの仲間ですからな。助けが必要な時は、遠慮なくお申し付けください。」
「うむ。拙者達の力は微々たるものだが、可能な限りの助力は惜しまない。」
「どうも〜。じゃ、もしもの時はよろしくな〜。」
紅炎が迷わず厚意を受け取ると、ヴォルグさんとシュオルドは静かに笑って小さく、だが力強く頷いた。
「さて。また明日からは御多忙になることでしょう。今夜ばかりは羽目を外して、存分に楽しんでくだされ。」
「はは、そうさせて貰います。…そうだ。とり皮と豚バラを3つずつ追加して貰えますか。」
「あ。自分もハツとレバーを3つずつ、追加お願いしますわ〜。」
「はい。お任せを。」
ヴォルグさんが追加分の焼き鳥を用意していたところ、頼りなげな高い音が響く。





何事かと視線を彷徨わせていると、花状の光が空に咲き、太鼓を思わせる振動が続いた。





「おお、花火か!」
「うお〜、壮観だね〜!」
「すげエな!」
次々と打ち上がる煌びやかな花火に、僕達は揃って釘付けとなる。





「あっ、花火!」
「おお!」
露店での対決を引き分けで終え、戦利品の水ヨーヨーで戯れる氷華君と風刃も、同様だった。





「…ああ、花火…綺麗ですね…とても…うう…。」
「れ、麗奈ちゃん…!お菓子…奢るから…元気出して…!」
ただし、くじ引きの店で外れしか引けずに打ちひしがれる麗奈と、彼女を何とか復活させようとする舞は、例外であったが。















ソミュティーが宴に熱中していた頃、沈まずの森の入り口には7つの人影があった。
「まったく。派手にしくじりやがったな、このバカ共が。」
6体の邪鬼(イヴィルオーガ)を、粗暴な物腰の男が嘲笑混じりに罵る。
薄汚れた紫色の杖を右手に握って胡坐を掻いた男は、邪鬼(イヴィルオーガ)達と同じく鮮血の様に赤いジャケットと、闇夜の様に黒いジーンズを身に着けていた。
毛髪は黒色と金色が混ざったドレッドヘアで、両の耳には毒々しい色合いのピアスもしており、気性の粗さがこれでもかと滲み出ている。
「グ…!言っトくが、失敗しタのは変なガきに邪魔サレたせイだからな!あのガキさえ来ナケりゃ…!」
反論したのは、黄色い肌の個体にして、群れのリーダーでもあるシクロスだった。
「ん?変なガキだと?」
「そうダよ!薄い水色髪シた木刀使いのガキに、横槍入れられタンだ!」
「…ほう。薄い水色髪、ね…。」
粗暴な男は興味深そうに、シクロスの報告を反芻する。
「シクロスよ。その水色髪のガキとやらは、何か魄能を使って来たか?」
「魄能…ああ、言わレてミレば…アいつ、風か何か撃っテやがッタかな…。」





「…ククク…そうか…。」





「…何よ。1人でニヤニヤしちゃッテ、気持ち悪いワね…。」
邪気に満ちた笑いを浮かべる男に、桃色の邪鬼(イヴィルオーガ)が眉を顰めた。
「いや、なに…そのガキは良いオモチャになりそうだしな。近々、歓迎会でもしてやるかと思ったまでさ。」
「…は?何で直接見てモねえノに、ソんなコト分かルんだ?」
「クク…そいつは、またの機会にな。それより、てめえらのミスについてだが…。」
閑話休題を言い渡され、邪鬼(イヴィルオーガ)達は金縛りに遭った様に硬直する。
人員など幾らでも集められる組織において、仕事を失敗した。
ならば当然、自分達に下される処罰は―
「特に言うことはねえ。また次の仕事でキリキリ働け。以上だ。」
「…へ?」
極刑を覚悟していた邪鬼(イヴィルオーガ)達が、揃って呆気にとられる。
「…エっと…ソレって、お咎めナシってコトでアッテるの?」
「何だ?死刑にでもされてえのか?だったら、遠慮なくぶっ殺してやるが…。」
「わアア、やめロ!いや、ヤメてくれ!許してモラえルなら、バンバンザイだ!」
ほとんどの個体が安堵し浮かれる中、シクロスだけは疑念を拭えずにいた。
「…テめえともアロうヤツが、随分と寛容ダな。何か裏がアるんじゃネえのか?」
「ねえよ、そんなモン。ミズカワマイを尋問しろってのは、テメエらを一度暴れさせてみたくて適当に言っただけだ。『憑代』相手に人質も必要ねえ今、成功しようがしくじろうが、どうでも良かったんだよ。」
粗暴な男は徐に立ち上がり、杖の先端を何度か左手の腹に当てながら続ける。
「それに偶然とは言え、良いオモチャになりそうなヤツも見つけて来た。これじゃ、処罰するのは無理筋ってモンだろ。」
「…じゃあ、水色髪のガキが良いオモチャじゃナカったラ、オレらを処分すル気か?」
「…図体の割には心配性だな、シクロスよ。」
粗暴な男は、半ば疲れた様子で溜息を吐いた。
「まあ、安心しろ。そのガキが期待外れでも、後でテメエらを死刑にはしねえさ。何せ―」





粗暴な男が魄力を込めると、杖に埋め込まれた宝石から、淡い紫色の立体映像が浮かび上がる。





そこには、夥しい打撲痕や切り傷を刻まれた黒髪の小柄な少年が、うつ伏せになって弱弱しく呼吸する姿があった。





「その気になれば、オモチャなんざいくらでも手に入るからな。ククククク…。」
posted by 暇人 at 15:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼10 歓迎の宴1

満月が静かに輝く、午後7時。
「それでは、新しい仲間との出会いを祝して…乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
ヴォルグさんの音頭を皮切りに、住民達は大小様々のグラスをぶつけ合った。
「ソミュティーへようこそー!」
「若者が増えてくれれば、また村が盛り上がるわい!」
「これからよろしくなー!」
老若男女が入れ代り立ち代り、満面の笑みでの挨拶ついでに握手を求めて来る。
無下にもできず精一杯応じていたところ、一段落するまでに10分程が経過してしまった。
「やれやれ…ただ客が入っただけで、よくここまで騒げるもんだ…。」
「折角歓迎してくれてるんだから、もっと楽しそうにしろよ。見世物にされてる訳じゃないんだぞ。」
「酒のツマミにはされてる気がするけどな。」
「…まあ、否定はできんけど。」
俺が冷めた目でこぼすと、兄も少々呆れが宿る苦笑いを浮かべ、周囲を見やる。
20歳以上と見える者は、ほとんどが浴びるようにアルコール類を口にしていた。ビール瓶の1本や2本はあっという間に空にしてのけており、さぞや日頃から飲み慣れていると思われる。
年端の行かない子供にも、大人達を真似てジュースや菓子類を貪る者が多数おり、遠い将来と言わず明日の体調が憂慮される有様であった。





ソミュティーの出身だというティグラーブから、ここでの拠点として実家を貸してやれる事になったから住民達と顔合わせ位はしておけと言われ、足を運んで来ていた。
ところが到着してみれば、俺達の歓迎会として祭りの用意をしたとの事で、この乱痴気騒ぎ。要するに好意的に見れば快く受け入れられており、捻くれた言い方をすれば酒盛りの口実にされていたのだった。
「しかし、すげぇ店の数だな…。」
射的や金魚すくい、焼きそばやカレーや綿あめといった縁日の定番は言わずもがな、カツ丼や牛丼やラーメンといった定食屋向きの店まで並んでいる。
比べる意味はないのを理解しつつ、地元の祭りではどうあがいても太刀打ちできない充実ぶりだなどと感じてしまうのだった。
「こんなにたくさんお店が並んでいると、どこを選んだものか迷いますね…。」
「…私…カツ丼…食べたいな…。」
「げッ、随分とカロリーの高えモンを…オレなンか、野菜炒めでも食えれば十分だゼ。」
「わっ、意外。天くんって、ファストフードばっかり食べてると思ってたよ。」
氷華がわざとらしく目を丸くする。
「はッ。身体が資本ッて言葉、知らねエのかよ。あンな栄養偏りまくッたモン食ってちゃ、自殺行為だろうが。」
「へぇ。見た目不健全のカタマリのくせに、わりと健康志向なんだ。…何かナマイキ。」
「何だとテメエ!」
天城が怒声を上げたものの、氷華は涼しい顔で視線を背けた。
「相変わらずだな、てめぇら…。」
「毎度、このバカ女が突っかかッてきやがるからな!」
「何言ってるんだよ!いつもはそっちが…むぐっ!」
「いつもはともかく、今回は完全にお前が売っただろ。」
余計な火種を煽ろうとした氷華の口を、右手で塞ぐ。
じたばたと暴れ出したところで解放し、大袈裟に溜息を吐いておいた。
「…皆寄りたい所バラバラだろうし、自由行動にするか。」
「ああ、助かるわ。何か喋る度にこの騒ぎじゃ、頭がどうかなりそうだしな。」
すぐ側で嫌味を垂れても、氷華も天城もまるで意に介していない。
数秒睨み合った末、同時に明後日の方へと向いた。





「では、各自好きな頃合でティグラーブさんの御実家に戻ればよろしいでしょうか?」
「ああ。でも、村からは出るなよ。はぐれたりしたら面倒だし。」
「おうよ、了解〜。」
「…あの。水さんの弟さんのこと、村の人たちに聞かなくていいですか?」
「…どう…だろ…?…してもらえたら…嬉しいけど…望み…薄そうだし…。」
「んなもん、村の全員に聞かねえと分からねえっしょ〜。金取られるわけでもなし、当たるだけ当たってみようぜ〜。」
「だな。」
兄達は携帯電話の画像フォルダを、俺と氷華はポケットに収めておいた写真を確認した。
それらは舞さんのスマートフォンにある画像をプリント、あるいは転送した物であり、彼女の弟の水川大輝(みずかわたいき)が写っている。
年齢は俺達と同じく中学2年生。背丈は氷華よりもごく僅かに小柄であり、長身の舞さんとは競うべくもないが、短くも艶(つや)やかな黒髪はなるほど姉弟だと納得できた。
ただ、舞さんから心底愛し気に抱きすくめられて恍惚としているのには、良くて好色かシスコン、酷ければ両方の気配が漂っている。
「…水アネゴ…今更だが、別の画像はねエのか?もッと、こう…弟がシャキッとしたツラしてるヤツは。」
「…ないよ…こういうの…ばっかり…撮ってる…この顔が…一番…かわいいもん…♡」
「…そうか。」
頬を紅潮させ、涎を零さんばかりに唇を緩める舞さんに、兄をはじめ皆が顔を青くした。
こうして弛緩し切った面持ちも、一目で家族と分かる位には似ている。
「…あれ…?…なに…この空気…?」
「いえ、何でもないですよ…世の中こんな見事なブラコンいるんだなと思っただけで…。」
「要らん事言うな、馬鹿!」
「…ぶらこん…か…弟好きの…姉には…褒め言葉ですな…♪」
心底嬉しそうに微笑む舞さんに、言葉にはしなかったが誰もが同時に思った。
駄目だ手の施しようがない、と。
「…それじゃ…私…ご飯…行くね…また…後で…。」
悪寒に震える俺達にまるで構わず、舞さんはスマートフォンを握ったまま人混みへと消えて行った。





「ははは…ブラコンな女子も随分見て来たけど、あのレベルは初めてだわ〜…。」
「それだけ大切な弟君なのでしょう。少しでも早く見つけて差し上げなければなりませんね。」
「…だな。」
ごく短くも重さを伴った返事に、俺だけが兄を見やった。
「…さ、こっちも解散しよう。聞き込みもしてやらないとだけど、折角だし祭りも楽しませて貰おうな。」
「お〜し!そんじゃまず、射的に突撃するかな〜!」
「お、良いな。久し振りに見物させて貰うぞ。」
「オレも、一緒に行かせてください。」
俺を除いた男性陣が固まり、小走りで移動する。
「ねえ、風くん。一緒に回ろうよ。」
「おお、良いぜ。」
「月さんも、一緒に行きませんか?」
「お誘い頂き大変光栄ですが、今回は舞さんに同行させて下さい。色々と、お話を伺ってみたいのです。」
「そうですか。分かりました。」
氷華に見送られる中、お辞儀をして立ち去った魅月さんの背に、安堵を覚えていた。
まだまだ信じて良いか分からない舞さんには、監視を付けておいて損はない。
そしてその役目には、疑念を隠すのが下手な俺より、穏やかな物腰で警戒を抱かれにくい魅月さんの方が適任だ。
「…さて、まずは飯にするか。」
「さんせーい!…けど、どこにしよっか?」
「いらん冒険してスベってもかなわねぇし、無難に焼きそばとカレーで行こう。」
「あはは、風くんってばホントにその組み合わせ好きだね!」
「ん、嫌か?じゃ、飯は別々に…。」
「ああ、イヤなわけじゃないよ!ボクだって焼きそばもカレーも好きだもん!」
「なら、とっとと行くぞ。」
ポケットに手を突っ込み、目当ての屋台へ向かって歩を進める。
「食べ終わったらヨーヨー釣りで勝負しよ!去年の借り、返してあげるよ!」
「ふっ。上等だぜ!」
いつしか村人達の浮かれようを煩わしく思っていたのも忘れ、非日常の賑わいを心底楽しんでいた。
posted by 暇人 at 15:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

2023年04月20日

【2023年4月追記】飛躍の翼 漆黒の海姫 後書き

夜分遅くに今晩は。
近年七夕の願い事は「借金完済」が2位で「平穏無事」が1位の、『暇人の独り言』管理人です。





気付いてみれば、2019年も既に7月。
新しい年までもう残り半年を切っているとは、言葉を失う程の早さです。
つい先日、2019年おめでとうとか言ったような気がするのに…


この分だと、本ブログ3周年かつ4年目の御挨拶を申し上げる日も、瞬く間に訪れそうだ。
今みたく更新頻度が乏しければ余計に










さて、今回はブログ更新のネタに困るといきなり現れる拙作『光の翼』の後書きを綴ります。
内容は、「漆黒の海姫」についてです。





この話で最も注目していただきたいのは当然、新顔の水川舞(みずかわ まい)。
弟持ちの実姉で美人でブラコンと、作者好みの要素を詰め込みまくったキャラクターです。



私が生み出すキャラクターは大体「こんな奴がいたら面白そう」位のふわふわしたところから出来上がっているのですが、舞は珍しく「誰にどう思われようが自分の描きたい実姉キャラを」と思って創り出しました。





割と早い時期から考えていて、実際に登場させられる瞬間を待ち望んでいたものの、いざとなればどんな出会いと仲間入りをさせるかに悩ませられ、ボツ案も複数出す事に…



そんな苦労も加わったゆえ作者としては大層愛着のある舞ですが、やたらと遅い語り口と凄まじいブラコンぶりは、読者様から好かれるか嫌われるかが両極端になるだろうなと思っております。



有名な作品達の様に人気投票でもできれば、好き派と嫌い派のどちらが優勢か、分かったんだろうけどなあ。










しかしたとえ読者様に嫌がられようと、今後は舞も主人公一派と行動を共にします。
7人組となった風刃達がカオス=エメラルドと舞の弟を無事手中に収められるか、見守って下さいますと幸いです。















【以下 2023年4月追記】




季節外れに暑い4月の夕方に、今晩は。
最近は拙作の改稿版の投稿を欠かしていない、『暇人の独り言』管理人です。



と言っても、現状改稿が済んでいるのはこの次の部分までなので、明日で1日1回更新も恐らく途絶えますが…
まあ、口だけ達者ではなく有言実行の管理人にはなれたはずだし、良しとしましょう。





この「漆黒の海姫」も、元は1話に舞の登場と仲間入りを詰め込んだせいで、2万字近くあったようです。
それが今回掲載した改稿版では2話分合わせても7967字と、随分スッキリさせる事ができました。


無駄な文章をダラダラ書いていただけだった恥ずかしい有様は、二度と振り返りたくもない…





短く直した以外には特筆すべき変化がないので余談ですが、作者は麗奈の台詞「こうしてお目に掛かったのもきっと何かの御縁」が気に入っています。
昔から「何かの縁」という言い方が好きだし、歳を食う程に「縁」の大きさと不思議さは身に沁みるものがあるので。
posted by 暇人 at 16:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼9 漆黒の海姫2

俺達が泉で出会った黒髪の女性についても、ティグラーブは詳しかった。
彼女の名は、水川舞(みずかわまい)さん。1週間前に行方不明となった弟を発見するべくティグラーブに目撃情報を求めては、方々を巡っているのだという。
ただ、今回は眩暈を押して捜索に向かったせいで、復路で遭遇した6匹の邪鬼(イヴィルオーガ)―万全の体調なら勝負にもならない格下相手で、危うく殺されるところだったらしい。
「しかし、世間ってのも狭いモンね。おいどんに泉の欠片の情報よこしたの、こいつなのよ。」
「えっ、そうなの!?」
「ええ。弟の目撃情報くれてやる料金代わり、ってことでね。…もっとも、結果は訊くべきじゃねーようだけど。」
「…そう…思うなら…わざわざ…言わないでほしいな…。」
やたらと豪勢な装飾のベッドに腰掛ける舞さんが、傷心を隠さず文句を垂れた。





ティグラーブの屋敷に来てから1時間と少しが経過し、現在の時刻は午後12時10分。
空き部屋での看護役を引き受けた魅月さんから、舞さんが9割方快復したと知らせを受け、全員で押しかけていた。
「それにしても、何で弟くんの捜索願出さねえのよ?やっぱこっちでも、警察って当てにできねえ感じ?」
「…そういう…わけじゃ…なくてね…。」
舞さんがゆっくりと首を横に振る。
「…魔界の…警察って…もう…ほとんど…いないの…昔…ディザーっていう…やつに…潰されたんだって…。」
「…ディザー、か…。」
独り頭の中で考え事をする暇もなく、話は続く。
「そのディザーを封印したら、今度は自警団でもいれば十分ってくらい平和になったし、どうせ資金やら人材やらもろくにねーしってことで、復活した警察ってのはいねーみたいよ。」
「…ラムバルガ…っていう…街は…今でも…警察が…しっかり…動いてる…らしいけど…街中だけで…手一杯…みたい…。」
「なるほど…それじゃ、自分で捜すしかない訳だな。」
「しかし、目まいなんか患ってて捜しに行くなんて、凄いですね…。」
「…そんなの…当たり前…だって…大事な…弟だから…。」
ごく小さな呆れと最大限の驚嘆を吐露すると、舞さんは頬を染めつつも率直に語った。
「へえ〜。弟想いのいいおねーさんだな〜、舞ちゃんは。」
「…ふふ…それほどでも…あ…ティグラーブさん…弟の…目撃情報…あったら…聞かせて…くれるかな…?…お金は…その…後払いで…お願い…できたら―」
「…マイ、そのことなんだけどね。」
ティグラーブは、俺達との賭けの話をかいつまんで伝えた。
永世中立を放棄したゆえ、もう来る者を拒まぬ情報提供はできないという事も。
「…そんな…。」
「…けど、ランジン達の仲間になるなら、これからも目撃情報探してやって構わねーわよ。料金なしでね。」
「…え…?」
この世の終わりと言わんばかりに血の気を失った舞さんに、ティグラーブはすぐさま取引を持ち掛けた。
「おい、ティグラーブ。勝手に話を…。」
「ああ、こいつが役に立つかって心配なら、いらねーわよ。」
ティグラーブは魄測計で舞さんを撮影すると、俺の手に押し付けて来た。
「…っ!?」
声にならない声をこぼしたきり、硬直した。
「どうした、風じ―」
続いて画面を覗いた兄達も、同様に言葉を失ってしまう。





舞さんの魄力値は、26万と表示されていたのだった。





「…信じられねエ…何て腕前してンだ、アンタ…。」
全員揃って10秒ほど黙り込んだ末、ようやく天城がそれだけを呟けた。
「魔界には封殺者(ふうさつしゃ)っていう、敵の命を奪わず行動の自由だけを殺すって戦い方する流派があるんだけどね。マイの親父がその創始者なモンだから、こいつ随分としごかれてんのよ。」
「…父さんの…修行…きついけど…おかげで…そこそこには…なれた…かな…。」
「こうやって謙遜してやがるけど、もうあとちょっとで父親を超えるだろうって言われてるわ。次代最強の封殺者ってことで、割と有名人よ。」
「…世の中って…ほんと…大げさだね…私…まだまだ…未熟なのに…。」
恐縮しきりな舞さんの魄力を、密かに探ってみた。
確かに平時にも拘わらず、かなりの力を秘めていると感じられる。今の俺達では6人全員で掛かっても、1分と持たずに倒されてしまうだろう。そんな彼女を味方に付ければ心強いのは、言うも更なりだ。
だが、出会ったばかりでまだまだ素性を知らないに等しい相手。行きずりの縁で少しばかり助け合うだけならともかく、長い旅路まで共にして良いものだろうか。
そもそも舞さんにしてみれば、俺達を味方に付けても旨味は少ない。何せカオス=エメラルドを巡る戦いとなれば、命に関わるのだ。弟捜しに協力者が付く程度では、まるで利益が釣り合っていない。
「…どうする?僕達と、手組むか?」
期待や無理強いはしないがと遠慮がちな表情や声音で示唆する兄に、舞さんはすぐさま土下座した。
「…みんなの…カオス=エメラルド探し…手伝います…!…だから…私の弟を…一緒に…捜してください…!!」
「そっかそっか〜。いや〜、美人に頼まれちゃ、イエスとしか言いようがねえな〜。」
「私達の賭けのせいで、御迷惑をお掛けしてしまいましたね…お詫びも込めて、弟君の捜索をお手伝い致します。」
「旅は道連れ世は情け、ッて言うしな。よろしく頼むゼ。」
紅炎さん、魅月さん、そして天城に相次いで快諾され、舞さんは弾かれたように顔を上げた。
口元が緩んでおり、喜んでいるのが如実に窺える。
「…じーっ…。」
ちなみに約一名、言葉で表すのも憚られる面持ちで舞さんの巨大な胸を凝視する女子がいたが、特に誰も触れなかった。
「…本当に、良いんですか?カオス=エメラルド探しになんか、首突っ込んで…。」
「災厄の刃(クラディース)のディザーとかいう奴ともやり合う事になるぞ。最低でも魄力250万はあるらしいけど、それでも一緒に来るか?」
「…大丈夫…ディザーより…強く…なっちゃえば…いいんだもん…元々…封殺者として…ディザーを…ずっと…野放しには…できないって…思ってたし…。」
どこかで聞いたような勇ましい決意を語りながら、舞さんが徐に立ち上がる。
こうして見てみると身長もかなりのもので、年少者や同性はおろか、兄や紅炎さんよりも僅かに背が高かった。
「…それに…助けてもらった…お礼…もっと…ちゃんと…したいしね…。」
いくら長く艶やかな黒髪で両目が隠されていても、話の中身と顔の向きで、自分が真っ直ぐ見詰められているのが嫌でもよく分かってしまう。
邪気を感じさせない微笑みまでおまけされ、思わず視線を外した。
「…やっぱり…会った…ばっかりだから…信用…できない…?」
「あ、いえ、そんな事は…難儀な戦いなんで、手を貸して貰えるなら凄く助かります。」
悲しさや寂しさを伴った声で図星を指され、咄嗟に場を取り繕う。
勿論、兄より上を行く使い手に牙を剥かれたらとの懸念は大きいが、それこそ舞さんより強くなっておけば問題ないと結論付け、彼女を迎え入れる事にした。
「…じゃ、話は決まりか。」
「みたいね。それじゃ、マイ。テメーもしっかり活躍しやがりなさいよ。」
「…もちろん…!…みんな…ありがとう…!」
仲間入りを認められ、舞さんは深々とお辞儀をして来た。
「…改めて…水川舞です…これから…よろしくね…!」
「おっ、ご丁寧にどうも。俺様、陽神紅炎ってんだ〜。良かったら、下の名前で気安く呼んでね〜。」
「魅月麗奈と申します。宜しくお願い致しますね、舞さん。」
「天城駆ッて者(モン)だ。よろしくな。」
「ボク、雪原氷華っていいます。…水(みず)さんみたいなやらしいカラダじゃないけど、一応女同士だし、仲良くしてくださいね。」
「…え…?…私…そんなに…えっちぃ…身体かな…?」





首を傾げた舞さんはつと、自分で自分の胸を揉み始めた。





頭では脂肪の塊に過ぎないと思っても、量感たっぷりの球体が瑞々しく変形する様は大迫力。





幾人もの男の目がある中で何の気なしに危うい仕草を披露してのける無防備ぶりへの仰天も手伝い、またもや誰もが釘付けにされていた。





「…うーん…胸…大きい…だけだし…別に…えっちく…ないと…思うけど…。」
「…ぐ…っ…!!!!!」
自ら打ち明けたコンプレックスを気遣われるどころか刺激された氷華は、歯を食いしばり、右手を握り締めて、身を震わせる。
それは、舞さんに悪意など露とないゆえぶつけ所のない怒りを自分の内側に封じ込めんとする、孤独な戦いであった。
「…あの。こいつ色々と気にしてるんで、あんまり煽らないでやってください…。」
「…え…?…あ…!ご、ごめんなさい!!その、煽ろうとしたわけじゃなかったんだけど…。」
勢い良く頭を下げ、動転を露わに釈明しようとする舞さんを、兄が無言で制止した。
悪気がなかったにせよ、事実として氷華の精神を痛めつけた張本人が何を言おうと、火に油を注ぐ結果にしかならないとの判断だろう。
「…こっちも名乗っとくぞ。僕は、蒼空嵐刃。こいつは、弟の…。」
「蒼空風刃です。改めてよろしくお願いします、舞さん。」
兄と俺が名を告げると、舞さんは壊れた機械の如く固まった。
「…おい、どうかしたのか?」
「…あ…いや…みんな…変わった…名前で…覚えやすいな…って…。」
「ああ、それか…昨夜、ティグラーブにも同じこと言われたな。」
慎重に言葉を選んだ舞さんの返答に、兄が苦笑した。
「はは。実際このメンツ、おかしな苗字ばっかりだもんな〜。」
「蒼空、雪原、陽神ッてのが特にな。…あア、月アネゴのとこもあのややこしい魅ッて字で『魅月』ッてンだから、変わッてるには変わッてるか。」
「あはは、ややこしいですか…自分では他の御宅と重複しない字なので、気に入っているんですけどね…。」
珍名話に花を咲かせる仲間達も、それを間近で傍観していた俺と氷華も。





「…マイ。一応念を押しとくけど、余計な事喋るんじゃねーわよ。」
「…うん…分かってる…。」
すぐ後ろの、まるで声を潜めていなかったティグラーブと舞さんの会話に、気付きはしなかった。
posted by 暇人 at 15:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼8 漆黒の海姫1

「うわー!キレイなところだね!」
開けた泉を目にするなり、氷華がはしゃぎ出した。
溜まった水は、これ以上ないほどに澄み切っている。面積はかなり広く、雑に見ても直径50メートル程はあるだろうか。水深もかなりの深さで、言わずもがな迂闊に入れば危険である。
しかし何よりもの驚きは、太陽光のはね返りようだった。まともに水面を眺めるのも憚られるばかりの眩さが、周囲を覆う小規模な森にまで届いているのだ。
泉がこうして太陽や月や星の光を派手に反射するゆえ、天候に恵まれる限り昼夜問わず明るい一帯。
そのため湧き水は「白夜の泉」、木々の群れは「沈まずの森」と呼ばれているとティグラーブから聞いたが、言い得て妙だと感じ入るばかりだった。
「カオス=エメラルドの欠片は、こちらにあるとのお話でしたが…。」
「…お。あれじゃねえの〜?」
紅炎さんが、右手の人差し指で水底を示した。
つられて見やると、確かに鈍い緑色の光を放つ石ころが沈んでいる。
「あちゃー…思い切り沈んじゃってますね…水の外にあってくれれば、カンタンだったのになぁ…。」
「しょうがねエ、潜るとするか。魄力引き出せば、息も持つだろ。」
「大丈夫だよ、駆君。」
上着を脱ごうとした天城を、兄が止める。
「そんなめんどい事しなくたって、愚弟が風起こして巻き上げれば済むからさ。」
「てめぇでやるって選択肢はねぇのか。」
「めんどいからな。」
「…その内、息するのも面倒臭がってくたばりやがれ。」
「何だと貴様。」
「はい、2人ともストップ!しょうもないケンカしてる場合じゃないでしょ!」
「ヒョウ嬢が言うと、妙な気分だな〜…。」
紅炎さんが、苦笑いしながら呟いたところ。





泉の対岸から発砲音と、複数の濁り切った叫びが響いて来た。





「あれ、邪鬼(イヴィルオーガ)の声だよ!」
「ヤロー共、誰か襲ってやがるな!」
「…人間界でも魔界でもふざけた連中だ…すぐに吹っ飛ばしてやる!!」
「こら、風刃!勝手に―」
兄の制止を、耳には入れない。
木刀を握って背中の翼を広げると、水上を一直線に突っ切った。










「…はあっ…はあっ…うっ…。」
6体の邪鬼(イヴィルオーガ)の群れに追われていたのは、非常に長く黒い髪をした若い女性だった。
おぼつかない足取りながらも何とか走っていたが、ふいに力尽き、うつ伏せになってしまう。
そこに、6体の邪鬼(イヴィルオーガ)の群れが追いついた。
肌は桃色、赤色、土気色、黒色、緑色、そして黄色とバラバラだったが、皆一様に血液の如く赤いジャケットと、暗闇の様に真っ黒なパンツを身につけている。
「ねエ、お姉さン。いい加減、素直に話してヨ。大人しく口を割れバ、コっちだっテ別に危害は加えないからサ。」
桃色の邪鬼(イヴィルオーガ)から詰め寄られたものの、黒髪の女性は荒い息を吐き、横たわっているだけだった。
「…何モ言わネえってコとは、オれたちニ話すクラいなら殺サレた方がマシってわケか。」
長身で筋肉質な黄色の邪鬼(イヴィルオーガ)は5秒ほどでそうぼやくと、上着の懐から一丁の拳銃を取り出した。
「だッタら、望ミ通りにしテヤるよ!!」
黄色い邪鬼(イヴィルオーガ)は黒髪の女性の後頭部に狙いを定め、引き金を引いた。
射出された鉛玉は、瞬く間に目標との距離を詰めて行く。










「疾風牙(しっぷうが)!!」





しかし相手は所詮、大した魄力を持たない代物。





俺が軽く木刀を振るって放った風の弾丸1発で、呆気なく粉々になった。





「何…!?」
「誰ダ、オ前!?」
「てめぇらみてぇなクズ共に、名乗ってやる義理はねぇな。」
倒れ込んだ黒髪の女性を背に着地し、木刀の峰を自分の右肩に乗せた格好で嫌味をぶつける。
「てめぇら、何でこの人を追いかけ回してやがる。この人が何かしたのか?それとも、単にいたぶりてぇだけか?」
「ケケ…こいツは、報復っテやつサ。何せこノ女、前にセっかクの人質を―」
「余計なこト喋るナ、ビルク!」
「イてエ!」
黄色い邪鬼(イヴィルオーガ)が、緑色の個体の頭を左手で思い切り小突いた。
「マったく…テメえは口が軽くていけネえ。」
「アだだ…何も叩くコとねえダろ、シクロス…。」
「…人質…てめぇら、誰かさらいやがったのか!」
「フん。名前も名乗ラねえ礼儀知らズのガキに、口を割っテやる義理はネえ。そこノ女と一緒に、地獄に行っテな!!」
黄色い邪鬼(イヴィルオーガ)―シクロスが、俺の心臓を目掛けて銃を構える。





だが、シクロスは銃撃を実行できなかった。





こちらが至近距離に踏み込み、腹部目掛けて風を宿した木刀を打ち込む方が、遥かに速かったから。





「ガ、っ…グアアアアアーーーーー…!!!!!」





シクロスは紙屑の様に容易く吹き飛び、沈まずの森の外へと消えて行った。





「ゲ…こんなバかナ…!」





「シクロスが、タった一発で…!」





仲間の脱落に、残った5体の邪鬼(イヴィルオーガ)は狼狽するばかり。





「風翔斬!!」





「「「「「ウアアアアアーーーーー…!!!!!」」」」」





隙だらけのところに風の斬撃を見舞うと、あっさりと片は付いた。





「…ふん。霞の奴との修行も、無駄じゃなかったってことか。」
「―それはそれとして、何か反省する事は?」
些少面白くない気分で独り言ち、木刀を腰に差した時、兄が現れた。
余分な言葉がなくとも、腕組みした姿と鋭利な眼光から、俺の単独行動に怒っているのがありありと見て取れる。
「か〜、ダメだ〜!やっぱ空飛んで行かれたら、間に合いやしねえわ〜!」
「あーあ、急いで走って来たのにな…。」
幾らか遅れて、紅炎さんや氷華達も到着した。
「コラ、蒼空よ!仲間(ツレ)を放ったらかしとは、随分なマネしやがるじゃねエか!」
「…悪かったよ。」
拳を鳴らす天城に、すぐさま頭を下げて謝罪した。
良かれと思っての行動だったが、独断専行で仲間達を振り回したのは非難を免れようがなく、また赦されるべきでもない。
「邪鬼(イヴィルオーガ)なんかのために二度と死人を出したくねぇって思ったら、また…勝手な事やって、済まなかったな…。」
「風くん…。」
「…まあ…今回は、お前にしちゃよくやったって言っとくよ。」
「…どうも。」
無傷の俺と黒髪の女性を一瞥してから、憤りと安堵が混ざった様な面持ちで視線を外す兄に、ごく短く応じた。





「さて、そこのお姉さん。ちょっと、話聞かせてもらえねえかな?」
寝込んだままの黒髪の女性に、紅炎さんが呼び掛ける。
「待てよ、ダンナ。銃でやられてるかもしれねエし、月アネゴに診てもらおうや。」
「…だい…じょうぶ…どこも…撃たれて…ないよ…。」
黒髪の女性が、緩慢な語り口で告げる。
「…私…めまいが…してて…倒れた…だけだから…。」
体勢を仰向けに変えると、またも息が乱れる。
その顔はさぞや苦悶に歪んでいることだろうが、統率感のあるロングヘアで両目が隠されているため、表情の全貌は分かり辛かった。
後ろ髪もかなりの量で、先端が腰まで届いている。一目で扱いの面倒臭さが窺い知れるが、陽光を受けての艶やかな煌きを見るに、日頃から丁寧に手入れをしているようだ。
身体を包むのは、黒一色のドレス。生地は上等で高級感があるが、無地な上に露出度が低く、一見すると喪服と見紛う。ドレスとの対比で一層美しく思える色白の肌も、顔と首元と両手しか陽の目を浴びていない。
ただしそんな地味な衣装でも、彼女の胸の存在感ばかりは隠しようもなかった。
(…でかい…。)
人の頭を易々と包み込めるまでの大きさに、男女問わず視線を吸い寄せられてしまう。
特に紅炎さんは堂々と楽しむように、氷華に至っては嫉妬や羨望や憎悪や絶望が混在した面持ちで、グラビアアイドルと比較しても何ら遜色ない造形美を凝視していた。
「…あの…木刀…持ってる子…邪鬼(イヴィルオーガ)…やっつけて…くれて…ありがとう…。」
「あ、いや…お気になさらず。大した事はしてないですから…。」
眩暈に苛まれながらも微笑んだ女性の謝辞に、ひたすら謙遜する。
「…何か…お礼…できれば…いいんだけど…。」
「いえ、本当に結構です。俺達、カオス=エメラルド探しで偶然近くに来てただけなんで。」
「…カオス=エメラルド…?…あなたたち…そこの…欠片…拾いに来たの…?」
「ん、まあな。」
「…なら…ちょうど…よかった…あの欠片…私が…出すね…。」
黒髪の女性が右手を正面へ伸ばし、魄力を解放する。





直後、泉に波紋が立ち、次いで巨大な水柱が上がった。





「どわ〜!すげえな〜!」
「…お前、水使いなのか。」
黒髪の女性が無言で頷いた頃合で、カオス=エメラルドの欠片が水底から引き摺り出され、俺の足元へ転がって来た。
それを確認した女性が手を下ろすと、水柱もたちまち崩れ、泉へと還って行く。
これまで集めたカオス=エメラルドの欠片を近づけたところ、2つの石は共鳴するように光を増した。
互いを接触させ、合体を完了させる。
「よし、これでまた一歩前進だな。どうも、わざわざありがとうございま―」
「…う…っ…。」
俺が礼を述べ切る前に、黒髪の女性が苦し気に喘いだ。
「わっ!大丈夫ですか、お姉さん!?」
「…ちょっ…と…いや…けっこう…きつい…かも…。」
「魄力を使った反動で、眩暈が悪化してしまったようですね…。」
「全く、もう…自分の体調位、ちゃんと考えろよな…。」
「…ごめん…なさい…。」
勢いで非難を垂れた兄が、ばつが悪そうに右頬を掻いた。
「…なあ、お姉さん。俺ら、ファラームって街に戻らなきゃなんだけど、良かったら送って行こうか?」
「…え…?…すごい…助かる…でも…いいの…?」
「…まあ、しょうがないわな。こんな状況でさよならっていうのも、寝覚め悪いし。」
「こうしてお目に掛かったのも、きっと何かの御縁です。短い道中ですが、御一緒致しますよ。…氷華さん、御協力頂けますか。」
「はい!」
魅月さんと氷華が黒髪の女性の両隣に付き、彼女の身体を支える。
「…何から…何まで…本当に…ありがとう…!」
女性は大人しくも感激が明白な声で、感謝を語った。
posted by 暇人 at 15:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

2023年04月19日

【2023年4月追記】飛躍の翼 夜半の警鐘 後書き

やっぱり久しぶりに、夜分遅くに今晩は。
暇人なのに色々と用事をこなせずにいる、『暇人の独り言』管理人です。





用事をこなせない最大の理由は、単純にうっかりしているから。
我が事ながら、何とも情けないボケっぷりです…

…ちなみに、究極にどうでもいいことを呟くと、管理人はこんなザマでも20代。











さて、またもや久しぶりになった今回の更新では、拙作『光の翼』の後書きをお届けします。
誰も待っていなかったとは思うけれど、趣味でやっていることなのでその点は気にしない。










この回ではティグラーブから色々な情報を聞いたわけですが、中でも特に重要視してもらいたいのは勿論、ディザーなる男の話。
まだまだ名前しか出していませんが、こいつこそ拙作における最大にして最強の悪役です。



カオス=エメラルドも狙っているためいつかは倒さなければならない相手ですが、数値にして20万にも満たない程度の魄力しかない風刃達に対し、ディザーは少なくとも250万





10倍以上の実力差があるディザーに、風刃達はいつか勝つ事ができるのか?
その行く末を見守っていただけると、嬉しい限りです。
できないとキャラクター達も作者も困るけど










ちなみにディザーの兵団「災厄の刃」ですが、実際の読みは「クラディース」と設定しています。



元ネタにしたのは、ラテン語で「災害」を意味する「cladis」なる単語。
…主人公達の名前といい、こういう気取ったネーミングをしていると、自分のセンスも如何なものかとたまに思います(苦笑)
















では、今回の後書きはここまでとします。
実を言うとディザーはまだ本編に登場させていませんが、悪の魅力あるキャラクターにできるよう、描写していくつもりです。















【以下 2023年4月追記】




遅筆で筆不精な『暇人の独り言』管理人にしては珍しく、3日連続で今日は。
現在、拙作『光の翼』の改稿が済んだ部分を急いで掲載しております。


複数のサイトに投げ込んでいると、管理も大変だ。





追記ですが、最初に拙作の掲載を始めた小説投稿サイト「小説家になろう」の方では、2021年にディザーを登場させました。
この後書きを最初に投稿した2019年からは2年、作者が『光の翼』を考え始めた2009年まで遡れば実に12年の時間を掛けて、ようやく形になった訳です。


我ながらつくづく筆が鈍臭い…





読者様から感想等は寄せられていませんが、作者としては最大最強の悪役に相応しい圧倒的な力を描けたはずだと信じています。
…ただ、それを本ブログで御覧に入れられるのは、いつになるのだろうか。
posted by 暇人 at 15:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼7 夜半の警鐘

情報によれば、ファラームから程近くにある「白夜(びゃくや)の泉」と、ファラーム城。そして広大な樹海を抜けた先のスクムルトなる村に、カオス=エメラルドの欠片が1つずつ確認されているらしい。
移動の手間を考えてスクムルトを最後に回し、ファラーム周辺にある2つの欠片を優先しようという事で、目下の方針が固まった矢先。
「もしディザーに出くわすことがあっても、絶対に戦うんじゃねーわよ。何が何でも逃げやがりなさい。」
ティグラーブからの警告に、全員が押し黙った。
「…ティグラーブさん、ボクたちに賭けてくれたんじゃなかったの?」
「テメーらの将来に賭けたから、今不用意なマネしてもらっちゃ困るって話をしてんのよ。」
「…今の俺等じゃディザーって奴には勝てねえ、っつーわけね?」
「…残念ながらね。」
僅かに俯いたティグラーブが、言葉少なに返す。
「ディザー、か…強い強いって言うけど、そんなに凄ぇのか?」
「…そうね。こういう話は、数字があった方がいいでしょう。」
酒や文書を収納した棚から、黒く薄い端末機器が取り出された。
「それは…スマートフォンでしょうか?」
「いえ。よく似てるけど、こいつは魄測計(はくそくけい)って機械よ。画面に映したヤツの魄力を数値化できる機械でね…。」
「魄力を数値化だと!?すげエじゃねエか!!」
「わっ、ビックリしたぁ!なに急にテンション上がってるのさ!」
「オイ、ティグラーブよ!魄力を数値にッて、一体どういう仕組みなンだ!?」
「…ん、ああ。魄力ってモンにも、ある程度の熱はあってね。その温度を元に計測すんのよ。」
ティグラーブから手渡された魄測計に自分を映し、皆が魄力の値を調べてみる。
結果は僕が19万、風刃が18万、紅炎と氷華君と駆君がいずれも17万、麗奈が16万と算出された。
「18万か…俺も結構捨てたもんじゃねぇかもな。」
「そうだな。この超絶天才兄上様の次なんだから、悪くないんじゃないか?」
「けっ、抜かしてろ!絶対追い越してやるわ!」
「はは、楽しみにしててやるよ。…ところで、ティグラーブ。この魄振数(はくしんすう)ってやつ、何だ?」
魄測計を返却しながら、各々の魄力の強さと共に計測されていた数値に触れた。
麗奈が1分間に49回、駆君が76回、他の4人は100回越えとなっているが、それが何を意味しているのかはさっぱり読み取れない。
「…ああ、気にする事ねーわよ。そいつは魄力の強弱と関係ない、どうでもいい数値だからね。」
「バカな。どうでもいい数値をわざわざ測る機械なンざ、作られるかよ。何か意味があるから計測してンだろ?」
「そんな事より、もっとでけー問題がありやがるわよ。テメーらの才能はずば抜けてるけど、今のままじゃディザーのヤローとは勝負にもならねーって、データで証明されちまったわ。」
棚に魄測計を収めたティグラーブが、努めて冷静に言い放つ。
「…幾つなんだ?ディザーって奴の魄力…。」
何とも言い難い重苦しいものを抱えて訊ねると、ややあって回答がなされた。





「…250万。」





「な…!?」
氷華君をはじめとして言葉を失う面々に、しかもそれは復活直後の計測結果に過ぎないと補足が入る。
「最新の魄力値はなかなか裏が取れねーけど、復活から4年も経った今じゃ、またどれだけ強くなってやがるか…。」
「…4年…?」
ごく小さく疑念の声をこぼした風刃を見やったのは、僕だけだった。
「これで分かったでしょ。ヤツとやり合うのは、まだまだずっと先にしねーとならねーってわけよ。」
「…御忠告、重く受け止めます。ところで、そのディザーという人物がどんな格好をしているか、御存知でしょうか?」
「ええ。情報によると中肉中背の50代くらいの男で、褪せた水色と白髪混ざりの頭してやがるそうよ。」
「…ふーん。随分変わった髪のおっさんみたいだな。」
「…ですね。そンな格好してるなら、すぐ分かりそうだ。」
隣席の弟を横目に見ると、些か視線が下がり、目付きが鋭くなっていた。
「ちなみに、もし賭けを白紙にするなら、今しか受け付けねーわよ。よこした情報の倍額払えば、今日の話は全部なかった事に…。」
「言っただろ。誰が相手だろうが、邪魔なら黙らせるさ。ディザーって奴もぶちのめせる位、強くなってやるよ。」
「ふっ、頼もしいじゃねーのよ。…他の連中も、ランジンに賛成で良いのかしら?」
「どんな苦難も背負うつもりで、賭けのお話を申し上げたのです。私達から取り止めをお願いする事などできませんよ。」
「大体、60万も金持ってねエしな…。」
「そこ、余計なこと言わない!」
「…そう。じゃ、今後はお互い撤回禁止ね。」
ティグラーブが、期待と不安の混ざり合った微笑みを浮かべた。





「さて。今の内に言っとく事は、こんなとこかしら。適当に好きな部屋使って構わねーから、これ以上遅くならねー内にとっとと寝やがりなさい。」
誰ともなしに骨董品と思しき壁掛け時計を見やると、時刻は午後10時を回っていた。
「…そうさせてもらうか。じゃ、お先に。」
風刃が真っ先に腰を上げ、挨拶もそこそこに立ち去る。
「…何か風くん、暗くない?」
「…それはいつもの事だよ。」
「いえ…何て言うか、こう…怒ってるみたいな…。」
「あア、そいつは同感だ。ディザーッてヤローより魄力が低くて腹立てた、とかか…?」
「気にしすぎだって、お二人さん。多分ありゃ、疲れただけだろ。魔界に来るなり色々ありまくったもんな。」
「ええ。知らない土地への旅は、自覚する以上に心身を削りますからね。私達も夜更かしは禁物です。」
無言で顔を見合わせた氷華君と駆君は、なおも思うところがある様子だったが。
「…そうか…そうだな。きッと、考え過ぎだ。」
「…すみません、嵐兄さん。ヘンなこと言っちゃって。」
すぐに固い笑顔になり、空々しい納得を示した。
「気にしないでくれ。詫びを貰うところじゃないさ。」
「どうも…それじゃみんな、お休みなさい。」
「うん、お休み。」
「また明日な〜。」
「良い夢を御覧になれますように。」
2人の姿が見えなくなると、僕は小さく息を吐く。
「…悪いな、気を遣わせて。」
「いえ…。」
「フウ坊がその気になってねえのに、俺らがペラペラ喋るわけにいかねえしさ。」
「…でも、どうなんだろうな。確かに今のとこは蒼空家(うち)の問題だけど、もしもそうじゃなくなったら…。」
「こら。若い衆に夜更かし禁止とか言ったそばから、年長者が長々起きてやがるんじゃねーわよ。」
「おっと、いけねえ。話はまたにするか〜。」
「そうですね。それでは嵐刃さん、紅炎さん。今日はこれにて失礼致します。」
「ああ、お休み。」
紅炎と麗奈が席を外したのを見届けてから、ティグラーブに問うた。
「…ところでティグラーブって、人間界の事は詳しいか?」
「いいえ、そっちはほとんど。魔界に関係する動き…それも、よっぽどとんでもねーもんなら、流石に分かるけどね。」
「…じゃ、蒼空家(うち)の事は?」
「…今のとこ、特に話せる事はねーわ。ご期待に添えなくて悪いけどね。」
一時ティグラーブを凝視し、そしてすぐに力の抜けた笑いを漏らした。
「…そうか。分かった。こっちこそ、変な事訊いて悪かったな。」
「いいえ。」
再び小さな息を吐いて、酒場兼賭博場の装いとなっているエントランスを後にした。
我ながら馬鹿馬鹿しい。
物証の1つも伴わない邪推など、的中する筈がないだろうに。
そう、自分に言い聞かせながら。










ティグラーブは銀色のスマートフォンを手にすると、「ヴォルグジイさん」という連絡先を選び、発信した。
「…ああもしもし、ジイさん?ティグラーブだけど。」
「おお、ティグラーブさん。如何なさいましたかな?」
「悪いわね、こんな時間になっちまって。そっちの貨物列車に乗った客が、おいどんの所に来やがったんだけどさ…。」
posted by 暇人 at 14:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

2023年04月18日

【2023年4月追記】飛躍の翼 月華の初陣 あとがき

とてもとても久しぶりに、夕方近くにこんにちは。
拙作の執筆も遅ければブログの更新も途絶えがちな、『暇人の独り言』管理人です。





今さらな説明ではありますが、拙作『光の翼』は管理人が更新のネタに困ったことから、本ブログに掲載を開始したものです。



ところが野暮用に追われてブログもろとも更新が滞っており、気が付いた時にはとうの昔に書き上げている話さえブログに掲載するのを怠っておりました。





振り返ってみれば、これまで最新話であった部分を掲載したのは、3ヶ月前だったようです。
月日の流れの早さは、兎にも角にも恐ろしい。










さて、今回の記事ではそんな拙作『光の翼』のあとがきを綴ることにします。
…誰も待っていないだろうけれど、趣味でやっている独り言なので、需要の有無なんて気にしない。










この度掲載した「月華の初陣」では、魔界の事情に疎い主人公一派が情報戦を有利にしようと、変態情報屋のティグラーブを味方に付けるためのテストに挑みました。





ここでティグラーブとの戦いに臨んだのは、賭けの言い出しっぺである麗奈。
他の仲間キャラクター、それも主役の蒼空兄弟すら差し置いて魔界での初陣を飾り、無事に勝利を収めています。



…しかし今にして見返してみると、「人間界でまともな戦闘描写がなかった麗奈より 蒼空兄弟や氷華や紅炎が戦った方が 成長が分かりやすかったかな…」とも思いました。


もっともそうしていたらそれはそれで、賭けを提案したのは麗奈なのにテストは他のキャラが担当になってしまっていたわけですが…



創作をやっていると、色々な所で悩まされる。















ともあれ、晴れて情報屋のティグラーブから協力してもらえることになった風刃達。
後は彼の情報網を頼りに、カオス=エメラルドの欠片を集めるのみです。



…などと簡単に行けば嬉しいところですが、そうは問屋が卸しません。
魔界には、非常に危険な悪者共が居座っているのだから…





次の話では、ティグラーブからその危険な悪者の情報を聞くことになります。
内容に衝撃を受けてもらえれば、作者として嬉しいところです。


…でもこれこそ、そうは問屋が卸さないか?










それでは、また次の記事を閲覧していただけることを願いつつ、今回はこれにて失礼致します。















【以下 2023年4月追記】




夕方になる前に、今日は。
何故かやたらと鼻をかみまくっている、『暇人の独り言』管理人です。


元々耳鼻科との縁が切れない位には耳も鼻も悪い男だけど、もしかして実は花粉症だったのだろうか?










それはともかく有言実行の管理者であろうと、うっかり忘れたりしない内に、拙作の改稿版をねじ込んでみました。
明日からもこの調子で、残り5話分を掲載予定です。





…ちなみに今回掲載した改稿版の内容については、「無駄な部分を省いた」以外本当に言う事がないので、ここでさっさと終わりにします。
我ながら、何の追記だったんだろう。
posted by 暇人 at 15:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼6 月華の初陣

雲一つない星月夜の下、麗奈とティグラーブは対峙した。
「そんじゃ頼むぜ、魅月嬢。」
「あれだけ大見得切ったんだ。絶対負けてくれるなよ。」
「はい!」
紅炎や僕の声援を背に受けながら、麗奈は木製の薙刀を構える。
「ルールは単純に、先にぶっ倒れた方が負けってことにしましょう。良いわね、レイナ?」
「承知しました。―では、参ります!」





開戦早々正面から突っ込んだ麗奈が、光を宿した薙刀でティグラーブの面を打ちにかかる。





「ふんっ!」





苦も無く命中すると思われた一撃は、ティグラーブの足払いに邪魔立てされた。





麗奈自身は後方へ跳んで難なく避けたものの、素早く接近して来たティグラーブに背後を取られてしまう。





握り拳に固められた右手は魄力に加えて、妙な圧力も帯びていた。





「くらいやがりなさい!」





麗奈は機敏に振り向き、ティグラーブの殴打を薙刀で防いだ。





「まだまだ、こんなもんじゃねーわよ!!」





ティグラーブの攻勢は緩まず、矢継ぎ早に拳が繰り出される。





対する麗奈の守りも堅固で、戦況は膠着するかに見えたが。





「…うっ…!」





程なくして、異変が生じる。





麗奈が苦しげに呻いたと思うと、両手をだらりと下げてしまったのだ。





「月アネゴ!?」





自然、握られた薙刀も降下する。





切っ先が触れた地面は、さながら重量武器で叩き付けたかの様に、深く陥没した。





「スキあり!!」





ティグラーブが振り下ろした渾身のパンチを、麗奈は薙刀を引き摺るようにしながら、すんでのところで逃れる。





ただ、彼女の代わりに直撃を受けた地表は、巨大な岩にのしかかられた如く圧し潰された。










「うわぁ…!あんなのまともにくらったら、全身つぶされちゃうよ!」
「やっぱり、油断できねぇ奴だな…。」
氷華君や風刃が動じる通り、ティグラーブの力は当人の自己申告よりも幾分か強い。
「けど、魅月嬢にも十分勝ちの目あるぜ〜。」
「ああ。」
動きを鈍らせられてもなお強烈な拳をかわせたのは、麗奈の身体能力がティグラーブより上を行っている証。
ならば攻撃さえ当てれば、それで雌雄は決する。










「…ティグラーブさん…重さを変える魄能をお持ちのようですね…。」
「ええ。おいどん、重力をいじれるのよ。直径20メートルの範囲内で、だけどね。」
掌を下に向けると、夥しい石が浮遊する。
大小様々のそれらはティグラーブの右手が真っ直ぐ伸ばされるや、一斉に麗奈へと襲い掛かった。
「く…うっ…。」
半ば根性で薙刀を振るって石の大群を退けようとした麗奈だったが、絵に描いた様な多勢に無勢であり、加重された武器を操るのも重労働。
その場に留まり、身を固めるほかなくなるのは、あっという間だった。
「あら、もう打つ手なしの防戦一方かしら?」
麗奈の瞳は変わらず闘志を燃やしているが、その口から反論は飛ばされない。
「…残念ね。そんな有様じゃ、賭けるどころじゃねーわよ!」
ティグラーブは麗奈に向けて、開いた両の手を突き出す。





すると暗い紫色をした球状の空間が現れ、地面諸共、麗奈を覆った。





「うっ…く…ああああああああ…!!!!!」










「魅月嬢!」
現れた空間は地響きのような音と共に、麗奈を攻め立てる。
「ぐ…ッ…!」
「けっこう…はなれてるのに…!」
外部にいる僕達にすら、それなりの重圧が届く。
ましてその内部では、渦巻く力は比較にもなるまい。
「…勝負あり、か?」
「あの技で、麗奈が潰されたらな。」
浮かない表情の弟に、ごく端的に応じる。










「聴こえてやがるかしら、レイナ!?とっとと降参しやがりなさい!こいつの中で叫ぶしかねーようじゃ、すぐにくたばっちまうわよ!」





「…そういう…訳には…参りません…!」





「テメーね…!強がってる場合じゃ―」





ティグラーブが声を荒げかけた時、球状空間に複数のヒビが入り、眩いほどの純白の光が何条も溢れ出す。





それらは一層輝きを増すと、次いで爆風の如き衝撃を起こし、ティグラーブの技を粉砕した。





「そんな、おいどんのクラッシュワールドを…はっ!」





脱出を果たした麗奈は、呆然とするティグラーブに一瞬で詰め寄った。





「月華閃!!」





光を灯した薙刀で喉元を突かれたティグラーブは小さく宙を舞い、そして静かに墜落した。















「ふふ…やりやがるじゃない、レイナ…。」
自分を倒した相手の治療を受けながら、仰向けのティグラーブが呟く。
「まさか一撃でぶっ倒されちまうなんて思わなかったわ…おいどん、頑丈さには自信あったんだけどね…。」
「ティグラーブさんがほんの一瞬動揺されていたお蔭で、このような結果になったのです。もしも私が脱出した直後に次の攻撃を受けていたら…。」
ふっと、寂しげな笑いが漏れる。
「お情けでくだらねー謙遜してんじゃねーわよ。とっておきがまともに当たってほとんどダメージなしじゃ、何発食らわせても結果は同じだわ…。」
麗奈は言葉を紡げない。
軽すぎる怪我しか残っていない身体が、圧勝を物語ってしまっていたから。
「…ティグラーブさん…。」
「こら。勝ったヤローが、シケたツラしてんじゃねーわよ。」
ティグラーブにごく軽く頭を小突かれた麗奈が、気まずそうに患部を撫でた。
「おいどん、感心してんのよ。ほとんどズブの素人状態からほんの1週間修行した位でこれだけ強くなったなんてすげーわ、ってね。」
「ま、それだけ才能がずば抜けてるって事だな。」
「いちいち天狗にならんと気が済まんのか、てめぇは…。」
「いえ、ランジンの言う通りよ。だからおいどん、この通り惨敗だった訳だし。」
ティグラーブの声音にも面持ちにも、悔しさは微塵もない。
むしろ、清々しさが溢れていた。
「ふふ…一か八か、テメーらに付き合うのも面白そうだわ!約束通り、今後に期待してやるわよ!」
「賭けの話、乗ってくれるんだな。じゃ、これからよろしく頼むぞ!」
「ええ、こちらこそ。しっかり活躍しやがりなさいよ!」
かくして魔界進出初日ながら、強力な仲間を得た。
posted by 暇人 at 15:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼
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