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2023年10月11日

光の翼 飛躍の翼15 手柄の行方2

レジリス村を出て、早くも寒さが緩み出した頃。
「もう、放してよおばさん!」
左腕の中でもがくユナの抗議に、メイルは思わず噴き出した。
「誰がおばさんだい、この小娘!あたしはまだ21だよ!」
「えっ、ウソ!?絶対サバ読んでるでしょ!その顔なら30歳くらい行ってるはずだよ!」
「30なんかなってない!!21だって言ったら、21だよ!何なら、調べてみたらどうだい!」
「…何言ってるの?」
「その妙な身なり、ジャボンの出なんだろ!情報収集なんかお手の物だろうから、好きに調べろって言ってるのさ!」
冷や汗を浮かべながらも強いて微笑んでいたユナだったが、ついに動揺を露わに黙り込む。
「…どうして、ジャボンのこと…私達の隠れ里なのに…。」
「前に、ジャボンを出て行った奴に出くわしたことがあったんだよ。」
「え、抜け忍さんに?」
「そう。そいつが何ともお喋りな男でね。部外者相手に古巣のことをあれこれバラしてくれたのさ。」
「ん?でも、何でおばさんが―」
「はい??」
怒気に満ちた笑顔で威圧され、ユナは震えながら訂正する。
「…お姉さんが、その抜け忍さんに会ったの?」
「仕事だよ。町中で盗みやらケンカやら繰り返すそいつを力づくでもとっちめてくれって頼まれてね。ちょっとばかり黙ってもらったんだ。」
「抜け忍さんは、その後どうなったの?」
「縛り上げて依頼人に引き渡したきりだから、あたしには何とも。でも今にして思えば、もし依頼人がジャボンの関係者だったら、始末しちまってるかもね。そのヌケニン曰く、悪さしない限りは脱走者にも優しいけど、やれば最後どんなセコい罪でも容赦ないのがあんた達だそうだし?」





「待てって言ってんだろうが、コソ泥野郎!!!」




いつしか足を止めて話し込んでいたメイルに、翼を広げた風刃が追い付いた。
「くっ、しょうもない話してたばっかりに…あんたまさか、これを狙ってたんじゃないだろうね?」
メイルから恨みがましく睨まれるが、ユナは軽く右手を振って否定する。
「私にしてみたら、どっちに捕まっても同じことですし。」
「あ、そりゃそうか。」
「呑気にペラペラ喋ってんじゃねぇ!!人の獲物横取りしやがって、痛ぇ目見る覚悟はできてんだろうな!!」
憤怒の形相で吠える風刃を前にしても、メイルは動じない。
「小娘、大人しくしてなよ。この期に及んで逃げ出したりしなきゃ、あの坊ちゃんがやったみたいな痛いことはナシにしてやるからさ。」
やや怯えた様子のユナを徐に下ろし、風刃に向き直る。
「坊ちゃん。コソ泥呼ばわりなんてあんまりじゃないかい?元々この仕事、どっちが先に小娘とアルス王子を城に連れて行くかの勝負じゃないか。たまたまあたしが横取りする側になっただけで、もしかしたらあんた達がコソ泥だったかもしれないんだよ。」
「くだらねぇ理屈抜かすな!!ぶちのめされたくなかったら、とっととその馬鹿女を返しやがれ!」
「そっちこそ、余計なケガをしたくなかったら退いちゃくれないかな。あんた達はカオス=エメラルドの欠片がお目当てらしいし、賞金は譲ってくれても構わないだろ?」
「いくら狙ってねぇ物でも、コソ泥によこすってのは聞けねぇ相談なんだよ!!」





風刃は素早くメイルの背後に回ると、烈風を纏った木刀での右薙を見舞いにかかった。





だがメイルは機敏に振り向き、大剣を盾代わりにして攻撃を防いでみせる。





「ちっ…!」





風刃は強引に押し切ろうと力むが、メイルの守りも固い。





明白に震えてはいるものの、突き崩すには至らない。





「やるね、坊ちゃん…手にビリビリ来たよ…相当、鍛えてるんじゃないのかい…?」
「みっちり修行したのは、1週間位だけどな…!」
「本当かい…?そいつはすごいね…!師匠がいるのか我流なんだかよく分からない動きだけど、どっちにしろ1週間ぽっちの鍛錬でこれだけやれるなんて、並じゃないよ…!」
「けっ…余裕のつもりか…!」
「ふふ…余裕なんか、全然ないさ…それでも、あたしは負けられないってだけだよ!」





メイルは大剣を盾代わりにした体勢のまま、体当たりを放つ。





「ぐあっ!」





胸に直撃を受けた風刃は、勢いよく弾き飛ばされた。





「衝(ショウ)!!」





左手で患部を押さえる風刃にも、メイルは追撃の手を緩めない。





大剣を横薙ぎに振るい、空を裂かんばかりの強力な衝撃波を放った。





「く…風翔斬!!」





空中で体勢を整えた風刃は木刀を振り下ろし、メイルの撃った衝撃波を風の斬撃で押し止める。





両者の勢力の差は僅かな物で、随分と激しく競り合っていたが、終いには風刃が衝撃波に飲み込まれた。





「ぐっ…うわああああああああ!」





風刃はレジリス村の西部に広がる林へと吹き飛ばされていった。





「…ふう。ひとまず何とかなったかな?」
「…すごい…あの人をこんな簡単に…。」
「簡単なもんか。あの坊ちゃん、想像以上の腕だよ。かなり弱く見積もっても、あたしと互角くらいは十分ある。ケガしたくなかったらなんて大口叩いちまったけど、今の一撃じゃ、かすり傷がいくつか付けば大勝利ってとこかもね…わっ!!」





僕は模造刀を引き抜きざまに右薙ぎを叩き込んだが、脊髄反射のような速さでかわされた。





「ちっ。つくづくガタイと格好の割にはすばしっこいな。」
空いた左手で頭をかきながらぼやく。
厳密には完全な空振りでもなく、メイルの前髪を数本散らせてはいたが、それ以外にダメージは見受けられない。
「くっ…団体さんの揃い踏みかい。こいつは参ったね…。」
「おっと、誤解してくれんなよ〜?安いチンピラじゃあるまいし、6対1なんてダサい真似しやしねえぜ〜。」
開き直ったようなメイルの微笑みが、紅炎の一言で驚き一色に染まる。
「愚弟が世話になったみたいだし、僕が相手しよう。お前が勝ったら、誘拐犯もアルス王子も好きにして良いぞ。」
「へえ。あたしにはありがたい話だけど、お仲間さん達は構わないのかい?」
「…まア、仕方がねエさ。」
「悔しいけど風くんを押しのけるような人、今のボクらじゃどうこうできないしね。嵐兄さんでも勝てなかったりしたら、なおさらだよ。」
「…あの…私…。」
小さく挙手する舞を、確かに舞さんに戦って頂くのが一番ですが、と麗奈が止める。
「ここは嵐刃さんに譲って差し上げて下さい。こうした状況を他人に任せる方ではありませんから。」
「…ほほう…なかなか…ぶらこんな…お兄ちゃんの…ようですな…。」
「お前、先に斬られたい?」
「おやおや。内輪揉めしてる場合かい!?」





メイルが正面から振り下ろして来た大剣を、模造刀で受け止める。





鍔迫り合いが長引きそうになったところで後退して体勢を崩させると、右切り上げを浴びせた。





「うっ!」





「天嵐断(てんらんだん)!」





続けて強烈な風を付与した唐竹割りを見舞うが、こちらは横に跳んで回避される。





「烈(レツ)!!」





メイルは大剣を地面に叩き付け、地を這う衝撃波を繰り出した。





「これ、さっきも使った技だろ。芸がないな―」





軽く跳んでかわしたが、地を強く蹴ったメイルは瞬時に僕の頭上を取った。





「砕(サイ)!!」





渾身の力を込めた縦斬りに右肩をかすめられた途端、凄まじい勢いで叩き落とされる。





「ぐっ…。」





だが体勢を整えるのは難しくなく、墜落は免れた。





「撃(ゲキ)!!」





僕の後ろに着地したメイルは、息もつかせないと言わんばかりに連続突きを仕掛けて来る。





身の丈程の剣を扱っているにもかかわらず、その攻撃は疾風を思わせる速さだった。





しかし、かわせない程ではない。





突きの連打を潜り抜けてメイルの背中を取り、袈裟斬りを叩き込んだ。





「く…。」
メイルは微かによろめいたが、倒れる気配は露となかった。
純白の鎧にそれなりの傷が入っただけで当人はほとんど痛手を負っていないのだから、道理だろう。
目も闘志に満ちたままで、衰えは見えない。
間違ってもこのまま終わる流れではないなと、気を引き締めたが。
「…残念だけど、あたしの負けだね。小娘とアルス王子は、あんた達に任せるよ。」
メイルは溜息と苦笑いをこぼし、早々と降参した。
「…意外だな。続ける気だと思ってたけど。」
「これでも傭兵だからね。相手との差…持久戦に持ち込んで結果が変わるかどうかくらい、嫌でも分かっちまうさ。」
「…そうか。諦めの悪いゲームオタクより、頭が切れるみたいだな。」
憑き物が落ちたような顔で大剣を背中に戻したメイルに続き、僕も模造刀を鞘に納めた。
「しかしせっかくの大きな仕事で、こうも出し抜きようのないライバルにぶつかるなんてね。これ、日頃の行いを考え直せってことかな。」
「まあ、人の手柄を横取りしようとする非ドウトク的なお姉さんじゃねえ…。」
「あんたにだけは道徳をどうこう言われる筋合いないよ!」
口を挟んだユナに、メイルの拳骨が振り下ろされる。
「いた〜い!もう、ちゃんとお姉さんって言ったのに!」
「問答無用だ!ほら、団体さんにとっととアルス王子のことを話したらどうだい!」
「…そう言えば…あなた…アルスくんを…さらったのは…わけがあるって…言ってたよね…何が…あったの…?」
中腰になって目線を合わせた舞に、涙目で頭を擦っていたユナが重い口を開く。
「…アルスくんね。ローガルスでカオス=エメラルドの欠片を買ったの…。」
「…え…ローガルスで…!?」
「ローガルス…?どんなとこなんですか?」
「…えっと…その…。」
「貧乏人やならず者だらけで盗みも騙しも暴力も当たり前、って有名な町さ。」
言い淀む舞に代わり、メイルが端的に説明する。
「商売やってる奴も多いけど、そのほとんどが闇商人なのもよく知られてるんだ。それでも時々本当に貴重な品物があるからって、カタギでも足を運ぶクチもいるようだけどね…。」
「…まさか、アルス王子が立ち寄られたお店も…?」
ユナは無言で頷いた。
「…つーことは、王子さんは欠片の元持ち主…それも結構やべー奴に睨まれたんだな…。」
「はい…だから、アルスくんをかくまいながら、元持ち主をやっつけてくれる腕利きの人を探せればと思って…。」
「だったら最初からそう言えよ!こんなめんどい真似する必要なかっただろ!」
「簡単に言えませんってば!ローガルスはファラームじゃ立ち入り厳禁区域なのに、王子さまが条例違反したなんて大問題だし!それに、その欠片の元持ち主はラダンっていう強盗で…!」
「ラダン!?それって、噂のラダン=ベイルってヤツかい!?」
「そう!そいつ!」
メイルの面持ちに、明らかな焦りの色が宿った。
「…よっぽど危ない奴なのか、その強盗?」
「…前科…三桁超え…盗めるものなら…お金も…物も…命でも…何でも盗むって…最低な男…。」
今度は舞が、絶句したメイルに代わって答えた。
「…おまけに…噂じゃ…盗みも…人殺しも…半分は…名前を…上げたいためで…時々…興味もないもの…盗んだり…恨みもなければ…邪魔になった…わけでもない人…殺したりも…してるとか…。」
「…とンだクズ野郎だな。」
「じゃ、すぐに王子さまと合流しないと!どこにいるのさ!」
「レジリス村に…霊峰レジリスに一番近い、黒い屋根のロッジに隠れてもらってるの!案内するから、ついて来て!」
ユナは急ぎ立ち上がると、僕達が後に続くかを確かめもしないまま走り出した。
「…ちっ…狂言誘拐犯に仕切られるのも癪だけど、しょうがないか…。」
「だな。急ごうぜ、皆の衆!」
「ああ!―それと、誰か風刃を拾って今の話を伝えといてくれ!」
「…それじゃ…私…行ってくる…!」
即答した舞が、レジリス村の西の林へと向かった。





一方、ユナを追う僕達には、メイルも付いて来た。
「あたしも付き合わせてもらうよ。強盗ラダンの懸賞金はかなりの額だからね。」
「…別に良いけど、今度はこっちの邪魔はしてくれるなよ。」
「ああ、もちろんさ。」
posted by 暇人 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼14 手柄の行方1

「あら?あなたたち、旅の人かしら?」
レジリス村に到着するや、入り口近くにいた老婆が話し掛けて来た。
一面真っ白の短い髪とくすんだ紅色の防寒着は高齢者に似つかわしい風情だが、声は不釣り合いに瑞々しく、背筋も真っ直ぐ伸びている。
「ここに来るってことは、やっぱり霊峰レジリスにご用事?だったら、もっと温かい格好をしなくちゃ危ないわよ。あの山の寒さは、この辺とは比べ物になりませんからね。」
「い、いえ…ボクたち、この村に人さがしに来たんです…お、おばあさん、この2人を見かけてませんか…?」
震える手で2枚の写真を渡すと、氷華君は必死で自分の身体を擦る。
「あら、これは…。」
「ファラーム城の王子と、王子を誘拐したッて女なンだが…。」
駆君の説明に、老婆の朗らかだった笑顔は挑戦的なものへと変化した。
「―そっか。あなたたちなんだね。」
あどけない口調になったと思うと、小さな黒い球体を足元に投げつける。
球の中からは目に沁みる煙が噴き出し、僕達を咳き込ませた。





視界が晴れた時には、老婆はいなかった。
代わりに茶髪をポニーテールにまとめ、赤い忍び装束を着たうら若い少女が立っていた。
「テメエ…!」
「はーい、初めましてー。ファラームのアルス王子さまを連れ出した、ユナ=ゾールでーす☆よろしくねー♡」
ユナは敬礼とウインクを添え、ふざけているとしか思えないほど陽気に挨拶した。
「ふふ…私の変装、どうだった?こうやって自分からバラさなかったら、本当にただのおばあちゃんにしか見えなかったでしょ?」
「…いや、そいつはどうだろう。」
自慢気に豊かな胸を張るユナを前にして、半分ほど真面目に悩んだ。
確かに外見だけなら中々の偽装だったが、声を変えていなかったので結局は話している内にボロを出したのではないか。
「変装はともかく、さっさと王子様を返す気はねえかい?そしたら、せめて手荒な真似ナシでしょっ引いてやるぜ?基本、バカ妹以外の女子には優しくしときてえし。」
「うーん…最後のお情けありがとうって言わなきゃかもだけど、ごめんなさい。ちょっとワケありでね。すっごく強い人にしか、アルスく…王子さまは返せないの。」
「その理由とは何でしょうか…と伺っても、答えては下さらないのでしょうね。」
「…はい。残念ながら。」
「ちっ…要らん手間掛けさせやがって。」
風刃が苛立ちを露わに舌打ちし、木刀を握る。
「そんなに痛い目に遭いてぇなら、望み通りにしてやる!さっさと王子を解放すれば良かったって、後悔しやがれ!」
まばたき一つせずに立ち尽くしているユナに突進し、風を纏った斬撃を叩き込んだ。
だが、巻き上がる砂埃が去った後にユナの姿はなく、薄汚れた丸太が残っているだけだった。
「あっ、変わり身!?」
「忍者かぶれも、いよいよ度が過ぎて来やがッたな…。」
「…あの子…どこに…?」
予想外の技に誰もが視線を彷徨わせたが、ユナは見つからない。
気配で勘付かれないよう魄力も抑えているので、目と耳で直接探るしかなかった。
「…ん?」
ふと、風刃が足元を見やる。
少しずつ、だが確実に、影が大きくなっていた。





「幻鏡斬(げんきょうざん)!」





空中から現れたユナが、脇差で斬りかかる。





風刃は悠然と後ろに下がって事無きを得たが、取り立てて特徴の無い得物での一撃は、土砂を軽々と捲り上げてみせた。





「あらま。結構やるんでねえの?」
「…うん…直撃…くらったら…危ないね…。」
「…ふん。見た目よりは力があるらしいな。」
「そんな筋肉バカみたいな言い方、心外だなー。魄力を使ったおかげでやっとこんな威力ってだけだよ?私、本当は見た目通りのひ弱な女なんだから。」
「そうかよ。だったら、無駄な怪我しねぇ内に王子を返したらどうだ。」
「あれ?誘拐犯に、情けをかけてくれてるの?」
「馬鹿言え。勝つのが分かり切った戦いをダラダラやるのは苦痛ってだけだ。雑魚をいびって喜ぶ趣味はねぇんでな。」
「そうはいかないよ。前言撤回なんてナシ。王子さまを返すのは、あなたがすっごく強い人だって証明してもらってからじゃないとね。」
「はあ…つくづく鬱陶しい野郎だ!」
短い溜息を吐いて一層忌々し気に顔を顰めると、風刃は木刀を肩の高さに構え、力を込めた突きを繰り出した。
「竜風槍(りゅうふうそう)!」
切っ先から、威力と速度を兼ね備えた風の弾丸が飛び出した。
無防備のまま突っ立っていたユナは腹部を撃たれ、仰向けに倒れる。
「…ちっ、またか!」
だがユナに見えたそれは、地面に沈むと丸太に姿を変えた。
「ちまちまと目障りな真似しやがって…!」
「落ち着け。冷静にやらないと、勝てる勝負も取りこぼすぞ。」
叱るでもからかうでもなく淡々と諭すと、風刃は素直に深呼吸を始めた。





「えーい!」





その時を狙っていたかのように、ユナが背後から脇差を振るう。





しかし風刃は難なく避け、ユナの背中に木刀の一撃を浴びせた。





「あうっ!」





うつ伏せになったユナは更に、風刃の右足で後頭部を踏み付けられた。





「いやーっ、痛い痛い!人の頭、踏みつけないでよー!!」
「そんな科白抜かす位なら、さっさと王子の居場所を吐け。言わなきゃ、幾らでも踏み続けるぞ。」
眼下の悲鳴に眉一つ動かさず、風刃はユナの頭を踏みにじる。
「だから、言ってるでしょ…それは、あなたがすっごく強いって証明してくれないと、ダメなの…!」
ユナは腰に付けた袋から小さな黒い球体を取り出すと、勢いよく地面にぶつけた。
たちまち大量の煙が吹き上がり、再び僕達を咳き込ませる。
「くっ…また煙玉か…。」
風刃が木刀を振るって煙を払うと、ユナはその眼前にいた。
「あっ、また変わり身になってる!」
だが、不気味な程に動きを見せない点から、皆が一目で偽物だと察する。
「本物は…ああ、あそこだな〜。」
村の奥のロッジを見やると、屋根の上には印を結んで精神集中をしているユナがいた。





「…悔しいけど、幻鏡斬じゃ通じないみたいだね…でも今度は、さっきみたいにはいかないよ!秘術・鏡身法(きょうしんほう)!」
ユナの身体が仄かに白く光ったと思った矢先、その姿が5つに増えた。
「…わっ…分身の術…!?」
「しかも、全員から魄力を感じます…!」
どうやら新たに現れた4人は幻覚や目くらましなどではなく、元祖ユナを忠実に複製した代物のようだ。
「はは。お前、迷惑な奴だけど色々面白い技持ってるな。見世物小屋なら売れっ子になれそうだぞ。」
「ちょっと、お兄さん。見世物呼ばわりなんて遠慮してほしいな。苦労してできるようになった、自慢の技なんだから。」
「…下らねぇ。馬鹿げた大道芸に付き合ってやる程、暇じゃねぇんだ。ぶちのめしてやるから、とっとと掛かって来い!」
「そう?それじゃ、遠慮なく♪」
5人のユナが無邪気な笑顔のまま、脇差や拳や蹴りを見舞おうと風刃に迫る。





対する風刃はまるで動じず、真っ先に肉薄して来た分身の2人を右薙ぎで払いのけ。





次いで、後ろから襲い掛かろうとした2人は左手の裏拳で沈め。





最後に、死角から脇差で斬りかかって来た元祖ユナの額を右肘で打った。





「いたっ!」





元祖ユナが仰向けに倒れると、4つの分身も跡形無く消え去った。





「いたたた…どうして、こんな…。」
「どうしても何もあるか。0に何回0を足したって、1にはならねぇってだけの話だ。」
涙目で患部を押さえて悔しがるユナに、腕組みをした風刃が冷然と言い放つ。
「霞の修行受けてなかったら、間違っても言えない台詞だったな。」
「放っとけ!」
「それで、誘拐犯さん。まだ王子様の居場所を教える気はないのかな?返事次第じゃ、もっときつーい取り調べしちゃうよ?」
「…私の負けだね。全部お話ししますよ。」
満面の笑みで拳を握ってみせる氷華君にユナは力なく溜息をこぼしたが、すぐに真剣な面持ちになり、僕達を見据えた。
「その代わり…私が言うのも変だけど、王子さまをしっかり守ってよね。」
「…本当に誘拐犯の抜かすセリフじゃねエな。テメエ、自分の立場分かってやがるのか?」
「言ったでしょ。これにも色々とワケが―」





―そのワケとやらは、あたしがじっくり聞いてやるよ!





ユナの告白は突然の声と、僕達の後ろから地を裂きつつ迫る衝撃波で遮られた。
「どわ〜!」
「きゃああああああ!?」
僕達は全員無事に回避したが、唯一直撃を受けたユナは大きく上空に投げ出される。
そこに純白の鎧で身を包んだ女戦士が飛び込み、ユナを左手一つで捕獲した。
「メイル!」
「やあ。御苦労だったね、団体さん。」
手近なロッジの屋根に立ったメイルが、不敵に笑う。
「この人数の差じゃ、小娘を見つけ出すもとっちめるもあんた達に先を越されるのが分かり切ってたんでね。今まで様子見させてもらってたよ。」
「てめぇ!後からしゃしゃり出て、良いとこだけ持って行く気か!」
「そういうこと。ファラーム城でも言ったけど、先立つ物が要る身なんだ。ズルは十分承知の上だから、いくら恨んでくれても構わないよ。」
メイルはロッジを屋根伝いに跳び、レジリス村の外へ向かう。
軽装ではないにもかかわらず、実に身軽な動きだった。
「待て、この野郎!!!」
その後を真っ先に追い掛けたのは、怒りに燃える風刃であった。
posted by 暇人 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

2023年05月01日

飛躍の翼13 王室の依頼 あとがき

昼間から今日は。
愛用のSwitchにガタが来たため、楽しみにしていたソフトを遊べずにいる『暇人の独り言』管理人です。



無理して買った天下の任天堂ハードなのに5年経つか経たないかで弱ったし、御立派な値段ゆえ相変わらず甲斐性無しの管理人にはもう新調もできないしで、実に暗い気分でいます。



某オークションサイトで少しでも安く買えたらと思ったけれど、同じ事を考えるユーザーが幾らもいて、到底無理な相談でした。
無念。



…しかしまあ、待ちに待っていたソフトが出る手前でダメになってくれやがるとは、何だか悪意すら感じる。










…と、最初はゲーム機の話をしましたが、今回の本題は拙作『光の翼』のあとがきです。
御興味のない方は、どうぞお見捨て下さいませ。





この度掲載した「王室の依頼」は本ブログでこそ初投稿ですが、「小説家になろう」ではずっと前に「王城の選定試験」としてぶち込んでいた内容となっています。
例によって無駄が多かったのを書き直し、ようやくこちらに持って来た訳です。



改稿で大きく変えたのは、誘拐犯ユナ=ゾールの手紙。
最初は記号や顔文字も取り入れたバカの香り全開な内容だったのですが、余りに緊張感がなさ過ぎるので、真意の見えない物騒な文面にしてみました。



また、元は危ない気配満点の噂話が伝えられるシーンを入れていたものの、後の展開の盛大なネタバレでしかなかったので、こちらは丸ごと消し去っております。


ユナの手紙で細かい事を書かなかった分、この先どんな流れを作っても上手い事まとめられる…はず。










さて。
肝心の本編が短かった回なので、あとがきもこの位でさっさと終了です。



それではまた、次の更新にて。
posted by 暇人 at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼13 王室の依頼

「…まさかシヴァ様が、お前にまで…。」
「しかも、あんなにあっさりと…。」
ファラーム城の門番にして双子の兄弟であるレオンとフランが、憎たらしそうにメイルを見やる。
聞けば3人は、幼少期からの腐れ縁だという。いずれも物心付いた頃から兵士を夢見ており、長年頻繁に手合わせをしていたそうだ。
しかし、身体能力と魄力共に最も伸びが良かったのがメイルであったため、レオンとフランは常にやられっ放しだったらしい。
「ま、あたしもダテに傭兵稼業で生き延びちゃいないってことさ。」
難なく試験を突破したメイルが、涼しい顔で旧友達の視線を受け流す。
ルールの存在する小手調べであったとは言え、所要時間僅か20秒でシヴァへ一撃を叩き込んだ様は、並大抵でない実力の持ち主だと知るのに十分過ぎた。
「まったく…城仕えと傭兵なら二度と会うこともないと思っていたら、またその顔を見せられるなんてな。」
「同感だね。本当、人生ってのは何があるか分からないもんだよ。」
腹立たしそうなフランに対し、メイルはわざとらしく、だが幾分か本気で感慨深そうに言う。
「レオンならまだしも、ちょっと負ける度にピーピー泣きじゃくってた根性なしまで、念願叶ってファラーム城の兵士になったんだから。」
「何だとこの野郎!!」
「止めろ、フラン!私闘は御法度だろうが!」
今にも殴り掛かろうとするフランを、レオンが背後から取り押さえた。
「…どこかのお家の誰かさんたちとカブるね、この光景。」
「あア、そこは同感だ。」
「…どこぞの学校の同級生共ともそっくりだけどな。」
「…なんですって?」
「そいつは誰の―」





「皆さま、お待たせ致しました。」





風刃達に余計な火花が散りそうになったところで、両親を呼ぶべく席を外したシヴァが戻って来た。
父親は黒の、母親は紺色のスーツを身にまとっており、企業の重役のような風格がある。
いずれも顔に数箇所の小じわがある点ではそれなりの年齢を感じさせるが、頭部を彩る金髪には1本の白髪も紛れていなかった。
「こちらが私の父母…ファラーム王と、王妃にございます。」
「舞さま、お久しぶりですね。御友人の皆様と一緒にアルスを捜して下さるそうで…誠にありがとうございます。」
「…いえ…お気になさらず…友達として…当たり前のことを…したいだけですから…。」
深々と頭を下げるファラーム王妃に、舞が恐縮する。
「して、そちらの女性が傭兵のメイル様ですな?何でも、このシヴァに一瞬で勝ったのだとか。相当の腕をお持ちなのですね。」
「ま、仕事柄そこそこにね。」
「…こほん。お父様?」
「おお、そうだった。改めまして、御挨拶を。私、僭越ながらこのファラームの統治を預かっております、ガルシー=ウィネスと申します。」
「ガルシーの妻の、ミル=ウィネスです。」
ファラーム王女と王妃が揃って恭しく礼をすると、僕達も誰からともなく軽い会釈をした。
「では早速ですが、今回の件について説明をさせて下さい。…ミル、写真を。」
「はい。」
ミルさんは氷華君とメイルに、2種類の写真を渡した。
片方には王室の面々と同じく金髪碧眼の容姿端麗な少年が、もう片方には茶髪をポニーテールに結った赤い忍び装束の少女が写っている。
「ふむ…この金髪の坊ちゃんが、アルス王子だね。」
「はい。そしてこちらが、アルスをさらったと宣言している少女です。」
ミルさんは忍び装束の少女の写真を指しながら答えた。
「ユナ=ゾールと名乗るその少女は、アルスの命が惜しければ凄腕の戦士を派遣してみろと、我々に文書を送って来ました。」
ガルシーさんが、左手に握り締めていた紙を広げる。
そこにはなかなか流麗な筆文字で、穏やかでない内容が刻まれていた。





ファラーム王室、並びにファラーム住民の皆様へ。

この度、訳あってアルス王子の身柄を預かりました。
王子の命が惜しければ、選りすぐりの使い手をレジリス村までお送り下さい。
なお、私の要求は金品ではございません。身代金の類による交渉には応じかねますが、御了承願います。

誘拐犯ユナ=ゾール





「…良い度胸してやがるぜ、この馬鹿女。」
「しかし、誘拐にしちゃ随分と変だな。身代金をよこせじゃなくて、強い奴を送って来いなんて…。」
風刃や僕をはじめ、皆が手紙の文章と睨み合うが、誘拐犯の目的は見えて来ない。
戦闘好きな性分で、凄腕を相手に腕試しをしたいとでも言うのだろうか。
「明らかに結構なウラがありそうだけど…とりあえず、依頼は王子の奪還と誘拐犯の捕縛って事で間違いないかな?」
「はい、お願い致します。弟を救出してくだされば300万、誘拐犯を捕えてくだされば200万を支払います。」
「シヴァ、その事なんだけど。僕達が成功したら、金じゃなくてカオス=エメラルドの欠片をくれないか。」
「…あの噂の、カオス=エメラルドですか?しかし、弟がそれを持っていたか…。」
「…間違いなく…持ってるはずだよ…ティグラーブさんの…調べだもん…。」
「…そうですか…そんな危険な物に手を出していたとは…。」
「こうなると、あの子の宝石好きも考え物ね…。」
シヴァに続き、ミルさんも表情を暗くする。
「…ああ、失礼。そういうことでしたら、喜んで。」
「ありがとうございます、シヴァさん。それで、このレジリス村というのはどちらにあるのでしょう?」
「え、どこにって…霊峰レジリスの麓に決まってるじゃないか。」
目を丸くするメイルにも、舞を除いた6人の反応は鈍い。
「…そうか。あんた達、人間界の出だね?」
「えっ、何で分かったの?」
「そりゃ分かるさ。あのバカでかい霊峰レジリスを知らないなんて、魔界暮らしじゃそうそういやしないからね。」
「…成程。そのレジリスって山、日本で言えば富士山みたいなもんか?」
振り向いて問い掛けると、舞が頷いた。
「…高さも…だいたい…同じくらい…いや…レジリスが…ほんのちょっと…低い…かな…。」
「だッたら、少し近付けばすぐ分かるな。」
「…だな。急ごうぜ。誘拐犯が碌でもない真似する前に、叩き潰さねぇと。」
「では皆様、何卒宜しくお願い申し上げます。」
ガルシーさんとミルさん、そしてシヴァが揃って深々と頭を下げる。
「まだまだ至らぬ点だらけの若造ですが、あれでもシヴァと同じく、王室の未来を担う貴重な人材ですので。」
「了解、王様。それじゃ、ちょっと待ってておくれよ。」
城を後にしようと歩き出したメイルが途中で止まり、僕達を見る。
「あんた達もワケありのようだけど、こっちも物入りの身なんでね。手柄はあたしが頂くよ。」
「芸がないが…その台詞そっくりそのままお返しする、と言っとくかな。」
メイルは不敵に微笑むと、小走りで去って行った。
「…複雑な気分だな。本来なら我々がアルス様を捜しに行くべきであろうに、城の関係者どころかファラームの住人でさえない者達に任せなければならないとは…。」
「だが万一の事態を考えれば、シヴァ様や我々が不用意にここを離れられないのも確かだ。…お前達、アルス様を頼んだぞ。」
「ああ、もちろんだ。」
即答すると、心なしかレオンとフランの唇が僅かに持ち上がった。
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【2023年5月追記】飛躍の翼12 王城の選定試験 あとがき

深夜遅くに今晩は。
冷え込んで来た中でも夜更かしをしまくりの、『暇人の独り言』管理人です。





健康にはリスキーなのに、実際に体調を崩したことも何度もあるのに、相変わらず直せない悪癖。
ここまで来ると、管理人は筋金入りのアホなのかもしれません。
注目されもしない作品必死で書いてる時点でそうだけども










さて、今回の更新では、先日掲載した拙作『光の翼』のあとがきをしておきます。
…良いのです、需要がなくても。




カオス=エメラルドを持っているらしい、行方不明のアルス王子の捜索に名乗り出た風刃達。
試験としてシヴァ姫との手合わせに臨んだ氷華は危ういかと思われながらも、無事に合格を決めました。



続いては、そんな氷華の戦いを見ていた女戦士メイルが挑戦。
…さっさと言ってしまうと次の話にて戦闘描写省略であっさり合格し、王子捜しの手柄を争う相手となります。


結構強いんだよな、この傭兵。










強いていちいち言ってしまいますが、この話で楽しんで貰いたいのは氷華とシヴァの戦い。
最初に「小説家になろう」に投稿するまでに数ヶ月掛けてようやく作り上げた場面なので、良い出来になっていて欲しいものです。
1話作るのに数ヶ月以上掛かるのは吾輩には日常茶飯事だが





次の話では、ファラーム王室の依頼について詳しく説明がなされます。
アルス王子をさらった犯人の要求に読者様が驚いてくれると嬉しいのですが、どうなるやら?





ともあれ、また次の更新にてお目にかかります。















【以下 2023年5月追記】




2023年も早々と5月になって、おはようございます。
先月は拙作『光の翼』の改稿版ばかり掲載して来た、『暇人の独り言』管理人です。



最新話作りと過去の書き直しを行ったり来たりするのも大変なので、この勢いに乗って本ブログ含む計4サイトでの更新状況をピッタリ揃えたいものです。



…というか、構想段階含めたらもう14年未完のままなので、そろそろ完結させたい。





今回書き直した「王城の選定試験」ですが、最初に本ブログへ載せた時にはキャラクター達がグダグダと喋ってばかりで、肝心の試験が始まらないまま一区切りにしていた有様でした。



勿論盛大に反省して、氷華とシヴァの手合わせをさっさと開始し、さっさと終える形に直しております。
あんな無駄話の羅列をよくも人様に見せられたもんだったよなと、毎度の事ながら恥ずかしい…





ところでこの話はそうした無駄をマシにする上で、今まで以上に地の文の有難味を感じました。
あれこれリアクションを入れがちになる会話形式よりも遥かに早く状況説明等ができるのは、大袈裟に言えば魔法の域にさえ思えます。



キャラクター達の台詞よりも考えるのが大変なので、困りものですが。










なおこのあとがき、最初は2019年の12月に投稿していたようです。
改稿版をぶち込んでこちらも書き直すまでに、ほぼ4年掛かったか…



ただ、怠けながらも本ブログで掲載していた部分を全て改稿するまで投げ出さなかったので、ひとまずの創作者の責任はきっちり果たしたと思います。
posted by 暇人 at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼12 王城の選定試験

黒い屋根瓦。
雄々しく聳(そび)え立つ本丸。
その隣に鎮座する二の丸。
頑丈な城壁。
陽光を受けて煌めくお堀。
人工物でありながら周囲の桜の木々と馴染み、独特の風情を感じさせる城が、そこにあった。
「うわ〜…かっこいいなぁ…。」
「ああ。威風堂々ってやつだな〜。」
4月28日、午前8時20分。僕達はファラーム城にやって来た。
ティグラーブの情報によると、宝石好きで知られるアルス=ウィネス王子が何者かに攫われてしまったらしい。
王子の姉にして教育係でもあるシヴァ姫が自ら捜索に赴こうとしたが、封殺者門下でも指折りの使い手である彼女は城や街の守りを担う身。身内の安否が問われる状況でも、不用意な外出は許されなかった。
兵士達を派遣する案も同じく防衛に支障が出るからと却下されたシヴァ姫は、王子を捜してくれる者を城の外から募集してほしい、誰も現れなければその時は何と言われようと自分が1人で出ると言い出した。
ただし志願者は試験として、シヴァ姫と1対1で手合わせを行う必要がある。王子を攫った犯人の出方によっては荒事も十分起こり得るのだから、ファラーム最高の使い手と同格かそれ以上の実力は欲しいという訳だ。
アルス王子を無事連れ帰れば王室に縁ができ、彼が持つカオス=エメラルドの欠片を譲ってくれと頼む位は造作もなくなる。
仲間達の決断は、受験一択だった。
「…うーん…。」
氷華君や紅炎達がファラーム城に見入っている後ろで、僕は思わず首を捻った。
「どうかしたか?」
「…風刃は、見覚えないか?」
「見覚え?ここにか?」
城を指差して問い返す風刃に、短く頷く。
「何言ってんだよ。初めて来た場所なのに、見覚えなんかある訳ねぇだろ。」
弟からはすぐさま、呆れ笑いが返された。
「…そうか…じゃ、気のせいか…。」
「そうそう。どうせ、既視体験とかいう奴だよ。」
こちらの疑問を全く気に掛けず進む風刃や仲間達の後に、ひとまず自分も続く。





辿り着いた城門には、色とりどりの宝石が踊る豪華な桃色のドレスを着込んだ金髪碧眼の若い女性が佇んでいた。
彼女の後方には、2人の兵士もいる。赤を基調とする鎧兜と槍、そして青い瞳の乗った顔が、いずれも鏡に映した様にそっくりだった。
「…シヴァちゃん…おはよう…。」
「あら、舞さま!ご無沙汰しております!」
舞の気軽な挨拶に、シヴァの瞳が輝く。
「…うん…久しぶり…元気そうで…良かった…。」
封殺者の師範代と門下生としてだけでなく、友人としても付き合いは長いという2人。
都合が折り合わぬ日が続き、対面するのは数ヶ月ぶりらしいが、友情に悪影響は何ら見られなかった。
「…アルスくんのこと…聞いたから…試験…受けに来たよ…。」
「まあ、本当ですか!?ありがとうございます!」
シヴァは両の手を合わせて、弾けるような笑顔を見せた。
「なあ、お姫様。他に志願した奴はどこかな?もうみんな、合格しちまったの?」
「いえ、御参加下さったのは皆さまが初めてですが。」
あっけらかんと答えるシヴァに、全員が滑りかけた。
「…受付、9時までなんだろ?ぼちぼち残り時間半分で、うちらが初めてって…。」
「…シヴァちゃんが…試験官なんか…やるから…みんな…辞退…しちゃったんだよ…きっと…。」
「そうでしょうか…?」
シヴァ本人は苦笑するばかりだが、恐らく舞の見解が当たりだろう。
師との間にこそ小さくない開きがあるようだが、それでも十分に人並み外れたものを秘めている気配が感じ取れる。
「それにしても舞さまがいらっしゃったのでは、試験を行うなど無礼な上に時間の無駄ですね。」
「…でも…まだ…募集は…してるんでしょ…?…私達だけ…試験なしじゃ…後で…誰か…来た時…不公平だよ…。」
「ああ、確かにそうですね…では、お手合わせは舞さま以外のどなたかにお願い致しましょうか。」
「じゃ、ボクがやります!」
勢い良く手を挙げたのは、氷華君だった。
「ほう。乗り気じゃねぇか。」
「魔界に来てから、あんまりカラダ動かしてないもん。このままじゃ、なまっちゃいそうだからさ。」
「よし。じゃ頼むよ、氷華君。」
「落ちやがッたら、タダじゃ置かねエぞ!」
「上等じゃんか!きっちり合格してみせるよ!」
不信感を露わに煽る駆君に、氷華君は柔軟体操をしながら自信満々に応じる。
「貴女が代表をなさるのですね。お名前は…氷華さま、で間違いないでしょうか?」
「はい!よろしくお願いします、お姫さま!」
「お気軽に、シヴァとお呼び下さい。私共は別段、高貴な家柄ではございませんので。」
「え?でも、お姫様なんですよね…?」
「…シヴァ様。そのお話は別の機会に。」
「今は挑戦者へ、手合わせの説明を。」
門番の2人から促され、シヴァはそうですねと応じた。
「…では、氷華さま。これから3分間で私に一度攻撃を命中させれば、御同伴の皆さま共々、合格とさせて頂きます。特に反則等はございませんので、武器や魄能の使用も含めて、御自由に攻撃をなさって下さい。」
「準備ができたら、シヴァ様の正面に立って構えるように。」
僕等から見て左側に立つ兵士が、金色の懐中時計を手にして告げる。
氷華君は特に準備らしい準備もなく、すぐさまシヴァの前に立った。
「ほう。シヴァ様を相手に、丸腰で良いのか?」
「その気になれば魄能で武器も作れるけど、今やって役に立たなかったら魄力のムダ使いですからね。必要だと思ったら、試合中にスキを見て作りますよ。」
「…なるほど。悪くない判断だな。」
微かな不快感を滲ませて氷華君に問い掛けた右側の兵士だったが、体力の温存を考えての事だと説かれると、納得を見せた。
「双方とも、よろしいか?では…試合、開始!」





時計を持った兵士の合図がなされるや、氷華君はシヴァを目掛けて猛然と突進する。





腹部を狙って右手で拳を放ったが、シヴァは難なく身をかわし、氷華君の背中へ手刀を見舞おうとした。





対する氷華君も鋭く反応し、左手でシヴァの手刀を受け止めた。





「…素晴らしいお手前ですね、氷華さま。」





「ふふ、そうですか?」





「はい。御覧の通り何の変哲もない一撃ではありますが、舞さま以外の方に受け止められたのは初めてです。」





シヴァは素早く右手を引いて氷華君の体勢を崩すと、足払いで彼女を仰向けに転倒させる。





左手でのパンチが胸部に決まると見えた刹那、氷華君は急ぎ伸ばした左足で防ぎ、右手から冷気の波動を放った。





「うっ…。」





季節外れの寒気を浴びたシヴァが、眉を顰めつつ後ろに退く。





無論その隙を、立ち上がった氷華君は逃さない。





「冷氷弾(れいひょうだん)!」





握り拳にした右手から、シヴァを目掛けて氷の弾丸を乱射する。





無数の氷塊から広範囲かつ長距離にわたって襲い掛かられては避ける暇もなく、シヴァはその場に留まっての対処を余儀なくされた。





それでも大小様々の氷の弾丸を、両の手のみで弾き飛ばすだけの技量も見せる。





「ほほ〜。両者譲らず、だな〜。」
「…確か…氷華ちゃんって…1週間…修行したくらい…なんだよね…?…それで…シヴァちゃんと…互角って…才能…凄すぎない…?」
「シヴァ姫は、どのくらい封殺者の修行をなさっているのですか?」
「…10才の…頃から…だから…もう…丸8年…。」
「そいつは、また…本人には言わん方が良い話だな。」
「だが、それで雪原が勝つッてのも楽観的過ぎるゼ。」
懐疑的な見方をする駆君に、ほぼ全員の視線が集まる。
「確かに悪くねエ競り合いだが、姫サマの方が立ち回りは上ッて感じだ。そもそもあの調子じゃ、時間内にケリが付くかどうか…。」
「…さあ、どうだろうな?」
腕組みしたままの風刃が、目を細めて試合の模様を凝視していた。
「3分で『倒せ』じゃなくて、『一撃入れろ』ってルールだろ?それ位、一瞬の隙を突けばどうにでもなるさ。」
「…ヤツにはそれができるッて思ってる訳か。」
「思わなきゃ、誰も任せやしねぇだろ。あいつだって、できる保証があるから名乗り上げた筈だし。」
「ふっ。人間不信にしちゃ、随分な信頼だな。」
「…信頼って程じゃねぇよ。大見得切っといてしくじるようだったらぶった切ってやるってだけだ。」
努めて冷たく吐き捨てながらそっぽを向いた弟に、そんな必要ありませんようにって一番願ってるのは誰なんだろうなと言いそうになったが、控えておいた。





「氷柱槍・霰(ひょうちゅうそう・あられ)!」





上空へ跳んだ氷華君が冷気を宿した右手を横薙ぎに振るい、夥しい氷の槍を降らせた。





先の氷の弾丸より素早い鋭利な氷塊の群れにシヴァは背を向け、回避に専念する。





その行く手には、着地した氷華君が先回りしていた。





「は…!」





「氷衝波!」





先程より更に強烈な冷気の波動で、射程上にあった地面や針葉樹までもが凍て付いた。





ましてや至近距離にいた者などは、と誰もが思ったが。





シヴァは氷衝波が放たれた瞬間、高速で氷華君の背後を取り、手刀で彼女の右腕を打っていた。





「あうっ!」





のけぞった氷華君の左腕を押さえながらのしかかり、うつ伏せに倒れ込ませる。





「…どうやらここまでの御様子ですね、氷華さま?」





「…そうですか?まだ分からないと思いますけど?」





祭りの終わりを寂しがるような面持ちのシヴァに、敗色濃厚の氷華君が不敵な微笑みを返す。





見るとその右手は何時の間にか小太刀そっくりの形をした氷塊を握り、地面に突き刺したところだった。





「あ…!」





氷華君の最後の一手を理解したシヴァだったが、最早何もかもが間に合わない。





円柱状の冷気が空高く立ち上り、2人は揃って氷の中へと封じ込められた。










「…まさか、あんな攻撃を仕掛けるとはな。」
金色の懐中時計を持った兵士が、驚きと呆れの混ざった調子でこぼす。
その文字盤は、試合開始から1分20秒進んだところで止められていた。
「…もしかして、ズルい手だったからやっぱり無効試合とか言う気ですか?」
「いいえ。」
唇を尖らせた氷華君にシヴァは穏やかに微笑み、ゆっくりと首を横に振った。
「こちらが反則なしと取り決めた以上、何も異議はございません。氷華さま達は、合格とさせていただきます。」
「やったー!」
「おっしゃ〜!ナイス、ヒョウ嬢〜!」
「…頑張ったね…氷華ちゃん…!」
「よくやったな。」
「えへへ…。」
紅炎と舞と風刃から立て続けに褒め称えられ、氷華君は照れながらも嬉しそうに頭をかいていた。
「―へえ。やるもんだね、お嬢ちゃん。」
そこに、長身の女が現れた。
頭が舞と同じ高さにあり、背中には身の丈ほどの大剣を備えている。
赤い髪は短くまとめられ、身にまとう西洋風の鎧は一面の純白。
黒い両目は燃え上がるような熱さを帯びており、好戦的な印象を抱かせた。
「実力者って評判のシヴァ姫から、一本取っちまうなんてさ。」
「貴女も、シヴァさんとお手合わせに?」
「ああ。…姫様には連戦になるけど、お相手を頼めるかい?」
「はい、喜んで。では、まずお名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「メイル=バート。しがない流れの傭兵さ。」
女戦士は、余計な気負いを感じさせない自然な動きで大剣を握り締めた。
posted by 暇人 at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

2023年04月21日

【2023年4月追記】飛躍の翼 歓迎の宴 あとがき

夜分遅くに今晩は。
ビジネスでも趣味でも行動が遅い、『暇人の独り言』管理人です。





趣味と言えば、本ブログにも置いている拙作『光の翼』は元々「小説家になろう」で掲載を開始したものなのですが、よく見てみるとこの2019年は10月26日時点でまだ2回しか更新していませんでした



…もはや、言い訳する余地も無い程の遅筆でございます。
さらに言えばこのブログでも3ヶ月は停滞していた





ただ、掲載を開始したからには完結させる気持ちも変わっていません。
時間はかかっても、今後も投稿を続けるつもりです。


…こんなペースで寿命が尽きるまでに間に合うかなあ。















さて。
今回の記事は、この度掲載した拙作の最新話「歓迎の宴」についてのあとがきです。





ソミュティーにあるティグラーブの実家を借りることになった風刃達。
村に挨拶しに行ったところ、新たな住人として大歓迎されました。



…作者自身、こんな祭り騒ぎをしてソミュティーの面々は疲れないのかと呆れ混じりに思いますが、彼らのおかげで明るく気楽な話を作れたので、感謝もしています。





平和な回ではあったものの、災厄の刃(クラディース)やその首領ディザーについての話を聞いた嵐刃は何か疑いを抱いていたり、ソミュティーの宴会と同時刻には良からぬことをやっているらしき集団がいたりと、終盤にはきな臭さも漂わせています。





…しかし、これらについてのあとがきはもう少し先の機会に。
今回はこの辺で終了とします。





それでは、また。















【以下 2023年4月追記】




夕方前に、今日は。
『暇人の独り言』管理人です。



ここ数日、拙作の改稿済の部分を毎日掲載して来ましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか。
続きはまだ書き直しが終わっていないので、またもや拙作もブログの更新も当分時間が空く予感ですが、程々にお付き合い下されば幸いです。





今回掲載した「歓迎の宴」改稿版では、これまでと同様に無駄な部分を省いたところ、紅炎が射的に興じる場面や風刃と氷華のヨーヨー釣り対決を跡形無くカットする事になりました。
作者としては気に入っていたので惜しくもあったけれど、本筋に不要だったから仕方ない。





ところで風刃が焼きそばとカレーを買おうとしていたのは、思い切り作者が地元の夏祭りでやっていた事そのままです。
やはり実体験は使い易さが最強だ。



憎きコロナのせいでその夏祭りも自然消滅した気配があるのですが、あのウイルスがもっと黙ったら復活してくれないものかと、薄い望みを抱いています。
posted by 暇人 at 15:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼11 歓迎の宴2

立ち寄った射的の屋台で、紅炎は大活躍を見せた。
自身の武器としてモデルガン、僕の得物として模造刀、ついでにポテトチップスの袋2つを手に入れたのだ。
観衆から驚嘆の声を浴びながら去り、ヴォルグさんの焼き鳥屋台で腹ごしらえと相成ったのは、午後7時30分の事だった。





「美味い!」
「おお〜!こりゃいいわ〜!」
とり皮やつくねを味わう僕も、ハツとねぎまを平らげる紅炎も、第一声で絶賛した。
旨みがしっかり肉の中に閉じ込められていて、歯応えも丁度良い、実に絶妙な仕上がりだった。
「ヘエ。やるモンだな、村長サン。」
「いえいえ、とんでもない。こうして村で祭りをする度にやっている屋台ですが、いまだにうっかり火加減を間違う事もあるのですよ。」
緑色の三角巾を頭に巻いたヴォルグさんが、掌に弱火を浮かべながら謙遜する。
「それにしたって、自分よかずっと火の扱い上手いっすよ〜。あれだけの火力で焼いたのに焦がさねえわ、串は全然熱くならねえわって、ビックリっすわ。」
「はっはっは…恐れ入ります。」
ヴォルグさんは白く長い顎鬚を右手でいじりながら、静かに笑った。
「ところで駆君、食べなくて良いのか?」
「えエ。もう腹一杯ですから。」
「え〜、あんだけで〜?クー坊、小食だな〜。」
駆君はつくねを2本頼んだだけで、以後は水しか飲んでいない。
「野菜とか果物ならもうちッとは食うンだが…この手の油モンは程々にした方が良いしな。」
「ひゃ〜。マジで健康志向すげえな〜。」
「だな。…それに比べて…。」
僕の右隣に腰掛けるシュオルドは、今なお両手を活発に動かし、多種の焼き鳥を口内に叩き込んでいる。
既に30本もの串から鶏肉を綺麗さっぱり消し去っていたが、更に追加で注文を出してさえいた。
「こっちの胃袋はどこまで入るんだか…。」
「大食い大会とか、余裕で優勝できるんでねえの?」
「拙者もそう自惚れていたが…3年程前に村での大食い大会に出た際、メイアに敗れた。」
「メイア…ッて、あのヘビのアネゴか?あンな細い身体してンのに…?」
シュオルドは浅く首肯する。
「あと一歩のところではあったが、上には上がいるという言葉を痛感させられた。以来、大食い大会には出向いた事がない。」
「何だ、そりゃ〜。こんなに食えるのに、もったいねえな〜。」
「耳に痛い御言葉だが、拙者とて武人を志す男。同じ栄冠を目指すならば、武の争いで目指したい。」
「はは、言うもんだな。じゃ、ここの人達集めて格闘大会でもやってみるか?」
「…賛同したいが、ヴォルグ村長の圧勝が目に見えているな。」





僕達が言葉もなく視線をやると、ヴォルグさんは気恥ずかしそうに唇の端を持ち上げた。





「まだ私が若かった頃、ディザーが暴れておりましてな。奴に抗っていたのもあって、それなりに魄力が上がったのですよ。」
「忌み子や災厄の刃(クラディース)がこの村を襲わぬのは、カオス=エメラルドの破片がないのに加え、ヴォルグ村長を迂闊に攻められないゆえだと考えられている。用心棒を仰せつかった拙者としては、立つ瀬のない話だが…。」
「何を仰いますか、シュオルドさん。貴男やメイアさんがいるお陰で、ソミュティーは皆が安心して暮らせる村となっているのですよ。」
力なく笑いながら自嘲気味に呟くシュオルドを、ヴォルグさんがフォローした。
「え…メイアも、そんなに強いんですか?」
「ええ。彼女は守りに特化した使い手でしてな。防御や回避においては、魔界全土でも優秀な方ですよ。」
「おわ〜…ソミュティーって、すげえ面子が揃ってるんすね〜。」
「…それでもこちらからディザーに仕掛けるのは、とても無理ですがな。」
視線を落としたヴォルグさんが、小さな嘆息と共に弱弱しく漏らす。
「そう言えばディザーッてヤロー、4年前にはもう250万なンて魄力してやがッたらしいな。」
「はい。…とは言え、全盛期とは比べ物にならぬほど弱体化していますよ。時のあやつは、魄力値1000万だったと見られておりますので。」
過去の話とは言え、余りにも次元の違う数値に、ひととき感情すら忘れて黙り込んでしまった。
「…聞けば聞くほど、とんでもないな…そんな奴、よく封印できましたね…。」
「それはひとえに、当時の腕利き達が揃い踏みしたお陰です。特にこちらのリーダーは、ディザーの魄力を僅かながら上回ってくれていましたからな。」
「くッ…スケールがデカ過ぎて、理解が追い付かねエ…。」
「ははは、無理もありませんよ。当時目の前で成り行きを見ていた者達すら、ほとんどが呆然と立ち尽くしていただけでしたからね。」
頭を抱える駆君に、私もぼんやりしていた口でしたと、ヴォルグさんが付け加えた。
「…ともあれ、そのリーダーのお陰でディザーを封印できまして。4年ほど前にあやつの封印が破られるまでの数十年間、魔界はひとときの平和を享受できたというわけです。」
「ほえ〜。人間界だったら、ヒーロー扱いだな〜。」
「はは、魔界でもそうでしたよ。…ただ、そのリーダーは気が短い方でしてね。うっかり怒らせた日には鉄拳制裁も免れないもので、ある意味ディザーよりおぞましいと語り草になっておりました…。」
ヴォルグさんはそこで苦笑いし、腹部を見つめる。
その仕草は、自身も「うっかり」をやらかした部類だと、暗に語っていた。





「…しかしそンなにすげエ使い手なら、またディザーとやらをどうにかしてくれッて頼めば手っ取り早いンじゃねエのか?」
「それが…彼はここ4年、連絡が付かないのです。」
「…亡くなったんですか?」
ヴォルグさんはゆっくりと首を横に振った。
「詳しい状況は、分かっておりません。間違いなく言えるのは、現状では彼には頼りたくとも頼れないという事だけですな。」
「そうか…。」
駆君が腕組みをしながら重々しくこぼし、押し黙る。
「…ま、しょうがねえか。ティグラーブとも約束しちまったし、俺らでディザーだろうが災厄の刃(クラディース)だろうが、きっちり片付けちまわねえとな〜。」
「そうだな…。」
陽気に軽く述べる紅炎に応じながら、頭の中では違う事を考えていた。
昨晩ディザーの出で立ちを耳にした時の表情と、いち早く席を外す際の雰囲気。
恐らくあいつも―
「…嵐刃殿?如何した?」
「あ…いや、別に。ちょっと考え事してただけだよ。」
「おや。何かお悩みなら、お話を伺いますが?」
「いえ、また今度で大丈夫です。」
無理をせず微笑み、努めて穏やかに答える。
「…そうですか。では、またその時に。」
何かを感じた様な間があったが、ヴォルグさんは特に踏み込んでは来なかった。
「改めて言っておきますが、今日より皆さんは我々ソミュティーの仲間ですからな。助けが必要な時は、遠慮なくお申し付けください。」
「うむ。拙者達の力は微々たるものだが、可能な限りの助力は惜しまない。」
「どうも〜。じゃ、もしもの時はよろしくな〜。」
紅炎が迷わず厚意を受け取ると、ヴォルグさんとシュオルドは静かに笑って小さく、だが力強く頷いた。
「さて。また明日からは御多忙になることでしょう。今夜ばかりは羽目を外して、存分に楽しんでくだされ。」
「はは、そうさせて貰います。…そうだ。とり皮と豚バラを3つずつ追加して貰えますか。」
「あ。自分もハツとレバーを3つずつ、追加お願いしますわ〜。」
「はい。お任せを。」
ヴォルグさんが追加分の焼き鳥を用意していたところ、頼りなげな高い音が響く。





何事かと視線を彷徨わせていると、花状の光が空に咲き、太鼓を思わせる振動が続いた。





「おお、花火か!」
「うお〜、壮観だね〜!」
「すげエな!」
次々と打ち上がる煌びやかな花火に、僕達は揃って釘付けとなる。





「あっ、花火!」
「おお!」
露店での対決を引き分けで終え、戦利品の水ヨーヨーで戯れる氷華君と風刃も、同様だった。





「…ああ、花火…綺麗ですね…とても…うう…。」
「れ、麗奈ちゃん…!お菓子…奢るから…元気出して…!」
ただし、くじ引きの店で外れしか引けずに打ちひしがれる麗奈と、彼女を何とか復活させようとする舞は、例外であったが。















ソミュティーが宴に熱中していた頃、沈まずの森の入り口には7つの人影があった。
「まったく。派手にしくじりやがったな、このバカ共が。」
6体の邪鬼(イヴィルオーガ)を、粗暴な物腰の男が嘲笑混じりに罵る。
薄汚れた紫色の杖を右手に握って胡坐を掻いた男は、邪鬼(イヴィルオーガ)達と同じく鮮血の様に赤いジャケットと、闇夜の様に黒いジーンズを身に着けていた。
毛髪は黒色と金色が混ざったドレッドヘアで、両の耳には毒々しい色合いのピアスもしており、気性の粗さがこれでもかと滲み出ている。
「グ…!言っトくが、失敗しタのは変なガきに邪魔サレたせイだからな!あのガキさえ来ナケりゃ…!」
反論したのは、黄色い肌の個体にして、群れのリーダーでもあるシクロスだった。
「ん?変なガキだと?」
「そうダよ!薄い水色髪シた木刀使いのガキに、横槍入れられタンだ!」
「…ほう。薄い水色髪、ね…。」
粗暴な男は興味深そうに、シクロスの報告を反芻する。
「シクロスよ。その水色髪のガキとやらは、何か魄能を使って来たか?」
「魄能…ああ、言わレてミレば…アいつ、風か何か撃っテやがッタかな…。」





「…ククク…そうか…。」





「…何よ。1人でニヤニヤしちゃッテ、気持ち悪いワね…。」
邪気に満ちた笑いを浮かべる男に、桃色の邪鬼(イヴィルオーガ)が眉を顰めた。
「いや、なに…そのガキは良いオモチャになりそうだしな。近々、歓迎会でもしてやるかと思ったまでさ。」
「…は?何で直接見てモねえノに、ソんなコト分かルんだ?」
「クク…そいつは、またの機会にな。それより、てめえらのミスについてだが…。」
閑話休題を言い渡され、邪鬼(イヴィルオーガ)達は金縛りに遭った様に硬直する。
人員など幾らでも集められる組織において、仕事を失敗した。
ならば当然、自分達に下される処罰は―
「特に言うことはねえ。また次の仕事でキリキリ働け。以上だ。」
「…へ?」
極刑を覚悟していた邪鬼(イヴィルオーガ)達が、揃って呆気にとられる。
「…エっと…ソレって、お咎めナシってコトでアッテるの?」
「何だ?死刑にでもされてえのか?だったら、遠慮なくぶっ殺してやるが…。」
「わアア、やめロ!いや、ヤメてくれ!許してモラえルなら、バンバンザイだ!」
ほとんどの個体が安堵し浮かれる中、シクロスだけは疑念を拭えずにいた。
「…テめえともアロうヤツが、随分と寛容ダな。何か裏がアるんじゃネえのか?」
「ねえよ、そんなモン。ミズカワマイを尋問しろってのは、テメエらを一度暴れさせてみたくて適当に言っただけだ。『憑代』相手に人質も必要ねえ今、成功しようがしくじろうが、どうでも良かったんだよ。」
粗暴な男は徐に立ち上がり、杖の先端を何度か左手の腹に当てながら続ける。
「それに偶然とは言え、良いオモチャになりそうなヤツも見つけて来た。これじゃ、処罰するのは無理筋ってモンだろ。」
「…じゃあ、水色髪のガキが良いオモチャじゃナカったラ、オレらを処分すル気か?」
「…図体の割には心配性だな、シクロスよ。」
粗暴な男は、半ば疲れた様子で溜息を吐いた。
「まあ、安心しろ。そのガキが期待外れでも、後でテメエらを死刑にはしねえさ。何せ―」





粗暴な男が魄力を込めると、杖に埋め込まれた宝石から、淡い紫色の立体映像が浮かび上がる。





そこには、夥しい打撲痕や切り傷を刻まれた黒髪の小柄な少年が、うつ伏せになって弱弱しく呼吸する姿があった。





「その気になれば、オモチャなんざいくらでも手に入るからな。ククククク…。」
posted by 暇人 at 15:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

光の翼 飛躍の翼10 歓迎の宴1

満月が静かに輝く、午後7時。
「それでは、新しい仲間との出会いを祝して…乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
ヴォルグさんの音頭を皮切りに、住民達は大小様々のグラスをぶつけ合った。
「ソミュティーへようこそー!」
「若者が増えてくれれば、また村が盛り上がるわい!」
「これからよろしくなー!」
老若男女が入れ代り立ち代り、満面の笑みでの挨拶ついでに握手を求めて来る。
無下にもできず精一杯応じていたところ、一段落するまでに10分程が経過してしまった。
「やれやれ…ただ客が入っただけで、よくここまで騒げるもんだ…。」
「折角歓迎してくれてるんだから、もっと楽しそうにしろよ。見世物にされてる訳じゃないんだぞ。」
「酒のツマミにはされてる気がするけどな。」
「…まあ、否定はできんけど。」
俺が冷めた目でこぼすと、兄も少々呆れが宿る苦笑いを浮かべ、周囲を見やる。
20歳以上と見える者は、ほとんどが浴びるようにアルコール類を口にしていた。ビール瓶の1本や2本はあっという間に空にしてのけており、さぞや日頃から飲み慣れていると思われる。
年端の行かない子供にも、大人達を真似てジュースや菓子類を貪る者が多数おり、遠い将来と言わず明日の体調が憂慮される有様であった。





ソミュティーの出身だというティグラーブから、ここでの拠点として実家を貸してやれる事になったから住民達と顔合わせ位はしておけと言われ、足を運んで来ていた。
ところが到着してみれば、俺達の歓迎会として祭りの用意をしたとの事で、この乱痴気騒ぎ。要するに好意的に見れば快く受け入れられており、捻くれた言い方をすれば酒盛りの口実にされていたのだった。
「しかし、すげぇ店の数だな…。」
射的や金魚すくい、焼きそばやカレーや綿あめといった縁日の定番は言わずもがな、カツ丼や牛丼やラーメンといった定食屋向きの店まで並んでいる。
比べる意味はないのを理解しつつ、地元の祭りではどうあがいても太刀打ちできない充実ぶりだなどと感じてしまうのだった。
「こんなにたくさんお店が並んでいると、どこを選んだものか迷いますね…。」
「…私…カツ丼…食べたいな…。」
「げッ、随分とカロリーの高えモンを…オレなンか、野菜炒めでも食えれば十分だゼ。」
「わっ、意外。天くんって、ファストフードばっかり食べてると思ってたよ。」
氷華がわざとらしく目を丸くする。
「はッ。身体が資本ッて言葉、知らねエのかよ。あンな栄養偏りまくッたモン食ってちゃ、自殺行為だろうが。」
「へぇ。見た目不健全のカタマリのくせに、わりと健康志向なんだ。…何かナマイキ。」
「何だとテメエ!」
天城が怒声を上げたものの、氷華は涼しい顔で視線を背けた。
「相変わらずだな、てめぇら…。」
「毎度、このバカ女が突っかかッてきやがるからな!」
「何言ってるんだよ!いつもはそっちが…むぐっ!」
「いつもはともかく、今回は完全にお前が売っただろ。」
余計な火種を煽ろうとした氷華の口を、右手で塞ぐ。
じたばたと暴れ出したところで解放し、大袈裟に溜息を吐いておいた。
「…皆寄りたい所バラバラだろうし、自由行動にするか。」
「ああ、助かるわ。何か喋る度にこの騒ぎじゃ、頭がどうかなりそうだしな。」
すぐ側で嫌味を垂れても、氷華も天城もまるで意に介していない。
数秒睨み合った末、同時に明後日の方へと向いた。





「では、各自好きな頃合でティグラーブさんの御実家に戻ればよろしいでしょうか?」
「ああ。でも、村からは出るなよ。はぐれたりしたら面倒だし。」
「おうよ、了解〜。」
「…あの。水さんの弟さんのこと、村の人たちに聞かなくていいですか?」
「…どう…だろ…?…してもらえたら…嬉しいけど…望み…薄そうだし…。」
「んなもん、村の全員に聞かねえと分からねえっしょ〜。金取られるわけでもなし、当たるだけ当たってみようぜ〜。」
「だな。」
兄達は携帯電話の画像フォルダを、俺と氷華はポケットに収めておいた写真を確認した。
それらは舞さんのスマートフォンにある画像をプリント、あるいは転送した物であり、彼女の弟の水川大輝(みずかわたいき)が写っている。
年齢は俺達と同じく中学2年生。背丈は氷華よりもごく僅かに小柄であり、長身の舞さんとは競うべくもないが、短くも艶(つや)やかな黒髪はなるほど姉弟だと納得できた。
ただ、舞さんから心底愛し気に抱きすくめられて恍惚としているのには、良くて好色かシスコン、酷ければ両方の気配が漂っている。
「…水アネゴ…今更だが、別の画像はねエのか?もッと、こう…弟がシャキッとしたツラしてるヤツは。」
「…ないよ…こういうの…ばっかり…撮ってる…この顔が…一番…かわいいもん…♡」
「…そうか。」
頬を紅潮させ、涎を零さんばかりに唇を緩める舞さんに、兄をはじめ皆が顔を青くした。
こうして弛緩し切った面持ちも、一目で家族と分かる位には似ている。
「…あれ…?…なに…この空気…?」
「いえ、何でもないですよ…世の中こんな見事なブラコンいるんだなと思っただけで…。」
「要らん事言うな、馬鹿!」
「…ぶらこん…か…弟好きの…姉には…褒め言葉ですな…♪」
心底嬉しそうに微笑む舞さんに、言葉にはしなかったが誰もが同時に思った。
駄目だ手の施しようがない、と。
「…それじゃ…私…ご飯…行くね…また…後で…。」
悪寒に震える俺達にまるで構わず、舞さんはスマートフォンを握ったまま人混みへと消えて行った。





「ははは…ブラコンな女子も随分見て来たけど、あのレベルは初めてだわ〜…。」
「それだけ大切な弟君なのでしょう。少しでも早く見つけて差し上げなければなりませんね。」
「…だな。」
ごく短くも重さを伴った返事に、俺だけが兄を見やった。
「…さ、こっちも解散しよう。聞き込みもしてやらないとだけど、折角だし祭りも楽しませて貰おうな。」
「お〜し!そんじゃまず、射的に突撃するかな〜!」
「お、良いな。久し振りに見物させて貰うぞ。」
「オレも、一緒に行かせてください。」
俺を除いた男性陣が固まり、小走りで移動する。
「ねえ、風くん。一緒に回ろうよ。」
「おお、良いぜ。」
「月さんも、一緒に行きませんか?」
「お誘い頂き大変光栄ですが、今回は舞さんに同行させて下さい。色々と、お話を伺ってみたいのです。」
「そうですか。分かりました。」
氷華に見送られる中、お辞儀をして立ち去った魅月さんの背に、安堵を覚えていた。
まだまだ信じて良いか分からない舞さんには、監視を付けておいて損はない。
そしてその役目には、疑念を隠すのが下手な俺より、穏やかな物腰で警戒を抱かれにくい魅月さんの方が適任だ。
「…さて、まずは飯にするか。」
「さんせーい!…けど、どこにしよっか?」
「いらん冒険してスベってもかなわねぇし、無難に焼きそばとカレーで行こう。」
「あはは、風くんってばホントにその組み合わせ好きだね!」
「ん、嫌か?じゃ、飯は別々に…。」
「ああ、イヤなわけじゃないよ!ボクだって焼きそばもカレーも好きだもん!」
「なら、とっとと行くぞ。」
ポケットに手を突っ込み、目当ての屋台へ向かって歩を進める。
「食べ終わったらヨーヨー釣りで勝負しよ!去年の借り、返してあげるよ!」
「ふっ。上等だぜ!」
いつしか村人達の浮かれようを煩わしく思っていたのも忘れ、非日常の賑わいを心底楽しんでいた。
posted by 暇人 at 15:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼

2023年04月20日

【2023年4月追記】飛躍の翼 漆黒の海姫 後書き

夜分遅くに今晩は。
近年七夕の願い事は「借金完済」が2位で「平穏無事」が1位の、『暇人の独り言』管理人です。





気付いてみれば、2019年も既に7月。
新しい年までもう残り半年を切っているとは、言葉を失う程の早さです。
つい先日、2019年おめでとうとか言ったような気がするのに…


この分だと、本ブログ3周年かつ4年目の御挨拶を申し上げる日も、瞬く間に訪れそうだ。
今みたく更新頻度が乏しければ余計に










さて、今回はブログ更新のネタに困るといきなり現れる拙作『光の翼』の後書きを綴ります。
内容は、「漆黒の海姫」についてです。





この話で最も注目していただきたいのは当然、新顔の水川舞(みずかわ まい)。
弟持ちの実姉で美人でブラコンと、作者好みの要素を詰め込みまくったキャラクターです。



私が生み出すキャラクターは大体「こんな奴がいたら面白そう」位のふわふわしたところから出来上がっているのですが、舞は珍しく「誰にどう思われようが自分の描きたい実姉キャラを」と思って創り出しました。





割と早い時期から考えていて、実際に登場させられる瞬間を待ち望んでいたものの、いざとなればどんな出会いと仲間入りをさせるかに悩ませられ、ボツ案も複数出す事に…



そんな苦労も加わったゆえ作者としては大層愛着のある舞ですが、やたらと遅い語り口と凄まじいブラコンぶりは、読者様から好かれるか嫌われるかが両極端になるだろうなと思っております。



有名な作品達の様に人気投票でもできれば、好き派と嫌い派のどちらが優勢か、分かったんだろうけどなあ。










しかしたとえ読者様に嫌がられようと、今後は舞も主人公一派と行動を共にします。
7人組となった風刃達がカオス=エメラルドと舞の弟を無事手中に収められるか、見守って下さいますと幸いです。















【以下 2023年4月追記】




季節外れに暑い4月の夕方に、今晩は。
最近は拙作の改稿版の投稿を欠かしていない、『暇人の独り言』管理人です。



と言っても、現状改稿が済んでいるのはこの次の部分までなので、明日で1日1回更新も恐らく途絶えますが…
まあ、口だけ達者ではなく有言実行の管理人にはなれたはずだし、良しとしましょう。





この「漆黒の海姫」も、元は1話に舞の登場と仲間入りを詰め込んだせいで、2万字近くあったようです。
それが今回掲載した改稿版では2話分合わせても7967字と、随分スッキリさせる事ができました。


無駄な文章をダラダラ書いていただけだった恥ずかしい有様は、二度と振り返りたくもない…





短く直した以外には特筆すべき変化がないので余談ですが、作者は麗奈の台詞「こうしてお目に掛かったのもきっと何かの御縁」が気に入っています。
昔から「何かの縁」という言い方が好きだし、歳を食う程に「縁」の大きさと不思議さは身に沁みるものがあるので。
posted by 暇人 at 16:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 光の翼
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