1980年後半。
日本は未来への希望に満ち溢れていた。モノは飛ぶように売れ、比例するように給料は右肩上がりに。誰もがこのまま豊かな生活を送り続けられると信じて疑わなかった。
しかし、何百年も前からの歴史が物語るように栄華は続かない。いわゆるバブル崩壊が訪れ、その後日本が失われた時を過ごしたのは周知の事実だろう―
このストーリーがTVなどで放映されるたびに我々はこう言う。
‘なんで気づかなかったのかね’
しかし、実は私もバブルに気づかなかった一人である。
1996年7月7日―
日比谷で行われた‘さんぴんCAMP’をきっかけに日本語ラップに火がついた。
そこから遅れること2年―
プロメテウスが人間界に運んだ火のように、その火はイッキに地方都市・水戸をも巻き込んだ。
EL-DORADOからLunchTimeSpeax(LTS)がデビューすると、LTSが出演するイベントは常に満員御礼状態となった。
街は服やレコードを物色する若者で溢れ、需要と供給がマッチし、ショップも増え、比例するように街に活気がでる。
LTSがレコードを出せば、ムーヴメントが起き、LTSは唯一無二の存在となった。誰もが水戸がこのまま右肩上がりで盛り上がっていくことを疑わなかった。
‘バブルは終わって、はじめて‘あぁ、あれはバブルだったんだな’と気付く’と言われるが、あの時の水戸はまさにその通りだった。
そんななか冷静な18歳の若者が一人いた。
DJ TSUBASA、またの名を、いや、現在の名をt-Aceという。
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