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2018年05月05日

【インタビュー】t-Ace 「YUME-NO-ARIKA」

“さんぴんキャンプ”は日本語ラップにひとつの形を提示した。その形は多くの人々を熱狂させ、それまでのアンダーグラウンドミュージック以上の価値観を与えた。ゆえに、“さんぴんキャンプ”という名、そしてあの日見えたユニティやスタイルが忘れ去られることはない。しかし、それから日本語ラップは紆余曲折を描く。様々なスタイル、そこから派閥のようなものまで生まれ、一概に日本語ラップと一くくりには出来なくなった。

『(俺の未来は)“さんぴんキャンプで決定”』/伝言より

“さんぴんキャンプ”から始まったストーリー。そんなt-Aceのこのアルバムこそ、現在の日本語ラップの王道といえる。だからこそ、音楽ライターの二木崇氏は「“次代のヒーロー”」と評したのだろう。

そんなt-Aceは、アルバムをドロップした今、何を思うのか?「曲で伝えたい」というスタイルを尊重し、曲に沿ったインタビューを行った(参考記事: https://fanblogs.jp/hiphopjournal/archive/52/0 )。

01. Ace of One(Prod. ZERO&ILLUSIONISTAS)
―1st Album【孤高の華】のインタビューで、次のアルバムの話をした際に、「孤高の華から次のアルバムを出す間に環境が変わるわけで、何かしら変化があって、そういったことが曲に表れる」とおっしゃられていました。この曲はまさに現在の決意表明的な曲ですか?





そうですね。俺の曲は一曲一曲にコンセプトがあって。たとえば、Agehaだとキャバ嬢とか風俗嬢へのメッセージっていうコンセプトが明確だから。この曲は、コンセプトっていうよりは、「俺はこういうことを思っている。基本的にこういう思考だ」ということを歌っています。





―そのなかに『アングラ気取り自己満か?』という言葉が凄く印象に残りました。この前のインタビューでもそういうスタンスは感じましたが、これはズバっと言っておきたいと。





そうですね。この言葉には凄く色々な意味があるんですけど。ある意味身内に対してもそう思っている。ドコにもそういう人たちいますけど、やるやる言ってやらなかったり、ずっと同じ事言ってばかりだったり。実は身内の近い場所にも言わなきゃいけないんだけど、別にオレが言う事じゃないじゃないですか?(笑)。だから、このラインを聞いて、なにかを感じ取って貰えればと思います。





―俺は違うぞ、やりたい事やって、ビジネスもきちっとやるという宣言ですよね。そういう攻撃的なリリックでありながらも、『孤独が恐怖』っていう繊細さもあって。





【孤高の華】の時と変わっていないっていうのを出したかったんですよね。OVERHEATと契約して、関わる人間が変わったからって、オレってゆう人間とか音楽で伝えたい部分とか芯とかは変わってないよって。そこまで伝わるかはわかんないっすけど。





―トラックもHIPHOPの王道で、これをINTROにもってくる所で、t-Aceの姿勢を感じました。





そうですね。HIP HOPって、変則とかバウンスとか色々なのがあるじゃないっすか。俺のなかでのHIP HOPの王道はこうゆうトラックで。最初にあえてこれを持ってきました。





02. 日陰のヒーロー feat. KEN-U(Prod. BACHLOGIC)
―これは聞いた瞬間、周りを思い出したんですね。それは水戸っぽい音とか陳腐なものじゃなくて、僕の中学時代のサッカー部の仲間は、高校で結構バイクにハマって、皆サッカーは辞めちゃって。で、20歳まではたまに会って飲む機会もあったんですけど、東京出てきてからは接点なくて。いまは土方とかトラック運転手とか工場で働いているみたいなのですが、そんな彼らの絵が浮かびました。





リリックの内容と多少ズレていたとしても、その内容に近い友達って誰でも周りに一人や二人はいると思うんですよ。そういう絵が浮かんだなら、共感して貰えたってことですかね。





―思い描いた未来と違かったとしても、プライドを持っていて欲しいって歌っているのかなと感じました。





何が正しいかって人それぞれだと思うんですよ。別にスーパースターが正しくて、普通の人が悪いか?って言えばそうではないでしょ。けどね、当人たちはそれでヘコんでたりすんですよ。何十年したらどうせ皆死んじゃうのにさ。価値観なんてそれぞれだし、オレはお前の事すごいと思ってるのに…そんなの気にしなくて良くない?って俺は思う。





―逆にこうも思います。50歳くらいになって、‘政治が悪いから俺はこうなった’とか‘昔は悪かった’とか息巻いたりするのは見たくない。それはどう思います?その時点で日陰のヒーローにはなれない感じですか?





いや、けどね、酔っ払ってクダまいているおっちゃんも、たとえば結婚して子供がいたり、なんかしら仕事頑張っていると思うんすよ。多分、クダまいているおっちゃんのことをヒーローだと思っている人はいて。それは、やることやっている部分があるわけじゃないですか。そこにプライドを持って欲しいんですよ。若くてもおっちゃんでもビシっとしようぜって。





―それは凄くいい発想ですね。居酒屋で聞かせたい。それにヴァースが【その男/LTS】から始まる遊び心もいいですよね。





そうですね。【その男】すげぇ好きなんですよ。ミックステープとかクラブでもすげぇ二枚使いとかしましたし(筆者注:t-Aceは元々水戸のトップDJ)。比喩がいいじゃないっすか。【その男】って自分のプロフィール歌っているわけだけど、第三者目線で書いていて、ゴッチ(GOCCI)なんかは完全に第三者目線で。トラックも好きだし。





03. 空(Prod. DJ MARK)
―リリックの内容的に日陰のヒーローから空に繋がるのかなって思っていて。これって働く男たちの辛さじゃないですか。





そうですね。そこはあえて。日本語ラップのリスナーの層って、大学とか専門学校とか(もしくは)東京とかに出てきて、バイトをしながら夜な夜なクラブとかで遊ぶ若い人たちが多いと思う。でも、その層って、いつまでも続かないっていうか。30歳くらいを過ぎると日本語ラップを聞かなくなる人多いですよね。ジャンル的に見られて。だから、30歳をこえても聞ける曲っていうのを作りたかったっていうのもあるし、逆にまだ働いていない子たちがそういう世界をわかればいいかなって。





―社会に出たら大変だぞ、っていう曲でもある。





「うるせぇ、俺はそんなのにはなんねぇよ」って俺が十八歳、いや、十八歳の時は働いていたから、十五歳でこの曲聴いたらそう思ったはず。





―それでも、十五歳の自分にも伝えたいのですよね?





難しくて伝わらないだろうけど、言わないよりは言った方がいいし、10人いて、1人でもわかればいい。





―日陰のヒーローは明るい音ですけど、空はサントラの郷愁的で渋いシーンが見えそうで。つくりわけした意図みたいなのは?





二つの曲は並びにしたくて。言っていることも似通っているから、展開をつけたくてそうしてます。





―凄く印象に残ったのが、『誰かのために働け Hoh~』でNaughtyみたいに盛り上げるわけですけど、‘ヘ〜イ ホ〜’とかじゃなくて、メッセージで盛り上げていますよね。今までもメッセージでフックを作るアーティストはいました。たとえば、K DUB SHINEだったら‘殴られてそうな子どもがいたらすぐ 俺に言え’というように。けど、正直、そのラインは少し押し付けがましいじゃないですか。ただ、t-Aceのこのラインはスッと入る訳です。これって新しいですよね?意識しました?





全然関係ない話なんですけど、ダウンタウンの松ちゃんが「笑いは緊張と緩和」って言ってて。俺のもそうで、曲のなかに痛い部分と明るい部分があるんだけど、バースやトラックに陰があって、逆にそうやって盛り上がれる部分が作れる、どっちも生きる。Liveで『誰かのために働け』って言って、お客さんがHoh~って返してきたら、それは凄い音楽的に良い事だと思うんです。そのラインに悪い影響はないじゃないですか。なんで、それを作ってみました。





―長渕剛さんがお好きっておっしゃられていたじゃないですか。そういう長渕テイストが生んだものでもあるのでしょうか。





染み付いているものはあるんじゃないですか。ただ、長渕さんを意識して作ったりはしてないです。





04. I wish(Prod. ILLUSIONISTAS)
―ここで3曲目よりアルバムの流れを落として。映画でも真ん中で一回落ちるじゃないですか。まさにそんな流れで。





ぶっちゃけ吉田クン(OVERHEATスタッフ)の案でも迷って。この曲は最後の方にもっていくか迷ってた。I wishはアルバムのなかで一番気持ちが強くてディープで。フックがどうかとか考えてない。ひたすらメッセージを押している。





―「1回や2回じゃわかりにくい曲」っておっしゃられていましたが、確かに1ヴァース目とか、かなり抽象的じゃないですか。2ヴァース目は1ヴァースよりは見えてくるんですけど、「本気で望めば願いに近づける」をそこまで押し出していない。これには何か狙いがあるんですか?





オレがOVERHEATと契約するちょっと前の話で。【孤高の華】を出して、別の仕事してたらOVERHEATの事務所近くの坂で石井さん(OVERHEAT社長)にたまたま会って。それがきっかけで今ここにいる。けど、俺も次の舞台に行きたいって願っていて。願っていても必ずしも、こうやればこうなる(というマニュアル)はない。予期せず願いが叶うこともある。「俺は偶然も意味があると思うんだよね」と石井さんに言われたんだけど、ホントそうだと思う。





―ある意味、運とか偶然を歌うから抽象的にしたかったっていう。





そうですね。【孤高の華】からずっと俺を見てきた人たちには伝わると思うんですけど、このアルバムから俺を知る人たちには伝わらないかもしれない。けど、それも面白くないですか?‘何言ってるかわからないな?’と思って【孤高の華】を聞く。そしたら、繋がるっていうね。





05. Over The Day feat. LUNA(Prod. MURO & SUI)
―今まで以上にメロディラスな感じがしたのですが、何回も聞くと本当の味がわかるようにも思います。個人的には今回のアルバムで一番、どう表現していいかわからない曲というか。新しさすら覚えるのです。





このトラックは、グルーヴは一緒だったんですけど、元々はドラムの打ち込みとか全然違かったんですよ。ゴツゴツのHIP HOPでMICROPHONE PAGERで使うはずだったヤツらしくて。MUROさんが「t-Aceっぽいトラックがあるから、これがいいんだよね」って言ってくれて。女性コーラスを曲で使いたいって思ってたっていうのもあるし。この曲はSUIが関わっていて、頭のコーラスとかフックの指示とか全体の構成とか、ドラムの打ち込みもそうだし。多くの人たちが関わっている曲っていうのもあるから新しく感じるのかな。あとメッセージの対象もフラットだしね。





06. Mr.Pen(Prod. Rhettmatic from Beat Junkies)
―『静かにアロマに火を灯す ソファーに座り 闇をほどく(中略)いまだ背中合わせの孤独』のラインから、リリシストにスイッチ入れたと思います。





リリックはMr.Penっていう題名だから詩っぽく書きたいなって。トラックは俺がチョイスした訳じゃないんですけど。けど、それが今後の鍵で。いままでは、全部自分でやっていたから、トラックもどこかコード進行とかBPMとか雰囲気が似てるんですよ。けど、あのトラックは今までの作り方だったら使ってない。でも、こうやってアルバムとして並べるとね。‘こういう曲があるから、他の曲も生きるんだ’って言われて、その時は全然そういうことに気付いてなくて。もちろん、トラックを聞いて、このリリックで行こうと思いました。こういうガヤガヤしていないトラックの方が、情景を作りやすいし、聞かせやすいから。





―またこの表現を使わせてもらいますが、水戸っぽいじゃないですか?もちろん考えてないと思いますが、水戸っぽさとかは意識していないですか?





昔の水戸っぽいことをやりたくないけど、水戸の奴等は超反応してました(笑)。





―(笑)。それで『ハートがない 痛みがない 人間らしさがない』『金だけ持ってる社長』とか、世にも向けつつ、そういうことを言えないアーティストに『どの歌もコイバナばっかそんな年がら年中恋するか? 分かりやすい その方が金にかわりやすい』とも歌っています。アーティストに対して、‘もっと言うことがあるでしょ?’というメッセージもあるのですか?





アーティストっていうかね、俺は誰かが作ったありきたりな恋愛の歌ばっか歌っている奴等はアーティストじゃなくて派遣社員だと思っているから。これは、そうゆう作品をつくってるレコード会社に向かっていっているんですね。1,000万円金かけて曲作って、1,200万円回収できたら、それでいいのか?って。肝心の中味は?って。資本主義だし、どの仕事もそうで、俺やOVERHEATもそうしなきゃいけない部分もあるんだろうけど、それだけだったら音楽じゃなくてもいいと思います。もっと大事な事があるかと。





―逆に、恋愛以外の曲もしっかり歌えて、詩を大事にして主張もしつつ、かつビジネスで成功を収めているというリスペクトできるアーティストはいますか?





そういったしっかりとした歌を歌っている人は少なくないかもしれないけど、それだけでは成功じゃなくて、たくさん広められなければいけないじゃないですか?そういうビジネスとスタイルも含めた意味だと長渕剛さんとかTHE BLUE HEARTSとかサザンオールスターズとか、最近だとかりゆし58が好きで。オレが知らないだけでたくさんいると思いますが。





―現状を見れば一目瞭然ですけど、日本語ラップ界ではいないですね。





JAY-Zみたいな人はいないですね。





―AK-69は「今まで貫いてきたアティテュードでお茶の間を騒がせることができれば、これから後に続いていくヤツらのためにもなる。先にシーンを作ってくれてた人たちの功績、あとに続くヤツら……そのすべてにもっと脚光を浴びさせるために」っておっしゃられていて。そういう思いはありますか?





もちろん、ありますね。それは日本の音楽の質の問題を変えないといけない。俺が、どんどん前に出て、世間に理解してもらって、後から出てくる本物の奴らが出やすくなったらいいと思ってる。





07. Ageha(Prod. ZERO)
―ストーリーテラーな曲です。この辺のストーリーに強いのは環境でしょうか?





うん。この世界はただのトラウマです。母ちゃんは今でもそうですけど、ずっと水商売だから。産まれてから会わなくなるまでもね、離婚協議の裁判のときに、今後俺がどっちについてくのかってのを決めるために、親父と母ちゃんの家にそれぞれ二週間ずつ行くんですよ。18時くらいになると母ちゃんいなくなって、夜中ベロベロで帰ってくるんですよ。そういうのが嫌いだから、こういう曲書くのかもしんないっすね。女ってのでね、女を武器にして、ドレスとか着て、全員とは言わないけど、ほとんど下心ある奴等を相手にして、酒飲んで金取るってどういう商売って…って。世間的にも一般的にもアリなことなんですけどね。オレも行くし。でも、子供の頃自分がそういう環境だから、過敏に反応しちゃうんですよ。金と女って。





―Agehaたちに対する攻撃的な曲でもありますよね?





それでいいの?って。多分、キャバクラやってる子たちも「これでいいのかな?」って思いながらやってるんですよ。たとえば、昼は資格とるために学校行ったり、働いたりしていて、夜はお金が必要だからキャバクラで働く。キャバクラを一生続ける気はない。ババアになったらできないっすよ。皆、キャバクラで食っていこうとは思ってないし、そこに不安を持っているでしょ。ママになる人たちは別だけど。





―曲を聴いて40,50歳になったAgehaの続編が聴きたくなりまして、彼女達はあの後どうなるんですか?落ちぶれるストーリーしか思い浮かばない。





正直、大部分はそうじゃないっすか?片田舎のスナックにいるか、それか若い子達使って何店舗も経営するママになるかっすよね。ソレは相当大変だと思うけど。そういうことを攻撃的かもしれないけど、言っておきたいって。夢の途中で金のために始めた事なのに元をダメにしていいの?って。そこもYUME-NO-ARIKAにつながる部分。





08. Bubble(Prod. DJ WATARAI)
―今までのt-Aceにない曲で、【拍手喝采】とかのパーティーチューンと一緒に流したい曲です。こういう曲にチャレンジする難しさってありましたか?





いや、そういうリリックっていくらでも出てくる。日常生活がフザケまくってるから(笑)。





―確かに、このリリックは酷い(笑)。





(笑)だから、いくらでも出てくるんですよ。





―じゃあ、フックも含めて、今までで一番簡単だったのですね。今まで、あまりこういった曲をやらなかったのは、盛り上げるとかより、基本的にはメッセージを送りたいからですか?





そんな肩肘張らずに行こうぜっていうのもあるし、もしオレがこうゆう曲だけだったりしたらオレにはただのちゃらいラッパーに聞こえる。だから【孤高の華】ではやってないし。これも「緊張と緩和」と一緒で、他を締めるためアルバムの中に一、二曲くらいならあってもいい。





―けど、僕はこの曲凄く好きで。水戸のクラブとかで回ったりしそうじゃないですか?





ウケるかなぁ?ああいうトラックだったら、オートチューンかけて、フックでメロディ作った方が今っぽいかなとか作り終わってからは思った。ってか、最後の方とか、「クラブはうるさいからいい」とか言ってるし、かからないでしょ(笑)でもかけて(笑)。





09. 伝言 feat. YOUNGSHIM(Prod. I-DeA)
―加藤ミリヤとか好きな人にも聞いてほしい、というより受け入れられる曲だと思います。ここまでキャッチーな曲は今までにないですよね?





まさにそうですね。こういうのもこれからどんどんやっていきたいんですよね。これも、さっきの話と一緒で、こうゆう曲しかなかったら、オレの感覚だとただの普通の人で。今までの経緯があってやるんだったら良いと思う。





―加藤ミリヤとか嫌いだと思うんですけど、僕はいま加藤ミリヤと比べたわけで、その抵抗感ってないですか?





全然ないですし、加藤ミリヤも嫌いじゃないっすよ。加藤ミリヤのこないだ出たアルバムとか全体的にあのクオリティーであの曲数はうらやましいと思う。BACHLOGICとやっている曲とか凄い良くて、探究している部分はわかるし、POPの中ですごいいいものもできてるなぁと。こういった曲しか聴かない人たちが、もうちょっとHIP HOPというか、しっかりとした歌詞のある世界にも興味を持ってくれればなって思います。





―その辺の層へのアプローチでもある?





そうですね。





―一方で、リリックはt-Ace色が前回で。ただ、主張っていうより、僕がt-Aceになれる。つまり、入り込めるのです。別に僕はおばあちゃん子ではないのですが、それでもあのヴァースはグっときて。





うん。これはラジオとかでかかって、ここから俺に入ってくる人もいる曲だと思うから。でもね、これビートが変われば、普通のHIP HOPですよ。トラックとかフックが違うだけで、言ってることは同じでも、こんな変わるんだよって。トラックがもろHIP HOPなだけで、さらに言えばHIP HOPというワードで「いや、いいや(聞かない)」ってなる人たち多いじゃないですか?だから、皆が聞きやすいようなトラックを使って。けど、言っていることは変わらない。トラックをキャッチーにしても、リリックは芯はキャッチーにはしない。





―こうした方が聞きやすいとか考えませんでしたか?





うん。それは全曲考えていますね。聞いて絵が浮かぶとか、リリックを理解できるとか。そのために、とにかくはっきり発音してラップを聞かせるとか。格好良いフロゥとかももっとやりたいんですけど、やると韻が無理やりだったり、聞きとりづらかったりになるから、それは避けました。それかスキルがないのか(笑)!?





10. ミルクティー feat. miray(Prod. I-DeA)
―これは単純に原曲が好きでいつかやりたかったというパターンですよね?どういうシチュエーションで聞いていたのですか?





UAのなかでは一番好きな曲で、17歳ぐらいの時に聞いていて、これはクラブでもかけてた。リリックの内容はその頃の話ではなくて、ミルクティーを書いてる時のシチュエーションで。





―UAさんのミルクティーの好きな部分というのは?





なんだろ〜な。めっちゃノロケの曲ですよね?けど、トラックとかリリックはノロけじゃなくて、深くて音楽的な世界じゃないですか?それがね、普通のポップと違ってグッときたんですよ。コッコとかもそうですよね。コッコと曲やりたいなぁ。





―ただ、僕はこれを聞いて音楽業界によくある恋の歌だとは感じませんでした。カップルが見つめあってどうこうではなくて、日常のシーンがみえたのです。





いっつも‘一緒にいたい’訳じゃないし、‘そばにいたい’わけでもない。いっつも‘会いたくても会えない’わけじゃない(笑)さぁ〜せん(笑)。けど、今の日本の音楽はそういう歌詞が大半で、わかりやすさばっかりで。だから、Mr.Penで「そんなに恋ばっかりしてるか?」って言っていて。





―いつもドラマのような恋があるのではなくて、恋は日常に自然にあるから日常のシーンが浮かぶ。当たり前ですよね。これは他の恋の歌と比較して欲しくないですか?





そうですね。恋愛って皆するでしょ。けど、恋愛のリアルってこういうことでしょ?って。『俺に似合うのは上手い定食屋』って言ってるけど、ミルクティーならもっとおしゃれな表現(筆者注:たとえば‘キャンドルのテーブルにフォークとナイフ’など)もできる。けど、そうしたらリアルじゃない。ドラマのような空想の世界の話しばかりだとアホが増えるし(笑)。





11. 雨 feat. こだま和文(Prod. 朝本浩文)
―Jazzy HipHop的ですよね。こういうのも新しくないですか?





新しいですね。偶然できた曲です。まず、I wishで書いた通り、石井さんに会わなかったら全てがなくて、当然、ミルクティーも生まれていない。元曲となった朝本さんの曲を聞いてたら、じいちゃんが亡くなって。それで、じいちゃんの曲を作って朝本さんの曲にラフにのせたら朝本さんがトラック作り直してくれるってなって。UAさんのミルクティーのオリジナルのプロデューサーは朝本さんだし。さらに、【MUTEBEAT】つながりでこだまさんにもトランペットで参加してもらう事になって。【手紙】のネタが【MUTEBEAT】なんですよ。本当に色々な縁の奇跡があって、こういうのを作ろうと思って作った曲ではなくて、偶然が大きい。





―こういうトラックは今後もチャレンジしたいですか?





トラックは本当に色々なトラックをやりたい。Timbalandみたいなバウンスビートとかもやりたいし、幅広くやりたい。サウスとかって、アルバム全体のドラムの質感とか打ち方とかラップが似ているものが多い。そういったものよりは幅広く。だから、JAY-Zは凄いと思うんですよ。俺もバリュエーションを増やしたいっすね。





―この曲では葬式の裏話、お金のことなどふれていますよね。けど、それがリアルじゃないですか?最近、問題になっていますけど、年金もらうためとか、面倒臭いとかで埋葬しない人もいる。そういう今の社会をどう思いますか?





恵まれているんだろーなって。敬意を持てないって、別の場所で愛情を与えられ過ぎて生きてきたのか、単純にバカなのかどっちかですよ。けど、ほとんどが恵まれているから、なにも感じないんだと思うんですよ。ホームレスの人生だろうと、大臣だろうとね、俺のじいちゃんは90歳で死んだんですけど、90年間生きるって凄いことだと思いません?そういう90年という長い歴史が終わる時に、お金がなくて葬式をできないのは仕方がないにしても、敬意を持てずに何もしないっていうのは。何も思わないのかよ?って。切なくなる。





―長年の歴史、そこには自分もいるのに、敬意を持たずに金の話かよってことですよね?





俺がガキなのかもしれないけど。あと何年かしたら、お前もそんなこと言ってられないよって言われたら、俺もなんともいえないし、わかんない。けど、今はそう思う。





―『焼かれるのは可愛そう』とかグッときましたね。こういう古き良き日本人の価値観をt-Aceは残している、祖父母から受け継いでいるのかなと感じました。





いや、俺もビビったんですよ。人が死んで焼かれるのはあたり前じゃないっすか。斎場行って(故人を)焼くことに違和感はないっすよね。けど、ばあちゃんがそう呟いた瞬間にリアルになった。ばあちゃんとじいちゃんは60年くらい一緒にいる。60年一緒にいた人が死んで焼かれる気持ちなんて、その時にならないとわからない。単なる一言だけど、グっときた。





―こうやってお話を聞くと、リリックがより深く感じます。





どうですかね。俺は素で書いているだけで。けどね、深いって感じるのは、それだけ素の曲が世の中にないってことじゃないですかね。詩に対する書き方や理解度が低すぎると思うんですね。そりゃ、これだけAKB48とかアイドルだけが売れたらね・・・・。またまたさぁ〜せん(笑)。





12. あの丘 feat. MOOMIN(Prod. I-DeA)
―『シングルマザーの母親も、リストラされた親父も』という暗い入り方ですが、明るい曲になっています。ムーミンが歌っているということで、それこそ【湘南の風/応援歌】みたいなキャッチーな曲にも聞こえます。ただ、言っていることは、甘いものではなくて、いまの世の中の現状です。それをふまえた上で、聴いている人たちを明るくしようとしている。それが差別化にもなっていると思います。





そうですね。そこが差です。





―『これは今日だけだ また明日から戦うんだ それでまた いつか疲れたらあの丘に』にメッセージが集約されていると思いますが、その意図は?





何でもそうですけど、癒される時間とか楽しい時間がある。けど、そうじゃない時間があるから楽しいんですよ。ただ、この切り替えが一番辛い。世の中でいう日曜日の夜が一番キツイ。明日から仕事だよーって。けど、そこに甘えないで、ちゃんと次にいけよっていうそういうメッセージがありますね。





―その時間にこのアルバムがあればというのも狙ったのかなと。





まぁ聞いて欲しいですね(笑)。笑点とかサザエさんとかちびまる子ちゃんとか見ると、完全、明日から仕事だってヘコミのスイッチ入りますね。もう、日本人洗脳されてますよ(笑)。この年になってもそう思うんだから、あの番組がある限り、ずっとそう思いますよ。俺ね、笑点とか、だからあの時間にやってるんじゃないかって。





―明日から仕事という嫌な気持ちを笑点の笑いで吹き飛ばす―。もう笑ってくれと。





(笑)そうそう。だから、そんな役にまわる曲になってくれたらと思います。





13. 本音(Prod. JASHWON)
−ドレのウェストコーストっぽい音で、そんなトラックに呼応するように、このアルバムで一番悪っぽい曲だと思っています。ただ、ここまで通してアルバムを聞くと、あまりそういうニュアンスはなかったので、今回のアルバムでは外してくるかなとも思ったのですが、それでも「曲だけじゃ伝わんない」という曲を入れた理由というのは?





アルバムにまとめる作業で、これってコーラスもオートチューン使っていて今っぽいじゃないですか。リリックも悪く言えば、よくラッパーが言ってそうなことで。それを、あえてわざとやってます。そうゆう曲が確実に好きな層もいるから。





−あえてやってるけど、自分のやりたいことなんですよね?





そうです。本音のリリックも曲もすげぇ好きだし。こうゆうHIPHOPが基本だし、いい意味で本音はあんま簡単に言うなよって。





−伝言とかミルクティーとかと対照的で、尖ったt-Aceの一面が見えるというか。





日常生活とかでもそうで、弱いから、尖っている所を見せたりしないと自分が不安になるんですよ。で、俺と同じようなことを感じている奴もいると思う。ラッパーじゃなくても、周りに対してそういう一面を出していないと不安という奴がね。もちろん、それが正しいとは思わない。人に害を与えず、いい結果を生んでればいいけど。





14. YUME-NO-ARIKA(Prod. LostFace)
−色々な意味で、アルバムの集大成だと思います。





こうなりたいっていう夢があって、でもまだ現状ラッパーをやれてて、少しだけ叶った夢もあるし、どうやったら叶うのかわからないような夢もあるし。それがいまの現状っていうか。1st Album出してから2年経った俺の気持ちっていうか。





−まだまだ見えてこない夢の在り処に対する曲ですよね。





そうですね。どこまでいってもそうだと思うんです。JAY-Zにしたって、まだこうなりたいとか、不安もあると思うんです。それは一生続くんじゃないですかね。俺がどんどんヒットして、お金をたくさん手にいれて、生活になにも困らなくなったって、不安なことはあるし、金じゃかえない欲しいものはあるし。それはずっと続くと思う。10代で医者とか弁護士とかラッパーになりたいとかって人たちがいて、そのなにかを目指す気持ちはどこまでいっても変わらない。それが俺の現実だから、そういう詩を書いてる。





−ここまで聞いて思ったのが、CELORYさんのアルバムやMUROさんのアルバムと一緒で、t-Aceもアルバムという映画を作ったのかなって。ただ、CELORYさんなら【灰のように】とかMUROさんなら【Hall Of Farmer】とか入れてくるじゃないですか。ゆったりと終わっていく。けど、Album【YUME-NO-ARIKA】は最後にもう一回ギアが入って、スピードが上がる。



YUME-NO-ARIKAのグルーヴとかBPMとか、あれが一番伝えやすいスピード感で、ラップの仕方や文字の詰め方もそうで、テンションとか勢いもそうで、この方が自分的にメッセージを伝えやすい。





−まさにt-Ace色なエンディングなのですね。今回のアルバムを分析すると、【孤高の華】の時にもおっしゃられていたように、あの頃から当然変化がある訳じゃないですか。その変化が見えるのは日陰のヒーローなどで、一歩引いた所から曲を書いている。一方で、【孤高の華】と変わらず反骨心ある曲も多くて。このバランス感覚は凄いと思うのです。新しさもみせつつ、維持もしている。でも、t-Aceは「もっと前に進むなら早くこの歌ってる内容からズレないといけないんだろうと思う。そんな挑戦みたいな気持ちも含め」とブログに綴っているじゃないですか。このバランスは理想ではないのですか?





このアルバムが出て発売されるということは当然聞く人がいます。【孤高の華】を出した時がこれくらいだとしたら、Album【YUME-NO-ARIKA】はもっと広がっているんです。次はここからもっと広げなければいけないから。それはクオリティーだったり、もっと普遍的な書き方をするとか、対象とする人たちをもっと大きくしたりとか広げる方法は色々あると思う。それを言いたくて。Album【YUME-NO-ARIKA】で5の評価を得て、次も5の評価じゃしょうがないから。





−別にこのバランスや現状に不満がある訳ではない?





はい。なんでブログに書いたかというと、Album【YUME-NO-ARIKA】はベストをつくしたし、完成した時点では俺のベストなんですよ。けど、レコーディングしてから時間が経った今ではベストじゃない。音楽を聴いたり、Liveを見たり、自分のアルバムを何度も聴くと、「もっとこうすればよかった。次はこうしよう」って思うんですよ。次へのバイタリティに溢れている。今の段階でそれが相当あるから。その想いをブログに書いたんです。





−OVERHEATと契約して、色々な人たちが関わって曲を作っている訳ですけど、昔より窮屈な感じはないですか?今のほうがやりやすいですか?





今のほうがやりやすいし、気づくことが多い。さっきのMr.Penもそうだし、ジャケットひとつにしてもそうで、俺が選んだ訳ではなくて。そういうクオリティーも重要だと思うんですよ。一人だと固執したりして、それがいい面もあるんだろうけど、やっぱり皆がいると気づくから。一番重要なのはメッセージも含めたクオリティーなんですよ。俺がトラック作って、ミックスやって、それを日陰のヒーローと同じクオリティーまでもってこれるかって言われればすげぇ時間がかかる。その道にはその道のプロがいるんですよ。そうゆう制作にかかわる人をもっと増やしていきたいなぁ。





−メジャーで上手くいかないアーティストとは違いますね。では、次のアルバムに対するバイタリティに溢れていて、イメージもある。今回の素晴らしいバランス以上のものを作れる自信に溢れているわけですね。





リリックややりたい事はいっぱいあります。それが時代にマッチしているかとかも考えてやります。立ち居地とかで書くことも変わるし、どんなトピックをみつけてやってくかで。Album【YUME-NO-ARIKA】の14曲が全てじゃなくて、アイデンティティーはもっとある。t-Aceはこういうラッパーって決められたくないんですよ。俺が‘水戸っぽい’とか嫌いなのは、そういう風に決められたくないから。水戸でやっているアーティストの音はああいう音が多いから、水戸出身はこういう音だって決められちゃうような世の中でしょ。そこにしばられたくないから、色々なことをやりたい。水戸で収まるわけじゃないし。もちろん、リリックがt-Aceっぽいっていうのは全然いいんですけど。 t-Aceはこういう音だよねとか、こういう事しか言わないとか、こういう人たちとしかやらないとかそういうのをもたれたくない。基本的にダレにもジャンルにも偏見がないから、何でもやりたい。固定観念や偏見をもたれたくない。(了)



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  17. 17. KREVA、盟友V6井ノ原快彦に「フリースタイルやらないの?」と聞かれて?
  18. 18. Zeebra、次女のNiziuリマの成功を自伝で予言?「ルックスもママに似て、ちょっとかわいいかもしれないから、それが将来的に身を助けてくれるかも」
  19. 19. Billboard World Digital Song Sales Chart『WORLD MONEY TOMORO feat. Nice & Smooth』が世界第1位
  20. 20. ZeebraとKJ(DragonAsh)の現在の関係性を過去の記事や動画から読み解いてみた【読者投稿】
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