† Michael Barr and Charles Wells, Toposes, Triples and Theories, Springer-Verlag (1985), Republished in:
Reprints in Theory and Applications of Categories, No. 12 (2005) pp. 1-287
トポスの定義については以下の文章に書いた.
トポスの定義 ── 部分対象関手
トポスの定義 ── 羃対象
これに関連して, 自分の理解の不足から圏論を最初から学び直す必要が生じて, 復習したことを以下のメモにまとめた.
基本の復習:
(1) 引き戻し
(2) 図式
(3) 米田の補題
(4) 米田の補題 (続き)
(5) 普遍元
(6) 普遍元 (続き)
(7) 図式の極限
(8) 図式の極限の例
(9) 図式の余極限
(10) 図式の余極限の例
(11) 米田埋め込み
本の中で, $\mathscr{C}$ を小さな圏としたときに, 集合の圏 $\mathbf{Set}$ に値をとる関手の圏:
\begin{equation*}
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\E = \Func{\Opp{\C}}{\Set}
\end{equation*} を扱っている. 圏 $\E$ の対象は $\Opp{\C}$ から集合の圏 $\Set$ への反変関手の全体であり, 射は関手間の自然変換である. 慣例に従って
\begin{equation*}
\Nat(F, G) = \Hom_{\E}(F,G) \qquad ((F : \Opp{\C} \rightarrow \Set), (G : \Opp{\C} \rightarrow \Set) \in \Ob{\E})
\end{equation*} と書く.
このとき次が成り立つ.
1 定理. $\E$ はトポスである.
この定理の証明は段階を踏んで行われる.
● $\E$ が集合の圏 $\Set$ と同様に完備かつ余完備であることを示す. つまり, $\E$ は任意の極限と余極限を持つ.
これを命題として述べるために, まず評価写像を定義する.
2 定義. 圏 $\C$ の各対象 $C \in \Ob{\C}$ に対して, 写像 $\lambda C : \E \rightarrow \Set$ を,
\begin{alignat*}{2}
\lambda C(F) & = FC & ~ & (F \in \Ob{\E}), \\
\lambda C(\gamma : F \rightarrow G) & =
(\gamma C : FC \rightarrow GC) & \qquad & (\gamma \in \Nat(F,G)).
\end{alignat*} によって定める. この $\lambda C$ を 評価写像 (evaluation mapping) と呼ぶ.
その上で次の命題を示す.
3 命題. $\C$ の各対象 $C$ に対して, 評価写像は全ての極限と余極限を保つ. すなわち, $\E$ における極限と余極限は点毎に計算できる. 特に, $\E$ は完備 (complete) かつ余完備 (cocomplete) である.
● 命題 3 から次を導く.
4 系. $\E$ の各対象 $E : \Opp{\C} \rightarrow \Set$ に対して, 関手
\begin{equation*}
- \times E : \E \rightarrow \E
\end{equation*} は全ての余極限を保つ. すなわち,
\begin{equation*}
(\Colim D) \times E = \Colim (D \times E)
\end{equation*} が成り立つ.
● 部分対象関手 $\Sub : \E \rightarrow \Set$ が極限操作を保つことを示す.
5 命題. $D : \I \rightarrow \E$ を $\E$ 内の任意の図式とする. このとき
\begin{equation*}
\Sub(\Colim D) = \lim \Sub(D)
\end{equation*} が成り立つ.
ここで, 左辺では図式 $D$ の余極限を取り, 右辺では図式 $\Sub(D)$ の極限を取っているのは, $\Sub$ が反変関手のためである.
これらの準備の元で, 定理 1 が証明されるが, 本の中では証明の概略が示されているだけで, 細かいところは読者の問題として委ねられている.
このため小さな命題をいくつもきちんと証明する必要があった. それらの中で興味深かったものや, 自分にとっての課題として残っているものを書き留めておく. とりあえず列挙のみ.
○ 関手圏 $\E = \Func{\Opp{\C}}{\Set}$ がトポスになることの証明の基本的な考え方は, 各々の関手に関する議論を, 既にトポスであることがわかっている $\Set$ での議論に還元して行うというものである. このために, 命題 3 (これは個々の計算を対象毎に行えることを保証する) が用いられる.
その意味で命題 3 は有用だが, この命題における評価写像が有効に働く背景には, 次の命題の存在がある.
命題. $\A$, $\B$ を圏とし, $D : \I \rightarrow \Func{\A}{\B}$ を関手圏 $\Func{\A}{\B}$ 内の図式とする. $\A$ の各対象 $A \in \Ob{\A}$ について, 図式 $D$ から $\B$ 内の図式 $DA = D(-)A : \I \rightarrow \B$ が導かれる. このとき, もし図式 $DA$ の極限 $\lim DA$ が $\B$ において存在するならば, 図式 $D$ の極限 $\lim D$ も $\Func{\A}{\B}$ において存在する.
系として特に次のことが成り立つ.
系. 上記の命題と同様の前提の元で, さらに圏 $\B$ が完備であると仮定する. このとき, $\B$ に値をとる関手圏 $\Func{\A}{\B}$ も完備である.
この命題における $\A$ を $\Opp{\C}$ に, $\B$ を $\Set$ に置き換えて命題 3 が導かれる.
○ $\E$ において次の命題が成り立つ.
命題. 任意の関手 $F : \Opp{\C} \rightarrow \Set$ は, $\E$ における表現可能関手の余極限である.
ここで, 関手 $T : \Opp{\C} \rightarrow \Set$ が表現可能であるとは, ある集合 $A \in \Ob{\C}$ が存在して,
\begin{equation*}
\Hom_{\C}(-,A) \simeq T
\end{equation*} が成り立つことである.
米田の補題により, 任意の $\C$ の対象 $B \in \Ob{\C}$ に対して
\begin{equation*}
TB \simeq \Nat(\Hom_{\C}(-,B),T)
\end{equation*} は常に成立しているが, $T$ が対象 $A$ によって表現可能であるというのは, この式において特に $B=A$ とした場合
\begin{equation*}
TA \simeq \Nat(\Hom_{\C}(-,A),T)
\end{equation*} に, 右辺の自然変換の集合内に $\Hom_{\C}(-,A)$ から $T$ への自然同型となっているものが存在することを意味している.
\begin{equation*}
\Hom_{\C}(-,A) \stackrel{\sim}{\longrightarrow} T
\end{equation*}
だから, 関手 $F \in \Ob{\E}$ が $\E$ における表現可能関手の余極限であるという上記命題は, $\E$ 内の図式 $D :\I \rightarrow \E$ で, 各々の $i \in \Ob{\I}$ に対してその $D$ による像の関手 $D(i) : \Opp{\C} \rightarrow \Set$ は $\C$ のある対象 $A \in \Ob{\A}$ によって
\begin{equation*}
D(i) = \Hom_{\C}(-,A)
\end{equation*} と表現可能であり, しかもその余極限について
\begin{equation*}
F = \Colim D
\end{equation*} が成り立つものが存在するという主張である. つまりそういう図式を見つけて構成できればこの命題は証明できる.
この命題の結果は, $\E$ がトポスであることを証明する以下の手順の最後の段階で使われる.
(1) $\E$ は有限極限を持つ. ← これは命題 3 によって $\Set$ がトポスであり有限極限を持つことから言える.
(2) $\E$ の対象である関手 $F$ が表現可能ならば $F$ の $\E$ における羃対象 $\Pw F$ が存在する. ← これは米田の補題, 系 4, 命題 5 などから言える.
(3) $\E$ の対象である (必ずしも表現可能とは限らない) 一般の関手 $F$ に対して, $F$ の $\E$ における羃対象 $\Pw F$ が存在する. ← これを言うために $F$ が表現可能関手の余極限として表わせるという上記命題を使用する.
以上で $\E$ が有限極限と羃対象を持つことになり, したがってトポスであることがわかる.
○ 関手の部分対象と部分関手
$\E$ の対象となる関手 $F : \Opp{\C} \rightarrow \Set$ に対して, その部分対象全体からなる集合 $\Sub(F)$ が定まる.
部分対象の概念とは別に, ある関手の部分関手の概念が次のように定義される.
定義. $\C$ を任意の圏, $F : \C \rightarrow \Set$ を関手とする. 関手 $G : \C \rightarrow \Set$ が条件:
(a) $\C$ の各対象 $A \in \Ob{\C}$ に対して, $GA \subset FA$ が成り立つ.
(b) $\C$ 任意の射 $f : A \rightarrow B$ に対して, $Ff$ の $GA$ への制限は $Gf$ に等しい. すなわち,
\begin{equation*}
\Rest{Ff}{GA} = Gf
\end{equation*} が成り立ち, 包含写像を $i_A : GA \rightarrow FA$, $i_B : GB \rightarrow FB$ とおいたとき, 図式
\begin{equation*}
\newdir{ >}{{}*!/-5pt/@{>}}
\newdir{ (}{{}*!/-2pt/@^{(}}
\begin{xy}
\xymatrix@=48pt {
FA \ar[r]^{Ff} & FB \\
GA \ar@{ (->}[u]^{i_A} \ar[r]_{Gf} & GB \ar@{ (->}[u]_{i_B}
}
\end{xy}
\end{equation*} は可換になる;
を満たすとする. このとき, $G$ は $F$ の部分関手 (subfunctor) であると言う.
これで, 関手 $F$ に対して, その部分対象全体の集合 $\Sub(F)$ と, その部分関手全体の集合 (これを仮に $\mathrm{SF}(F)$ で表わすことにする) が定まるが, この 2 つの集合の間には次の関係がある.
命題. 関手 $F : \A \rightarrow \Set$ に対して, その部分対象全体の集合 $\Sub(F)$ と部分関手全体の集合 $\mathrm{SF}(F)$ とは自然に同一視できる. より正確には, $\mathrm{SF} : \Func{\A}{\Set} \rightarrow \Set$ も関手になり, 2 つの関手 $\Sub, \mathrm{SF} : \Func{\A}{\Set} \rightarrow \Set$ の間に自然同型が存在する.
命題 5 で, $\Sub(\Colim D) = \lim (\Sub(D))$ を証明する際の一連の議論においては, 部分対象そのものではなく, 部分関手を取り扱う. その背景として暗黙のうちに部分対象と部分関手が同一視できることを用いている.
○ 極限に伴う可換錐が単射 (mono) であることと, 余極限に伴う可換余錐が全射 (epi) であること.
この結果は何度も使っていたのだが, 意識が足りなかったせいか必要になる度に同じ証明を繰り返していて, 一つの命題にまとめられることに気付かなかった.
命題. $\C$ を圏, $D : \I \rightarrow \C$ を図式とするとき, 次が成り立つ.
(a) 図式 $D$ が圏 $\C$ において極限 $P = \lim D$ を持つとし, $p : P \rightarrow D$ を $P$ の普遍性に伴う可換錐とする. $\C$ の 2 つの射 $u,v : T \rightarrow P$ に対して
\begin{equation*}
p \circ u = p \circ v
\end{equation*} が成り立っているならば $u=v$ である. すなわち $p$ は単射である.
(b) 図式 $D$ が圏 $\C$ において余極限 $P = \Colim D$ を持つとし, $p : D \rightarrow P$ を $P$ の普遍性に伴う可換余錐とする. $\C$ の 2 つの射 $u,v : P \rightarrow T$ に対して
\begin{equation*}
u \circ p = v \circ p
\end{equation*} が成り立っているならば $u=v$ である. すなわち $p$ は全射である.
○ 集合の圏 $\Set$ に関する事柄.
命題. 集合の圏 $\Set$ は完備 (complete) かつ余完備 (cocomplete) である. すなわち, $\Set$ は任意の (有限・無限にかかわらず) 極限と余極限を持つ.
$D : \I \rightarrow$ を $\Set$ における任意の図式とする. このとき, $\lim D$ と $\Colim D$ は次のように定まる.
$*=\left\{\bullet\right\}$ を 1 点集合とし, $*$ を頂点とする $D$ 上の可換錐の全体を $P=\Cone(*,D)$ とおく. $P$ を頂点とする $D$ 上の可換錐 $p : P \rightarrow D$ を
\begin{equation*}
p(i)(c) = c(i)(\bullet) \qquad ((c : * \rightarrow D) \in P)
\end{equation*} によって定義する. このとき $P=\lim D$ が成り立つ.
また次のようにも言える. この記述は以下に参照している Shulman の論文の中にあり, 上記の言い換えになっている.
族 $\left\{c_i \in D(i) \right\}_{i \in \Ob{\I}}$ で, 任意の $\I$ の射 $e : i \rightarrow j$ に対して
\begin{equation*}
c_j = (D(e))(c_i)
\end{equation*} を満たすものの全体を $P$ とおく. このとき $P=\lim D$ が成り立つ.
図式 $D$ に対して, 全ての $D(i)$ に渡る集合の直和を
\begin{equation*}
X=\coprod_{i\in\Ob{\I}} D(i)
\end{equation*} とおく. $X$ の元 $x$, $y$ に対して, ある $\I$ の射 $(e : i \rightarrow j) \in\Ar{\I}$ が存在して
\begin{equation*}
y = (D(e))(x)
\end{equation*} となるとき, $x R y$ と表わして $X$ 上の関係 $R$ を定義する. $R$ の生成する $X$ 上の同値関係を $\sim$ とし, 商集合を
\begin{equation*}
P=X\,/\sim,
\end{equation*} 商写像を $p : X \rightarrow P$ とする. $p$ は $P$ を頂点とする図式 $D$ からの可換余錐とみなせる. このとき, $P=\Colim D$ が成り立つ.
命題. $\Set$ における任意の対象は羃対象を持つ.
上記 2 つの命題から $\Set$ は有限極限を持ち, かつ任意の対象が羃対象を持つ. つまり $\Set$ はトポスである.
○ 圏の大きさの問題
読んでいる本では, 圏 $\C$ の定義における対象の全体 $\Ob{\C}$ と射の全体 $\Ar{\C}$ を単に "集まり (collection)" であると述べている. $\Ar{\C}$ が集合のとき $\C$ は小さい圏 (small category) であると言い, 各ホムセット $\Hom_{\C}(A,B)\,(A,B\in\Ob{\C}$) が集合のとき $\C$ は局所的に小さい圏 (locally small category) であると言う. nLab の記述 によれば, (必ずしも) 小さくはない圏を大きな圏 (large category) と言っている.
また, トポスになることを証明した $\Set$ に値を取る関手の圏 $\E=\Func{\Opp{\C}}{\Set}$ では, $\C$ が小さな圏であることが前提となっている.
こういった圏の大きさに関する事柄の理解はずっと先送りにしてきたのだが, きちんと整理しておこうと考えた.
これについては, nLab に size issues という項目がある. 資料がいくつも紹介されているが, 現在次の 2 つを読んでいる.
Mike Shulman, Set theory for category theory, arXiv:0810.1279.
William Lawvere, An elementary theory of the category of sets , Proceedings of the National Academy of Science of the U.S.A 52 pp.1506-1511 (1964). (pdf)
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