トポスの出発点の一つは, 集合の圏を特徴付ける 2 つの性質として
・ 任意の有限極限が存在する;
・ 任意の集合に対して, その部分集合全体からなる集合を構成できる.
に注目することだった.
このうち, 任意の集合の部分集合全体からなる集合を 冪集合 (powerset) と呼ぶ.
集合 $A$ に対して, $A$ の冪集合を
\begin{equation*}
\newcommand{\Ar}[1]{\mathrm{Ar}(#1)}
\newcommand{\ar}{\mathrm{ar}}
\newcommand{\arop}{\Opp{\mathrm{ar}}}
\newcommand{\Colim}{\mathrm{colim}}
\newcommand{\CommaCat}[2]{(#1 \downarrow #2)}
\newcommand{\Func}[2]{\mathrm{Func}(#1,#2)}
\newcommand{\Hom}{\mathrm{Hom}}
\newcommand{\Id}[1]{\mathrm{id}_{#1}}
\newcommand{\Mb}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\Mr}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\Ms}[1]{\mathscr{#1}}
\newcommand{\Nat}{\mathrm{Nat}}
\newcommand{\Ob}[1]{\mathrm{Ob}(#1)}
\newcommand{\Opp}[1]{{#1}^{\mathrm{op}}}
\newcommand{\Pos}{\mathbf{Pos}}
\newcommand{\q}{\hspace{1em}}
\newcommand{\qq}{\hspace{0.5em}}
\newcommand{\Rest}[2]{{#1}|{#2}}
\newcommand{\Sub}{\mathrm{Sub}}
\newcommand{\Src}{d^{0,\mathrm{op}}}
\newcommand{\Tgt}{d^{1,\mathrm{op}}}
\Mb{P}A = \left\{\, A_0 \mid A_0 \subset A \,\right\}
\end{equation*} と書く.
集合の圏 $\mathbf{Set}$ における冪集合の概念を, 一般的な圏に拡張する.
$\mathscr{E}$ を任意の有限極限を持つ圏とする. 任意の対象 $A \in \mathrm{Ob}(\mathscr{E})$ を取って固定する.
$\mathscr{E}$ は有限極限を持つから, 任意の対象 $B \in \mathrm{Ob}(\mathscr{E})$ に対して積
\begin{equation*}
(- \times A)(B) = B \times A
\end{equation*} が常に存在する.
また, 任意の射 $f : B \rightarrow B'$ に対して, 射 $(- \times A)(f) = f \times A : B \times A \rightarrow B' \times A$ を
\begin{equation*}
f \times A = f \times \Id{A} : B \times A \longrightarrow B' \times A
\end{equation*} として定める.
このとき, 写像
\begin{equation*}
- \times\, A : \mathscr{E} \longrightarrow \mathscr{E}
\end{equation*} は $\mathscr{E}$ からそれ自身への関手となる.
$\Ms{E}$ が有限極限を持つという仮定から, $\Ms{E}$ は任意の引き戻しを持つ. よって $\Ms{E}$ は部分対象関手 $\Sub : \mathscr{E} \rightarrow \Mb{Set}$ を持つ.
ここで, これら 2 つの関手を合成した反変関手 $\Sub(- \times A) : \Ms{E} \rightarrow \Mb{Set}$ を考える.
$\Sub(- \times A)$ が $\Ms{E}$ のある対象 $\Mb{P}A \in \Ob{\Ms{E}}$ によって自然に表現されるとき, すなわち
\begin{equation*}
\Hom_{\Ms{E}}(-, \Mb{P}A) \simeq \Sub(- \times A)
\end{equation*} が成り立ち, かつ, 集合の同型写像
\begin{equation*}
\varphi(A, -) : \Hom_{\Ms{E}}(-, \Mb{P}A) \longrightarrow \Sub(- \times A)
\end{equation*} で, 任意の $\Ms{E}$ の射 $f : B \rightarrow B'$ に対して図式
\begin{equation*}
\xymatrix@=48pt {
\Hom_{\Ms{E}}(B, \Mb{P}A) \ar[d]_{\Hom_{\Ms{E}}(f, \Mb{P}A)} \ar[r]^{\varphi(A, B)} & \Sub(B \times A) \ar[d]^{\Sub(f \times A)} \\
\Hom_{\Ms{E}}(B', \Mb{P}A) \ar[r]_{\varphi(A, B')} & \Sub(B' \times A)
}
\end{equation*} を可換にするものが存在するとき, $\Mb{P}A$ を $A$ の 羃対象 (power object) と呼ぶ.
なぜ $\Sub(- \times A)$ を表現する $\Ms{E}$ の対象を羃対象とするのかについては, 集合の圏 $\Mb{Set}$ において, $\Mb{1}$ を単集合 (singleton: 1 つの元のみからなる集合) とするとき,
\begin{align*}
\Mb{P}A & \simeq \Hom_{\Mb{Set}}(\Mb{1}, \Mb{P}A), \\
\Mb{P}A & \simeq \Sub(A) \simeq \Sub(\Mb{1} \times A)
\end{align*} であることから
\begin{equation*}
\Hom_{\Mb{Set}}(\Mb{1}, \Mb{P}A) \simeq \Sub(\Mb{1} \times A)
\end{equation*} が成り立ち, この関係を含む一般の場合として冪集合 $\Mb{P}A$ が
\begin{equation*}
\Hom_{\Mb{Set}}(-, \Mb{P}A) \simeq \Sub(- \times A)
\end{equation*} を満たすことを考えるとイメージを掴みやすい.
以上の準備のもとでトポスを定義する.
定義. $\qq$ 圏 $\Ms{E}$ は, $\Ms{E}$ における任意の有限極限が存在し, かつ $\Ms{E}$ の任意の対象が羃対象を持つとき トポス (topos) であると言う.
トポスの例
● 集合の圏 $\Mb{Set}$ はトポスである;
● $G$ を群とし, $G$ が作用する集合の全体からなる圏を $G$-$\Mb{Set}$ とするとき, $G$-$\Mb{Set}$ はトポスになる. このことは $\Mb{Set}$ がトポスであることを利用して導かれる. 証明は自明ではない;
● $\Ms{C}$ を小圏としたとき, $\Mb{Set}$ に値をとる関手の圏 $\Func{\Opp{\Ms{C}}}{\Mb{Set}}$ はトポスになる. このことの証明も $\Mb{Set}$ の性質を利用して行う (現在証明を読んでいる途中).
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image