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2016年11月23日

想い歌・最終話(半分の月がのぼる空二次創作)




 「想い歌」、これにて終幕です。
 前身の「恋文」が納得できる出来ではなかったので、修正作となった今作ですが、正直、やっぱり満足のいくものは出来ませんでした。
 二次創作と、オリキャラの扱いの難しさを改めて痛感する作となりました。
 この次は、従来のスタイルに戻して、原作のキャラ達だけの作品を書きたいなぁとか思っています。
 まあ、まずはネタが浮かばねば話になりませんが・・・・・・。
 ではでは。



想い歌.jpg




               ―28―


 ......〜〜♪♪♪♪♪♪〜〜♪♪♪♪♪♪〜〜♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜〜......
 「何、聴いてるの?」
 イヤホンから流れる調べに浸っていたあたしは、不意にかけられた声に閉じていた瞳を開けた。
 明るくなった視界の中で、長く黒い髪が舞う。
 いつの間に来たのか。秋の日差しを背負った先輩があたしを見下ろしていた。
 「あ、先輩」
 慌てて立ち上がろうとすると、手振りで制された。思わず動きを止めると、先輩はそのままあたしの隣りに腰を下ろした。
 「いい天気だね」
 「ですね」
 心持ち高くなった空を見上げながらそんな事を言う先輩。あたしも相槌を打っておく。
 ここは、昼休みの屋上。
 ここしばらくのゴタゴタに気を取られていた間に、季節はすっかり変わっていた。時折、秋の香りをたっぷり含んだ風が、あたし達の間を流れていく。
 でも、その白い季節に傾いた風は少し冷たい。
 あまり長く当たっていると、身体に毒ではないだろうか。
 早く用を済まさせて、校舎の中に戻ってもらおう。
 そう思い、「用は何ですか」と訊こうとした時、
 「吉崎さん、ありがとう」
 先に飛んできた言葉に、思わずポカンとしてしまった。って言うか、何の事か分からない。
 「何がですか?」
 訊くと、先輩は微笑みながら言った。
 「如月さんの事」
 「!!」
 その名に、思わず胸が跳ねた。
 「何か、ありました?」
 恐る恐る、訊いてみる。
 「さっきね、会った」
 「!!」
 もう一度、ギョッとする。
 「また、ちょっかい出してきたんですか!?」
 けど、そんなあたしの言葉に対して、先輩は静かに首を振る。
 「ううん。廊下歩いてた時、行き逢っただけ」
 「じゃあ、何か言われたとか?」
 けれど、先輩はやっぱり首を振る。
 「あたしの事、じっと見て。その後、ペコリってお辞儀して行っちゃった」
 「......それだけですか?」
 「うん。それだけ」
 どうやら、余計な心配だったらしい。あの”敗北”宣言を、彼女は確かに履行していたのだ。
 もっとも、あれだけの想いがそう簡単に消えるとも思えない。しばらくは、悶々とした時が続くのではないだろうか。
 そんな事を考えていると、また先輩が話しかけてきた。
 「如月さんね、変わってたよ」
 「え?」
 「とても、すっきりした顔してた」
 「すっきり......?」
 訳が分からない。あたしが小首を傾げていると、先輩が言った。
 「きっと、何かの思いが晴れたんだと思う」
 「思い......?」
 「そう。思い」
 そして、先輩はまたあたしに微笑みかける。
 「吉崎さんが、何かしてあげたんだよね」
 「え?」
 「あの日、一緒に帰ったんでしょう?如月さんと」
 見通されていたらしい。エスパーか何かか?この女(ひと)は。
 「何してあげたの?如月さんに」
 微笑みながら訊いてくるその顔に、好事(こうず)の色はない。ただ何となく、訊いてみてるだけなのだろう。だから、あたしもお茶を濁しておく。
 「まあ、ちょっとお節介はしましたけど......」
 「お節介したんだ」
 「はい」
 「そうなんだ」と言って、先輩はクスクス笑う。
 あたしも、「そうです」と言って笑っておいた。
 「で、」
 「はい?」
 「何、聞いてたの?」
 話が、元に戻った。
 「また、ボーカロイド?」
 こっちの方は、声音に思いっきり好奇心が満ちている。今回の件で、結構気に入ったのかもしれない。
 「はい」
 答えながら、ふとあたしは手の中のウォークマンに視線を落とした。
 確か、今流れているこの曲は......。
 ああ。そうか。
 運命の導きなんて大層なものじゃないし、信じる口でもないけれど。今ここに、先輩がいる意味が分かった様な気がした。
 手の中のイヤホンを、先輩に差し出す。
 「聞いてください」
 何か、有無を言わさぬ調子になったけど、先輩は気にしなかった。素直にあたしの手からイヤホンを受け取る。
 「何て言う曲?」
 当然の問いかけ。あたしも、当然の様に答える。
 「『Re_birthday』です」
 「どんな曲?」
 「聞けば、分かります」
 そして、あたしは再生ボタンを押した。
 ♪〜〜♪♪〜♪
 微かな振動が、曲の始まりを教えてくれる。見てみれば、先輩は目を閉じて曲に聞き入っている。
 しばし流れる、静かな時間。
 やがて、ウォークマンのから伝わるリズムが静かに消える。曲が、終わったのだ。
 先輩が、イヤホンを外してあたしを見た。
 「吉崎さん、これって......」
 「作者は明言してませんけどね。そう言う、事です」
 「そっか......」
 そう言うと、先輩は愛しげにイヤホンを胸に抱く。
 「”あの娘”は、この歌を歌うのかな?」
 「分かりません。少なくとも、あたしは聞いてません」
 「そうか......」
 そう呟くと、先輩はフェンスに背もたれて、空を仰いだ。
 「歌える日、来ますかね?」
 あたしが問うと、先輩は大きく頷く。
 「来るよ......。きっと、ううん。必ず、来る」
 どこか確信を持った声で、そう言った。
 「そう、ですね」
 反論する理由などない。あたしも頷くと、先輩と同じ様にフェンスにもたれて、空を仰いだ。
 「吉崎さん」
 先輩が言う。
 「もう一度、聞こう。今度は、一緒に」
 そして、イヤホンの片方を差し出してきた。
 思わず、「ええ?」と声が出た。
 「嫌ですよ」
 「どうして?」
 いや、どうしても何もあるものか。一本のイヤホンを二人でなんて、恋人同士がやるものだろう。普通。って言うか、恋人がいる身なのに、そういう事は気にならないのだろうか。この女(ひと)は。
 「そんな硬い事言わないでいいから。ほら」
 結局、半ば強引に押し切られた。
 渋々、イヤホンの片側を耳にはめる。
 近くに寄せられる、先輩の顔。サラリとした髪が頬をくすぐって、微かに甘い香りが漂う。一瞬、ドギマギしてしまった。
 それを誤魔化す様に、ウォークマンを操作する。
 「それじゃ、始めますよ」
 「うん」
 先輩が頷くのを見計らって、再生ボタンを押す。
 ♪......♪♪......♪......♪♪♪......
 静かに流れ始める伴奏。
 ふと横をみると、先輩はもう、目を閉じて聞き入っている。
 それに倣う様に、あたしも目を閉じると歌に身を委ねる。
 白い世界の中で、調べは紡ぐ。
 悪と呼ばれた姉弟。その最後の物語を。
 歌は綴る。
 罪が許される事はない。けれど、未来はあるのだと。
 今のあの娘は、きっとこの歌は歌えない。
 受け入れる事も出来ない。
 でも、きっといつかはたどり着ける。
 今は、暗闇の中でたった一人。
 でも、小瓶のメッセージは繋いでくれた筈。
 一度は途切れた、想いと絆を。
 それなら、彼女はきっと歩み出せる。
 そして、歩みつづけた先にはきっと......。
 歌が終わる。
 止まっていたゼンマイを巻き終える様に。
 あたしは願う。
 きっと、先輩も願っている。
 いつの日か、あの娘がこの曲を奏でられる日がくる事を。
 あの娘のゼンマイが、動き出す日を。
 優しい調べの中、意識が眠りへと落ちていく。
 意識を手放すその間際。
 見えた気がした。
 暗闇の中、白く染まる道。
 その上を、固く手を繋いで歩く、二人の少女の姿が。


                           終わり
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