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2022年08月26日
私だけの特捜最前線→32「雪国から来た逃亡者!〜事件の真相を通して人の心を描いた名作」
※このコラムはネタバレがあります。
この回の主役は叶刑事(夏夕介)。行きつけのラーメン店従業員が、子供を守ろうとして暴走バイクにはねられ即死。彼の家族に連絡しようと、履歴書を確認したらでたらめで、本当の身元は分からない・・・。
捜査の結果、彼が東北地方出身で、しかも出身地で起きた殺人と誘拐事件の容疑者だったことが判明。叶は現地へ飛び、彼の母親や、退職後も彼を追っていた元刑事の男性と出会うことになる、というストーリーです。
ドラマの見どころは母親と元刑事の心情です。母親は、容疑者となってしまった息子を憎み、蒸発した息子を「死んだ」と割り切って位牌まで作っていました。叶から消息を聞かされても、無表情のままです。
元刑事は、従業員の男を逮捕するため、退職後も全国各地を飛び歩く執念の捜査を続けますが、ついに私財を使い果たしてしまいます。元刑事の娘は、そんな父親の姿を心配そうに見つめているのです。
やがて事件は、特命課の手によって真実が突き止められ、従業員の男は殺人も誘拐も起こしていなかったと分かります。元刑事は悔しがりますが、娘からは後日、父親がこの事件からようやく解放されたと感謝されます。
叶は母親にも事件の真実を知らせます。その時は冷淡に応対していた母親でしたが、叶の車を見送りながら、膝を崩して「ありがとう」と涙しました。最後の最後に、息子を信じていた母親の本心が明かされたのです。
ドラマとしては、元刑事と娘だけ、あるいは母親だけにスポットを置いても、十分見ごたえのあるストーリーが作れたでしょう。しかし、元刑事と母親の両方の心情を描いたことで、さらに深みが増していったのです。
ここでは紹介しませんが、事件にかかわる他の登場人物の心情にも触れていますし、捜査する叶刑事の思いも丁寧に描かれており、特捜最前線の中でも名作の一つに数えられるドラマに仕上がったのだと思います。
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私だけの特捜最前線→31「乙種蹄状指紋の謎!〜なぜ、おやっさんは特命課に復帰したのか?」
※このコラムはネタバレがあります。
おやっさんこと船村刑事(大滝秀治)が特命課に復帰して間もなく、連続強盗事件が発生しました。事件の遺留品だった手提げ金庫から一つの指紋が見つかり、それがこの回のタイトルになっています。
指紋は、おやっさんが以前、窃盗犯で逮捕したことがある男のものと判明。しかし男は出所後、セールスマンとして真面目に働いており、おやっさんは「男が犯人ではない」と潔白を信じ、証明するため奔走します。
このドラマでは、若手刑事(紅林、吉野、叶)と、おやっさんが対立するシーンが見どころです。指紋という決定的な証拠があるとして、男を疑う刑事たちにすれば、おやっさんの行動は不可解に見えたのでしょう。
捜査の方向性を巡って、若手刑事たちとおやっさんは激論を戦わせます。おやっさんの意固地とも思えるような脱線ぶりを、何とか諫めようとする刑事たち。それに対し、おやっさんは彼らにこう言います。
「能力において頭脳において、議論でも腕力でも君らには負けるだろう。だが、心では私は決して負けない」。さらに「私はバカかもしれん。だが、私はそのバカになるために特命課に戻って来た」と続けます。
犯人ではないと信じた男の無実を証明するため、指紋という証拠を覆すという困難な捜査に立ち向かうおやっさん。自らを「バカ」と言いつつも、信念をとことん貫き通すという姿勢を彼らに見せつけたのです。
ドラマの終盤は、指紋の謎解きに向かってスピーディーな展開となり、ついに男の無実が証明されるのです。詳しいストーリーは書きませんので、機会があればDVD等でぜひご覧いただきたいと思います。
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2022年08月25日
私だけの特捜最前線→30「ビーフシチューを売る刑事!〜おやっさん復帰編は哀しいドラマ」
※このコラムはネタバレがあります。
「おやっさん」こと船村刑事役の大滝秀治氏は、映画「影武者」の撮影のため、特捜最前線を1年間降板していました。その復帰編となったのが、第170話「ビーフシチューを売る刑事!」です。
末期がんの妻を看病するために退職した船村でしたが、妻の死後、娘と二人で上京し、小さなビーフシチューの店を開業しました。店名には亡き妻の名前を記し、静かに第二の人生をおくるつもりだったのです。
自宅謹慎中の叶刑事(夏夕介)が船村の店を訪れるところから、ドラマが始まっていきます。店を手伝う女店員が事件に巻き込まれ、捜査の過程で特命課の面々と船村が再会したのです。
神代課長(二谷英明)は、犯人逮捕のために女店員の協力を得たいと直接頼みます。が、船村は拒否しました。「刑事が怖くなった」と口にする船村ですが、その胸の内は正反対だったのかもしれません。
犯人と女店員は逃亡を図り、特命課が追い詰めるという緊迫した状況を知る船村。「刑事に復帰するのか、しないのか」という葛藤を抱える心理を、煮詰まっていくビーフシチューで見事に描写しています。
船村は、犯人と女店員説得のため、現場に現れます。しかし、懸命の説得もむなしく、船村を撃とうとした犯人は叶に射殺されました。女店員は船村に罵声を浴びせますが、船村には返す言葉もなかったのです。
刑事にとって、事件の解決は全てハッピーエンドばかりではありません。時には、今回のような残酷な結末を迎える場合もあります。おやっさんは、それを承知で特命課への復帰を決意したのでした。
大滝秀治さんが復帰したことで、特命課は神代課長、橘、桜井、紅林、吉野、叶、そして船村という7人体制となり、カンコ(高杉婦警)を含む「不動のメンバー」が以後、約5年間のドラマを作り上げていくのです。
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私だけの特捜最前線→29「地下鉄・連続殺人事件!〜滝刑事、痛恨のボーンヘッドで特命課を去る」
※このコラムはネタバレがあります。出演者は敬称略
特捜最前線の初期のレギュラーだった滝刑事こと桜木健一氏は、わずか1年弱の出演で降板しています。後半は出番も極端に減り、特命課での立ち位置も中途半端なまま終わってしまったという印象です。
警察組織の中で出世することを最大の目標にしていた滝刑事は、念願だった特命課に配属されました。ところが、段々と「人を疑う刑事という仕事」に対して、違和感を覚えていくのです。
地下鉄を舞台にした連続殺人事件では、重要参考人である夫婦の境遇に同情してしまい、いつしか「疑いのある者は徹底して捜査する」という刑事の基本を外れ、「この夫婦は犯人ではない」と勝手に思い込みます。
その思い込みは、やがて見当違いの捜査へと脱線し、夫を本ボシだと断定する特命課の刑事たちと意見が対立。ついには「夫が犯人だったら、俺は刑事を辞める」とまでタンカを切ってしまったのです。
結局、滝は退職へと追い込まれてしまいました。ただ、滝の気持ちは意外とサバサバしていたのかもしれません。見方を変えれば「辞めるためのきっかけが欲しかった」のだろうとも思えます。
それは滝が、飲食店を共同経営するという「次の道」を決めていたことにも表れています。終身雇用が当たり前だった昭和の時代には、異色の考え方だったかもしれませんが、今なら共感できるでしょう。
そして皮肉にも、滝刑事というキャラクターが去ったことにより、特捜最前線はエリート集団による本格的な社会派ドラマとして、刑事ドラマ史に残るような名作を次々と生み出していくことになるのです。
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私だけの特捜最前線→28「再会・容疑者は刑事の妹!〜昭和ならではの時代背景が垣間見れる」
※このコラムはネタバレがあります。出演者は敬称略
今回紹介する「再会・容疑者は刑事の妹!」に登場するのは、殉職した津上刑事(荒木しげる)の妹・トモ子(立枝歩)で、ある事件に巻き込まれ、容疑者として逮捕されてしまうという衝撃のストーリーです。
私だけの特捜最前線→23「殉職II・帰らざる笑顔!〜単なる津上刑事殉職のドラマに終わらせない特捜」
事件の容疑そのものは、特命課の捜査によって潔白が証明されましたが、ホステスの仕事をしていたトモ子は心を閉ざし続けます。そこには、最愛の兄を亡くした悲しみと喪失感があったのです。
昭和という時代背景ならではの演出が、トモ子の「夜中に一人で天気予報を聞いたことがあるの?」というセリフ。電話番号177をかけると、自動音声で天気予報が流れる・・・忘れかけていましたね(苦笑)
トモ子の孤独な姿を印象付けるようなシーンだと思いました。インターネットからSNSと、コミュニケーションツールが身近に増えてきた昨今を思うと、固定電話しかなかった時代が懐かしく感じます。
この作品では、トモ子の身をあれこれ心配する吉野刑事(誠直也)の思いが描かれています。吉野は後輩の津上と親しい仲間でしたし、ひょっとするとトモ子に特別な感情を持っていたのかもしれません。
ただ、これも昭和という古い時代の価値観なのでしょうが、吉野はホステスという仕事を蔑み、辞めるよう説得しています。カタギの仕事をして、いずれ結婚し家庭に入るのが女の幸せだと信じていたのでしょう。
ホステスという仕事の是非はさておき、吉野の個人的な価値観、ひいては古い男の価値観を押し付けるのはどうかなと思います。トモ子が自らの意思で働いているのを尊重することが、今の時代の価値観だと感じました。
ちなみにラストシーンでは、トモ子と吉野が非常にいい雰囲気を作り出しており、このままラブストーリーに発展するかもと期待したのですが、その後トモ子は特捜の準レギュラーにならず、霧散してしまったのです。
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私だけの特捜最前線→27「ああ三河島・ 幻の鯉のぼり!〜国鉄最大級の大惨事をドラマで再現」
※このコラムはネタバレがあります。
ドラマタイトルの「ああ三河島」とは、昭和37年に起きた国鉄(現JR)の三河島事故のことです。三河島駅近くで起きた三重衝突事故で、死者160人を出した国鉄最大級の大惨事でした。
ドラマの放送時からでも、すでに18年が経過していた三河島事故ですが、死者の中に現在でも身元不明の男性が一人おり、ドラマではその男性と周辺の人物にまつわるストーリーが描かれています。
男性は身元を示すものを何も持っていませんでした。その謎について、ドラマでは「現場で瀕死の男性から所持品を奪い取った3人組がいた」と設定。そのうちの一人の男・サクムラ(三上真一郎)が主役です。
事件は、3人組だった一人が殺されるところから始まり、事件のカギを握るのが三河島事故の身元不明男性だったのです。男性には幼い娘がおり、良心の呵責に耐え切れなかったサクムラが娘を引き取って育てていました。
娘はサクムラを兄のように慕い、彼も思いを寄せていました。しかし、自分が3人組の一味であることは、いつか娘に知られてしまう・・・そう思ったサクムラは、真実を手紙にしたためて姿を消そうとしました。
特命課に身柄を確保されたサクムラは、すべてを告白する決意を固めます。紅林刑事(横光克彦)は「真実を知って何になる!また娘を独りぼっちにしようというのですか」と語気を強めてたしなめます。
そして、神代課長(二谷英明)は「これからあなた方がどういう生き方をするかは分からないが、これは、こうした方がいい」と、サクムラの目の前で手紙を燃やしてしまうのです。サクムラは号泣しました。
なぜ、身元不明者の身元が分からなかったのかという謎解きと、血のつながりのない兄と妹との絆、父親を見殺しにした兄の苦悩など、1時間のドラマとは思えないような濃密な内容の作品でした。
ちなみに、三河島事故の発生から今年で60年。奇しくも、事故は私が生まれた数か月後に起きています。もちろん、私自身はリアルタイムで事故のことは知りませんが、なぜか懐かしい思いでドラマを見ていました。
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私だけの特捜最前線→26「復讐I・U〜バリコン爆弾という恐るべき凶器が特命課に・・・」
※このコラムはネタバレがあります。
特捜最前線3周年記念作品として前後編で放送された「復讐T・U」は、人間の動きに反応して、起動装置が作動する「バリコン爆弾」が特命課に送り付けられるというサスペンスで物語が進んでいきます。
バリコン爆弾のスイッチを入れられ、小さな身動きしかできなくなった神代課長(二谷英明)と高杉婦警(関谷ますみ)。神代は犯人の指示通り、部下たちに意味不明な命令を下さざるをえなくなりました。
神代の命令が怪しいと感じる橘刑事(本郷功次郎)や桜井刑事(藤岡弘、)ですが、神代の緊迫した雰囲気を察し、命令通りに動きます。その結果、特命課は5億円強奪の手先にされてしまいました。
後編である復讐Uの冒頭では、神代がバリコン爆弾の不発を狙って、一か八かの賭けに出ます。賭けに勝ち、爆弾不発でピンチを脱した神代や特命課は、犯人と5億円を追って捜査を本格化させていくのです。
時限爆弾のようなタイムリミットをめぐる切迫感とは違い、一瞬のミスや偶然でも爆発の恐れがあるバリコン爆弾を使うという発想は、改めて長坂秀佳脚本のスゴさを感じさせられずにはいられません。
また、バリコン爆弾で「人質」とされた高杉婦警の恐怖と緊張あふれる演技が、視聴者に一体感を持たせ、ドラマを引き締めてくれました。爆弾から解放された時の半狂乱な嗚咽ぶりも素晴らしかったです。
もちろん、二谷英明氏の迫真の演技も強烈に印象に残っています。切迫した状況下でも部下の報告を冷静に聞き、豊富な知識を駆使して危機を脱しました。神代課長の優秀さを際立たせた作品とも言えるでしょう。
ちなみに、犯人役で登場する三ツ木清隆氏は、だいぶ先のことになりますが、特命課に犬養刑事役として登場します。ブランクが空いているので、犬養と犯人がシンクロするようなことはありません(笑)
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2022年08月24日
私だけの特捜最前線→25「完全犯罪・350ヤードの凶弾!〜大物政治家に敢然と立ち向かう橘刑事の執念」
※このコラムはネタバレがあります。
この作品は、巧妙な手段で殺人を実行する大物政治家の姿を冒頭で視聴者に見せ、そのトリックを刑事たちがいかに暴くか、という視点で物語が進められて行きます。主役は橘刑事(本郷功次郎)です。
大物政治家(嵯峨善兵)の側近とも言える政治家が、特命課や大物政治家の目の前で射殺されます。橘は、大物政治家の挙動に不信感を抱き、周辺捜査をしながら状況証拠を集め始めました。
大物政治家は、特命課に乗り込んで神代課長(二谷英明)に圧力をかけてきます。その態度に橘は、大物政治家こそ「犯人」だという確信を持ち、自らのクビをかけて敢然と立ち向かうのです。
神代は、橘に「謹慎」を命じます。が、それは橘が自由に動けるようにするための方便だったのです。橘の持ち味である地道かつ丹念な捜査により、大物政治家の犯罪を匂わせる状況証拠がそろいつつありました。
その間、橘は一時捜査に行き詰まり、本当にクビを覚悟した時もありました。しかし、桜井刑事(藤岡弘、)をはじめ、同僚刑事たちは橘の姿に奮起し、協力を惜しみません。素晴らしいチームワークです。
ドラマを通じて、橘刑事が特命課の支柱的存在であることを示すとともに、とくに若手刑事たちが橘を慕い、心を一つにする姿を描いています。そのチームワークによって、大物政治家のトリックが崩せたのです。
大物政治家には、戦争で人殺しをしていたという過去がありました。そのことに真摯に向き合わず、逆に屈曲した形で彼の人格の中に残ってしまい、些細な理由から殺人を犯す結果になったのです。
ウクライナへのロシア軍侵攻のニュースが連日伝わっています。戦場の最前線では、大物政治家と同じように「人殺し」をさせられている軍人たちがいるという悲しい現実に、怒りを覚えてやみません。
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私だけの特捜最前線→24「警視庁番外刑事!〜夏夕介氏扮する叶旬一刑事の登場編」
※このコラムはネタバレがあります。
津上刑事(荒木しげる)の殉職編の翌週、特命捜査課に早くも新しい顔が登場します。叶旬一刑事(夏夕介)です。その初登場編はなかなかの破天荒ぶりで、最初から個性が際立っていました。
何者かに手製のライフルで狙われる叶。若くして警部補になったほどのエリートですが、平気で暴力を振るうような荒っぽさがあり、所轄署をたらい回しにされてきた札付きでもあります。
捜査に乗り出した神代課長(二谷英明)は、強引に叶を特命課に配属させます。しかし、叶は単独捜査を止めようとしません。やがて叶には、孤児院で育ったという「隠したい過去」があることが判明するのです。
このエピソードでは、叶刑事の本質が見事に描かれています。暴力刑事と陰口を叩かれますが、その相手は権力を振りかざしたり、反社会的な連中だったりで、彼は「弱者を守る」ことに徹していたのです。
そんな叶の本質をいち早く見抜いたのが、なんと高杉婦警(関谷ますみ)だったというのが、いかにも特捜らしい(笑) 吉野刑事(誠直也)なんかは「過去がなんだ!」と怒鳴るくらいですから(苦笑)
吉野といえば、叶刑事を演じる夏夕介氏は、この少し前に「六法全書を抱えた狼!」に犯人役で出演していました。吉野との体当たりの演技が評価され、晴れて特捜のレギュラーに抜擢されたとのことです。
叶刑事はこのあと、特捜最終回までレギュラーとして出演し続けます。夏夕介氏は、残念ながら59歳という若さで亡くなってしまいましたが、映像を通して若き夏氏の雄姿を見続けていきたいと思います。
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私だけの特捜最前線→23「殉職II・帰らざる笑顔!〜単なる津上刑事殉職のドラマに終わらせない特捜」
※このコラムはネタバレがあります。
特捜最前線が他の刑事ドラマと一線を画す特徴として、「刑事を殉職させない」との方向性があったと言われています。500回余の作品で殉職したのは二人だけ。その一人が津上刑事(荒木しげる)だったのです。
人気刑事ドラマだった「太陽にほえろ!」は、若手刑事の殉職をドラマチックに描いていました。殉職回のクライマックスは、事件解決よりも殉職シーンに重点が置かれていたように思われます。
津上刑事殉職編は「殉職I・津上刑事よ永遠に!」「殉職II・帰らざる笑顔!」の前後編で、前編こそ殉職へ向かうカウントダウンのように描かれていますが、後編のストーリーはちょっと違っているのです。
津上刑事は後編の冒頭で殉職してしまいます。しかし、事件は解決したわけではなく、さらに恐るべき事態へと進展していき、津上を失った特命課の刑事たちは焦りからか、冷静な捜査が出来なくなってしまうのです。
そんな刑事たちにヒントを与えてくれたのが、津上の「言葉」でした。前編の様々なシーンで何気なく口走った津上の「言葉」がキーワードとなり、事件解決へと導いていったのです。
殉職をドラマのクライマックスに据えるのではなく、一つの「過程」にとどめ、あくまでも捜査と事件解決を軸にしているところに、特捜最前線らしさを感じます。むろん、津上殉職をドラマチックに描きつつです。
殉職後、たった一人残された津上の妹が、神代課長(二谷英明)に「兄さんを返して!」と泣き叫ぶシーンには胸が痛みました。肉親の悲痛な思いをストレートに表現している演出にも特捜らしさがうかがえます。
神代も以前、娘が事件に巻き込まれて殺されるという経験をしています。その時、「娘さんを殺したのはあんただ!」と糾弾したのが津上でした。妹を見る神代の辛そうな表情が印象的なシーンでもあります。
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