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2024年10月17日
私だけの特捜最前線→西田敏行さん(高杉刑事)追悼コラム
久しぶりに書く特捜最前線のコラムが、まさか西田敏行さんを追悼するコラムになるとは思いませんでした。大変残念ですが、西田さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
西田さんは大河ドラマをはじめ、あまりにも出演作品が多く、しかもどのドラマでも主役級だったので、非常に印象深い俳優さんの一人です。最近でもナレーターなどでご活躍中でした。
ここでは、あえて特捜最前線に出演していた西田敏行さんについて書かせていただきます。
西田さんは高杉刑事という役で、初期の頃に出演していました。刑事ものでは家族を描くことが少ないのですが、高杉刑事は妻と娘がおり、主演作ではたびたび妻子が登場しています。
ユーモアにあふれた人情派の刑事で、のちに大滝秀治さんの船村刑事が人情派の代表格となりましたが、西田さんが出演し続けていたら、船村刑事の人物像も変わっていたかもしれません。
売れっ子俳優ゆえにだんだんと出演回数も減っていき、ついには降板を余儀なくされました。役柄としては「係長昇格で転勤」という形がとられ、殉職しなかったので後日、ゲスト出演も実現しました。
高杉刑事主役回のドラマを思い出していただくため、バックナンバーよりリンクを張らせていただきます。
私だけの特捜最前線→71「傷痕・夜明けに叫ぶ男〜情に厚かったがゆえにピンチを招いた高杉刑事」
私だけの特捜最前線→70「Gメン・波止場に消ゆ!〜桜井、高杉両刑事が潜入捜査で名コンビぶりを発揮」
私だけの特捜最前線→67「痴漢・女子大生被害レポート!〜西田敏行さん演じる高杉刑事が活躍する数少ないドラマ」
私だけの特捜最前線→15「さようなら、高杉刑事!〜西田敏行氏降板のドラマ」
私だけの特捜最前線→8「ナーンチャッテ おじさんがいた!〜高杉刑事のシビアなドラマ」
2023年12月28日
私だけの特捜最前線→定期連載終了と今後について
昭和を代表する刑事ドラマの一つ「特捜最前線」のコラムを2021年11月からnoteで連載してきましたが、2023年末をもって連載を終了させていただきます。
2年2カ月の連載期間に100本のドラマ解説などを書き綴ってきました。今さら言うまでもなく、特捜最前線は辛口の社会派ドラマであり、ストーリーの面白さは他の刑事ドラマとは一線を画しています。
DVDシリーズには約150本の収録作品がありますので、コラムでは紹介できなかったドラマが50本ほど残っています。そのなかには傑作と呼ばれるものも少なくありません。
私の贔屓目もあったせいか、おやっさん(船村)退職、吉野刑事殉職後の後半シリーズの作品は一本も紹介しませんでした。当然ですが、ラストを飾る「十字架3部作」も含まれています。
今後の「私だけの特捜最前線」ですが、インターバルをいただきながら不定期掲載していこうと考えています。
紹介していないドラマのコラムも、いずれは書きたいですし、紹介済みドラマでも初期の紹介作は私自身の「深掘り」が甘いので、再編追記の形で載せたいとも思っています。
最後に個人的な希望ですが、特捜最前線DVD未収録作品をいつの日か視聴してみたいです。新シリーズとしてDVD化されるのは難しいでしょうが、コアなファン層が増えていけば、夢が実現するかもしれません。
締めくくりの言葉は・・・神代課長のエンドコメントを借りて・・・
「この2年2か月間、私だけの特捜最前線をご覧いただき、ありがとうございました」
★特捜最前線のドラマ解説はnoteマガジンで!
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2023年10月26日
特捜最前線 登場人物コラム「特命課・船村警部補」
今週は、ちょっとした小話を書きます。題して「登場人物コラム」。
登場するのは、おやっさんとして慕われている特命課の船村警部補です。
船村警部補は、番組のオープニングメンバーの一人で、当初から特命課のベテラン刑事という位置づけで登場しました。演ずるのは名優の大滝秀治さんです。
船村警部補は前後編の「裸の街」という作品で、いったん特命課から離れます。妻が末期がんで、最期をみとるために退職という道を選んだわけです。
この退場劇には裏事情があり、大滝さんが映画「影武者」に出演するため、番組との掛け持ちができなかったからでした。つまり、最初から復帰の可能性含みだったのです。
約1年後、船村警部補は「ビーフシチューを売る刑事」で再登場し、事件解決をきっかけに特命課に復帰します。正確には「復職」という感じだったのかもしれません。
その直後に放送された「乙種蹄状指紋の謎!」は、おやっさんの数多い作品のなかでも傑作の一つに挙げられます。作中での名セリフが強烈に印象に残っているからです。
私だけの特捜最前線→31「乙種蹄状指紋の謎!〜なぜ、おやっさんは特命課に復帰したのか?」
「能力においても、頭脳においても、議論でも腕力でも君らには負けるだろう。だが、心では決して負けない」。これこそが、船村警部補の「核心」であり、若手刑事がおやっさんを慕う原点となっていきます。
船村警部補というと、ドラマ中でも「長ゼリフ」のシーンがたびたび見られます。それも、よどみなく情感を込めて語っています。劇団民藝の看板俳優として、数多くの舞台を踏んできた大滝さんの真骨頂とも言えるでしょう。
また、心臓の持病を持っているという設定を生かした「老い」や「衰え」との対峙、さらには定年間近ということを踏まえた「人生観」もテーマに取り上げられています。
リアルタイムで見ていた頃は、10〜20代だったので全く実感がわきませんでしたが、自分がおやっさんと同世代になってみると、身に染みて同調できることがたくさんあります。だから余計に、船村警部補主演のドラマに思い入れが深くなるのでしょうね。
今回のコラムはここまでといたします。
★ブログ「私だけの特捜最前線」は、2023年11月より不定期掲載となります。
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2023年10月19日
私だけの特捜最前線→100「昭和60年夏・老刑事船村一平退職 ! 〜刑事生活30年のおやっさんが知ったこと」
※このコラムはネタバレがあります。
特捜最前線のドラマ解説の連載も今回がラストになりました。どの作品を最後に選ぼうかと考えましたが、この作品にしました。タイトルは「昭和60年夏・老刑事船村一平退職 !」です。
このドラマは、おやっさんこと船村刑事(大滝秀治)が退職を決断することが最大の見どころですが、船村刑事を描かせたら天下一品の脚本家・塙五郎さんらしい超激辛の幕引きドラマになっているのです。
おやっさんが初めて逮捕した男
学校の用務員、おでん屋のオヤジと、何者かによって相次いで殺され、現金を奪われる事件が起きました。二人は「城西暑の船村」と名乗る刑事と一緒だったことが分かり、船村刑事は自分との関連を疑います。
犯人の遺留品に東京都内の坂道を記したメモが見つかり、船村は犯人の行方を追って坂道をたどります。いくつもの坂道を歩き回り、ふとしたことからメモを書いた人物が分かったのです。
その人物は30年前に浮気相手の夫を殺したとして、船村が逮捕した男でした。船村が初めて手錠をかけた男であり、その後の男の人生は犯罪を繰り返し、刑務所暮らしが続いていたことも判明しました。
やがて、用務員殺しがあった学校の女性教諭(根岸季衣)が、男と不倫した女性の娘だと分かります。教諭は「男が実の父親だ」と話し、その男と自分の関係を知られたくなかったとして証拠隠滅を図ったと告白します。
さらに30年前の事件について、夫を殺したのは男ではなく自分の母だったと衝撃の事実を告げ、船村に対し「無実の人を捕まえて、それを手柄にしていた」と冷たく言い放ったのです。
自分の初手柄が誤認逮捕だったことを知った船村。それでも犯人を追わなければならない船村。男の身柄を確保した時、船村は「この男にしてやれることは、手錠を打つことだけです」と自分に言い聞かせたのでした。
ドクターストップがかかっていたおやっさん
ドラマのあらすじを書きましたが、おやっさん(船村)が辞めた理由は過去の誤認逮捕がきっかけではありません。持病の心臓の具合が悪く、ドクターストップがかかっていたためでした。
おやっさんは、初手柄を立てた坂道を見て「この坂を駆け上がれなくなった時が、自分が辞める時だと思っていた」と語ります。運命のいたずらか、男を逮捕したのも同じ坂道だったのです。
坂道に現れた男を特命課の刑事たちが追いかけます。おやっさんも必死で坂道を駆け上がりますが、途中で跪いてしまったのです。おそらくこの時、おやっさんは退職する決意を固めたのでしょう。
電話で退職届を出したことを娘の香子に報告するおやっさん。涙を流しながら「やめたくねえんだよ」と何度も何度も口にします。おやっさんの無念の思いが伝わってくるような辛いシーンです。
神代課長(二谷英明)とおやっさんが坂道を歩くラストシーン。神代は「坂は駆け上がることしか考えていなかった。でもこうしてゆっくり上がることもできるんだ」と語り掛けます。
おやっさんは無言で、その言葉をかみしめていたようでした。坂=人生に例えてみれば、おやっさんは第一線の刑事こそ辞めますが、次の人生はこれから始まるわけです。とてもいい言葉だと思いました。
30年の刑事生活でわかったこと
自分が初めて逮捕した男が、長い間刑務所暮らしを続けた挙句、凶悪犯として再び姿を現した時、おやっさんは「あの男にとって30年とは何だったのか」と、自身の刑事生活と重ね合わせながら思いめぐらせます。
「30年の刑事生活でわかったこと・・・人間っていうのは、ずるくて、汚くて、あさましくて、いやしくて、嘘つきで、恐ろしくて・・・そして、弱くて、悲しいものだってことだ」。
人間の「裏」の部分ばかりを見てきたおやっさんらしい言葉だと思います。そして、弱くて悲しい存在だからこそ、どんな人間でも救う手立てはないかと常に考えていたおやっさん像を思い浮かべずにはいられません。
おやっさんこと船村刑事主演の脚本を多く手掛けてきた塙五郎さんは、この作品を最後に特捜最前線の脚本から退いています。おやっさん退場回を超激辛のストーリーで締めくくって・・・ですね(笑)
おやっさんが最初と最後に手錠をかけた犯人役は、ベテラン俳優の内田稔さんが、女性教諭役は実力派の根岸季衣さんが演じ、おやっさんのラストストーリーに花を添えてくれました。
もう一人、本当なら香子役の木村理恵さんにも出演してほしかったところですが・・・逆に香子が出てこなかったことで、おやっさんの孤独な悩みと苦しみの演出を引き立たせたのかもしれませんね。
コラム「私だけの特捜最前線」のドラマ解説は100回をもちまして、ひとまず終了させていただきます。
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2023年10月12日
私だけの特捜最前線→99「哀・弾丸・愛 7人の刑事たちT・U〜船村刑事の葛藤が見事に描かれた大傑作」
※このコラムはネタバレがあります。かつ長文です。
特捜最前線のドラマ解説コラムも99本目となりました。今回は特捜最前線屈指の名作と言われている「哀・弾丸・愛 7人の刑事たち」を紹介します。おやっさんこと船村刑事(大滝秀治)の代表作でもあります。
もともとこの作品は、番組初期に「愛・弾丸・哀」のタイトルで放送されたものをリメイクしたドラマです。船村が主役ではありますが、神代課長(二谷英明)や若手刑事たちの見せ場も用意しています。
銀行強盗を撃てなかった船村
強盗(中西良太)が銀行に立てこもった事件に出動した特命課。強盗からのコーヒー差し入れ要求に合わせて、強行突入に踏み切ることにし、船村刑事と叶刑事(夏夕介)は裏口に回ります。
強盗に足を撃たれた警備員(加藤武)がいたため、看護師を装ったカンコ(関谷ますみ)がコーヒーを持って行内に入っていました。強行突破に逆上した強盗は、カンコと人質の女子行員を撃ったのでした。
その時、船村は犯人を狙撃する姿勢を取りながら、なぜか拳銃を下ろしてしまいます。その結果、強盗を取り押さえはしたものの、撃たれた女子行員は死亡し、カンコも重傷を負ってしまったのです。
ところが事件は解決したわけではありません。銀行側から強盗が奪った金とは別に、3000万円が無くなっているとの通報があったのです。強盗は単独犯ではなかったのか・・・特命課の捜査が始まります。
コーヒーを用意した喫茶店は、強盗が働いていた店でした。マスターの証言で強盗には恋人(芦川よしみ)がいることが分かります。その恋人宅に送り主不明の1000万円が届けられたのです。
共犯者の存在が確定的になり、マスターが怪しいとにらんだ船村と叶。雨の中、逃亡をくわだてたマスターを必死で追う船村。しかし、心臓の発作が起きてしまい、マスターを取り逃がしてしまったのでした。
ミスが続いた船村が起死回生
ミスを犯した船村を心配する特命課のメンバーに対し、神代課長は休養を命じたと説明したうえで「捜査に戻れ」と命じます。そんな時、マスターが入水自殺したとみられる遺体で発見されたのです。
特命課が銀行で再度現場検証を行った結果、3000万円の現金を持ち出せる可能性のある人物として被害者の女子行員をマークします。そして、女子行員が年配の男と一緒にいたとの目撃情報を得たのです。
紅林刑事(横光克彦)らの捜査によって年配の男とは、足を撃たれた警備員だと分かりました。取調室で船村は強盗を厳しく詰問し、警備員が主犯であるとの自供を引き出し、行方を追って出動します。
ライフルを持った警備員が立て籠もっている貨物駅ターミナルに来たメンバー。船村は「心臓の具合が今一つ」だとして待機し、神代らは拳銃を携帯して倉庫へと突き進んでいきます。
警備員は隙をついて、近くにいた子供を人質にして逃走を図ります。それを追うメンバーの耳に、一発の銃声が鳴り響きます。駆け付けた先には、警備員を射殺し、仁王立ちになっていた船村の姿がありました。
刑事局長(御木本伸介)から栄転の名のもとに第一線からの引退を告げられ、一度は退職を決意した船村でしたが、事件解決の功績で刑事の職に踏みとどまります。が、その表情は決して晴れやかではなかったのでした。
退職の意を固めた船村と翻意を促す神代
ドラマの肝は、船村刑事の心の葛藤を描き切っていることに尽きます。第一線から退くよう勧告されていた船村が、刑事でありたいと執着してもがき苦しみ、退職届を出そうかというところまで追い込まれます。
事件関係者として接していた警備員は元刑事で、現職時代に自分と同じ境遇だったことが分かります。警備員は「栄転の話を断ってスッパリ辞めた」と語り、自分の夢を嬉々としてしゃべります。
警備員と意気投合した船村は「この仕事が好きだった。自信があった。紙切れ一枚で横っ面張られたようだった。負けるものかと思っていたらミスをしちまった」と愚痴をこぼし、退職へと傾いていくのです。
ところが紅林刑事の捜査により、警備員は警察を辞めた後、仕事を転々として不遇だったことが分かります。それでも船村は、一度決意した思いを振り切れず、退職届を提出しようと刑事局長の元に出向きました。
そこに神代が現れます。神代は、警備員の辞め方は鮮やか過ぎたとし、「一つの道を進んできた者が、そう簡単に他の道を歩めるものか。私にはできない。未練がましい男なんでね」と語ります。
そして「人間は年を取ることからは逃げられない。でも、年を取らなければできないことや分からないこともある」と諭し、船村に翻意を促します。それでも船村の心はまだ揺れたままでした。
強行突破の時の心境を語る船村
特命課は、行方をくらました警備員の潜伏先を探るため、逮捕した強盗を厳しく追及します。ですが、警備員に大恩がある強盗は口を割りません。そこに船村が戻ってきて、取り調べを申し出たのです。
船村は、強盗に対して「お前のような奴は古だぬきに騙されやすいんだぞ」と、警備員を悪しざまに言いつらいながら追い込んでいきます。この取り調べこそ、船村が真価を発揮した場面と言えるでしょう。
潜伏先に向かう前、船村は強行突破の時の心境を「(強盗を射殺することで)自分がまだやれることを証明したかった」と打ち明け、拳銃を構えた瞬間「(その考えに)ゾッとした」と吐露します。
直前で拳銃を下ろしてしまった船村に、神代は声を震わせながら「それでいいんだよ」と言います。でも船村は「私のためらいが人を殺した・・・それだけが事実なんです」と贖罪の思いを語るのでした。
ドラマには船村の娘である香子(木村理恵)も登場します。香子は、船村の栄転話を聞いて「よかったじゃない」と口にします。でも、心の中では「父さんは刑事を辞める気はないだろう」と思っていました。
船村が休養を申し渡された後、香子は母親の仏壇の引き出しにある退職届を見つけ、動揺します。船村が退職を撤回したと聞いて、一番安堵したのは香子だったのかもしれませんね。
若い刑事たちにもスポット
この作品のサブタイトルには「7人の刑事たち」と付いています。ドラマでは船村や神代課長だけでなく、叶、紅林、吉野といった若い刑事たちにもスポットを当てたシーンが描かれています。
叶刑事は船村とコンビを組むことが多く、体調に不安を抱える船村を常に気遣っていました。一方で、同情されたと思った船村が、叶を激しく叱り飛ばすシーンもありました。
船村が休養を命じられた時、叶は自宅を訪ねます。応対した香子に叶は「いつまでも現場にいてほしい。僕らはみんな、おやっさんを目標にしているんです」と思いのたけを打ち明けました。
警備員を主犯と断ずる紅林は、警備員を信じている船村が「俺の目は節穴だと思っているのか」と激高したのに対し、「この事件に関しては節穴です」と言い返し、その根拠を理路整然と報告します。
直後の車中で紅林は「生意気なことを言いました」と船村に謝り、さらに「(捜査のやり方は)みんなおやっさんに教わったことなんです。おやっさんが辞めるなら自分も辞めます」とまで言い切りました。
吉野刑事は船村との直接的な会話はありません。ドラマでは重傷を負ったカンコを勇気づける思いやりがクローズアップされ、カンコの元婚約者になりすまして病室に花を届けるという心憎いことをやっています。
このドラマは、特捜最前線7周年記念特別企画として放送され、脚本はおやっさんこと船村刑事主演作を書かせたらこの人しかいない、という塙五郎さんが手がけています。
ゲスト出演者も警備員役の加藤武さん、強盗役の中西良太さん、恋人役の芦川よしみさんと名役者ぞろいで、準レギュラーの御木本伸介さん(刑事局長役)、木村理恵さん(香子役)も登場するスペシャル版でした。
なお、このドラマについては、以前にコラムで書かせていただきました。私の個人的な思いについては、そちらのコラムをご覧いただければ幸いです。
→note連載前コラム(4)日曜雑感「おやっさんに重ね合わせて」
お知らせ
コラム「私だけの特捜最前線」は、次回の100タイトル目のドラマ紹介をもって一区切りさせていただきます。
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2023年10月05日
私だけの特捜最前線→98「人妻を愛した刑事!〜吉野刑事のほろ苦い恋の物語」
※このコラムはネタバレがあります。
特捜最前線は、放送8年半になったところで大きな転換期を迎えました。放送時間の変更とともに、長年のレギュラーだった大滝秀治さん(船村刑事)と誠直也さん(吉野刑事)が降板したのです。
吉野刑事は殉職という形で去ったわけですが、今回紹介する「人妻を愛した刑事!」は、殉職回前の吉野刑事最後の主演作とも言えるドラマで、個人的には最高傑作に挙げてもいいと思っています。
夫のアリバイを証明しようとした妻
人気カメラマンが自宅でモデルを殺したとされる事件を、独断で再捜査している吉野刑事(誠直也)。その理由は、「主人はアトリエに居た」というカメラマンの妻(新井春美)の証言を信じたからでした。
事件現場には当時、多くの芸能記者が詰めかけていました。その一部始終が映像に残されており、カメラマンの犯行は疑う余地がありません。それでも吉野はアリバイを立証しようと奔走していたのです。
妻は、夫のアトリエに出向いた際、入れ違いに出ていった女性がいたと証言しており、吉野は妻と一緒に女性の行方を捜します。モデルではないかと推理しますが、該当する女性は見つかりません。
ひょんなことから、女性がモデルではなく、仕出し弁当の出前持ちだったことが分かります。吉野と妻は女性の居場所を探し、ついにカメラマンのアリバイを証明できる第三者を見つけるのです。
一方、特命課も橘刑事(本郷功次郎)や桜井刑事(藤岡弘、)らがトリックを暴いていきます。そして、カメラマンの犯行に見せかけてモデル殺しができた人物を特定し、真犯人と断定しました。
真犯人は、アリバイを証言できる妻と女性を殺そうとしますが、吉野刑事が駆け付け、二人は難を逃れます。真犯人の逮捕によって、カメラマンの無実が確定したのです。
「好きだから信じる」吉野
ドラマでは、吉野刑事の揺れ動く恋心が丁寧に描かれています。冒頭から浮かれ気分の吉野の姿が紹介され、それが所轄署で解決済みとされた事件の関係者だったことから、特命課の面々は気をもむのです。
神代課長(二谷英明)から、なぜ捜査をするのかなど詰問されますが、吉野は「分かりません」を繰り返すばかり。そして「好きだからやる。好きだから信じる。それはいけないことですか」と主張します。
ここで平凡な上司だったら「勝手な行動は許さん」「捜査をやめろ」と頭ごなしに命令するでしょう。でも神代は「5日間だけやる」と吉野の一方的な言い分を聞き入れます。神代の懐の深さがうかがえるシーンです。
吉野は、妻のために懸命になって捜査を続行しますが、妻に恋心を抱く吉野にとっては、辛い捜査でもありました。カメラマンの無実を証明し無罪放免となれば、妻に二度と会うことができなくなるからです。
後輩の叶刑事(夏夕介)に向かって「俺は、あの人と別れるための捜査をしている。苦しいよ」と胸の内を明かし、その呪縛から解放されるには「あの人から嫌われるか、あの人を嫌いになるかしかない」と吐露します。
ただ、妻の方も吉野の一途さに対し、徐々に心が引き寄せられていきます。それは、常にモデルとのうわさが絶えなかった夫の行動や、アトリエから出てきた女性への猜疑心も重なった複雑な思いでもありました。
嫌う女を演じて去った妻
ところが特命課の捜査で、カメラマンのアトリエにある「誰にも立ち入らせない秘密の部屋」の存在が明らかになります。その部屋には、妻のパネル写真ばかりが飾られていたのです。
カメラマンの妻への愛情の深さを見た吉野は、叶に対し「あの夫婦には9年8カ月の歴史がある。どうしても勝てんのだよ」と打ち明けます。それは吉野の「敗北宣言」とも言える告白でした。
出会って間もないころ、妻から嫌いなタイプの女性を聞かれた吉野は「ガムをかむ女、人前で化粧を直す女、タバコを吸う女」と語ります。あたかも、妻とは正反対の女性像を示したかのようでもありました。
カメラマンの無実が証明され、事件が解決した後、吉野が待ち合わせ場所に行くと、妻はガムをかんで吐き捨て、吉野の前で口紅を引き、タバコをふかして見せたのです。
嫌いな女の姿を見せることで、自分を忘れてほしいという切ない女ごころ。踵を返して立ち去る妻の表情は固く、そこには事件が解決したり、夫が釈放されたりした喜びは感じられませんでした。
妻の帰るべきところは、夫と子供が待つ家庭だったのです。吉野もそれをわかっていたので黙って見送ります。ラストに「吉野さんの恋は終わった」という叶のナレーションがかぶさる名場面でした。
刑事ものと恋愛ものが両方楽しめるドラマ
このドラマの秀逸なところは、吉野刑事は「恋する妻を信じてアリバイを立証する」ためだけに動かし、事件の本筋である「真犯人探し」を他の刑事たちが担っていたという点にあります。
吉野と妻とのシーンは、冒頭はコメディチックに描かれながら、徐々に夫婦の愛情、吉野の葛藤、妻の心の揺れといったシリアスなタッチとなり、そしてラストの何とも言えない切ない別れで完結していきます。
「真犯人探し」では、橘刑事と桜井刑事が「カメラマンを殺人犯に仕立てあげるトリック」を解明し、それを船村刑事(大滝秀治)に説明したうえで、船村に真犯人は誰かを語らせるという展開にしています。
事件を追いかけるという刑事ドラマ本来の面白さを見せながら、同時に「吉野の恋」という最大のテーマをぼかさない・・・さすがはメインライターの長坂秀佳氏の脚本だけのことはあります。
さらに、吉野の心の内を語らせる相手に年代の近い叶刑事をもってきたのも秀逸です。叶も決して茶化したり、たしなめたりするのではなく、先輩の吉野を静かに見守り、おもんばかっています。
何といっても、妻役を演じた新井春美さんの演技あってのドラマであることは言うまでもありません。現在、新井さんは女優としてだけでなく、産業カウンセラーとしても活躍中とのことです。
ここからは余談&予告になります。
ブログ「私だけの特捜最前線」のドラマ解説は、100タイトルをもって一区切りさせていただきます。残り2作品は、おやっさんこと船村刑事主演作の紹介を予定しています。
DVD化されている特捜最前線は150作品ほどありますので、約50作品が未紹介という形になります。とくに転換期後の作品は、終幕3部作も含めて紹介することができません。
吉野刑事殉職編も紹介作品としてリストアップしましたが、殉職に特化したドラマという感じがしましたので、それに代わって今回、吉野の最高傑作である「人妻を愛した刑事!」を紹介させていただきました。
★この回を収録したDVD(リンク先は無効となっていますので、クリックしないでください)
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2023年09月28日
特捜最前線 登場人物コラム「特命課・高杉婦警」
今週は、ドラマ解説ではなく、ちょっとした小話を書きます。題して「登場人物コラム」。
登場するのは、特命課の高杉婦警です。
特捜最前線は、レギュラー刑事の交代が5年ほど無かった時代がありました。黄金期と言われることも多いですが、高杉婦警もその一人だったのです。
高杉婦警は、前任の玉井婦警の寿退職後、滝刑事(桜木健一)と同時期に配属されました。関谷ますみさん演じる高杉婦警は、カンコの愛称で親しまれました。
ただし、「太陽にほえろ」の女性事務員のようなマスコット的な存在ではなく、カンコは特命課の事務方として捜査の一端を担う女性警察官でした。
捜査の第一線に出ていくことも度々あり、当然ですが危険な目に遭うことも。神代課長(二谷英明)らの指示通りに捜査資料をそろえたり、捜査車両に乗り込んでサポートしたりと、実務能力に優れた人物だと言えます。
ともすれば、エリート色の濃い婦警になりがちなのですが、カンコの場合はコメディタッチの部分も乙女チックな部分も兼ね備え、特命課という男だけの殺伐とした空気のなかに、カンコが居るだけで華やいだ雰囲気を作ってくれました。
印象に残っている作品は、カンコが幽霊に悩まされながら事件に巻き込まれる「高層ビルに出る幽霊!」でしょう。この作品では、昭和の時代ならではの「視聴者サービス」のシーンもありましたね(笑)
私だけの特捜最前線→51「高層ビルに出る幽霊!〜婦警というプライドとも戦ったカンコの奮闘」
カンコは特捜前半期の滝刑事や津上刑事(荒木しげる)、後半期の時田刑事(渡辺篤史)や犬養刑事(三ツ木清隆)とも共演し、結婚退職となった降板回は杉刑事(阿部祐二)との入れ替えでした。
そうした点を考えれば、カンコは「特捜最前線の歴史を見てきた女性」ということにもなります。ちなみに初期設定では西田敏行さん演じる高杉刑事のいとこだったそうです。
関谷ますみさんは昭和の時代に青春ドラマなどに出演していた女優ですが、特捜最前線のカンコはまさに当たり役。その後、女優は引退されているようです。
今回のコラムはここまでといたします
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2023年09月21日
私だけの特捜最前線→97「豪華フェリージャック・恐怖の20時間!〜スケールの大きなロケを敢行した傑作」
※このコラムはネタバレがあります。
のっけから私事で恐縮ですが、今回紹介する「豪華フェリージャック・恐怖の20時間!」は、私が特捜最前線のDVDを見始めた最初の作品で、このドラマをきっかけに特捜の世界にのめり込んでいったのです。
このドラマは桜井刑事(藤岡弘、)さんの主役を予定していたそうです。藤岡さんがケガで降板し、紅林刑事(横光克彦)の主演作に差し替えられたと言われています。後ほど詳しく触れたいと思います。
間一髪、大惨事を防いだ特命課
ダイナマイト100キロが盗まれた事件の容疑者を追って、紅林刑事は長距離フェリー「さんふらわあ」に乗り込みます。そこで偶然、後輩の海上保安官(内田直哉)と再会しました。
一方、特命課には犯人からの脅迫電話がかかってきます。犯人は、東京湾に付き出した人工島「第二海堡」に海運業と商社の社長を立たせろと指示を出し、1000人の人質がいると告げたのです。
特命課の調べで、第二海堡近くの湾内で1年前に貨物船沈没事故があり、故意に沈められた疑いがあることが分かりました。二人の社長は、その貨物船の船主と荷主だったのです。
その頃、さんふらわあ号の紅林は犯人に拉致されてしまいます。男は貨物船の船長の息子で、復讐のために事件を起こしたのでした。ダイナマイトは船内に仕掛けられていますが、どこにあるか分かりません。
捜査の結果、犯人が乗っていた車にダイナマイトが仕掛けられていることがわかり、海上保安庁の船からのモールス信号をキャッチした海上保安官が、爆発寸前でタイマーを止めたのでした。
呆然とする男に、紅林は手錠をかけます。荷主に成りすまして第二海堡に立っていた神代課長(二谷英明)はじめ、特命課員全員が大惨事を未然に防ぎ安堵したのでした。
桜井刑事が出演していたら
このドラマの脚本はメインライターの長坂秀佳氏です。大型客船のシージャックというスケールの大きさと、実は単独犯による犯行だったという展開は、まさに長坂氏の真骨頂と言えるでしょう。
ただ、事件解決の肝になる部分でゲスト出演者の海上保安官が目立っていたのが少々気になりました。その理由を考えてみると「桜井刑事が降板したことによる代替措置」という結論にいきつくのです。
紅林の役どころは、もともと桜井が演じることになっていました。であるならば、特捜の流れからすると「海上保安官と一緒に行動する別の刑事がキャスティングされていたのではないか」というのが私の推察なのです。
例えば、クライマックスとなる爆弾をギリギリのところで止めるシーン。ドラマでは海上保安官がやりましたが、本来は特命課の刑事(おそらく紅林)の役どころではなかったかと思います。
そのほかにも「ここは刑事がやった方がいいなあ」というシーンが散見しました。ただ、モールス信号を解読する場面など、海上保安官あってのシーンもしっかりと組み込まれています。
これも推察ですが、おそらく長距離フェリーへのロケは、藤岡さんと横光さんだけがキャスティングされており、代替で他の刑事(吉野や津上)を入れられなかった・・・と勝手に妄想してしまいます(笑)
スケールの大きなロケ
この作品には、昭和の時代のドラマ作りは壮大だったことを感じさせられます。まず長距離フェリーを使ってのロケは、1時間のドラマにはもったいないくらいの贅沢ぶりです。
それに加えて、海上保安庁も全面協力し、東京湾海上交通センターのシステムを見せるだけでなく、保安庁の巡視船やヘリコプターまで出動する大掛かりなロケを行っています。
さらに、一般の立ち入りを禁止していた第二海堡(現在は国土交通省所有)でも撮影をしていますので、膨大な製作費と関係機関への協力要請があったのだろうと思われます。
私がこの作品を見たのは2021年4月のことでした。なぜ、この作品が収録されているDVD30巻を真っ先に購入したのかは、よく覚えていません。たぶん「試しに買ってみるか」くらいの感覚だったと思われます。
「豪華フェリージャック・恐怖の20時間!」と、その次の収録作「マニキュアをした銀行ギャング!」は、ともに長坂秀佳氏脚本のドラマ。最初から傑作に巡り合えたのが、のめり込むきっかけになったのでしょうね。
私だけの特捜最前線→79「マニキュアをした銀行ギャング!〜叶刑事が女革命家との知恵比べに挑む」
ドラマで重要や役割となった海上保安官役の内田直哉さんは、声優として数多くのアニメや吹き替えなどに出演しており、現在も活躍中です。
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2023年09月14日
私だけの特捜最前線→96「子供の消えた十字路〜追い詰められたおやっさんの葛藤を描いた名作」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は特捜最前線の前期ドラマのなかでも傑作の一つと言われる「子供の消えた十字路」を紹介します。おやっさんこと船村刑事(大滝秀治)の葛藤を描いたスリリングな展開のドラマです。
交通事故に遭った少年が行方不明
船村刑事は、自転車に乗った少年が車とぶつかる交通事故を目撃します。運転していた男(秋元羊介)は少年を抱えて車に乗せて走り去ります。船村ら目撃者たちは「病院に連れて行ったんだな」と安堵したのです。
ところが、どの病院にも少年が担ぎ込まれたという報告はありません。少年を連れ去った車と男の目撃証言を取ろうとしますが、証言はまちまちで犯人像が絞れません。船村ですら思い出せなかったのです。
少年はいったん、救急病院に運ばれましたが、病院が準備を整える前に男は少年を抱えて立ち去っていました。ケガの状態を見た医師から命が助かるタイムリミットを聞いた特命課は、全力で消息を追います。
一方、少年が助からないと勝手に判断した男は、少年を廃車の中に隠してしまいます。男は、家族の悲願だった一戸建て住宅の契約をするため急いでおり、そのために救急救命措置を怠ったのでした。
特命課の懸命な捜査の結果、容疑者として男が浮かび上がります。否定する男に対し、事故現場で祈る母親の姿を見せながら、船村は「どうか坊やを死なせないでくれ」と懇願します。
男の自供で少年の行方が判明。工場でスクラップされる寸前の車の中から少年を救出することに成功します。船村は安堵するとともに、怒りを込めて男を一発殴りつけたのでした。
「何も思い出せない」苦悶のおやっさん
このドラマは、おやっさん(船村)が事故を目撃していながら、何も思い出せないという葛藤がテーマです。そこに少年の命というタイムリミットを重ね合わせ、いらだち、焦る船村の姿を描いています。
目撃者は「少年が病院に運ばれた」と思って安心してしまい、事故を起こした車や運転手の男のことを思い出せなくなります。21人の目撃者・・・いや船村を入れれば22人全員が同じでした。
刑事であるにもかかわらず、一般市民と同じく目撃証言ができない船村。少年の母親からは「どうして覚えてないんですか」と詰め寄られ、「何も思い出せないんだよ」と苦悶の表情を浮かべます。
「練馬ナンバーだった」という少年の証言を得て、該当する800台の車の持ち主に片っ端から電話をかけまくる特命課。だが時間は過ぎ去っていくばかり。船村は耐えきれず、部屋を飛び出してしまいます。
神代課長は、ムダな作業だということは百も承知でした。そのうえで「一番苦しいのはおやっさんだ。おやっさんに記憶を取り戻してもらうしかない」と、刑事たちに真意を語ったのです。
現場に戻ったおやっさんが、あるきっかけを得て車のナンバーの一部をついに思い出します。それから捜査は一気に進展し、容疑者の特定、そして少年の救出へとつながっていくのです。
長坂脚本と大滝秀治さんの名演技
ドラマは、長坂秀佳脚本の真骨頂とも言えるような非常にメリハリがあるスピーディーな展開。少年の命というタイムリミット、そしてスクラップ工場でのピンチと、スリリングなままエンディングまで突き進みます。
ドラマの中盤からは事故を起こした男と、その家族にもスポットを当てています。男は根っからの悪人ではなく、予期しなかったアクシデントに右往左往する小心者として描かれています。
マイホームという自分と家族の夢を裏切れない・・・男にも葛藤がありました。だからといって、ケガを負った少年を連れまわし、挙句の果てに放置した行為は絶対に許されるものではありません。
救出された少年は桜井刑事(藤岡弘、)らが病院へと運びます。ドラマでは少年の命が救われたのか、手遅れだったのか、そこまでは描いていません。それが船村のラストのセリフにも表れています。
「生きてくれ、生きてくれと念じつつ、私は噴き上げる怒りを鎮めることなどできなかった」。その怒りの大部分は男に対してでしょうが、思い出すのに時間がかかった自分への怒りも含まれていたと思います。
人間ドラマも散りばめた長坂脚本は見事の一言に尽きますが、60分のストーリーの中で喜怒哀楽を縦横に演じ切った大滝秀治さんは、やはり名優だなと思わずにはいられませんね。
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2023年09月07日
私だけの特捜最前線→95「殺人伝言板・それぞれのクリスマス!〜人間ドラマを最後に束ねていく塙脚本の妙」
※このコラムはネタバレがあります。
今回紹介する「殺人伝言板・それぞれのクリスマス!」は、特捜最前線のメインライターの一人で、独特の人間ドラマを描く塙五郎氏の脚本。塙ワールド全開とも言えるような味のある作品です。
クリスマスイブの殺人事件
クリスマスイブの夜、デートに向かう滝刑事(桜木健一)の車に若い女が飛び込もうとしました。女は訳ありのようで、目を離せなくなった滝は、結局一晩中、女に付き合わされてしまうのです。
同じ頃、新宿駅地下道で中年男性が何者かに撲殺される事件が発生。近くには伝言板があり、事件前後に伝言板に書き込みをした人が目撃している可能性があるとして、特命課は伝言を一つずつ調べていきます。
一方、滝は女から「実は私もデートをすっぽかしたの」と打ち明けられます。女は前夜知り合ったトラック運転手と待ち合わせをしていました。滝は「きっと連絡が来るから」と、女を家に帰したのでした。
特命課の捜査で、伝言板の近くで若い男が誰かを待っていたことが判明。その男が書いたと思われる伝言を見て「今日も現れる可能性がある」とみた特命課は、現場周辺の張り込みを開始します。
そこに現れたのは、滝を連れまわした女・・・そして、女がデートをすっぽかしたトラック運転手こそが犯人だったのです。しかも運転手は、桜井刑事(藤岡弘、)が逮捕したことがあった青年だったとは・・・
青年は、酔ってぶつかってきた中年男性に女へのプレゼント用のケーキを落とされ、罵られたためにカッとなって撲殺してしまった・・・というのが、ドラマの本筋部分にあたるストーリーです。
「小ネタ」満載のストーリー
このドラマは本筋以外のところに小さなサイドストーリーがたくさん散りばめられています。それがゴチャゴチャにならず、一本の線としてクライマックスへとつながっていくのが塙脚本の妙と言えるでしょう。
桜井刑事と青年との関係では、青年が祖母と二人暮らしという設定とし、更生の道を歩き始めていた青年が再び犯罪を犯してしまい、桜井は新たな悲しみを抱えるであろう祖母へのやるせない思いを表情に浮かべています。
目撃者探しでも「小ネタ」を入れています。近くでおもちゃを売っていた男性は、橘刑事(本郷功次郎)らが事情を聞きに自宅を訪ねたら、孫を道連れに自宅に放火して無理心中を図ろうとしていました。
紅林刑事(横光克彦)が張り込んでいた連れ込み旅館にいた男は、警察手帳を見せた途端、逃げ出したので取り押さえられます。実は伝言板を使って、覚せい剤の取り引きをしていたのでした。
事件発覚前、自宅にいた津上刑事(荒木しげる)は、酔って帰ってきた妹に説教をし、妹と喧嘩になってしまいます。捜査中もつい、妹のことが気がかりで仕方なく、なかなか身が入りません。
唯一、ドラマで「滑稽役」となったのが吉野刑事(誠直也)。目撃者だと言い張る浮浪者に絡まれ、目撃者探しでは「メリーさん」という名の男性?にビックリさせられ・・・という感じです(笑)
特命課刑事たちの人間ドラマ
人間ドラマという点では、津上刑事と妹だけでなく、橘刑事や神代課長(二谷英明)の家族にも触れています。ドラマの本筋とは直接関係ありませんが、とても印象に残る場面が続きました。
事件発覚前に吉野刑事とスナックにいた橘は、手に息子の名前が刻まれた万年筆を持っていました。クリスマスプレゼントとして送ったものの、息子から送り返されてしまったのです。
この回想シーンで、橘と息子・信一とのすれ違いを描いた「死体番号 044の男!」の一場面が流れました。橘が信一と和解できるようになるのは、まだまだ先の話になります。
神代課長の回想・・・それは愛娘の夏子でした。神代は夏子からプレゼントをもらった思い出とともに、目の前で夏子が凶弾に倒れた場面も思い浮かべてしまいます。これも回想シーンで流されました。
津上刑事と妹では、事件解決後に笑顔で電話をするシーンが描かれました。実はこのドラマの3作後に津上刑事殉職編が放送されています。それを考えると、非常にせつないシーンを見せつけられた気がします。
そしてドラマで一応主役だった滝刑事。実は滝がすっぽかしたデートの相手とは、何とカンコこと高杉婦警(関谷ますみ)だったのです。ただし、下心があった滝とは違い、カンコは「美味しいもの目当て」でしたが。
事件を知らずに翌日の朝出勤した滝に対し、カンコはブンむくれで冷たい態度を取ります。しかも神代から「私も美味しいものを食べさせてもらいたいな」と言われる始末・・・カンコにチクられてしまったのでした(笑)
ドラマのBGMで使われていたのは、アリスの名曲「帰らざる日々」でした。「バイバイバイバイ・マイラブ」のメロディーが人間模様とマッチしていて、ドラマを一層印象深いものにしています。
ラストは街中でクリスマスツリーが片付けられ、特命課ではカンコが鏡餅を備えるシーン・・・辛い思い出ばかりのクリスマスよバイバイ、笑顔で新しい年を迎えましょうという演出。珍しく「後味がよかった」ですね。
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