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市井の料理研究家兼ミリタリー研究家です。思いついたことを書いていきます。
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2023年12月31日

12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の仕様書をさらっと読んでみた

■12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の仕様書が公開された

■衛星及び航空機からのUTDC受信、また限定的ながら双方向データリンクが出来る様だ

■ミサイル間通信能力や自立脅威回避能力といった機能は持たず、取り敢えず早期の装備化を目指している印象


何も年末も押し迫った日にこんな大ネタをやらんでも良さそうですが(^^)

12/29に大火力先生(@Military_Hobbys)より12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の初回量産仕様書が公開されました。自腹を切ってこのような貴重な資料を公開している大火力先生に感謝であります。

さて、管理人はこのミサイルのことは全く存じません。殆ど初見だということをご留意ください。まぁ、市井の自称料理研究家じゃなくて兵器オタクが世迷言を述べているという認識でお願いします。年末で時間も無いことですし、ここでは主に誘導装置関連を中心として見てみたいと思います。

さて、仕様書に載っている概要図を見てみると、このミサイルが"12式地対艦誘導弾"という名前が付いているのに関わらず、従来のASM-1眷属とは全く異なることが分かると思います。

ASM-1ファミリーの図
The_development_of_Japanese_anti-ship_missiles.png
画像引用元: Los688 - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=30811400による

外観は何となくRTX社のAGM-129やMBDA社のSCALP-EG/ストーム・シャドウを彷彿とさせます。

RTX社のAGM-129 ACM
1257px-Agm-129_acm (1).jpg
画像引用元: パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=196347

MBDA社のSCALP-EG/ストーム・シャドウ巡航ミサイル
StormShadow-Hendon_1.jpg
画像引用元: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:StormShadow-Hendon_1.jpg#/media/ファイル:StormShadow-Hendon_1.jpg

なのに、12式地対艦誘導弾という名称が付いているのは、73式小型トラックみたいなもんでしょう。つまり、全くの新規開発ではなく既存の誘導弾の改良型であるという体裁を取っている訳です。これにより本来開発モノとして必要な手続きや手順をすっ飛ばして装備化を早められるって訳ですね。

通常、開発品の場合は部内研究から始まり、研究試作から所内試験を経て開発決定し、試作を行って技術試験を行い、ユーザーである運用者側の試験である実用試験を経て装備審議会に掛けられて制式化するというプロセスが必要になります。もし、研究開発要素が無くいきなり試作から入れるのであれば、大幅に開発期間を短縮できます。このような開発例として代表的なのは中距離多目的誘導弾でしょう。このミサイルは01式軽対戦車誘導弾のシーカの開発成果を最大限に流用して開発を簡素化させています。

中距離多目的誘導弾
JGSDF_Middle_range_Multi-Purpose_missile_and_launcher.jpg
画像引用元: JGSDF - 中距離多目的誘導 誘導弾及び発射装置, CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26307972による

前置きが長くなりました。仕様書の17ページ、附属書A(規定)誘導弾を中心に読んでいきます。

ます、誘導部というところを見てみると、ホーミング装置が電波式であることが分かります。これは恐らく、12SSMからの流用じゃないかと思います。

次に慣性装置ですがGNSS(全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System))からの電波を受信し、また飛しょう体の加速度及び角速度を検出しとなってますから、GNSSをベースに光学式INS(恐らくFOG)を組み合わせたものなのでしょう。ASM-2BのようにGPS併用航法と言っていないのがミソ(つまりGNSSメイン)でしょうね。また、GPSではなくわざわざGNSS と呼んでいるのは、GPSだけではないということでしょう(無償貸付品に準天頂衛星システム関連資料が含まれています)。

誘導部で注目すべきは衛星艦船情報受信装置と目標情報装置でしょう。

衛星艦船情報受信装置は衛星経由で艦船から目標情報を受信するもののようです。所謂、UTDC(Up To Date Command)です。ここで注目すべきは地発型なのに発射プラットフォームではなく艦船からの情報を受信する点です。これは長射程(1,000km以上)のため前方へ進出している艦船から情報を入手するためでしょう、最近は本邦の潜水艦にも Xバンド衛星を使った衛星通信装置が装備されつつあるようですから、目標付近まで前進した潜水艦からのUTDC送信、もっと進んで潜水艦から目標初期値情報を受けて発射してUTDCで誘導指示を行うこともも有り得ると思います(それがメインかも)。

目標情報装置というのは初めて聞く名称ですが、仕様書によると航空機の対空無線によりUTDC受信する装置とのことです。また、誘導弾のステータス情報などを中継機、地上局へ送信する機能もあるようです。所謂、双方向データリンク(2 way datalink)が出来ることになります。シーカが画像誘導方式ではないので命中直前の目標の画像を送ると言った芸当は出来ないと思いますが、もしシーカーのレーダーで捉えた情報を送信できるのであれば、情報収集の一助となるかもしれません。

さて、自分的に注目していたのはこのミサイルに以下のような機能が存在するかどうかです。

・ミサイル間通信機能
・ミサイル自身のセンサー情報による自律的脅威回避能力
・デコイ等の自己防御(欺瞞)手段


仕様書をさらっと除く限りはそのようなものは見受けられないようです。まぁ、このミサイルについてはアジャイル開発に近い手段が取られるようですから、今後装備する可能性もあるかもしれません。

このミサイルについては今後もウォッチしていきたいと思います。

今年の更新はこれで終わりです。今年一年のご愛顧を感謝いたします。
来年も細々と続けていければと思います。


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2023年12月18日

ASM-2B改善弾の謎の新機能を無理くり推理する

■ASM-2B改善弾では「飛しょう」、「誘導」、「起爆」について機能が追加されている

■仕様書のベースとなった技術要求事項では当該箇所は全て黒塗りされている

■恐らく、GPSの新規追加とオートパイロットのデジタル化に即した機能が追加されているのであろう


ASM-2ネタが続きます(^^)

ASM-2B改善弾の仕様書のベースとなった「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」ですが、こちらでは表1の機能を追加するとなってますが、これが見事なまでに黒塗りであることは先日申し上げました。

こんな感じです。
FireShot Capture 1653 -  - misae-server.png

ただ機能として「飛しょう」、「誘導」、「起爆」の3つが挙げられています。

今回は足らない頭を絞りに絞ってその内容を無理くり推測してみたいと思います(笑

◆「飛しょう」

これは恐らく、は事前に目標の初期値を入力し、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定することが出来るようになったことを指していると想像します。特にGPS搭載により、より正確に3Dウェイポイントが指定できるようになったことが大きいでしょう。3Dウェイポイントとは位置情報が緯度経度だけではなく、高度でも設定できることです。これにより発射プラットフォームと目標との間に島嶼や山岳、又はSAMのような防空システムがあっても、山越えや廻りこみ、回避機動等によって、高度を上げなくてもそれを避けるように低空で飛しょうできるようになり、被探知性や複数発射時の異方向同時攻撃時のTOT(Time On Target)が容易となりました。

この辺りのことはSaab社の対艦ミサイルRBS15 Gungnir(北欧神話の主神オーディンが持つ槍)の以下のページが大変分かり易いと思います。

RBS15 Gungnir ALWAYS ON TARGET
https://www.saab.com/site-settings/html5/gungnir/index.html

◆「誘導」

ここは例え知っていたとしても書けない部分が多く、IRCCMに関することなのか、はたまた以前問題になったあの事なのか。。。一つ想像するに終末誘導時の回避機動、SSM-1で言うと揺動機能が盛り込まれたかもしれません。

88式地対艦誘導弾(SSM-1)試験映像

このビデオの中(0:29)に"揺動"と思われるシーンが出てきます。

◆「起爆」

元々、無印ASM-2においても、オートパイロット電子装置からの信号によって起爆する自爆機能を持ちます。オートパイロット電子装置のデジタル化で柔軟な運用が可能になったことによって、座標による爆破ポイントの設定により、目標への近接爆破が可能となり、目標の上空にて爆破することで、爆風効果及び破片効果によってより広範囲の目標物(特にソフトスキン目標)を破壊するとか、座標と高度で起爆することによって実質的に地上目標攻撃能力を得るといったことが考えられます。

以上、非才の身でつらつらと想像してみました。今後も情報収集に努めます。

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2023年12月11日

ASM-2B改善弾では何が改善されたのか

■ASM-2B改善弾ではASM-2Bからソフトウェアが改修されている

■この改修によって,多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定出来るようになった

■ASM-2はこれでやっと他国の対艦ミサイルに比肩する能力を得たと言える


ASM-2B誘導部試験用CFTポッド
1272px-JASDF_ASM-2B_Captive_Flight_Test_Pod_20131124.jpg
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29945751

ASM-2Bは平成20年度(2008年度)に「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」が空幕技術部内で起案され、これを基に装備部長に対して「93式空対艦誘導弾(B)に対する技術要求事項(空幕技第141号23.6.28)」が通知されることになります。

この技術要求事項は開発集団から出された「ASM-2B改善弾の技術的追認 個別報告書 技術資料の収集(開発集団開第2号23.1.13」と「ASM-2B改善弾の技術的追認 個別報告書 要改善事項等(開発集団開第2号23.1.13」がベースとなっていると思われます。ここで注目すべきは既に"ASM-2B改善弾"という用語が用いられている点です。

この技術要求事項の別紙第7項 機能及び性能に関する部分を抜粋してみます。

CP-Y-0067Lによるほか、次による。
VET09018 表1.2-1の妨害対処機能を追加するとともに、ASM-2B改善弾の技術的追認の成果((開発集団開第2号23.1.13別冊付録第5 「注意」)のうち、誘導部単体で改善が可能な事項を適用するものとする。


上記の内、VET09018は別文書の「ASM-2の改修 システム報告書」であることから、改善弾では以下の改修が為されたと考えられます。

(1)「ASM-2の改修 システム報告書」に基づく妨害対処機能の追加
(2)開発集団から出された「ASM-2B改善弾の技術的追認の成果」の内、誘導部単体で改善が可能な機能

(1)については詳細が不明ですが、IRCCM(赤外線妨害排除)機能の何らかの新しい能力の追加があったと考えられます。ASM-2Bは元々、IRCCM能力がありますが、既存の機能の能力向上ではなく新たな能力の追加とは何を指しているのかは分かりません。

(2)の改善内容については、空幕技術部で起案された「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」の中に書かれています。

ASM-2Bのソフトウェア改修等に対する技術要求事項

1.目的
航空自衛隊が調達する93式空対空誘導弾(B)(以下「ASM-2B」という。)の搭載ソフトウェア及び部隊用点検器材の改修によりASM-2Bの■■■を図る。(管理人注 ■■■は黒塗り)
.
3 設計条件
(1) 誘導部については、CP-Y-0067の2.1によるほか、ASM-2部隊用点検器材により初期値(目標の位置情報等)を設定できる設計とする。
(2) ASM-2部隊用点検器材については、CPS-W66009の2.1によるほか、誘導部への初期値を設定できる設計とする。

.

7. 機能及び性能
従来の機能に加え、表1の■■■(管理人注 ■■■は黒塗り)を追加する。そのためにシステム設計の変更となる部分の見直しを実施する。また、システム設計見直し結果及び細部設計報告書等に基づき、次の改修を実施する。
(1)誘導部の改修は別紙第1による。
(2)ASM-2部隊用点検器材の改修は別紙第1による。

そこで表1を確認するのですが、これが見事なまでに黒塗りです(T_T)
項目として、飛しょう、誘導、起爆があることから、それらに関連する機能でしょう。

次に”別紙第1 誘導部の改修”を見てみます。

2 製品に関する要求を見てみると、(1)では改修対象は慣性装置とオートパイロット電子装置であることが確認できます。(2)は改修内容となってますが、この部分も黒塗りです。

別紙第2はASM-2部隊用点検器材の改修ですが、追加された項目は黒塗りとなっています。ただ、接続ケーブルが付随すること、また付図第1のASM-2部隊用点検器材 附属品を見るとラップトップPCのようなものが確認できます。恐らく、パナソニック社のタフブックのような耐環境性ラップトップPCでしょう。(管理人注 航空事業部はフライトラインでの点検器材としてDRS社(現レオナルド社)の耐環境性ラップトップPCを使っていたと記憶しています)

上記の件から、ASM-2B改善弾の改善とは以下なのではと推測します。

(1)IRCCM(赤外線妨害排除)の新機能追加
(2)誘導部のソフトウェアの改修により、部隊用点検器材から初期値(目標の位置情報等)を設定できる機能追加


(1)の内容は不明ですが、(2)についてはASM-2Bのベースとなった「ASM-2の技術改善」(仕様書番号:4補LPS-X02556)の記述と合わせるとある程度の推測が可能です。

「ASM-2の技術改善」」(仕様書番号:4補LPS-X02556)
(6)将来発展性
オートパイロット電子装置は、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報等)を入力できるものとする。


つまり、部隊用点検器材により目標の位置情報を入力し、これにより多方向から目標を攻撃できるようになった。より具体的には複数のウェイポイントを設定し、各々のミサイルを多方向から目標へ向かわせることが出来るようになったと解釈するのが妥当と思われます。

陸のSSM-1では、指揮統制装置と射撃統制装置によって最大96発が管制され、射撃目標位置,発射弾数,飛しょう体初期値,命中時刻の指定、発射時刻の指定等が行われます。つまり、複数のミサイルの同時発射においてそれぞれのミサイルが統制されており、またミサイルが持つ目標選択アルゴリズムも相まって、複数同時発射のメリットを最大限生かすような方策が取られています。

これに対して、ASM-1やASM-2では個々の搭載母機にのみ管制されており、多数機による複数同時発射の際に目標の重複や、攻撃方向が偏ってしまって相手の防御が容易になってしまう可能性があります。ASM-2B改善弾では事前に目標の初期値を入力し、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定することにより同時発射の際のメリットを生かせるようになったと考えられます。

SAAB RBS15 MK3 Surface to Surface Missile

1:56頃の映像で複数の3Dウェイポイントを経て異方向から着弾時間を4秒の時間差を以て目標へ向かっていることが確認出来る。このRBS-15のMk3モデルは、ASM-2B改善弾の装備化より10年ほど早い2004年から配備が始まっている。

なお、管理人がASM-2の仕様書で確認したかったのは、果たしてASM-2が複数同時発射の際にミサイル間で目標情報をやりとりする「ミサイル間通信機能」を持っているかどうかでしたが、こちらの方は確認できませんでしたが、この能力は恐らく持っていないんでしょう。


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2023年12月06日

ASM-2Bって地上攻撃出来るの?

■ASM-2の改良型であるASM-2Bは中間誘導用にGPSが搭載された

■そのためASM-2Bは地上攻撃が出来るとされているが果たしてそうか

■恐らく、地上施設の攻撃は難しいが艦船への泊地攻撃は出来るであろう



ご無沙汰しております(^^)

93式空対艦誘導弾のwikiのページには以下のような記述があります。

1280px-JASDF_ASM-2(Dummy)_at_Gifu_Air_Base_October_30,_2016.jpg
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=52876836

93式空対艦誘導弾(きゅうさんしきくうたいかんゆうどうだん)は、日本が開発・配備した空対艦ミサイル(対艦誘導弾)別称はASM-2[1]、1993年から航空自衛隊に配備されている。改良版(ASM-2/B)は誘導方式にGPSを用いているため、座標を入力すれば対地攻撃も行うことができる。

引用元: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』93式空対艦誘導弾


何かミサイルにGPSが付くと、漏れなく地上攻撃能力が付いてくると言わんばかりですが、果たして本当にそうなんでしょうか?

◆仕様書にはそんなこと一切書かれていない◆

まず、手元にあるASM-2の最新の仕様書はH23.7.19改訂のCP-Y-0067Mですが、その中には地上攻撃に関することなどは一言も書かれてはいないことです。最初の文言である1.1.1 適用範囲には以下のように記述されています。

1.1 適用範囲
この仕様書は、戦闘機(以下、"搭載母機"という。)に搭載し、侵攻艦船に対する攻撃に使用する93式空対艦誘導弾(B)(以下、"ASM-2B"という)について規定する。


勿論、仕様書に書かれていないからと言ってそういう使い方はしないということはありません。開発している内にこういう使い方も出来るだろうと思って試験することもあります。例えば、某観測ヘリから某空対空ミサイルを地上目標に向かって撃ってみようとかです。

ただ、寡聞にしてASM-2Bを地上目標に向かって実射試験したとかいう類の話は聞いてません。また、地上目標相手だと、SSM-1のように地形回避や回り込み等の能力の確認が必要ですが、日本国内にそのような射場は無いため、米国カリフォルニア州ポイントマグー射場のような場所での試験が必要でしょう。そのような話も聞いたことありません(米国での試験なら少なくても公告位出るでしょう)。

◆GPSの搭載の目的はあくまでも誘導精度の向上◆

GPSに関してですが、これがどのように用いられるかは、ASM-2(B)の開発の元となったH12年度契約の「ASM-2の技術改善」の仕様書の中に以下の文言が出てきます。

ア 慣性装置
(ア) GPSからの信号により自己の位置情報をアップデートできるものとする。


また、航空幕僚監部技術部長より装備部長に対して発せられた空幕技1第12号(平成15.1.31)「93式空対艦誘導弾(B)の技術要求事項について(通知)」では以下の文言が出てきます。

(b) 慣性装置
慣性装置は、加速度検出、角速度検出、姿勢角計算、速度計算、位置計算、高度計算の各機能を有するものとする。また、GPS併用航法機能を有するものとする。


つまり、ASM-2(B)で新たに搭載されたGPSは中間誘導をこれ一つで担うものではなく、従来の慣性航法装置(ASM-2(B)では機械式から光学式へ変更されている)を補完するものであるということです。例えれば、時計の時刻の狂いを自動的に補正する類のモノでしょう。

なお、余談ですが慣性航法装置は機械式でも光学式でも航法精度にそれほど差が無く、下手をするとコンベンショナルな機械式の方が精度が高い場合もあるそうです。光学式は機械的可動部分が無いため、メンテナンスが不要で取得価格が安いというメリット(FOGの場合)があります。

慣性航法装置は時間が経つとともに誤差が徐々に蓄積していきますから、途中でGPSにより誤差修正が為されるならば航法精度の大幅な向上が見込めることでしょう。特に最終の目標捜索段階において目標を失探する可能性を低減し、相手に探知される可能性を高める再捜索の回避に役立つでしょう。

2011年のMAKS航空見本市で展示された、ウクライナの "Arsenal "社のジャイロスコープ
960px-Ring_laser_gyroscope_at_MAKS-2011_airshow (1).jpg
画像引用元: Nockson, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

以下はスウェーデンSAAB社のFiber Optic Gyro(FOG)のページ
https://www.saab.com/products/fiber-optic-gyro-products

(補足)
FOGはRLG(Ring Laser Gyro)より精度は劣るが、コンパクトで価格が安く消費電力が小さい。そのため、ミサイルやUAVに多く用いられる。RLGは主に航空機に搭載される。


<追記>
もしかすると、ASM-2BへのGPS追加は従来の機械式慣性装置からFOGへの変更に伴う航法精度の低下を補うという目的もあるのかもしれません。


◆シーカーは地上目標を捉えられるのか◆

ASM-2のシーカーはIIRであり、アクティブ・レーダー式では持ちえない個艦識別能力、命中点選択能力を持ちます。ただ、基本的に赤外線シグネチャーが大きな艦船を狙うもので、大きな建物とかを狙うのならともかく、小さな目標を狙えるような高い赤外線画像解像度は持っていないと思われます(逆に温度が高いホットスポットはIRCCMの対象になる)。また、地上となると海上と違って雑多な赤外線ノイズがある訳で、それらを排除し目標を正確に識別する能力が求められます。以前、構想されていたASM-D/L(データリンク)も命中精度を上げるための試みでしたが、もし地上攻撃するのならそのような機能が必要になるでしょう。

◆弾頭と信管◆

基本的に対艦ミサイルの弾頭は半徹甲弾になります。それは船殻を貫いて艦の船体内部や艦上構造物の内部へ食い込ませるためです。そのため、信管は必然的に遅延信管になります。地上目標だったら、弾頭は破片効果を狙って榴弾で、信管は着発又は空中炸裂を狙った近接信管が向いていると思われますが、そのような機能はASM-2Bには見受けられません。
<追記>
元々、無印ASM-2でもオートパイロット電子装置から自爆指令を出せますから、GPSの3D座標をトリガーにして起爆指令を出すことによって、疑似的に着発又は近接信管と同様なことは可能ではあるでしょう。


◆では地上攻撃できないのか◆

これまで、ASM-2Bの地上攻撃能力の可否を論じてきましたが、ASM-2Bになって新たに得た又は向上した能力があると考えます。

それは 泊地攻撃能力 です。

例えば以下のような写真の場合です。

HMS アンドロメダとキャンベラ
1007px-SS_Canberra_&_HMS_Andromeda_Falklands_1982.jpg
画像引用元: Ken Griffiths - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3531099による

フォークランド紛争時の写真ですが、艦船が狭い島嶼海域に停泊しています。これはミサイル側から見ると非常に難しい目標になります。何故なら、海側から見るとフネは島陰に隠れ、またシーカーに捉えられたとしてもフネの背景には島嶼の地形が入り込むため、艦船との識別が必要になります。さらにこれが港湾ともなると赤外線ノイズ源となる多くの地上施設も存在します。

このような目標を狙うには島嶼の地形を避けて正確に飛翔して背景に地形が入らない方向から狙う必要があります。そのためには非常に高い航法精度と多くのウェイポイントなどの経路をプリプログラムできる機能が必要になるでしょう。ASM-2B改善型はソフトウェアの改善により、新たに導入した地上支援器材によって多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報)を設定できるようになったようです。

つらつら述べてきましたが、ASM-2B改善弾についてはまだまだ不明な点があり(仕様書の黒塗り部分が多いため)、もっと多様な機能があると想像できますが、それらについては今後の課題としておきましょう。

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