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2023年12月11日

ASM-2B改善弾では何が改善されたのか

■ASM-2B改善弾ではASM-2Bからソフトウェアが改修されている

■この改修によって,多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定出来るようになった

■ASM-2はこれでやっと他国の対艦ミサイルに比肩する能力を得たと言える


ASM-2B誘導部試験用CFTポッド
1272px-JASDF_ASM-2B_Captive_Flight_Test_Pod_20131124.jpg
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29945751

ASM-2Bは平成20年度(2008年度)に「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」が空幕技術部内で起案され、これを基に装備部長に対して「93式空対艦誘導弾(B)に対する技術要求事項(空幕技第141号23.6.28)」が通知されることになります。

この技術要求事項は開発集団から出された「ASM-2B改善弾の技術的追認 個別報告書 技術資料の収集(開発集団開第2号23.1.13」と「ASM-2B改善弾の技術的追認 個別報告書 要改善事項等(開発集団開第2号23.1.13」がベースとなっていると思われます。ここで注目すべきは既に"ASM-2B改善弾"という用語が用いられている点です。

この技術要求事項の別紙第7項 機能及び性能に関する部分を抜粋してみます。

CP-Y-0067Lによるほか、次による。
VET09018 表1.2-1の妨害対処機能を追加するとともに、ASM-2B改善弾の技術的追認の成果((開発集団開第2号23.1.13別冊付録第5 「注意」)のうち、誘導部単体で改善が可能な事項を適用するものとする。


上記の内、VET09018は別文書の「ASM-2の改修 システム報告書」であることから、改善弾では以下の改修が為されたと考えられます。

(1)「ASM-2の改修 システム報告書」に基づく妨害対処機能の追加
(2)開発集団から出された「ASM-2B改善弾の技術的追認の成果」の内、誘導部単体で改善が可能な機能

(1)については詳細が不明ですが、IRCCM(赤外線妨害排除)機能の何らかの新しい能力の追加があったと考えられます。ASM-2Bは元々、IRCCM能力がありますが、既存の機能の能力向上ではなく新たな能力の追加とは何を指しているのかは分かりません。

(2)の改善内容については、空幕技術部で起案された「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」の中に書かれています。

ASM-2Bのソフトウェア改修等に対する技術要求事項

1.目的
航空自衛隊が調達する93式空対空誘導弾(B)(以下「ASM-2B」という。)の搭載ソフトウェア及び部隊用点検器材の改修によりASM-2Bの■■■を図る。(管理人注 ■■■は黒塗り)
.
3 設計条件
(1) 誘導部については、CP-Y-0067の2.1によるほか、ASM-2部隊用点検器材により初期値(目標の位置情報等)を設定できる設計とする。
(2) ASM-2部隊用点検器材については、CPS-W66009の2.1によるほか、誘導部への初期値を設定できる設計とする。

.

7. 機能及び性能
従来の機能に加え、表1の■■■(管理人注 ■■■は黒塗り)を追加する。そのためにシステム設計の変更となる部分の見直しを実施する。また、システム設計見直し結果及び細部設計報告書等に基づき、次の改修を実施する。
(1)誘導部の改修は別紙第1による。
(2)ASM-2部隊用点検器材の改修は別紙第1による。

そこで表1を確認するのですが、これが見事なまでに黒塗りです(T_T)
項目として、飛しょう、誘導、起爆があることから、それらに関連する機能でしょう。

次に”別紙第1 誘導部の改修”を見てみます。

2 製品に関する要求を見てみると、(1)では改修対象は慣性装置とオートパイロット電子装置であることが確認できます。(2)は改修内容となってますが、この部分も黒塗りです。

別紙第2はASM-2部隊用点検器材の改修ですが、追加された項目は黒塗りとなっています。ただ、接続ケーブルが付随すること、また付図第1のASM-2部隊用点検器材 附属品を見るとラップトップPCのようなものが確認できます。恐らく、パナソニック社のタフブックのような耐環境性ラップトップPCでしょう。(管理人注 航空事業部はフライトラインでの点検器材としてDRS社(現レオナルド社)の耐環境性ラップトップPCを使っていたと記憶しています)

上記の件から、ASM-2B改善弾の改善とは以下なのではと推測します。

(1)IRCCM(赤外線妨害排除)の新機能追加
(2)誘導部のソフトウェアの改修により、部隊用点検器材から初期値(目標の位置情報等)を設定できる機能追加


(1)の内容は不明ですが、(2)についてはASM-2Bのベースとなった「ASM-2の技術改善」(仕様書番号:4補LPS-X02556)の記述と合わせるとある程度の推測が可能です。

「ASM-2の技術改善」」(仕様書番号:4補LPS-X02556)
(6)将来発展性
オートパイロット電子装置は、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報等)を入力できるものとする。


つまり、部隊用点検器材により目標の位置情報を入力し、これにより多方向から目標を攻撃できるようになった。より具体的には複数のウェイポイントを設定し、各々のミサイルを多方向から目標へ向かわせることが出来るようになったと解釈するのが妥当と思われます。

陸のSSM-1では、指揮統制装置と射撃統制装置によって最大96発が管制され、射撃目標位置,発射弾数,飛しょう体初期値,命中時刻の指定、発射時刻の指定等が行われます。つまり、複数のミサイルの同時発射においてそれぞれのミサイルが統制されており、またミサイルが持つ目標選択アルゴリズムも相まって、複数同時発射のメリットを最大限生かすような方策が取られています。

これに対して、ASM-1やASM-2では個々の搭載母機にのみ管制されており、多数機による複数同時発射の際に目標の重複や、攻撃方向が偏ってしまって相手の防御が容易になってしまう可能性があります。ASM-2B改善弾では事前に目標の初期値を入力し、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定することにより同時発射の際のメリットを生かせるようになったと考えられます。

SAAB RBS15 MK3 Surface to Surface Missile

1:56頃の映像で複数の3Dウェイポイントを経て異方向から着弾時間を4秒の時間差を以て目標へ向かっていることが確認出来る。このRBS-15のMk3モデルは、ASM-2B改善弾の装備化より10年ほど早い2004年から配備が始まっている。

なお、管理人がASM-2の仕様書で確認したかったのは、果たしてASM-2が複数同時発射の際にミサイル間で目標情報をやりとりする「ミサイル間通信機能」を持っているかどうかでしたが、こちらの方は確認できませんでしたが、この能力は恐らく持っていないんでしょう。


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この記事へのコメント
keenedge様

返信ありがとうございます。


やはり、流用出来た点が大きいんですね。
本邦のミサイル開発は凄いですね。
Posted by ssao at 2024年03月06日 18:29
ssao様、

コメントありがとうございます。
ASM-1C/SSM-1Bはハープーン互換インターフェイスを備えたSSM-1という認識です。記憶が定かで無いですが、ASM-1C/SSM-1Bはいきなり試作から入ったと思います(=開発要素が無い)。
ただ、ASM-1CではSSM-1には無かった機能が新たに追加されています。それは空気取入口カバー分離機能です。これはASM-2にも流用されていると思います。

陸のSSM-1はギミック満載の代物で、非常に頭が良い誘導装置を備えています。そのため、ASM-1の改良型として誘導制御部をSSM-1のものに換装する計画も構想されましたが実現しませんでした。そのため、ASM-1CがASM-1の後継として検討される可能性もあったかもしれません。
Posted by keenedge1999 at 2024年03月06日 10:23
keenedge様

コメント失礼します。

ASM-2は航空事業部が気合を入れて開発したミサイルと言うのは開発費から見ても分かるのですが、同時期に開発された海洋事業部のASM-1Cはどの様なミサイルなのでしょうか?SSM-1Bと同時開発だったので開発費が安く済んでますが、性能はかなり妥協してるんでしょうか。それとも、陸上事業部のSSM-1ベースでSSM-1Bが開発されたので流用出来た点が大きいのでしょうか
Posted by ssao at 2024年03月05日 09:37
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