アフィリエイト広告を利用しています
最新記事
プロフィール
keenedge1999さんの画像
keenedge1999
市井の料理研究家兼ミリタリー研究家です。思いついたことを書いていきます。
プロフィール
カテゴリーアーカイブ
写真ギャラリー

2024年03月17日

AAM-4の特殊変調方式

■AAM-4には仕様書上で被発見性に関する要求がある

■AAM-4の送信方式は技本50年史では"特殊変調方式"と呼称している

■この方式によりAAM-4は高い電波秘匿性とECCM能力を得ている


Wifi-bluetooth.jpg
画像引用元: 日本語版ウィキペディアのHidekiさん - 原版の投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=13296614による

先日、AAM-4Bの仕様書を閲覧したことをお伝えしましたが、

AAM-4Bは指令による飛しょう停止機能を持つ

その仕様書の中の付表3 システム性能で以下の文言があります。
5 被発見性
排煙の被視認性尾が顕著に高くならないものとする。

(ア)方式を使用し、ミサイル誘導に使用する放射電波はレーダ警戒装置による探知の可能性の低いものとする。

引用元: 99式空対空誘導弾(B)仕様書(CPS-U13200-4)


つまり、AAM-4の仕様書の中に電波系(アクティブレーダーシーカー、指令受信装置、4象限電波式近接信管)は相手のレーダ警戒装置(RWR)に引っ掛からないようにしろとの要求がある訳です。ではこの(ア)方式とは一体何なのでしょうか。

展示されているAAM-4B 、4象限アクティブレーダー近接信管の窓が確認できる
1024px-AAM-4B_at_Gifu_Airbase_Festival_2014.11.23.jpg
画像引用元: By Motokoka - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=96175286

現在公開されている、技本50年史ではAAM-4について以下のような記述があります。

(エ)結果
d. 特殊変調方式及び高い妨害電波除去機能を有する信号処理アルゴリズムを実現したことにより、電波の秘匿性に優れ、強度の電子戦環境下で有効に対処できる高いECCM性を有した。

(オ)特記事項
b 特殊変調方式の信号処理技術は、高いECCM性及びクラッタ抑圧性を有しており、広範囲な兵器システムに活用できる。

引用元: 技本50年史P177


この(ア)方式は特殊変調方式と呼称されているようです。では、この特殊変調方式とは何なのか?

管理人はこの内容について存じていますが、ここで公言するのは控えさせて頂くことにします。というのは、以前官側からXAAM-4の資料を頂いた際に、この内容に少し触れたものがあったため(勿論、方式の名称は□です)、その資料が上席の指示により回収されたという経験がありました。AAM-4が制式化されてからもう四半世紀になりますが、この方式について世の中に殆ど触れたものが無いことから、官側が如何にこの秘密保持に努めているかが容易に想像できます。

ただ、どうしても知りたい方は以下の要点を抑えつつ、主にネットを探してみると良いでしょう。一つヒントを申し上げれば、この呼称名は英文字です。

・最近のレーダーの技術動向、被探知性(LPI)を高めるためにどのような送信方式を採用しているか
・AAM-4の主契約会社はどのような特許を有しているか(随契根拠)
・欺瞞妨害に強い変調方式

いささか消化不良ですが、今回はこの辺りでご勘弁を(^^)

童友社 1/72 アメリカ空軍 F-22A“ラプター” プラモデル

価格:3330円
(2024/3/17 15:43時点)
感想(0件)



【中古】 Fー22はなぜ最強といわれるのか ステルス、スーパークルーズなど最新鋭戦闘機に使われ / 青木 謙知 / SBクリエイティブ [新書]【メール便送料無料】【あす楽対応】

価格:327円
(2024/3/17 15:45時点)
感想(0件)



2024年03月07日

RWRでミサイルから逃れられるか

■ウクライナ戦争ではロシア軍機はRWRの警報でパトリオットSAMへの回避機動を取るようだ

■F-15J/DJのRWRであるAPR-4ではミサイル発射が警告出来る

■恐らくRWRはPRFの変化を見て警告を出しているのだろう



Defense Expressで面白い記事を見つけました。

How Aircraft Can Evade Patriot Missile: Why Is It Easier to Shoot Down Su-34 Than Su-35
(どうやってパトリオットミサイルから逃れるか: 何故Su-34がSu-35より撃墜し易いのか)

Patriot MIM-104 surface-to-air defense missile system US Army United States


The guidance system of this missile is radio-command on marching section as well as on terminal section - with the target coordinates specified through the semi-active missile head (Track-via-missile - TVM). With such a guidance system, even before the missile is launched, the onboard equipment of any combat aircraft, including russian ones, will firstly detect the Patriot radar operating on it. And then the radar will switch from tracking mode to firing mode, which will mean the start of the countdown in seconds.
The pilot takes evasive action according to instructions. The easiest way to deal with this situation is when the aircaft is at altitude and cruising speed. In this case pilot needs to dive down with a maximum speed and break the distance in turbine mode.
In this situation, every second is matter as well as a lot depends on the aircraft itself, its maneuverability and the permitted overloading.

このミサイルの誘導システムは、中間過程と終末過程において無線指令であり、目標座標はセミアクティブ・ミサイル・シーカ(Track Via Missile - TVM)を通じて指示されます。このような誘導システムでは、例えミサイルが発射される前であっても、ロシア製を含むあらゆる戦闘機の搭載機器は、まずその戦闘機で作動するパトリオットのレーダーを探知することになる。そしてレーダーは追跡モードから射撃モードに切り替わり、数秒以内にカウントダウンが始まります。
パイロットは規定に従って回避行動をとります。この状況に対処する最も簡単な方法は、航空機が高度と巡航速度にあるときです。この場合、パイロットはタービンモードで最高速度で急降下し、相手との距離を取る必要があります。

引用元: https://en.defence-ua.com/news/how_aircraft_can_evade_patriot_missile_why_is_it_easier_to_shoot_down_su_34_than_su_35-9713.html


つまり、ロシア軍機はパトリオットのレーダー波を探知し、捜索モードから射撃モードに切り替わったのを確認していることになります。ロシア軍機のRWRにはパトリオットのレーダー波がライブラリ情報として登録されており、それらを認識出来ているのでしょう。

ロシアのバックファイア爆撃機(Tu-22M)のRWRインジケーター
Ту-22М_СПО-15.jpg
画像引用元: Di 040sm - Opera propria, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=55760106

F-15J/DJにはAPR-4という国産のRWRが装備されています。

F-15Jの垂直尾翼にあるRWRアンテナ
F-15J_(929),_303_Sqn_(b).jpg
画像引用元: Nii Piccolo Photo Studio, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16117128による

アンテナは写真の垂直尾翼の他に、左右主翼と機首下面に無指向の計5つのアンテナにより構成されます。RWRはこれらのアンテナの受信波から、主に追尾状態にあるレーダーの脅威の種類、相対位置、驚異の優先度等をインジケーターに表示し、ICCP(Integrated Communications Control Panel)を介して警報音を発します。

APR-4では以下のような警報音を発します。

@新しい脅威  ピーという連続信号が4秒間
A注意     ピー、ピー、ピーという断続した連続信号
B発射     ピ、ピ、ピという断続した連続信号
 


注目すべきはRWRで相手のミサイルの発射を判断していることです。ではRWRは何を見ているのでしょうか。RWRは主に受信波の以下の内容を見ています。

@周波数帯
A到来時刻
B電波到来方位
Cパルス幅
Dパルス振幅


これらの受信内容からまずPRI(パルス繰り返し間隔、Pulse Repetition Interval)を分析します。PRIが分析出来たら、脅威ライブラリの情報と照合して脅威の種類を判別し、相対位置計算や優先度判定を行います。

警報を出すにあたって、RWRはPRF(パルス繰り返し周波数 Pulse-Repetition Frequency、PFIはPRFの逆数になる)の変化を見ているのではないかと考えます。F-15に搭載されているAPG-63の場合はMPRFとHPRFの二種類のパルス繰り返し周波数を使いますが、MPRFで10kHz程度、HPRFで200kHz程度と聞いたことがあります。PRFの高低の違いは色々とあるのですが、単純に言うと距離を測定するには低いPRF、速度を測定するには高いPRFを使うと覚えておけばそんなに間違ってはいないと思います。

レーダーの方形パルス
062_03 (1).gif
画像引用元: 日本財団 図書館 平成15年度 通信講習用 船舶電気装備技術講座(レーダー、機器保守整備編)https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00138/contents/0002.htm#002

つまり、相手のレーダーが低いPRFから切り替わって、高いPRFを使い始めたらもはや発射の脅威度が上がったと考えても良い訳です。また、HPRFはセミアクティブレーダー誘導ミサイルのイルミネーター波(AIM-7だとAIM-7F以降)としても使われる場合があるので、いよいよヤバいのです(w

ただ、相手のミサイル発射の警告に関してはRWRでどう判断しているのか分かりません。恐らく、HPRFを受信した時間の長さで判断しているんじゃないかと考えますが、何とも言えないところです。

グレートウォールホビー 1/72 ロシア空軍 Su-35S フランカーE プラモデル

価格:8060円
(2024/3/7 22:17時点)
感想(0件)



1/72 Su-35S フランカー

価格:3340円
(2024/3/7 22:18時点)
感想(0件)



タグ:RWR

2024年03月01日

AAM-4Bは指令による飛しょう停止機能を持つ

■AAM-4Bの仕様書には指令による飛しょう停止機能に関する要求がある

■指令自爆としていないのは弾頭を持たないテレメ弾との絡みだろう

■LOAL可能なアクティブ誘導では飛しょう停止機能は重要



1024px-AAM-4B_at_Gifu_Airbase_Festival_2014.11.23.jpg
画像引用元: By Motokoka - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=96175286

先日、大火力先生(@Military_Hobbys)のサイトを覗いていた際にAAM-4Bの仕様書が公開されていることに気づきました。内容を拝見させていただいたころ、まぁあるだろうなという機能を確認できたので嬉しくなった次第です。

2.7.1 機能
b)誘導及び目標追尾
 7) 飛しょう停止
  AAM-4Bは飛しょう停止指令を受けた場合、飛しょうを停止する。

引用元: 99式空対空誘導弾(B)仕様書(CPS-U13200-4)


アクティブレーダー誘導でミサイルの誤射を防ぐためには外部指令で飛しょうを停止させる(≒自爆)ことは非常に重要になります。

セミアクティブ誘導の場合、発射されたミサイルを無効化させるのは簡単で、イルミネータの送信を止めれば良いだけです。そうすればミサイルは目標をロストし、そのまま飛しょうを続ければ設定秒時で自爆します。

ミサイルを発射前にロックオン(LOBL)させる赤外線誘導ミサイルの場合は、確実を期すためにミサイルを発射する前、FCSレーダーとのエンゲージを解除してシーカーをセルフトラックさせ、HUDなどでシーカーヘッドポジションを確認して意図する目標をロックオンしていることを確認してから発射することが推薦されています。そのため、ロックオンしてから発射するため誤射する可能性は低いと考えられます。なお、余談ですが海洋事業部のP-1がAGM-65を装備しているのもLOBLできちんと目標をロックオンして打てるからではないかと考えています。

HUDのシーカーポジションが分かる写真が無かったのでGUNモードのHUDの写真
F-18_HUD_gun_symbology.jpeg
画像引用元: e2a2j - US Navy, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4280111による

Inert AGM-65 Maverick missile of the Swiss Air Force, on display at Payerne Airbase.
800px-AGM-65_Maverick_MG_1385.jpg
画像引用元: By Rama - Own work, CC BY-SA 2.0 fr, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1723166

LOALで発射されるアクティブ誘導ミサイルの場合、発射前に母機から渡されるデータは慣性データだけです。勿論、目標付近まではその慣性データと母機からのUTDC(Up To Data Command)によって飛しょうし、それ以後は自らのシーカーによって目標を捉えます(所謂、空中ロックオン)。

従って、どんな目標を捉えて飛んでいくかはミサイル任せになり、意図しない目標へ向かう可能性もあり得ます。また、STS(Shoot To Shoot)で連続発射した場合、1発目のミサイルで目標を撃破してしまったら、次弾は目標を探して飛び続けるわけです。

そんな際は、誰しもミサイルを無効化したいと考えるでしょう。なので、アクティブ誘導(≒LOAL)の際は外部指令でミサイルを無効化する機能が必須となります。

指令自爆機能については面白いエピソードがあります。

勝手に姉妹サイトである改自衛隊で奏でた交響曲の管理人であらせられるペンギン先生によると、以前開発が行われていた艦対空誘導弾であるXRIM-4がとん挫したのは、運用側が指令自爆機能の搭載を強く望み、ミサイル側は対応できたが、FCS-3側の対応が困難だったため計画が遅延し、Zに因縁つけられてXRIM-4を断念してFCS-3を何とか残したんだそうです。GM開発担当者は恐らく歯ぎしりして悔しがったんでしょう。それから暫くは海洋事業部とGM関連(TRDI)で遺恨が残ったそうです。

ところで、お気づきでしょうか。ミサイルなら指令自爆で良い筈なのに何故わざわざ飛しょう停止なのかと。。。。

仕様書を読み進んでいるとこのミサイルには弾頭の代わりにテレメータ送信装置を積んで、テレメータ弾化出来るようになっています。つまり弾頭を積まない場合があるのです。そのため、自爆以外で飛しょう停止させる必要があるのでしょう。

では、どのような手段で飛しょう停止させるのか。

JAQM-1_target_drone.png
引用元: https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/soubiseisakugijutu/introduction2020_en.pdf

写真は無人標的機のJ/AQM-1ですが、以下の2つの緊急飛しょう停止モードを持っています。

EMER 1
エンジンを停止させ、螺旋操舵により廃棄

EMER 2
EMER 1が不可能な場合、カートリッジ・アクチュエータにより強制的に操舵して廃棄

固体ロケットモーターを使うミサイルの場合、エンジンの停止は出来ないでしょうから、恐らくここで上げたEMER 2のような方法で飛しょう停止させるのでしょう。ただ、実弾であれば鹵獲を防ぐためにも指令自爆で良いと思います。

トゥーボブス 48-172 1/48 AIM-9/AIM-120 CATM/ACMI マーキング

価格:1782円
(2024/3/1 17:02時点)
感想(0件)



トゥーボブス 32-035 1/32 AIM-120 - AGM-88 ミサイルマーキング

価格:1708円
(2024/3/1 17:03時点)
感想(0件)


2024年02月18日

AAM-5BはF-15在来機の能力を大幅に向上させる

■F-15在来機の能力向上は実質的に難しい

■従ってF-15在来機へ投資せずに新型機(F-35)へ置き換える判断は正しい

■そんな中でF-15在来機へAAM-5Bを搭載することは手っ取り早い能力向上策となる


JASDF_AAM-5B.png
画像引用元: By 防衛装備庁 - https://www.mod.go.jp/atla/soubi_system.html, CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=113530741

近代化改修以前の航空事業部のF-15は担当者が頭を抱えたほど色々な種類があるわけですが(近代化改修の目的の一つは様々なタイプを統一するという目論見もあります)、大きく分けると前期型の在来型と後期型のMSIP(Multi-Stage Improvement Program)型に分かれます。

在来機型(計109機)
F-15J 97機(02-8801号機-82-8898号機)とF-15DJ 12機(12-8051号機-52-8062号機)但し42-8832号機はMSIP機に改修

MSIP機型(計104機)
F-15J型:68機(82-8899号機-82-8965号機及び42-8832号機)、F-15DJ 型:35機(52-8063号機-92-8098号機)


MSIPと在来機は様々な違いがあるのですが(実は各パーツの部品番号もかなり違います)、最も大きな違いはMSIPにはMIL-STD-1553Bデジタルデータバスが搭載されていることです。1553はF-15の初飛行後に制式化されましたから、当然といえば当然の話です(F-15開発時のデータバスはH009が採用され、その発展型としてのMIL-STD-1553Bの採用はF-16から)。

F-15の近代化を行うにあたって、在来機とMSIP機のどちらに行うかが話題になりましたが、結局はMSIP機が対象になりました。何故かといえば在来機を近代化するのにはかなり大掛かりな改修が必要になりますが、MSIP機であれば、極端に言えば搭載機器のポン付け交換で済むため、費用も時間も大幅に節約できるからに他ありません。

近代化改修の対象から外れた在来機はそのまま陳腐化していくことになります。ただ、航空機としては在来機と言えどもまだまだ高い能力を備えているわけですから、非常に勿体ない話ではあります。そこで、お金も手間も掛からない何らかの能力向上策が無いかと思うわけです。

では、手っ取り早く搭載ウェポンを更新しようかと考える訳ですが、ここで大きな壁が立ちはだかります。近年の搭載ウェポンのインターフェイスにはMIL-STD-1553B/1760が必須なわけです。最新のF-35のデータバスは1553系から下図のように新しいデータバスであるIEEE1394へ置き換えられていますが、搭載ストアとのインターフェイスだけは1553系を残しています。

F-35のコンピュータとネットワーク
DPiwaQ6VoAA9F8L (2).jpg

画像引用元: http://www.jsf.mil/downloads/documents/AFA%20Conf%20-%20JSF%20Program%20Brief%20-%2026%20Sept%2006.pdf from http://www.jsf.mil/downloads/down_documentation.htm
作者 Brigadier General Charles R.Davis, USAF
Document states "distribution is unlimited" Document attribute states "content copy allowed"

そうなると、在来機にMIL-STD-1553Bを追加する必要が出てきますが、これが一筋縄ではいきません。ただ、例が無いわけでなく、F-15在来機にMIL-STD-1553Bを追加したり(旧ブログ F-15のH009バスであります)、F-4に追加した例(F-4F ICE、F-4E 2020等)、F-5に追加した例(F-5S/T等)も存在します。

ただ出来れば、機体側へ何の改修もせず搭載ウェポン側を近代化出来れば大変都合が良いわけです。

ところで、情報公開請求で入手した各種仕様書を公開されている大火力先生(@Military_Hobbys)のサイトではAAM-5Bの仕様書が公開されています。

そしてその中の一節にはこう書かれています。

2.1.2 母機適合性
e) AAM-5搭載未改修機にAAM-5Bを搭載した場合でも、AAM-3相当の目標補足並びに発射が可能であること。


では、在来機で運用した場合はどんな機能が制約されるのでしょうか?

それは同じサイトで公開されている「04式空対空誘導弾(改)(その1)」に書かれています。

表1-1 システム設計の目標性能
番号9 目標値等 
(3) AAM-5及びAAM-5(改)の搭載改修を実施していない母機(F-2についてはAAM-5用にランチャーを改修した期待をいう。)からの運用が可能であるものとし、当該母機からの発射においてHMD連接機能及び管制計算を除き、可能な限り本来の機能及び性能が発揮できるものとする。


つまりHMDと"管制計算=LOAL(発射後ロックオン)"が使えない訳です。逆に言えば、それ以外の能力、AAM-3と比べて大きなオフボアサイト能力、長大なロックオンレンジ、高度なIRCCM能力は大幅に向上します。

AAM-5Bの仕様書には興味深い一節があります。

2.7.3 性能
e)対妨害性
2) ECCM(ELECTRIC COUNTER COUNTER MEASURE)能力 ECM(ELECTRIC COUNTER MEASURE)環境下で母機レーダが使用できない場合においても、セルフサーチ又はHMD(HELMET MOUNTED DISPLAY)スレーブにより目標補足が可能であること。


本来、赤外線誘導空対空ミサイルに余り関係のないECCM性にわざわざ触れていることに注目すべきです。というのは航空事業部関係者からは赤外線誘導空対空ミサイルの存在意義として対ステルスや高度な電子戦環境下における運用を散々聞いていたからです。在来機の欠点の一つとして電子戦に弱いということが言われてますから、これは大きな利点となるでしょう。

纏めると、在来機がAAM-5Bを搭載することにより以下の能力を獲得することになります。

1. 大幅に向上したロックオンレンジ(=射程)
2. 大幅に拡大したオフボアサイト能力
3. 大幅に向上したIRCCM能力
4. 大幅に拡大した冷却持続時間(スターリングクーラ)
5. 1と2に関連してミサイルのセルフサーチを活用することにより高度な電子戦環境下における目標補足能力の拡大(IRSTの代わり)


そしてAAM-5Bを搭載しても得られない能力は以下です。

1. HMDとの連接
2. LOAL(発射後ロックオン)による射程の延伸

以上のように、在来機の手っ取り早い能力向上策としてAAM-5Bの搭載が有効なことが分かると思います。現にスクランブル機を中心に在来機へのAAM-5B搭載は急速に進んでいるようです。

F-15イーグル Flight Manual & Air-to-Air Weapon Delivery Manual 日本語訳永久保存版 [ 青木謙知 ]

価格:4950円
(2024/2/18 17:31時点)
感想(0件)



【スーパーセール】F-15J 航空自衛隊 第6航空団 306飛行隊 小松基地 52-8951 1/72 2023年7月27日発売 JC WINGS 飛行機/模型/完成品 [JCW-72-F15-022]

価格:13200円
(2024/2/18 17:31時点)
感想(0件)





2024年01月04日

チャフ/フレアを撒く巡航ミサイル

■Kh-101巡航ミサイルがチャフ/フレアを射出する珍しい映像が公開された

■我々の常識を超えるこのようなギミックは注目に値する

■何度も繰り返すが、我々は旧東側の兵器を決して侮ってはいけない


波乱の年明けではありますが、今年もよろしくお願いします(^^)

さて、ウクライナ戦争でロシアのKh-101巡航ミサイルがチャフ/フレアを射出する映像が公開されました。この映像では、射出時に煙を引いておらず且つ爆発しているようですのでチャフのように見えますが、チャフ/フレアの双方を射出する可能性があるので、ここではチャフ/フレアとします。

Russian cruise missile Kh-101, firing the traps


映像では3から4発づつ複数回に渡って射出を繰り返しているように見えます。映像の後半に地上で爆発しているようですから、目標のすぐ近くで撮られたんでしょうね。

以前、撃墜されたKh-101に搭載されていたCMD(Counter Measure Dispencer)のL-504の写真を見ると1器当たり計12発を搭載できるようです。となると、これが両サイドにあるとすると1回に3-4発づつ射出するとして、最大で計6から8回射出できることになります。この写真では機体が横転して逆さまになっているようですから、射出は機体から左右上方に向かって打ち上げるかたちになるのでしょう。

2023年1月26日にウクライナのヴィーンヌィツャ州で撃墜されたKh-101、上下ひっくり返っているが底面に電波高度計又は地形照合レーダー及び光学誘導系の窓が確認出来る
Russian_Kh-101_missile_shot_in_Vinnytsia_Oblast,_2023-01-26_(05).jpg
画像引用元: By Командування Повітряних Сил ЗСУ / Air Force Command of Ukrainian Armed Forces (license) - https://www.facebook.com/photo/?fbid=561921512642468&set=pcb.561921729309113 (the whole post), CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=128604401

同じ機体のL-504CMDが見える写真
Russian_Kh-101_missile_shot_in_Vinnytsia_Oblast,_2023-01-26_(03).jpg
画像引用元: Командування Повітряних Сил ЗСУ / Air Force Command of Ukrainian Armed Forces (license) - https://www.facebook.com/photo/?fbid=561921522642467&set=pcb.561921729309113 (the whole post), CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=128604345による

映像ではチャフ/フレアを撒いた後にゆるく旋回しているように見えます。チャフ/フレアのカーテンを作って妨害するとしたら、そのような動きになるでしょう。

ところで、巡航ミサイルにCMDを装備するに当たっては、次のような疑問が沸きます。

@CMDがスペースを圧迫しないのか。
Aチャフ/フレアの射出の衝撃は機体に影響を与えないのか。
Bチャフ/フレアの射出のタイミングはどのように設定されているのか。


まず@ですが、こちらの映像(08:30辺り)を見るとL-504CMDの大きさは(W)400mm x (D)300mm x (H)150mmってところでしょうか。Kh-101の大きさが全長7mを超える巨体であることを考えるとスペース的には問題なさそうです。

БРИФІНГ НА ТЕМУ "ПРОВАЛ МОДЕРНІЗАЦІЇ РОСІЙСЬКОЇ СТРАТЕГІЧНОЇ КРИЛАТОЇ РАКЕТИ Х-101".


Aに関しては、CMDの射出時の衝撃は結構大きなものであり、下手をすると機体に損傷を与えるレベルです。F-4に装備されていたCMDであるAN/ALE-40ではパイロンに付いていたため、射出の衝撃でパイロンの外殻にクラックが入ってしまう程でした。

韓国空軍のF-4Eの翼下パイロンに装備されたALE-40CMD
ROKAF_F-4E(80-514)_ALE-40_counter_measure_dispenser(sta.2)_at_Jeju_Aerospace_Museum_June_6,_2014 (1).jpg
画像引用元: Hunini, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

Kh-101ではCMDが機体に内蔵されており、また機体も大きめであることから余り問題ないのかもしれません。

さて、最大の疑問はBになります。

管理人の意見としては、センサー情報によるものではなく、目標に近づいたら自動的に射出するように予めプリプログラムされているものではないでしょうか。これは機体にRWSやMWSのようなものが確認出来ないこと、そしてその様な高価な機器はミサイルのような使い捨て兵器にはコスパが合いません。

目標近辺でこのようにチャフ/フレアを散布するのは、AAA(対空火器)やMANPADS(携行SAM)のような最終防御兵器の突破を目的としたものでしょう。従って、目標へ向かっている途中でむやみに射出するものではないと考えます。

それにしても巡航ミサイルにチャフ/フレアのような自己防御手段を搭載するとは、西側の常識からは考え難いでしょう。西側だったら、機体のステルス化、デコイの活用、ウェイポイントの複雑化、パッシブ手段による脅威の自立回避等といった手段を取るのではないでしょうか。

この手の話題を扱うと何時も思うことですが、旧東側の兵器には我々西側とは違う思想、技術等が存在し、常に我々の斜め上を行くものを世に出しています。決して侮ってはいけないでしょう。

1/72 トマホーク 巡航ミサイル 【FP29】 (プラモデル)おもちゃ プラモデル

価格:1400円
(2024/1/4 22:19時点)
感想(0件)



【中古】エデュアルド 1/48 ストーム巡航ミサイル 2個入り EDU648222 プラモデル

価格:8014円
(2024/1/4 22:19時点)
感想(0件)


2023年12月31日

12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の仕様書をさらっと読んでみた

■12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の仕様書が公開された

■衛星及び航空機からのUTDC受信、また限定的ながら双方向データリンクが出来る様だ

■ミサイル間通信能力や自立脅威回避能力といった機能は持たず、取り敢えず早期の装備化を目指している印象


何も年末も押し迫った日にこんな大ネタをやらんでも良さそうですが(^^)

12/29に大火力先生(@Military_Hobbys)より12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の初回量産仕様書が公開されました。自腹を切ってこのような貴重な資料を公開している大火力先生に感謝であります。

さて、管理人はこのミサイルのことは全く存じません。殆ど初見だということをご留意ください。まぁ、市井の自称料理研究家じゃなくて兵器オタクが世迷言を述べているという認識でお願いします。年末で時間も無いことですし、ここでは主に誘導装置関連を中心として見てみたいと思います。

さて、仕様書に載っている概要図を見てみると、このミサイルが"12式地対艦誘導弾"という名前が付いているのに関わらず、従来のASM-1眷属とは全く異なることが分かると思います。

ASM-1ファミリーの図
The_development_of_Japanese_anti-ship_missiles.png
画像引用元: Los688 - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=30811400による

外観は何となくRTX社のAGM-129やMBDA社のSCALP-EG/ストーム・シャドウを彷彿とさせます。

RTX社のAGM-129 ACM
1257px-Agm-129_acm (1).jpg
画像引用元: パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=196347

MBDA社のSCALP-EG/ストーム・シャドウ巡航ミサイル
StormShadow-Hendon_1.jpg
画像引用元: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:StormShadow-Hendon_1.jpg#/media/ファイル:StormShadow-Hendon_1.jpg

なのに、12式地対艦誘導弾という名称が付いているのは、73式小型トラックみたいなもんでしょう。つまり、全くの新規開発ではなく既存の誘導弾の改良型であるという体裁を取っている訳です。これにより本来開発モノとして必要な手続きや手順をすっ飛ばして装備化を早められるって訳ですね。

通常、開発品の場合は部内研究から始まり、研究試作から所内試験を経て開発決定し、試作を行って技術試験を行い、ユーザーである運用者側の試験である実用試験を経て装備審議会に掛けられて制式化するというプロセスが必要になります。もし、研究開発要素が無くいきなり試作から入れるのであれば、大幅に開発期間を短縮できます。このような開発例として代表的なのは中距離多目的誘導弾でしょう。このミサイルは01式軽対戦車誘導弾のシーカの開発成果を最大限に流用して開発を簡素化させています。

中距離多目的誘導弾
JGSDF_Middle_range_Multi-Purpose_missile_and_launcher.jpg
画像引用元: JGSDF - 中距離多目的誘導 誘導弾及び発射装置, CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26307972による

前置きが長くなりました。仕様書の17ページ、附属書A(規定)誘導弾を中心に読んでいきます。

ます、誘導部というところを見てみると、ホーミング装置が電波式であることが分かります。これは恐らく、12SSMからの流用じゃないかと思います。

次に慣性装置ですがGNSS(全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System))からの電波を受信し、また飛しょう体の加速度及び角速度を検出しとなってますから、GNSSをベースに光学式INS(恐らくFOG)を組み合わせたものなのでしょう。ASM-2BのようにGPS併用航法と言っていないのがミソ(つまりGNSSメイン)でしょうね。また、GPSではなくわざわざGNSS と呼んでいるのは、GPSだけではないということでしょう(無償貸付品に準天頂衛星システム関連資料が含まれています)。

誘導部で注目すべきは衛星艦船情報受信装置と目標情報装置でしょう。

衛星艦船情報受信装置は衛星経由で艦船から目標情報を受信するもののようです。所謂、UTDC(Up To Date Command)です。ここで注目すべきは地発型なのに発射プラットフォームではなく艦船からの情報を受信する点です。これは長射程(1,000km以上)のため前方へ進出している艦船から情報を入手するためでしょう、最近は本邦の潜水艦にも Xバンド衛星を使った衛星通信装置が装備されつつあるようですから、目標付近まで前進した潜水艦からのUTDC送信、もっと進んで潜水艦から目標初期値情報を受けて発射してUTDCで誘導指示を行うこともも有り得ると思います(それがメインかも)。

目標情報装置というのは初めて聞く名称ですが、仕様書によると航空機の対空無線によりUTDC受信する装置とのことです。また、誘導弾のステータス情報などを中継機、地上局へ送信する機能もあるようです。所謂、双方向データリンク(2 way datalink)が出来ることになります。シーカが画像誘導方式ではないので命中直前の目標の画像を送ると言った芸当は出来ないと思いますが、もしシーカーのレーダーで捉えた情報を送信できるのであれば、情報収集の一助となるかもしれません。

さて、自分的に注目していたのはこのミサイルに以下のような機能が存在するかどうかです。

・ミサイル間通信機能
・ミサイル自身のセンサー情報による自律的脅威回避能力
・デコイ等の自己防御(欺瞞)手段


仕様書をさらっと除く限りはそのようなものは見受けられないようです。まぁ、このミサイルについてはアジャイル開発に近い手段が取られるようですから、今後装備する可能性もあるかもしれません。

このミサイルについては今後もウォッチしていきたいと思います。

今年の更新はこれで終わりです。今年一年のご愛顧を感謝いたします。
来年も細々と続けていければと思います。


1/72 アメリカ空軍 AGM-129発展型巡行ミサイル (18個セット)

価格:3965円
(2023/12/31 16:35時点)
感想(0件)



1/72 アメリカ空軍 AGM-129発展型巡行ミサイル (18個セット)

価格:3965円
(2023/12/31 16:35時点)
感想(0件)





2023年12月18日

ASM-2B改善弾の謎の新機能を無理くり推理する

■ASM-2B改善弾では「飛しょう」、「誘導」、「起爆」について機能が追加されている

■仕様書のベースとなった技術要求事項では当該箇所は全て黒塗りされている

■恐らく、GPSの新規追加とオートパイロットのデジタル化に即した機能が追加されているのであろう


ASM-2ネタが続きます(^^)

ASM-2B改善弾の仕様書のベースとなった「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」ですが、こちらでは表1の機能を追加するとなってますが、これが見事なまでに黒塗りであることは先日申し上げました。

こんな感じです。
FireShot Capture 1653 -  - misae-server.png

ただ機能として「飛しょう」、「誘導」、「起爆」の3つが挙げられています。

今回は足らない頭を絞りに絞ってその内容を無理くり推測してみたいと思います(笑

◆「飛しょう」

これは恐らく、は事前に目標の初期値を入力し、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定することが出来るようになったことを指していると想像します。特にGPS搭載により、より正確に3Dウェイポイントが指定できるようになったことが大きいでしょう。3Dウェイポイントとは位置情報が緯度経度だけではなく、高度でも設定できることです。これにより発射プラットフォームと目標との間に島嶼や山岳、又はSAMのような防空システムがあっても、山越えや廻りこみ、回避機動等によって、高度を上げなくてもそれを避けるように低空で飛しょうできるようになり、被探知性や複数発射時の異方向同時攻撃時のTOT(Time On Target)が容易となりました。

この辺りのことはSaab社の対艦ミサイルRBS15 Gungnir(北欧神話の主神オーディンが持つ槍)の以下のページが大変分かり易いと思います。

RBS15 Gungnir ALWAYS ON TARGET
https://www.saab.com/site-settings/html5/gungnir/index.html

◆「誘導」

ここは例え知っていたとしても書けない部分が多く、IRCCMに関することなのか、はたまた以前問題になったあの事なのか。。。一つ想像するに終末誘導時の回避機動、SSM-1で言うと揺動機能が盛り込まれたかもしれません。

88式地対艦誘導弾(SSM-1)試験映像

このビデオの中(0:29)に"揺動"と思われるシーンが出てきます。

◆「起爆」

元々、無印ASM-2においても、オートパイロット電子装置からの信号によって起爆する自爆機能を持ちます。オートパイロット電子装置のデジタル化で柔軟な運用が可能になったことによって、座標による爆破ポイントの設定により、目標への近接爆破が可能となり、目標の上空にて爆破することで、爆風効果及び破片効果によってより広範囲の目標物(特にソフトスキン目標)を破壊するとか、座標と高度で起爆することによって実質的に地上目標攻撃能力を得るといったことが考えられます。

以上、非才の身でつらつらと想像してみました。今後も情報収集に努めます。

ミサイルの科学 現代戦に不可欠な誘導弾の秘密に迫る (サイエンス・アイ新書) [ かのよしのり ]

価格:1100円
(2023/12/18 16:03時点)
感想(0件)



2023年12月11日

ASM-2B改善弾では何が改善されたのか

■ASM-2B改善弾ではASM-2Bからソフトウェアが改修されている

■この改修によって,多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定出来るようになった

■ASM-2はこれでやっと他国の対艦ミサイルに比肩する能力を得たと言える


ASM-2B誘導部試験用CFTポッド
1272px-JASDF_ASM-2B_Captive_Flight_Test_Pod_20131124.jpg
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29945751

ASM-2Bは平成20年度(2008年度)に「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」が空幕技術部内で起案され、これを基に装備部長に対して「93式空対艦誘導弾(B)に対する技術要求事項(空幕技第141号23.6.28)」が通知されることになります。

この技術要求事項は開発集団から出された「ASM-2B改善弾の技術的追認 個別報告書 技術資料の収集(開発集団開第2号23.1.13」と「ASM-2B改善弾の技術的追認 個別報告書 要改善事項等(開発集団開第2号23.1.13」がベースとなっていると思われます。ここで注目すべきは既に"ASM-2B改善弾"という用語が用いられている点です。

この技術要求事項の別紙第7項 機能及び性能に関する部分を抜粋してみます。

CP-Y-0067Lによるほか、次による。
VET09018 表1.2-1の妨害対処機能を追加するとともに、ASM-2B改善弾の技術的追認の成果((開発集団開第2号23.1.13別冊付録第5 「注意」)のうち、誘導部単体で改善が可能な事項を適用するものとする。


上記の内、VET09018は別文書の「ASM-2の改修 システム報告書」であることから、改善弾では以下の改修が為されたと考えられます。

(1)「ASM-2の改修 システム報告書」に基づく妨害対処機能の追加
(2)開発集団から出された「ASM-2B改善弾の技術的追認の成果」の内、誘導部単体で改善が可能な機能

(1)については詳細が不明ですが、IRCCM(赤外線妨害排除)機能の何らかの新しい能力の追加があったと考えられます。ASM-2Bは元々、IRCCM能力がありますが、既存の機能の能力向上ではなく新たな能力の追加とは何を指しているのかは分かりません。

(2)の改善内容については、空幕技術部で起案された「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」の中に書かれています。

ASM-2Bのソフトウェア改修等に対する技術要求事項

1.目的
航空自衛隊が調達する93式空対空誘導弾(B)(以下「ASM-2B」という。)の搭載ソフトウェア及び部隊用点検器材の改修によりASM-2Bの■■■を図る。(管理人注 ■■■は黒塗り)
.
3 設計条件
(1) 誘導部については、CP-Y-0067の2.1によるほか、ASM-2部隊用点検器材により初期値(目標の位置情報等)を設定できる設計とする。
(2) ASM-2部隊用点検器材については、CPS-W66009の2.1によるほか、誘導部への初期値を設定できる設計とする。

.

7. 機能及び性能
従来の機能に加え、表1の■■■(管理人注 ■■■は黒塗り)を追加する。そのためにシステム設計の変更となる部分の見直しを実施する。また、システム設計見直し結果及び細部設計報告書等に基づき、次の改修を実施する。
(1)誘導部の改修は別紙第1による。
(2)ASM-2部隊用点検器材の改修は別紙第1による。

そこで表1を確認するのですが、これが見事なまでに黒塗りです(T_T)
項目として、飛しょう、誘導、起爆があることから、それらに関連する機能でしょう。

次に”別紙第1 誘導部の改修”を見てみます。

2 製品に関する要求を見てみると、(1)では改修対象は慣性装置とオートパイロット電子装置であることが確認できます。(2)は改修内容となってますが、この部分も黒塗りです。

別紙第2はASM-2部隊用点検器材の改修ですが、追加された項目は黒塗りとなっています。ただ、接続ケーブルが付随すること、また付図第1のASM-2部隊用点検器材 附属品を見るとラップトップPCのようなものが確認できます。恐らく、パナソニック社のタフブックのような耐環境性ラップトップPCでしょう。(管理人注 航空事業部はフライトラインでの点検器材としてDRS社(現レオナルド社)の耐環境性ラップトップPCを使っていたと記憶しています)

上記の件から、ASM-2B改善弾の改善とは以下なのではと推測します。

(1)IRCCM(赤外線妨害排除)の新機能追加
(2)誘導部のソフトウェアの改修により、部隊用点検器材から初期値(目標の位置情報等)を設定できる機能追加


(1)の内容は不明ですが、(2)についてはASM-2Bのベースとなった「ASM-2の技術改善」(仕様書番号:4補LPS-X02556)の記述と合わせるとある程度の推測が可能です。

「ASM-2の技術改善」」(仕様書番号:4補LPS-X02556)
(6)将来発展性
オートパイロット電子装置は、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報等)を入力できるものとする。


つまり、部隊用点検器材により目標の位置情報を入力し、これにより多方向から目標を攻撃できるようになった。より具体的には複数のウェイポイントを設定し、各々のミサイルを多方向から目標へ向かわせることが出来るようになったと解釈するのが妥当と思われます。

陸のSSM-1では、指揮統制装置と射撃統制装置によって最大96発が管制され、射撃目標位置,発射弾数,飛しょう体初期値,命中時刻の指定、発射時刻の指定等が行われます。つまり、複数のミサイルの同時発射においてそれぞれのミサイルが統制されており、またミサイルが持つ目標選択アルゴリズムも相まって、複数同時発射のメリットを最大限生かすような方策が取られています。

これに対して、ASM-1やASM-2では個々の搭載母機にのみ管制されており、多数機による複数同時発射の際に目標の重複や、攻撃方向が偏ってしまって相手の防御が容易になってしまう可能性があります。ASM-2B改善弾では事前に目標の初期値を入力し、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定することにより同時発射の際のメリットを生かせるようになったと考えられます。

SAAB RBS15 MK3 Surface to Surface Missile

1:56頃の映像で複数の3Dウェイポイントを経て異方向から着弾時間を4秒の時間差を以て目標へ向かっていることが確認出来る。このRBS-15のMk3モデルは、ASM-2B改善弾の装備化より10年ほど早い2004年から配備が始まっている。

なお、管理人がASM-2の仕様書で確認したかったのは、果たしてASM-2が複数同時発射の際にミサイル間で目標情報をやりとりする「ミサイル間通信機能」を持っているかどうかでしたが、こちらの方は確認できませんでしたが、この能力は恐らく持っていないんでしょう。


F-2【1000円以上送料無料】

価格:1650円
(2023/12/12 02:19時点)
感想(0件)



ハセガワ 【再生産】1/72 三菱 F-2A/B【E15】 プラモデル

価格:1470円
(2023/12/12 02:20時点)
感想(0件)


2023年12月06日

ASM-2Bって地上攻撃出来るの?

■ASM-2の改良型であるASM-2Bは中間誘導用にGPSが搭載された

■そのためASM-2Bは地上攻撃が出来るとされているが果たしてそうか

■恐らく、地上施設の攻撃は難しいが艦船への泊地攻撃は出来るであろう



ご無沙汰しております(^^)

93式空対艦誘導弾のwikiのページには以下のような記述があります。

1280px-JASDF_ASM-2(Dummy)_at_Gifu_Air_Base_October_30,_2016.jpg
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=52876836

93式空対艦誘導弾(きゅうさんしきくうたいかんゆうどうだん)は、日本が開発・配備した空対艦ミサイル(対艦誘導弾)別称はASM-2[1]、1993年から航空自衛隊に配備されている。改良版(ASM-2/B)は誘導方式にGPSを用いているため、座標を入力すれば対地攻撃も行うことができる。

引用元: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』93式空対艦誘導弾


何かミサイルにGPSが付くと、漏れなく地上攻撃能力が付いてくると言わんばかりですが、果たして本当にそうなんでしょうか?

◆仕様書にはそんなこと一切書かれていない◆

まず、手元にあるASM-2の最新の仕様書はH23.7.19改訂のCP-Y-0067Mですが、その中には地上攻撃に関することなどは一言も書かれてはいないことです。最初の文言である1.1.1 適用範囲には以下のように記述されています。

1.1 適用範囲
この仕様書は、戦闘機(以下、"搭載母機"という。)に搭載し、侵攻艦船に対する攻撃に使用する93式空対艦誘導弾(B)(以下、"ASM-2B"という)について規定する。


勿論、仕様書に書かれていないからと言ってそういう使い方はしないということはありません。開発している内にこういう使い方も出来るだろうと思って試験することもあります。例えば、某観測ヘリから某空対空ミサイルを地上目標に向かって撃ってみようとかです。

ただ、寡聞にしてASM-2Bを地上目標に向かって実射試験したとかいう類の話は聞いてません。また、地上目標相手だと、SSM-1のように地形回避や回り込み等の能力の確認が必要ですが、日本国内にそのような射場は無いため、米国カリフォルニア州ポイントマグー射場のような場所での試験が必要でしょう。そのような話も聞いたことありません(米国での試験なら少なくても公告位出るでしょう)。

◆GPSの搭載の目的はあくまでも誘導精度の向上◆

GPSに関してですが、これがどのように用いられるかは、ASM-2(B)の開発の元となったH12年度契約の「ASM-2の技術改善」の仕様書の中に以下の文言が出てきます。

ア 慣性装置
(ア) GPSからの信号により自己の位置情報をアップデートできるものとする。


また、航空幕僚監部技術部長より装備部長に対して発せられた空幕技1第12号(平成15.1.31)「93式空対艦誘導弾(B)の技術要求事項について(通知)」では以下の文言が出てきます。

(b) 慣性装置
慣性装置は、加速度検出、角速度検出、姿勢角計算、速度計算、位置計算、高度計算の各機能を有するものとする。また、GPS併用航法機能を有するものとする。


つまり、ASM-2(B)で新たに搭載されたGPSは中間誘導をこれ一つで担うものではなく、従来の慣性航法装置(ASM-2(B)では機械式から光学式へ変更されている)を補完するものであるということです。例えれば、時計の時刻の狂いを自動的に補正する類のモノでしょう。

なお、余談ですが慣性航法装置は機械式でも光学式でも航法精度にそれほど差が無く、下手をするとコンベンショナルな機械式の方が精度が高い場合もあるそうです。光学式は機械的可動部分が無いため、メンテナンスが不要で取得価格が安いというメリット(FOGの場合)があります。

慣性航法装置は時間が経つとともに誤差が徐々に蓄積していきますから、途中でGPSにより誤差修正が為されるならば航法精度の大幅な向上が見込めることでしょう。特に最終の目標捜索段階において目標を失探する可能性を低減し、相手に探知される可能性を高める再捜索の回避に役立つでしょう。

2011年のMAKS航空見本市で展示された、ウクライナの "Arsenal "社のジャイロスコープ
960px-Ring_laser_gyroscope_at_MAKS-2011_airshow (1).jpg
画像引用元: Nockson, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

以下はスウェーデンSAAB社のFiber Optic Gyro(FOG)のページ
https://www.saab.com/products/fiber-optic-gyro-products

(補足)
FOGはRLG(Ring Laser Gyro)より精度は劣るが、コンパクトで価格が安く消費電力が小さい。そのため、ミサイルやUAVに多く用いられる。RLGは主に航空機に搭載される。


<追記>
もしかすると、ASM-2BへのGPS追加は従来の機械式慣性装置からFOGへの変更に伴う航法精度の低下を補うという目的もあるのかもしれません。


◆シーカーは地上目標を捉えられるのか◆

ASM-2のシーカーはIIRであり、アクティブ・レーダー式では持ちえない個艦識別能力、命中点選択能力を持ちます。ただ、基本的に赤外線シグネチャーが大きな艦船を狙うもので、大きな建物とかを狙うのならともかく、小さな目標を狙えるような高い赤外線画像解像度は持っていないと思われます(逆に温度が高いホットスポットはIRCCMの対象になる)。また、地上となると海上と違って雑多な赤外線ノイズがある訳で、それらを排除し目標を正確に識別する能力が求められます。以前、構想されていたASM-D/L(データリンク)も命中精度を上げるための試みでしたが、もし地上攻撃するのならそのような機能が必要になるでしょう。

◆弾頭と信管◆

基本的に対艦ミサイルの弾頭は半徹甲弾になります。それは船殻を貫いて艦の船体内部や艦上構造物の内部へ食い込ませるためです。そのため、信管は必然的に遅延信管になります。地上目標だったら、弾頭は破片効果を狙って榴弾で、信管は着発又は空中炸裂を狙った近接信管が向いていると思われますが、そのような機能はASM-2Bには見受けられません。
<追記>
元々、無印ASM-2でもオートパイロット電子装置から自爆指令を出せますから、GPSの3D座標をトリガーにして起爆指令を出すことによって、疑似的に着発又は近接信管と同様なことは可能ではあるでしょう。


◆では地上攻撃できないのか◆

これまで、ASM-2Bの地上攻撃能力の可否を論じてきましたが、ASM-2Bになって新たに得た又は向上した能力があると考えます。

それは 泊地攻撃能力 です。

例えば以下のような写真の場合です。

HMS アンドロメダとキャンベラ
1007px-SS_Canberra_&_HMS_Andromeda_Falklands_1982.jpg
画像引用元: Ken Griffiths - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3531099による

フォークランド紛争時の写真ですが、艦船が狭い島嶼海域に停泊しています。これはミサイル側から見ると非常に難しい目標になります。何故なら、海側から見るとフネは島陰に隠れ、またシーカーに捉えられたとしてもフネの背景には島嶼の地形が入り込むため、艦船との識別が必要になります。さらにこれが港湾ともなると赤外線ノイズ源となる多くの地上施設も存在します。

このような目標を狙うには島嶼の地形を避けて正確に飛翔して背景に地形が入らない方向から狙う必要があります。そのためには非常に高い航法精度と多くのウェイポイントなどの経路をプリプログラムできる機能が必要になるでしょう。ASM-2B改善型はソフトウェアの改善により、新たに導入した地上支援器材によって多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報)を設定できるようになったようです。

つらつら述べてきましたが、ASM-2B改善弾についてはまだまだ不明な点があり(仕様書の黒塗り部分が多いため)、もっと多様な機能があると想像できますが、それらについては今後の課題としておきましょう。

【スーパーセール】 三菱XF-2B(複座型)航空自衛隊 飛行開発実験団 #63-8102 1/72 2020年5月20日発売 Hobby Master/ホビーマスター飛行機/模型/完成品 [HA2718]

価格:6380円
(2023/12/6 22:17時点)
感想(0件)


タグ:ASM-2(B)

2023年11月07日

対電波放射源ミサイル(XASM−3)

■ASM-3は対レーダーミサイルとしても期待されている

■技術研究本部(当時)の研究開発項目として、対電波放射源ミサイル(XASM−3)というものが存在した

■元々、ASM-3は対レーダーミサイルとして始まったのかもしれない


新空対艦誘導弾XASM-3(E型)
1280px-JASDF_XASM-3-E_left_front_view_at_Gifu_Air_Base_November_19,_2017_01.jpg
画像引用元: Hunini - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64205374による

以前、補給本部の部内誌だった「つばさ」に掲載されていたXASM-3の構想図はもっとカクカクしていて、まるでウルトラホーク1号α号の趣がありましたが、大分丸くなったものです(w

実のところ、管理人はASM-3には全く関わっておりません。ただ、XAAM-4やXASM-2でお世話になった技術幹部の方が、開発室長となり孤軍奮闘されていたことから、その推移を見守っておりました。もれ聞くところに依ると、ソ連崩壊後は大規模な艦船による侵攻は予想しえないということから、このプロジェクトについては何時ポシャってもおかしくない状況だったそうで、関係者のご努力の賜物だったと言えるでしょう。

F-2からのXASM-3の発射シーン


退役した護衛艦しらねを標的とした試験の様子も間接的ながらお聞ききして、この手の試験では何時もお世話になる某社さんはさぞご活躍されているんでしょうなとほくそ笑んだりしたものです。

標的艦となったしらねの回航の様子


いやぁ、アスロックやMK42、シースパロー発射装置も付いたままなんですね。何か凄く勿体ないような気がします(w

ところで、この標的艦には従来の標的には無かったある装置が備わっておりました。それは艦船のレーダーを模擬する装置です。ただ、従来の標的のようにMDI(射撃評価装置)も備わっていたため、多くは語りませんが色々と大変だったそうです。。。。

何でこんな苦労してまでこの装置を付けたかというと、XASM-3にはアクティブとパッシブの二種類のレーダーシーカーが備わっており、相手艦船のレーダー波を受信しての艦艇識別と電波妨害時のECCMを行うためです。ASM-3がパッシブ電波シーカによる目標識別等の機能で艦種の識別を行うことは、部内誌上でGM開発官が明言しています。

さて、管理人は某所で以下のような話を聞いたことがあります。

「航空事業部がHARM(AGM-88)の導入を見送ったのは、開発中のXASM-3に対レーダーを担わせるため。」

確かに高速性能とパッシブレーダーを持つXASM-3はその任にふさわしいと言えるでしょう。そして、公開されている公文書の中に以下の文言が出てきます。

対電波放射源ミサイル(XASM−3)

これは会計検査院の平成16年度決算検査報告の中で出てくる文言です。

報告書の内容としては、技術研究開発として研究されていたものの、その後開発に移行していないとして槍玉に上がっています。管理人は知らなかったのですが、技術研究本部(当時)の技術研究項目として「対電波放射源ミサイル(XASM−3)」というものが存在したということでしょう。航空事業部の対レーダーミッションというと、真っ先に挙げられるのは海洋SEADですが、もしかするとXASM-3は元々海洋SEADで使われることをメインに構想されたものなのかもしれません。

そして対レーダーミサイルの代表格はAGM-88HARMですが、このミサイルの弾頭であるWDU-37/B 爆風破砕弾頭は137.75 pounds(約66kg)に過ぎません。このミサイルはレーザー近接/着発信管により起爆し、爆風破片効果により目標を破壊しますが、この程度の弾頭ですとレーダーアンテナを破壊して機能停止に追い込む程度で、レーダー本体を破壊するには威力が小さ過ぎるのではないかとの懸念があります。そのため、完全に相手レーダーを破壊するためには、より大威力のミサイルが求められており、ASM-3の使用はそれに合致したものと言えるでしょう。

【送料無料】 F-2支援戦闘機写真集 / ホビージャパン(Hobby JAPAN)編集部 【本】

価格:3300円
(2023/11/8 01:03時点)
感想(0件)






タグ:XASM-3
最新コメント
最新トラックバック
検索
記事ランキング
  1. 1. 【緊急投稿】P-1はダメな子っぽい
  2. 2. アクティブ・デコイはミサイルへと向かう
  3. 3. 誘導爆弾は重いで(思い出)
リンク集
タグクラウド
ファン
QRコード