■目標は味方機(MQ-9)だったので外れたこと自体は幸運であった
■高価なSM-2が無人機に無力であったことは深刻
■本件の背景にはドイツ海軍の抱える深刻な問題が伺えれる
SM-2MRを発射する同型艦「ザクセン(F219)」
画像引用元: By Bundeswehr-Fotos - originally posted to Flickr as Fregattee SACHSEN, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11538413
ご無沙汰してます。
新しい機体(バイク)が来たので、電子戦システムの装備作業とOFPの改修作業を行っておりました(^^)
最近、CIMSECのサイトに大変興味深い記事が掲載されました。
ANALYZING THE GERMAN FRIGATE HESSEN’S NEAR-MISS OF A U.S. DRONE IN THE RED SEA
(紅海でドイツのフリゲート艦ヘッセンが米軍無人機にニアミスした事の分析)
https://cimsec.org/analyzing-the-german-frigate-hessens-near-miss-of-a-u-s-drone-in-the-red-sea/
今年の2月26日に紅海で作戦行動中のドイツ海軍のフリゲート艦ヘッセンが接近する未確認航空機(実際は味方の無人機MQ-9)に対して2発のSM-2を発射したところ、両方とも外れてしまったというものです。こちらの記事ではこの事案の背景として現状のドイツ海軍が抱える深刻な状況について軍人らしい詳細な分析が為されていますが、本サイトではSM-2が何故外れたに絞って考察してみたいと思います。
MQ-9 リーパー
画像引用元: By U.S. Air Force photo by Master Sgt. Robert W. Valenca - http://www.af.mil/shared/media/photodb/photos/071110-F-1789V-991.jpg, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11200064
まず、みんな大好きwikiの記事を参照してヘッセンはどのような艦なのか確認してみます。
ザクセン級フリゲート
ヘッセンは2006年就役のザクセン級フリゲートの3番艦であり、対空レーダーはタレス社の以下の2種類が装備されています。
・SMART-L
・APAR 多機能型
また、艦載のt対空戦闘システムはNAAWS(NATO Anti-Air Warfere System: NATO対空戦闘システム)が搭載されており、これもタレス社の製品ですが、1番艦のザクセンの発注が1996年であること、及び仕様ユーザーがドイツ、オランダ、デンマークの3艦種のみであることを考えると若干古め(故にUAVなどの新しい脅威が余り想定されていない、、)で且つ余り流行らなかったシステム(故にアップデートも微妙、、)と言えるかもしれません。
発射されたミサイルは本邦でもお馴染みのSM-2MRですが、こちらはRTX社(旧レイセオン)の製品でNAAWSによって管制され、MK41VLSから発射されていたとなると、モノはSM-2MRブロックIIIA(RIM-66M-2)でしょう。
組み立て中のSM-2MRミサイル
画像引用元: U.S. Navy - http://www.navy.mil/view_photos_top.asp, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3271202による
ミサイルの誘導方法は初期・中期は指令(UTDC)付き慣性誘導で、終末誘導はAPARのICWI(Interrupted Continuous Wave Illuminator: 間欠連続波照射)によるセミ・アクティブ誘導です。これは本邦のFCS-3やOPY-1などと同様です。というか。本邦のシステムはAPARの技術を部分的に導入しています(これの導入の経緯は結構生臭い話があったりします)。
さて、ミサイルが発射された際の状況です。
・2/26にヘッセンが作戦行動中に未確認の無人航空機(UAV)が接近しているのを探知した
・無人航空機からIFFの返信は無かった
・上級司令部と協議後に2発のSM-2を目標に向けて発射したが両方とも外れた
・無人機は巡行飛行中(200kt以下)であり、ドローンは艦と平行に飛行していた( the drone flew parallel to the vessel)、
ミサイル2発の発射間隔は分かりませんが、恐らくSTS射撃(Shoot To Shoot)だったんじゃないかと思います。
ここまでピンときた方がおられるかもしれません。
つまり、まとめると
・目標は低速な無人機だった
・目標は艦と同航で飛行していた
・ミサイルはセミ・アクティブ誘導のSM-2
・対空管制システムはやや古めだった
ということになります。
実は考察するまでもなく、記事の中でクロスレンジ効果の影響として語られています。
ストリップマップ方式合成開口レーダ
画像引用元: 電気情報通信学会 「遠隔情報センシングシステムにおける信号処理技術」
https://www.journal.ieice.org/conts/kaishi_wadainokiji/200202/200202-6.html
上の図は ストリップマップ方式合成開口レーダのものですが、感覚的に分かり易いと思い流用させていただきました。つまり、電波を発している母機と目標は平行で且つ低速で進行しており、その反射波には相手の速度成分(ドップラー偏移)が載り難い状況が分かると思います。
以前、本ブログでセミ・アクティブレーダー誘導ミサイルの誘導において、目標の速度成分が非常に重要であることを述べさせていただいておりますが(結局はデコイしかない)、ミサイルは発射する際に目標の速度レンジを設定してます。つまり目標の速度はこれ位だから、そこから外れた目標は無視せよと設定されている訳です。なので低速で且つ、平行に飛行する目標はセミ・アクティブレーダー誘導ミサイルは非常にやっかいな目標な訳です。
本来であれば、その辺りの差を射撃管制システムや熟練した乗組員が補完してくれるでしょう。しかし、記事によるとシステムは古めで且つ技術サポートやレーダーオペレーターなどの高度なスキルを持つ専門家は大幅に不足し、また軍縮のあおりで実射訓練等の機会も限られていたとなるとこの状況にうまく対応できなかったことが考えられます。
昨今のドイツ連邦軍の体たらくぶりは度々耳にしますが、本邦もこれを他山の石としなくてはならないでしょう。
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