その中で、セミアクティブレーダー誘導の対空ミサイルには曳航式デコイ(ジャマー)が有効であること、またアクティブレーダー誘導に対して曳航式は余り有効ではないことを述べました。
航空事業部某技術幹部殿曰く
「曳航型はセミアクティブレーダー誘導には有効だが、アクティブレーダー誘導には有効ではないので、射出型デコイが必要だ。」
浅学な自分は最初この意味が分かりませんでした。しかし、現在はこうではないかと推測しています。
航空事業部には射出型デコイとしてJ/ALQ-9というものをF-15j/DJに装備しています。これは珍しいもので、部隊の方も名前は聞いたことあるけど見たことが無いと言わしめる程です。"F-15用射出型ECM装置"で検索すると入札公告等で結構ヒットします。そして特筆すべきはこのJ/ALQ-9の性能については特定防衛秘密に指定されていることです。
参議院情報監視審査会の活動経過
戦闘機用射出型 ECM 装置(J/ALQ−9)の J/S 比、初期設定値、ドップラー周波数及び妨害可能時間に関する定量的データ(試験により得られたデータを除く。)
引用元: 参議院情報監視審査会の活動経過
(注)J/S比のJはミサイルが受信する妨害波の電力、Sはミサイル自身のレーダ受信電力のことで、これが1を下回ると妨害が有効ではなくなる。
さて、このJ/ALQ-9ですが、前方型と後方型があります。これも何故デコイに前方型と後方型があるのか、またこのデコイは外観の写真等が全く出てきません。従って一般的にはどんな形なのかも分からないのです。
それは何故なのか。
実はこのデコイは飛翔体という名称で、主契約会社である富士通さんから特許が取られています。そちらの特許情報からこのデコイがどういうものなのかを知ることができます。
飛翔体
https://patents.google.com/patent/JP4237873B2/ja?oq=JP4237873B2
全体の外観図
引用元: 飛翔体
収納状態
引用元: 飛翔体
なお、以下の特許も関連するようです。
小型電子機器用カートリッジアセンブリ
https://patents.google.com/patent/JP3904727B2/ja?oq=JP3904727B2
飛翔体および射出装置
https://patents.google.com/patent/JPH08207898A/ja?oq=JPH08207898A
電波妨害装置
https://patents.google.com/patent/JP3660773B2/ja?oq=JP3660773B2
航空機
https://patents.google.com/patent/JP2005114457A/ja?oq=JP2005114457A
自分は以前、某所にてこのデコイを拝見したことがありますが(実物は鮮やかな赤色で塗装されています)、外観図よりももっと細長い感じです。直径は大人の親指よりちょっと太い程度の大きさです。
このデコイはF-15J/DJのチャフ・フレアディスペンサー であるAN/ALE-45に搭載されており、必要時に射出されます(まず機体搭載型ECMで妨害を開始し、ミサイル側が妨害に引っ掛かったのをトリガーとして、射出型デコイを発射してその後に内装型ECMの妨害を停止するか徐々に弱める。従って、射出式デコイはECMコントローラの判断で自動的に射出される)。射出されると展開翼を開いて飛翔し、熱電池を動力源として電波を発信して電波妨害を開始します。この際にこのデコイは射出されて単純に直下に落下するのではなくて、水平方向に飛翔する。そして、前方用では前方に、後方用には後方にアンテナが付いており、そこからそれぞれの方向へ妨害波を発信します。
AN/ALE-45J
左側筐体がチャフ及びデコイ用、右側筐体がフレア用
引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=72818798
つまり、このデコイは相手のミサイルの方向へ送信アンテナを向けて飛翔する形になります。これが前方用と後方用が存在する所以です。
聞き及んだところによると、一度に4器のデコイが射出され、それそれの方向へ電波妨害を行いながら飛翔することになります。なお、曳航式の場合は母機と一緒に飛翔するため母機と同じ速度となるため、速度欺瞞の必要はありませんが、射出型になると発射母機と飛翔速度がことなるため、最適な△f(母機とデコイのドップラ周波数の変位分)を算出し、妨害成分に乗せてやる必要があります。
以上のことから、航空事業部某技術幹部殿の発言の真意はこういうことじゃないかと推察しています。
この射出型デコイは電波妨害を実施しながら、ミサイル側へ向かって飛翔し、状況によっては相手ミサイルと発射母機の間に割り込んで妨害を実施し、より実効性が高い妨害を実施することができる。それに対して母機の近辺を飛翔する曳航式は射出型に比べて送信出力を大きく出来る利点があるが、自らレーダー波を送信するアクティブレーダーホーミング誘導に対しては、距離が近くなるとミサイルが受信する妨害波の電力がミサイル自身のレーダ受信電力よりも低くなってくる(J/S比が1以下になる)ため、妨害の効果が無くなり妨害対処可能な距離範囲が短くなってしまう。つまり母機との距離が曳航索によって固定されているが故にアクティブレーダーホーミング誘導に対して脆弱であると言えます。
そしてこのJ/ALQ-9の姿が余り公に晒されないのは、元々配備数が多くないこともさることながら、この形態による飛翔性能を外観から余り類推されたくない意図があるのかもしれません。
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