2017年01月20日
【ピアノの森】マンガ 感想&あらすじ 想いが込められた演奏に心揺さぶられるヒューマンドラマ
ヤングマガジンアッパーズ→モーニング。1998年9号から2015年49号まで連載。全26巻
作者:一色まこと
他作品:花田少年史
森の中に捨て去られたピアノ、誰にも音を出せない壊れたピアノ、そのピアノを幼い頃から遊び場にしてきた少年、一ノ瀬海。
「森の端」と呼ばれるはぐれ者たちが集まる色街、そこで水商売をして生計を立てている母と2人で暮らしているカイ。店の雑用として働き、普通の子供らしく生きることは叶わない環境にいたカイは、いつまでもこの嫌な町から、そしてピアノの森からは離れられないと感じていた。
森にあるピアノの元の持ち主であり、かつて天才ピアニストと呼ばれた音楽教師の阿字野壮介は、もう聴けないと思っていた森のピアノを軽やかに弾くカイの姿を目の当たりにする。カイは阿字野から「一緒にピアノをやらないか」と誘われ、その場は断ったものの、どうしても弾けないショパンを弾けるようになるため、条件付きでピアノを学ぶことになった。
師との出会い、ライバルとの出会い、様々な人たちとの出会いがカイを大きく成長させ、その音色で多くの人たちをピアノの森へ誘っていく。
主要人物紹介。
・一ノ瀬 海
主人公。通称「カイ」。母親似で女性にも間違われるほど綺麗な顔立ちをしている美少年。母の怜子と2人で「森の端」と呼ばれる色町で暮らしています。幼い頃から森に捨てられていた特殊なピアノを遊び場にしてきたことにより、天才的な才能と感性を自然に身に付けていました。大抵の曲は聴いただけで弾くことはできますが、当初は楽譜すら読めませんでした。当時音楽教師をしていた元天才ピアニストの阿字野壮介に才能を見出され、コンクールに出場したことがきっかけとなり、人に聴いてもらうことに喜びを感じるようになります。
・阿字野 壮介
カイの師。森のピアノの元持ち主。かつて国内の賞を総なめにし、世界的にも名を馳せたほどの天才ピアニスト。しかし、交通事故で左手の自由を失い、さらに婚約者を失ったことに強いショックを受け、ピアニストの道は捨て音楽教師として小学校で勤務していました。怪我で失ったはずの音を奏でるカイとの出会いに衝撃を受け、カイの師になることでピアノの世界に再び戻ることになりました。カイを世界に連れていくため、後ろ盾となり持ちうる技術を教え込みます。
・雨宮 修平
カイの親友兼ライバル。父親が国内で有名なピアニストであり、幼い頃からピアノの英詩教育を受けて育ってきました。小学生の時に短い間通っていた転校先でカイと出会い親しくなりました。他人と自分を比較してしまうことが多く、特にカイに対しては良くも悪くも強いライバル心を抱いています。全日本ピアノコンクールで優勝したものの、カイの演奏に敗北感を抱き、その才能を恐れた父親の薦めで海外留学しました。
・一ノ瀬 怜子
カイの美しい母親。生まれも育ちも色町の「森の端」であり、水商売で生計を立てています。15歳の若さでカイを出産(父親は不詳)。カイには深い愛情を注いでおり、森の端を出て欲しいとも願っており、カイのこれからを真剣に考えてくれる阿字野壮介に託すことを決めます。
・丸山 誉子
ピアニストを志している少女。裕福な家庭で生まれ育ち、常に白石という使用人が傍に控えています。第56回全日本ピアノコンクール・中部南地区予選でカイと出会い、その演奏を聴いたことで憧れを抱くようになりました。カイに会うためいくつものコンクールに出場し、その最中腱鞘炎を患うも、カイとの再会を果たし治療に専念することになりました。
・ジャン・ジャック・セロー
世界的なピアニストで指揮者。ショパン・コンクールに出場した若かりし頃の阿字野を唯一高く評価し、その折に他の審査員と揉めたことで以降コンクールとは袂を分かっています。事故にあった後も阿字野を気にかけ、日本語を覚えて励まし続けていました。カイの推薦者になり、阿字野と共に心強い後ろ盾になっています。
【eBookJapan】 ピアノの森 無料で試し読みできます
森に捨てられていたピアノを弾いて育った少年が、ライバルや師との出会いをきっかけに世界の舞台へ羽ばたき成長する姿と、心揺さぶられる少年の奏でる演奏に深く影響を受けていく人たちとの人間ドラマを描いた物語。
数ある楽器のなかでもピアノをメインに扱い、それに携わるそれぞれの人間模様を描いたヒューマンドラマです。第12回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞。2007年にはアニメーションで映画化もされ、上戸彩さんや神木隆之介さん等が主人公たちの声を担当しています。
これまで読んできた中にも、『四月は君の嘘』、『BLUE GIANT』、『のだめカンタービレ』、『ましろのおと』など、音楽を題材とした人間ドラマを描いた素晴らしい作品はありますが、個人的にはこの『ピアノの森』は特に印象深い作品になってます。途中休載していたことも強く印象付けられた要因の1つですけどね。
引き込まれる音楽描写とストーリー展開、登場人物の人間関係と心理描写、そして何と言っても感動のフィナーレ、魅せられてしまう要素の多い作品です。
終始飽きさせず、記憶にも残る巧みなストーリー構成は素晴らしかったです。開始時点でのカイは小学5年生、成長した終盤では17歳の姿を描いています。物語を大きく分けると、カイの【少年時代編】と【思春期編もしくは準備期間編】、そして【ショパンコンクール編】の3編構成です。ちなみに、アニメーション映画はだいたい6巻の冒頭ぐらいまでの少年時代を映像化されています。
少年時代では、まだ楽譜すら読めず勝手気ままに遊びで弾いていたカイが、次第に誰かに聴いてもらえることに喜びを感じたことで、真剣にピアノへ向き合う決意をする過程を丁寧に描き、同時にカイの置かれている容易には抜け出せない過酷な環境についても語られています。そして、かけがえのない師となる阿字野、雨宮や誉子たち同年代のライバル、この先も物語に深く関わってくる人たちとの出会いの話もあります。
思春期編ではカイたちは高校生に成長しており、カイの置かれている状況の変化、阿字野によって着実に育てられている様子を伺うことができます。さらに、スランプに陥っていた雨宮がカイのピアノを聴き逃げずに向き合うことを決意する話、カイと岸上冴との恋愛、誉子の手首の故障の話など、本筋のテーマとは少し関わりの浅い話もありますね。ですが、それによって物語はより深みが増し、目標に向けての良いステップ段階を描かれていたと思います。
そして、ショパンコンクール編。見所は当然演奏。それぞれのピアニストたちの全てをこめた演奏、カイも冒頭からこれまでの人生を凝縮したかのような濃く深みある演奏を披露してくれます。そしてラストは・・・。
登場人物の心理描写を丁寧に語り、心情描写も巧みに表現されているので、1人1人に感情移入しやすくなっているのもこの作品の非常に優れているところですね。
楽しさや喜び、苦悩や挫折、そして葛藤と決意。登場人物の心の動きがとても分かりやすく、読んでいるとキャラクターと同様に苦しさや楽しさを感じることもあるので気持ちをもっていかれそうになりましたね。
そして、そんな心の内を吐き出すかのように様々情景を駆使した演奏シーンと、それを聴く人たちの心情描写が素晴らしく、「音」を読む人に伝えるという音楽漫画で最も難しいと思われる問題を巧みな描写で見事に表現していました。用いられている情景、奏者と観客の表情から音の強弱や曲の特徴は読み取りやすく、聴いたことのない曲であってもどんな曲か、どんな気持ちで奏でられているのかがとても伝わってきます。本来は聞こえないはずの演奏に圧倒され、感動を深く刻まれまた気分になりました。奏者の過去や経験を知っていると演奏の深みも増しますね。
正直言いますと、1巻だけを読んだ時点ではあまり強く惹かれませんでした。続き読むかも少し悩んだんですが、それだけで判断するのもどうかと思い、2巻、3巻と読み進めていくうちにどんどん面白くなり、今後の展開やカイの行く末が気になっていつの間にかどハマりしてましたね。最初のインパクトは強いけど終盤に向け尻すぼみになっていく作品が多いなか、ラストに向けどんどん盛り上がっていくステーリー展開は本当に素晴らしかったと思います。
この物語のフィナーレには完全にやられましたね。メインはカイという1人の天才の成長物語だと思っていたんですが、ラストを見てカイと阿字野2人の物語だということにやっと気づかされました。あそこまで気持ちよくシメてもらえると読者としても嬉しい限りです。
飲み込まれそうになる見事な演奏シーン、魅力ある登場人物が織り成す人間ドラマ、文句なくおすすめできる作品なのでよければ読んでみてください。
このマンガに出てきた楽曲を聴きながら読むのも良いかもしれませんね。ほんとに素晴らしい作品でした。
作者:一色まこと
他作品:花田少年史
あらすじ
森の中に捨て去られたピアノ、誰にも音を出せない壊れたピアノ、そのピアノを幼い頃から遊び場にしてきた少年、一ノ瀬海。
「森の端」と呼ばれるはぐれ者たちが集まる色街、そこで水商売をして生計を立てている母と2人で暮らしているカイ。店の雑用として働き、普通の子供らしく生きることは叶わない環境にいたカイは、いつまでもこの嫌な町から、そしてピアノの森からは離れられないと感じていた。
森にあるピアノの元の持ち主であり、かつて天才ピアニストと呼ばれた音楽教師の阿字野壮介は、もう聴けないと思っていた森のピアノを軽やかに弾くカイの姿を目の当たりにする。カイは阿字野から「一緒にピアノをやらないか」と誘われ、その場は断ったものの、どうしても弾けないショパンを弾けるようになるため、条件付きでピアノを学ぶことになった。
師との出会い、ライバルとの出会い、様々な人たちとの出会いがカイを大きく成長させ、その音色で多くの人たちをピアノの森へ誘っていく。
主要登場人物
主要人物紹介。
・一ノ瀬 海
主人公。通称「カイ」。母親似で女性にも間違われるほど綺麗な顔立ちをしている美少年。母の怜子と2人で「森の端」と呼ばれる色町で暮らしています。幼い頃から森に捨てられていた特殊なピアノを遊び場にしてきたことにより、天才的な才能と感性を自然に身に付けていました。大抵の曲は聴いただけで弾くことはできますが、当初は楽譜すら読めませんでした。当時音楽教師をしていた元天才ピアニストの阿字野壮介に才能を見出され、コンクールに出場したことがきっかけとなり、人に聴いてもらうことに喜びを感じるようになります。
・阿字野 壮介
カイの師。森のピアノの元持ち主。かつて国内の賞を総なめにし、世界的にも名を馳せたほどの天才ピアニスト。しかし、交通事故で左手の自由を失い、さらに婚約者を失ったことに強いショックを受け、ピアニストの道は捨て音楽教師として小学校で勤務していました。怪我で失ったはずの音を奏でるカイとの出会いに衝撃を受け、カイの師になることでピアノの世界に再び戻ることになりました。カイを世界に連れていくため、後ろ盾となり持ちうる技術を教え込みます。
・雨宮 修平
カイの親友兼ライバル。父親が国内で有名なピアニストであり、幼い頃からピアノの英詩教育を受けて育ってきました。小学生の時に短い間通っていた転校先でカイと出会い親しくなりました。他人と自分を比較してしまうことが多く、特にカイに対しては良くも悪くも強いライバル心を抱いています。全日本ピアノコンクールで優勝したものの、カイの演奏に敗北感を抱き、その才能を恐れた父親の薦めで海外留学しました。
・一ノ瀬 怜子
カイの美しい母親。生まれも育ちも色町の「森の端」であり、水商売で生計を立てています。15歳の若さでカイを出産(父親は不詳)。カイには深い愛情を注いでおり、森の端を出て欲しいとも願っており、カイのこれからを真剣に考えてくれる阿字野壮介に託すことを決めます。
・丸山 誉子
ピアニストを志している少女。裕福な家庭で生まれ育ち、常に白石という使用人が傍に控えています。第56回全日本ピアノコンクール・中部南地区予選でカイと出会い、その演奏を聴いたことで憧れを抱くようになりました。カイに会うためいくつものコンクールに出場し、その最中腱鞘炎を患うも、カイとの再会を果たし治療に専念することになりました。
・ジャン・ジャック・セロー
世界的なピアニストで指揮者。ショパン・コンクールに出場した若かりし頃の阿字野を唯一高く評価し、その折に他の審査員と揉めたことで以降コンクールとは袂を分かっています。事故にあった後も阿字野を気にかけ、日本語を覚えて励まし続けていました。カイの推薦者になり、阿字野と共に心強い後ろ盾になっています。
【eBookJapan】 ピアノの森 無料で試し読みできます
感想・見所
森に捨てられていたピアノを弾いて育った少年が、ライバルや師との出会いをきっかけに世界の舞台へ羽ばたき成長する姿と、心揺さぶられる少年の奏でる演奏に深く影響を受けていく人たちとの人間ドラマを描いた物語。
数ある楽器のなかでもピアノをメインに扱い、それに携わるそれぞれの人間模様を描いたヒューマンドラマです。第12回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞。2007年にはアニメーションで映画化もされ、上戸彩さんや神木隆之介さん等が主人公たちの声を担当しています。
これまで読んできた中にも、『四月は君の嘘』、『BLUE GIANT』、『のだめカンタービレ』、『ましろのおと』など、音楽を題材とした人間ドラマを描いた素晴らしい作品はありますが、個人的にはこの『ピアノの森』は特に印象深い作品になってます。途中休載していたことも強く印象付けられた要因の1つですけどね。
引き込まれる音楽描写とストーリー展開、登場人物の人間関係と心理描写、そして何と言っても感動のフィナーレ、魅せられてしまう要素の多い作品です。
終始飽きさせず、記憶にも残る巧みなストーリー構成は素晴らしかったです。開始時点でのカイは小学5年生、成長した終盤では17歳の姿を描いています。物語を大きく分けると、カイの【少年時代編】と【思春期編もしくは準備期間編】、そして【ショパンコンクール編】の3編構成です。ちなみに、アニメーション映画はだいたい6巻の冒頭ぐらいまでの少年時代を映像化されています。
少年時代では、まだ楽譜すら読めず勝手気ままに遊びで弾いていたカイが、次第に誰かに聴いてもらえることに喜びを感じたことで、真剣にピアノへ向き合う決意をする過程を丁寧に描き、同時にカイの置かれている容易には抜け出せない過酷な環境についても語られています。そして、かけがえのない師となる阿字野、雨宮や誉子たち同年代のライバル、この先も物語に深く関わってくる人たちとの出会いの話もあります。
思春期編ではカイたちは高校生に成長しており、カイの置かれている状況の変化、阿字野によって着実に育てられている様子を伺うことができます。さらに、スランプに陥っていた雨宮がカイのピアノを聴き逃げずに向き合うことを決意する話、カイと岸上冴との恋愛、誉子の手首の故障の話など、本筋のテーマとは少し関わりの浅い話もありますね。ですが、それによって物語はより深みが増し、目標に向けての良いステップ段階を描かれていたと思います。
そして、ショパンコンクール編。見所は当然演奏。それぞれのピアニストたちの全てをこめた演奏、カイも冒頭からこれまでの人生を凝縮したかのような濃く深みある演奏を披露してくれます。そしてラストは・・・。
登場人物の心理描写を丁寧に語り、心情描写も巧みに表現されているので、1人1人に感情移入しやすくなっているのもこの作品の非常に優れているところですね。
楽しさや喜び、苦悩や挫折、そして葛藤と決意。登場人物の心の動きがとても分かりやすく、読んでいるとキャラクターと同様に苦しさや楽しさを感じることもあるので気持ちをもっていかれそうになりましたね。
そして、そんな心の内を吐き出すかのように様々情景を駆使した演奏シーンと、それを聴く人たちの心情描写が素晴らしく、「音」を読む人に伝えるという音楽漫画で最も難しいと思われる問題を巧みな描写で見事に表現していました。用いられている情景、奏者と観客の表情から音の強弱や曲の特徴は読み取りやすく、聴いたことのない曲であってもどんな曲か、どんな気持ちで奏でられているのかがとても伝わってきます。本来は聞こえないはずの演奏に圧倒され、感動を深く刻まれまた気分になりました。奏者の過去や経験を知っていると演奏の深みも増しますね。
正直言いますと、1巻だけを読んだ時点ではあまり強く惹かれませんでした。続き読むかも少し悩んだんですが、それだけで判断するのもどうかと思い、2巻、3巻と読み進めていくうちにどんどん面白くなり、今後の展開やカイの行く末が気になっていつの間にかどハマりしてましたね。最初のインパクトは強いけど終盤に向け尻すぼみになっていく作品が多いなか、ラストに向けどんどん盛り上がっていくステーリー展開は本当に素晴らしかったと思います。
この物語のフィナーレには完全にやられましたね。メインはカイという1人の天才の成長物語だと思っていたんですが、ラストを見てカイと阿字野2人の物語だということにやっと気づかされました。あそこまで気持ちよくシメてもらえると読者としても嬉しい限りです。
飲み込まれそうになる見事な演奏シーン、魅力ある登場人物が織り成す人間ドラマ、文句なくおすすめできる作品なのでよければ読んでみてください。
このマンガに出てきた楽曲を聴きながら読むのも良いかもしれませんね。ほんとに素晴らしい作品でした。
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