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2024年09月15日

芥川龍之介の「河童」の相関関係について6

4 まとめ

 芥川龍之介の「河童」のデータベースのうち、言語の認知のカラム、逆転の思考が1ある、2なしと、情報の認知のカラム、人工知能で1機知、2批判は、正の強い相関関係になることがわかった。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
前野昌弘 回帰分析超入門 技術評論社 2012
芥川龍之介 河童 角川文庫 2008

芥川龍之介の「河童」の相関関係について5

表2 計算表

A 1 4 5
偏差 -1.5 1.5 0
偏差2 2.25 2.25 4.5
B 4 1 5
偏差 1.5 -1.5 0
偏差2 2.25 2.25 4.5
AB偏差の積 2.25 2.25 4.5

◆相関係数は、次の公式で求めることができる。

相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
√(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和

上記計算表を代入すると、

相関係数 = 4.5/√4.5 x 4.5 = 4.5/4.5 = 1

従って、正の強い相関があるといえる。

数字の意味を言葉で確認しておく。 

-0. 7≦r≦-1.0 強い負の相関がある
-0.4≦r≦-0.7 やや負の相関がある
0≦r≦-0.4 ほとんど負の相関がない
0≦r≦0.2 ほとんど正の相関がない
0.2≦r≦0.4 やや正の相関がある
0.4≦r≦0.7 かなり正の相関がある
0.7≦r≦1 強い正の相関がある

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の相関関係について4

A 言語の認知(動から静への思考):1ある、2ない →1、4
B 人工知能:1認識、2心的操作 →4、1
 
◆A、Bそれぞれの平均値を出す。
Aの平均:(1 + 4)÷ 2 = 2.5
Bの平均:(4 + 1 )÷ 2 = 2.5
◆A、Bそれぞれの偏差を計算する。偏差=各データ−平均値 
Aの偏差:(1 – 2.5)、(4 – 2.5)= -1.5、1.5
Bの偏差:(4 – 2.5)、(1– 2.5)= 1.5、-1.5
◆A、Bの偏差をそれぞれ2乗する。
Aの偏差2乗 = 2.25、2.25
Bの偏差2乗 = 2.25、2.25
◆AとBの偏差同士の積を計算する
(Aの偏差)x(Bの偏差)= 2.25、2.25
◆AとBを2乗したものを合計する。
Aの偏差を2乗したものの合計 = 2.25 + 2.25 = 4.5
Bの偏差を2乗したものの合計 = 2.25 + 2.25 = 4.5
◆Aの偏差xBの偏差の合計を計算する。2.25 + 2.25 = 4.5

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の相関関係について3

3 小説の場面に適用する

表1 河童の訪問
それから僕は二三日ごとにいろいろの河童の訪問を受けました。僕の病はS博士によれば早発性痴呆症ということです。しかしあの医者のチャックは、僕は早発性痴呆症患者ではない、早発性痴呆症患者はS博士をはじめ、あなたがた自身だと言っていました。意味思考 1、人工知能2

医者のチャックも来るくらいですから、学生のラップや哲学者のマッグの見舞いにきたことはもちろんです。が、あの漁夫のバッグのほかに昼間はだれも尋ねてきません。意味思考 2、人工知能2

ことに二三匹いっしょに来るのは夜、―それも月のある夜です。僕はゆうべも月明りの中に硝子ガラス会社の社長のゲエルや哲学者のマッグと話をしました。のみならず音楽家のクラバックにもヴァイオリンを一曲弾いてもらいました。意味思考 2、人工知能2

そら、向こうの机の上に黒百合の花束がのっているでしょう?あれもゆうべクラバックが土産に持ってきてくれたものです。(僕は後ろを振り返ってみた。が、もちろん机の上には花束も何ものっていなかった。)
意味思考 2、人工知能2

それからこの本も哲学者のマッグがわざわざ持ってきてくれたものです。ちょっと最初の詩を読んでごらんなさい。いや、あなたは河童の国の言葉を御存知になるはずはありません。では代わりに読んでみましょう。これは近ごろ出版になったトックの全集の一冊です。2、人工知能1

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の相関関係について2

相関の作り方

 シナジーのメタファーのために作成しているデータベースは、データの種類で見ると、俗に言う測れないカテゴリーデータからなる。数量データといわれる身長、体重、気温、湿度などとは異なり、値が連続ではなく飛び飛びで離散的となる。前野(2012)によると、カテゴリーデータは、対象の性質を表したり、現象や区別を表したりする。性別、好き、嫌い、うまい、まずい、おもしろいなどあるものの性質や現象が示される。
 相関とは原因から結果が生じ、それが互いに関係しあっていることをいう。また、相関関係があるとは、ある測定値の変化に対して他の測定値も変化する場合に使われる。相関の強さは、ピアソンの相関係数で表す。合わせて共分散という統計用語が重要になる。 

(1) 共分散の公式
共分散=[(xの各データ−xの平均値)x(yの各データ−yの平均値)]の和/データ数
   =[(xの偏差)x(yの偏差)]の和/データ数
   = xとyの偏差積の和/データ数

正の相関があると0より大きく、負の相関があると0より小さくなる。

(2) 相関係数(ピアソン)
相関係数=XYの偏差平方和/√(Xの偏差平方和)x(Yの偏差平方和)

「河童」の問題解決の場面を使用して、簡単な例を見てみよう。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の相関関係について1

1 先行研究

 昭和初期の日本を風刺した芥川龍之介(1892−1927)の「河童」の一場面を使用し、人間社会と反対の価値を持つ河童の世界を描きながら、そこに遥かに人間味のあることを狂人に語らせる。執筆時には、逆転の論理、弱者の勝利といった現代にも通じる発想があったに違いない。  
 この小論では、自作のデータベースを使用して相関関係を考察する。言語の認知のカラムは、思考の流れ、即ち、逆転の思考が1ある、2ない、情報の認知のカラムは、人工知能が1機知、2批判である。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の相関関係について」より

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について9

4 まとめ

 芥川龍之介の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「河童」のLのストーリーをデータベース化して、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

片野善夫 ほすぴ164号 日本成人病予防協会 2018
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風社 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  241-249 
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019 276-283
芥川龍之介 河童・戯作三昧 角川文庫 2008

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。情報の認知1 1、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
D:情報の認知1は@ベースとプロファイル、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1はB条件反射、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。

結果

 芥川は、この場面で早発性痴呆症患者は精神病を患う狂人ではなく、精神病院の院長や日本国民であると説明したかった。つまり、思考の流れに逆転の論理という推論があるため、「風刺と精神病」と「機知と批判」という組が相互に作用する。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)
 
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、B条件反射である。
 
情報の認知2(記憶と学習)
 
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)
 
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について6

分析例

1 河童の訪問を受ける場面。
2 この小論では、「河童」の購読脳を「風刺と精神病」と考えているため、意味4の思考の流れ、動から静へのありなしに注目する。
3 意味1 @視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3振舞い @直示A隠喩B記事なし、意味4逆転@ありAなし
4 人工知能 @機知A批判
 
テキスト共生の公式

ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「機知と批判」を作る。
ステップ2:動から静への精神状態から「芥川龍之介と逆転の思考」という組を作り、解析の組と合わせる。 

A:「@視覚+A聴覚」+@喜+A逆転なし+@直示という解析の組を、@機知とA批判からなる人工知能@と合わせる。
B:「@視覚+A聴覚」+C楽+A逆転なし+@直示という解析の組を、@機知とA批判からなる人工知能@と合わせる。 
C:@視覚+C楽+A逆転なし+@直示という解析の組を、@機知とA批判からなる人工知能@と合わせる。 
D:@視覚+@喜+A逆転なし+@直示という解析の組を、@機知とA批判からなる人工知能@という組と合わせる。
E:@視覚+B哀+@逆転あり+@直示という解析の組を、@機知とA批判からなる人工知能Aいう組と合わせる。

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について5

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】
表1 「河童」のデータベースのカラム

文法1 名詞の格 龍之介の助詞の使い方を考える。
文法2 態 能動、受動、使役。
文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
意味4 思考の流れ 逆転あり、なし。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「心の静止と凝視」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 エキスパートシステム 1機知と2批判。

【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ
河童の訪問を受ける場面

A それから僕は二三日ごとにいろいろの河童の訪問を受けました。僕の病はS博士によれば早発性痴呆症ということです。しかしあの医者のチャックは、僕は早発性痴呆症患者ではない、早発性痴呆症患者はS博士をはじめ、あなたがた自身だと言っていました。意味1 1+2、意味2 1、意味3 2、意味4 1

B 医者のチャックも来るくらいですから、学生のラップや哲学者のマッグの見舞いにきたことはもちろんです。が、あの漁夫のバッグのほかに昼間はだれも尋ねてきません。
意味1 1+2、意味2 4、意味3 2、意味4 1

C ことに二三匹いっしょに来るのは夜、―それも月のある夜です。僕はゆうべも月明りの中に硝子ガラス会社の社長のゲエルや哲学者のマッグと話をしました。のみならず音楽家のクラバックにもヴァイオリンを一曲弾いてもらいました。意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1

D そら、向こうの机の上に黒百合の花束がのっているでしょう?あれもゆうべクラバックが土産に持ってきてくれたものです。(僕は後ろを振り返ってみた。が、もちろん机の上には花束も何ものっていなかった。)
意味1 1、意味2 1、意味3 2、意味4 1

E それからこの本も哲学者のマッグがわざわざ持ってきてくれたものです。ちょっと最初の詩を読んでごらんなさい。いや、あなたは河童の国の言葉を御存知になるはずはありません。では代わりに読んでみましょう。これは近ごろ出版になったトックの全集の一冊です。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について4

 結局、精神病院の院長は、狂人が早発性痴呆症患者であるという。しかし、セカンドオピニオン役の河童の国に生きる医者のチャックは、狂人ではなく、院長や来院者こそが早発性痴呆症患者であるとする。つまり、狂人は、本当のことがわかっていて、院長や聞き手の方がわかっていないとする。また、河童の国でも裁判官が失職すると発狂して精神病院に送られる。もし芥川が見舞いに行くとしたら、何をするのか。精神的な治療として聖書を進めたかもしれない。そこで、「河童」の執筆脳は、「機知と批判」にする。
 確かに晩年の芥川は、強い精神衰弱と戦いながらの執筆であったため、最後の力を振り絞ったに違いない。7月24日、田端の自宅でヴェローナとジャールを多量に服用し自殺する。枕元には聖書が置いてあった。
 人間の皮膚のにおいに閉口した。目や口よりも鼻が妙に恐ろしい気を起させるとある。ほすぴ164号(片野2018)によると、嗅覚は、他の五感と信号のルートが異なり、視床を通らず直接嗅覚野から大脳辺縁系の買い場や偏桃体といった本能行動や感情、記憶を司る部分に伝わる。さらに、海馬ではその匂いが過去に嗅いだにおいかどうかという情報が加わる。情動を司る扁桃体に伝わると、変なにおいなどの評価が下される。恐ろしい気を起させる理由はここにある。
 狂人は、事業に失敗した話になると、乱暴になる。汽車に乗ろうとして巡査に捕まり、病院に入れられた。病院でもどうやら日本の社会や人物の欠陥、罪悪のことを遠回しに批判していた。狂人の方が本当のことを理解している。シナジーのメタファーは、「芥川龍之介と逆転の論理」にする。逆転の論理の一例にド・モルガンの定理がある。真偽の記号の意味を逆にして考えればよい。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について3

 この実験は、芥川の作品の中で例外的に面白おかしく書かれた「河童」(1927)の中でどのように扱われているだろうか。そこから購読脳の組を考えていく。内容は、昭和初期の日本に関する風刺画であり、ある精神病院の患者であり狂人がその病院の院長や誰にも語る話である。
 その狂人の振舞いは、直ちに顔に出る。驚いたときは、急に顔をのけ反らせ、話し終えた時の顔色は、拳骨を振り回し、「出て行け、この悪党めが、貴様も莫迦な、嫉妬深い、猥褻な、図々しい、自惚れきった、残酷な、虫のいい動物なんだろう。出て行け、この悪党めが!」とでも言わんばかりである。
 一般論でいうと、文学作品は、作者の努力のみならず、編集や評論も含めて読者の力とともに成長していく。マクロを狙う分析では、拡大する際に、方向性が問われる。そのため、受容の購読脳のみならず、読者として共生の執筆脳を強く意識して話を進める。まず、「河童」の購読脳を「風刺と精神病」にする。
 ここで1902年から1909年まで日本に留学していた中国の魯迅(1881−1936)を思い出す。1918年37歳のときに発表した「狂人日記」にも兄が突然周囲に向けて怒鳴る場面がある。いけないといえば言えばいいと狂人がいう。しかし、兄も妹を食べ、結局は人食いになってしまう。芥川は、間接的に魯迅の話を知っていたかもしれない。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について2

2 芥川龍之介が日本を風刺する

 芥川龍之介(1892−1927)は、1918年(T7)に跡見女学校に通う塚本文子と結婚し、大阪毎日新聞社の社友になる。1921年に大阪毎日新聞社海外視察員として中国の上海、杭州、南京、武漢、長沙を訪れ、北京、朝鮮を経由して帰国した。国際感覚は築くことができた。しかし、30歳にして健康が優れず、神経衰弱、ピリン疹、胃痙攣、腸カタル、心悸昂進などを病む。その7月に森鴎外が死去する。
 32歳になると、健康面が悪化し、流行性感冒、神経性胃アトニー、痔疾、神経衰弱などの強い症状が出る。33歳のときに湯治で修善寺に滞在する。健康面は衰え、創作も低調になる。34歳のときに、胃腸病、神経衰弱、痔疾などの療養で湯河原に滞在する。その後、妻子とともに鵠沼にある妻の実家で過ごすも、不眠症の症状が強くなる。
 1927年(S2)35歳のときに義兄の借金の後始末もあり、神経衰弱の症状がさらに悪化した。それでも谷崎潤一郎と小説の筋を廻り論争を繰り返す。谷崎との論争は、「蜃気楼」(1927)の中で蜃気楼に纏わるイメージの連鎖で小説の構成を目指した芥川の実験により具現化される。五味渕(2008)によると、視覚によって認知された像を言葉に置換して理解する人間は、その間に当初のイメージに含まれていた現実味を失う。言語表現が持つ限界を駆使して、芥川は、主人公が見たイメージの断片について幻影まがいの浮遊感を醸し出した。マッチの火から見える砂の悪戯で蜃気楼も作られているとある。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より

芥川龍之介の「河童」の執筆脳について1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 メゾのデータを束ねて何やら観察で予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の執筆脳について」より

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて9

6 まとめ

 作家の執筆脳の研究をマクロに調節するために、ボトムアップ型の作家個人を比較するだけでなく、社会学、特にリスク社会論に覆われた危機管理者としての集団からなるトップダウン型のボーダーラインについて考察した。東西南北の比較、人文と社会の共生、購読脳と執筆脳からなるLの分析といった研究項目を用いて、シナジーのメタファーの研究の全体像の中で中島敦の執筆脳がどこに位置しているのかわかるであろう。今後も、作家個人の研究と危機管理者としての集団でいう脳の活動を研究のテーマにして日々努力を続けていく。

参考文献

ジグムント・バウマン、ティム・メイ 社会学の考え方 ちくま文庫 2016
橋爪大三郎、大澤真幸他 社会学講義 ちくま新書 2016
ウルリッヒ・ベック 世界リスク社会論 島村賢一訳 平凡社 2003年
ウルリッヒ・ベック 世界リスク社会 山本啓訳 法制大学出版局 2014年
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 『計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?』新風舎 2005 
花村嘉英 『从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む』華東理工大学出版社2015
花村嘉英 『日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで』 南京東南大学出版社 2017 
花村嘉英「シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖」『中国日語教学研究会上海分会論文集(2017)』華東理工大学出版社 241-249 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析作品−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018 
中島敦 山月記 青空文庫 1998 

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて8

9 だが、お別れする前にもう一つ頼みがある。それは我が妻子のことだ。君が南から帰ったら、おれは既に死んだと彼等に告げて貰えないだろうか。決して今日のことだけは明かさないで欲しい。飢え凍えようとする妻子のことよりも、おのれの乏しい詩業の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を堕すのだ。
この群に属するパーソナリティ障害には、他人を巻き込み派手で人間的な人格といった特徴があり、他人を巻き込み派手で劇的な人格が見られる。
10 袁參一行が丘の上についた時、彼等は、言われた通りに振り返って、先程の林間の草地を眺めた。一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出た。虎は、月を仰いで、二声三声咆哮し、又、元の叢に躍り入って再びその姿を見なかった。
 購読脳の組み合せ、「自尊心と自己愛性パーソナリティ障害」という出力が、共生の読みの入力となって横にスライドし、出力として「人生と思考」という組を考える。よって「中島敦と思考」というシナジーのメタファーが成立する。
 中島敦の執筆脳は、リスク回避と取れる提言がある。己惚れることなく協調性を持って生活することが人生の心得なのである。なお、パーソナリティ障害は、一般的に病気に対する自身の認識が低いため、治療に至らないことが多い。できるだけ周囲の人を通して調節するとよい。
 リスク回避の計算でみると、当初は個人的な問題に影響していたものが、次第に組織やその運営に関わるということから統計で表示できるリスクになり、予測可能なできごとになっていく。ベック(2014)によると、予測可能なできごとは、個人レベルを越えた、承認、補償、回避のための政治的なルールに属するようになる。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて7

3 一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿った時、遂に発狂した。或夜半、急に顔色を変えて寝床から起き上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下に飛び下りて、闇の中へ駈け出だした。しかし、二度と戻って来なかった。自己愛を傷つけられると怒ることもある。
4 翌年、監察御史、陳郡の袁參という者、勅命を奉じて嶺南に使いし、途に商於の地に宿った。次の朝未暗い中に出発しようとしたところ、駅吏が言うことに、これから先の道に人喰虎が出る故、旅人は白昼でなければ通れない。
5 袁參は、しかし、駅吏の言葉を斥けて出発した。残月の光をたよりに林中の草地を通って行った時、果して一匹の猛虎が叢の中から躍り出た。虎は、あわや袁參に躍りかかるかと見えたが、忽ち身を翻して、元の叢に隠れた。叢の中から人間の声で「危ないところだった」と繰返し呟くのが聞えた。その声に袁參は聞き憶えがあった。「その声は、我が友、李徴子ではないか?」
6 我が醜悪な今の外形をいとわず、曾て君の友李徴であったこの自分と話を交してくれないだろうか。その時、袁參は、この超自然の怪異を実に素直に受容れて、少しも怪しもうとしなかった。彼は部下に命じて行列の進行を停め、自分は叢の傍に立って、見えざる声と対談した。都の噂うわさ、旧友の消息、袁參の現在の地位、それに対する李徴の祝辞。その後、袁參は、李徴がどうして今の身となるに至ったかを訊ねた。草中の声は次のように語った。
7 自分の中の人間は忽ち姿を消して、既に虎になっていた。己がすっかり人間でなくなってしまう前に、我が為に詩を伝録しておきたいのだ。一部なりとも後代に伝えないでは、死んでも死に切れない。
8 このままでは、第一流の作品となるのには、どこか欠けるところがあるのではないか。人間であった時、おれは努めて人との交りを避けた。勿論、曾ての郷党の鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとは云わない。おれは次第に世と離れ、自尊心を飼いふとらせた結果が猛獣だった。虎だったのだ。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて6

5 中島敦の「山月記」の執筆脳

 中島敦(1909−1942)は、1942年持病の喘息を抱えながら「山月記」を書き、同年喘息が悪化したため、12月4日に33歳で死去した。人の人生を考えた内容は、一連の精神活動の中で思考とつながる。そこで今回は、「中島敦と思考」という組み合わせでシナジーのメタファーについて考察する。思考は、無意識の欲望や願望のために誤解が生まれることもあり、判断が甘いとか思慮不足となることもある。

1 博学才穎の李徴の物語。若くして名を虎榜に連ね江南尉になるも、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺そうとした。官を退いた後は、人と交わりを絶って詩作に耽った。しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は焦躁に駆られ、その容貌も峭刻となり、曾て進士に登第した頃の美少年の俤は、どこにもなくなる。
2 数年の後、一地方官吏の職を奉ずることになった。曾ての同輩は既に遥か高位に進み、その連中の下命を拝さねばならぬことが、李徴の自尊心を如何に傷つけたかは、想像に難くない。彼は怏々として楽しまず、狂悖の性は愈々抑え難くなった。
 そこで「山月記」の購読脳を「自尊心と自己愛性パーソナリティ障害」にする。自尊心については、李徴自身も認めている。日本成人病予防協会(2014)によると、人から称賛されたいと強く思い、根拠もないのに自分は称賛に値する優れた人間だと信じている。特権意識の強い、己惚れた人間である。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて5

4 マクロの一例−Lの比較

 作家の執筆脳を研究しながら、これまでにトーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖、川端康成を題材にして、作家が試みるリスク回避について論じてきた。(花村2017、花村2018)今回は、中島敦の「山月記」を取り上げる。人間の人生を語った内容は、しばしば教材にも取り上げられている。
 心の表出とされる精神活動は、脳により生まれている。脳の活動は、体内部のみならず、体外部のもの、環境、社会、文化などから様々な影響を受けているため、心の病気も様々な原因が絡み合って発症している。
成人病予防協会(2014)によると、心の病気の原因には、心理的なストレスや環境が要因となる心因(性格の変化)、生まれつきの体質が原因とされる内因、身体的な病気や中毒性物質が脳に影響する外因に分けられる。
 心の健康を管理するには、心が病気になるとどのような症状が出るのかを把握しておくとよい。例えば、五感を伴う意識、感情、記憶、意欲、知能などに障害が出るという。これまで作家の執筆脳を分析しながら、リスク回避の問題を取り上げる際に、これらの症状が問題解決のヒントを示してくれた。(花村2018)
 魯迅は、中国人民の精神的な病を小説で治療しており、そこから魯迅とカオスというシナジーのメタファーを作った。ナディン・ゴーディマは、アパルトヘイトからの脱出が白人の精神的な動脈硬化を予防すると訴えたことから、彼女の執筆脳を意欲と組み合せ、井上靖は、実母の認知症が招く家庭崩壊の危機を細かく描いているため、ゴーディマと脳の活動で性差を説明できるように連合野のバランスと組を作った。
 また、対照言語のドイツ語と日本語では、トーマス・マンのイロニーがファジィ推論と相性が良いことを説明する一方で、ドイツの発展が止まることを危惧して小説や論文を書いたことに言及した。さらに森鴎外についても明治天皇や野木希典大将の死後、歴史小説を通して世の中に普遍性を残そうとしたことにも触れた。
こうして考えると、20世紀前半の作品であれば戦中戦後の話が中心となり、社会とシステムの枠組みでストーリーが展開していく。通常、情報科学では、社会とシステムと医療と情報が大きなセパレートになる。しかし、文学の世界で別段分ける必要はない。高齢化社会の昨今、老人を抱える家族であれば日本でも中国でも家庭崩壊の危機はある。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて4

3 リスク社会論を拡張する試み

 中国で10年近く日本語教育に関わっていたこともあり、ここで教育についてリスクの問題を考察する。一般的に評価については、誰もがいい評価を得られればありがたい。しかし、話が複雑になると必ずしもうまくいかない。難しいことを避けていても、年と共に立場上考えなければならなくなることもある。
 研究を進める上で難しい問題は、何といってもマクロの分析である。マクロの分析を地球規模とフォーマットのシフトにすると、どの系列に属していてもこぼれる人はいない。地球規模の研究は、東西南北の国地域とか地球全体を覆うオゾン層や1万メートルの海底に眠る生態あるいは浅瀬にある鉱物資源、さらに国地域を越えた伝染病などが研究の対象になる。
 どの分野の研究者も文系理系の何れかが主の専門であり、他の系列の副専攻は、認知科学の柱をずらしながら調節している。一方フォーマットのシフトは人文が主であれば、認知の柱を崩して縦に言語の認知、横に情報の認知を置いたⅬのフォーマットを作り、何れかの対象を分析していく。
 ではどうしてマクロが問題になるのであろうか。それは、研究がマクロに届けば、自ずと発見発明に通じるからである。自分の専門の系列及びその界隈をいくら調節しても、所詮アレンジで終わってしまう。濃くなるけれど頭打ちになるのが関の山である。結局、発見発明のない研究者で終わってしまう。
 解決策として、若いうちから取り組むことを勧める。博士論文を書いてから、社会人としての人生がスタートするときに、評価の項目を10個ぐらい皆が持っている育成がよい。平時の実務や自分の専門のみならず、副専攻についても日頃から互いに評価をしていく。例えば、副専攻として情報や医学の中から何かを選ぶようにする。
 人文が専門の私の場合、対照言語がドイツ語と日本語であり、他の国地域、例えば、中国や南アフリカの言語文学は副専攻になる。また、他の系列との共生として、人文と情報、心理と医学、文化と栄養などがこれまでの実績になる。自分の専門と比較及び共生をまとめるとこうなるという主張ができれば、難易度の調節とか世の中への貢献といった条件を満たしていて、名誉にも値する。
 逆に全くの縦割り縦型で大学院時代から社会人にかけても文系か理系のいずれかに留まっていれば、今時サラリーマンでもシナジー共生に取り組んでいる人が多い中、研究者としては時代遅れで評価は低くなる。そこにリスクといえる負の要素が潜んでいる。つまり、社会人として評価の項目が増えずに調整の機会が少ない育成こそが自己責任によるリスクになってしまう。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて3

 世界のリスク社会は、ことばと現実との乖離の一例にもなる。世界のリスク社会は、テロと戦争、経済的グローバル化と新自由主義、国家と主権という概念で説明される。そこでは、危険の次元が三つに区別できる。エコロジカルな危機、世界的な金融危機、同時多発テロ以降の国境を越えたテロネットワークの危険性である。
 そのため、リスクの考察は、決定を前提とし、文明上の決定の予見できない結果を予見可能、制御可能なものにする試みといえる。しかし、ベック(2003)の解説にもあるように、リスク社会と並んで個人化が進んだために、マクロとミクロをつなぐメゾの部分がなくなり、世界中で調節が難しくなっている。ベックは近代化を二分している。第一は通常の産業化のことであり、第二は第一の近代化を反省する近代化のことである。この第二の近代化こそがリスク社会である。
 この第一の近代から第二の近代へ転換して行く反省的近代化は、彼の歴史と社会の認識の重要な接点を示している。つまり、現代社会がどこから来て現在どこにあり、これからどこへ行こうとしているのかという根源的な問題意識に基づいて、そこから現代社会の歴史的位相とは何か、その価値体系は何かという問いを立てている。第二の近代は、未来志向的な時代の診断学である。
 ベックのリスク社会論は、@産業社会で制御可能であったリスクが、制御不可能なものに変わり、Aそれが国民国家の枠組み、一国社会に留まらず、世界規模で広がり、Bその結果、世界の市民がリスクを被り、C科学、技術、経済というリスクを生み出す決定者は国家であり、D世界市民からの抵抗運動が下から換気されるというものである。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて2

2 リスク社会論とは

 近代の変容に着目した現代社会論にポストモダン論とリスク社会論がある。ポストモダンとは、例えば、近代化における民族解放とか共産主義の理念や目的が失われた時代のことである。一方、リスクとは、人間が何かを選択したときに生じる不確実な損害のことであり、危害や損失の生じる恐れがある危険一般とは異なる。
 橋爪(2016)によると、リスク社会では人間の主体性が社会の根本的な前提になっていて、特に新しいリスクによって特徴づけられる。チェルノブイリの原発事故や東日本大震災、そして地球温暖化のように大きな破壊的な結果が生じ、しかもそのリスクが生じる確率が非常に低くて、どのくらいの確率で起こりうるか計算できない。また、責任という概念を破壊する。温暖化による生態系の破壊は、誰に責任があり、誰が損害を補償するのか考えれば自明なことである。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて1

1 はじめに

 ドイツ語でリスクはRisikoのことであり、危険はGefahrという。Gefahrは、天災のように自己責任と無縁の外部からの襲撃であり、一方リスクは、交通事故など自己責任に負うところが多い。ウルリッヒ・ベック(2003)が説くように、リスクは社会の在り方、発展に関係があるため、人間の自由な意思決定や選択を重視する近代社会の成立によって成立した概念である。
 リスク社会は、これまでの社会とは全く異なる性質を持っている。環境や原発の問題が世界規模で広がり、新しい段階に入っている。この小論では、ベックのリスク社会論を中心にし、そこから文学と共有できるものがあるかどうか考察していく。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より

これまでに使用した教材

【武汉科技大学外语外事职业学院】
みんなの日本語1、2(大家的日语1、2学习辅导用书) 外語教学与研究出版社 2002
日本社团法人国际日本语普及协会 商务实战日语会话 大連理工大学出版部 2003
编写委员会编 日语会话技巧篇 外語教学与研究出版社 2003
刁鹂鹏編著 新商務日語基础教程 外语教学与研究出版社 2007

【集美大学】
山本哲也、陈岩、于敬河 汉译日精编教程 大连理工大学出版社 2002
王秀文/山鹿睛美編 实用日语写作教程 外语教学与研究出版社 2004
日语新闻视听教程 外语教学与研究出版社 2009
初级日语会话教程 北京理工大学出版社 2009
日语听力初级教程 南开大学出版社 2009
冯富荣, 杜英起编著 汉译日 多媒体教程 外语教学与研究出版社 2007

【天津外国语大学】
内田安伊子/紀子 構成・特徴・分野から学ぶ新聞の読解 スリーエーネットワーク2008
王秀文/山鹿睛美編 实用日语写作教程 外语教学与研究出版社 2004

【湖南科技学院】
日语综合教程第五册 上海外语教育出版社 2006
朱京伟 日语词汇学教程 外语教学与研究出版社 2005

【武昌理工学院(旧武汉科技大学南校区)】
日语视听说教程 上海交通大学出版社 2013
日语写作教程 高等教育出版社 2011

【宁波大红鹰学院】
新编汉日日汉同声传译教程 外语教学与研究出版社出版 2011
大学日语写作教程 外语教学与研究出版社 2006
新编日语 上海外语教育出版社2009
编写委员会编 日语会话商务篇 2004
楊立国編 日本経済入門 大連理工大学出版社 2011

【盐城工学院】
日语视听说 上海外语教育出版社 2012
日本文学史(高等学校日语教材) 大连理工大学出版社 2012
大学日语写作教程 外语教学与研究出版社 2006
朱京伟 日语词汇学教程 外语教学与研究出版社 2005
新编日文报刊文章选读 南开大学出版社 2010
初级日语听力教程 大连理工大学出版社 2014

【大连交通大学】
奥村真希/釜淵優子著 职场日本语-邮件写作篇(しごとの日本語)上海译文出版社 2015
胡传乃编著 日语写作 北京大学出版社 2016
王霞总主编 初級日語会話教程 大連理工大学出版社 2016
王霞总主编 中級日語会話教程 大連理工大学出版社 2017

ビジネス日本語の攻略法8

(4) 英語 メディカル

 エイブス・メディカル英和翻訳上級講座に参加し、講座を修了した。これを基に文献学のステップアップを目指したい。

【英文】The mucous membrane of the stomach possesses a predisposition to develop carcinoma. Atrophic gastritis, although not necessarily regarded as precancerous, is often present in the stomachs of affected patients. A general familial predisposition to cancer of the stomach also exists, and such patients may prove to have a high antiparietal cell antibody level.
【和訳】胃粘膜は、がんになる素因を持っている。萎縮性胃炎は、前がん状態と見なす必要はないが、しばしばがん患者の胃に見られる。胃がんになりやすい一般的な家族性素因もあり、こうした患者は、抗壁細胞抗体レベルが高い場合がある。

【英文】Although the incidence of gastric cancer has decreased during the past 40 years, it is still one of the major malignancies in men. In Japan, Chile and Iceland it is the most common type. Cancer of the stomach in Japan is 60% of all cancers in men and 40% in women. The cure rate remains low, ranging between 5% and 15%. As a result of intensive case-finding techniques in Japan, however, early gastric cancer is being diagnosed with a 5 years survival varying between 80% and 95%.
【和訳】胃がん発生率は、過去40年間で減少しているにも関わらず、いまだに男性の主要な悪性腫瘍の一つである。日本、チリそしてアイスランドでは、最も多く見られるタイプである。日本では、胃がんが男性の全てのがんの60%を占め、女性の40%を占める。治癒率は依然として低く、5%から15%の間である。但し、日本における集約的な症例発見技術の結果、初期胃がんが5年生存率80%から95%の段階で診断されている。

 作業単位を変えながら断続的であれ5年、10年、15年と翻訳の実務を繰り返しているうちに、作業中の問題解決を説明するレポートが作成できるはずである。そうすれば自ずと実績は整ってくる。

【参考文献】
奥村真希/釜淵優子 职场日本语-邮件写作篇(しごとの日本語)上海译文出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学 2017
日本社团法人国际日本语普及协会 商务实战日语会话 大連理工大学出版部 2003
刁鹂鹏編著 新商務日語基础教程 外语教学与研究出版社 2007
编写委员会编: 日语会话技巧篇 外語教学与研究出版社 2003

花村嘉英(2018)「ビジネス日本語の攻略法」より

ビジネス日本語の攻略法7

(3) 中国語 契約書

 合弁契約とは、複数の当事者が共同して事業を行うために締結した契約をいう。中国の合弁契約は、外国出資者と中国出資者が共同して新たに会社を設立するときに交わされる。中国出資者は、個人は含まれない。合弁契約書を読むにあたっての注意点は、次のとおりである。(バベル中日契約書翻訳講座より)

◆合弁契約書の内容が合法性と実行可能性があるかどうか注意する。合弁契約書を読む際に、その条項の内容は、法律や行政法規等に定める権限範囲内に作成されたものであるかどうか確認する。
◆合弁契約は、合弁事業を行うための法律文書であり、これを有効にさせるためにその前提として合弁の各当事者の適格性、ならびに合弁企業の設立に必要な資金、設備、技術および経営管理能力が必要である。
◆法律、行政法規上の強行性規定に違反することになると、合弁契約の効力は無効となる。よって、合弁契約書の強行規定を理解することは重要である。

【中文】合营公司的组织形式为有限责任公司。甲、乙方以各自认的出资额对合营公司的债务承担责任。各方按其出资额在注册资本中的比例分享利润和分担风险及亏损。
【和訳】合弁会社の組織形態は、有限責任公司とする。甲及び乙は、それぞれ引き受けた出資額を限度として合弁会社に対しその債務につき責任を負う。各当事者は、登録資本中に占めるそれぞれの出資額の比率に基づき、利益の分配を受け、危険と損失を分担する。

【中文】甲、乙方合资经营的目的如下:本着加强经济合作和技术交流的愿望,采用先进而适用的技术和科学的经营管理方法,提高产品质量,发展新产品,并在质量、价格等方面具有国际市场上的竞争能力,提高经济效益,使投资各方获得满意的经济利益。
【和訳】甲及び乙の合弁の目的は、次のとおりである。すなわち、経済協力と技術交流を強化する旨の要求に基づき、先進的且つ実用的な技術及び科学的な経営管理方法を用いて、製品の品質を高め、新製品を開発し、且つ、品質、価格等において国際市場における競争力を有し、経済効率を高め、もって各出資者の満足する経済利益を得ることにある。

 和訳のときは、注意事項を確認するために、「〜するものとする、〜することにある」などの表現で文末を揃える。契約書の文体である。

花村嘉英(2018)「ビジネス日本語の攻略法」より

ビジネス日本語の攻略法6

(2) ドイツの特許制度

 日独特許審査ハイウェイについて、日本国特許庁とドイツ特許庁は、特許審査ハイウェイプログラムを2008年3月から2年間の予定で実施し、その後2年間延長することで合意した。申請要件は諸々あるが、出願の際にドイツ語で作成した書類をドイツ特許庁に提出しなければならい。但し、1998年11月よりドイツ語以外の言語でも書類の提出が可能になった。そこで、日本語による明細書も受理されるようになった。その場合、ドイツ語の翻訳文を出願日から3ヶ月以内に提出しなければならない。つまり、翻訳文の管理も仕事を円滑に進める上で重要になってくる。(ウェブサイト「ドイツ産業財産権制」より)

【ドイツ語 バイオ1】
Die vorliegende Erfindung betrifft eine Zelle, die ihrem Wildtyp gegenüber derartig genetisch verändert ist, dass sie eine relativ zu ihrem Wildtyp verringerte ppGppase-Aktvität aufweist und bevorzugt eine essentielle Aminosäure, noch bevorzugter eine von Serin abgeleitete essentielle Aminosäure, am bevorzugtesten Methionin oder Tryptophan,überproduziert, ein Futtermitteladditiv umfassend eine solche Zelle, ein Verfahren zur Herstellung einer eine von Serin abgeleitete essentielle Aminosäure, bevorzugt Methionin oder eine aromatischen essentiellen Aminosäure, insbesondere Tryptophan, überproduzierenden Zelle, umfassend Herstellen einer Zelle mit einem Knock out eines für eine ppGppase kodierenden Gens, sowie ein Verfahren zur Herstellung einer von Serin abgeleiteten essentiellen Aminosäure davon umfassend die Schritte a) Kultivieren der Zelle nach dem ersten Aspekt der vorliegenden Erfindung oder einer seiner Ausführungsformen und b) optional: Aufreinigen der Aminosäure.(特許データセンターの資料より)
【和訳】
 本発明は、野生型と比べて細胞がppGppase(3’−ピロホスホヒドラーゼ)の活量の減少を示し、本質的なアミノ酸を優位に、セリンより派生した本質的なアミノ酸をさらに優位に、最も優位なメチオニンまたはトリプトファンで過剰分泌するように、野生型に対して遺伝的に変化した細胞とかこうした細胞を含む飼料添加剤、そして、セリンより派生した本質的なアミノ酸を、つまりメチオニンまたは芳香族の本質的なアミノ酸を、特にトリプトファンを優位に過剰分泌する細胞の生産方法に関与し、ppGppaseのためにコード化する遺伝子を不活性化する細胞の生産を包括し、並びにセリンにより派生した本質的なアミノ酸の生産方法に関与して、そこからa)本発明の最初の観点またはその実践形式の一つに従い、細胞を培養し、b)選択でアミノ酸を精留するステップを含んでいる。

【ドイツ語 バイオ2】
Eine der wichtigsten Indikationen ist jedoch die Glutenunverträglichkeit Zöliakie. Zöliakie ist eine chronische Entzündung der Dünndarmschleimhaut. Die Darmepithelien werden bei den betroffenen Patienten, nach Aufnahme von glutenhaltigen Lebensmitteln, sukzessive zerstört, was eine gestörte Resorption von Nährstoffen nach sich zieht und massive Auswirkungen auf die betroffenen Patienten hat und zum Beispiel mit Gewichtsverlust, Anämie, Diarrhoe, Erbrechen, Appetitlosigkeit und Müdigkeit einhergeht. Auf Grund dieser Erkenntnisse entsteht somit ein großer Bedarf, ein Medikament für die Zöliakiebehandlung sowie anderer Gewebetransglutaminaseassoziierter Erkrankungen zu entwickeln. Die Gewebetransglutaminase ist ein zentrales Element in betroffenen Patient der Pathogenese. Das körpereigene Enzym katalysiert die Deamidierung von Gluten/Gliadin in der Dünndarmschleimhaut und verstärkt dadurch massiv die Entzündungsreaktion. Deshalb sind Inhibitoren der Gewebetransglutaminase geeignet, um als Wirkstoffe zur medikamentösen Behandlung eingesetzt zu werden.(特許データセンターの資料より)
【和訳】
 しかし、最も重要な症状の一つは、グルテンの消化不良、セリアック病である。セリアック病は、小腸粘膜の慢性の炎症である。罹漢患者の場合、グルテン含有食品の摂取後、腸上皮が継続して壊れ、これが栄養素の吸収を妨げることに自ずと関与し、罹漢患者に大きな影響を与える。例えば、体重減少、貧血、下痢、嘔吐、食欲不振そして疲労を伴う。こうした認識の下に、いわば、セリアック病の治療とか組織が移転するグルタミン関係の他の病気のために薬を開発するという大きな需要が生まれている。組織が移転するグルタミンは、病理論の罹患患者における中心的な要素である。身体特有の酵素は、小腸粘膜におけるグルテン/グリアディンのアミド分解を触媒し、それにより炎症反応をかなり強くする。従って、組織が転移するグルタミンの阻害剤は、薬剤治療の作用物質として組み込まれるのに適している。

◆特許文は、専門用語が多く、説明が細かくて一文が読点で長いため、一読でわかる訳文を作成するのに修練が必要である。また、ドイツ語と日本語は、語順が異なるため、ドイツ語の語順で訳していってもわかりにくい文章になることがある。そのため、原文と訳文を照らして何度も校正する、また、類似のデータを繰り返し参考にするのがよい。語順については、日本語はかなり自由という特権があるため、テーマレーマも決まるように工夫したい。

花村嘉英(2018)「ビジネス日本語の攻略法」より

ビジネス日本語の攻略法5

3.2 法律関連の文体

(1) 日本国の特許明細書

 日本においては特許明細書を電子データとして特許庁のホストコンピュータに入力することにより出願を行う電子出願制度が採用されており、明細書の書式もこの制度に合わせたものとなっている。(知財翻訳研究所特許翻訳講座より)

書類名 明細書
発明の名称 画像コントラスト制御装置
特許請求の範囲
請求項1〜を特徴とする画像コントラスト制御装置。
請求項2〜を特徴とする、請求項1に記載の画像コントラスト制御装置。
発明の詳細な説明
発明の属する技術分野 この発明は〜に関する。
従来の技術 従来の画像コントラスト制御装置は、〜
発明が解決しようとする課題 この発明の第一の目的は〜
課題を解決するための手段 この発明によれば、〜
発明の実施の形態 次に図面を参照しつつ、発明の実施例〜
実施例
発明の効果
図面の簡単な説明 図1〜断面図である。
書類名 要約書

花村嘉英(2018)「ビジネス日本語の攻略法」より

ビジネス日本語の攻略法4

3 実務翻訳の和訳からのアプローチ

3.1 実務の件例

 翻訳の仕事は、ドイツから帰国した後、つまり36歳のときから始めた。はじめは電気メーカーでソフトウェア関連の英日翻訳のチェッカーをしていた。理系の資料は、何れにしても英語が中心であるため、その後も複数の会社で英語の資料を日本語に翻訳していた。その間、自分の専門であるドイツ語についても時間を見つけて技術文のトレーニングを重ね、次第に機械翻訳へと進んでいった。
 ドイツのチュービンゲン大学で研究していたモンターギュ文法は、機械翻訳の素といえる言語理論で、チョムスキーの生成文法と共にGPSG(一般化句構造文法)の重要な構成要素となっている。その後、カンプらが開発を進める談話表示理論へと展開し、特に主要部の駆動に特徴がるHPSG(主要部駆動句構造文法)でも状況意味論として論理文法の流れを形成している。
 機械翻訳のソフトは、例えば、Tradosを使用して、ソフトウェアの独日翻訳をしながらメモリーを作成したり、翻訳エディターを使用して独日特許翻訳の実績を作ったりした。また、電機メーカーで英語の契約書のチェックをしたこともあり、ドイツ語の契約書を和訳したこともある。いずれにせよ、会社では英日翻訳、在宅で独日翻訳に従事し、日々や休むことなく仕事をしていた。
 ビジネス日本語を攻略するための私自身の工夫について説明しよう。翻訳の作業単位は、外国語と系列の専門知識が組になっている。英語やドイツ語と情報、英語やドイツ語とバイオやメディカル、そして英語、ドイツ語、中国語と契約書といった具合に作業単位を調節している。
 その折、実務を通してエクセルに各系列の用語集を作成しながら、専門用語を覚えるようにしている。または、各系列の専門辞典を日々参考書として使用する。また、一読で分かる翻訳データを作るために、翻訳ソフトでは、メモリーに基づいて翻訳、校正をする。文体の調節ができるようになれば、一応、翻訳のプロとして通用するであろう。文体論を文学のみならず、翻訳という広範囲にわたる文献学に拡張できれば、ことばに偏りがちな翻訳作業も、内容面から考えることができるようになる。専門、非専門を問わず、系列違いで異なる日本語の文体が処理できるようになれば、翻訳が専門となっていく。そこで、文体論について見ていこう。

花村嘉英(2018)「ビジネス日本語の攻略法」より

ビジネス日本語の攻略法3

2.2 ビジネスメール 

 2018年、大連で3年生のビジネス日本語のクラスを担当した。教材の内容は、ビジネスの中で使用する電子メールについてであり、例題も多く、学生が自分でビジネスメールを書く練習ができる。そのため、担当者が面倒くさがらずに添削してあげれば、楽しくビジネス日本語の勉強をすることができる。
教材は、基礎編、実践編、応用編の三つからなっている。基礎編は、ビジネスメールの構成要素についての説明であり、実践編は、電子メールの件例が内容別に17項目紹介されている。そして、応用編は、学生が自分で課題の電子メールに取り組めるように工夫されている。
 例えば、類型1では、カタログの送付や納期の延期、そして資料の送付の催促について、具体的なビジネスメールの例題、内容の要点の説明、例題と関連する表現、決まり文句の練習、ビジネス用語が見開き二ページに説明してある。
 参加者に課しているトレーニングは、ビジネス表現の例題の暗記、用語の小テスト、応用編の課題メール作 成、そしてそれぞれの類型の例題に対する返信である。最後の返信につては、例題の内容を踏まえた上で、敬語や婉曲表現そして準備のことば(铺垫语)を入れながら返信文を書いていく。これは、教材にある課題ではないため、教案として平時で回すには、早め早めにクラスの進捗を管理する必要がある。
【課題4】 以下の電子メールに返信文を書け。
受信メール
いつもお世話になります。
以前一度お聞きしたと思いますが、間違いであるといけませんので、改めてお支払い方法について教えていただけますでしょうか。申し訳ありませんが、こちらの経理処理の都合上、できましたら1月20日までにお知らせいただければと思います。(宛名、差出人省略、以下同様)
-----------------------------
返信メール
ご連絡ありがとうございます。
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花村嘉英(2018)「ビジネス日本語の攻略法」より

ビジネス日本語の攻略法2

2 教授法からのアプローチ
 
 ビジネス日本語のクラスをこれまでに数回担当している。内容は、ビジネス日本語会話とビジネスメールの書き方についてである。教材は、「商务实战日语会话」、「新商务日语基础教程」、「日语会话商务篇」そして「职场日本语-邮件写作篇(しごとの日本語)」を使用した。

2.1 ビジネス日本語会話

 2009年当時、日本語のビジネスといっても翻訳のチェッカーと英日と独日翻訳者という経歴のため、武漢では、主に社内コーディネーターとのやりとりをイメージし、授業を進めていた。語順、活用のあるなし、「てにをは」など日本語と中国語の文法レベルによる違いだけでなく、日本語は敬語が発達しているという特性から、ビジネスに必要な言い回しについても説明した。
 例えば、お客様や上司、初対面のときのような社内でも社外でも改まった場面では、敬語を使う習慣がある。直接的な表現を多用する中国語とは異なり、婉曲表現による間接的な言い回しや本題の直近に入る準備のことば(铺垫语)を覚えることで、日本人に近いビジネス日本語を使用することができるようになっていく。
【課題1】
基本会話(ABA)に続けて、自分たちで会話を作ってまとめる練習。
A 日本では転職するのが難しいんですか。
B ええ、外国と違って同じ会社で定年まで働き続ける人が多いです。
A でも若者の考え方は随分変わったようですね。
B ―――
武漢では、翌年も教材を変えて、日常の簡単なビジネスの場面を想定しながら、ペアワークを中心にして学生に練習を課した。確かに会話だけで日本のビジネスを理解するのは難しいため、さらに、グループワークとして会議を想定し、役割を決め、議題を課してミーティング形式でトレーニングをするとよい。議題と構成員は、クラスの担当教員が予め決めておく。
【課題2】
新商品の紹介と営業の引き継ぎ(議長一人、社員二人、取引先営業二人)、課のメンバーの作業の進捗(課長一人、メンバー四人)、定例のイベントの準備(プロジェクトリーダー一人、メンバー四人)
【課題3】
寧波でもビジネス日本語の基礎編を担当した。
です・ます形式を許可と禁止の表現に変えて発音する練習。
A この件を上司に報告します⇒この件を上司に報告してもいいですか。
B まだ調査中です⇒すみませんが、まだ調査中ですから、報告しないでください。
最初に全体練習、次にペアワークで会話を覚えて発表する。

ビジネスで使用する手紙やスピーチの方法を練習して発表する。
近況報告、招待状、ワークショップ等を模して実践に近づけていく。

花村嘉英(2018)「ビジネス日本語の攻略法」より

ビジネス日本語の攻略法1

1 先行研究

 私の学歴や職歴について最初に説明する。元々、ドイツ文学やアメリカの言語学を専攻し、人文と認知科学を研究してきた。また、職歴は、日本語教授法と機械翻訳が中心で、実務や資格を重ねながら翻訳の作業単位(外国語+専門の系列)を調節してきた。例えば、ドイツ語と文学、中国語と法律(契約書)、英語と情報、ドイツ語とバイオ、英語やドイツ語とメディカルである。
 研究実績については、マクロの文学分析に取り組んでいる。人文でマクロというと、まず東西南北である。私の場合は、日本やドイツそしてアメリカが先行し、そこには東西があり、その後日本と中国やアパルトヘイトとナチスから東アジア及び南アフリカとドイツという南北が出てくる。これは、私の著作からもわかることであり、それが客観的な証拠になる。さらに、自分が読める言葉の国地域から小説を選択していくと、日本と豪州、北米と南米という組ができて、オリンピックに近づいて行く。
 さらにフォーマットのシフトという項目をマクロの評価に加えていく。Tの逆さの認知科学を崩して縦横それぞれに言語と情報の認知を置き、Lのフォーマットを作成する。その際、信号がスムーズに横をスライドするように、翻訳の作業単位で調節していく。自分が所属する専門の系列のみならず、他系列の実務や資格でも実績を作れれば、小説のデータベースを作る際に、テキスト共生の基礎として役に立ち、翻訳の実績が文学分析にも影響を及ぼす。
 文系、理系を交えて何か記事を書くとき、こうした実績を私なりに調整している。ビジネス日本語は、先行して技術文の和訳の品質を管理する際に母国語のトレーニングとなり、その後、中国の大学で日本語専門家としてビジネス日本語のクラスを担当したことが実績といえる。
 この論文では、ビジネス日本語に関する理論的な枠組みを教授法から考察し、実践レベルの取り組みを翻訳の実務やトレーニング方法から考えていく。

花村嘉英(2018)「ビジネス日本語の攻略法」より

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察9

6 まとめ

 中日翻訳の高速化というテーマで、言語の知識や分野の背景知識の調節法について考察した。上記以外にも翻訳の高速化を考える上で覚えておくとよいテクニックはあるだろう。その点については、他の外国語との組み合わせを考慮に入れながら、極端に対照言語の研究にならないように調節していきたい。例えば、中国語を対象にして述べたことは、日本語に近い韓国語にも適応できると思われる。日韓は語順がほぼ同じで膠着語を表す「てにをは」に相当する語彙もあり、構文上双方に大きな違いはない。韓国語は日本人にとってハングル文字と発音を覚えれば、理解できることばである。
 翻訳者としてさらにレベルアップするには、言語の組み合せを増やすこともさることながら、分野を開拓していくことも必要である。そう思えば翻訳作業も一生の仕事になっていく。

参考文献

ゲーテ、W イタリア紀行 花村嘉英監修共訳 バベル出版 2010
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
金田一春彦 日本語・上下 岩波新書 1988
サピア、E 言語−ことばの研究序説 安藤貞雄訳 岩波文庫 1998
山本哲也、陈岩、于敬河 汉译日精编教程 大连理工大学出版社 2002


花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察8

5 分野の背景知識の調節法  
 
 一般的に、翻訳の作業単位は、言語の知識と分野の背景知識との組み合わせである。例えば、私の場合は、ドイツ語と文学とかドイツ語ないし英語と技術文という組み合わせになる。そのために、実務に関してそれなりに工夫が必要であった。文理の相乗効果のことをいうシナジー・共生の調節が大変に難しいからだ。
 翻訳者として10年余り仕事をしながら、この問題について試行錯誤を繰り返してきた。それは、文理の土台を作りたかったからである。縦型の伝統の技は、文系も理系も比較の研究になる。一方、横の調節は、シナジーの研究である。その際、文系が専門であれば文系が主で理系が副、理系が主であればその逆になる。また、文系の基礎は文献学であり、理系の基礎は計算と技術といえる。人文科学が専門の場合、文理の組み合せは文学とコンピューターとか心理とメディカルなどである。計算文学を研究するためには、もちろん理系の文献も文学分析に使えることが前提になる。(「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」を参照すること。)毎日のように技術文の翻訳作業に従事しながら、「理系のための基礎作り」を心掛けていた。    
 技術文の翻訳には、翻訳ソフトが付き物である。限られた時間で大量のデータをできるだけ正確にまとめなければならないからだ。周知のように、コンピューターのマニュアルでは、文体や用語もさることながら、類似の表現や決まり文句または同一文が繰り返して使用される。そこで、翻訳ソフトを使用して翻訳メモリーを作りながら、作業を行うことが慣例になっている。また、技術文を翻訳しながら、理系の入門書を読む必要もある。私の場合、このようにして、文系の語学文学と理系の情報科学の背景知識を調節してきた。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察7

4 中日翻訳の高速化−段落の場合

 次に、作業単位を段落に広げて、中国語の語順のまま和訳するという上述した方法を試してみよう。その際、注意したいのは、述語の位置とか専門用語そしてテーマ・レーマの関係である。なお、日本語の新聞の場合、文体は常体の「である」を使用する。

(17)宫内厅说,行宫无法接纳住宿,但是将用大巴接送灾民前来洗浴,并设置专门的医疗点和休息场所为灾民们问诊。这一项活动将从本月26 日起到4 月底期间进行。(人民日報)
(18)宮内庁は、御用邸に宿泊することはできないが、大型バスを使って被災者を浴場まで送迎し、さらに専門の診療所と休憩所を設けて被災者を診察すると述べた。この活動は、今月26日から4月の末まで行われる。

 (17)と(18)を見る限り、中国語の語順に沿って和訳ができそうだ。但し、述語の位置については注意が必要である。上述したように、中国語の述語は主語のすぐ後に来るが、日本語は最後に来る。また、専門用語としては、行宮を単に別荘と訳すよりも御用邸と訳したほうが皇室用の別荘というニュアンスが伝わると思う。  
 テーマとレーマについて見てみよう。テーマとは主題のことであり、文において伝達の対象を表す既知の情報のことをいう。また、レーマとは述題のことであり、文において伝達の内容を表す新しい情報のことをいう。(17)の場合、最初の文のテーマは「行宮」で、それに続く「无法接纳住宿」以下がレーマになる。次の文は、このレーマを受けた「这一项活动」がテーマになる。つまり、段落の中では、旧と新の情報が連鎖をなして流れている。テーマとレーマの関係を把握して、述語の位置や専門用語に注意すれば、とりあえず中国語の語順に沿ってニュース記事を和訳することができると思う。
 付加的なものだが、覚えておくと便利なテクニックがある。それは、外来語のために使用するカタカナ表記である。日本語の新聞記事には、英語のみならず多くの言語からの外来語が氾濫している。そのため、外国語の新聞を和訳する際にカタカナ表記が入ると、より日本語らしい訳になる。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察6

3.3 複数に訳出される例

 中国語の単文が複数の日本語に訳出される例も見てみよう。一般的に中心語を補足的に説明する補語の中で、程度の補語と呼ばれる表現は、その補語が表す内容を程度とすることも可能だし、結果として理解することもできる。 
 
(10)K板上的字小得几乎看不见。(汉訳日精编教程)
(11)黒板の字がほとんど見えないほど小さい。(程度)
(12)黒板の字が小さくてほとんど見えない。(結果)

(11)(程度で訳す場合)は、前提として何か目安があって、それよりも大か小かが問題となる。一方、(12)(結果で訳す場合)は、中国語の語順に沿って訳すことができる。その場合、結果の対語に当たる何かの原因を受けていると考えればよい。程度と結果の訳し方の違いは、単位を段落まで広げなくても、その文の前後関係ぐらいで対応できそうだ。  
 文の前後関係から見ると、状況語の訳し方も例になるであろう。中国語では、主語と動詞の間に時間や場所を表す状況語が来る。しかし、日本語では、状況語が文頭でも主語と目的語の間でも、あるいは目的語と動詞の間に置かれても、文法上特に問題はない。もちろん、日本語でも状況語は述語を修飾するわけだから、これらの二つの成分は近いにこしたことはない。 
 
(13)别着急,我立刻打电话告诉她。(汉訳日精编教程)
(14)慌てるなよ。すぐに電話して彼女に話すから。
(15)慌てるなよ。電話してすぐに彼女に話すから。
(16)慌てるなよ。電話して彼女にすぐに話すから。

(14)、(15)、(16)は、いずれも和訳として成立する。しかし、どの訳が一番良いかは、文脈に依存して初めて決まる。

花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察5

3.2 兼語式述語文

 同様に、二つ以上の動詞または動詞句が連用されて、動詞1の目的語が同時に動詞2の主語にもなると、動賓連語と主述連語が結び付いた兼語式述語文という構文が作られる。(山本哲也 2002)

(7)谁让你把这本书送来的?(誰があなたにこの本を届けさせたの。)(小学館中日辞典)
(8)友谊,使这些来自不同国度的朋友们相聚在一起。(友情がこれらの異なる国から来た人々を一つにしている。)(汉訳日精编教程)

 兼語式述語文は、通常、前の動詞が使役の意味を持ち、後ろの動詞が目的や結果を表す。この種の文も、中国語の語順のまま和訳ができそうだ。
 さらに、連動式と兼語式が連用される場合もある。

(9)公司让我乘飞机去北京迎接客人。(会社は私に飛行機で客を迎えに北京に行くように言った。)(汉訳日精编教程)

 (9)の構成は、前の動詞句にあたる「飛行機に乗る」が後ろの動詞句「北京に行く」の手段になるため、まず連動式の述語文を作り、さらに前の動詞が使役の意味を持ち、後ろの動詞がその目的を表しているため、兼語式の述語文にもなる。そのため、連動式と兼語式が連用されている。

花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察4

3 中日翻訳の高速化−単文の場合
 
3.1 連動式述語文

 翻訳者としての実務経験からいうと、翻訳作業にはスピードが求められる。言い方はともかくとして、翻訳作業の究極の目標は、同時翻訳だと思う。無論、こうした言い方はない。しかし、限られた時間でデータをまとめる仕事であることに疑いはない。そこで目標を「中国語の語順のまま和訳する」ということにする。中国語の語順に沿って和訳すれば、訳抜けはなくなるし、同時翻訳といいたくなるのもわかるであろう。幾つかその例を見ていこう。
 二つ以上の動詞または動詞句が連用されて、意味上ある種の関係が保たれている構文のことを連動式の述語文という。(山本哲也 2002)

(4)王先生扳着手指计算今年的小麦产量。(王さんは指折りして、今年の小麦の出来高を見積もった。)(汉訳日精编教程)

 (4)の場合、左から右へ中国語の語順に従って、「・・して・・する」と和訳することができる。そして、連用される動詞の意味関係は、前の動詞が後の動詞の動作に関する方式や手段を表している。
 意味関係として前の動詞が原因を表し、後の動詞が結果を表す場合もある。

(5)老赵得肺结核住了院。(趙さんは肺結核で入院した。)(汉訳日精编教程)

 但し、「有」がある場合には、後の動詞句が前の動詞の目的語を修飾するように訳すとよい。

(6)你有钱买房子吗?(君は家を買うお金があるの。)(汉訳日精编教程)

 つまり、目的語は「が」を用いて主語にして、「・・する・・がある」と訳せばよい。

花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察3

2 翻訳の作業単位

 単文で翻訳のトレーニングをすることに確かに意味はある。例えば、単文を訳すことによって、中日の品詞の違いについて確認ができる。  しかし、一文ごとの翻訳では、一つの中文が複数の日本語に訳出されることがある。

(1)你让我安静一会儿,好吗?(汉訳日精编教程)
(2)私を少し一人にさせてよ。いいですね。
(3)私を少し一人にしてよ。いいですね。

 (1)の和訳は、(2)でも(3)でもよい。しかし、(1)が段落の中に入ると、そうはいかない。文法に則して使役に訳すのか、それとも普通の平叙文で訳すのかを読み易さという観点から考える必要がある。文法通りに訳してしまうと、かえって読みにくくなることがあるからだ。読み易すい日本語とは、誰もが一読でわかるようなやさしい表現を用いた和文のことである。推敲する際にも、この点を考えるとよい。小説やエッセイを訳す時でも、段落に書かれた場面のイメージが浮かぶように訳していく。 
 外国語の学習者は、とかく文法を気にする傾向にある。しかし、表現法を問う場合には、あまり文法を気にせずに、こうも言えるしまたそうも言えるといった感覚でことばを処理していくとよい。作業単位を段落にすると、当然量が増えるわけだから、量が問われる翻訳作業に対しても抵抗がなくなると思う。そのため、作業単位を段落にすれば、表現の読みやすさを追及しながら、量にも対応できるといった効果が期待できる。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察2

1 中国語と日本語の違いを把握する

 言語の研究とは、ことばの習得とその運用を対象とし、それぞれに理論と実践がある。言語の習得の場合は、理論も実践も概ね単文で研究される。一文一文が入力と出力となって連鎖をなすという考え方があるからだ。一方、運用論は、話しことばも書きことばも対話、段落そしてテキストが研究対象となる。この小論では、中国語と日本語を比較するために語順を取り上げる。語順には、言語の習得にも運用にも欠かせない重要な問題が含まれているからだ。(例えば、発想の問題)
 言語には、語順が自由なものと固定のものとがある。しかし、大半はその中間に位置する。前者の代表としてはラテン語が、後者の代表としては中国語があげられる。日本語は、語順がかなり自由な言語である。また、ドイツ語やオランダ語などのゲルマン系の言語も類型論的には部分的に語順が自由な言語と見なされている。周知の通り、中国語の語順はSVOであり、日本語やドイツ語はSOVの言語となる。また、文法関係を表す際、中国語は語順を頼りにするが、日本語や韓国語は助詞(てにをは)を用いる。これが中国語は孤立語で、日本語は膠着語と呼ばれる理由である。中国語の語順は確かに英語に近いが、語尾変化や活用はない。日本語のようなSOV型は世界の言語の約半分、英語や中国語などのSVO型は35%、ポリネシア語などのVSO型は10%余りを占めるという。  
 こうした語順の違いは、言語的な発想にも影響を及ぼす。中国語は、主語のすぐ後に述語が来るので、話し手や書き手の意図が肯定なのか否定なのかは、すぐに明らかになる。一方、日本語は、述語が最後に来るため、話し手や書き手の意図が肯定なのか否定なのかは、最後まで行かないとわからない。(山本哲也 2002)そのため、中文から日文へ翻訳をする場合には、語順のみならず推論も重要なポイントになる。
 発想は、抽象から抽象へと進む推論で、一般的に発見とか発明に見られるものだ。しかし、文章を書く際にも、語順とか段落の作り方または話の流れに言語上の小さな発想があると考えられる。発想は文系と理系とで異なるし、組み立て方やまとめ方もそれぞれ違う。これを調節するためにシナジー・共生がある。それ故に、シナジーこそが発想の原点と思われる。(5.「分野の背景知識の調節法」を参照すること。)
 その他の推論としては、演繹と帰納が知られている。演繹は、抽象から具体へと進み、帰納は、具体から抽象へと進んでいく。例えば、演繹は、アスリートが試合に備えてイメージトレーニングをする際に使用され、帰納は、語学の練習の中で単語や表現を入れ替えながら、ある場面のイメージを作る際に使用される。つまり、これらの3つの推論は、三角形をなして人間の脳の中をものすごい勢いで回っている。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より  

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察1

【要旨】

 ビジネス翻訳の世界では、時間の制約が厳しいこともあり、作業にスピードが求められる。しかし、翻訳作業が速くても、語学の知識だけでは品質の管理は難しい。テキスト処理について議論する前に、まず、中国人と日本人の思考様式の違いについて考える。次に、作業単位を単文から段落に広げて、中日の言語上の違いを考察しながら、高速化のための翻訳技法について説明する。最後に、語学力と共に必要となる背景知識の調節法についても一言触れる。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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