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2024年09月17日
心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える7
まとめ
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の登場人物に関する理解度についてデータベースから心理学統計による評価をしてみると、理解度に差があることが分かった。
参考文献
大山正・中島義明 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について 2020
島崎藤村 千曲川のスケッチ 新潮文庫 2004
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の登場人物に関する理解度についてデータベースから心理学統計による評価をしてみると、理解度に差があることが分かった。
参考文献
大山正・中島義明 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について 2020
島崎藤村 千曲川のスケッチ 新潮文庫 2004
心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える6
1 最初は作者と都会にいる友人とで理解度に差がないと予測する。両者の平均値を取ると、藤村 1.6、友人 0.4になる。この差は誤差の可能性がある。
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう理解度の大小は、従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値、理解度が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
[満足度のt検定]
綾子 1.6、前川 0.4、よってt値=1.2。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は、0.02にする。ここでは5%未満のため、帰無仮説を棄却して対立仮説を採択し、有意な差があるとする。
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう理解度の大小は、従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値、理解度が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
[満足度のt検定]
綾子 1.6、前川 0.4、よってt値=1.2。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は、0.02にする。ここでは5%未満のため、帰無仮説を棄却して対立仮説を採択し、有意な差があるとする。
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える5
表2 具体度2
私が君に山上の冬を待受けることの奈様に恐るべきかを話した。しかしその長い寒い冬の季節が又、信濃に於ける最も趣の多い、最も楽しい時であることをも告げなければ成らぬ。→小さい理解1、理解なし0 藤村1、友人0
それには先ず自分の身体のことを話そう。そうだ。この山国へ移り住んだ当時、土地慣れない私は風邪を引き易やすくて困った。こんなことで凌いで行かれるかと思う位だった。実際、人間の器官は生活に必要な程度に応じて発達すると言われるが、丁度私の身体にもそれに適したことが起って来た。次第に私は烈しい気候の刺激に抵抗し得るように成った。東京に居た頃から見ると、私は自分の皮膚が殊に丈夫に成ったことを感ずる。→強い理解2、理解なし0 藤村2、友人0
私の肺は極く冷い山の空気を呼吸するに堪えられる。のみならず、私は春先まで枯葉の落ちないあの椚林を鳴らす寒い風の音を聞いたり、真白に霜の来た葱畠を眺めたりして、屋の外を歩き廻る度に、こういう地方に住むものでなければ知らないような、一種刺すような快感を覚えるように成った。→強い理解2、理解なし0 藤村2、友人0
草木までも、ここに成長するものは、柔い気候の中にあるものとは違って見える。多くの常磐樹の緑がここでは重く黒ずんで見えるのも、自然の消息を語っている。試みに君が武蔵野辺の緑を見た眼で、ここの礫地に繁茂する赤松の林なぞを望んだなら、色相の相違だけにも驚くであろう。→強い理解2、弱い理解1 藤村2、友人1
ある朝、私は深い霧の中を学校の方へ出掛けたことが有った。五六町先は見えないほどの道を歩いて行くと、これから野面へ働きに行こうとする農夫、番小屋の側にションボリ立っている線路番人、霧に湿りながら貨物の車を押す中牛馬の男なぞに逢った。そして私はこの人達の手なぞが真紅まっかに腫るほどの寒い朝でも、皆な見かけほど気候に臆してはいないということを知った。→弱い理解1、理解なし0 藤村1、友人0
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
私が君に山上の冬を待受けることの奈様に恐るべきかを話した。しかしその長い寒い冬の季節が又、信濃に於ける最も趣の多い、最も楽しい時であることをも告げなければ成らぬ。→小さい理解1、理解なし0 藤村1、友人0
それには先ず自分の身体のことを話そう。そうだ。この山国へ移り住んだ当時、土地慣れない私は風邪を引き易やすくて困った。こんなことで凌いで行かれるかと思う位だった。実際、人間の器官は生活に必要な程度に応じて発達すると言われるが、丁度私の身体にもそれに適したことが起って来た。次第に私は烈しい気候の刺激に抵抗し得るように成った。東京に居た頃から見ると、私は自分の皮膚が殊に丈夫に成ったことを感ずる。→強い理解2、理解なし0 藤村2、友人0
私の肺は極く冷い山の空気を呼吸するに堪えられる。のみならず、私は春先まで枯葉の落ちないあの椚林を鳴らす寒い風の音を聞いたり、真白に霜の来た葱畠を眺めたりして、屋の外を歩き廻る度に、こういう地方に住むものでなければ知らないような、一種刺すような快感を覚えるように成った。→強い理解2、理解なし0 藤村2、友人0
草木までも、ここに成長するものは、柔い気候の中にあるものとは違って見える。多くの常磐樹の緑がここでは重く黒ずんで見えるのも、自然の消息を語っている。試みに君が武蔵野辺の緑を見た眼で、ここの礫地に繁茂する赤松の林なぞを望んだなら、色相の相違だけにも驚くであろう。→強い理解2、弱い理解1 藤村2、友人1
ある朝、私は深い霧の中を学校の方へ出掛けたことが有った。五六町先は見えないほどの道を歩いて行くと、これから野面へ働きに行こうとする農夫、番小屋の側にションボリ立っている線路番人、霧に湿りながら貨物の車を押す中牛馬の男なぞに逢った。そして私はこの人達の手なぞが真紅まっかに腫るほどの寒い朝でも、皆な見かけほど気候に臆してはいないということを知った。→弱い理解1、理解なし0 藤村1、友人0
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える4
2.3 「千曲川のスケッチ」の登場人物間で理解度が違う
「千曲川のスケッチ」は、作者自身が信州の小諸に赴任してから文体の確立を目指して綴った自然や文化の観察記録である。ここでは、この小論の研究テーマ、藤村と都会にいる友人間で理解度に違いがあるかどうかについて作成したデータベースを基に考察していく。
解答 藤村と都会にいる友人とで理解度が違う
表1 具体度1
私は今、小諸の城址に近いところの学校で、君の同年位な学生を教えている。君はこういう山の上への春がいかに待たれて、そしていかに短いものであると思う。四月の二十日頃に成らなければ、花が咲かない。梅も桜も李も殆ど同時に開く。城址の懐古園には二十五日に祭があるが、その頃が花の盛りだ。→強い理解2、弱い理解1 藤村2、友人1
すると、毎年きまりのように風雨がやって来て、一時にすべての花を浚って行って了まう。私達の教室は八重桜の樹で囲繞されていて、三週間ばかり前には、丁度花束のように密集したやつが教室の窓に近く咲き乱れた。休みの時間に出て見ると、濃い花の影が私達の顔にまで映った。学生等はその下を遊び廻って戯れた。→強い理解2、弱い理解1 藤村2、友人1
殊ことに小学校から来たての若い生徒と来たら、あっちの樹に隠れたり、こっちの枝につかまったり、まるで小鳥のように。どうだろう、それが最早もうすっかり初夏の光景に変って了った。一週間前、私は昼の弁当を食った後、四五人の学生と一緒に懐古園へ行って見た。荒廃した、高い石垣の間は、新緑で埋もれていた。→強い理解2、弱い理解1 藤村2、友人1
私の教えている生徒は小諸町の青年ばかりでは無い。平原、小原、山浦、大久保、西原、滋野しげの、その他小諸附近に散在する村落から、一里も二里もあるところを歩いて通って来る。こういう学生は多く農家の青年だ。学校の日課が済むと、彼等は各自の家路を指して、松林の間を通り鉄道の線路に添い、あるいは千曲川の岸に随ついて、蛙の声などを聞きながら帰って行く。→弱い理解1、理解なし0 藤村1、友人0
山浦、大久保は対岸にある村々だ。牛蒡ごぼう、人参などの好い野菜を出す土地だ。滋野は北佐久の領分でなく、小県の傾斜にある農村で、その附近の村々から通って来る学生も多い。ここでは男女が烈しく労働する。君のように都会で学んでいる人は、養蚕休みなどということを知るまい。→弱い理解1、理解なし0 藤村1、友人0
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
「千曲川のスケッチ」は、作者自身が信州の小諸に赴任してから文体の確立を目指して綴った自然や文化の観察記録である。ここでは、この小論の研究テーマ、藤村と都会にいる友人間で理解度に違いがあるかどうかについて作成したデータベースを基に考察していく。
解答 藤村と都会にいる友人とで理解度が違う
表1 具体度1
私は今、小諸の城址に近いところの学校で、君の同年位な学生を教えている。君はこういう山の上への春がいかに待たれて、そしていかに短いものであると思う。四月の二十日頃に成らなければ、花が咲かない。梅も桜も李も殆ど同時に開く。城址の懐古園には二十五日に祭があるが、その頃が花の盛りだ。→強い理解2、弱い理解1 藤村2、友人1
すると、毎年きまりのように風雨がやって来て、一時にすべての花を浚って行って了まう。私達の教室は八重桜の樹で囲繞されていて、三週間ばかり前には、丁度花束のように密集したやつが教室の窓に近く咲き乱れた。休みの時間に出て見ると、濃い花の影が私達の顔にまで映った。学生等はその下を遊び廻って戯れた。→強い理解2、弱い理解1 藤村2、友人1
殊ことに小学校から来たての若い生徒と来たら、あっちの樹に隠れたり、こっちの枝につかまったり、まるで小鳥のように。どうだろう、それが最早もうすっかり初夏の光景に変って了った。一週間前、私は昼の弁当を食った後、四五人の学生と一緒に懐古園へ行って見た。荒廃した、高い石垣の間は、新緑で埋もれていた。→強い理解2、弱い理解1 藤村2、友人1
私の教えている生徒は小諸町の青年ばかりでは無い。平原、小原、山浦、大久保、西原、滋野しげの、その他小諸附近に散在する村落から、一里も二里もあるところを歩いて通って来る。こういう学生は多く農家の青年だ。学校の日課が済むと、彼等は各自の家路を指して、松林の間を通り鉄道の線路に添い、あるいは千曲川の岸に随ついて、蛙の声などを聞きながら帰って行く。→弱い理解1、理解なし0 藤村1、友人0
山浦、大久保は対岸にある村々だ。牛蒡ごぼう、人参などの好い野菜を出す土地だ。滋野は北佐久の領分でなく、小県の傾斜にある農村で、その附近の村々から通って来る学生も多い。ここでは男女が烈しく労働する。君のように都会で学んでいる人は、養蚕休みなどということを知るまい。→弱い理解1、理解なし0 藤村1、友人0
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える3
2.2 実験計画
【研究テーマ】
質問 藤村と都会にいる友人で理解度に違いがある。
帰無仮説 藤村と都会にいる友人で理解度に差がない。
対立仮説 藤村と都会にいる友人で理解度に差がある。
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
【研究テーマ】
質問 藤村と都会にいる友人で理解度に違いがある。
帰無仮説 藤村と都会にいる友人で理解度に差がない。
対立仮説 藤村と都会にいる友人で理解度に差がある。
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える2
2 心理学統計
心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。
2.1 有意性検定
科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女の性差で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。
【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する
ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。
2.1 有意性検定
科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女の性差で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。
【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する
ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える1
1 先行研究との関係
データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、島崎藤村の「千曲川のスケッチ」を題材にして藤村と都会にいる友人で理解度の違いについて考えていく。
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、島崎藤村の「千曲川のスケッチ」を題材にして藤村と都会にいる友人で理解度の違いについて考えていく。
花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を考える」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から15
6 まとめ
受容の読みによる「写生と研究」という出力は、すぐに共生の読みの入力となる。続けて、データベースから信州の山に住む人々の人柄を写生した場面を考察すると、「共感と批判」という人間の脳の活動と結びつき、その後、信号のフォーカスは、購読脳の出力のポジションに戻る。この分析を繰り返すことにより、「島崎藤村と観察に基づく思考」というシナジーのメタファーが作られる。
この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。
参考文献
大山正・中島義明共編 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
島崎藤村 千曲川のスケッチ(解説 平野謙) 新潮文庫 2004
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 心の健康管理 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
花村嘉英 日语教育计划书(上海分会)−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 東南大学出版社2017
花村嘉英 「シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖」『中国日語教学研究会上海分会論文集』 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁/戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学 出版社 2018
花村嘉英 「川端康成の『雪国』に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ」『中国日語教学研究会上海分会論文集』華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
山室静・関良一・剣持武彦 藤村詩集 日本近代文学大系 角川書店 1983
受容の読みによる「写生と研究」という出力は、すぐに共生の読みの入力となる。続けて、データベースから信州の山に住む人々の人柄を写生した場面を考察すると、「共感と批判」という人間の脳の活動と結びつき、その後、信号のフォーカスは、購読脳の出力のポジションに戻る。この分析を繰り返すことにより、「島崎藤村と観察に基づく思考」というシナジーのメタファーが作られる。
この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。
参考文献
大山正・中島義明共編 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
島崎藤村 千曲川のスケッチ(解説 平野謙) 新潮文庫 2004
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 心の健康管理 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
花村嘉英 日语教育计划书(上海分会)−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 東南大学出版社2017
花村嘉英 「シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖」『中国日語教学研究会上海分会論文集』 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁/戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学 出版社 2018
花村嘉英 「川端康成の『雪国』に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ」『中国日語教学研究会上海分会論文集』華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
山室静・関良一・剣持武彦 藤村詩集 日本近代文学大系 角川書店 1983
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から14
【連想分析2】
表3 情報の認知
表2 Aと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
表2 Bと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 1
表2 Cと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 1
表2 Dと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2 Eと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
A 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
B 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
C 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
D 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
E 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
結果
島崎藤村は、この場面で、山に住む人々から情報を取り込み、長野の土地柄を写生している。様々な人がいる中で理屈っぽいという直感がこの場面の分析を面白くしてくれる。そのため、問題解決と未解決が交錯する場面となっている。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
表3 情報の認知
表2 Aと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
表2 Bと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 1
表2 Cと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 1
表2 Dと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2 Eと同文: 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
A 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
B 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
C 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
D 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
E 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
結果
島崎藤村は、この場面で、山に住む人々から情報を取り込み、長野の土地柄を写生している。様々な人がいる中で理屈っぽいという直感がこの場面の分析を面白くしてくれる。そのため、問題解決と未解決が交錯する場面となっている。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から13
情報の認知1(感覚情報)
感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、B条件反射である。
情報の認知2(記憶と学習)
外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、経験を通した学習となり、カテゴリー化される。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
情報の認知3(計画、問題解決、推論)
受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画→問題解決、A問題未解決→推論である。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、B条件反射である。
情報の認知2(記憶と学習)
外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、経験を通した学習となり、カテゴリー化される。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
情報の認知3(計画、問題解決、推論)
受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画→問題解決、A問題未解決→推論である。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から12
分析例
1 山に住む人々について記述している場面。
2 この論文では、「千曲川のスケッチ」の執筆脳を「共感と批判」と考えているため、購読脳でも意味3の思考の流れ、研究のありなしに注目する。
3 長野の土地柄が学問好きな人々の集まりとなっている。
3 意味1 1喜2怒3哀4楽、意味2 1視覚2聴覚3味覚4嗅覚5触覚、意味3研究1あり2なし、意味4振舞い 1直示2隠喩
4 人工知脳1 共感1ある2なし、人工知能2 批判1ある2なし
テキスト共生の公式
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「写生と研究」を作る。
ステップ2 学習や観察から「共感と批判」という組を作り、解析の組と合わせる。
A 4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
B 4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
C 4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
D 3哀+2聴覚+1研究あり+2隠喩という解析の組を、学習や観察からなる共感2なし+批判1ありという組と合わせる。
E 4楽+1視覚+1研究あり+2隠喩という解析の組を、学習や観察からなる共感2なし+批判1ありという組と合わせる。
結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
1 山に住む人々について記述している場面。
2 この論文では、「千曲川のスケッチ」の執筆脳を「共感と批判」と考えているため、購読脳でも意味3の思考の流れ、研究のありなしに注目する。
3 長野の土地柄が学問好きな人々の集まりとなっている。
3 意味1 1喜2怒3哀4楽、意味2 1視覚2聴覚3味覚4嗅覚5触覚、意味3研究1あり2なし、意味4振舞い 1直示2隠喩
4 人工知脳1 共感1ある2なし、人工知能2 批判1ある2なし
テキスト共生の公式
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「写生と研究」を作る。
ステップ2 学習や観察から「共感と批判」という組を作り、解析の組と合わせる。
A 4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
B 4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
C 4楽+2聴覚+1研究あり+1直示という解析の組を、学習や観察からなる共感1あり+批判2なしという組と合わせる。
D 3哀+2聴覚+1研究あり+2隠喩という解析の組を、学習や観察からなる共感2なし+批判1ありという組と合わせる。
E 4楽+1視覚+1研究あり+2隠喩という解析の組を、学習や観察からなる共感2なし+批判1ありという組と合わせる。
結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から11
【連想分析1】
表2 言語の認知(文法と意味)山に住む人々
A 一体にこの山国では学者を尊重する気風がある。小学校の教師でも、他の地方に比べると、比較的好い報酬を受けている。又、社会上の位置から言っても割合に尊敬を払われている。その点は都会の教育家などの比でない。新聞記者までも「先生」として立てられる。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
B 長野あたりから新聞記者を聘へいして講演を聴くなぞはここらでは珍しくない。何か一芸に長じたものと見れば、そういう人から新智識を吸集しようとする。小諸辺のことで言ってみても、名士先生を歓迎する会は実に多い。あだかも昔の御関所のように、そういう人達の素通りを許さないという形だ。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
C 御蔭で私もここへ来てから種々いろいろな先生方の話を拝聴することが出来た。故福沢諭吉氏も一度ここを通られて、何か土産話を置いて行かれたとか。その事は私は後で学校の校長から聞いた。朝鮮亡命の客でよく足を留めた人もある。旅の書家なぞが困って来れば、相応に旅費を持たせて立たせるという風だ。概して、軍人も、新聞記者も、教育家も、美術家も、皆な同じように迎えらるる傾きがある。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
D こうした熱心な何もかも同じように受入れようとする傾きは、一方に於いて一種重苦しい空気を形造っている。強しいて言えば、地方的単調……その為には全く気質を異にする人でも、同じような話しか出来ないようなところがある。
意味1 3、意味2 2、意味3 1、意味4 2、AI共感批判 2+1
E それから佐久あたりには殊に消極的な勇気に富んでいる人を見かける。ここには極くノンキな人もいるが又非常に理窟ッぽい人もいる。
意味1 4、意味2 1、意味3 1、意味4 2、AI共感批判 2+1
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
表2 言語の認知(文法と意味)山に住む人々
A 一体にこの山国では学者を尊重する気風がある。小学校の教師でも、他の地方に比べると、比較的好い報酬を受けている。又、社会上の位置から言っても割合に尊敬を払われている。その点は都会の教育家などの比でない。新聞記者までも「先生」として立てられる。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
B 長野あたりから新聞記者を聘へいして講演を聴くなぞはここらでは珍しくない。何か一芸に長じたものと見れば、そういう人から新智識を吸集しようとする。小諸辺のことで言ってみても、名士先生を歓迎する会は実に多い。あだかも昔の御関所のように、そういう人達の素通りを許さないという形だ。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
C 御蔭で私もここへ来てから種々いろいろな先生方の話を拝聴することが出来た。故福沢諭吉氏も一度ここを通られて、何か土産話を置いて行かれたとか。その事は私は後で学校の校長から聞いた。朝鮮亡命の客でよく足を留めた人もある。旅の書家なぞが困って来れば、相応に旅費を持たせて立たせるという風だ。概して、軍人も、新聞記者も、教育家も、美術家も、皆な同じように迎えらるる傾きがある。
意味1 4、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI共感批判 1+2
D こうした熱心な何もかも同じように受入れようとする傾きは、一方に於いて一種重苦しい空気を形造っている。強しいて言えば、地方的単調……その為には全く気質を異にする人でも、同じような話しか出来ないようなところがある。
意味1 3、意味2 2、意味3 1、意味4 2、AI共感批判 2+1
E それから佐久あたりには殊に消極的な勇気に富んでいる人を見かける。ここには極くノンキな人もいるが又非常に理窟ッぽい人もいる。
意味1 4、意味2 1、意味3 1、意味4 2、AI共感批判 2+1
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から10
5 データベースの作成・分析
データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータは、列の前半(文法1から意味4)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。
【データベースの作成】
表1 「千曲川のスケッチ」のデータベースのカラム
文法1 態: 能動、受動、使役。
文法2 時制、相: 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 : 可能、推量、義務、必然。
意味1 喜怒哀楽: 喜怒哀楽、記事なし。
意味2 五感: 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味3 思考の流れ: 研究あり、なし。
意味4 振舞い: 身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「写生と研究」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の
認知1 感覚情報の捉え方: 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の
認知2 記憶と学習: 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。未知の情報は、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
情報の
認知3 計画、問題解決、推論: 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 共感・批判 エキスパートシステム: 人の考えや主張を自分も同様に感じたり理解したり、人物、行為、判断、学説、作品などの価値、能力、正当性などを評価検討する。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータは、列の前半(文法1から意味4)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。
【データベースの作成】
表1 「千曲川のスケッチ」のデータベースのカラム
文法1 態: 能動、受動、使役。
文法2 時制、相: 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 : 可能、推量、義務、必然。
意味1 喜怒哀楽: 喜怒哀楽、記事なし。
意味2 五感: 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味3 思考の流れ: 研究あり、なし。
意味4 振舞い: 身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「写生と研究」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の
認知1 感覚情報の捉え方: 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の
認知2 記憶と学習: 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。未知の情報は、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
情報の
認知3 計画、問題解決、推論: 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 共感・批判 エキスパートシステム: 人の考えや主張を自分も同様に感じたり理解したり、人物、行為、判断、学説、作品などの価値、能力、正当性などを評価検討する。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から9
批判的思考の適用は、自分の持つ批判的な思考のスキルから最適なものを選択し遂行するというプロセスにより成立する。使用判断は、批判的思考をその状況で行うか否か判断し、表出判断は、行った批判的思考をその場面で表出するか否かを考える。
一方に熱心な歓迎から同じような受入をする傾向は、ある時、地方的な単調という一種の重苦しさになってしまう。藤村の直観である。気質を異にする人でも同じような話をするし、また、理屈っぽい人もいる。人の心が激しいからであり、青年会の準備をするために激しい議論もあった。
「山に住む人々」の場面で、(2)のモデルを考える。使用判断を実行し、批判的思考の適用では、都会を経験した藤村が第三者的に信州人の気質を写生し、人物の価値や能力を評価、検討しているため、表出判断では、この場面で表出するとなる。
信号の流れは、購読と同様に、共生の読みでも何かの分析→直感→専門家である。藤村に関し、五感分析→思弁→エキスパートという流れで「共感と批判」という共生の読みを考える。「千曲川のスケッチ」では自然や文化の認識が重要な情報となるため、シナジーのメタファーは、「島崎藤村と観察に基づく思考」にする。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
一方に熱心な歓迎から同じような受入をする傾向は、ある時、地方的な単調という一種の重苦しさになってしまう。藤村の直観である。気質を異にする人でも同じような話をするし、また、理屈っぽい人もいる。人の心が激しいからであり、青年会の準備をするために激しい議論もあった。
「山に住む人々」の場面で、(2)のモデルを考える。使用判断を実行し、批判的思考の適用では、都会を経験した藤村が第三者的に信州人の気質を写生し、人物の価値や能力を評価、検討しているため、表出判断では、この場面で表出するとなる。
信号の流れは、購読と同様に、共生の読みでも何かの分析→直感→専門家である。藤村に関し、五感分析→思弁→エキスパートという流れで「共感と批判」という共生の読みを考える。「千曲川のスケッチ」では自然や文化の認識が重要な情報となるため、シナジーのメタファーは、「島崎藤村と観察に基づく思考」にする。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から8
大山・中島(2012)によると、日本文化は全般的に人間関係の中での感情的なつながりを重視する。世の中には様々な情報が氾濫しており、目標を定めて情報を取り扱い合理的に判断できれば効果は上がる。こうした判断の土台となる思考が批判的思考である。批判的思考の認知プロセスは、使用判断→批判的思考の適用→表出判断の3項目からなる。
(2)批判的思考の認知プロセス
状況変数(目標、文脈)→1状況解釈→2使用判断(1と2使用判断プロセス)→3批判的思考スキルの探索・選択→4批判的思考スキルと適用(問題の明確化)→5表出判断→6批判的思考行動の構成(5と6表出判断プロセス)→7批判的思考のパフォーマンス(大山・中島2012)
「千曲川のスケッチ」によると、長野は、学問を尊重する土地柄である。師範学校の応募者数が多く、小学校の教師も報酬が良く、新聞記者による講演会もある。無論、学者も尊重の対象であるため、長野を訪れた名士たちを歓迎する勉強会は多い。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
(2)批判的思考の認知プロセス
状況変数(目標、文脈)→1状況解釈→2使用判断(1と2使用判断プロセス)→3批判的思考スキルの探索・選択→4批判的思考スキルと適用(問題の明確化)→5表出判断→6批判的思考行動の構成(5と6表出判断プロセス)→7批判的思考のパフォーマンス(大山・中島2012)
「千曲川のスケッチ」によると、長野は、学問を尊重する土地柄である。師範学校の応募者数が多く、小学校の教師も報酬が良く、新聞記者による講演会もある。無論、学者も尊重の対象であるため、長野を訪れた名士たちを歓迎する勉強会は多い。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から7
そして、その事象が自発行動の反応の頻度を高めるときは、強化刺激または強化子となる。例えば、お腹がすけば食事が強化刺激であり、「千曲川のスケッチ」で見ると、旅を重ねる毎に発見があるため、発見が強化子となる。
実際に自分で行動せずに、外的刺激や他者の行動を追うときは、観察になる。観察の場面で他者が強化される(代理強化)、または、他者の行動のみを観察(モデリング)する場合は、観察者の行動が変化する。広義に捉えた場合、これらは共にモデリングになる。「千曲川のスケッチ」についてまとめると、詩から散文へのコース変更を完成させるための研究が学習と観察に二分され、別れた学習が古典的と条件付きに分かれ、一方、観察が代理強化とモデリングに二分される。
(1)藤村の研究の樹形図
1研究→自発行動による学習と外的刺激や他者の行動を追う観察、
2学習→古典的と条件付き、
3観察→代理強化とモデリング
学習、観察を経て問題解決に進む場合、思考が考察の対象になる。思考には、共感と批判があり、共感は、難易度を問わず自身の理解に近い場合、一方批判的で効果的な文脈は、専門書を読むような難易度の高いケースである。非効果的な文脈は、その逆で、お決まりの入出力とか嘘など難易度の低いケースである。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
実際に自分で行動せずに、外的刺激や他者の行動を追うときは、観察になる。観察の場面で他者が強化される(代理強化)、または、他者の行動のみを観察(モデリング)する場合は、観察者の行動が変化する。広義に捉えた場合、これらは共にモデリングになる。「千曲川のスケッチ」についてまとめると、詩から散文へのコース変更を完成させるための研究が学習と観察に二分され、別れた学習が古典的と条件付きに分かれ、一方、観察が代理強化とモデリングに二分される。
(1)藤村の研究の樹形図
1研究→自発行動による学習と外的刺激や他者の行動を追う観察、
2学習→古典的と条件付き、
3観察→代理強化とモデリング
学習、観察を経て問題解決に進む場合、思考が考察の対象になる。思考には、共感と批判があり、共感は、難易度を問わず自身の理解に近い場合、一方批判的で効果的な文脈は、専門書を読むような難易度の高いケースである。非効果的な文脈は、その逆で、お決まりの入出力とか嘘など難易度の低いケースである。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から6
4 作者の学習や観察そして思考から考える
「千曲川のスケッチ」の購読脳を「写生と研究」にする。島崎藤村は、写生という学習により物を観察し記憶することで自然に近づいていった。稽古としての写生は、研究であり、小諸で観察した事柄を素直にスケッチしている。
小諸に赴任して暫くは、自分が行動し写生した内容をまとめていく。しかし、1911年(M44)に中学世界に連載されるまで、この写生の内容が人の目に触れることはなかった。「千曲川のスケッチ」に描かれているのは、1900年(M33)頃から信州滞在中に見た光景であり、視覚情報もさること、叫びや臭い、味、接触といったその他の感覚情報も考察の対象になっている。こうした感覚情報から藤村の執筆時の脳の活動を探るために、まず学習や観察の様子についてまとめてみよう。ここでは、心理統計を意識して実験心理による分析を試みる。
人間の行動は、後天的に経験を通して変化し、この変化する過程が学習と呼ばれる。都会から小諸に赴任した藤村には、行動に変化が見られた。大山・中島(2012)によると、古典的な学習は、外的刺激によりトリガーされるのに対し、条件付き学習は、自発行動とそこから生じる関系に依存する。千曲川周辺の自然が外的刺激となり、また、自然に誘われて自発行動による旅をし、発見がある度に行動が濃くなった。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
「千曲川のスケッチ」の購読脳を「写生と研究」にする。島崎藤村は、写生という学習により物を観察し記憶することで自然に近づいていった。稽古としての写生は、研究であり、小諸で観察した事柄を素直にスケッチしている。
小諸に赴任して暫くは、自分が行動し写生した内容をまとめていく。しかし、1911年(M44)に中学世界に連載されるまで、この写生の内容が人の目に触れることはなかった。「千曲川のスケッチ」に描かれているのは、1900年(M33)頃から信州滞在中に見た光景であり、視覚情報もさること、叫びや臭い、味、接触といったその他の感覚情報も考察の対象になっている。こうした感覚情報から藤村の執筆時の脳の活動を探るために、まず学習や観察の様子についてまとめてみよう。ここでは、心理統計を意識して実験心理による分析を試みる。
人間の行動は、後天的に経験を通して変化し、この変化する過程が学習と呼ばれる。都会から小諸に赴任した藤村には、行動に変化が見られた。大山・中島(2012)によると、古典的な学習は、外的刺激によりトリガーされるのに対し、条件付き学習は、自発行動とそこから生じる関系に依存する。千曲川周辺の自然が外的刺激となり、また、自然に誘われて自発行動による旅をし、発見がある度に行動が濃くなった。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から5
「千曲川のスケッチ」の原案を作成しながら、文章や散文の中で、例えば、雲について画家の写生と同じようなスタディに取り組んだ。そのため、全体的に当時の現実をリアルに伝える文体になっており、読者に信頼される友人となるような本である。そのため、自然主義のメンバーであり、想像力を重視した国木田独歩の「武蔵野」(1898)に比べて、「千曲川のスケッチ」は、より近代的といわれている。
「千曲川のスケッチ」の奥書に説明がある言文一致について一言述べる。明治の新しい文学と言文一致の試みは、流れを見ると強いつながりがある。当時の文学関係者の多くがイギリス文学を目指していたころ、森鴎外は、留学先のドイツから19世紀なるものを感じ取り帰国したため、言文一致で見ると、採用するのに躊躇いがあり、歴史小説に見る転換期を待って口語体を採用した。一方、イギリス留学を経験している夏目漱石は、言文一致にあまり抵抗を感じなかった。
文学の根底に横たわる基礎工事は、島崎藤村に言わせると、徳川時代の徘徊や浄瑠璃の作者が平談俗語を駆使し、言葉の世界に新しい光を放ったこと、国語学者が万葉集や古事記などから古い言葉の世界を今一度明るくしたことが挙げられる。そのため、藤村がスケッチを作る傍ら、口語体による言文一致の研究に向かった理由は、長い年月を経て熟慮した結果といえる。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
「千曲川のスケッチ」の奥書に説明がある言文一致について一言述べる。明治の新しい文学と言文一致の試みは、流れを見ると強いつながりがある。当時の文学関係者の多くがイギリス文学を目指していたころ、森鴎外は、留学先のドイツから19世紀なるものを感じ取り帰国したため、言文一致で見ると、採用するのに躊躇いがあり、歴史小説に見る転換期を待って口語体を採用した。一方、イギリス留学を経験している夏目漱石は、言文一致にあまり抵抗を感じなかった。
文学の根底に横たわる基礎工事は、島崎藤村に言わせると、徳川時代の徘徊や浄瑠璃の作者が平談俗語を駆使し、言葉の世界に新しい光を放ったこと、国語学者が万葉集や古事記などから古い言葉の世界を今一度明るくしたことが挙げられる。そのため、藤村がスケッチを作る傍ら、口語体による言文一致の研究に向かった理由は、長い年月を経て熟慮した結果といえる。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から4
3 言文一致の研究−文体の確立を目指して
島崎藤村は、長野県木曽郡山口に生まれ、学問を東京の明治学院で修めた後、詩人、小説家として活躍した自然主義を代表する作家である。小説に先んじて詩集「若菜集」(1897)などを発表し、1899年(M32)4月に赴任した信州・小諸での研究成果として写生文「千曲川のスケッチ」を書いた。因みに藤村は、木曽川の畔で生まれたため、川に寄せる詩も多い。
平野(2004)によると、「千曲川のスケッチ」は、吉村樹に語りかける形式で書かれ、赴任してからの一年で小諸の自然を季節と共に観察し写生した。その間に詩から散文へ創作の対象を動かして自身の文体を確立する。無論、藤村の文体は、何度も修正を繰り返し整理されたものであり、一枚の絵を説明するように口語文で読者の五感に語りかける。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村は、長野県木曽郡山口に生まれ、学問を東京の明治学院で修めた後、詩人、小説家として活躍した自然主義を代表する作家である。小説に先んじて詩集「若菜集」(1897)などを発表し、1899年(M32)4月に赴任した信州・小諸での研究成果として写生文「千曲川のスケッチ」を書いた。因みに藤村は、木曽川の畔で生まれたため、川に寄せる詩も多い。
平野(2004)によると、「千曲川のスケッチ」は、吉村樹に語りかける形式で書かれ、赴任してからの一年で小諸の自然を季節と共に観察し写生した。その間に詩から散文へ創作の対象を動かして自身の文体を確立する。無論、藤村の文体は、何度も修正を繰り返し整理されたものであり、一枚の絵を説明するように口語文で読者の五感に語りかける。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から3
例えば、「おくめ」という架空の女が河を泳いで恋人のもとに通う心情を詠い、積極的で能動的に男を愛し、心身ともに恋の炎に焦がされる激しい女の情熱が形象化されている。こうした境遇が藤村の同情をかい、苦渋の時代を経験した作者が他人事ならぬと共感した理由である。男性の立場では雑念が入り混じり解決が難しかった。
流離漂白は、現実から一歩引いて静かにものを眺めることで八方塞がりの境遇からの救済を目指している。現実を棄てて風雅の道を極めた先駆者らに追従する決意が窺える。芸術家島崎藤村の誕生であり、確立であった。そして苦渋の冬を越え、春の訪れ、生の曙が熱い思いを持って待たれた。
「若菜集」の後も詩を書き続ける。叙情を好む藤村は、生の戦いや労働の讃歌を詩作する。しかし、厳格な規則がある雅語や単調な韻律で長編を歌うことに無理があるときには、緊張したアイディアの対立を描くのが難しいと感じるようになる。
しかし、叙情詩では扱いきれない広くて大きな人生のテーマを処理するために、藤村は、写生によるスタディを通して小説を書いていく。1899年(M32)、信州の私塾小諸義塾に教師として赴任する。山室(1983)によれば、生活や思想に行き詰まると旅に出て転機をはかり、都会の煩わしさを避けて生活を新鮮にし、生命を新たにしようと考えた。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
流離漂白は、現実から一歩引いて静かにものを眺めることで八方塞がりの境遇からの救済を目指している。現実を棄てて風雅の道を極めた先駆者らに追従する決意が窺える。芸術家島崎藤村の誕生であり、確立であった。そして苦渋の冬を越え、春の訪れ、生の曙が熱い思いを持って待たれた。
「若菜集」の後も詩を書き続ける。叙情を好む藤村は、生の戦いや労働の讃歌を詩作する。しかし、厳格な規則がある雅語や単調な韻律で長編を歌うことに無理があるときには、緊張したアイディアの対立を描くのが難しいと感じるようになる。
しかし、叙情詩では扱いきれない広くて大きな人生のテーマを処理するために、藤村は、写生によるスタディを通して小説を書いていく。1899年(M32)、信州の私塾小諸義塾に教師として赴任する。山室(1983)によれば、生活や思想に行き詰まると旅に出て転機をはかり、都会の煩わしさを避けて生活を新鮮にし、生命を新たにしようと考えた。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から2
2 詩から散文へ
先行詩集「若菜集」が1887年(M30)8月に出版された。仙台に移った前年9月から半年ほどの間に作られている。「若菜集」を貫く島崎藤村(1874−1943)の思いを、「藤村詩集」の中では、恋愛賛美による生の曙を待つ思いと満たされぬゆえの歎きと流離漂白としている。こうした思いをバランスよく両立させながら、熱い情熱を苦い経験とともに誇りを持って守り続けた。
七五の韻律を踏み、流麗典雅な詩にまとめ、女性に身を変えて歌ってもいる。山室(1983)は、その理由を次のように解説している。異性への関心は勿論であり、当時の女性が厳しい家長制度で管理され、自由はなく受身の生涯を送っていたため、心の扉を僅かに開くのは、恋愛の喜びのときとした。藤村文学の重要な主題として、「こひには親も捨てはてて、親にも背く」ことが挙げられる。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
先行詩集「若菜集」が1887年(M30)8月に出版された。仙台に移った前年9月から半年ほどの間に作られている。「若菜集」を貫く島崎藤村(1874−1943)の思いを、「藤村詩集」の中では、恋愛賛美による生の曙を待つ思いと満たされぬゆえの歎きと流離漂白としている。こうした思いをバランスよく両立させながら、熱い情熱を苦い経験とともに誇りを持って守り続けた。
七五の韻律を踏み、流麗典雅な詩にまとめ、女性に身を変えて歌ってもいる。山室(1983)は、その理由を次のように解説している。異性への関心は勿論であり、当時の女性が厳しい家長制度で管理され、自由はなく受身の生涯を送っていたため、心の扉を僅かに開くのは、恋愛の喜びのときとした。藤村文学の重要な主題として、「こひには親も捨てはてて、親にも背く」ことが挙げられる。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から1
1 先行研究
文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。
執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この論文では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
メゾのデータを束ねて何やらリスクの予測が立てば、言語分析や翻訳そして検定に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。
執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この論文では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
メゾのデータを束ねて何やらリスクの予測が立てば、言語分析や翻訳そして検定に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。
花村嘉英(2020)「島崎藤村の『千曲川のスケッチ』の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から」より
これまでに使用した教材
【武汉科技大学外语外事职业学院】
みんなの日本語1、2(大家的日语1、2学习辅导用书) 外語教学与研究出版社 2002
日本社团法人国际日本语普及协会 商务实战日语会话 大連理工大学出版部 2003
编写委员会编 日语会话技巧篇 外語教学与研究出版社 2003
刁鹂鹏編著 新商務日語基础教程 外语教学与研究出版社 2007
【集美大学】
山本哲也、陈岩、于敬河 汉译日精编教程 大连理工大学出版社 2002
王秀文/山鹿睛美編 实用日语写作教程 外语教学与研究出版社 2004
日语新闻视听教程 外语教学与研究出版社 2009
初级日语会话教程 北京理工大学出版社 2009
日语听力初级教程 南开大学出版社 2009
冯富荣, 杜英起编著 汉译日 多媒体教程 外语教学与研究出版社 2007
【天津外国语大学】
内田安伊子/紀子 構成・特徴・分野から学ぶ新聞の読解 スリーエーネットワーク2008
王秀文/山鹿睛美編 实用日语写作教程 外语教学与研究出版社 2004
【湖南科技学院】
日语综合教程第五册 上海外语教育出版社 2006
朱京伟 日语词汇学教程 外语教学与研究出版社 2005
【宁波大红鹰学院】
新编汉日日汉同声传译教程 外语教学与研究出版社出版 2011
大学日语写作教程 外语教学与研究出版社 2006
新编日语 上海外语教育出版社2009
编写委员会编 日语会话商务篇 2004
楊立国編 日本経済入門 大連理工大学出版社 2011
【盐城工学院】
日语视听说 上海外语教育出版社 2012
日本文学史(高等学校日语教材) 大连理工大学出版社 2012
大学日语写作教程 外语教学与研究出版社 2006
朱京伟 日语词汇学教程 外语教学与研究出版社 2005
新编日文报刊文章选读 南开大学出版社 2010
初级日语听力教程 大连理工大学出版社 2014
【大连交通大学】
奥村真希/釜淵優子著 职场日本语-邮件写作篇(しごとの日本語)上海译文出版社 2015
胡传乃编著 日语写作 北京大学出版社 2016
王霞总主编 初級日語会話教程 大連理工大学出版社 2016
王霞总主编 中級日語会話教程 大連理工大学出版社 2017
みんなの日本語1、2(大家的日语1、2学习辅导用书) 外語教学与研究出版社 2002
日本社团法人国际日本语普及协会 商务实战日语会话 大連理工大学出版部 2003
编写委员会编 日语会话技巧篇 外語教学与研究出版社 2003
刁鹂鹏編著 新商務日語基础教程 外语教学与研究出版社 2007
【集美大学】
山本哲也、陈岩、于敬河 汉译日精编教程 大连理工大学出版社 2002
王秀文/山鹿睛美編 实用日语写作教程 外语教学与研究出版社 2004
日语新闻视听教程 外语教学与研究出版社 2009
初级日语会话教程 北京理工大学出版社 2009
日语听力初级教程 南开大学出版社 2009
冯富荣, 杜英起编著 汉译日 多媒体教程 外语教学与研究出版社 2007
【天津外国语大学】
内田安伊子/紀子 構成・特徴・分野から学ぶ新聞の読解 スリーエーネットワーク2008
王秀文/山鹿睛美編 实用日语写作教程 外语教学与研究出版社 2004
【湖南科技学院】
日语综合教程第五册 上海外语教育出版社 2006
朱京伟 日语词汇学教程 外语教学与研究出版社 2005
【宁波大红鹰学院】
新编汉日日汉同声传译教程 外语教学与研究出版社出版 2011
大学日语写作教程 外语教学与研究出版社 2006
新编日语 上海外语教育出版社2009
编写委员会编 日语会话商务篇 2004
楊立国編 日本経済入門 大連理工大学出版社 2011
【盐城工学院】
日语视听说 上海外语教育出版社 2012
日本文学史(高等学校日语教材) 大连理工大学出版社 2012
大学日语写作教程 外语教学与研究出版社 2006
朱京伟 日语词汇学教程 外语教学与研究出版社 2005
新编日文报刊文章选读 南开大学出版社 2010
初级日语听力教程 大连理工大学出版社 2014
【大连交通大学】
奥村真希/釜淵優子著 职场日本语-邮件写作篇(しごとの日本語)上海译文出版社 2015
胡传乃编著 日语写作 北京大学出版社 2016
王霞总主编 初級日語会話教程 大連理工大学出版社 2016
王霞总主编 中級日語会話教程 大連理工大学出版社 2017
日本経済入門の講義13
D 内外から見た日本円の弱さ
国際的に比較しながら、日本の内外価格差と円の購買力の問題を見てみよう。内外価格差とは、国内と海外の価格の格差を表す指標で、実際には購買力平価を為替レートで÷ことにより求められる。購買力平価とは、日米間で考える、米国において1ドルで買えるものを日本で買うといくらになるかを表すものである。
例えば、為替レートが1ドル=110円であれば、新聞が日本では120円するのに、米国では80円だとすると、購買力平価より円高である。米国に比べて日本では新聞の値段が高く、日米間に内外価格差が存在している。国民生活に直接関連している消費財、サービスの内外価格差の存在は、国内における日本円の弱さを示している。
次に、中心的な債権国としての役割がある。豊富な工業化による経常収支の黒字を対外投資に振り分け、1980年代に入ると日本は米国に代わって世界最大の債権国になった。しかし、資本輸出は自国通貨円建てではなく、依然としてドル建てで行われた。そのため、資本循環の中心位置にあるのではなく、ある意味で、ただの資本供給国にすぎず、米国が中心的資本輸出国の役割を担っていた。
こうした構造は、日本円が国際通貨として使われる比率を下げた。世界貿易における円建て比率は、5%にすぎず、米国ドル、ユーロ、英国ポンドよりも低いと推定される。経済が持続的に低迷する中で、日本円は国際化の道は、さらに難しくなるようである。
7.2 国際貿易と中国人民元
これまで、ドル・円・ユーロなどの主要通貨で構成されていたIMF(国際通貨基金)が扱う仮想の通貨に、2016年10月1日から中国の人民元が正式に組み込まれた。通貨としての国際的な位置づけの高まりの象徴である。人民元の採用でIMFの仮想通貨にはさらなる多様性がもたらされ、グローバルな通貨や経済を一層反映することになるとIMF理事も述べている。
IMFの加盟国が資金を融通する際に通貨のような役割を果たすSDR(特別引き出し権)は、為替変動の影響を抑えるため、アメリカドル・日本円・イギリスのポンドとユーロの4つの通貨を混ぜるかたちで構成されていた。しかし、中国の主張に応じて、IMFは去年、中国の人民元が国際的な決済が可能な通貨としての条件をクリアすると判断し、5つ目の構成通貨への採用を決めていた。
人民元の構成比率は10.92%と、円を超えて、アメリカドル、ユーロに続く3番目の大きさで、国際的に使用でき、信用できる通貨としてのいわばお墨付きが与えられたかたちとなった。
【参考文献】
楊立国編 日本経済入門 大連理工大学出版社 2011
花村嘉英 日本経済入門の講義(宁波大红鹰学院)2015
国際的に比較しながら、日本の内外価格差と円の購買力の問題を見てみよう。内外価格差とは、国内と海外の価格の格差を表す指標で、実際には購買力平価を為替レートで÷ことにより求められる。購買力平価とは、日米間で考える、米国において1ドルで買えるものを日本で買うといくらになるかを表すものである。
例えば、為替レートが1ドル=110円であれば、新聞が日本では120円するのに、米国では80円だとすると、購買力平価より円高である。米国に比べて日本では新聞の値段が高く、日米間に内外価格差が存在している。国民生活に直接関連している消費財、サービスの内外価格差の存在は、国内における日本円の弱さを示している。
次に、中心的な債権国としての役割がある。豊富な工業化による経常収支の黒字を対外投資に振り分け、1980年代に入ると日本は米国に代わって世界最大の債権国になった。しかし、資本輸出は自国通貨円建てではなく、依然としてドル建てで行われた。そのため、資本循環の中心位置にあるのではなく、ある意味で、ただの資本供給国にすぎず、米国が中心的資本輸出国の役割を担っていた。
こうした構造は、日本円が国際通貨として使われる比率を下げた。世界貿易における円建て比率は、5%にすぎず、米国ドル、ユーロ、英国ポンドよりも低いと推定される。経済が持続的に低迷する中で、日本円は国際化の道は、さらに難しくなるようである。
7.2 国際貿易と中国人民元
これまで、ドル・円・ユーロなどの主要通貨で構成されていたIMF(国際通貨基金)が扱う仮想の通貨に、2016年10月1日から中国の人民元が正式に組み込まれた。通貨としての国際的な位置づけの高まりの象徴である。人民元の採用でIMFの仮想通貨にはさらなる多様性がもたらされ、グローバルな通貨や経済を一層反映することになるとIMF理事も述べている。
IMFの加盟国が資金を融通する際に通貨のような役割を果たすSDR(特別引き出し権)は、為替変動の影響を抑えるため、アメリカドル・日本円・イギリスのポンドとユーロの4つの通貨を混ぜるかたちで構成されていた。しかし、中国の主張に応じて、IMFは去年、中国の人民元が国際的な決済が可能な通貨としての条件をクリアすると判断し、5つ目の構成通貨への採用を決めていた。
人民元の構成比率は10.92%と、円を超えて、アメリカドル、ユーロに続く3番目の大きさで、国際的に使用でき、信用できる通貨としてのいわばお墨付きが与えられたかたちとなった。
【参考文献】
楊立国編 日本経済入門 大連理工大学出版社 2011
花村嘉英 日本経済入門の講義(宁波大红鹰学院)2015
日本経済入門の講義12
6 国際貿易
6.1 国際貿易と日本円
A 日本の貿易の構造
経済データによると、2006年の日本の輸出商品は、輸送用機器24.2%、電気機器21.4%、一般機器19.7%であり、これらだけで輸出の65.3%ものシェアを占めている。輸送用機器の中で自動車の輸出が16.3%に達している。一方、輸入商品は、機械機器28.5%、鉱物性燃料27.7%、食料品8.5%となっており、これらは輸入全体の64.7%を占めている。
天然資源に乏しい日本が鉱物性燃料を多く輸入するのは従来からよく知られたことであるが、機械機器の輸入はそれを上回っている。これは、原材料を海外から輸入してそれらを加工し、工業製品などの最終財を生産して輸入するという加工貿易中心の貿易構造が大きく変化したことを意味している。
B FTAの増加の理由
自由貿易協定(FTA)は域内での関税などの貿易障壁を軽減することにより、域内での貿易を活性化させる効果、いわゆる貿易創造効果を持っている。また、域内では貿易取引の拡大により企業間の競争を促進し、市場構造をより競わせる効果、いわゆる競争促進効果を持っているためである。
C 国際通貨体制下での日本円の歩み
1872年(M4)、新貨条例を実施し、新しい通貨を円と決めた。1円=1ドルであった。1897年(M30)の貨幣法で正式に金本位制を採用した。1円=2ドルと対ドルで円の価値は半減した。1914年、第一次世界大戦がはじまると、各国は金の輸出を禁止した。日本は、1930年に金輸出解禁を断行したが、1931年に金輸出再禁止を実施した。第二次世界大戦直前、世界情勢が不安定だからである。
第二次世界大戦後、米国は、強力な経済、政治、軍事の下で国際通貨体制、いわゆるブレトンウッズ体制を構築した。これには二つの構成要素がある、第一は、金との交換性を持つ米国ドルを国際通貨にすることであり、第二には、各国通貨を米国ドルと固定することである。日本円に対しては、1円=360ドルの時代が始まった。
しかし、戦後、物不足を背景にして物価が急騰し、円が信用を失った。1946年2月に日本政府は、金融緊急措置を断行し、5円札以上の日銀券を強制的に金融機関に預けさせ、一人100円まで新円と取り換えて、残りは封鎖した。これにより、インフレが鎮静化し、1949年に1円=360ドルという為替レートが設定された。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
6.1 国際貿易と日本円
A 日本の貿易の構造
経済データによると、2006年の日本の輸出商品は、輸送用機器24.2%、電気機器21.4%、一般機器19.7%であり、これらだけで輸出の65.3%ものシェアを占めている。輸送用機器の中で自動車の輸出が16.3%に達している。一方、輸入商品は、機械機器28.5%、鉱物性燃料27.7%、食料品8.5%となっており、これらは輸入全体の64.7%を占めている。
天然資源に乏しい日本が鉱物性燃料を多く輸入するのは従来からよく知られたことであるが、機械機器の輸入はそれを上回っている。これは、原材料を海外から輸入してそれらを加工し、工業製品などの最終財を生産して輸入するという加工貿易中心の貿易構造が大きく変化したことを意味している。
B FTAの増加の理由
自由貿易協定(FTA)は域内での関税などの貿易障壁を軽減することにより、域内での貿易を活性化させる効果、いわゆる貿易創造効果を持っている。また、域内では貿易取引の拡大により企業間の競争を促進し、市場構造をより競わせる効果、いわゆる競争促進効果を持っているためである。
C 国際通貨体制下での日本円の歩み
1872年(M4)、新貨条例を実施し、新しい通貨を円と決めた。1円=1ドルであった。1897年(M30)の貨幣法で正式に金本位制を採用した。1円=2ドルと対ドルで円の価値は半減した。1914年、第一次世界大戦がはじまると、各国は金の輸出を禁止した。日本は、1930年に金輸出解禁を断行したが、1931年に金輸出再禁止を実施した。第二次世界大戦直前、世界情勢が不安定だからである。
第二次世界大戦後、米国は、強力な経済、政治、軍事の下で国際通貨体制、いわゆるブレトンウッズ体制を構築した。これには二つの構成要素がある、第一は、金との交換性を持つ米国ドルを国際通貨にすることであり、第二には、各国通貨を米国ドルと固定することである。日本円に対しては、1円=360ドルの時代が始まった。
しかし、戦後、物不足を背景にして物価が急騰し、円が信用を失った。1946年2月に日本政府は、金融緊急措置を断行し、5円札以上の日銀券を強制的に金融機関に預けさせ、一人100円まで新円と取り換えて、残りは封鎖した。これにより、インフレが鎮静化し、1949年に1円=360ドルという為替レートが設定された。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義11
D 基幹産業の再編成
@ 自動車産業
この数年、世界的な自動車産業の再編成が積極的に展開されてきた。1998年から1999年にかけて、独フォルクスワーゲンの英ロールスロイス買収、独ダイムラーベンツと米クライスラーとの合併、さらに、米フォードの瑞典ボルボの買収などが有名である。
こうした中、日本の自動車メーカーも外資との提携を進める。1993年3月、日産自動車と仏ルノーが資本提携をし、1999年10月三菱自動車が瑞典ボルボとの株式持合に合意した。また、同年12月、富士の提携を結び、が米GMと資本提携や技術協力を結んだ。
この数年の自動車産業の国際的な再編成の動きは、どうして強まったのであろうか。第一は、自動車産業が成熟期を迎えているからである。例えば、日本の場合、自動車の一年間の需要は、約1000万台であるのに対して、最大生産能力が1500万台見込めるため、メーカーの数が多すぎるのである。
第二は、自動車市場のグローバル化への対応である。先進国市場での新規需要増があまり期待できないのに対して、中国やインド、ブラジルなどが経済的発展期を迎え、新しい市場として登場してきた。そこで、欧米のメーカーは日本のメーカーと資本提携をすることが大きな魅力になっている。
第三は、自動車メーカーの環境戦略上に再編する必要がある。地球温暖化の原因になる二酸化炭素の排出量には、日本の場合、自動車部門が2割近くを占めている。生き残り競争に勝つためには、低公害車、無公害車の開発は急務な課題であるが、巨額の研究費や優秀な技術陣が必要であり、合併や買収に踏み切る理由にもなっている。
A 石油産業
19907年代に入ってからの石油産業の国際的な再編成が進んだ背景には、石油産業を巡る構造変化があったからである。二度の石油ショックを経験した産油国により市場支配が終わり、原油価格の低位安定が予測される中で、徹底的な経営の合理化が図られない限り、生き残れないという状況ができた。自動車道用、需要に対する過剰供給の問題が再編成の引き金となった。
特定石油製品輸入暫定法(特石法)が1986年来、ガソリンの輸入を規制してきたが、1996年に廃止になり、割安のガソリンが入り、さらに、1998年から説府式スタンド規制がなくなり、石油元売り各社は、リストラや物流提携強化などの措置をとって対応した。
1994年からは、国内石油大手の統合が進んでいく。日石三菱とコスモ石油、ジャパンエナジーと昭和シェル石油、出光興産、エッソモービルの4大グループによる新たな競争時代を迎えることになった。
B 鉄鋼業
鉄鋼業界の再編成については、世界第一位の新日本製鉄の積極的な動きが目立った。2000年夏に世界第二位の韓国の浦項総合製鉄と技術提携したのに続き、2001年2月に、世界第五位の仏ユジノールと鉄鋼事業での包括提携に踏み切った。
一方、ライバルのNKKと川崎製鉄が、2001年4月、経営統合し、2002年9月に共同持株会社JFEグループを設立して、新日鉄に対抗した。これに対し、新日鉄は、住友金属、神戸製鋼と包括提携を結び、体制を整える動きをとった。
鉄鋼業界の再編成の理由は、大幅な生産過剰にある上、鉄鋼の最大の顧客である自動車業界が生産拠点の国際的展開と国境を超えた再編を加速しているため、自動車大手のグルーバルな調達の技術と、地域双方で対応できるかどうかが各社の生き残りの条件になってきているためである。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
@ 自動車産業
この数年、世界的な自動車産業の再編成が積極的に展開されてきた。1998年から1999年にかけて、独フォルクスワーゲンの英ロールスロイス買収、独ダイムラーベンツと米クライスラーとの合併、さらに、米フォードの瑞典ボルボの買収などが有名である。
こうした中、日本の自動車メーカーも外資との提携を進める。1993年3月、日産自動車と仏ルノーが資本提携をし、1999年10月三菱自動車が瑞典ボルボとの株式持合に合意した。また、同年12月、富士の提携を結び、が米GMと資本提携や技術協力を結んだ。
この数年の自動車産業の国際的な再編成の動きは、どうして強まったのであろうか。第一は、自動車産業が成熟期を迎えているからである。例えば、日本の場合、自動車の一年間の需要は、約1000万台であるのに対して、最大生産能力が1500万台見込めるため、メーカーの数が多すぎるのである。
第二は、自動車市場のグローバル化への対応である。先進国市場での新規需要増があまり期待できないのに対して、中国やインド、ブラジルなどが経済的発展期を迎え、新しい市場として登場してきた。そこで、欧米のメーカーは日本のメーカーと資本提携をすることが大きな魅力になっている。
第三は、自動車メーカーの環境戦略上に再編する必要がある。地球温暖化の原因になる二酸化炭素の排出量には、日本の場合、自動車部門が2割近くを占めている。生き残り競争に勝つためには、低公害車、無公害車の開発は急務な課題であるが、巨額の研究費や優秀な技術陣が必要であり、合併や買収に踏み切る理由にもなっている。
A 石油産業
19907年代に入ってからの石油産業の国際的な再編成が進んだ背景には、石油産業を巡る構造変化があったからである。二度の石油ショックを経験した産油国により市場支配が終わり、原油価格の低位安定が予測される中で、徹底的な経営の合理化が図られない限り、生き残れないという状況ができた。自動車道用、需要に対する過剰供給の問題が再編成の引き金となった。
特定石油製品輸入暫定法(特石法)が1986年来、ガソリンの輸入を規制してきたが、1996年に廃止になり、割安のガソリンが入り、さらに、1998年から説府式スタンド規制がなくなり、石油元売り各社は、リストラや物流提携強化などの措置をとって対応した。
1994年からは、国内石油大手の統合が進んでいく。日石三菱とコスモ石油、ジャパンエナジーと昭和シェル石油、出光興産、エッソモービルの4大グループによる新たな競争時代を迎えることになった。
B 鉄鋼業
鉄鋼業界の再編成については、世界第一位の新日本製鉄の積極的な動きが目立った。2000年夏に世界第二位の韓国の浦項総合製鉄と技術提携したのに続き、2001年2月に、世界第五位の仏ユジノールと鉄鋼事業での包括提携に踏み切った。
一方、ライバルのNKKと川崎製鉄が、2001年4月、経営統合し、2002年9月に共同持株会社JFEグループを設立して、新日鉄に対抗した。これに対し、新日鉄は、住友金属、神戸製鋼と包括提携を結び、体制を整える動きをとった。
鉄鋼業界の再編成の理由は、大幅な生産過剰にある上、鉄鋼の最大の顧客である自動車業界が生産拠点の国際的展開と国境を超えた再編を加速しているため、自動車大手のグルーバルな調達の技術と、地域双方で対応できるかどうかが各社の生き残りの条件になってきているためである。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義10
B 日本の農業の構造上の特徴とその背景
基本的な指標である農業生産指数や耕地面積などの推移を次の表に示す。
2000年を100とすると、1960年が80であったから、40年間で25%の増加、年率だと平均0.56%ずつ増加している。しかし、耕地面積、農業就業人口、農家戸数ともに、1960年以来一貫して減少傾向にある。2003年の善光区平均の農家の所得は、1戸当たり771万円で、勤労世帯の630万円を上回っていたが、農業所得は14%にすぎず、年金や他の仕事による所得で成り立っている。また、農業就業者の高齢化が進み、労働力不足は、農業構造をじゃ期待かさせる恐れがあり、それを回避するためには、新規就農者を増やすための制作が必要である。
1961年に制定された農業基本法は、20世紀後半の日本の農業政策の理念と試作の基本的方向を示すものといってよい。1993年に成立されたWTO農業協定が日本の農業に大きな影響を与えた。
WTO農業協定は、三つの分野から成り立っている。輸入国の市場を開放する市場アクセス、輸出削減の補助金を求める輸入競争、貿易に影響する国際政策の削減を盛り込んだ国内助成である。日本の関心事は、コメの関税化による市場アクセスである。コメについては、関税化猶予となったが、その代償として、ミニマム・アクセス(最低輸入義務)の数量を加重することになった。
C 産業空洞化の原因とその影響
1985年のプラザ合意以降、急激な円高につれ、日本企業は次々と海外(特にアジア地域)に進出し、生産拠点を世界範囲に拡大させた。海外移転の理由としては、第一に人件費の安さ、第二に現地市場の開拓が挙げられる。
特に、製造業で海外移転が進めば、その裏返しの減少として、閉鎖に追い込まれる国内工場が増えるはずである。2001年の一年だけでも69社、124工場が閉鎖に追い込まれ、2002年に入ると、高区内工場の閉鎖、休止はさらに増えた。いわゆる産業の空洞化である。
工場閉鎖・休止の主な原因は3つある。第一は、事業統合や企業の合併・買収に伴う例が急増していることである。第二は、将来性のない事業からの撤退を決め、工場の閉鎖・休止でその数は47社にのぼる。第三は、顧客企業の海外生産拡大に対応して、国内から海外に工場を移す企業もある。電気や情報の製造拠点の移転が急速に進んでいる。
国内工場で閉鎖した企業の多くがアジア地域へ生産拠点を移しており、最近では大手メーカーがアジアでの生産拠点を再編する動きが始まった。主に、拠点集中化と分散化の動きがある。例えば、トヨタ自動車は、2004年からタイでピックアップトラックの生産量を念7万代から20万台へと約3倍に増やし、アジアやヨーロッパへの輸出起点にしている。タイには、ホンダ、米GM、独BMWなどが進出しているため、部品調達も便利なことから、トヨタはタイに集中したわけである。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
基本的な指標である農業生産指数や耕地面積などの推移を次の表に示す。
2000年を100とすると、1960年が80であったから、40年間で25%の増加、年率だと平均0.56%ずつ増加している。しかし、耕地面積、農業就業人口、農家戸数ともに、1960年以来一貫して減少傾向にある。2003年の善光区平均の農家の所得は、1戸当たり771万円で、勤労世帯の630万円を上回っていたが、農業所得は14%にすぎず、年金や他の仕事による所得で成り立っている。また、農業就業者の高齢化が進み、労働力不足は、農業構造をじゃ期待かさせる恐れがあり、それを回避するためには、新規就農者を増やすための制作が必要である。
1961年に制定された農業基本法は、20世紀後半の日本の農業政策の理念と試作の基本的方向を示すものといってよい。1993年に成立されたWTO農業協定が日本の農業に大きな影響を与えた。
WTO農業協定は、三つの分野から成り立っている。輸入国の市場を開放する市場アクセス、輸出削減の補助金を求める輸入競争、貿易に影響する国際政策の削減を盛り込んだ国内助成である。日本の関心事は、コメの関税化による市場アクセスである。コメについては、関税化猶予となったが、その代償として、ミニマム・アクセス(最低輸入義務)の数量を加重することになった。
C 産業空洞化の原因とその影響
1985年のプラザ合意以降、急激な円高につれ、日本企業は次々と海外(特にアジア地域)に進出し、生産拠点を世界範囲に拡大させた。海外移転の理由としては、第一に人件費の安さ、第二に現地市場の開拓が挙げられる。
特に、製造業で海外移転が進めば、その裏返しの減少として、閉鎖に追い込まれる国内工場が増えるはずである。2001年の一年だけでも69社、124工場が閉鎖に追い込まれ、2002年に入ると、高区内工場の閉鎖、休止はさらに増えた。いわゆる産業の空洞化である。
工場閉鎖・休止の主な原因は3つある。第一は、事業統合や企業の合併・買収に伴う例が急増していることである。第二は、将来性のない事業からの撤退を決め、工場の閉鎖・休止でその数は47社にのぼる。第三は、顧客企業の海外生産拡大に対応して、国内から海外に工場を移す企業もある。電気や情報の製造拠点の移転が急速に進んでいる。
国内工場で閉鎖した企業の多くがアジア地域へ生産拠点を移しており、最近では大手メーカーがアジアでの生産拠点を再編する動きが始まった。主に、拠点集中化と分散化の動きがある。例えば、トヨタ自動車は、2004年からタイでピックアップトラックの生産量を念7万代から20万台へと約3倍に増やし、アジアやヨーロッパへの輸出起点にしている。タイには、ホンダ、米GM、独BMWなどが進出しているため、部品調達も便利なことから、トヨタはタイに集中したわけである。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義9
5 産業構造
5.1 日本の産業構造
A ペティ・クラークの法則
イギリスのウィリアム・ペティ(1623−1687)は、経済が発展するにつれて、産業構造の比重は第一次から第二次産業、そして第三次産業へと移っていくことを、最初に発見した経済学者である。ペティの考えをさらに発展させたのは、同じイギリスの経済学者コーリン・クラーク(1905−1989)である。従って、この二人の学説をペティ・クラークの法則というのである。
日本の産業構造の変化は、ペティ・クラークの法則により実証されている。
1880年から2000年までの120年間において、第一次産業は、最初の67.1%から1.5%までに低下したが、第二次産業は、1880年の9.0%から1940年にはピークの38.0%になってから低下傾向になり、第三次産業は、最初の23.9%から現在の69.5%までに上昇した。
生産額だけではなく、労働力の面から見ても同じである。
100年ほど前の1900年は、全就業者の7割が農業や漁業などの第一次産業に従事していて、第二次、第三次産業の従事者は、それぞれ13.8%と16.2%であった。それから、第一次産業の就業者の割合は徐々に低下した。第二次産業は、1980年の33.6%をピークにして、2000年には19.1%に低下した。それに対して、第三次産業の就業者数は上昇しつつあり、2000年には64.5%となった。
明治初期の日本は、封建社会の色合いが強く、第一次産業の割合は圧倒的に多かった。明治政府の殖産興業制作により、工業化が推し進められ、第二次産業の比重が次第に高まっていった。
第二次世界大戦後、特に1950年代後半になると、日本では工業化が急激に進展した。鉄鋼、科学、合成繊維、機械、造船など欧米から次々と新しい先進技術が導入され、それをテコに重化学工業が発展を遂げた。
1970年代に発生した石油ショックが再び日本の産業構造を大きく変えた。第二次産業の比重は頭打ちになって、代わって大惨事産業の割合は急速に高まってくる。2000年の産業構造のデータでは、生産面に置いて、第一次、第二次産業は、それぞれ、1.5%、29.0%を占めているのに、第三次産業は69.5%となって、7割近くを占めるようになった。
21世紀に入って、IT革命による新技術の導入、地球環境変化への大砲、少子高齢化の進展等により、日本の産業構造はまた大きく変わっていくであろう。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
5.1 日本の産業構造
A ペティ・クラークの法則
イギリスのウィリアム・ペティ(1623−1687)は、経済が発展するにつれて、産業構造の比重は第一次から第二次産業、そして第三次産業へと移っていくことを、最初に発見した経済学者である。ペティの考えをさらに発展させたのは、同じイギリスの経済学者コーリン・クラーク(1905−1989)である。従って、この二人の学説をペティ・クラークの法則というのである。
日本の産業構造の変化は、ペティ・クラークの法則により実証されている。
1880年から2000年までの120年間において、第一次産業は、最初の67.1%から1.5%までに低下したが、第二次産業は、1880年の9.0%から1940年にはピークの38.0%になってから低下傾向になり、第三次産業は、最初の23.9%から現在の69.5%までに上昇した。
生産額だけではなく、労働力の面から見ても同じである。
100年ほど前の1900年は、全就業者の7割が農業や漁業などの第一次産業に従事していて、第二次、第三次産業の従事者は、それぞれ13.8%と16.2%であった。それから、第一次産業の就業者の割合は徐々に低下した。第二次産業は、1980年の33.6%をピークにして、2000年には19.1%に低下した。それに対して、第三次産業の就業者数は上昇しつつあり、2000年には64.5%となった。
明治初期の日本は、封建社会の色合いが強く、第一次産業の割合は圧倒的に多かった。明治政府の殖産興業制作により、工業化が推し進められ、第二次産業の比重が次第に高まっていった。
第二次世界大戦後、特に1950年代後半になると、日本では工業化が急激に進展した。鉄鋼、科学、合成繊維、機械、造船など欧米から次々と新しい先進技術が導入され、それをテコに重化学工業が発展を遂げた。
1970年代に発生した石油ショックが再び日本の産業構造を大きく変えた。第二次産業の比重は頭打ちになって、代わって大惨事産業の割合は急速に高まってくる。2000年の産業構造のデータでは、生産面に置いて、第一次、第二次産業は、それぞれ、1.5%、29.0%を占めているのに、第三次産業は69.5%となって、7割近くを占めるようになった。
21世紀に入って、IT革命による新技術の導入、地球環境変化への大砲、少子高齢化の進展等により、日本の産業構造はまた大きく変わっていくであろう。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義8
D メガバンク
メガバンクとは、大手銀行同士が合併した規模の大きい銀行のことである。厳密な定義はないが、資産規模が100兆円(1兆ドル)を越える巨大銀行である。
1990年代は、不良債権問題に苦しみ身動きが取れなかった日本の金融界も、21世紀に入ったころから再編成に向かって進みだした。2000年9月に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が経営統合して、みずほ銀行が誕生した。
2001年4月、さくら銀行と住友銀行の合併による三井住友銀行の誕生、東京三菱銀行と三菱信託銀行が統合した三菱東京フィナンシャルグループ、三和銀行と東海銀行、東洋信託銀行によるUFJグループの4台メガバンク体制が形成された。
さらに2005年10月には、UFJグループと三菱フィナンシャルグループが統合して、3大メガバンク体制へと集約された。
E 金融ビックバンの進展状況
金融ビックバンとは、金融機関の競争を制限する規制を徐々に緩和してきた。1996年11月からの金融大改革を金融ビックバンという。
これには、3つの原則がある。第一は市場原理で自由に市場に参入できること、第二は、ルールの明確化、透明化、投資家保護などで、透明で信頼できる市場を作ること、第3は、グローバル化した法制度、会計制度、監督体制を整備することである。
具体的には、次のような改革が行われてきた。第一は、外為法の改正である。第二は、銀行と証券、生保と損保の業務の相互参入ができるようになった。第三は、関節金融から直接金融へ移行している。企業の資金調達方法が、銀行の借り入れから、株式や社債の発行による補法に変わりつつある。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
メガバンクとは、大手銀行同士が合併した規模の大きい銀行のことである。厳密な定義はないが、資産規模が100兆円(1兆ドル)を越える巨大銀行である。
1990年代は、不良債権問題に苦しみ身動きが取れなかった日本の金融界も、21世紀に入ったころから再編成に向かって進みだした。2000年9月に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が経営統合して、みずほ銀行が誕生した。
2001年4月、さくら銀行と住友銀行の合併による三井住友銀行の誕生、東京三菱銀行と三菱信託銀行が統合した三菱東京フィナンシャルグループ、三和銀行と東海銀行、東洋信託銀行によるUFJグループの4台メガバンク体制が形成された。
さらに2005年10月には、UFJグループと三菱フィナンシャルグループが統合して、3大メガバンク体制へと集約された。
E 金融ビックバンの進展状況
金融ビックバンとは、金融機関の競争を制限する規制を徐々に緩和してきた。1996年11月からの金融大改革を金融ビックバンという。
これには、3つの原則がある。第一は市場原理で自由に市場に参入できること、第二は、ルールの明確化、透明化、投資家保護などで、透明で信頼できる市場を作ること、第3は、グローバル化した法制度、会計制度、監督体制を整備することである。
具体的には、次のような改革が行われてきた。第一は、外為法の改正である。第二は、銀行と証券、生保と損保の業務の相互参入ができるようになった。第三は、関節金融から直接金融へ移行している。企業の資金調達方法が、銀行の借り入れから、株式や社債の発行による補法に変わりつつある。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義7
4 金融
4.1 日本の金融
A 公定歩合の役割
日銀が取引のある主要な銀行に資金を貸出する場合に、適用する金利のことである。公定歩合が上がると、資金コストが上がるため、企業への貸出金利を上げるため、企業は設備投資を抑制し、結果的に経済全体の資金受容が減少して、景気は下降に向かう。逆に公定歩合が下がれば、景気はよくなる。
B ペイオフ解禁
従来の預金を全額保護する制度から、一定額を超える貯金については、保護(保険)対象外とする制度のことである。これは、金融機関の経営改善を促進する同時に、破綻した金融機関にこれまでの公的資金の投入する制度から随時解禁されていくことをも意味している。
C デフレを解消する金融政策
デフレを解消するために、中央銀行は金利の引き下げやマネーサプライの増加といった金融緩和策をとる必要がある。
1999年2月に、日銀はゼロ金利政策が採用された。ゼロ金利政策の目的は、個人や企業の金利負担を軽減することにより、消費意欲を刺激して、当時進行していたデフレを緩和しようとするものである。日本は今でも低金利政策をとっている。
デフレ解消の量的緩和政策を見てみよう。超低金利制作の下で、金利を下げる余地がなくなり、日銀が市中銀行に大量の資金を供給し続ける量的緩和策を導入した。金融理論によると、流通現金と日銀当座預金の合計値からなるマネタリーベースを増加させれば、信用創造により、その乗数倍だけのマネーサプライが増加し、デフレが解消するはずである。深刻化するデフレ対策のために、当座預金は35兆円まで漸次増加されていった。
金融調整政策もある。金融調整政策は、日銀が短期金融市場の資金送料を調節するものである。日銀は、金融機関を相手に債権や手形を購入することにより、金融市場に資金を供給したり、金融機関に国債などを売ることで金融市場から資金を吸収したりしている。
これらの制作により、2002年から景気回復が本格化したのみならず、消費者物価指数も前年比上昇率が安定的にプラス基調で推移して、デフレ脱却の兆しが見えてきた。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
4.1 日本の金融
A 公定歩合の役割
日銀が取引のある主要な銀行に資金を貸出する場合に、適用する金利のことである。公定歩合が上がると、資金コストが上がるため、企業への貸出金利を上げるため、企業は設備投資を抑制し、結果的に経済全体の資金受容が減少して、景気は下降に向かう。逆に公定歩合が下がれば、景気はよくなる。
B ペイオフ解禁
従来の預金を全額保護する制度から、一定額を超える貯金については、保護(保険)対象外とする制度のことである。これは、金融機関の経営改善を促進する同時に、破綻した金融機関にこれまでの公的資金の投入する制度から随時解禁されていくことをも意味している。
C デフレを解消する金融政策
デフレを解消するために、中央銀行は金利の引き下げやマネーサプライの増加といった金融緩和策をとる必要がある。
1999年2月に、日銀はゼロ金利政策が採用された。ゼロ金利政策の目的は、個人や企業の金利負担を軽減することにより、消費意欲を刺激して、当時進行していたデフレを緩和しようとするものである。日本は今でも低金利政策をとっている。
デフレ解消の量的緩和政策を見てみよう。超低金利制作の下で、金利を下げる余地がなくなり、日銀が市中銀行に大量の資金を供給し続ける量的緩和策を導入した。金融理論によると、流通現金と日銀当座預金の合計値からなるマネタリーベースを増加させれば、信用創造により、その乗数倍だけのマネーサプライが増加し、デフレが解消するはずである。深刻化するデフレ対策のために、当座預金は35兆円まで漸次増加されていった。
金融調整政策もある。金融調整政策は、日銀が短期金融市場の資金送料を調節するものである。日銀は、金融機関を相手に債権や手形を購入することにより、金融市場に資金を供給したり、金融機関に国債などを売ることで金融市場から資金を吸収したりしている。
これらの制作により、2002年から景気回復が本格化したのみならず、消費者物価指数も前年比上昇率が安定的にプラス基調で推移して、デフレ脱却の兆しが見えてきた。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義6
B 予算の仕組み
国の予算には、@一般会計予算、A特別会計予算、B政府関係機関予算の三種類がある。
@ 一般会計予算は、国の予算の中で最も基本的なものであり、租税や国債などの歳入を社会保障費、公共事業費、防衛費、経済協力費などの歳出を賄う姿を現している。
A 財政法では、国が特定の事業を経営する場合と、特定の資金を運用する場合と、その他特定の歳入で特定の歳出に充て、一般会計と区別し、経理・処理する必要がある場合に限定して、特別会計を設定できるようにしている。これが特別会計予算である。
B 政府関係機関予算とは、6公庫(国民生活金融公庫、住宅金融公庫など)、2銀行(日本政策投資銀行、国際協力銀行)の予算のことである。これらの期間は政府が出資している特殊法人であり、その予算は国会の議決が得られなければならない。
C 歴史上赤字国債増加の原因
国債の発行は、1965年に始まったが、発行額の急増は、1973年の第一次石油ショック以降であった。1978年度には、10兆7900億円と、新規発行額が初めて10兆円の大台に乗った。1979年には、国債の発行総額が15兆2700億円であって、そのうち赤字国債は8兆550億円と、全体の5割りも超えた。
1980年代は、日本の財政再建の時代である。これは、財政赤字を縮小する過程でもある。1982年度の予算編成でのゼロ・シーリングの設定、1983年度からのマイナス・シーリングの設定と本格的な再建策が取られた。
1990年代に入ってバブル経済が崩壊すると、財政事情は急速に悪化し、大きな景気対策として、1994年度から赤字国債の発行が再開され、橋本内閣での財政再建策の挫折、小泉内閣での財政改革につながっていく。
D 財政構造改革の背景
2001年春に発足した小泉内閣は、日本の経済システムの体質を変えるために、構造改革を断行した。改革の一つは、やはり年金などの社会保障制度を含める財政改革である。改革の背景から見てみよう。
第一の背景は、財政赤字の膨らみである。1990年代から長期的な不況により、税収の割合が低下する一方で、一般会計の赤字を補填するための国債の発行額が年々増えている。バブル崩壊後の景気対策や1999年度の所得税・法人税の減税などの税制改革と関わる構造要因が、一般政府勘定の赤字の大部分である。また、高齢化の進展による社会保障費の構造的要因が大きく圧し掛かってきている。
第二の背景は、社会保障費の増加である。少子高齢化の進展は、医療や年金などの社会保障費の増加を招いている。高齢者が暮らしやすい環境を考えれば、国の負担も大きくなっていく。例えば、社会保障給付費とか社会保障関係費の割合も増加の傾向にあり、2005年度には、歳出のうち社会保障関係費の割合が43.1%を占めるようになった。
第三の背景は、国民負担率の上昇である。国民負担率とは、企業を含め国民全体でのしゃ相保険料や税金をどの程度負担しているかを、国民所得との対比で見たものである。1975年度は25.7%であったが、1985年度は34.4%、2007年度は39.7%にまで上昇した。国民負担率が高くなれば、国民の経済活動の自由度が低下し、勤労意欲を阻害する恐れがあり、経済活動の空洞化が進む可能性もある。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
国の予算には、@一般会計予算、A特別会計予算、B政府関係機関予算の三種類がある。
@ 一般会計予算は、国の予算の中で最も基本的なものであり、租税や国債などの歳入を社会保障費、公共事業費、防衛費、経済協力費などの歳出を賄う姿を現している。
A 財政法では、国が特定の事業を経営する場合と、特定の資金を運用する場合と、その他特定の歳入で特定の歳出に充て、一般会計と区別し、経理・処理する必要がある場合に限定して、特別会計を設定できるようにしている。これが特別会計予算である。
B 政府関係機関予算とは、6公庫(国民生活金融公庫、住宅金融公庫など)、2銀行(日本政策投資銀行、国際協力銀行)の予算のことである。これらの期間は政府が出資している特殊法人であり、その予算は国会の議決が得られなければならない。
C 歴史上赤字国債増加の原因
国債の発行は、1965年に始まったが、発行額の急増は、1973年の第一次石油ショック以降であった。1978年度には、10兆7900億円と、新規発行額が初めて10兆円の大台に乗った。1979年には、国債の発行総額が15兆2700億円であって、そのうち赤字国債は8兆550億円と、全体の5割りも超えた。
1980年代は、日本の財政再建の時代である。これは、財政赤字を縮小する過程でもある。1982年度の予算編成でのゼロ・シーリングの設定、1983年度からのマイナス・シーリングの設定と本格的な再建策が取られた。
1990年代に入ってバブル経済が崩壊すると、財政事情は急速に悪化し、大きな景気対策として、1994年度から赤字国債の発行が再開され、橋本内閣での財政再建策の挫折、小泉内閣での財政改革につながっていく。
D 財政構造改革の背景
2001年春に発足した小泉内閣は、日本の経済システムの体質を変えるために、構造改革を断行した。改革の一つは、やはり年金などの社会保障制度を含める財政改革である。改革の背景から見てみよう。
第一の背景は、財政赤字の膨らみである。1990年代から長期的な不況により、税収の割合が低下する一方で、一般会計の赤字を補填するための国債の発行額が年々増えている。バブル崩壊後の景気対策や1999年度の所得税・法人税の減税などの税制改革と関わる構造要因が、一般政府勘定の赤字の大部分である。また、高齢化の進展による社会保障費の構造的要因が大きく圧し掛かってきている。
第二の背景は、社会保障費の増加である。少子高齢化の進展は、医療や年金などの社会保障費の増加を招いている。高齢者が暮らしやすい環境を考えれば、国の負担も大きくなっていく。例えば、社会保障給付費とか社会保障関係費の割合も増加の傾向にあり、2005年度には、歳出のうち社会保障関係費の割合が43.1%を占めるようになった。
第三の背景は、国民負担率の上昇である。国民負担率とは、企業を含め国民全体でのしゃ相保険料や税金をどの程度負担しているかを、国民所得との対比で見たものである。1975年度は25.7%であったが、1985年度は34.4%、2007年度は39.7%にまで上昇した。国民負担率が高くなれば、国民の経済活動の自由度が低下し、勤労意欲を阻害する恐れがあり、経済活動の空洞化が進む可能性もある。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義5
3 財政
3.1 日本の財政
A 財政の三つの機能
@ 資源配分機能(公共財の提供)
市場経済では、資源は価格メカニズムによって配分され、市場機構が資源を最適に配分してくれる。しかし、国防や警察組織は、民間に任せるわけにいかず、道路や公園、治山・治水という社会資本も同様である。この種類の財・サービスは、公共財と呼ばれ、価格メカニズムではうまく処理できないものである。財政機能の一つは、こうした公共財に資源を投入するところにある。
A 所得の再分配機能(貧富の格差の是正)
所得再分配というのは、高所得層から所得の一部分を低所得層に振り分けることである。社会的公平あるいは平等の視点からは、累進所得税、相続税などの租税政策によって、人々の所得や資産を調整したり、社会保障や公的年金の制度などにより、異なる盛大感の所得移転を行ったり、収入の多い経済主体から少ない主体へ直接所得移転を行うことが望まれる。
B 景気調節機能(マクロ経済の安定化)
マクロ経済には、GDP、雇用、消費、投資といった経済変数が常に変動し、景気循環が発生する。特に、景気が後退し、企業の利益が減少して、非自発的失業が長期化した場合、政府は減税や財政支出増などの景気浮揚策で対応し、逆に、経済が過熱するとき、政府は一般的に増税などの財政緊縮政策をとるのである。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
3.1 日本の財政
A 財政の三つの機能
@ 資源配分機能(公共財の提供)
市場経済では、資源は価格メカニズムによって配分され、市場機構が資源を最適に配分してくれる。しかし、国防や警察組織は、民間に任せるわけにいかず、道路や公園、治山・治水という社会資本も同様である。この種類の財・サービスは、公共財と呼ばれ、価格メカニズムではうまく処理できないものである。財政機能の一つは、こうした公共財に資源を投入するところにある。
A 所得の再分配機能(貧富の格差の是正)
所得再分配というのは、高所得層から所得の一部分を低所得層に振り分けることである。社会的公平あるいは平等の視点からは、累進所得税、相続税などの租税政策によって、人々の所得や資産を調整したり、社会保障や公的年金の制度などにより、異なる盛大感の所得移転を行ったり、収入の多い経済主体から少ない主体へ直接所得移転を行うことが望まれる。
B 景気調節機能(マクロ経済の安定化)
マクロ経済には、GDP、雇用、消費、投資といった経済変数が常に変動し、景気循環が発生する。特に、景気が後退し、企業の利益が減少して、非自発的失業が長期化した場合、政府は減税や財政支出増などの景気浮揚策で対応し、逆に、経済が過熱するとき、政府は一般的に増税などの財政緊縮政策をとるのである。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義4
D 日本の医療と公的年金の仕組み
原則としてすべての国民が何らかの公的医療保険制度によってカバーされる国民皆保険体制をとっている。例えば、@被用者保険、A国民健康保険、B高齢者に対する老人医療に分類できる。
@ 被用者保険とは、サラリーマンとその扶養家族をカバーするものであり、職域で形成された健康保険、船員保険、各種共済組合である。
A 国民健康保険とは、被用者とその扶養家族以外の地域住民を被保険者とする地域保険である。市町村が国民健康保険の中心である。
B 老人医療とは、各医療保険制度に加入している高齢者または65歳以上の障害者を対象とし、各医療保険者からの拠出金と公費を財源に、市町村もその給付の主体となって行うものである。
国民年金は、20歳以上60歳未満の居住者の全てが加入することになっている。被用者(サラリーマン)はそれに加えて、厚生年金または共済年金に加入する。厚生年金と共済年金の加入者は、国民年金の第二号被保険者となり、その被扶養配偶者は、第三号被保険者となる。自営業者や学生などは、第一号被保険者である。
年金の支給については、納付期間の変更もあってまちまちであり、また、高齢化社会の到来もあり、受給額は年々目減りしている。世代間の格差、女性の年金問題、共働きや独身者第一号被保険者など、労働供給が抑制されているという不公平の指摘がある。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
原則としてすべての国民が何らかの公的医療保険制度によってカバーされる国民皆保険体制をとっている。例えば、@被用者保険、A国民健康保険、B高齢者に対する老人医療に分類できる。
@ 被用者保険とは、サラリーマンとその扶養家族をカバーするものであり、職域で形成された健康保険、船員保険、各種共済組合である。
A 国民健康保険とは、被用者とその扶養家族以外の地域住民を被保険者とする地域保険である。市町村が国民健康保険の中心である。
B 老人医療とは、各医療保険制度に加入している高齢者または65歳以上の障害者を対象とし、各医療保険者からの拠出金と公費を財源に、市町村もその給付の主体となって行うものである。
国民年金は、20歳以上60歳未満の居住者の全てが加入することになっている。被用者(サラリーマン)はそれに加えて、厚生年金または共済年金に加入する。厚生年金と共済年金の加入者は、国民年金の第二号被保険者となり、その被扶養配偶者は、第三号被保険者となる。自営業者や学生などは、第一号被保険者である。
年金の支給については、納付期間の変更もあってまちまちであり、また、高齢化社会の到来もあり、受給額は年々目減りしている。世代間の格差、女性の年金問題、共働きや独身者第一号被保険者など、労働供給が抑制されているという不公平の指摘がある。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義3
B 社会保障制度は大別して3つの機能がある。
@ 社会的安全装置としての機能。病気や失業など様々なリスクに対し、喪失所得や追加的費用を保証することで、社会的なセーフティネットとして生活を安定させ、新たな挑戦を可能にさせる機能である。
A 所得再分配機能。市場メカニズムを通してもたらされる所得分配をする機能である。
B 経済の安定・成長及び社会の安定を資する機能。景気の後退期に失業給付を通じて消費を下支えするなど、景気の変動をなだらかにする。
C 日本の社会保障制度の特徴
社会保険型から普遍主義型へ 全体的に見つめると、第一の特徴は、当初のドイツに代表される社会保険型から出発し、次第に普遍主義型の方向に移行していったことにある。社会保険型とは、職域を中心として、所得比例的な給付構造をとり、保険料を主財源とする社会保障システムということである。また、普遍主義型とは、全住民を対象に、均一に給付し、主に租税を財源とするところに特徴がある。
日本の年金制度は、一階に基礎年金、二階に厚生年金という形で、普遍主義的モデル(均一給付の基礎年金)とドイツ型社会保険モデル(職域中心の報酬比例年金)とを折衷したものである。両者は財源的に融合しており、基礎年金部分は、財源が三分の一は税、三分の二は保険料となっている。こうした一体性こそが、日本の年金制度の最大の特徴である。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
@ 社会的安全装置としての機能。病気や失業など様々なリスクに対し、喪失所得や追加的費用を保証することで、社会的なセーフティネットとして生活を安定させ、新たな挑戦を可能にさせる機能である。
A 所得再分配機能。市場メカニズムを通してもたらされる所得分配をする機能である。
B 経済の安定・成長及び社会の安定を資する機能。景気の後退期に失業給付を通じて消費を下支えするなど、景気の変動をなだらかにする。
C 日本の社会保障制度の特徴
社会保険型から普遍主義型へ 全体的に見つめると、第一の特徴は、当初のドイツに代表される社会保険型から出発し、次第に普遍主義型の方向に移行していったことにある。社会保険型とは、職域を中心として、所得比例的な給付構造をとり、保険料を主財源とする社会保障システムということである。また、普遍主義型とは、全住民を対象に、均一に給付し、主に租税を財源とするところに特徴がある。
日本の年金制度は、一階に基礎年金、二階に厚生年金という形で、普遍主義的モデル(均一給付の基礎年金)とドイツ型社会保険モデル(職域中心の報酬比例年金)とを折衷したものである。両者は財源的に融合しており、基礎年金部分は、財源が三分の一は税、三分の二は保険料となっている。こうした一体性こそが、日本の年金制度の最大の特徴である。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義2
2 社会保障問題
2.1 日本の社会保障問題
A 狭義の社会保障について
社会保障は、国民生活と深く関わっていて、制度別に、@社会保険、A公的扶助、B社会福祉、C公衆衛生と医療、D老人保健の5つに分類される。
@ 社会保険とは、法律に基づき、加入が強制されている。種類としては、医療、年金、労災、雇用、介護がある。医療と介護保険は、医療サービスや高齢者の介護サービスの費用を保障するものであり、年金と雇用保険は、老齢、障害、遺族、失業などについて、所得を保障するものである。労災保険は、仕事上また通勤途上の病気やケガ、障害、死亡についての医療費の補償や所得の補償をするものである。
A 公的扶助とは、生活困窮者に対し、最低限度の生活を保障するため、国家が一般租税を財源として最低生活費に足りない部分の金品を支給する所得保障制度である。
B 社会福祉の制度とは、障害者や要介護の高齢者など社会的な援護を必要とするものが自立した生活を送ることができるよう、生活面での様々な支援を行うための制度である。
C 公衆衛生及び医療とは、病気を防止し、健康を増進するための地域社会の組織的支援の体系である。病気予防や保健指導、上下水道やごみ処理などで国民健康の維持と向上を図るものである。
D 老人保健とは、高齢者の健康の維持と適切な医療の確保を図るための制度である。特に、40歳以上の住民を対象に市町村に健康診査などの保険事業を実施するとともに、各医療保険制度に加入している高齢者を対象に行われる医療からなる。
注 2015年冬学期に、中国の寧波市にある寧波大紅鷹学院において、日本語専攻の4年生を対象に日本経済入門のクラスを担当した。その時に使用した教材は、楊立国編(2011)の「日本経済入門」である。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
2.1 日本の社会保障問題
A 狭義の社会保障について
社会保障は、国民生活と深く関わっていて、制度別に、@社会保険、A公的扶助、B社会福祉、C公衆衛生と医療、D老人保健の5つに分類される。
@ 社会保険とは、法律に基づき、加入が強制されている。種類としては、医療、年金、労災、雇用、介護がある。医療と介護保険は、医療サービスや高齢者の介護サービスの費用を保障するものであり、年金と雇用保険は、老齢、障害、遺族、失業などについて、所得を保障するものである。労災保険は、仕事上また通勤途上の病気やケガ、障害、死亡についての医療費の補償や所得の補償をするものである。
A 公的扶助とは、生活困窮者に対し、最低限度の生活を保障するため、国家が一般租税を財源として最低生活費に足りない部分の金品を支給する所得保障制度である。
B 社会福祉の制度とは、障害者や要介護の高齢者など社会的な援護を必要とするものが自立した生活を送ることができるよう、生活面での様々な支援を行うための制度である。
C 公衆衛生及び医療とは、病気を防止し、健康を増進するための地域社会の組織的支援の体系である。病気予防や保健指導、上下水道やごみ処理などで国民健康の維持と向上を図るものである。
D 老人保健とは、高齢者の健康の維持と適切な医療の確保を図るための制度である。特に、40歳以上の住民を対象に市町村に健康診査などの保険事業を実施するとともに、各医療保険制度に加入している高齢者を対象に行われる医療からなる。
注 2015年冬学期に、中国の寧波市にある寧波大紅鷹学院において、日本語専攻の4年生を対象に日本経済入門のクラスを担当した。その時に使用した教材は、楊立国編(2011)の「日本経済入門」である。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
日本経済入門の講義1
1 はじめに
2015年冬学期に、中国の寧波市にある寧波大紅鷹学院において、日本語専攻の4年生を対象に日本経済入門のクラスを担当した。その時に使用した教材は、楊立国編(2011)の「日本経済入門」である。
楊立国編(2011)の「日本経済入門」は、序章を除いて二部構成である。第一部は、戦後の日本経済の成長の足跡について、第二部は、日本の現在の経済構造について説明している。まず、第一部では、敗戦からの復興(1945−1955)、高度成長期(1955−1973)、安定経済の成長期(1973−1985)、バブル経済期(1985−1990)、バブル崩壊後の日本経済(1990−現在)と分けて、それぞれの時代でどのような問題があり、それをどのように解決したのか論じている。一方、現在の経済構造については、日本の社会保障、日本の財政、日本の金融、日本の産業構造そして国際貿易と日本円がテーマになっている。
毎回、学生が本文を1ページ読み、私が要約しながら解説を入れていく、この繰り返しで授業を進め、月に一度、学生に宿題を出す。宿題は、教材に出てきた図表を学生が説明するというものである。スコアは、平時と期末に分けて判定する。平時は、出欠、音読、宿題で判定し、期末は、レポート形式の試験をする。そして、両方を合わせて、一つのクラスでもできるだけ総合判定にもっていく。
以下では、私の関心のあるテーマを中心にして、各章末にある課題の解き方を説明する。特に、第二部の現状の日本の経済構造に関する問題を解くことにより、教材の内容の理解度を深めていきたい。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
2015年冬学期に、中国の寧波市にある寧波大紅鷹学院において、日本語専攻の4年生を対象に日本経済入門のクラスを担当した。その時に使用した教材は、楊立国編(2011)の「日本経済入門」である。
楊立国編(2011)の「日本経済入門」は、序章を除いて二部構成である。第一部は、戦後の日本経済の成長の足跡について、第二部は、日本の現在の経済構造について説明している。まず、第一部では、敗戦からの復興(1945−1955)、高度成長期(1955−1973)、安定経済の成長期(1973−1985)、バブル経済期(1985−1990)、バブル崩壊後の日本経済(1990−現在)と分けて、それぞれの時代でどのような問題があり、それをどのように解決したのか論じている。一方、現在の経済構造については、日本の社会保障、日本の財政、日本の金融、日本の産業構造そして国際貿易と日本円がテーマになっている。
毎回、学生が本文を1ページ読み、私が要約しながら解説を入れていく、この繰り返しで授業を進め、月に一度、学生に宿題を出す。宿題は、教材に出てきた図表を学生が説明するというものである。スコアは、平時と期末に分けて判定する。平時は、出欠、音読、宿題で判定し、期末は、レポート形式の試験をする。そして、両方を合わせて、一つのクラスでもできるだけ総合判定にもっていく。
以下では、私の関心のあるテーマを中心にして、各章末にある課題の解き方を説明する。特に、第二部の現状の日本の経済構造に関する問題を解くことにより、教材の内容の理解度を深めていきたい。
花村嘉英(2017)「日本経済入門の講義」より
人文科学から始める技術文の翻訳19
6 まとめ
翻訳の作業単位は、言語の組み合わせと分野の調節からなっている。文系の人もことばのみならず、理系の技術文の実績を作ることにより、主の専門以外に副専攻としてシナジーの研究にも取り組むことができる。
この調節がスムーズにできるようになると、文献処理の技が文学作品の分析にも適用できると思われる。私が取り組むシナジーの文学分析は、縦に受容の読みからなる読者の脳の活動があり、横にシナジーの読みからなる作家の脳の活動がある。日頃から縦の専門と認知科学も交えて比較とシナジーという副専攻を調節するように頭を使うと、マクロの世界が見えてくる。マクロの調節方法が決まれば、自ずと発見発明につながっていく。
翻訳は、書き手にも読み手にも気を使いながら作業を進めていくために、ライティングの際の脳の活動について考察する機会を与えてくれる。その際に考えたことを作家のライティング時の活動を探るための土台にするのはどうだろうか。そのための翻訳作業と思えば、ライフワークと言えるようになる。
【参考文献】
(1)花村嘉英(2005)計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎
(2)熊野明(2011)中国語特許翻訳を支援する機械翻訳技術JaploYEAR BOOK 2011 254-257
(3)知財翻訳研究所編(1999)特許翻訳講座 テキスト・資料
(4)富井篤(1996)技術英語構文辞典 三省堂
(5)中野幾雄(1996)動詞で決まる技術英語 工業調査会
(6)日経BP知財http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/arai20050613.html
翻訳の作業単位は、言語の組み合わせと分野の調節からなっている。文系の人もことばのみならず、理系の技術文の実績を作ることにより、主の専門以外に副専攻としてシナジーの研究にも取り組むことができる。
この調節がスムーズにできるようになると、文献処理の技が文学作品の分析にも適用できると思われる。私が取り組むシナジーの文学分析は、縦に受容の読みからなる読者の脳の活動があり、横にシナジーの読みからなる作家の脳の活動がある。日頃から縦の専門と認知科学も交えて比較とシナジーという副専攻を調節するように頭を使うと、マクロの世界が見えてくる。マクロの調節方法が決まれば、自ずと発見発明につながっていく。
翻訳は、書き手にも読み手にも気を使いながら作業を進めていくために、ライティングの際の脳の活動について考察する機会を与えてくれる。その際に考えたことを作家のライティング時の活動を探るための土台にするのはどうだろうか。そのための翻訳作業と思えば、ライフワークと言えるようになる。
【参考文献】
(1)花村嘉英(2005)計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎
(2)熊野明(2011)中国語特許翻訳を支援する機械翻訳技術JaploYEAR BOOK 2011 254-257
(3)知財翻訳研究所編(1999)特許翻訳講座 テキスト・資料
(4)富井篤(1996)技術英語構文辞典 三省堂
(5)中野幾雄(1996)動詞で決まる技術英語 工業調査会
(6)日経BP知財http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/arai20050613.html
人文科学から始める技術文の翻訳18
次の例文を見てみよう。
【中文】
(5)放重量查出装置1,作为负荷受转盘18和这个转盘18上的物体19的重量,把这个负荷一边转换为负荷转动力矩一边转自由自在的支持转盘18的支撑手段20,由在对应负荷转动力矩的驱动力矩旋转驱动上述转盘18的电动机3和查出这台电动机3的负荷转动力矩从负荷转动力矩和负荷相互关系间接地测量转盘18上的物体19的重量的负荷测量装置2变成的构成。(熊野明2011)
@用語の説明
重量查出装置:重量検出装置、负荷:荷重、转盘:ターンテーブル、负荷转动力矩:負荷トルク、转换为:〜に変換する、电动机:モーター、负荷测量装置:荷重測定装置。
A構文の説明
作为〜受〜「〜として〜を受ける」という動詞文で始まり、一边〜一边〜「〜しながら〜する」という並列文の中に、把〜转换为〜「〜を〜に変換する」と转自由自在的支持〜「回転自由に〜を支える」という2つの動詞文が入っている。続いてそれが修飾する支撑手段20「支持手段20」と、由在对应〜「〜に対応する〜によって」を受けて、旋转驱动〜「〜を回転駆動する」が修飾する上述转盘18的电动机3「上述のターンテーブル18のモーター3」と、查出这台电动机3的负荷转动力矩「このモーター3の負荷トルクを検出して」从负荷转动力矩和负荷相互关系间接地「負荷トルクと荷重との相互関係から」测量转盘18上的物体19的重量「ターンテーブル18上の物体19の重量を測定する」が修飾する负荷测量装置2「荷重測定装置2」とを構成要素とする、という文章である。
3つの構成要素が解析できればよいだろう。
B英語に準ずる考察
「1.1 因果関係」で説明した英日の技術文に関する「2段階の処理法」を中日にも試してみよう。英日と同じことが言えるかもしれないし、また中日に限った説明ができるかもしれない。
同様にして、「1.2 態の扱い」「1.3否定構文」で説明した英日の分析法が中日にも適応可能かどうか考えてみる。
表16
2段階の処理法 ここは直訳調で訳出した。
態の用法 能動態のため日本語も能動態で訳出した。
否定構文 なし
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(6)重量検出装置1は、ターンテーブル18とこのターンテーブル18上の物体19の重量を荷重として受け、この荷重を負荷トルクに変換しながら、自在の回転でターンテーブル18を支える支持手段20と、負荷トルクに対応した駆動トルクにより回転駆動する上述のターンテーブル18のモーター3と、このモーター3の負荷トルクを検出して負荷トルクと荷重との相互関係から間接的にターンテーブル18上の物体19の重量を測定する荷重測定装置2とからなる構成になっている。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
【中文】
(5)放重量查出装置1,作为负荷受转盘18和这个转盘18上的物体19的重量,把这个负荷一边转换为负荷转动力矩一边转自由自在的支持转盘18的支撑手段20,由在对应负荷转动力矩的驱动力矩旋转驱动上述转盘18的电动机3和查出这台电动机3的负荷转动力矩从负荷转动力矩和负荷相互关系间接地测量转盘18上的物体19的重量的负荷测量装置2变成的构成。(熊野明2011)
@用語の説明
重量查出装置:重量検出装置、负荷:荷重、转盘:ターンテーブル、负荷转动力矩:負荷トルク、转换为:〜に変換する、电动机:モーター、负荷测量装置:荷重測定装置。
A構文の説明
作为〜受〜「〜として〜を受ける」という動詞文で始まり、一边〜一边〜「〜しながら〜する」という並列文の中に、把〜转换为〜「〜を〜に変換する」と转自由自在的支持〜「回転自由に〜を支える」という2つの動詞文が入っている。続いてそれが修飾する支撑手段20「支持手段20」と、由在对应〜「〜に対応する〜によって」を受けて、旋转驱动〜「〜を回転駆動する」が修飾する上述转盘18的电动机3「上述のターンテーブル18のモーター3」と、查出这台电动机3的负荷转动力矩「このモーター3の負荷トルクを検出して」从负荷转动力矩和负荷相互关系间接地「負荷トルクと荷重との相互関係から」测量转盘18上的物体19的重量「ターンテーブル18上の物体19の重量を測定する」が修飾する负荷测量装置2「荷重測定装置2」とを構成要素とする、という文章である。
3つの構成要素が解析できればよいだろう。
B英語に準ずる考察
「1.1 因果関係」で説明した英日の技術文に関する「2段階の処理法」を中日にも試してみよう。英日と同じことが言えるかもしれないし、また中日に限った説明ができるかもしれない。
同様にして、「1.2 態の扱い」「1.3否定構文」で説明した英日の分析法が中日にも適応可能かどうか考えてみる。
表16
2段階の処理法 ここは直訳調で訳出した。
態の用法 能動態のため日本語も能動態で訳出した。
否定構文 なし
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(6)重量検出装置1は、ターンテーブル18とこのターンテーブル18上の物体19の重量を荷重として受け、この荷重を負荷トルクに変換しながら、自在の回転でターンテーブル18を支える支持手段20と、負荷トルクに対応した駆動トルクにより回転駆動する上述のターンテーブル18のモーター3と、このモーター3の負荷トルクを検出して負荷トルクと荷重との相互関係から間接的にターンテーブル18上の物体19の重量を測定する荷重測定装置2とからなる構成になっている。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳17
次の例文を見てみよう。
【中文】
(3)所述带盒切换机构将所述带盒安装机构抬高至脱离于所述带盒支撑机构的位置后,不再接触所述带盒支撑机构,以使所述带盒支撑机构恢复至初始角度。(燃える弁理士しかく丸HP)
@用語の説明
所述:前述の、带:りぼん、盒:ケース、切换:切り替え、机构:機構、将;〜を、安装:取り付ける、抬高:高く引き上げる、至:至るまで、脱离:離脱する、于:〜に、支撑:支える、位置:位置、后:後ろ、不再:もはや〜しない、接触:接触する、以:〜によって、使:〜させる、恢复:回復する、初始:最初の、角度:角度
A構文の説明
所述带盒切换机构「前述のリボンケースを切り替える機構」が主語で、将所述带盒「前述のリボンケースを」安装机构「機構に取り付けて」、動詞句の抬高至脱离「離脱するまで高く持ち上げる」の場所語となる于所述带盒支撑机构的位置后「前述のリボンケースを支える機構の位置の背後で」を受けて、不再接触所述带盒支撑机构「もはや前述のリボンケースに接触せずに機構を支え」、以使所述带盒支撑机构恢复至初始角度「もって前述のリボンケースに機構を支えさせて最初の角度まで回復させる」となる。
B英語に準ずる考察
表15
2段階の処理法 例えば、所述带盒切换机构「前述のリボンケースを切り替える機構」を「機構が前述のリボンケースを切り替えると」にして、「前述のリボンケースを機構に取り付けて」を「前述のリボンケースが機構に付いて」にする。
態の用法 最後の文が使役態。日本語も使役で訳出。
否定構文 なし
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(4)機構が前述のリボンケースを切り替えると、そのリボンケースが機構に付いて、リボンケースを支える機構の位置の背後で離脱するまで高く持ち上げ、もはや前述のリボンケースに接触せずに機構を支えて、そのリボンケースに機構を支えさせて最初の角度まで回復させる。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
【中文】
(3)所述带盒切换机构将所述带盒安装机构抬高至脱离于所述带盒支撑机构的位置后,不再接触所述带盒支撑机构,以使所述带盒支撑机构恢复至初始角度。(燃える弁理士しかく丸HP)
@用語の説明
所述:前述の、带:りぼん、盒:ケース、切换:切り替え、机构:機構、将;〜を、安装:取り付ける、抬高:高く引き上げる、至:至るまで、脱离:離脱する、于:〜に、支撑:支える、位置:位置、后:後ろ、不再:もはや〜しない、接触:接触する、以:〜によって、使:〜させる、恢复:回復する、初始:最初の、角度:角度
A構文の説明
所述带盒切换机构「前述のリボンケースを切り替える機構」が主語で、将所述带盒「前述のリボンケースを」安装机构「機構に取り付けて」、動詞句の抬高至脱离「離脱するまで高く持ち上げる」の場所語となる于所述带盒支撑机构的位置后「前述のリボンケースを支える機構の位置の背後で」を受けて、不再接触所述带盒支撑机构「もはや前述のリボンケースに接触せずに機構を支え」、以使所述带盒支撑机构恢复至初始角度「もって前述のリボンケースに機構を支えさせて最初の角度まで回復させる」となる。
B英語に準ずる考察
表15
2段階の処理法 例えば、所述带盒切换机构「前述のリボンケースを切り替える機構」を「機構が前述のリボンケースを切り替えると」にして、「前述のリボンケースを機構に取り付けて」を「前述のリボンケースが機構に付いて」にする。
態の用法 最後の文が使役態。日本語も使役で訳出。
否定構文 なし
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(4)機構が前述のリボンケースを切り替えると、そのリボンケースが機構に付いて、リボンケースを支える機構の位置の背後で離脱するまで高く持ち上げ、もはや前述のリボンケースに接触せずに機構を支えて、そのリボンケースに機構を支えさせて最初の角度まで回復させる。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳16
5 中国語の技術文
5.1 特許関連
現在、中国の大学で日本語教師をする傍ら、これまでの自分のキャリアを展開させるために、中国語も勉強中である。以下では中国語の技術文についてひとこと述べる。
中文からの和訳で問題になるのは、構文の取り方である。漢字が連なるため、品詞の識別がしにくいし、同じ漢字でも意味がいくつもあるため、解析が難しい。
【中文】
(1)本发明的目的是提供一种灌装机包装袋接收夹持装置,该装置可在转盘的连续运转中实现夹持组件准确接收,并夹持送袋装置传递过来的包装袋。(燃える弁理士しかく丸HP))
@用語の説明
灌装机:飲料充填機、包装:包装する、袋:袋、接收:受け取る、夹持:挟み持つ、装置:装置、该:この、在:〜に、转盘:ターンテーブル、连续:連続する、运转:動く、中:中、实现:実現する、组件:モジュール、准确:正確である、送:運送する、传递:送り伝える、过来:やってくる
A構文の説明
本发明的目的という主語で始まり、提供一种灌装机包装袋接收夹持装置は、「ある種の飲料充填機が提供する包装用袋を受け取って挟み持つ装置」となる。次の文の主語は该装置「この装置」であり、在转盘的连续运转中「ターンテーブルで連続して動きながら」、实现夹持组件准确接收「モジュールを挟み持って正確に受け取る」ことができ、并「その上」夹持送袋装置「袋を挟み持って送る装置」が主語となり、传递过来的包装袋「やってくる包装用袋を送り伝える」と解析できる。
B英語に準ずる考察
「1.1 因果関係」で説明した英日の技術文に関する「2段階の処理法」を中日にも試してみよう。英日と同じことが言えるかもしれないし、また中日に限った説明ができるかもしれない。同様にして、「1.2 態の扱い」「1.3否定構文」で説明した英日の分析法が中日にも適応可能かどうか考えてみる。
表14
2段階の処理法 例えば、「夹持送袋装置」は「装置が袋を挟み持って送ると」にし、「传递过来的包装袋」は「その包装用袋が伝わっていく」にする。
態の用法 能動態のため、日本語も能動態で訳出した。
否定構文 なし
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(2)本発明の目的は、ある種の飲料充填機が提供する包装用袋を受け取って挟み持つ装置に関するもので、この装置はターンテーブルで連続して動きながら、モジュールを挟み持って正確に受け取ることができ、その上、装置が袋を挟み持って送るとその包装用袋が伝わっていく。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
5.1 特許関連
現在、中国の大学で日本語教師をする傍ら、これまでの自分のキャリアを展開させるために、中国語も勉強中である。以下では中国語の技術文についてひとこと述べる。
中文からの和訳で問題になるのは、構文の取り方である。漢字が連なるため、品詞の識別がしにくいし、同じ漢字でも意味がいくつもあるため、解析が難しい。
【中文】
(1)本发明的目的是提供一种灌装机包装袋接收夹持装置,该装置可在转盘的连续运转中实现夹持组件准确接收,并夹持送袋装置传递过来的包装袋。(燃える弁理士しかく丸HP))
@用語の説明
灌装机:飲料充填機、包装:包装する、袋:袋、接收:受け取る、夹持:挟み持つ、装置:装置、该:この、在:〜に、转盘:ターンテーブル、连续:連続する、运转:動く、中:中、实现:実現する、组件:モジュール、准确:正確である、送:運送する、传递:送り伝える、过来:やってくる
A構文の説明
本发明的目的という主語で始まり、提供一种灌装机包装袋接收夹持装置は、「ある種の飲料充填機が提供する包装用袋を受け取って挟み持つ装置」となる。次の文の主語は该装置「この装置」であり、在转盘的连续运转中「ターンテーブルで連続して動きながら」、实现夹持组件准确接收「モジュールを挟み持って正確に受け取る」ことができ、并「その上」夹持送袋装置「袋を挟み持って送る装置」が主語となり、传递过来的包装袋「やってくる包装用袋を送り伝える」と解析できる。
B英語に準ずる考察
「1.1 因果関係」で説明した英日の技術文に関する「2段階の処理法」を中日にも試してみよう。英日と同じことが言えるかもしれないし、また中日に限った説明ができるかもしれない。同様にして、「1.2 態の扱い」「1.3否定構文」で説明した英日の分析法が中日にも適応可能かどうか考えてみる。
表14
2段階の処理法 例えば、「夹持送袋装置」は「装置が袋を挟み持って送ると」にし、「传递过来的包装袋」は「その包装用袋が伝わっていく」にする。
態の用法 能動態のため、日本語も能動態で訳出した。
否定構文 なし
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(2)本発明の目的は、ある種の飲料充填機が提供する包装用袋を受け取って挟み持つ装置に関するもので、この装置はターンテーブルで連続して動きながら、モジュールを挟み持って正確に受け取ることができ、その上、装置が袋を挟み持って送るとその包装用袋が伝わっていく。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳15
次の文は、モントリオール万博の映写技術に関する明細書の一部分である。
(11)Die verschiedenen oben beschriebenen Gestaltung bestreffen ein Ausführungs-
beispiel der Erfindung. In einer alternativen Ausführung können die Projektionsflächen reflektiert sein and von im Zuschauerraum installierten Projektoren beleuchtet werden. Statt der beschriebenen einen Bühne für Live-Darstellungen können deren zwei oder mehere, ebenso können zwei oder mehere Plateaus für Musiker vorhanden sein. Ferner können für die Zuschauer einfache Sitze oder auch nur Stehplätze vorgesehen sein. Auch das Gebäude kann in herkömmlicher Weise fest gebaut sein.(ドイツ特許庁公開特許公報10021981A1)
@用語の説明
Projektionsflächen(投影面)、Zuschauerraum(観客席)、Live-Darstellungen(ライブショー)、Plateaus(舞台)、einfache Sitze(簡易シート)、Stehplätze(立見席)。
A構文の説明
特許文にしては、一文が短いために比較的つかみやすい。但し、ドイツ語で発達しているテーマ・レーマが崩れないように注意すること。
B英語に準ずる考察 表13
2段階の処理法 崩さずに素直に訳出した。
態の用法 二番目の文の述部は「reflektiert sein」「beleuchtet werden」と状態受動と受動態であるが、いずれも日本語は能動態で訳出した。
否定構文 意味上の否定。auch nur Stehplätzeは「その他はなくて、立見席だけでも」と立見席を強調している。
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(12)上述された様々な形態は、本発明の実施例に該当する。その他の例では投影面が反射して、観客席に設置されたプロジェクターでも照らすことができる。ライブショー用に説明された一舞台の代わりに、ニ舞台以上が設置でき、ミュージシャン用にも二舞台以上の設置ができる。さらに観客用に簡易シートまたは立見席だけでも装備することができる。建物も従来の方法でしっかりと建てられる。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
(11)Die verschiedenen oben beschriebenen Gestaltung bestreffen ein Ausführungs-
beispiel der Erfindung. In einer alternativen Ausführung können die Projektionsflächen reflektiert sein and von im Zuschauerraum installierten Projektoren beleuchtet werden. Statt der beschriebenen einen Bühne für Live-Darstellungen können deren zwei oder mehere, ebenso können zwei oder mehere Plateaus für Musiker vorhanden sein. Ferner können für die Zuschauer einfache Sitze oder auch nur Stehplätze vorgesehen sein. Auch das Gebäude kann in herkömmlicher Weise fest gebaut sein.(ドイツ特許庁公開特許公報10021981A1)
@用語の説明
Projektionsflächen(投影面)、Zuschauerraum(観客席)、Live-Darstellungen(ライブショー)、Plateaus(舞台)、einfache Sitze(簡易シート)、Stehplätze(立見席)。
A構文の説明
特許文にしては、一文が短いために比較的つかみやすい。但し、ドイツ語で発達しているテーマ・レーマが崩れないように注意すること。
B英語に準ずる考察 表13
2段階の処理法 崩さずに素直に訳出した。
態の用法 二番目の文の述部は「reflektiert sein」「beleuchtet werden」と状態受動と受動態であるが、いずれも日本語は能動態で訳出した。
否定構文 意味上の否定。auch nur Stehplätzeは「その他はなくて、立見席だけでも」と立見席を強調している。
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(12)上述された様々な形態は、本発明の実施例に該当する。その他の例では投影面が反射して、観客席に設置されたプロジェクターでも照らすことができる。ライブショー用に説明された一舞台の代わりに、ニ舞台以上が設置でき、ミュージシャン用にも二舞台以上の設置ができる。さらに観客用に簡易シートまたは立見席だけでも装備することができる。建物も従来の方法でしっかりと建てられる。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳14
次の文は、牽引ロープ一式のエレベーターに関する明細書の一部分である。特許の根底にある課題の説明のため、課題は何かがつかめるように訳出するとよい。
【独文】
(9)Vorliegenden Erfindung liegt die Aufgabe zugrunde, den Seilaufzug des Hauptpatentes dahingehend zu verbessern, daß die Möglichkeit besteht, die Antriebseinheit mit ihrem Betonsockel in jeder beliebigen Etage eiens Gebäudes anzuordnen, und daß die Zugseile des Gegengewichtes nicht durch Löcher im Betonsockel hindurch eingefädelt werden müssen.(ドイツ連邦共和国特許庁 公開資料19752232 A1)
@用語
Seilaufzug(ロープ式エレベーター)、Antriebseinheit(駆動装置)、Betonsockel(コンクリート台)、Gegengewicht(対重、つり合いの重り)、einfädeln(針穴に糸を通す)。
A構文
主文と従属の関係になる二つのdaß文を従えていて、dahingehendがこれらの従属文を調節する副詞として効いてくる。
B英語に準ずる考察 表12
2段階の処理法 例えば、二つ目のdaß文の主部「die Zugseile des Gegengewichtes」は「対重をロープで牽引すると」にする。述部は「ロープがコンクリート台を通らなければならない」にする。
態の用法 受動態、日本語はできるだけ能動態で書く。
否定構文 「nicht durch Löcher」は「穴を通らなくてもよい」と名詞を否定している。
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(10)提出された本発明の根底には、コンクリート台の付いた駆動装置を建物の任意の階に配置でき、対重をロープで牽引するとコンクリート台の穴を通らなくてもよいように主な特許のロープ式エレベーターを改良するという課題がある。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
【独文】
(9)Vorliegenden Erfindung liegt die Aufgabe zugrunde, den Seilaufzug des Hauptpatentes dahingehend zu verbessern, daß die Möglichkeit besteht, die Antriebseinheit mit ihrem Betonsockel in jeder beliebigen Etage eiens Gebäudes anzuordnen, und daß die Zugseile des Gegengewichtes nicht durch Löcher im Betonsockel hindurch eingefädelt werden müssen.(ドイツ連邦共和国特許庁 公開資料19752232 A1)
@用語
Seilaufzug(ロープ式エレベーター)、Antriebseinheit(駆動装置)、Betonsockel(コンクリート台)、Gegengewicht(対重、つり合いの重り)、einfädeln(針穴に糸を通す)。
A構文
主文と従属の関係になる二つのdaß文を従えていて、dahingehendがこれらの従属文を調節する副詞として効いてくる。
B英語に準ずる考察 表12
2段階の処理法 例えば、二つ目のdaß文の主部「die Zugseile des Gegengewichtes」は「対重をロープで牽引すると」にする。述部は「ロープがコンクリート台を通らなければならない」にする。
態の用法 受動態、日本語はできるだけ能動態で書く。
否定構文 「nicht durch Löcher」は「穴を通らなくてもよい」と名詞を否定している。
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(10)提出された本発明の根底には、コンクリート台の付いた駆動装置を建物の任意の階に配置でき、対重をロープで牽引するとコンクリート台の穴を通らなくてもよいように主な特許のロープ式エレベーターを改良するという課題がある。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳13
次の文は、自動車やオートバイなどに使用されているディスクブレーキに関する明細書の一部分である。複雑な文章の構造や専門用語を素早く理解した上で、特許文の文体に合わせて翻訳をつけていく。
【独文】
(7)Die Erfindung bezieht sich auf eine mechanische Betätigungsvorrichtung für eine Teilbelagscheibenbremse, bei der durch Verschwenken eines Betätigungsbehegels in einer zur Bremsscheibe parallelen Ebene die beiderseits der Bremsscheibe angeordneten Bremsbacken gegensinnig bewegt und dadurch gegen Umwandlung der Schwenkbewegung des Betätigungsbehegels in eine zu seiner Schwenkebene senkrecht stehende Bewegungsrichtung zum Andrücken der Bremsbacken zwei nacheinander wirksame Übersetzungsstufen vorgesehen sind, von denen, gleich Schwenkbereich des Hebels vorausgesetzt, die erste Stufe einen größeren und die zweite Stufe einen kleineren Bremsbackenweg liefert.(ドイツ連邦共和国特許庁 公開資料1264176)
@用語
特許文に慣れるまで専門の辞典を何度も繰り返して調べるとよい。ここでは、Betätigungsvorrichtung(作動装置)、Betätigungsbehegel(作動レバー)、Bremsscheibe(ブレーキディスク)、Bremsbacken(ブレーキシュー)、dadurch(全文を受けて、それによりとする)、gegen Umwandlung(逆らって向きを変え)、zu seiner Schwenkebene senkrecht stehende Bewegungsrichtung(旋回レベルと垂直となる方向)、vorsehen(装備する)、vorausgesetzt(〜を前提にして)、Bremsbackenweg(ブレーキシューの経路)を挙げておく。
A構文
この文は、Teilbelagscheibenbremse(部分コーディングのディスクブレーキ)を先行詞とする関係代名詞bei derが二つの従属文を従えていて、そのうち後者はÜbersetzungsstufen(ギア装置)を先行詞とする関係代名詞von denenが後続の説明をしている。これは途中にピリオドのない特許文特有の長い一文になっている。
B英語に準ずる考察 表11
2段階の処理法 例えば、bei der以下の関係文の主部の「die beiderseits der Bremsscheibe angeordneten Bremsbacken」は「ブレーキシューがブレーキディスクの両側に配置されると」にし、述部は「逆方向への動きが生じ」にする。
態の用法 同じ関係文の述部にbewegt (ist) やvorgesehen istが使われている。他動詞の過去分詞とseinの人称変化との組み合せは、状態の受動を表している。
否定構文 なし
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(8)本発明は、ブレーキディスクと平行レベルで作動レバーを回すことにより、ブレーキディスクの両側に配置されたブレーキシューが逆方向に働き、それにより、作動レバーの旋回が旋回レベルと垂直になるブレーキシュー加圧の方向へ変更することに逆らって、並列に作用する二段式ギア装置が装備された部分コーティングのディスクブレーキ用のメカニカルな作動装置に関する。レバーの回転範囲が同じことを前提に、二段式ギア装置のうち一段目はこれまでよりも大きなブレーキシューの経路を、そして二段目はこれまでよりも小さなブレーキシューの経路を提供する。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
【独文】
(7)Die Erfindung bezieht sich auf eine mechanische Betätigungsvorrichtung für eine Teilbelagscheibenbremse, bei der durch Verschwenken eines Betätigungsbehegels in einer zur Bremsscheibe parallelen Ebene die beiderseits der Bremsscheibe angeordneten Bremsbacken gegensinnig bewegt und dadurch gegen Umwandlung der Schwenkbewegung des Betätigungsbehegels in eine zu seiner Schwenkebene senkrecht stehende Bewegungsrichtung zum Andrücken der Bremsbacken zwei nacheinander wirksame Übersetzungsstufen vorgesehen sind, von denen, gleich Schwenkbereich des Hebels vorausgesetzt, die erste Stufe einen größeren und die zweite Stufe einen kleineren Bremsbackenweg liefert.(ドイツ連邦共和国特許庁 公開資料1264176)
@用語
特許文に慣れるまで専門の辞典を何度も繰り返して調べるとよい。ここでは、Betätigungsvorrichtung(作動装置)、Betätigungsbehegel(作動レバー)、Bremsscheibe(ブレーキディスク)、Bremsbacken(ブレーキシュー)、dadurch(全文を受けて、それによりとする)、gegen Umwandlung(逆らって向きを変え)、zu seiner Schwenkebene senkrecht stehende Bewegungsrichtung(旋回レベルと垂直となる方向)、vorsehen(装備する)、vorausgesetzt(〜を前提にして)、Bremsbackenweg(ブレーキシューの経路)を挙げておく。
A構文
この文は、Teilbelagscheibenbremse(部分コーディングのディスクブレーキ)を先行詞とする関係代名詞bei derが二つの従属文を従えていて、そのうち後者はÜbersetzungsstufen(ギア装置)を先行詞とする関係代名詞von denenが後続の説明をしている。これは途中にピリオドのない特許文特有の長い一文になっている。
B英語に準ずる考察 表11
2段階の処理法 例えば、bei der以下の関係文の主部の「die beiderseits der Bremsscheibe angeordneten Bremsbacken」は「ブレーキシューがブレーキディスクの両側に配置されると」にし、述部は「逆方向への動きが生じ」にする。
態の用法 同じ関係文の述部にbewegt (ist) やvorgesehen istが使われている。他動詞の過去分詞とseinの人称変化との組み合せは、状態の受動を表している。
否定構文 なし
時制 現在形
全体の訳は次のようになる。
【和訳】
(8)本発明は、ブレーキディスクと平行レベルで作動レバーを回すことにより、ブレーキディスクの両側に配置されたブレーキシューが逆方向に働き、それにより、作動レバーの旋回が旋回レベルと垂直になるブレーキシュー加圧の方向へ変更することに逆らって、並列に作用する二段式ギア装置が装備された部分コーティングのディスクブレーキ用のメカニカルな作動装置に関する。レバーの回転範囲が同じことを前提に、二段式ギア装置のうち一段目はこれまでよりも大きなブレーキシューの経路を、そして二段目はこれまでよりも小さなブレーキシューの経路を提供する。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳12
4 特許文
4.1 翻訳技法
2005年6月、日本の政府が管理する知的財産戦略本部は、「知的財産戦略計画2005」をまとめた。ここでは特に日米欧の特許相互認証について考えてみる。この取り組みの目標は世界特許システムの構築である。毎年、国内及び海外に同時に出願する企業が増えている。その折、手続きや費用の負担や審査の複雑さや遅延が問題になる。そのため世界共通の基盤となる特許システムを構築し、手続きの合理化や審査の相違及び重複を少なくすることが、特許制度を利用する側と運営する側との共通の利点になる。
日米欧の特許システムとは、日本、米国及び欧州が相互に承認する仕組みである。日米欧の企業による技術開発や実務レベルはほぼ同レベルにあるため、他国における特許審査を活用することを目的とし、さらに特許権の付与については従来通り各国の特許庁がするため、属地的ではなくなる。(3)
米国と日本の特許明細書は、記載項目についてほぼ対応している。しかし、項目が記載される順番が異なる。翻訳の際には、記載順序についても変更する必要がある。ここでは特にクレームの書き方について説明する。クレームは独占的な権利を得るべき発明技術の範囲を文字通り表現しており、先行技術に触れることなくできるだけ範囲を広げて記載し、不明確でなく複数の解釈ができないように一語一語厳選するため、この部分の翻訳は難しいとされる。
【英文】
(1)An information apparatus according to Claim 1, wherein the power of said recording light source is controlled by a control unit in accordance with the type of said recording medium.(知財翻訳研究所編1999)
@用語
ここでは、in accordance with(〜に応じて)、according to Claim 1, wherein(〜を特徴とする請求項1に記載の)を挙げておく。
A構文
この文章は、wherein以下が従属文となって、クレームの内容を説明している。
B考察 表8
2段階の処理法 特許文の場合、according to Claim 1, whereinが「〜を特徴とする請求項1に記載の〜」という定訳になる。
態の用法 英文の受動態はそのまま受動態に和訳する。
否定構文 なし
時制 現在形
【和訳】
(2)記録媒体の種類に応じて記録光源の出力が制御装置によって制御されることを特徴とする請求項1に記載の情報記録装置。
【英文】
(3)An information recording apparatus, comprising: a receiver unit for receiving information to be recorded in the form of a binary electric signal, wherein a light beam from a recording light source is modulated in accordance with the received signal so as to form, through an optical system, a beam spot on a recording medium in which recording is to be made.(知財翻訳研究所編1999)
@用語
ここでは、comprising(〜を有し)、binary electric signal (2値化電気信号)、light beam(記録光)、light source(光源)、modulate(変調する)、so as to form(〜して〜を形成する)、optical system(光学系)、recording medium(記録媒体)を挙げておく。
A構文
comprising 以下で装置の形態を説明し、wherein 以下の従属文で装置の機能を説明し、so asで結果的にクレームの内容の後半を述べている。
B考察 表9
2段階の処理法 An information recording apparatus, 〜, wherein〜は、「〜することに特徴がある情報記録装置」という訳になる。
態の用法 受動態 a light beam from a recording light source is modulated in accordance with〜は、「〜に応じて光源からの記録光を変調して」と能動態で訳出し、to 不定詞のto be recorded やis to be madeは受動態で訳出する。
否定構文 なし
時制 現在形
【和訳】
(4)記録されるべき情報を2値化電気信号の形で受け取る受信部を有し、受信された信号に応じて光源からの記録光を変調して光学系を介して記録されるべき記録媒体に光スポットを形成することに特徴がある情報記録装置。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
4.1 翻訳技法
2005年6月、日本の政府が管理する知的財産戦略本部は、「知的財産戦略計画2005」をまとめた。ここでは特に日米欧の特許相互認証について考えてみる。この取り組みの目標は世界特許システムの構築である。毎年、国内及び海外に同時に出願する企業が増えている。その折、手続きや費用の負担や審査の複雑さや遅延が問題になる。そのため世界共通の基盤となる特許システムを構築し、手続きの合理化や審査の相違及び重複を少なくすることが、特許制度を利用する側と運営する側との共通の利点になる。
日米欧の特許システムとは、日本、米国及び欧州が相互に承認する仕組みである。日米欧の企業による技術開発や実務レベルはほぼ同レベルにあるため、他国における特許審査を活用することを目的とし、さらに特許権の付与については従来通り各国の特許庁がするため、属地的ではなくなる。(3)
米国と日本の特許明細書は、記載項目についてほぼ対応している。しかし、項目が記載される順番が異なる。翻訳の際には、記載順序についても変更する必要がある。ここでは特にクレームの書き方について説明する。クレームは独占的な権利を得るべき発明技術の範囲を文字通り表現しており、先行技術に触れることなくできるだけ範囲を広げて記載し、不明確でなく複数の解釈ができないように一語一語厳選するため、この部分の翻訳は難しいとされる。
【英文】
(1)An information apparatus according to Claim 1, wherein the power of said recording light source is controlled by a control unit in accordance with the type of said recording medium.(知財翻訳研究所編1999)
@用語
ここでは、in accordance with(〜に応じて)、according to Claim 1, wherein(〜を特徴とする請求項1に記載の)を挙げておく。
A構文
この文章は、wherein以下が従属文となって、クレームの内容を説明している。
B考察 表8
2段階の処理法 特許文の場合、according to Claim 1, whereinが「〜を特徴とする請求項1に記載の〜」という定訳になる。
態の用法 英文の受動態はそのまま受動態に和訳する。
否定構文 なし
時制 現在形
【和訳】
(2)記録媒体の種類に応じて記録光源の出力が制御装置によって制御されることを特徴とする請求項1に記載の情報記録装置。
【英文】
(3)An information recording apparatus, comprising: a receiver unit for receiving information to be recorded in the form of a binary electric signal, wherein a light beam from a recording light source is modulated in accordance with the received signal so as to form, through an optical system, a beam spot on a recording medium in which recording is to be made.(知財翻訳研究所編1999)
@用語
ここでは、comprising(〜を有し)、binary electric signal (2値化電気信号)、light beam(記録光)、light source(光源)、modulate(変調する)、so as to form(〜して〜を形成する)、optical system(光学系)、recording medium(記録媒体)を挙げておく。
A構文
comprising 以下で装置の形態を説明し、wherein 以下の従属文で装置の機能を説明し、so asで結果的にクレームの内容の後半を述べている。
B考察 表9
2段階の処理法 An information recording apparatus, 〜, wherein〜は、「〜することに特徴がある情報記録装置」という訳になる。
態の用法 受動態 a light beam from a recording light source is modulated in accordance with〜は、「〜に応じて光源からの記録光を変調して」と能動態で訳出し、to 不定詞のto be recorded やis to be madeは受動態で訳出する。
否定構文 なし
時制 現在形
【和訳】
(4)記録されるべき情報を2値化電気信号の形で受け取る受信部を有し、受信された信号に応じて光源からの記録光を変調して光学系を介して記録されるべき記録媒体に光スポットを形成することに特徴がある情報記録装置。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳11
【例文】
(7)Wir behandeln Informationen und Geschäftsgeheimnisse vertraulich. Mitarbeitende, die Zutritt zu vertraulichen Informationen oder Geschäftsgeheimnisse von Uster Gruppe oder einer Tochtergesellschaft haben, dürfen diese Informationen nicht an Dritte (dazu zählen auch Freunde oder Familienangehörige) weitergeben oder sie zu anderen als geschäftlichen Zwecken verwenden.
@用語
ここでは、Geschäftsgeheimnisse(企業秘密)、Tochtergesellschaft(子会社)、Familienangehörige(家族の構成員)
A構文
第二文は、主語が関係文を従えていて、述語は助動詞dürfenとweitergeben及びverwendenによる枠構造である。
B考察 表7
2段階の処理 最初の文は、主語がWirのため受動文として和訳する。第二文の主語Mitarbeitendeは関係代名詞die を受けていて、述語は助動詞dürfenとweitergeben及びverwendenによる枠構造である。
態の用法 能動態
否定構文 dürfen〜nicht an Dritte weitergebenは、「第三者に渡してはならない」という禁止の意味。
時制 現在形
【和訳】
(8)情報と企業機密は秘密裏に処理される。Uster グループまたは子会社の内密な情報または企業機密に立ち入ることができる従業員は、第三者 (これには友人または家族の構成員も含まれる) に情報を渡したり、仕事の目的以外で情報を使用してはならない。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
(7)Wir behandeln Informationen und Geschäftsgeheimnisse vertraulich. Mitarbeitende, die Zutritt zu vertraulichen Informationen oder Geschäftsgeheimnisse von Uster Gruppe oder einer Tochtergesellschaft haben, dürfen diese Informationen nicht an Dritte (dazu zählen auch Freunde oder Familienangehörige) weitergeben oder sie zu anderen als geschäftlichen Zwecken verwenden.
@用語
ここでは、Geschäftsgeheimnisse(企業秘密)、Tochtergesellschaft(子会社)、Familienangehörige(家族の構成員)
A構文
第二文は、主語が関係文を従えていて、述語は助動詞dürfenとweitergeben及びverwendenによる枠構造である。
B考察 表7
2段階の処理 最初の文は、主語がWirのため受動文として和訳する。第二文の主語Mitarbeitendeは関係代名詞die を受けていて、述語は助動詞dürfenとweitergeben及びverwendenによる枠構造である。
態の用法 能動態
否定構文 dürfen〜nicht an Dritte weitergebenは、「第三者に渡してはならない」という禁止の意味。
時制 現在形
【和訳】
(8)情報と企業機密は秘密裏に処理される。Uster グループまたは子会社の内密な情報または企業機密に立ち入ることができる従業員は、第三者 (これには友人または家族の構成員も含まれる) に情報を渡したり、仕事の目的以外で情報を使用してはならない。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳10
【例文】
(5)Kartellrechtliche Bestimmungen gelten in der Regel nicht nur für das geschäftliche Handeln innerhalb eines bestimmten Landes selbst, sondern erfassen auch Transaktionen ausserhalb des Landes, wenn diese wesentliche Auswirkungen auf den Binnenwettbewerb haben.
@用語
ここでは、Kartellrechtliche Bestimmungen(カルテル法の規定)、in der Regel (通常)、selbst(自動的に)、Binnenwettbewerb(内部の競争)、
A構文
Kartellrechtliche Bestimmungenが主語で、gilt für〜が述語であり、そこにnicht nur〜sondern auch〜が重なる。後半の従属文は、sondern auch以下に掛かる。
B考察 表6
2段階の処理法 主語は「Kartellrechtliche Bestimmungen」で、述語は「gilt für〜」である。これに「nicht nur〜sondern auch〜」が重なるが、前後半で対比が出るように考える。例えば、「業務行為に適用されるが、〜にも適用される」とする。
態の用法 述語の「gilt für〜」は能動態。
否定構文 nicht nur〜sondern auch は、それに続くzu不定詞句を否定している。
時制 現在形
【和訳】
(6)カルテル法の規定は、通常、特定の国で自動的に業務行為に適用されるが、内部の競争に本質的に作用する場合は、国外での業務行為にも適用される。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
(5)Kartellrechtliche Bestimmungen gelten in der Regel nicht nur für das geschäftliche Handeln innerhalb eines bestimmten Landes selbst, sondern erfassen auch Transaktionen ausserhalb des Landes, wenn diese wesentliche Auswirkungen auf den Binnenwettbewerb haben.
@用語
ここでは、Kartellrechtliche Bestimmungen(カルテル法の規定)、in der Regel (通常)、selbst(自動的に)、Binnenwettbewerb(内部の競争)、
A構文
Kartellrechtliche Bestimmungenが主語で、gilt für〜が述語であり、そこにnicht nur〜sondern auch〜が重なる。後半の従属文は、sondern auch以下に掛かる。
B考察 表6
2段階の処理法 主語は「Kartellrechtliche Bestimmungen」で、述語は「gilt für〜」である。これに「nicht nur〜sondern auch〜」が重なるが、前後半で対比が出るように考える。例えば、「業務行為に適用されるが、〜にも適用される」とする。
態の用法 述語の「gilt für〜」は能動態。
否定構文 nicht nur〜sondern auch は、それに続くzu不定詞句を否定している。
時制 現在形
【和訳】
(6)カルテル法の規定は、通常、特定の国で自動的に業務行為に適用されるが、内部の競争に本質的に作用する場合は、国外での業務行為にも適用される。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳9
【例文】
(3)Das Kartellrecht gilt für alle geschäftlichen Vereinbarungen, unabhängig von deren Form, sowie für die Geschäftsführung im Allgemeinen. Es gilt dagegen normalerweise nicht für geschäftliche Transaktionen zwischen verschiedenen Gesellschaften innerhalb der Uster Gruppe. (Uster グループ行動基準より)
@用語
ここでは、Kartellrecht(カルテル法)、gilt für〜(〜に適用される)、unabhängig von〜(〜に関係なく)、Geschäftsführung(業務執行)、Transaktionen(業務行為)
A構文
最初の文は、Kartellrechtが主語で、gilt für〜sowie für〜が述語。次の文は、dagegenで受けて反対の内容を説明している。
B考察 表5
2段階の処理法 第一文と第二文は、主語が「Kartellrecht」で、述語は「gilt für〜sowie für〜」である。これを「AはBである」と二段に考える。例えば、「カルテル法の適用は〜である」。それに対して、「〜には適用されない」とする。
態の用法 述語の「gilt für〜」は能動態。
否定構文 「Es gilt dagegen normalerweise nicht für〜」は、それに対してという対比の意味になる。
時制 現在形
【和訳】
(4)カルテル法は、形式とは関係なく全ての業務協定ならびに一般に業務執行に適用される。それに対して、通常Uster グループ内の様々な企業間の業務上の行為には適用されない。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
(3)Das Kartellrecht gilt für alle geschäftlichen Vereinbarungen, unabhängig von deren Form, sowie für die Geschäftsführung im Allgemeinen. Es gilt dagegen normalerweise nicht für geschäftliche Transaktionen zwischen verschiedenen Gesellschaften innerhalb der Uster Gruppe. (Uster グループ行動基準より)
@用語
ここでは、Kartellrecht(カルテル法)、gilt für〜(〜に適用される)、unabhängig von〜(〜に関係なく)、Geschäftsführung(業務執行)、Transaktionen(業務行為)
A構文
最初の文は、Kartellrechtが主語で、gilt für〜sowie für〜が述語。次の文は、dagegenで受けて反対の内容を説明している。
B考察 表5
2段階の処理法 第一文と第二文は、主語が「Kartellrecht」で、述語は「gilt für〜sowie für〜」である。これを「AはBである」と二段に考える。例えば、「カルテル法の適用は〜である」。それに対して、「〜には適用されない」とする。
態の用法 述語の「gilt für〜」は能動態。
否定構文 「Es gilt dagegen normalerweise nicht für〜」は、それに対してという対比の意味になる。
時制 現在形
【和訳】
(4)カルテル法は、形式とは関係なく全ての業務協定ならびに一般に業務執行に適用される。それに対して、通常Uster グループ内の様々な企業間の業務上の行為には適用されない。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳8
3 ドイツ語の技術文
英語の技術文に準ずる形で説明していく。
【例文】
(1)Wir stellen sicher, daß für Lieferungen und Dienste keine unangemessene Zahlungen oder anderweitige Vorteile zu persönlicher Verwendung oder zur Begünstigung Dritter verlangt oder angeboten, gewährt oder angenommen, versucht, unterstützt oder verschwiegen werden, insbesondere nicht, um einen Beschaffungsvertrag abzuschliessen oder aufrecht zu erhalten.(Uster グループ行動基準より)
@用語
ここでは、Lieferungen(納入)、Dienste(サービス)、Vorteile(利益)、Begünstigung Dritter(第三者の優遇措置)、Beschaffungsvertrag(調達の契約)
A構文
この文は、Wir stellen sicherが主文で、daß以下が従属文ある。
B考察 表4
2段階の処理法 例えば、主文の「Wir stellen sicher」は、従属文を「確定する」とし、zu不定詞句は、従属文の補足説明と考える。
態の用法 従属文の述部に「verlangt oder angeboten, gewährt oder angenommen, versucht, unterstützt oder verschwiegen werden」が使われている。他動詞の過去分詞とwerdenとの組み合せは、従属文の主語が複数形の受動態であることを示している。
否定構文 insbesondere nichtは、それに続くzu不定詞句を否定している。
時制 現在形
【和訳】
(2)納入やサービスのために、不適切な支払いまたはその他の利益が個人の使用または第三者の優遇措置のために要求されずまたは提供されず、保証または想定もされず、試みも支援も口外もされないことを確定する。これは、特別、調達の契約を締結したり保持するためではない。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
英語の技術文に準ずる形で説明していく。
【例文】
(1)Wir stellen sicher, daß für Lieferungen und Dienste keine unangemessene Zahlungen oder anderweitige Vorteile zu persönlicher Verwendung oder zur Begünstigung Dritter verlangt oder angeboten, gewährt oder angenommen, versucht, unterstützt oder verschwiegen werden, insbesondere nicht, um einen Beschaffungsvertrag abzuschliessen oder aufrecht zu erhalten.(Uster グループ行動基準より)
@用語
ここでは、Lieferungen(納入)、Dienste(サービス)、Vorteile(利益)、Begünstigung Dritter(第三者の優遇措置)、Beschaffungsvertrag(調達の契約)
A構文
この文は、Wir stellen sicherが主文で、daß以下が従属文ある。
B考察 表4
2段階の処理法 例えば、主文の「Wir stellen sicher」は、従属文を「確定する」とし、zu不定詞句は、従属文の補足説明と考える。
態の用法 従属文の述部に「verlangt oder angeboten, gewährt oder angenommen, versucht, unterstützt oder verschwiegen werden」が使われている。他動詞の過去分詞とwerdenとの組み合せは、従属文の主語が複数形の受動態であることを示している。
否定構文 insbesondere nichtは、それに続くzu不定詞句を否定している。
時制 現在形
【和訳】
(2)納入やサービスのために、不適切な支払いまたはその他の利益が個人の使用または第三者の優遇措置のために要求されずまたは提供されず、保証または想定もされず、試みも支援も口外もされないことを確定する。これは、特別、調達の契約を締結したり保持するためではない。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳7
2.4 時制
技術文は、製品の技術的な内容が意識されているため、詳細な時間の説明よりも、「AをするとBになる」といった操作の説明の方が多い。時制で言えば、現在形の使用頻度が高いのも当然である。
(62)メーターの揺れが最大許容範囲を超えたら、ディスクを交換しなければならない。
(63)If the meter deflects in excess of the maximum allowable limit, the disc must be relaced.
但し、操作の流れの中では完了形が使用される。
(64)新しいプロジェクトを判定するのに必要な情報は、ほとんどすべて収集し終えた。
(65)They have collected almost all information necessary to evaluate a new project.
(66)車両駐車は多くの工場や配送センターなどで深刻な問題になっている。
(67)Parking has become a serious problem at many industrial plants and distribution centers.
(64)と(65)は、動作の完了を表している。つまり、ある動作が現時点で完了していることが説明されている。一方、(66)と(67)は、動作の後の結果を表している。
完了形にはさらに経験(68)、(69)や状態の継続(70)、(71)に関する用法がある。
(68)過去にも同じ問題を経験している。
(69)They have experienced the same problem in the past.
(70)石油は電力回路に使用される標準的作動油である。
(71)Petroleum oils have been the standard hydraulic fluid used in power circuit.
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
技術文は、製品の技術的な内容が意識されているため、詳細な時間の説明よりも、「AをするとBになる」といった操作の説明の方が多い。時制で言えば、現在形の使用頻度が高いのも当然である。
(62)メーターの揺れが最大許容範囲を超えたら、ディスクを交換しなければならない。
(63)If the meter deflects in excess of the maximum allowable limit, the disc must be relaced.
但し、操作の流れの中では完了形が使用される。
(64)新しいプロジェクトを判定するのに必要な情報は、ほとんどすべて収集し終えた。
(65)They have collected almost all information necessary to evaluate a new project.
(66)車両駐車は多くの工場や配送センターなどで深刻な問題になっている。
(67)Parking has become a serious problem at many industrial plants and distribution centers.
(64)と(65)は、動作の完了を表している。つまり、ある動作が現時点で完了していることが説明されている。一方、(66)と(67)は、動作の後の結果を表している。
完了形にはさらに経験(68)、(69)や状態の継続(70)、(71)に関する用法がある。
(68)過去にも同じ問題を経験している。
(69)They have experienced the same problem in the past.
(70)石油は電力回路に使用される標準的作動油である。
(71)Petroleum oils have been the standard hydraulic fluid used in power circuit.
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳6
また、準否定詞や意味上の否定詞をまとめた間接的な否定詞の構文もある。前者には、seldam、rarely、hardlyなどがあり、後者には、only、rather than、free fromなどがある。まず準否定詞の例を見てみよう。
(36)仕様書の書き手は、自分のことを滅多にライターだと思わない。
(37)The specification writer seldom considers himself a “writer.” (ピリオドの位置に注意すること。)(技術英語構文辞典)
(38)こうした状況はまれにしか起きない。
(39)Such condition will rarely arise.
(40)時間が殆どない。
(41)There is hardly any time.
(42)その計算はコンピュータなしには難しいだろう。
(43)The calculations would be very difficult without a computer.
(44)特種なアプリケーションソフトに必要でない限り、そのコマンドを使用しないこと。
(45)Don’t use the command unless it is necessary for a particular application software.
(46)全ての角は、特に指定されない限り面取りすることにする。
(47)All corners shall be chamfered unless otherwise specified.
「unless otherwise+過去分詞」は「特に〜されない限り」という慣用表現である。例えば、unless otherwise required「特に要求されない限り」、unless otherwise noted「特に銘記されない限り」、unless otherwise instructed「特に指示されない限り」などが挙げられる。
次に、意味上の否定詞を見てみよう。
(48)水はインパルスホイールの一部分にしか接触していない。
(49)Water is in contact with only a portion of an impulse wheel.(技術英語構文辞典)
ここでin contact withは状態を表し、「接触する」という行為や動作の場合には、contact withを用いる。(5)
(50)表面には酸化物のような膜がないこと。
(51)The surface is free from films such as oxides.
(52)私たちはレーザーではなく、LEDを使用している。
(53)We also use LEDs rather than lasers.
否定構文の最後は、技術文で頻繁に使用される慣用表現を見ていこう。頻度の高いものが参考になる。(5)
(54)入力信号が弱すぎてノイズの音を無視できない。
(55)The incoming signal is too weak to override the noise.(技術英語構文辞典)
本動詞の主語とto不定詞の主語が意味上一致している。
(56)鮮鋭度の実際の差は小さ過ぎて、人間の目には見えない。
(57)The actual difference in sharpness is too small for the human eye to see.
本動詞の主語とto不定詞の主語が一致していない場合には、too〜to doの間にfor〜を入れるとよい。ここでは、for the human eyeがそれである。(5)
(58)これらの回路は過渡速度を制限するだけでなく、切り替え速度も遅くする。
(59)These circuits not only limit transients but also slow switching speed.
(60)いかにプロセスが複雑であろうと、これは正しい。
(61)This is true no matter how complicated the process is.
「no matter+ how/what/which/where/whose/whether」などの関係詞を伴い、「いかに_であろうと」、「何が_であろと」「どれが_であろうと」「どこが_であろうと」「誰の_であろうと」「_であろうと_であろうと」という慣用表現の意味になる)
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
(36)仕様書の書き手は、自分のことを滅多にライターだと思わない。
(37)The specification writer seldom considers himself a “writer.” (ピリオドの位置に注意すること。)(技術英語構文辞典)
(38)こうした状況はまれにしか起きない。
(39)Such condition will rarely arise.
(40)時間が殆どない。
(41)There is hardly any time.
(42)その計算はコンピュータなしには難しいだろう。
(43)The calculations would be very difficult without a computer.
(44)特種なアプリケーションソフトに必要でない限り、そのコマンドを使用しないこと。
(45)Don’t use the command unless it is necessary for a particular application software.
(46)全ての角は、特に指定されない限り面取りすることにする。
(47)All corners shall be chamfered unless otherwise specified.
「unless otherwise+過去分詞」は「特に〜されない限り」という慣用表現である。例えば、unless otherwise required「特に要求されない限り」、unless otherwise noted「特に銘記されない限り」、unless otherwise instructed「特に指示されない限り」などが挙げられる。
次に、意味上の否定詞を見てみよう。
(48)水はインパルスホイールの一部分にしか接触していない。
(49)Water is in contact with only a portion of an impulse wheel.(技術英語構文辞典)
ここでin contact withは状態を表し、「接触する」という行為や動作の場合には、contact withを用いる。(5)
(50)表面には酸化物のような膜がないこと。
(51)The surface is free from films such as oxides.
(52)私たちはレーザーではなく、LEDを使用している。
(53)We also use LEDs rather than lasers.
否定構文の最後は、技術文で頻繁に使用される慣用表現を見ていこう。頻度の高いものが参考になる。(5)
(54)入力信号が弱すぎてノイズの音を無視できない。
(55)The incoming signal is too weak to override the noise.(技術英語構文辞典)
本動詞の主語とto不定詞の主語が意味上一致している。
(56)鮮鋭度の実際の差は小さ過ぎて、人間の目には見えない。
(57)The actual difference in sharpness is too small for the human eye to see.
本動詞の主語とto不定詞の主語が一致していない場合には、too〜to doの間にfor〜を入れるとよい。ここでは、for the human eyeがそれである。(5)
(58)これらの回路は過渡速度を制限するだけでなく、切り替え速度も遅くする。
(59)These circuits not only limit transients but also slow switching speed.
(60)いかにプロセスが複雑であろうと、これは正しい。
(61)This is true no matter how complicated the process is.
「no matter+ how/what/which/where/whose/whether」などの関係詞を伴い、「いかに_であろうと」、「何が_であろと」「どれが_であろうと」「どこが_であろうと」「誰の_であろうと」「_であろうと_であろうと」という慣用表現の意味になる)
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳5
2.3 否定構文
否定構文は日本語と英語で形が異なる。例えば、日本語の否定詞(非、否、不、無)は述語の後ろに来るが、英語は、主語であれ目的語であれ、否定詞が名詞の前に来ることが多い。(5) 訳出も交えて、否定詞の文中での位置取りについて見ていこう。
まず、名詞の前に来る場合を考える。(22)と(24)の場合、主語と目的語の前に否定詞が付いている。これは完全否定と理解する。
(21)アナログ・ネットワーク全体に対して、同じサービスをすることはできない。
(22)No equivalent service is possible over analog networks.(技術英語構文辞典)
(23)ワイヤーフレームには表面に関する情報が含まれていない。
(24)Wire frames contain no information about the surface.
可算名詞の前に来るfewと不可算名詞の前に来るlittleについても同じことが言える。
(25)初めての仕事でコピーを正確に書けるライターは殆どいない。
(26)Few writers are capable of writing copy correctly the first time.
(27)それはほとんど光を出さない。
(28)It emits little light.
なお、(26)と(28)の修飾語がvery fewとvery littleになると、「限りなく殆ど皆無に近い」という意味になる。
上述の例が文章全体を否定するのに対して、部分否定の構文もある。例えば、not allやnot everyはものに対して用いられ、not alwaysはときやことに対して用いられる。(5)
(30)すべてのコンピュータが接続を必要とするわけではない。
(31)Not all computers require connections.
(32)すべてのコマンドをテストしたわけではない。
(33)Not every command was tested.
(34)英語のライティングではこのことが常に正しいわけではない。
(35)In English writing, this is not always true.
花村嘉英(2018)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
否定構文は日本語と英語で形が異なる。例えば、日本語の否定詞(非、否、不、無)は述語の後ろに来るが、英語は、主語であれ目的語であれ、否定詞が名詞の前に来ることが多い。(5) 訳出も交えて、否定詞の文中での位置取りについて見ていこう。
まず、名詞の前に来る場合を考える。(22)と(24)の場合、主語と目的語の前に否定詞が付いている。これは完全否定と理解する。
(21)アナログ・ネットワーク全体に対して、同じサービスをすることはできない。
(22)No equivalent service is possible over analog networks.(技術英語構文辞典)
(23)ワイヤーフレームには表面に関する情報が含まれていない。
(24)Wire frames contain no information about the surface.
可算名詞の前に来るfewと不可算名詞の前に来るlittleについても同じことが言える。
(25)初めての仕事でコピーを正確に書けるライターは殆どいない。
(26)Few writers are capable of writing copy correctly the first time.
(27)それはほとんど光を出さない。
(28)It emits little light.
なお、(26)と(28)の修飾語がvery fewとvery littleになると、「限りなく殆ど皆無に近い」という意味になる。
上述の例が文章全体を否定するのに対して、部分否定の構文もある。例えば、not allやnot everyはものに対して用いられ、not alwaysはときやことに対して用いられる。(5)
(30)すべてのコンピュータが接続を必要とするわけではない。
(31)Not all computers require connections.
(32)すべてのコマンドをテストしたわけではない。
(33)Not every command was tested.
(34)英語のライティングではこのことが常に正しいわけではない。
(35)In English writing, this is not always true.
花村嘉英(2018)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳4
2.2 態の扱い
日本語では主語のない文が存在するため、英訳の際に工夫が必要になる。英語は物を主語にして文を作るため、英語の場合、日本語の目的語を主語にして、動詞の態を変換させる。
(14)レバーを引くとケースの蓋が開く。
(15)When the lever is pulled, the casing cover is opened.
つまり、「レバーを引く」を「レバーが引かれる」と発想する。レバーが主語になり、動詞の態も日本語の能動態から英語の受動態に変わってくる。
ここで一つ注意するポイントがある。日本語は行為を表す場合、能動態で書かれ、状態を表す場合、受動態で書かれる。記述の内容が行為か状態かは、前後関係から判断する。
(16)カバーを開ける。(行為)
(17)カバーが開けられている。(状態)
(18)The cover is opened.
技術文の「__は・・する」を英訳する場合、自動詞を使用して訳すことができるが、「__を・・する」の場合は、受動態を使用すると言われる。
(19)抵抗を小さくすると、電流は高くなる。
(20)When resistance is decreased, current will increase.
しかし、何も全ての技術文を自動的にこの法則に当てはめなくてもよい。態を決定する際のポイントが他にもあるからである。例えば、行為者がわかっている場合には、英語も能動態の方が直接的で力強いようである。もちろん行為者がはっきりしない場合には、受動態を使用して説明する。さらに文脈を通して主語で態を調節することもできる。
表3 技術文の翻訳プロセス(態)
翻訳作業 入力文
説明 「レバーを引くとケースの蓋が開く。」
翻訳作業 第一段階
説明 英語は物を主語にして文を作るため、日本語の目的語を主語にして、動詞の態を変換させる。
翻訳作業 第2段階
説明 「レバーを引く」を「レバーが引かれる」と発想する。レバーが主語になり、動詞の態も日本語の能動態から英語の受動態に変わる。
花村嘉英(2018)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
日本語では主語のない文が存在するため、英訳の際に工夫が必要になる。英語は物を主語にして文を作るため、英語の場合、日本語の目的語を主語にして、動詞の態を変換させる。
(14)レバーを引くとケースの蓋が開く。
(15)When the lever is pulled, the casing cover is opened.
つまり、「レバーを引く」を「レバーが引かれる」と発想する。レバーが主語になり、動詞の態も日本語の能動態から英語の受動態に変わってくる。
ここで一つ注意するポイントがある。日本語は行為を表す場合、能動態で書かれ、状態を表す場合、受動態で書かれる。記述の内容が行為か状態かは、前後関係から判断する。
(16)カバーを開ける。(行為)
(17)カバーが開けられている。(状態)
(18)The cover is opened.
技術文の「__は・・する」を英訳する場合、自動詞を使用して訳すことができるが、「__を・・する」の場合は、受動態を使用すると言われる。
(19)抵抗を小さくすると、電流は高くなる。
(20)When resistance is decreased, current will increase.
しかし、何も全ての技術文を自動的にこの法則に当てはめなくてもよい。態を決定する際のポイントが他にもあるからである。例えば、行為者がわかっている場合には、英語も能動態の方が直接的で力強いようである。もちろん行為者がはっきりしない場合には、受動態を使用して説明する。さらに文脈を通して主語で態を調節することもできる。
表3 技術文の翻訳プロセス(態)
翻訳作業 入力文
説明 「レバーを引くとケースの蓋が開く。」
翻訳作業 第一段階
説明 英語は物を主語にして文を作るため、日本語の目的語を主語にして、動詞の態を変換させる。
翻訳作業 第2段階
説明 「レバーを引く」を「レバーが引かれる」と発想する。レバーが主語になり、動詞の態も日本語の能動態から英語の受動態に変わる。
花村嘉英(2018)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳3
日本語からそのまま英語の表現が思いつく場合もあるが、双方の発想の違いがつかめないと思い浮かばないこともある。日本語の「〜して〜する」という表現は、結果の表現と見なすこともできるし、何かの後にという意味にも取ることができる。
(3)ノブを右に回して設定温度を下げてください。
(4)カバーを外して電池を交換してください。
(3)は、ノブを回した結果、設定温度が下がるとして、(5)のような結果を表すto不定詞の構文にする。また(4)は、カバーを外してから電池を外すという意味に取れる。そのため、(6)のようにandでつなげばよい。
(5)Rotate the knob clockwise to lower the set temperature. (技術英語構文辞典)
(6)Remove the cover and replace the battery.
関係代名詞を用いて結果を表す場合もある。これは前文を先行詞として取り、これが原因でその結果が関係代名詞により表現されるとする。
(7)カメラのシャッターボタンを押すと、スプリングがリングを動かして、ブレードを開く。
(7)の最後の部分が問題になる。それより前の部分は先行詞として主語となり、最後の部分が結果として表される。
(8)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring, which in turn opens the blade.(技術英語構文辞典)
(8)の後半部は、上述のto不定詞や分詞構文でも書くことができる。
(9)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring to open the blade.
(10)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring opening the blade.
(8)、(9)、(10)は、いずれも二つの因果関係を一つの文で記している。これらの二つの因果関係は、二つの文で表記することもできる。前文をThisで受けて、新規で文を作ればよい。
(11)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring. This opens the blade.
技術文は、因果関係の連鎖である。そのため、様々な書き方のテクニックを覚えるとよい。
(12)検出領域内の赤外線が増大すると、回路点130の電圧が増大し、逆に、赤外線が低下すると、回路点130の電圧が低下する。
「検出領域内の赤外線が増大すると」を「検出領域における赤外線の増加」として、「A increase of the infrared radiation in the sensing area」と考える。また、「赤外線が低下すると」は「赤外線の低下」として、「A decrease of the infrared radiation」とする。
(13)An increase of the infrared radiation in the sensing area increases the voltage at node 130. A decrease of the infrared radiation will decrease the voltage at node 130.(USP4,618,770)
結果の書き方についてそもそも日本語と英語で発想が異なる場合がある。こうした英語の表現について接続詞を見ながら考えてみよう。
接続詞のtherefore、accordingly、consequentlyはいずれも「従って」という意味である。形式的な表現であるが、特にthereforeは技術文でもよく見かける。接続の近さから言うと、therefore、accordingly、consequentlyの順で強から弱になる。但し、これらの表現は日本語と一対一にはならない。一対一にすると英語は書きすぎの感がある。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
(3)ノブを右に回して設定温度を下げてください。
(4)カバーを外して電池を交換してください。
(3)は、ノブを回した結果、設定温度が下がるとして、(5)のような結果を表すto不定詞の構文にする。また(4)は、カバーを外してから電池を外すという意味に取れる。そのため、(6)のようにandでつなげばよい。
(5)Rotate the knob clockwise to lower the set temperature. (技術英語構文辞典)
(6)Remove the cover and replace the battery.
関係代名詞を用いて結果を表す場合もある。これは前文を先行詞として取り、これが原因でその結果が関係代名詞により表現されるとする。
(7)カメラのシャッターボタンを押すと、スプリングがリングを動かして、ブレードを開く。
(7)の最後の部分が問題になる。それより前の部分は先行詞として主語となり、最後の部分が結果として表される。
(8)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring, which in turn opens the blade.(技術英語構文辞典)
(8)の後半部は、上述のto不定詞や分詞構文でも書くことができる。
(9)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring to open the blade.
(10)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring opening the blade.
(8)、(9)、(10)は、いずれも二つの因果関係を一つの文で記している。これらの二つの因果関係は、二つの文で表記することもできる。前文をThisで受けて、新規で文を作ればよい。
(11)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring. This opens the blade.
技術文は、因果関係の連鎖である。そのため、様々な書き方のテクニックを覚えるとよい。
(12)検出領域内の赤外線が増大すると、回路点130の電圧が増大し、逆に、赤外線が低下すると、回路点130の電圧が低下する。
「検出領域内の赤外線が増大すると」を「検出領域における赤外線の増加」として、「A increase of the infrared radiation in the sensing area」と考える。また、「赤外線が低下すると」は「赤外線の低下」として、「A decrease of the infrared radiation」とする。
(13)An increase of the infrared radiation in the sensing area increases the voltage at node 130. A decrease of the infrared radiation will decrease the voltage at node 130.(USP4,618,770)
結果の書き方についてそもそも日本語と英語で発想が異なる場合がある。こうした英語の表現について接続詞を見ながら考えてみよう。
接続詞のtherefore、accordingly、consequentlyはいずれも「従って」という意味である。形式的な表現であるが、特にthereforeは技術文でもよく見かける。接続の近さから言うと、therefore、accordingly、consequentlyの順で強から弱になる。但し、これらの表現は日本語と一対一にはならない。一対一にすると英語は書きすぎの感がある。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳2
2 英語の技術文
2.1 因果関係
英語の技術文から見ていこう。ここでは英語の技術文のうち因果関係のある文章を取り上げる。一般的に技術文は、内容が因果関係からなっているといってもよい。原因と結果が一つの文に書けると、技術文らしい簡潔な英文になる。
富井(1996)には、そのための方法として無生物主語構文についての説明がある。この構文は英語では発達しているが、日本語にはあまり見られないという。書き方には二つのステップがある。初めに主語に含まれる原因を書き、次に述語の処理として結果を書いていく。
(1)電流が過度だと、ワイヤーは加熱する。
まず「電流が過度だと」は、「過度な電流」という原因を表す主語に英訳して、「名詞と自動詞」からなる構造を「名詞と自動詞から転じた名詞」に置き換える。次に、「ワイヤーは加熱する」という自動詞構文を「ワイヤーを加熱させる」という結果を表す英語の他動詞構文にする。
(2)Excess current causes a wire to overheat.(技術英語構文辞典)
これが因果関係を表す技術文の基本形である。
つまり、技術文の翻訳作業を2段階で考えていく。まず両言語の主語を調節する。日本語では節になるところを英語では句としてとらえ、逆に英語で句になるところを日本語では節としてとらえる。これが翻訳の第一のプロセスになる。
次に述部の処理が来る。述部が「他動詞+目的語」の場合、目的語を主語にして他動詞を自動詞にする。このクロスの処理が第二のプロセスである。その結果、「〜すると、〜は〜になる」という日本語の技術文の基本構文ができあがる。
表1 技術文の翻訳プロセス(因果)
翻訳作業 説明
入力文 日本語の技術文の基本構文「〜すると、〜は〜になる」になる。
第一段階 両言語の主語を調節する。日本語の節は英語で句とし、逆に英語の句は日本語で節とする。
第2段階 述部が「自動詞」の場合、結果を表す英語の他動詞構文にする。
述部が「他動詞+目的語」の場合、日本語の目的語を主語にして他動詞を自動詞にする。
こうした無生物主語構文を作る動詞には以下のものが挙げられる。
表2 表現内容 無生物主語を取る動詞の例
因果関係を表す allow, permit, lead to, result in, provide, enable
直接増減を表す increase, decrease, reduce, shorten, lower
変化を表す produce, change
以下で、技術文に見られる英日の発想の違いを処理するために、この2段階の方法を試していく。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
2.1 因果関係
英語の技術文から見ていこう。ここでは英語の技術文のうち因果関係のある文章を取り上げる。一般的に技術文は、内容が因果関係からなっているといってもよい。原因と結果が一つの文に書けると、技術文らしい簡潔な英文になる。
富井(1996)には、そのための方法として無生物主語構文についての説明がある。この構文は英語では発達しているが、日本語にはあまり見られないという。書き方には二つのステップがある。初めに主語に含まれる原因を書き、次に述語の処理として結果を書いていく。
(1)電流が過度だと、ワイヤーは加熱する。
まず「電流が過度だと」は、「過度な電流」という原因を表す主語に英訳して、「名詞と自動詞」からなる構造を「名詞と自動詞から転じた名詞」に置き換える。次に、「ワイヤーは加熱する」という自動詞構文を「ワイヤーを加熱させる」という結果を表す英語の他動詞構文にする。
(2)Excess current causes a wire to overheat.(技術英語構文辞典)
これが因果関係を表す技術文の基本形である。
つまり、技術文の翻訳作業を2段階で考えていく。まず両言語の主語を調節する。日本語では節になるところを英語では句としてとらえ、逆に英語で句になるところを日本語では節としてとらえる。これが翻訳の第一のプロセスになる。
次に述部の処理が来る。述部が「他動詞+目的語」の場合、目的語を主語にして他動詞を自動詞にする。このクロスの処理が第二のプロセスである。その結果、「〜すると、〜は〜になる」という日本語の技術文の基本構文ができあがる。
表1 技術文の翻訳プロセス(因果)
翻訳作業 説明
入力文 日本語の技術文の基本構文「〜すると、〜は〜になる」になる。
第一段階 両言語の主語を調節する。日本語の節は英語で句とし、逆に英語の句は日本語で節とする。
第2段階 述部が「自動詞」の場合、結果を表す英語の他動詞構文にする。
述部が「他動詞+目的語」の場合、日本語の目的語を主語にして他動詞を自動詞にする。
こうした無生物主語構文を作る動詞には以下のものが挙げられる。
表2 表現内容 無生物主語を取る動詞の例
因果関係を表す allow, permit, lead to, result in, provide, enable
直接増減を表す increase, decrease, reduce, shorten, lower
変化を表す produce, change
以下で、技術文に見られる英日の発想の違いを処理するために、この2段階の方法を試していく。
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
人文科学から始める技術文の翻訳1
1 はじめに
日本語教育の中でも技術文への関心が高まっている。この論文では、難しいテクニカルライティングではなく、人文の人が取り組むべき基礎的な内容を考察していく。
産業翻訳の対象は、ほとんどが技術文である。電気製品のマニュアルであれば、工場からの出荷に間に合うようにマニュアル作成に納期が設定されていて、作業にスピードが求められる。そのため限られた時間で大量のデータを訳さなければならない。また、技術文は構文にも表現にも独特の言い回しがあるため、翻訳ソフトに保存されている作業メモリーを参照しながら翻訳データを作成していく。自分流の美しい翻訳は不要である。
もともと技術系の翻訳者は分野の知識があるため、比較的スムーズに作業を進めることができる。通常技術者は、マシン語や技術英語を使用したテクニカルコミュニケーションでやり取りをする。一方、人文系の翻訳者は、文献に基づいたコミュニケーションを使用する。文系と理系でコミュニケーション論が異なるため、文から理へ調整する際に何らかの工夫が必要になる。この論文では、英日と独日の技術文を10年余り手掛けてきた実務経験を基にして、私なりの工夫を説明していく。
【先行研究】
現在、マクロの文学研究に取り組んでいる。例えば、森鴎外、魯迅、トーマス・マンのデータベースを作成しながら、言語分析と情報分析を並行して手がけている。これが先行研究の取り組みであり、詳細については日々の調節が必要である。翻訳については、作業単位が「言語と分野の専門知識」であるため、文芸、コンピュータ、特許、メディカルの分野で実績を作り、言語は英語、ドイツ語、中国語、日本語で調節している。
【本論の位置づけ】
人文からミクロとマクロを調節するための一つの試みである。以下では、日英、独日、中日の順に技術文が出てくる。人文の研究者も言語や文学の研究のみならず、比較と共生からなるLの分析ができるようにシナジーの研究に取り組むとよい。技術日本語が入力でそこから英文を考え、それを他言語に展開し、さらにそこから和訳を試みる。日本語技術文の学習法とその応用例は以下の通りである。
【技術文の研究の流れ】
@技術日本語→A技術英語→B技術ドイツ語または技術中国語→D技術日本語
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
日本語教育の中でも技術文への関心が高まっている。この論文では、難しいテクニカルライティングではなく、人文の人が取り組むべき基礎的な内容を考察していく。
産業翻訳の対象は、ほとんどが技術文である。電気製品のマニュアルであれば、工場からの出荷に間に合うようにマニュアル作成に納期が設定されていて、作業にスピードが求められる。そのため限られた時間で大量のデータを訳さなければならない。また、技術文は構文にも表現にも独特の言い回しがあるため、翻訳ソフトに保存されている作業メモリーを参照しながら翻訳データを作成していく。自分流の美しい翻訳は不要である。
もともと技術系の翻訳者は分野の知識があるため、比較的スムーズに作業を進めることができる。通常技術者は、マシン語や技術英語を使用したテクニカルコミュニケーションでやり取りをする。一方、人文系の翻訳者は、文献に基づいたコミュニケーションを使用する。文系と理系でコミュニケーション論が異なるため、文から理へ調整する際に何らかの工夫が必要になる。この論文では、英日と独日の技術文を10年余り手掛けてきた実務経験を基にして、私なりの工夫を説明していく。
【先行研究】
現在、マクロの文学研究に取り組んでいる。例えば、森鴎外、魯迅、トーマス・マンのデータベースを作成しながら、言語分析と情報分析を並行して手がけている。これが先行研究の取り組みであり、詳細については日々の調節が必要である。翻訳については、作業単位が「言語と分野の専門知識」であるため、文芸、コンピュータ、特許、メディカルの分野で実績を作り、言語は英語、ドイツ語、中国語、日本語で調節している。
【本論の位置づけ】
人文からミクロとマクロを調節するための一つの試みである。以下では、日英、独日、中日の順に技術文が出てくる。人文の研究者も言語や文学の研究のみならず、比較と共生からなるLの分析ができるようにシナジーの研究に取り組むとよい。技術日本語が入力でそこから英文を考え、それを他言語に展開し、さらにそこから和訳を試みる。日本語技術文の学習法とその応用例は以下の通りである。
【技術文の研究の流れ】
@技術日本語→A技術英語→B技術ドイツ語または技術中国語→D技術日本語
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
シナジーのメタファーのメリット
作家の執筆脳を探るシナジーのメタファーの研究は、@LのストーリーやAデータベースの作成、さらにB論理計算やC統計処理が必要になる。しかし、最初のうちは、ある作品について全てを揃えることが難しいため、4つのうちとりあえず3つ(@、A、Bまたは@、A、C)を条件にして、作家の執筆脳の研究をまとめるとよい。以下に、シナジーのメタファーのメリットをまとめておく。
【メリット】
・作家の執筆脳を分析して組み合わせを作る際、定番の読みを再考する機会が得られる。
・定番の読みは、外国語の場合、客観的に読めているかどうかを確認するのに便利である。
・データベースの作成は、作品の重読と見なせるため、外国語の習得にも応用できる。理解できる言葉であれば、何語でもよい。
・データベースの作成が文献学だけでは見えないものを提供するため、客観性も上がり、研究者個人の発見に繋がる。
・その際、フロントのカラムだけではなく、セカンドのカラムも考えると分析が濃くなる。
・また、形態解析ソフトなど新たにインストールすることなく、マイクロソフトのWordやExcelで手軽に取り組むことができる。
・論理計算を習得すると、言語文学に関する認知科学の知識が増える。
・データ分析により平易な統計処理ができるようになる。
・作家違いでデータベース間のリンクが張れると、ネットワークによる相互依存関係も期待できる。
・バランスを取るために二個二個のルールが適用されれば、社会学の視点からマクロの研究に関するアイデアを育てることができる。
・人間の世界を理解するには、喩えだけでは物足りず、作家を一種の危機管理者または観察者と見なして、相互依存に基づいた人間の条件を理解することができる。
・作家の執筆脳は、世界中であまり研究対象になっていないため、研究に取り組めば、難易度の高い研究実績として評価が得られる。特に、自分自身の認知の柱を作成できるところがシナジーのメタファーの研究の面白いところである。
・ブログやホームページを公開する際、複数の言語を使用しながら、世界レベルの研究実績として紹介できる。
例えば、シナジーのメタファーを外国語の習得に応用する際、エクセルファイルのカラムAに原文を順次入力していく。入力が終わったら、各行の原文を読みながら一行ずつ購読脳と執筆脳のカラムに数字を入れていく。これがリレーショナルとなり、単なる受容の読みとは異なるLの読みを提供するため、シナジーのメタファーを重読の一つに数えることができる。
また、非言語情報のジェスチャーに、例えば、顔の部位の表情を加えると、脳の電気信号の流れをつかむための判断材料になり、セカンドのカラムも意義あるものとなる。
今後は、作家の数を増やすことが課題になる。その際、バランスを意識して、東西南北とかオリンピックをイメージする。また、一作家の異なる小説間のリンクのみならず、作家違いでもデータベース間でリンクが張れると、予期せぬものが見えてくるため、シナジーのメタファーは分析力が上がっていく。文学をマクロに研究するには、やはり地球規模とフォーマットのシフトが必要十分な条件となる。
花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より
【メリット】
・作家の執筆脳を分析して組み合わせを作る際、定番の読みを再考する機会が得られる。
・定番の読みは、外国語の場合、客観的に読めているかどうかを確認するのに便利である。
・データベースの作成は、作品の重読と見なせるため、外国語の習得にも応用できる。理解できる言葉であれば、何語でもよい。
・データベースの作成が文献学だけでは見えないものを提供するため、客観性も上がり、研究者個人の発見に繋がる。
・その際、フロントのカラムだけではなく、セカンドのカラムも考えると分析が濃くなる。
・また、形態解析ソフトなど新たにインストールすることなく、マイクロソフトのWordやExcelで手軽に取り組むことができる。
・論理計算を習得すると、言語文学に関する認知科学の知識が増える。
・データ分析により平易な統計処理ができるようになる。
・作家違いでデータベース間のリンクが張れると、ネットワークによる相互依存関係も期待できる。
・バランスを取るために二個二個のルールが適用されれば、社会学の視点からマクロの研究に関するアイデアを育てることができる。
・人間の世界を理解するには、喩えだけでは物足りず、作家を一種の危機管理者または観察者と見なして、相互依存に基づいた人間の条件を理解することができる。
・作家の執筆脳は、世界中であまり研究対象になっていないため、研究に取り組めば、難易度の高い研究実績として評価が得られる。特に、自分自身の認知の柱を作成できるところがシナジーのメタファーの研究の面白いところである。
・ブログやホームページを公開する際、複数の言語を使用しながら、世界レベルの研究実績として紹介できる。
例えば、シナジーのメタファーを外国語の習得に応用する際、エクセルファイルのカラムAに原文を順次入力していく。入力が終わったら、各行の原文を読みながら一行ずつ購読脳と執筆脳のカラムに数字を入れていく。これがリレーショナルとなり、単なる受容の読みとは異なるLの読みを提供するため、シナジーのメタファーを重読の一つに数えることができる。
また、非言語情報のジェスチャーに、例えば、顔の部位の表情を加えると、脳の電気信号の流れをつかむための判断材料になり、セカンドのカラムも意義あるものとなる。
今後は、作家の数を増やすことが課題になる。その際、バランスを意識して、東西南北とかオリンピックをイメージする。また、一作家の異なる小説間のリンクのみならず、作家違いでもデータベース間でリンクが張れると、予期せぬものが見えてくるため、シナジーのメタファーは分析力が上がっていく。文学をマクロに研究するには、やはり地球規模とフォーマットのシフトが必要十分な条件となる。
花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より
シナジーのトレーニング2
C 分析の組
さらに、テーマを分析するための組が必要である。例えば、ボトムアップとトップダウン、理論と実践、一般と特殊、言語情報と非言語情報、強と弱など。
分析の組 ボトムアップとトップダウン 専門の詳細情報から概略的なものへ移行する方法。及び、全体を整える概略的な情報から詳細なものへ移行する方法。
分析の組 理論と実践 すべての研究分野で取るべき分析方法。言語分析については、モンターギュの論理文法が理論で、翻訳のトレーニングが実践になる。
分析の組 一般と特殊 小説を扱うときに、一般の読みと特殊な読みを想定する。前者は受容の読みであり、後者は共生の読みである。
分析の組 言語情報と非言語情報 前者は言語により伝達される情報、後者は感情や思考や判断といった非言語情報である。
分析の組 強と弱 組の構成要素は同じレベルでなくてもよい。両方とも強にすると、同じ組に固執するため、テーマを展開させにくくなる。
このようにして組のアンサンブルを調節しながら、トーマス・マンの「魔の山」や魯迅の「狂人日記」及び「阿Q正伝」についてLのストーリーを作成した。
花村嘉英「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
さらに、テーマを分析するための組が必要である。例えば、ボトムアップとトップダウン、理論と実践、一般と特殊、言語情報と非言語情報、強と弱など。
分析の組 ボトムアップとトップダウン 専門の詳細情報から概略的なものへ移行する方法。及び、全体を整える概略的な情報から詳細なものへ移行する方法。
分析の組 理論と実践 すべての研究分野で取るべき分析方法。言語分析については、モンターギュの論理文法が理論で、翻訳のトレーニングが実践になる。
分析の組 一般と特殊 小説を扱うときに、一般の読みと特殊な読みを想定する。前者は受容の読みであり、後者は共生の読みである。
分析の組 言語情報と非言語情報 前者は言語により伝達される情報、後者は感情や思考や判断といった非言語情報である。
分析の組 強と弱 組の構成要素は同じレベルでなくてもよい。両方とも強にすると、同じ組に固執するため、テーマを展開させにくくなる。
このようにして組のアンサンブルを調節しながら、トーマス・マンの「魔の山」や魯迅の「狂人日記」及び「阿Q正伝」についてLのストーリーを作成した。
花村嘉英「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
シナジーのトレーニング1
人文科学の人でもできるトレーニングとして組のアンサンブルを考える。シナジーという研究の対象は、元々が組からなっているためである。例えば、手のひらを閉じたり開いたりするのも、肘を伸ばしたり畳んだりするのも運動でいうシナジーである。Lのモデルができるだけ多くの組を処理できるように、シナジーの研究のトレーニングとして三つのステップを考える。
A シナジーの組
例えば、社会とシステム、法律と技術(特許)、経営工学、金融工学、ソフトウェアとハードウェア、心理と医学、法律と医学、文化と栄養そして文学と計算などがこのグループに入る。これらの中から何れかの組を選択して、テーマを作っていく。もちろんこれらの組について複数対応できることが望ましい。
B テーマの組
選んだ組からLに通じるテーマを作るには、人文科学と脳科学という組のみならず、ミクロとマクロ、対照の言語文学と比較の言語文学、東洋と西洋などの項目も必要になる。ここでミクロとは主の専門の研究を指し、マクロとはどの系列に属していても該当するように、地球規模とフォーマットのシフトを評価の項目とする。シナジーの研究は、バランスを維持することが大切である。
「トーマス・マンとファジィ」は、ドイツ語と人工知能という組であり、「魯迅とカオス」は、中国語と記憶や精神病からなる組である。そこには洋学と漢学があり、また長編と短編という組もある。計算と文学のモデルは、こうした調整が土台になっている。
テーマの組 文系と理系 小説を読みながら、文理のモデルを調節する。
テーマの組 人文科学と社会科学 文献とデータの処理を調節する。
テーマの組 語学文学(対照と比較)対照言語と比較言語の枠組みで小説を分析する。
テーマの組 東洋と西洋 東洋と西洋の発想の違いを考える。例えば、東洋哲学と西洋哲学、国や地域における政治、法律、経済の違い、東洋医学と西洋医学。
テーマの組 基礎と応用 まず、ある作家の作品を題材にしてLのモデルを作る。次に、他の作家のLのモデルと比較する。
テーマの組 伝統の技と先端の技 人文科学の文献学とシナジーのストーリーを作るための文献学(テキスト共生)。ブラックボックスを消すために、テキスト共生の組を複数作る。
テーマの組 ミクロとマクロ ミクロは主の専門の調節、マクロは複数の副専攻を交えた調整。縦に一つ(比較)、横にもう一つ取る(共生)。
花村嘉英「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
A シナジーの組
例えば、社会とシステム、法律と技術(特許)、経営工学、金融工学、ソフトウェアとハードウェア、心理と医学、法律と医学、文化と栄養そして文学と計算などがこのグループに入る。これらの中から何れかの組を選択して、テーマを作っていく。もちろんこれらの組について複数対応できることが望ましい。
B テーマの組
選んだ組からLに通じるテーマを作るには、人文科学と脳科学という組のみならず、ミクロとマクロ、対照の言語文学と比較の言語文学、東洋と西洋などの項目も必要になる。ここでミクロとは主の専門の研究を指し、マクロとはどの系列に属していても該当するように、地球規模とフォーマットのシフトを評価の項目とする。シナジーの研究は、バランスを維持することが大切である。
「トーマス・マンとファジィ」は、ドイツ語と人工知能という組であり、「魯迅とカオス」は、中国語と記憶や精神病からなる組である。そこには洋学と漢学があり、また長編と短編という組もある。計算と文学のモデルは、こうした調整が土台になっている。
テーマの組 文系と理系 小説を読みながら、文理のモデルを調節する。
テーマの組 人文科学と社会科学 文献とデータの処理を調節する。
テーマの組 語学文学(対照と比較)対照言語と比較言語の枠組みで小説を分析する。
テーマの組 東洋と西洋 東洋と西洋の発想の違いを考える。例えば、東洋哲学と西洋哲学、国や地域における政治、法律、経済の違い、東洋医学と西洋医学。
テーマの組 基礎と応用 まず、ある作家の作品を題材にしてLのモデルを作る。次に、他の作家のLのモデルと比較する。
テーマの組 伝統の技と先端の技 人文科学の文献学とシナジーのストーリーを作るための文献学(テキスト共生)。ブラックボックスを消すために、テキスト共生の組を複数作る。
テーマの組 ミクロとマクロ ミクロは主の専門の調節、マクロは複数の副専攻を交えた調整。縦に一つ(比較)、横にもう一つ取る(共生)。
花村嘉英「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
シナジーのメタファーのシステム2
文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロの分析方法である。基本のパターンは、縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、各場面をLに読みながらデータベースを作成して全体を組の集合体にし、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探していく。
執筆脳の定義は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読みとする。そのため、この小論では、井上靖に関する購読脳の先行研究よりも、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究とする。また、執筆時の原稿の調査についても、編者は文字データに関する校正を担当するため、最終原稿の段階を前提にする。
トーマス・マン、魯迅、鴎外の著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。今回はそれに加えて、マクロの分析を意識し、地球規模とフォーマットのシフトについてもナディン・ゴーディマと井上靖を交えて説明する。
筆者の持ち場が言語学であるため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅には言葉の比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。
花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より
執筆脳の定義は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読みとする。そのため、この小論では、井上靖に関する購読脳の先行研究よりも、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究とする。また、執筆時の原稿の調査についても、編者は文字データに関する校正を担当するため、最終原稿の段階を前提にする。
トーマス・マン、魯迅、鴎外の著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。今回はそれに加えて、マクロの分析を意識し、地球規模とフォーマットのシフトについてもナディン・ゴーディマと井上靖を交えて説明する。
筆者の持ち場が言語学であるため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅には言葉の比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。
花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より
シナジーのメタファーのシステム1
広義のシナジーのメタファーを考察するため、個々のデータベースを束ねたシステムの構築とその評価について検討が必要になる。例えば、危機管理者としての作家の執筆脳を社会学の観点から集団の脳の活動と見なし、人文科学が研究対象とする個人の脳の活動と組にする。通常、システムの構築は、エンジニアにより行われる。ここでは、何かと地球規模を想定しているため、グローバルなシステムを安定させるための方法やローカルとの連携などについて考える。
イメージ図を見てみよう。人文と社会の間には文化があり、人文と医学の間にはカウンセリングがある。そして、人文と情報の組で見ると、例えば、コーパス、パーザー、機械翻訳、計量言語学(いずれも購読脳)さらには小説のLのデータベース(執筆脳)があり、一方で社会や医学と情報システムが組をなして全体的にバランスを取っている。図の中央にある縦横のシナジーの目は、脳科学の役割を果たし、司令塔としてそれぞれの系列に指示を出すイメージである。
無論、イメージ図の中には地球規模として東西南北からオリンピックにまで広がる国地域があり、また、Tの逆さの認知科学の定規と縦横に言語と情報の認知を取るLの定規、さらにはロジックを交えたメゾの箱が含まれている。こうした地球規模とフォーマットのシフトを条件とする、総合的で学際的なマクロの文学研究が人生をまとめるための道標として人文科学の研究者たちにも共通認識になるとよい。
花村嘉英(2021)「医療社会学からマクロに文学を考える」より
イメージ図を見てみよう。人文と社会の間には文化があり、人文と医学の間にはカウンセリングがある。そして、人文と情報の組で見ると、例えば、コーパス、パーザー、機械翻訳、計量言語学(いずれも購読脳)さらには小説のLのデータベース(執筆脳)があり、一方で社会や医学と情報システムが組をなして全体的にバランスを取っている。図の中央にある縦横のシナジーの目は、脳科学の役割を果たし、司令塔としてそれぞれの系列に指示を出すイメージである。
無論、イメージ図の中には地球規模として東西南北からオリンピックにまで広がる国地域があり、また、Tの逆さの認知科学の定規と縦横に言語と情報の認知を取るLの定規、さらにはロジックを交えたメゾの箱が含まれている。こうした地球規模とフォーマットのシフトを条件とする、総合的で学際的なマクロの文学研究が人生をまとめるための道標として人文科学の研究者たちにも共通認識になるとよい。
花村嘉英(2021)「医療社会学からマクロに文学を考える」より
シナジーのメタファーのプロセス
[フローチャート]
@ 知的財産が自分と近い作家を選択する。
A 場面のイメージの対照表を作成する。場面が浮かぶように話をまとめる。
B 解析イメージから何れかの組を作る。言語解析は構文と意味が対象になる。
C 認知科学のモデルは、Lのプロセス全体に適用される。例、前半は言語の分析、後半は情報の分析。
D 場面ごとに問題の解決と未解決を確認する。
E 問題解決の場面では、Lに縦横ABを滑ってCに到達後、解析イメージに戻る。問題未解決の場面では、すぐに解析イメージに戻る。
F 各分野の専門家が思い描くリスク回避を参考にしながら、作家の意思決定を想定する。
G 問題解決の場面を中心にして、テキストの共生について考察する。
@、A、Bは受容の読みのプロセス、Cは認知科学の前半と後半、D、Eは異質のCとのイメージ合わせになり、Fで作家の脳の活動を探り、Gでシナジーのメタファーに到達する。DBの作成については、これらが全て収まるようにカラムを工夫すること。
@一文一文解析しながら、選択した作家の知的財産を追っていく。例えば、受容の段階で文体などの平易な読みを想定し、共生の段階で知的財産に纏わる異質のCを探る。この作業はAとBでも行われる。
A 場面のイメージが浮かぶような対照表を作る。
B テキストの解析を何れかの組にする。例えば、トーマス・マンは「イロニーとファジィ」、魯迅は「馬虎と記憶」という組にする。組が見つからなければ、@からBのプロセスを繰り返す。
C 認知プロセスの前半と後半を確認する。
D 場面の情報の流れを考える。問題解決と問題未解決で場面を分ける。
E 問題解決の場面は、異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。問題未解決の場面は、すぐに解析イメージにリターンする。こう考えると、システムがスムーズになる。
F 各分野のエキスパートが思い描くリスク回避と意志決定がテーマである。緊急着陸、救急医療、株式市場、環境問題などから生成イメージにつながるようにリスク回避のポイントを作る。そこから、作家の意思決定を考える。
G これにより作家の脳の活動の一例といえるシナジーのメタファーが作られる。「魯迅とカオス」というシナジーのメタファーは、テキスト共生に基づいた組のアンサンブルであり、文学をマクロに考えるための方法である。
花村嘉英「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
@ 知的財産が自分と近い作家を選択する。
A 場面のイメージの対照表を作成する。場面が浮かぶように話をまとめる。
B 解析イメージから何れかの組を作る。言語解析は構文と意味が対象になる。
C 認知科学のモデルは、Lのプロセス全体に適用される。例、前半は言語の分析、後半は情報の分析。
D 場面ごとに問題の解決と未解決を確認する。
E 問題解決の場面では、Lに縦横ABを滑ってCに到達後、解析イメージに戻る。問題未解決の場面では、すぐに解析イメージに戻る。
F 各分野の専門家が思い描くリスク回避を参考にしながら、作家の意思決定を想定する。
G 問題解決の場面を中心にして、テキストの共生について考察する。
@、A、Bは受容の読みのプロセス、Cは認知科学の前半と後半、D、Eは異質のCとのイメージ合わせになり、Fで作家の脳の活動を探り、Gでシナジーのメタファーに到達する。DBの作成については、これらが全て収まるようにカラムを工夫すること。
@一文一文解析しながら、選択した作家の知的財産を追っていく。例えば、受容の段階で文体などの平易な読みを想定し、共生の段階で知的財産に纏わる異質のCを探る。この作業はAとBでも行われる。
A 場面のイメージが浮かぶような対照表を作る。
B テキストの解析を何れかの組にする。例えば、トーマス・マンは「イロニーとファジィ」、魯迅は「馬虎と記憶」という組にする。組が見つからなければ、@からBのプロセスを繰り返す。
C 認知プロセスの前半と後半を確認する。
D 場面の情報の流れを考える。問題解決と問題未解決で場面を分ける。
E 問題解決の場面は、異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。問題未解決の場面は、すぐに解析イメージにリターンする。こう考えると、システムがスムーズになる。
F 各分野のエキスパートが思い描くリスク回避と意志決定がテーマである。緊急着陸、救急医療、株式市場、環境問題などから生成イメージにつながるようにリスク回避のポイントを作る。そこから、作家の意思決定を考える。
G これにより作家の脳の活動の一例といえるシナジーのメタファーが作られる。「魯迅とカオス」というシナジーのメタファーは、テキスト共生に基づいた組のアンサンブルであり、文学をマクロに考えるための方法である。
花村嘉英「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
シナジーのメタファーとは2
文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロの分析方法である。基本のパターンは、縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、各場面をLに読みながらデータベースを作成して全体を組の集合体にし、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探していく。
執筆脳の定義は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読みとする。そのため、この小論では、井上靖に関する購読脳の先行研究よりも、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究とする。また、執筆時の原稿の調査についても、編者は文字データに関する校正を担当するため、最終原稿の段階を前提にする。
トーマス・マン、魯迅、鴎外の著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。今回はそれに加えて、マクロの分析を意識し、地球規模とフォーマットのシフトについてもナディン・ゴーディマと井上靖を交えて説明する。
筆者の持ち場が言語学であるため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅には言葉の比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。
花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より
執筆脳の定義は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読みとする。そのため、この小論では、井上靖に関する購読脳の先行研究よりも、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究とする。また、執筆時の原稿の調査についても、編者は文字データに関する校正を担当するため、最終原稿の段階を前提にする。
トーマス・マン、魯迅、鴎外の著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。今回はそれに加えて、マクロの分析を意識し、地球規模とフォーマットのシフトについてもナディン・ゴーディマと井上靖を交えて説明する。
筆者の持ち場が言語学であるため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅には言葉の比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。
花村嘉英(2018)「シナジーのメタファーの作り方について」より
シナジーのメタファーとは1
シナジーのメタファーとは
小説を読むときは、通常、作品の受容を考えるため、読者の脳の活動が問題になる。一方、作家の執筆時の脳の活動を探るために、この小論では共生の読みについて考察していく。シナジーのメタファーは、受容と共生をまとめる一例である。考え方は、通常のメタファーを踏襲し、Aが根源領域、Cが目標領域、そしてBがその写像という関係になる。ここではAが人文科学、Bが認知科学、Cが脳科学である。
論文の目的は、小説のデータベース(DB)を作るために必要なシナジーのトレーニングについて考え、受容と共生からなるDBを作成し、シナジーのメタファーを考察することにある。但し、シナジーのメタファーのイメージを整えるために、CからBへのリターンを想定している。文学研究をマクロにシステム化するためである。
Lのストーリーの作り方−文学と計算のモデル
@ 縦は言語、文学、○○語教育といった人文の軸、横は共生の軸で、奥に行くと双方を調整する脳科学がある。
A 縦は解析イメージであり、横は生成イメージである。表象とは、知覚したイメージを記憶して心で再現する人間の精神活動のことである。例えば、言語、記憶、感情、思考、判断といった精神活動は、脳が生み出している。また、シンボルは知覚するものであり、パターンはその処理に当たる。
B 縦横のテーマには、トーマス・マン、魯迅、鴎外そして英独中日といった東西の言語や文化の比較、リスク回避と意思決定による作家の脳の活動や知的財産などがある。
C このモデルの役割は、A(人文)+B(認知)の解析イメージとB(認知)+C(脳科学)の生成イメージをまとめることにある。情報の流れは、AとBから異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。
花村嘉英「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
小説を読むときは、通常、作品の受容を考えるため、読者の脳の活動が問題になる。一方、作家の執筆時の脳の活動を探るために、この小論では共生の読みについて考察していく。シナジーのメタファーは、受容と共生をまとめる一例である。考え方は、通常のメタファーを踏襲し、Aが根源領域、Cが目標領域、そしてBがその写像という関係になる。ここではAが人文科学、Bが認知科学、Cが脳科学である。
論文の目的は、小説のデータベース(DB)を作るために必要なシナジーのトレーニングについて考え、受容と共生からなるDBを作成し、シナジーのメタファーを考察することにある。但し、シナジーのメタファーのイメージを整えるために、CからBへのリターンを想定している。文学研究をマクロにシステム化するためである。
Lのストーリーの作り方−文学と計算のモデル
@ 縦は言語、文学、○○語教育といった人文の軸、横は共生の軸で、奥に行くと双方を調整する脳科学がある。
A 縦は解析イメージであり、横は生成イメージである。表象とは、知覚したイメージを記憶して心で再現する人間の精神活動のことである。例えば、言語、記憶、感情、思考、判断といった精神活動は、脳が生み出している。また、シンボルは知覚するものであり、パターンはその処理に当たる。
B 縦横のテーマには、トーマス・マン、魯迅、鴎外そして英独中日といった東西の言語や文化の比較、リスク回避と意思決定による作家の脳の活動や知的財産などがある。
C このモデルの役割は、A(人文)+B(認知)の解析イメージとB(認知)+C(脳科学)の生成イメージをまとめることにある。情報の流れは、AとBから異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。
花村嘉英「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える13
6 まとめ
「道ありき」の執筆脳を「虚無とうつ」にした。作家の執筆脳は、問題解決の場面で強い思考が働くため、これまで主にそうした場面を扱ってきた。しかし、病跡学へ寄せる場合は、未解決の場面も考察対象に含めることにし、今回は作者がうつの症状の中で推論を続ける様子を考察した。購読脳の「虚無と愛情」と執筆脳の「虚無とうつ」には一応相互作用があるため、シナジーのメタファーは、「三浦綾子と虚無」にする。
病跡学の研究は、滑り出したところである。目的、効果、目標、メリットを見ていくと、他系列とのクロスした実績を作る際、人文と医学の組み合わせが最も遠い。例えば、人文から見ると、健康科学の勉強はしても別段自分の研究としてまとめる必要はない。しかし、遠いところの調節ができれば、調整力がついてきた証拠になる。
今回のシナジーのメタファーは、狭義の意味で考察されている。しかし、一方に広義のシナジーのメタファーがある。広義のシナジーのメタファーは、ミクロ、メゾ、クラウド、マクロからなる。ミクロでは機械翻訳や特許翻訳の実績が土台となり、メゾにはボトムアップで購読脳と執筆脳からなる3Dの箱が溜まる。クラウドからトップダウンで仮説や推定によりメゾのデータを束ねる指令(〇〇社会学など)が出て、マクロの結論が導かれる。こうした作業を繰り返すことで人文からマクロに通じるシステムが構築される。
なお、シナジーのメタファーについては、2021年3月に日本国特許庁より商標権の登録許可がおりている。
参考文献
日本成人病予防協会監修 2014 健康管理士一般指導員受験対策講座テキスト3 ヘルスケア出版
高橋正雄『うつ病者としてのマックス・ウェーバー』日本病跡学雑誌59 22-31 2000
花村嘉英 『計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?』新風舎 2005
花村嘉英『「狂人日記」から見えてくるカオス効果について』 四川外国語大学国際シンポジウム 文化の越境と他者の表象 2013
花村嘉英『从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む』華東理工大学出版社 2015
花村嘉英『森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析』中国日语教学研究会江蘇分会 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 『日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで』南京東南大学出版社 2017
花村嘉英『从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲』 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英『シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖』中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 『川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ』 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英『社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について』中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
牧野雅彦『マックス・ウェーバー入門』平凡社 2006
三浦綾子『道ありき(青春編、結婚編、信仰入門編』新潮文庫 2004
「道ありき」の執筆脳を「虚無とうつ」にした。作家の執筆脳は、問題解決の場面で強い思考が働くため、これまで主にそうした場面を扱ってきた。しかし、病跡学へ寄せる場合は、未解決の場面も考察対象に含めることにし、今回は作者がうつの症状の中で推論を続ける様子を考察した。購読脳の「虚無と愛情」と執筆脳の「虚無とうつ」には一応相互作用があるため、シナジーのメタファーは、「三浦綾子と虚無」にする。
病跡学の研究は、滑り出したところである。目的、効果、目標、メリットを見ていくと、他系列とのクロスした実績を作る際、人文と医学の組み合わせが最も遠い。例えば、人文から見ると、健康科学の勉強はしても別段自分の研究としてまとめる必要はない。しかし、遠いところの調節ができれば、調整力がついてきた証拠になる。
今回のシナジーのメタファーは、狭義の意味で考察されている。しかし、一方に広義のシナジーのメタファーがある。広義のシナジーのメタファーは、ミクロ、メゾ、クラウド、マクロからなる。ミクロでは機械翻訳や特許翻訳の実績が土台となり、メゾにはボトムアップで購読脳と執筆脳からなる3Dの箱が溜まる。クラウドからトップダウンで仮説や推定によりメゾのデータを束ねる指令(〇〇社会学など)が出て、マクロの結論が導かれる。こうした作業を繰り返すことで人文からマクロに通じるシステムが構築される。
なお、シナジーのメタファーについては、2021年3月に日本国特許庁より商標権の登録許可がおりている。
参考文献
日本成人病予防協会監修 2014 健康管理士一般指導員受験対策講座テキスト3 ヘルスケア出版
高橋正雄『うつ病者としてのマックス・ウェーバー』日本病跡学雑誌59 22-31 2000
花村嘉英 『計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?』新風舎 2005
花村嘉英『「狂人日記」から見えてくるカオス効果について』 四川外国語大学国際シンポジウム 文化の越境と他者の表象 2013
花村嘉英『从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む』華東理工大学出版社 2015
花村嘉英『森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析』中国日语教学研究会江蘇分会 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 『日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで』南京東南大学出版社 2017
花村嘉英『从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲』 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英『シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖』中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 『川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ』 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英『社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について』中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
牧野雅彦『マックス・ウェーバー入門』平凡社 2006
三浦綾子『道ありき(青春編、結婚編、信仰入門編』新潮文庫 2004
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える12
【連想分析2】
情報の認知1(感覚情報)
このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の反応である。
情報の認知2(記憶と学習)
このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
情報の認知3(計画、問題解決、推論)
このプロセルのカラムの特徴は、@計画→問題解決、A問題未解決→推論である。
表4 虚無とうつの認知プロセス
表2Aと同文 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Bと同文 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Cと同文 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Dと同文 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Eと同文 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 2
A 情報の認知1は3その他の反応、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
B 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
C 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
D 情報の認知1は3その他の反応、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
E 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
結果
三浦綾子は、この場面で、医者との問診で外部から情報を取り込み、カリエスの症状を疑っている。医者の診断に反する見解のため問題未解決から推論となる。そのため、「虚無とうつ」という推論が続いている。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
情報の認知1(感覚情報)
このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の反応である。
情報の認知2(記憶と学習)
このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
情報の認知3(計画、問題解決、推論)
このプロセルのカラムの特徴は、@計画→問題解決、A問題未解決→推論である。
表4 虚無とうつの認知プロセス
表2Aと同文 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Bと同文 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Cと同文 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Dと同文 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Eと同文 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 2
A 情報の認知1は3その他の反応、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
B 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
C 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
D 情報の認知1は3その他の反応、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
E 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
結果
三浦綾子は、この場面で、医者との問診で外部から情報を取り込み、カリエスの症状を疑っている。医者の診断に反する見解のため問題未解決から推論となる。そのため、「虚無とうつ」という推論が続いている。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える11
分析例
入院して四カ月経過。微熱が続きカリエスの症状が出ている場面。
この論文では、「道ありき」の執筆脳を「虚無とうつ」と考えているため、購読脳でも意味3の思考の流れ、虚無のありなしに注目する。
同じ症状の患者に自分の経験を優しく話す思いやりの気持ちがある。
意味1 1視覚2聴覚3味覚4嗅覚5触覚、意味2 1喜2怒3哀4楽、意味3 1虚無あり2なし、意味4振舞い 1直示2隠喩。
疾病脳(虚無でうつ)1ある2なし。
テキスト共生の公式
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「虚無と愛情」を作る。
ステップ2 うつ病の精神症状から「虚無とうつ」という組を作り、解析の組と合わせる。
A 2聴覚+3哀+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
B 2聴覚+3哀+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
C 5触覚+3哀+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
D 2聴覚+2怒+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
E 2聴覚+2怒+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
入院して四カ月経過。微熱が続きカリエスの症状が出ている場面。
この論文では、「道ありき」の執筆脳を「虚無とうつ」と考えているため、購読脳でも意味3の思考の流れ、虚無のありなしに注目する。
同じ症状の患者に自分の経験を優しく話す思いやりの気持ちがある。
意味1 1視覚2聴覚3味覚4嗅覚5触覚、意味2 1喜2怒3哀4楽、意味3 1虚無あり2なし、意味4振舞い 1直示2隠喩。
疾病脳(虚無でうつ)1ある2なし。
テキスト共生の公式
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「虚無と愛情」を作る。
ステップ2 うつ病の精神症状から「虚無とうつ」という組を作り、解析の組と合わせる。
A 2聴覚+3哀+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
B 2聴覚+3哀+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
C 5触覚+3哀+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
D 2聴覚+2怒+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
E 2聴覚+2怒+1虚無あり+1直示という解析の組を、うつ病の症状からなる虚無でうつ+うつから回復という組と合わせる。
結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える10
【連想分析1】
表3 受容と共生のイメージ合わせ
医師の診断の疑う場面
A わたしは、医学にはしろうとである。しかし、尿の回数が多いと言えば、少なくとも検尿ぐらいはするだろうと思った。それがいきなり尿のでなくなる薬と聞いて、この病院にいても埒があかないと考えた。
意味 1 2、意味 2 3、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
B 熱がでると解熱剤、下痢をすると下痢止め、咳が出れば咳止め、というのは一番信頼できない医師のすることではないだろうか。何よりもその原因を調べた上で、適当な処置がなされなければならないはずだった。わたしが退院を考えたのは、このことだけではなかった。
意味 1 2、意味 2 3、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
C その頃、私の背中がちょっとでも動かすと辺に痛むのだ。院内の外科医に見てもらうと、「神経だ。若い娘のことは、よく背中が痛むことがある。いちいち気にとめる必要はない」と言った。しかし、動かすと痛いのだから、もしかしたらカリエスではないかと尋ねてみた。
意味 1 5、意味 2 3、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
D 医師は怒った。「レントゲン写真にも変化がない。神経だ」再び叱られて、いたし方なくわたしは病室に帰ってきた。わたしは、療養生活七年目であった。もう、客観的に自分の病状を捉えることができるはずである。意味 1 2、意味 2 2、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
E 誰でも最初のうちは、病気のことがよくわからないから、いらぬ神経を使うが、少なくとも六年の経験というものは、それほど神経質にはさせないはずである。医師が何を言おうと、わたしは病状からしてカリエスだろうと見当をつけた。カリエスの患者の話を聞くと、そのほとんどが、幾度か医師の誤診にあっているのだ。意味 1 2、意味 2 2、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
表3 受容と共生のイメージ合わせ
医師の診断の疑う場面
A わたしは、医学にはしろうとである。しかし、尿の回数が多いと言えば、少なくとも検尿ぐらいはするだろうと思った。それがいきなり尿のでなくなる薬と聞いて、この病院にいても埒があかないと考えた。
意味 1 2、意味 2 3、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
B 熱がでると解熱剤、下痢をすると下痢止め、咳が出れば咳止め、というのは一番信頼できない医師のすることではないだろうか。何よりもその原因を調べた上で、適当な処置がなされなければならないはずだった。わたしが退院を考えたのは、このことだけではなかった。
意味 1 2、意味 2 3、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
C その頃、私の背中がちょっとでも動かすと辺に痛むのだ。院内の外科医に見てもらうと、「神経だ。若い娘のことは、よく背中が痛むことがある。いちいち気にとめる必要はない」と言った。しかし、動かすと痛いのだから、もしかしたらカリエスではないかと尋ねてみた。
意味 1 5、意味 2 3、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
D 医師は怒った。「レントゲン写真にも変化がない。神経だ」再び叱られて、いたし方なくわたしは病室に帰ってきた。わたしは、療養生活七年目であった。もう、客観的に自分の病状を捉えることができるはずである。意味 1 2、意味 2 2、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
E 誰でも最初のうちは、病気のことがよくわからないから、いらぬ神経を使うが、少なくとも六年の経験というものは、それほど神経質にはさせないはずである。医師が何を言おうと、わたしは病状からしてカリエスだろうと見当をつけた。カリエスの患者の話を聞くと、そのほとんどが、幾度か医師の誤診にあっているのだ。意味 1 2、意味 2 2、意味3 1、意味4 1、疾病脳 1
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える9
4 データベースからの分析
データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている
こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。因みにここでは森鴎外の「山椒大夫」の分析に近い方法を試みる。(花村2017)
【データベースの作成】
表2 「道ありき」のデータベースのカラム
項目名 内容 説明
文法1 名詞の格 三浦綾子の助詞の使い方を考える。
文法2 態 能動、受動、使役。
文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 感情との接点。
意味3 思考の流れ 虚無がある、なし。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「虚無と愛情」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。未知の情報については、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
疾病脳 虚無でうつ 何もなく虚しい心境。空虚であり自己も否定する。抑うつ感、不安感、思考や意欲に障害が出る。気分障害。
健常脳 うつから回復 気分障害からの回復。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている
こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。因みにここでは森鴎外の「山椒大夫」の分析に近い方法を試みる。(花村2017)
【データベースの作成】
表2 「道ありき」のデータベースのカラム
項目名 内容 説明
文法1 名詞の格 三浦綾子の助詞の使い方を考える。
文法2 態 能動、受動、使役。
文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 感情との接点。
意味3 思考の流れ 虚無がある、なし。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「虚無と愛情」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。未知の情報については、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
疾病脳 虚無でうつ 何もなく虚しい心境。空虚であり自己も否定する。抑うつ感、不安感、思考や意欲に障害が出る。気分障害。
健常脳 うつから回復 気分障害からの回復。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える8
対処行動の分析結果
A発病による影響では、対処行動が@、A、B、Cとバラついている。しかし、B周囲の対応からC病の回復へ進んでいくと、対処行動はDが多くなる。従って、三浦綾子の「道ありき」から病跡学へアプローチした場合に、高橋(2000)が説くうつ病者本人の対処行動の流れに近い分析が可能といえる。
なお、うつ病は、精神を安定させる神経伝達物質のセロトニンが不足すると発症する。セロトニン不足により落ち着きがなくなり、衝動的で、攻撃的になる。セロトニンの正常な放出をじゃまするものは、ストレスである。三浦綾子の場合もそういえる。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
A発病による影響では、対処行動が@、A、B、Cとバラついている。しかし、B周囲の対応からC病の回復へ進んでいくと、対処行動はDが多くなる。従って、三浦綾子の「道ありき」から病跡学へアプローチした場合に、高橋(2000)が説くうつ病者本人の対処行動の流れに近い分析が可能といえる。
なお、うつ病は、精神を安定させる神経伝達物質のセロトニンが不足すると発症する。セロトニン不足により落ち着きがなくなり、衝動的で、攻撃的になる。セロトニンの正常な放出をじゃまするものは、ストレスである。三浦綾子の場合もそういえる。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える7
表1 対処行動の分析3
分類 「道ありき」から抽出した場面の病跡状況 + 対処行動
C 前川正の喪が明けてから、綾子の病室を訪問する客の中に三浦光世という男がいた。旭川営林署の会計係である。死刑因と文通し、慰め力づけている人である。やはり腎臓結核の手術歴がある。A
C 確かに結核は、侵入経路の大多数が肺に出る。また、肺や腸、腎臓などの臓器や骨、関節そして皮膚を侵し、胸膜炎や腹膜炎も起こす。綾子は、熱が出て寝汗もかき、血痰が増え面会謝絶になる。@
C 病気を気づかう見舞いから、次第に三浦光世に惹かれていく。D
C 微熱や寝汗はあるも少しずつ体力がついたころ、万一のために遺言を書き、歌を整理していた。自分の死体を解剖してもらいたい。解剖用死体が不足しており、死後に何かの役に立ちたいと思ったからである。D
C 三浦光世にノートを渡すと、必ず治るといって読んでくれた。三浦の手紙には、最愛なるという形容が綾子の名前についていた。愛の励ましのおかげで、綾子の体は元気になり、外出もできるようになった。D
C 昭和三十四年の正月、三浦の年頭の挨拶のとき、婚約式が1月25日に決まった。式が終わると、結婚式は5月24日になった。よく晴れた日曜日に教会堂で牧師の言葉に二人で深く頷いた。D
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
分類 「道ありき」から抽出した場面の病跡状況 + 対処行動
C 前川正の喪が明けてから、綾子の病室を訪問する客の中に三浦光世という男がいた。旭川営林署の会計係である。死刑因と文通し、慰め力づけている人である。やはり腎臓結核の手術歴がある。A
C 確かに結核は、侵入経路の大多数が肺に出る。また、肺や腸、腎臓などの臓器や骨、関節そして皮膚を侵し、胸膜炎や腹膜炎も起こす。綾子は、熱が出て寝汗もかき、血痰が増え面会謝絶になる。@
C 病気を気づかう見舞いから、次第に三浦光世に惹かれていく。D
C 微熱や寝汗はあるも少しずつ体力がついたころ、万一のために遺言を書き、歌を整理していた。自分の死体を解剖してもらいたい。解剖用死体が不足しており、死後に何かの役に立ちたいと思ったからである。D
C 三浦光世にノートを渡すと、必ず治るといって読んでくれた。三浦の手紙には、最愛なるという形容が綾子の名前についていた。愛の励ましのおかげで、綾子の体は元気になり、外出もできるようになった。D
C 昭和三十四年の正月、三浦の年頭の挨拶のとき、婚約式が1月25日に決まった。式が終わると、結婚式は5月24日になった。よく晴れた日曜日に教会堂で牧師の言葉に二人で深く頷いた。D
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える6
表1 対処行動の分析2
分類 「道ありき」から抽出した場面の病跡状況 + 対処行動
B その後、入院を繰り返す綾子は、婚約者の西中一郎の死後、幼馴染の前川正という北海道大学医学部の学生に惹かれていく。このままでは死んでしまうとする綾子への愛は、信じなければならない。D
B 綾子は、酒もたばこもやめる。前川正は、教会所属のクリスチャンである。綾子も教会へ通い始め、前川に薦められて伝道の書(旧約聖書)に目を通す。何もかも空なりとあり、綾子の心は引き込まれた。当初は虚無的な見方があっても、キリスト教と仏教に共通する姿を発見したことが転機となり、綾子の求道生活は、次第に真面目になっていく。D
B 昭和二十五年、綾子と前川正は、以前に比べて親しくなる。旭川の保健所で週一回気胸療法を受けた。肋膜が癒着しない限り、結核患者の胸にゴム管がついた針を刺し、気胸器から空気を送り、空気が肋膜腔に入り胸を圧迫し、肺の病巣は、空気で潰される。(トーマス・マンの「魔の山」でもスイスのダボスにあるサナトリウムのベーレンス院長が気胸病の患者に同じ方法で治療をしている。)D
B 馴れた医師には注意が必要である。うっかりして針を血管に刺すと、空気が血管に入り空気栓塞が起こる。また、肋膜腔内に入れる針が、肺に達することがある。呼吸する度に空気が腔内に洩れて肺を縮めやがて死んでしまう自然気胸もある。A
B 死にたいと思っても死ねず、生きるために自分の意思を奮い立たせても、それ以外に何かが綾子の身体に加わっている。C
B 何か計画を立てても自分の思い通りには事が進まない。西中一郎との結納の日に綾子は倒れ発病し、結婚の予定を変更した。綾子は、人間の計画を何者かが修正してくれていると考える。無論、神である。D
B 昭和26年に札幌の病院に転院したころ、前川正は、綾子に生きることが人間の権利ではなく義務であると叱るように励ました。A
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
分類 「道ありき」から抽出した場面の病跡状況 + 対処行動
B その後、入院を繰り返す綾子は、婚約者の西中一郎の死後、幼馴染の前川正という北海道大学医学部の学生に惹かれていく。このままでは死んでしまうとする綾子への愛は、信じなければならない。D
B 綾子は、酒もたばこもやめる。前川正は、教会所属のクリスチャンである。綾子も教会へ通い始め、前川に薦められて伝道の書(旧約聖書)に目を通す。何もかも空なりとあり、綾子の心は引き込まれた。当初は虚無的な見方があっても、キリスト教と仏教に共通する姿を発見したことが転機となり、綾子の求道生活は、次第に真面目になっていく。D
B 昭和二十五年、綾子と前川正は、以前に比べて親しくなる。旭川の保健所で週一回気胸療法を受けた。肋膜が癒着しない限り、結核患者の胸にゴム管がついた針を刺し、気胸器から空気を送り、空気が肋膜腔に入り胸を圧迫し、肺の病巣は、空気で潰される。(トーマス・マンの「魔の山」でもスイスのダボスにあるサナトリウムのベーレンス院長が気胸病の患者に同じ方法で治療をしている。)D
B 馴れた医師には注意が必要である。うっかりして針を血管に刺すと、空気が血管に入り空気栓塞が起こる。また、肋膜腔内に入れる針が、肺に達することがある。呼吸する度に空気が腔内に洩れて肺を縮めやがて死んでしまう自然気胸もある。A
B 死にたいと思っても死ねず、生きるために自分の意思を奮い立たせても、それ以外に何かが綾子の身体に加わっている。C
B 何か計画を立てても自分の思い通りには事が進まない。西中一郎との結納の日に綾子は倒れ発病し、結婚の予定を変更した。綾子は、人間の計画を何者かが修正してくれていると考える。無論、神である。D
B 昭和26年に札幌の病院に転院したころ、前川正は、綾子に生きることが人間の権利ではなく義務であると叱るように励ました。A
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える5
表1 対処行動の分析1
分類 「道ありき」から抽出した場面の病跡状況 + 対処行動
A 17歳で小学校の教員になった綾子は、昭和21年3月、7年間の教員生活に別れを告げた。自分自身で教えることに確信が持てなくなったためである。6月1日、突如40度近い熱が出た。翌朝、目が覚めると、体中が痛くてリウマチだと思った。病院に行くと、医者もリウマチだと言い、ザルブロという薬を打ってくれた。 @
A 一週間経過してある程度の痛みは消えた。しかし、体重が七キロも痩せ微熱がなかなかひかない。当時の医者は、肺結核を肋膜とか肺浸潤と説明した。肺結核の発病は、覚悟していたことが起こることを予感させた。 @
A 来るべきものが来れば、誰でも自分のことを本気で大切に考える。前川正との話の中で、徹底的に身体を診断してもらうことにした。昭和26年秋、綾子の体はいっそう痩せ、目が熱で潤み頬が紅潮し、37度4分の熱が続き血痰も出た。10月20日過ぎに旭川の病院に入院した。B
A 入院して4カ月経過後も、熱は続き痩せていた。C
A 排尿の回数が多くなり、動くと背中が痛かった。自分ではカリエスと見当をつけた。しかし、医師は、レントゲンに影が出るまでカリエスと診断しない。@
A 札幌の病院に転院後、血液検査、尿検査、レントゲン撮影、水検査と立て続けに検査があった。結果的には、綾子の胸部にも脊椎にも異常は認められなかった。@
A 内科の外来で聴診器を当ててくれた医師が「空洞がある」という。A
A 微熱があり、肩もこり、血痰も出た。背中の痛みは、ますますひどくなった。スリッパも履けず、このままだと下半身に麻痺が出て、失禁の症状になる。結局、背骨を結核菌が蝕むカリエスという診断がでる。A
A ギブスベッドに安静にしていなければならなくなった。B
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
分類 「道ありき」から抽出した場面の病跡状況 + 対処行動
A 17歳で小学校の教員になった綾子は、昭和21年3月、7年間の教員生活に別れを告げた。自分自身で教えることに確信が持てなくなったためである。6月1日、突如40度近い熱が出た。翌朝、目が覚めると、体中が痛くてリウマチだと思った。病院に行くと、医者もリウマチだと言い、ザルブロという薬を打ってくれた。 @
A 一週間経過してある程度の痛みは消えた。しかし、体重が七キロも痩せ微熱がなかなかひかない。当時の医者は、肺結核を肋膜とか肺浸潤と説明した。肺結核の発病は、覚悟していたことが起こることを予感させた。 @
A 来るべきものが来れば、誰でも自分のことを本気で大切に考える。前川正との話の中で、徹底的に身体を診断してもらうことにした。昭和26年秋、綾子の体はいっそう痩せ、目が熱で潤み頬が紅潮し、37度4分の熱が続き血痰も出た。10月20日過ぎに旭川の病院に入院した。B
A 入院して4カ月経過後も、熱は続き痩せていた。C
A 排尿の回数が多くなり、動くと背中が痛かった。自分ではカリエスと見当をつけた。しかし、医師は、レントゲンに影が出るまでカリエスと診断しない。@
A 札幌の病院に転院後、血液検査、尿検査、レントゲン撮影、水検査と立て続けに検査があった。結果的には、綾子の胸部にも脊椎にも異常は認められなかった。@
A 内科の外来で聴診器を当ててくれた医師が「空洞がある」という。A
A 微熱があり、肩もこり、血痰も出た。背中の痛みは、ますますひどくなった。スリッパも履けず、このままだと下半身に麻痺が出て、失禁の症状になる。結局、背骨を結核菌が蝕むカリエスという診断がでる。A
A ギブスベッドに安静にしていなければならなくなった。B
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える4
3 病跡学へのアプローチ
高橋(2000)は、ドイツの社会科学の礎を築いたマックス・ウェーバー(1864−1920)の精神病から病跡を捉え、うつ病者本人の対処行動を考察している。病跡学には、病理表現まで含む広義の意味と天才の精神分析を試みる狭義の意味がある。ここでは後者の立場で話を進める。
M.ウェーバーは、政治的な雰囲気のなかに育ち、早くから政治への関心を示していた。ベルリンやハイデルベルクで法律を学び、その後、ベルリンやフライブルクで教鞭をとる。1897年ハイデルベルクへ移る際に、両親の対立に介入し父を裁き旅へと追いやった。父は、旅先で亡くなり、父を追放したという罪の意識から不眠症を患い、仕事が手につかなくなった。
第一次世界大戦の勃発後、M.ウェーバーは、政治活動を再開し、一連の政治評論を発表する。牧野(2006)によると、世界大戦というドイツ国民にとっての危機が政治活動に飛び込む大義を与えたからである。そして、政治活動の再開は、彼に精神の病の回復をもたらした。M.ウェーバーは、ドイツ統一に向けたワイマール憲法の起草作業に関わり、プロイセンと他の領邦からなるドイツ帝国が連邦の国家として作られた。
高橋(2000)は、M.ウェーバーに関し、Aうつ病者本人の発病による影響、B周囲の対応、C病の回復の三分類で対処行動を分析している。この論文でも「道ありき」から抽出した場面の病跡状況を考え、それぞれの内容がどの対処行動に該当するのかを考える。うつ病者本人の対処行動は、以下の通りである。
病気に対する周囲の人々の誤解や無理解のため患者自身が苦しむ。
周囲にも葛藤が生じる。
回復や社会復帰を焦ると状態が悪化する。
病気は精神力で克服すべしとする考え方が心理的負担を増大させる。
人生の意味を考え周囲との親密な関係を築くなど生活重視に価値観が転換するといった特徴がある。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
高橋(2000)は、ドイツの社会科学の礎を築いたマックス・ウェーバー(1864−1920)の精神病から病跡を捉え、うつ病者本人の対処行動を考察している。病跡学には、病理表現まで含む広義の意味と天才の精神分析を試みる狭義の意味がある。ここでは後者の立場で話を進める。
M.ウェーバーは、政治的な雰囲気のなかに育ち、早くから政治への関心を示していた。ベルリンやハイデルベルクで法律を学び、その後、ベルリンやフライブルクで教鞭をとる。1897年ハイデルベルクへ移る際に、両親の対立に介入し父を裁き旅へと追いやった。父は、旅先で亡くなり、父を追放したという罪の意識から不眠症を患い、仕事が手につかなくなった。
第一次世界大戦の勃発後、M.ウェーバーは、政治活動を再開し、一連の政治評論を発表する。牧野(2006)によると、世界大戦というドイツ国民にとっての危機が政治活動に飛び込む大義を与えたからである。そして、政治活動の再開は、彼に精神の病の回復をもたらした。M.ウェーバーは、ドイツ統一に向けたワイマール憲法の起草作業に関わり、プロイセンと他の領邦からなるドイツ帝国が連邦の国家として作られた。
高橋(2000)は、M.ウェーバーに関し、Aうつ病者本人の発病による影響、B周囲の対応、C病の回復の三分類で対処行動を分析している。この論文でも「道ありき」から抽出した場面の病跡状況を考え、それぞれの内容がどの対処行動に該当するのかを考える。うつ病者本人の対処行動は、以下の通りである。
病気に対する周囲の人々の誤解や無理解のため患者自身が苦しむ。
周囲にも葛藤が生じる。
回復や社会復帰を焦ると状態が悪化する。
病気は精神力で克服すべしとする考え方が心理的負担を増大させる。
人生の意味を考え周囲との親密な関係を築くなど生活重視に価値観が転換するといった特徴がある。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える3
気分障害の発病により思考の中にも虚しい気持が常に漂っているため、この作品の執筆脳を「虚無とうつ」にする。アメリカのツング博士が提案する自己診断表、ツングの自己評価うつ病尺度(日本成人病予防協会監修2014を参照すること)を「道ありき」に適用してみよう。
【ツングの自己評価】
尺度の項目には、次のようなものがある。@気分が沈んで憂鬱だ、A朝方は一番気分がいい、B些細なことで泣きたくなる、C夜よく眠れない、D食欲は普通にある、E性欲は普通にある、F最近痩せてきた、G便秘である、H普段より動悸がする、I何となく疲れる、J気持ちはいつもさっぱりしている、Kいつも変わりなく仕事ができる、L落ち着かず、じっとしていられない、M将来に希望がある、Nいつもよりイライラする、O迷わず物事を決められる、P役に立つ人間だと思う、Q今の生活は充実していると思う、R自分が死んだほうが他の人が楽になると思う、S今の生活に満足している。
それぞれの項目に「めったにない」「時々そうだ」「しばしばそうだ」「いつもそうだ」という選択肢がある。選択肢には、左から右または右から左へと番号1、2、3、4が付いている。「道ありき」の内容に照らして各項目の番号を選択し合計すると、スコアは53点となり、当時の三浦綾子が中程度の抑うつ傾向にあったことがわかる。そこでシナジーのメタファーを「三浦綾子と虚無」にする。
虚無については、「道ありき」の第三部の中でも触れている。虚無とは、自己を喪失させ滅びに導く一つの力である。虚無に気づくことは、結核や癌の発見以上に大切である。虚しい世界にいれば、家事、勉学、芸術、就業、結婚など、どの道を選んでも虚しくならずにすむ道はない。
しかし、ハンセン病のため手足が不自由で目も見えず、人を頼らなければ呼吸しかできない人の顔が輝いているとか、がん患者が日夜平和を祈り日々時間が足りないという話がある。どうしてこの人たちは、虚無に陥らないのであろうか。彼らは、奪うことができない実存を心得ている。実存とは、真実の存在であり、永遠に実在する神のことである。三浦綾子は、神を信じるときに、虚無を克服できるとする。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
【ツングの自己評価】
尺度の項目には、次のようなものがある。@気分が沈んで憂鬱だ、A朝方は一番気分がいい、B些細なことで泣きたくなる、C夜よく眠れない、D食欲は普通にある、E性欲は普通にある、F最近痩せてきた、G便秘である、H普段より動悸がする、I何となく疲れる、J気持ちはいつもさっぱりしている、Kいつも変わりなく仕事ができる、L落ち着かず、じっとしていられない、M将来に希望がある、Nいつもよりイライラする、O迷わず物事を決められる、P役に立つ人間だと思う、Q今の生活は充実していると思う、R自分が死んだほうが他の人が楽になると思う、S今の生活に満足している。
それぞれの項目に「めったにない」「時々そうだ」「しばしばそうだ」「いつもそうだ」という選択肢がある。選択肢には、左から右または右から左へと番号1、2、3、4が付いている。「道ありき」の内容に照らして各項目の番号を選択し合計すると、スコアは53点となり、当時の三浦綾子が中程度の抑うつ傾向にあったことがわかる。そこでシナジーのメタファーを「三浦綾子と虚無」にする。
虚無については、「道ありき」の第三部の中でも触れている。虚無とは、自己を喪失させ滅びに導く一つの力である。虚無に気づくことは、結核や癌の発見以上に大切である。虚しい世界にいれば、家事、勉学、芸術、就業、結婚など、どの道を選んでも虚しくならずにすむ道はない。
しかし、ハンセン病のため手足が不自由で目も見えず、人を頼らなければ呼吸しかできない人の顔が輝いているとか、がん患者が日夜平和を祈り日々時間が足りないという話がある。どうしてこの人たちは、虚無に陥らないのであろうか。彼らは、奪うことができない実存を心得ている。実存とは、真実の存在であり、永遠に実在する神のことである。三浦綾子は、神を信じるときに、虚無を克服できるとする。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える2
2 「道ありき」のLのストーリー
人生では失うものもあれば得るものもある。例えば、病気になれば気持ちが滅入り、物事を悪く考えるようになる。三浦綾子も敗戦の翌年に肺結核の症状が出た。しかし、医師は、問診で肺結核と言わず、肺浸潤とか肋膜と説明した。肺結核と診断すれば、現代でいうがんの告知に匹敵したからである。何れにせよ、綾子は、生きる目標を失い、何もかもが虚しく思われる虚無の心境に陥った。
虚無的生活は、人間を駄目にする。三浦綾子曰く、全てが虚しいから、生きることに情熱はなく、何もかもが馬鹿くさくなり、全ての存在が否定的になって、自分の存在すら肯定できない。そんな時、医学生の前川正という人から聖書を薦められる。聖書は、教訓めいたことのみならず、虚無的な物の見方も含んでおり、自己を否定して追い込むと何かが開けると説く。そして綾子の求道生活も次第に真面目になっていく。そこで「道ありき」の購読脳を「虚無と愛情」にする。
旭川での入院当初、三浦綾子自身は、結核からカリエスを発症していると思っていた。カリエスとは、骨の慢性炎症、ことに結核によって骨質が次第に溶け、膿が出るようになる骨の病である。一方、肺結核は、結核菌によって起る慢性の肺の感染症であり、多くは無自覚に起こり、咳、喀痰、喀血、呼吸促迫、胸痛などの局所症状、羸痩、倦怠、微熱、発汗または食欲不振、脈拍増加などの一般症状を呈する。カリエスは、症状が相当進まないと、医師はそのように診断しない。
札幌に転院してから熱が続き体は痩せ血痰も出て排尿の回数が多くなり、夜だけで7、8回起きることがあった。病院では、血液検査、尿検査、1.8リットルの水を飲む水検査などの検査が続く。体は、ますます痩せ細り、胸部に空洞が判明した。背中も痛み、下半身に麻痺が来て失禁も伴い、まさにカリエスである。絶対安静の診断が下される。こうした身体疾患が原因となり、気分障害も発症している。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
人生では失うものもあれば得るものもある。例えば、病気になれば気持ちが滅入り、物事を悪く考えるようになる。三浦綾子も敗戦の翌年に肺結核の症状が出た。しかし、医師は、問診で肺結核と言わず、肺浸潤とか肋膜と説明した。肺結核と診断すれば、現代でいうがんの告知に匹敵したからである。何れにせよ、綾子は、生きる目標を失い、何もかもが虚しく思われる虚無の心境に陥った。
虚無的生活は、人間を駄目にする。三浦綾子曰く、全てが虚しいから、生きることに情熱はなく、何もかもが馬鹿くさくなり、全ての存在が否定的になって、自分の存在すら肯定できない。そんな時、医学生の前川正という人から聖書を薦められる。聖書は、教訓めいたことのみならず、虚無的な物の見方も含んでおり、自己を否定して追い込むと何かが開けると説く。そして綾子の求道生活も次第に真面目になっていく。そこで「道ありき」の購読脳を「虚無と愛情」にする。
旭川での入院当初、三浦綾子自身は、結核からカリエスを発症していると思っていた。カリエスとは、骨の慢性炎症、ことに結核によって骨質が次第に溶け、膿が出るようになる骨の病である。一方、肺結核は、結核菌によって起る慢性の肺の感染症であり、多くは無自覚に起こり、咳、喀痰、喀血、呼吸促迫、胸痛などの局所症状、羸痩、倦怠、微熱、発汗または食欲不振、脈拍増加などの一般症状を呈する。カリエスは、症状が相当進まないと、医師はそのように診断しない。
札幌に転院してから熱が続き体は痩せ血痰も出て排尿の回数が多くなり、夜だけで7、8回起きることがあった。病院では、血液検査、尿検査、1.8リットルの水を飲む水検査などの検査が続く。体は、ますます痩せ細り、胸部に空洞が判明した。背中も痛み、下半身に麻痺が来て失禁も伴い、まさにカリエスである。絶対安静の診断が下される。こうした身体疾患が原因となり、気分障害も発症している。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える1
1 先行研究
三浦綾子(1922−1999)が自身の闘病生活を描いた「道ありき」は、24歳から37歳までの実生活を描いている。この論文は、「道ありき」に描かれた三浦綾子の病状からうつ病の様子を探ることにより、病跡学の分析を試みる。そもそも入試や育成に違いがあるため、人文と医学は、共生の組合せの中で最も成立しにくい組である。また、心理と医学の組でも行動様式とか臨床心理が主要の研究のため、執筆脳は、殆んど研究されていない。
病跡学の参考資料として日本病跡学会の論集59号を使用する。その中にあるマックス・ウェーバーのうつ病に関する論文(高橋2000)は、うつ病に対して患者や家族がどのように対処するのかについてうつ病者の行動や周囲の反応という観点から考察をしている。この論文も、うつ病者(作者)の発病による影響や虚無感、周囲の人たちの対応、そして婚約者との死別を乗り越え、綾子が三浦光世と人生を再スタートする回復の場面について作者の病を追跡しながら考察していく。
シナジーのメタファーの研究の流れを見ると、基本的に人文と自然科学の調節である。まず、人文と情報の計算文学が来て、次に人文と医学から病跡学の考察になる。その際、理工や医学の専門家による購読の研究と内包の違いを説明するために、まず認知の柱をスライドさせて医学と調節し、次にフォーマットのシフトによるLの考察を試みる。
イメージでいうと、縦は比較とか照合を、横は異質の入出力を調節している。その際、人文と社会、人文と情報、文化と栄養、心理と医学といった組を作ることにより信号が横滑りする。信号の流れは、縦横共に分析、直感、エキスパートである。
こうした購読脳と執筆脳の相互関係から三浦綾子のシナジーのメタファーについて考える。先行研究の計算文学の分析では、作家が思考を繰り返す問題解決の場面が考察対象であった。しかし、病跡学の場合は、問題未解決の場面も含めたより多くの場面の考察が可能である。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子(1922−1999)が自身の闘病生活を描いた「道ありき」は、24歳から37歳までの実生活を描いている。この論文は、「道ありき」に描かれた三浦綾子の病状からうつ病の様子を探ることにより、病跡学の分析を試みる。そもそも入試や育成に違いがあるため、人文と医学は、共生の組合せの中で最も成立しにくい組である。また、心理と医学の組でも行動様式とか臨床心理が主要の研究のため、執筆脳は、殆んど研究されていない。
病跡学の参考資料として日本病跡学会の論集59号を使用する。その中にあるマックス・ウェーバーのうつ病に関する論文(高橋2000)は、うつ病に対して患者や家族がどのように対処するのかについてうつ病者の行動や周囲の反応という観点から考察をしている。この論文も、うつ病者(作者)の発病による影響や虚無感、周囲の人たちの対応、そして婚約者との死別を乗り越え、綾子が三浦光世と人生を再スタートする回復の場面について作者の病を追跡しながら考察していく。
シナジーのメタファーの研究の流れを見ると、基本的に人文と自然科学の調節である。まず、人文と情報の計算文学が来て、次に人文と医学から病跡学の考察になる。その際、理工や医学の専門家による購読の研究と内包の違いを説明するために、まず認知の柱をスライドさせて医学と調節し、次にフォーマットのシフトによるLの考察を試みる。
イメージでいうと、縦は比較とか照合を、横は異質の入出力を調節している。その際、人文と社会、人文と情報、文化と栄養、心理と医学といった組を作ることにより信号が横滑りする。信号の流れは、縦横共に分析、直感、エキスパートである。
こうした購読脳と執筆脳の相互関係から三浦綾子のシナジーのメタファーについて考える。先行研究の計算文学の分析では、作家が思考を繰り返す問題解決の場面が考察対象であった。しかし、病跡学の場合は、問題未解決の場面も含めたより多くの場面の考察が可能である。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分7
6 まとめ
データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。
【参考文献】
片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 ヘルスケア出版 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 ヘルスケア出版 2014
三浦綾子の「道ありき」 新潮文庫 2004
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」の購読脳について ファンブログ 2019
データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。
【参考文献】
片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 ヘルスケア出版 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 ヘルスケア出版 2014
三浦綾子の「道ありき」 新潮文庫 2004
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」の購読脳について ファンブログ 2019
三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分6
◆場面3
北大病院を退院して旭川に帰ったわたしは、精密検査の結果を、家人や三浦光世にあらためて報告した。血痰や喀血で、しばしば死の恐怖をわたしに与えた空洞が、いまや完全に治っていること、カリエスも、七年にわたってギプスベッドに忍耐したおかげで、堅実に治っていることをお互いに奇跡と喜び合った。
A2 B1 C2 D1
ただ、結核性腹膜炎から婦人科の方が少し冒されているため、引き続いて超短波の療法を、旭川の病院で受けることになった。毎日の通院が、わたしの体を次第に鍛えて行った。十貫足らずだった体重が、いつしか十四貫にまでなっていった。A1 B1 C2 D2
明けて昭和三十四年の正月である。三浦が一番先に年賀に来てくれた。わたしたちは新年初めての礼拝を、二人で待った。聖書を共に読み、賛美歌を歌い、共に祈った。わたしは彼に尋ねた。「来年のお正月も来て下さるでしょうね。」A1 B1 C2 D2
あべかわ餅を食べていた彼は、箸をとめ黙って首を横にふった。「まあ!来てくださらないの?」わたしは驚いて彼を見た。彼はおだやかに笑って言った。「来年の正月は、二人でこの家に年賀に来ましょう」「え?二人で?」彼の言葉にわたしはハッとした。何とも言えない喜びが胸にこみあげた。A1 B1 C2 D1
三浦光世が帰った後、わたしは母に彼の言葉を告げた。夕食の時、母が父に言った。「とうさん、今年はタンスを買わなくてはなりませんよ」「タンスを?どうしてだ」「だって、綾ちゃんがと嫁に行くんですって」「綾子がお嫁に?相手は誰だ、人間か」A1 B1 C2 D1
【カラム】
A平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.3低い、標準偏差0.2普通、中央値1.25低い、四分位範囲1.5普通
CD 平均1.7高い、標準偏差0.2普通、中央値1.75高い、四分位範囲1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
BとCの標準偏差が0のため、直示と新情報を中心に描こうと思っている。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → 精密検査の結果を報告する。
A 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 旭川の病院に通院する。
B 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 正月三浦光世が見舞いに来る。
C 5、視覚、直示、新情報、解決 → 来年の正月の話もする。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 綾子は嫁に行くことになる。
【場面の全体】
視覚情報が8割ほどしかなく、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも低い。従って、ここでは視覚以外の情報が役に立っている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
北大病院を退院して旭川に帰ったわたしは、精密検査の結果を、家人や三浦光世にあらためて報告した。血痰や喀血で、しばしば死の恐怖をわたしに与えた空洞が、いまや完全に治っていること、カリエスも、七年にわたってギプスベッドに忍耐したおかげで、堅実に治っていることをお互いに奇跡と喜び合った。
A2 B1 C2 D1
ただ、結核性腹膜炎から婦人科の方が少し冒されているため、引き続いて超短波の療法を、旭川の病院で受けることになった。毎日の通院が、わたしの体を次第に鍛えて行った。十貫足らずだった体重が、いつしか十四貫にまでなっていった。A1 B1 C2 D2
明けて昭和三十四年の正月である。三浦が一番先に年賀に来てくれた。わたしたちは新年初めての礼拝を、二人で待った。聖書を共に読み、賛美歌を歌い、共に祈った。わたしは彼に尋ねた。「来年のお正月も来て下さるでしょうね。」A1 B1 C2 D2
あべかわ餅を食べていた彼は、箸をとめ黙って首を横にふった。「まあ!来てくださらないの?」わたしは驚いて彼を見た。彼はおだやかに笑って言った。「来年の正月は、二人でこの家に年賀に来ましょう」「え?二人で?」彼の言葉にわたしはハッとした。何とも言えない喜びが胸にこみあげた。A1 B1 C2 D1
三浦光世が帰った後、わたしは母に彼の言葉を告げた。夕食の時、母が父に言った。「とうさん、今年はタンスを買わなくてはなりませんよ」「タンスを?どうしてだ」「だって、綾ちゃんがと嫁に行くんですって」「綾子がお嫁に?相手は誰だ、人間か」A1 B1 C2 D1
【カラム】
A平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.3低い、標準偏差0.2普通、中央値1.25低い、四分位範囲1.5普通
CD 平均1.7高い、標準偏差0.2普通、中央値1.75高い、四分位範囲1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
BとCの標準偏差が0のため、直示と新情報を中心に描こうと思っている。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → 精密検査の結果を報告する。
A 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 旭川の病院に通院する。
B 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 正月三浦光世が見舞いに来る。
C 5、視覚、直示、新情報、解決 → 来年の正月の話もする。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 綾子は嫁に行くことになる。
【場面の全体】
視覚情報が8割ほどしかなく、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも低い。従って、ここでは視覚以外の情報が役に立っている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分5
◆場面2
わたしは、曾つて自分が、自殺を計ったことを思い出した。一人の人間が健康を取り戻すのに、これほどの苦しみを経なければならない。何とももったいないことを考えたのかと、その頃になってやっと自分の愚かさが悔やまれたりするのだった。A2 B1 C2 D2
彼の二回目の手術が終わった翌朝だった。うつらうつらしているわたしの病室に、彼の母と、弟さんが入って来た。私の所から借りたゴザを返しに来たという。そのゴザは、彼の母が病室に敷いて使うのに、わたしがお貸ししたのだった。A1 B1 C2 D1
驚いたわたしが、「どうして、もういらないのですか」と聞くと、「正が先ほど亡くなりましたから、もういらなくなったのです」と、おっしゃって、弟さんと二人で、わたしのベッドにつかまって泣かれるのだった。
A1 B1 C2 D2
「そんなはずがありません」
そう叫ぼうとおもうのだが、なかなか声にならない。やっと声になったかと思った時、わたしは目をさました。いまのが夢だったとは思えないほど、あまりにありありとしていて、わたしは言いようのない不吉な予感がした。いやな夢を見たというより、いやな幻を見せられたという感じだった。A2 B1 C1 D2
だが、わたしの夢とは反対に、彼は再び日に日に元気になり、やがて三月の末に退院することになった。彼の父が迎えに来られ、わたしを見舞ってくださった時、わたしは目を真っ赤に泣きはらしていた。大きな手術も無事に終って、元気に反っていくのだから、わたしは誰よりも喜んでいいはずだった。それなのに、なぜかわたしは泣けて仕方がなかった。A1 B1 C2 D1
【カラム】
A平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
D平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.3低い、標準偏差0.2低い、中央値1.25低い、四分位範囲1.5普通
CD 平均1.6普通、標準偏差0.49普通、中央値1.5普通、四分位範囲1低い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
前川正を哀れに思う夢であるが、情報は旧から新、問題は未解決から解決へ進んでいく。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 7、視覚以外、隠喩、旧情報、未解決 → 自殺をはかったことを愚かと悔やむ。
A 5、視覚、直示、新情報、解決 → 前川正の母が見舞いに来る。
B 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 前川が死んだと告げる。
C 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 → 夢なのに厭な予感がした。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 前川正は退院することになった。
【場面の全体】
視覚情報が6割で通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚以外の情報が問題解決に効いている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
わたしは、曾つて自分が、自殺を計ったことを思い出した。一人の人間が健康を取り戻すのに、これほどの苦しみを経なければならない。何とももったいないことを考えたのかと、その頃になってやっと自分の愚かさが悔やまれたりするのだった。A2 B1 C2 D2
彼の二回目の手術が終わった翌朝だった。うつらうつらしているわたしの病室に、彼の母と、弟さんが入って来た。私の所から借りたゴザを返しに来たという。そのゴザは、彼の母が病室に敷いて使うのに、わたしがお貸ししたのだった。A1 B1 C2 D1
驚いたわたしが、「どうして、もういらないのですか」と聞くと、「正が先ほど亡くなりましたから、もういらなくなったのです」と、おっしゃって、弟さんと二人で、わたしのベッドにつかまって泣かれるのだった。
A1 B1 C2 D2
「そんなはずがありません」
そう叫ぼうとおもうのだが、なかなか声にならない。やっと声になったかと思った時、わたしは目をさました。いまのが夢だったとは思えないほど、あまりにありありとしていて、わたしは言いようのない不吉な予感がした。いやな夢を見たというより、いやな幻を見せられたという感じだった。A2 B1 C1 D2
だが、わたしの夢とは反対に、彼は再び日に日に元気になり、やがて三月の末に退院することになった。彼の父が迎えに来られ、わたしを見舞ってくださった時、わたしは目を真っ赤に泣きはらしていた。大きな手術も無事に終って、元気に反っていくのだから、わたしは誰よりも喜んでいいはずだった。それなのに、なぜかわたしは泣けて仕方がなかった。A1 B1 C2 D1
【カラム】
A平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
D平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.3低い、標準偏差0.2低い、中央値1.25低い、四分位範囲1.5普通
CD 平均1.6普通、標準偏差0.49普通、中央値1.5普通、四分位範囲1低い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
前川正を哀れに思う夢であるが、情報は旧から新、問題は未解決から解決へ進んでいく。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 7、視覚以外、隠喩、旧情報、未解決 → 自殺をはかったことを愚かと悔やむ。
A 5、視覚、直示、新情報、解決 → 前川正の母が見舞いに来る。
B 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 前川が死んだと告げる。
C 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 → 夢なのに厭な予感がした。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 前川正は退院することになった。
【場面の全体】
視覚情報が6割で通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚以外の情報が問題解決に効いている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分4
◆場面1
言ってみれば、この世で望める限りの幸福を一心に集めていたわけだ。しかし彼は老人を見て、人間の衰えゆく姿を思い、葬式を見て、人の命の有限なることも思った。そしてある夜ひそかに、王宮も王子の地位も、美しい妻も子も棄てて、一人山の中に入ってしまった。A1 B1 C2 D1
つまり釈迦は、今まで自分が幸福だと思っていたものに、むなしさだけを感じ取ってしまったのであろう。伝導の書といい、釈迦といい、そのそもそもの初めには虚無があったということに、わたしは宗教というものに共通する一つの姿を見た。A1 B1 C2 D1
わたし自身、敗戦以来すっかり虚無的になっていたから、この発見はわたしに一つの転機をもたらした。
A1 B1 C2 D1
虚無は、この世のすべてのものを否定するむなしい考え方であり、ついには自分自身をも否定することになるわけだが、そこまで追いつめられた時に、何かが開けるということを、伝導の書にわたしは感じた。
A1 B2 C2 D1
この伝導の書の終わりにあった、「何時の若き日に、何時の造り主をおぼえよ」の一言は、それ故にひどくわたしの心を打った。それ以来私たちの求道生活は、次第にまじめになっていった。A1 B2 C2 D1
A平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.2普通、標準偏差0.2低い、中央値1.25普通、四分位範囲1低い
CD 平均1.5高い、標準偏差0低い、中央値]1.5普通、四分位範囲1.5普通
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
A、C、Dのバラツキが小さいことから、作者の考察は一定している。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 釈迦が一人で山に入る。
A 5、視覚、直示、新情報、解決 → 宗教に見る共通性。
B 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 発見による転機。
C 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 → 追いつめられると何かが開ける。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 求道生活を修正。
【場面の全体】
全体で視覚情報は10割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりもかなり高いため、視覚の情報が問題解決に効いている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
言ってみれば、この世で望める限りの幸福を一心に集めていたわけだ。しかし彼は老人を見て、人間の衰えゆく姿を思い、葬式を見て、人の命の有限なることも思った。そしてある夜ひそかに、王宮も王子の地位も、美しい妻も子も棄てて、一人山の中に入ってしまった。A1 B1 C2 D1
つまり釈迦は、今まで自分が幸福だと思っていたものに、むなしさだけを感じ取ってしまったのであろう。伝導の書といい、釈迦といい、そのそもそもの初めには虚無があったということに、わたしは宗教というものに共通する一つの姿を見た。A1 B1 C2 D1
わたし自身、敗戦以来すっかり虚無的になっていたから、この発見はわたしに一つの転機をもたらした。
A1 B1 C2 D1
虚無は、この世のすべてのものを否定するむなしい考え方であり、ついには自分自身をも否定することになるわけだが、そこまで追いつめられた時に、何かが開けるということを、伝導の書にわたしは感じた。
A1 B2 C2 D1
この伝導の書の終わりにあった、「何時の若き日に、何時の造り主をおぼえよ」の一言は、それ故にひどくわたしの心を打った。それ以来私たちの求道生活は、次第にまじめになっていった。A1 B2 C2 D1
A平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.2普通、標準偏差0.2低い、中央値1.25普通、四分位範囲1低い
CD 平均1.5高い、標準偏差0低い、中央値]1.5普通、四分位範囲1.5普通
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
A、C、Dのバラツキが小さいことから、作者の考察は一定している。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 釈迦が一人で山に入る。
A 5、視覚、直示、新情報、解決 → 宗教に見る共通性。
B 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 発見による転機。
C 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 → 追いつめられると何かが開ける。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 求道生活を修正。
【場面の全体】
全体で視覚情報は10割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりもかなり高いため、視覚の情報が問題解決に効いている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分3
3 多変量の分析
多変量を解析するには、クラスタと主成分が有効な分析になる。これらの分析がデータベースの統計処理に繋がるからである。
多変数のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。また、クラスタ分析は、多変数のデータを丸ごと扱う最初の作業ともいえる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A五感(1視覚と2それ以外)、Bジェスチャー(1直示と2比喩)、C情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるのか考える。「道ありき」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとラインの特徴を表している。なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野 2018)
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
多変量を解析するには、クラスタと主成分が有効な分析になる。これらの分析がデータベースの統計処理に繋がるからである。
多変数のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。また、クラスタ分析は、多変数のデータを丸ごと扱う最初の作業ともいえる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A五感(1視覚と2それ以外)、Bジェスチャー(1直示と2比喩)、C情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるのか考える。「道ありき」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとラインの特徴を表している。なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野 2018)
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分2
2 三浦綾子の「道ありき」は気分障害
「道ありき」の購読脳を「虚無と愛情」にする。回想録執筆時の記憶の中では、肺病のため虚しい思いがつきまとっている。気分障害の原因については、身体疾患との関連があるといわれている。日本成人病予防協会(2014)によると、うつの症状としては、心身のエネルギーが低下することによって日常生活に支障をきたした状態のことである。憂鬱感と不安感が混じった抑うつ感、考えがまとまらず決断に時間がかかり、注意散漫になる思考障害、物事に対する関心や興味が低下する意欲障害がうつ病の基本的な症状である。
購読脳の組み合せ、「虚無と愛情」という出力が、共生の読みの入力となって横にスライドし、出力として「虚無とうつ」という執筆脳の組を考える。シナジーのメタファーは、「三浦綾子と虚無」として調節する。
人生の中では失うものもあれば得るものもある。三浦綾子も20代に入って敗戦の翌年に肺結核の症状が出た。しかし、医師は肺結核とは言わず、問診で肺浸潤とか肋膜と説明した。肺結核と診断すれば、現代でいうがんを宣告するようなものであった。何れにせよ何を目標に生きればよいのかわからず、綾子は、何もかもが虚しく思われる虚無の心境となった。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
「道ありき」の購読脳を「虚無と愛情」にする。回想録執筆時の記憶の中では、肺病のため虚しい思いがつきまとっている。気分障害の原因については、身体疾患との関連があるといわれている。日本成人病予防協会(2014)によると、うつの症状としては、心身のエネルギーが低下することによって日常生活に支障をきたした状態のことである。憂鬱感と不安感が混じった抑うつ感、考えがまとまらず決断に時間がかかり、注意散漫になる思考障害、物事に対する関心や興味が低下する意欲障害がうつ病の基本的な症状である。
購読脳の組み合せ、「虚無と愛情」という出力が、共生の読みの入力となって横にスライドし、出力として「虚無とうつ」という執筆脳の組を考える。シナジーのメタファーは、「三浦綾子と虚無」として調節する。
人生の中では失うものもあれば得るものもある。三浦綾子も20代に入って敗戦の翌年に肺結核の症状が出た。しかし、医師は肺結核とは言わず、問診で肺浸潤とか肋膜と説明した。肺結核と診断すれば、現代でいうがんを宣告するようなものであった。何れにせよ何を目標に生きればよいのかわからず、綾子は、何もかもが虚しく思われる虚無の心境となった。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
三浦綾子の「道ありき」の多変量解析−クラスタ分析と主成分1
1 先行研究との関係
これまでに三浦綾子(1922−1999)の「道ありき」執筆時の脳の活動を思考とし、シナジーのメタファーを作成している。(花村2019) この小論では、さらに多変量解析に注目し、クラスタ分析と主成分について考察する。それぞれの場面で三浦綾子の執筆脳がデータベースから異なる視点で分析できれば、自ずと客観性は上がっていく。この小論でシナジーのメタファーといえば「三浦綾子と虚無」を指す。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
これまでに三浦綾子(1922−1999)の「道ありき」執筆時の脳の活動を思考とし、シナジーのメタファーを作成している。(花村2019) この小論では、さらに多変量解析に注目し、クラスタ分析と主成分について考察する。それぞれの場面で三浦綾子の執筆脳がデータベースから異なる視点で分析できれば、自ずと客観性は上がっていく。この小論でシナジーのメタファーといえば「三浦綾子と虚無」を指す。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
三浦綾子の「道ありき」で寄与危険を考える4
3 まとめ
三浦綾子の「道ありき」の既婚正義の読みと既婚不正の読みで計画出産に関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連を計算した。寄与危険で事象の起こりやすさを計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。寄与危険の分析に関心がある人は、試してもらいたい。
参考文献
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」で執筆脳を考える ブログ「シナジーのメタファー」2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でファイ係数を考える ブログ「シナジーのメタファー」2020
日本疫学会 疫学用語の基礎知識 https://jeaweb.jp/glossary/index.html
三浦綾子の「道ありき」の既婚正義の読みと既婚不正の読みで計画出産に関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連を計算した。寄与危険で事象の起こりやすさを計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。寄与危険の分析に関心がある人は、試してもらいたい。
参考文献
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」で執筆脳を考える ブログ「シナジーのメタファー」2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でファイ係数を考える ブログ「シナジーのメタファー」2020
日本疫学会 疫学用語の基礎知識 https://jeaweb.jp/glossary/index.html
三浦綾子の「道ありき」で寄与危険を考える3
表2の数字を公式に当てはめて寄与危険を計算する。
表3
虚無あり 結核あり4 結核なし3 縦計7
虚無なし 結核あり2 結核なし4 縦計6
結核あり 虚無あり4 虚無なし2 横計6
結核なし 虚無あり3 虚無なし4 横計7
寄与危険=a/a+b − c/c+d=4/7 – 2/6=0.24
この例からすると、虚無ありの結核なしになると、出産が24%減少することになる。
寄与危険割合=危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク−危険因子非曝露(要因Aなし)群の罹患リスク/危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク
=((a/a+b)−(c/c+d))/ a/a+b x 100=(4/7 – 2/6)/(4/7)x 100=42.1
この例では、虚無ありで結核ありのうち42.1がカリエスと考えられる。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』で寄与危険を考える」より
表3
虚無あり 結核あり4 結核なし3 縦計7
虚無なし 結核あり2 結核なし4 縦計6
結核あり 虚無あり4 虚無なし2 横計6
結核なし 虚無あり3 虚無なし4 横計7
寄与危険=a/a+b − c/c+d=4/7 – 2/6=0.24
この例からすると、虚無ありの結核なしになると、出産が24%減少することになる。
寄与危険割合=危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク−危険因子非曝露(要因Aなし)群の罹患リスク/危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク
=((a/a+b)−(c/c+d))/ a/a+b x 100=(4/7 – 2/6)/(4/7)x 100=42.1
この例では、虚無ありで結核ありのうち42.1がカリエスと考えられる。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』で寄与危険を考える」より
三浦綾子の「道ありき」で寄与危険を考える2
2 三浦綾子の「道ありき」でクロス集計表を分析する
表2
N病院に入院して四カ月がたったが、依然としてわたしの熱はつづき、身体はやせていた。しかし、その熱の原因を知ることはできなかった。排尿の回数が多くなり、時には夜七、八回おきることがあった。医師に言うと、驚いたことに、尿のでない薬をくれるというのである。虚無あり結核1 虚無なし結核1
わたしは、医学にはしろうとである。しかし、尿の回数が多いと言えば、少なくとも検尿ぐらいはするだろうと思った。それがいきなり尿のでなくなる薬と聞いて、この病院にいてもラチがあかないと考えた。
虚無あり結核1 虚無なし結核2
熱がでると解熱剤、下痢をすると下痢止め、咳が出れば咳止め、というのは一番信頼できない医師のすることではないだろうか。何よりもその原因を調べた上で、適当な処置がなされなければならないはずだった。わたしが退院を考えたのは、このことだけではなかった。虚無あり結核1 虚無なし結核2
その頃、私の背中がちょっとでも動かすと辺に痛むのだ。院内の外科医に見てもらうと、「神経だ。若い娘のことは、よく背中が痛むことがある。いちいち気にとめる必要はない」と言った。しかし、動かすと痛いのだから、もしかしたらカリエスではないかと尋ねてみた。虚無あり結核1 虚無なし結核1
医師は怒った。「レントゲン写真にも変化がない。神経だ」再び叱られて、いたし方なくわたしは病室に帰ってきた。わたしは、療養生活七年目であった。もう、客観的に自分の病状をとらえることができるはずである。誰でも最初のうちは、病気のことがよくわからないから、いらぬ神経を使うが、少なくとも六年の経験というものは、それほど神経質にはさせないはずである。医師が何を言おうと、わたしは病状からしてカリエスだろうと見当をつけた。虚無あり結核1 虚無なし結核1
指数のため、既婚(正義)は、計画出産あり3なし2、既婚(不正)は、計画出産あり1なし4になる。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』で寄与危険を考える」より
表2
N病院に入院して四カ月がたったが、依然としてわたしの熱はつづき、身体はやせていた。しかし、その熱の原因を知ることはできなかった。排尿の回数が多くなり、時には夜七、八回おきることがあった。医師に言うと、驚いたことに、尿のでない薬をくれるというのである。虚無あり結核1 虚無なし結核1
わたしは、医学にはしろうとである。しかし、尿の回数が多いと言えば、少なくとも検尿ぐらいはするだろうと思った。それがいきなり尿のでなくなる薬と聞いて、この病院にいてもラチがあかないと考えた。
虚無あり結核1 虚無なし結核2
熱がでると解熱剤、下痢をすると下痢止め、咳が出れば咳止め、というのは一番信頼できない医師のすることではないだろうか。何よりもその原因を調べた上で、適当な処置がなされなければならないはずだった。わたしが退院を考えたのは、このことだけではなかった。虚無あり結核1 虚無なし結核2
その頃、私の背中がちょっとでも動かすと辺に痛むのだ。院内の外科医に見てもらうと、「神経だ。若い娘のことは、よく背中が痛むことがある。いちいち気にとめる必要はない」と言った。しかし、動かすと痛いのだから、もしかしたらカリエスではないかと尋ねてみた。虚無あり結核1 虚無なし結核1
医師は怒った。「レントゲン写真にも変化がない。神経だ」再び叱られて、いたし方なくわたしは病室に帰ってきた。わたしは、療養生活七年目であった。もう、客観的に自分の病状をとらえることができるはずである。誰でも最初のうちは、病気のことがよくわからないから、いらぬ神経を使うが、少なくとも六年の経験というものは、それほど神経質にはさせないはずである。医師が何を言おうと、わたしは病状からしてカリエスだろうと見当をつけた。虚無あり結核1 虚無なし結核1
指数のため、既婚(正義)は、計画出産あり3なし2、既婚(不正)は、計画出産あり1なし4になる。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』で寄与危険を考える」より
三浦綾子の「道ありき」で寄与危険を考える1
1 寄与危険とは
寄与危険は、危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患(要因B)リスクと非曝露(要因Aなし)群の罹患(要因B)リスクとの差で示される(表1)。リスク差ともいう。すなわち、「危険因子の曝露(要因Aあり)によって罹患リスクがどれだけ増えたか」「危険因子に曝露されなければ(要因Aなし)罹患リスクがどれだけ減少するか(危険因子が集団に与える影響の大きさ)」を示す。公衆衛生対策で重要な指標であり、もしその要因が除去されたらどれだけ疾病を予防できるかを意味している。
表1
要因Aあり 要因Bありa 要因Bなしb 縦計a+b
要因Aなし 要因Bありc 要因Bなしd 縦計c+d
要因Bあり 要因Aありa 要因Aなしc 横計a+c
要因Bなし 要因Aありb 要因Aなしd 横計b+d
寄与危険=危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク−危険因子非曝露(要因Aなし)群の罹患リスク
=a/a+b − c/c+d
寄与危険割合
寄与危険割合は、寄与危険が曝露(要因Aあり)群の罹患リスクに占める割合を示す。すなわち、「危険因子曝露(要因Aあり)群のなかで発症(罹患)したもののうち、真に曝露が影響して罹患(発症)した者は何%であるか」を示す。
寄与危険割合=危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク−危険因子非曝露(要因Aなし)群の罹患リスク/危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク
=((a/a+b)−(c/c+d))/ a/a+b x 100
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』で寄与危険を考える」より
寄与危険は、危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患(要因B)リスクと非曝露(要因Aなし)群の罹患(要因B)リスクとの差で示される(表1)。リスク差ともいう。すなわち、「危険因子の曝露(要因Aあり)によって罹患リスクがどれだけ増えたか」「危険因子に曝露されなければ(要因Aなし)罹患リスクがどれだけ減少するか(危険因子が集団に与える影響の大きさ)」を示す。公衆衛生対策で重要な指標であり、もしその要因が除去されたらどれだけ疾病を予防できるかを意味している。
表1
要因Aあり 要因Bありa 要因Bなしb 縦計a+b
要因Aなし 要因Bありc 要因Bなしd 縦計c+d
要因Bあり 要因Aありa 要因Aなしc 横計a+c
要因Bなし 要因Aありb 要因Aなしd 横計b+d
寄与危険=危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク−危険因子非曝露(要因Aなし)群の罹患リスク
=a/a+b − c/c+d
寄与危険割合
寄与危険割合は、寄与危険が曝露(要因Aあり)群の罹患リスクに占める割合を示す。すなわち、「危険因子曝露(要因Aあり)群のなかで発症(罹患)したもののうち、真に曝露が影響して罹患(発症)した者は何%であるか」を示す。
寄与危険割合=危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク−危険因子非曝露(要因Aなし)群の罹患リスク/危険因子曝露(要因Aあり)群の罹患リスク
=((a/a+b)−(c/c+d))/ a/a+b x 100
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』で寄与危険を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でオッズ比を考える4
3 まとめ
三浦綾子の「道ありき」でレントゲンの影ありの読みと影なしの読みでカリエスに関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連を計算した。オッズ比で事象の起こりやすさを計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。オッズ比の分析に関心がある人は、試してもらいたい。
参考文献
中村好一 基礎から学ぶ楽しい保険統計 医学書院 2016
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」で執筆脳を考える ブログ「シナジーのメタファー」2020
オッズ比 Wikipedia
三浦綾子の「道ありき」でレントゲンの影ありの読みと影なしの読みでカリエスに関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連を計算した。オッズ比で事象の起こりやすさを計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。オッズ比の分析に関心がある人は、試してもらいたい。
参考文献
中村好一 基礎から学ぶ楽しい保険統計 医学書院 2016
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」で執筆脳を考える ブログ「シナジーのメタファー」2020
オッズ比 Wikipedia
三浦綾子の「道ありき」でオッズ比を考える3
表2の数字を(1)を公式に当てはめてオッズ比を計算する。
表3
影あり カリエスあり1 カリエスなし4 縦計5
影なし カリエスあり4 カリエスなし1 縦計5
カリエスあり 影あり1 影なし4 横計5
カリエスなし 影あり4 影なし1 横計5
要因Aありのオッズ=1/4=0.25
要因Aなしのオッズ=4/1=4
オッズ比=0.25÷4=0.06 オッズ比は、0.06ということになる。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でオッズ比を考える」より
表3
影あり カリエスあり1 カリエスなし4 縦計5
影なし カリエスあり4 カリエスなし1 縦計5
カリエスあり 影あり1 影なし4 横計5
カリエスなし 影あり4 影なし1 横計5
要因Aありのオッズ=1/4=0.25
要因Aなしのオッズ=4/1=4
オッズ比=0.25÷4=0.06 オッズ比は、0.06ということになる。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でオッズ比を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でオッズ比を考える2
表2
わたしは、医学にはしろうとである。しかし、尿の回数が多いと言えば、少なくとも検尿ぐらいはするだろうと思った。それがいきなり尿のでなくなる薬と聞いて、この病院にいてもラチがあかないと考えた。
カリエスあり影2 カリエスなし影1
熱がでると解熱剤、下痢をすると下痢止め、咳が出れば咳止め、というのは一番信頼できない医師のすることではないだろうか。何よりもその原因を調べた上で、適当な処置がなされなければならないはずだった。わたしが退院を考えたのは、このことだけではなかった。カリエスあり影2 カリエスなし影1
その頃、私の背中がちょっとでも動かすと辺に痛むのだ。院内の外科医に見てもらうと、「神経だ。若い娘のことは、よく背中が痛むことがある。いちいち気にとめる必要はない」と言った。しかし、動かすと痛いのだから、もしかしたらカリエスではないかと尋ねてみた。カリエスあり影2 カリエスなし影1
医師は怒った。「レントゲン写真にも変化がない。神経だ」再び叱られて、いたし方なくわたしは病室に帰ってきた。わたしは、療養生活七年目であった。もう、客観的に自分の病状をとらえることができるはずである。カリエスあり影2 カリエスなし影1
誰でも最初のうちは、病気のことがよくわからないから、いらぬ神経を使うが、少なくとも六年の経験というものは、それほど神経質にはさせないはずである。医師が何を言おうと、わたしは病状からしてカリエスだろうと見当をつけた。カリエスの患者の話を聞くと、そのほとんどが、幾度か医師の誤診にあっているのだ。
カリエスあり影1 カリエスなし影2
指数のため、レントゲンの影ありは、カリエスあり1なし4、影なしは、カリエスあり4なし1になる。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でオッズ比を考える」より
わたしは、医学にはしろうとである。しかし、尿の回数が多いと言えば、少なくとも検尿ぐらいはするだろうと思った。それがいきなり尿のでなくなる薬と聞いて、この病院にいてもラチがあかないと考えた。
カリエスあり影2 カリエスなし影1
熱がでると解熱剤、下痢をすると下痢止め、咳が出れば咳止め、というのは一番信頼できない医師のすることではないだろうか。何よりもその原因を調べた上で、適当な処置がなされなければならないはずだった。わたしが退院を考えたのは、このことだけではなかった。カリエスあり影2 カリエスなし影1
その頃、私の背中がちょっとでも動かすと辺に痛むのだ。院内の外科医に見てもらうと、「神経だ。若い娘のことは、よく背中が痛むことがある。いちいち気にとめる必要はない」と言った。しかし、動かすと痛いのだから、もしかしたらカリエスではないかと尋ねてみた。カリエスあり影2 カリエスなし影1
医師は怒った。「レントゲン写真にも変化がない。神経だ」再び叱られて、いたし方なくわたしは病室に帰ってきた。わたしは、療養生活七年目であった。もう、客観的に自分の病状をとらえることができるはずである。カリエスあり影2 カリエスなし影1
誰でも最初のうちは、病気のことがよくわからないから、いらぬ神経を使うが、少なくとも六年の経験というものは、それほど神経質にはさせないはずである。医師が何を言おうと、わたしは病状からしてカリエスだろうと見当をつけた。カリエスの患者の話を聞くと、そのほとんどが、幾度か医師の誤診にあっているのだ。
カリエスあり影1 カリエスなし影2
指数のため、レントゲンの影ありは、カリエスあり1なし4、影なしは、カリエスあり4なし1になる。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でオッズ比を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でオッズ比を考える1
1 オッズ比とは
ある事象の起こりやすさを二つの群で比較する統計の尺度である。オッズ比の考え方は、2x2分割表であり、a/bが要因Aあり群の要因Bのオッズ、c/dが要因Aなし群の要因Bのオッズで、両者の比(a/b)/(c/d)=ad/ bcがオッズ比である。
表1
要因A あり a b a+b
要因A なし c d c+d
要因B あり a c a+c
要因B なし b d b+d
n=a+b+c+d
要因Aありのオッズ=a/b
要因Aなしのオッズ=c/d
オッズ比=(a/b)/(c/d)=ad/bc
オッズ比が1とは、対象とする事象の起こりやすさが両群で同じということであり、1より大きいとは、事象が第1群(第2群)でより起こりやすいということである。オッズ比は必ず0以上である。第1群(第2群)のオッズが0に近づけばオッズ比は0(∞)に近づく。但し、bやcが0の場合、オッズ比の公式の分母に0が入るため、オッズ比が無限大(∞)になり95%信頼区間もできなくなる。そこで4つのセルに0.5を加えて、(a+0.5)x(d+0.5)/ (b+0.5)x(c+0.5)をオッズ比とする。これは、ウォルフ−ハルディンの補正と呼ばれている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でオッズ比を考える」より
ある事象の起こりやすさを二つの群で比較する統計の尺度である。オッズ比の考え方は、2x2分割表であり、a/bが要因Aあり群の要因Bのオッズ、c/dが要因Aなし群の要因Bのオッズで、両者の比(a/b)/(c/d)=ad/ bcがオッズ比である。
表1
要因A あり a b a+b
要因A なし c d c+d
要因B あり a c a+c
要因B なし b d b+d
n=a+b+c+d
要因Aありのオッズ=a/b
要因Aなしのオッズ=c/d
オッズ比=(a/b)/(c/d)=ad/bc
オッズ比が1とは、対象とする事象の起こりやすさが両群で同じということであり、1より大きいとは、事象が第1群(第2群)でより起こりやすいということである。オッズ比は必ず0以上である。第1群(第2群)のオッズが0に近づけばオッズ比は0(∞)に近づく。但し、bやcが0の場合、オッズ比の公式の分母に0が入るため、オッズ比が無限大(∞)になり95%信頼区間もできなくなる。そこで4つのセルに0.5を加えて、(a+0.5)x(d+0.5)/ (b+0.5)x(c+0.5)をオッズ比とする。これは、ウォルフ−ハルディンの補正と呼ばれている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』でオッズ比を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でファイ係数を考える4
3 まとめ
三浦綾子の「道ありき」の虚無ありの読みと虚無なしの読みで結核に関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連の強さを計算した。ファイ係数から感度や特異度そして正確度や適合度も計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。ファイ係数の分析に関心がある人は、試してもらいたい。
参考文献
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
https://best-biostatistics.com/design/kouraku2.html (いちばんやさしい医療統計)
https://ash-d.click/2018/01/08/st_0108/(性別と購入の関連性)
https://www.cresco.co.jp/blog/entry/5987/(感度とか特異度)
三浦綾子の「道ありき」の虚無ありの読みと虚無なしの読みで結核に関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連の強さを計算した。ファイ係数から感度や特異度そして正確度や適合度も計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。ファイ係数の分析に関心がある人は、試してもらいたい。
参考文献
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
https://best-biostatistics.com/design/kouraku2.html (いちばんやさしい医療統計)
https://ash-d.click/2018/01/08/st_0108/(性別と購入の関連性)
https://www.cresco.co.jp/blog/entry/5987/(感度とか特異度)
三浦綾子の「道ありき」でファイ係数を考える3
さらに表4の数字を公式(1)に当てはめてファイ係数を計算する。
表4
虚無あり 結核あり4 結核なし2 縦計6
虚無なし 結核あり3 結核なし4 縦計7
結核あり 虚無あり4 虚無なし3 横計7
結核なし 虚無あり2 虚無なし4 横計6
(2)4 x 4 - 2 x 3 / √7 x 6 x 6 x 7 = 0.23
ファイ係数、即ち、行要素と列要素の関連の強さは、弱い関連があるになる。次に、その他の関連する数字を見てみよう。
感度= a ÷ (a + c)のため、4÷ (4+2)=0.67。結核ありの真性の割合である。
特異度 = d ÷ (b+ d) のため、4 ÷ (3+4)=0.57。結核なしの真性の割合である。
正確度=(a + d)÷(a +b+ c + d) のため、(4 + 4 )÷ (4 +3+ 2+ 4) =0.62。全体の真性の割合である。
適合度= a÷(a +b) のため、4÷ (4+3)=0.57。虚無ありと判定したものが正解である割合である。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』でファイ係数を考える」より
表4
虚無あり 結核あり4 結核なし2 縦計6
虚無なし 結核あり3 結核なし4 縦計7
結核あり 虚無あり4 虚無なし3 横計7
結核なし 虚無あり2 虚無なし4 横計6
(2)4 x 4 - 2 x 3 / √7 x 6 x 6 x 7 = 0.23
ファイ係数、即ち、行要素と列要素の関連の強さは、弱い関連があるになる。次に、その他の関連する数字を見てみよう。
感度= a ÷ (a + c)のため、4÷ (4+2)=0.67。結核ありの真性の割合である。
特異度 = d ÷ (b+ d) のため、4 ÷ (3+4)=0.57。結核なしの真性の割合である。
正確度=(a + d)÷(a +b+ c + d) のため、(4 + 4 )÷ (4 +3+ 2+ 4) =0.62。全体の真性の割合である。
適合度= a÷(a +b) のため、4÷ (4+3)=0.57。虚無ありと判定したものが正解である割合である。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』でファイ係数を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でファイ係数を考える2
2 三浦綾子の「道ありき」でクロス集計表を分析する
表3
N病院に入院して四カ月がたったが、依然としてわたしの熱はつづき、身体はやせていた。しかし、その熱の原因を知ることはできなかった。排尿の回数が多くなり、時には夜七、八回おきることがあった。医師に言うと、驚いたことに、尿のでない薬をくれるというのである。虚無あり結核1 虚無なし結核1
わたしは、医学にはしろうとである。しかし、尿の回数が多いと言えば、少なくとも検尿ぐらいはするだろうと思った。それがいきなり尿のでなくなる薬と聞いて、この病院にいてもラチがあかないと考えた。
虚無あり結核1 虚無なし結核2
熱がでると解熱剤、下痢をすると下痢止め、咳が出れば咳止め、というのは一番信頼できない医師のすることではないだろうか。何よりもその原因を調べた上で、適当な処置がなされなければならないはずだった。わたしが退院を考えたのは、このことだけではなかった。虚無あり結核2 虚無なし結核2
その頃、私の背中がちょっとでも動かすと辺に痛むのだ。院内の外科医に見てもらうと、「神経だ。若い娘のことは、よく背中が痛むことがある。いちいち気にとめる必要はない」と言った。しかし、動かすと痛いのだから、もしかしたらカリエスではないかと尋ねてみた。虚無あり結核1 虚無なし結核1
医師は怒った。「レントゲン写真にも変化がない。神経だ」再び叱られて、いたし方なくわたしは病室に帰ってきた。わたしは、療養生活七年目であった。もう、客観的に自分の病状をとらえることができるはずである。誰でも最初のうちは、病気のことがよくわからないから、いらぬ神経を使うが、少なくとも六年の経験というものは、それほど神経質にはさせないはずである。医師が何を言おうと、わたしは病状からしてカリエスだろうと見当をつけた。虚無あり結核1 虚無なし結核1
連関を見るため、表3の数字を加算する。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』でファイ係数を考える」より
表3
N病院に入院して四カ月がたったが、依然としてわたしの熱はつづき、身体はやせていた。しかし、その熱の原因を知ることはできなかった。排尿の回数が多くなり、時には夜七、八回おきることがあった。医師に言うと、驚いたことに、尿のでない薬をくれるというのである。虚無あり結核1 虚無なし結核1
わたしは、医学にはしろうとである。しかし、尿の回数が多いと言えば、少なくとも検尿ぐらいはするだろうと思った。それがいきなり尿のでなくなる薬と聞いて、この病院にいてもラチがあかないと考えた。
虚無あり結核1 虚無なし結核2
熱がでると解熱剤、下痢をすると下痢止め、咳が出れば咳止め、というのは一番信頼できない医師のすることではないだろうか。何よりもその原因を調べた上で、適当な処置がなされなければならないはずだった。わたしが退院を考えたのは、このことだけではなかった。虚無あり結核2 虚無なし結核2
その頃、私の背中がちょっとでも動かすと辺に痛むのだ。院内の外科医に見てもらうと、「神経だ。若い娘のことは、よく背中が痛むことがある。いちいち気にとめる必要はない」と言った。しかし、動かすと痛いのだから、もしかしたらカリエスではないかと尋ねてみた。虚無あり結核1 虚無なし結核1
医師は怒った。「レントゲン写真にも変化がない。神経だ」再び叱られて、いたし方なくわたしは病室に帰ってきた。わたしは、療養生活七年目であった。もう、客観的に自分の病状をとらえることができるはずである。誰でも最初のうちは、病気のことがよくわからないから、いらぬ神経を使うが、少なくとも六年の経験というものは、それほど神経質にはさせないはずである。医師が何を言おうと、わたしは病状からしてカリエスだろうと見当をつけた。虚無あり結核1 虚無なし結核1
連関を見るため、表3の数字を加算する。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』でファイ係数を考える」より
三浦綾子の「道ありき」でファイ係数を考える1
1 ファイ係数
ファイ係数は、2行x2行のクロス集計表における行要素と列要素の関連の強さを示す指標である。例えば、
表1
喫煙 肺がんありA 肺がんなしB 計N1
非喫煙 肺がんありC 肺がんなしD 計N2
肺がんあり 喫煙A 非喫煙C 計M1
肺がんなし 喫煙B 非喫煙D 計M2
ファイ係数は、次の式で求められる。絶対値が大きいほど関連が強い。
(1)φ = A x D –B x C /√M1 x M2 x N1 x N2
表2
係数(絶対値) 評価
〜0.2 殆ど関連なし。
0.2〜0.4 弱い関連あり。
0.4〜0.7 中程度の関連あり。
0.7〜1 強い関連あり。
その他の関連する数字として、感度や特異度そして正確度や適合度がある。
感度とは、ある対象に与えた刺激とそれに対する応答の関係に関わる指標である。 感度 = a ÷ (a + c)で計算できる。問題があることを見逃さない割合ともいえる。
特異度とは、臨床検査の性格を決める指標の1つで、ある検査について「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」として定義される値である。特異度 = d ÷ (b+ d)で計算できる。問題のないことをむやみに疑わないことを表す指標である。
正確度とは、全体の正解率であり、(a + d)÷(a +b+ c + d) で計算できる。正答の数を全体の数で割る。
適合度とは、問題ありとなったとき、それがどれだけ実際に問題があるのかを表す指標である。適合度 = a÷(a +b) で計算できる。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』でファイ係数を考える」より
ファイ係数は、2行x2行のクロス集計表における行要素と列要素の関連の強さを示す指標である。例えば、
表1
喫煙 肺がんありA 肺がんなしB 計N1
非喫煙 肺がんありC 肺がんなしD 計N2
肺がんあり 喫煙A 非喫煙C 計M1
肺がんなし 喫煙B 非喫煙D 計M2
ファイ係数は、次の式で求められる。絶対値が大きいほど関連が強い。
(1)φ = A x D –B x C /√M1 x M2 x N1 x N2
表2
係数(絶対値) 評価
〜0.2 殆ど関連なし。
0.2〜0.4 弱い関連あり。
0.4〜0.7 中程度の関連あり。
0.7〜1 強い関連あり。
その他の関連する数字として、感度や特異度そして正確度や適合度がある。
感度とは、ある対象に与えた刺激とそれに対する応答の関係に関わる指標である。 感度 = a ÷ (a + c)で計算できる。問題があることを見逃さない割合ともいえる。
特異度とは、臨床検査の性格を決める指標の1つで、ある検査について「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」として定義される値である。特異度 = d ÷ (b+ d)で計算できる。問題のないことをむやみに疑わないことを表す指標である。
正確度とは、全体の正解率であり、(a + d)÷(a +b+ c + d) で計算できる。正答の数を全体の数で割る。
適合度とは、問題ありとなったとき、それがどれだけ実際に問題があるのかを表す指標である。適合度 = a÷(a +b) で計算できる。
花村嘉英(2021)「三浦綾子の『道ありき』でファイ係数を考える」より
三浦綾子の「道ありき」から見えてくるバラツキについて7
3 まとめ
リレーショナル・データベースの数字及びそこから求めた標準偏差により、「道ありき」に関して部分的ではあるが、既存の分析例が説明できている。従って、この小論の分析方法、即ちデータベースを作成する文学研究は、データ間のリンクなど人の目には見えないものを提供してくれるため、これまでよりも客観性を上げることに成功している。
【参考文献】
大村 平 統計のはなし−基礎・応用・娯楽 日科技連 1984
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
三浦綾子 道ありき 新潮文庫 2004
リレーショナル・データベースの数字及びそこから求めた標準偏差により、「道ありき」に関して部分的ではあるが、既存の分析例が説明できている。従って、この小論の分析方法、即ちデータベースを作成する文学研究は、データ間のリンクなど人の目には見えないものを提供してくれるため、これまでよりも客観性を上げることに成功している。
【参考文献】
大村 平 統計のはなし−基礎・応用・娯楽 日科技連 1984
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
三浦綾子 道ありき 新潮文庫 2004
三浦綾子の「道ありき」から見えてくるバラツキについて6
2.2 標準偏差による分析
グループA、グループB、グループC、グループDそれぞれの標準偏差を計算する。その際、場面1、場面2、場面3の特性1と特性2のそれぞれの値は、質量ではなく指標であるため、特性の個数を数えて算術平均を出し、それぞれの値から算術平均を引き、その2乗の和集合の平均を求め、これを平方に開いていく。(公式2)
求められた各グループの標準偏差の数字は、何を表しているのだろうか。数字の意味が説明できれば、分析は、一応の成果が得られたことになる。
◆グループA:五感(1視覚と2その他)
場面1(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面2(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面3(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
【数字からわかること】
場面1、場面2、場面3を通して、視覚情報が多いため、「道ありき」は、五感の中で視覚の情報が鍵になる作品といえる。
◆グループB:ジェスチャー(1直示と2隠喩)
場面1(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面2(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
場面3(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、公式2により0となる。
【数字からわかること】
「道ありき」は、闘病生活に人生を重ねた作品であるため、各場面を通して、隠喩が少ないことがわかる。
◆グループC:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)
場面1(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面3(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、公式2により0となる。
【数字からわかること】
場面1、場面2、場面3を通して、新情報が多いため、ストーリーがテンポよく展開していることがわかる。
◆グループD:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)
場面1(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面3(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
【数字からわかること】
三浦綾子は、「道ありき」執筆中、場面の最後で問題解決を試みていることから、場面単位で作品の構成を考えている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
グループA、グループB、グループC、グループDそれぞれの標準偏差を計算する。その際、場面1、場面2、場面3の特性1と特性2のそれぞれの値は、質量ではなく指標であるため、特性の個数を数えて算術平均を出し、それぞれの値から算術平均を引き、その2乗の和集合の平均を求め、これを平方に開いていく。(公式2)
求められた各グループの標準偏差の数字は、何を表しているのだろうか。数字の意味が説明できれば、分析は、一応の成果が得られたことになる。
◆グループA:五感(1視覚と2その他)
場面1(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面2(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面3(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
【数字からわかること】
場面1、場面2、場面3を通して、視覚情報が多いため、「道ありき」は、五感の中で視覚の情報が鍵になる作品といえる。
◆グループB:ジェスチャー(1直示と2隠喩)
場面1(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面2(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
場面3(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、公式2により0となる。
【数字からわかること】
「道ありき」は、闘病生活に人生を重ねた作品であるため、各場面を通して、隠喩が少ないことがわかる。
◆グループC:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)
場面1(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面3(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、公式2により0となる。
【数字からわかること】
場面1、場面2、場面3を通して、新情報が多いため、ストーリーがテンポよく展開していることがわかる。
◆グループD:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)
場面1(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、公式2により0となる。
場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
場面3(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
【数字からわかること】
三浦綾子は、「道ありき」執筆中、場面の最後で問題解決を試みていることから、場面単位で作品の構成を考えている。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
三浦綾子の「道ありき」から見えてくるバラツキについて5
場面3 綾子の退院
北大病院を退院して旭川に帰ったわたしは、精密検査の結果を、家人や三浦光世にあらためて報告した。血痰や喀血で、しばしば死の恐怖をわたしに与えた空洞が、いまや完全に治っていること、カリエスも、七年にわたってギプスベッドに忍耐したおかげで、堅実に治っていることをお互いに奇跡と喜び合った。
A2 B1 C2 D1
ただ、結核性腹膜炎から婦人科の方が少し冒されているため、引き続いて超短波の療法を、旭川の病院で受けることになった。毎日の通院が、わたしの体を次第に鍛えて行った。十貫足らずだった体重が、いつしか十四貫にまでなっていった。A1 B1 C2 D2
明けて昭和三十四年の正月である。三浦が一番先に年賀に来てくれた。わたしたちは新年初めての礼拝を、二人で待った。聖書を共に読み、賛美歌を歌い、共に祈った。わたしは彼に尋ねた。「来年のお正月も来て下さるでしょうね。」A1 B1 C2 D2
あべかわ餅を食べていた彼は、箸をとめ黙って首を横にふった。「まあ!来てくださらないの?」わたしは驚いて彼を見た。彼はおだやかに笑って言った。「来年の正月は、二人でこの家に年賀に来ましょう」「え?二人で?」彼の言葉にわたしはハッとした。何とも言えない喜びが胸にこみあげた。A1 B1 C2 D1
三浦光世が帰った後、わたしは母に彼の言葉を告げた。夕食の時、母が父に言った。「とうさん、今年はタンスを買わなくてはなりませんよ」「タンスを?どうしてだ」「だって、綾ちゃんがと嫁に行くんですって」「綾子がお嫁に?相手は誰だ、人間か」A1 B1 C2 D1
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
北大病院を退院して旭川に帰ったわたしは、精密検査の結果を、家人や三浦光世にあらためて報告した。血痰や喀血で、しばしば死の恐怖をわたしに与えた空洞が、いまや完全に治っていること、カリエスも、七年にわたってギプスベッドに忍耐したおかげで、堅実に治っていることをお互いに奇跡と喜び合った。
A2 B1 C2 D1
ただ、結核性腹膜炎から婦人科の方が少し冒されているため、引き続いて超短波の療法を、旭川の病院で受けることになった。毎日の通院が、わたしの体を次第に鍛えて行った。十貫足らずだった体重が、いつしか十四貫にまでなっていった。A1 B1 C2 D2
明けて昭和三十四年の正月である。三浦が一番先に年賀に来てくれた。わたしたちは新年初めての礼拝を、二人で待った。聖書を共に読み、賛美歌を歌い、共に祈った。わたしは彼に尋ねた。「来年のお正月も来て下さるでしょうね。」A1 B1 C2 D2
あべかわ餅を食べていた彼は、箸をとめ黙って首を横にふった。「まあ!来てくださらないの?」わたしは驚いて彼を見た。彼はおだやかに笑って言った。「来年の正月は、二人でこの家に年賀に来ましょう」「え?二人で?」彼の言葉にわたしはハッとした。何とも言えない喜びが胸にこみあげた。A1 B1 C2 D1
三浦光世が帰った後、わたしは母に彼の言葉を告げた。夕食の時、母が父に言った。「とうさん、今年はタンスを買わなくてはなりませんよ」「タンスを?どうしてだ」「だって、綾ちゃんがと嫁に行くんですって」「綾子がお嫁に?相手は誰だ、人間か」A1 B1 C2 D1
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
三浦綾子の「道ありき」から見えてくるバラツキについて4
場面2 前川正の退院
わたしは、曾つて自分が、自殺を計ったことを思い出した。一人の人間が健康を取り戻すのに、これほどの苦しみを経なければならない。何とももったいないことを考えたのかと、その頃になってやっと自分の愚かさが悔やまれたりするのだった。A2 B2 C1 D2
彼の二回目の手術が終わった翌朝だった。うつらうつらしているわたしの病室に、彼の母と、弟さんが入って来た。私の所から借りたゴザを返しに来たという。そのゴザは、彼の母が病室に敷いて使うのに、わたしがお貸ししたのだった。A1 B1 C2 D1
驚いたわたしが、「どうして、もういらないのですか」と聞くと、「正が先ほど亡くなりましたから、もういらなくなったのです」と、おっしゃって、弟さんと二人で、わたしのベッドにつかまって泣かれるのだった。
A1 B1 C2 D2
「そんなはずがありません」
そう叫ぼうおもうのだが、なかなか声にならない。やっと声になったかと思った時、わたしは目をさました。いまのが夢だったとは思えないほど、あまりにありありとしていて、わたしは言いようのない不吉な予感がした。いやな夢を見たというより、いやな幻を見せられたという感じだった。A2 B1 C1 D2
だが、わたしの夢とは反対に、彼は再び日に日に元気になり、やがて三月の末に退院することになった。彼の父が迎えに来られ、わたしを見舞ってくださった時、わたしは目を真っ赤に泣きはらしていた。大きな手術も無事に終って、元気に反っていくのだから、わたしは誰よりも喜んでいいはずだった。それなのに、なぜかわたしは泣けて仕方がなかった。A1 B1 C2 D1
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
わたしは、曾つて自分が、自殺を計ったことを思い出した。一人の人間が健康を取り戻すのに、これほどの苦しみを経なければならない。何とももったいないことを考えたのかと、その頃になってやっと自分の愚かさが悔やまれたりするのだった。A2 B2 C1 D2
彼の二回目の手術が終わった翌朝だった。うつらうつらしているわたしの病室に、彼の母と、弟さんが入って来た。私の所から借りたゴザを返しに来たという。そのゴザは、彼の母が病室に敷いて使うのに、わたしがお貸ししたのだった。A1 B1 C2 D1
驚いたわたしが、「どうして、もういらないのですか」と聞くと、「正が先ほど亡くなりましたから、もういらなくなったのです」と、おっしゃって、弟さんと二人で、わたしのベッドにつかまって泣かれるのだった。
A1 B1 C2 D2
「そんなはずがありません」
そう叫ぼうおもうのだが、なかなか声にならない。やっと声になったかと思った時、わたしは目をさました。いまのが夢だったとは思えないほど、あまりにありありとしていて、わたしは言いようのない不吉な予感がした。いやな夢を見たというより、いやな幻を見せられたという感じだった。A2 B1 C1 D2
だが、わたしの夢とは反対に、彼は再び日に日に元気になり、やがて三月の末に退院することになった。彼の父が迎えに来られ、わたしを見舞ってくださった時、わたしは目を真っ赤に泣きはらしていた。大きな手術も無事に終って、元気に反っていくのだから、わたしは誰よりも喜んでいいはずだった。それなのに、なぜかわたしは泣けて仕方がなかった。A1 B1 C2 D1
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
三浦綾子の「道ありき」から見えてくるバラツキについて3
2 場面のイメージを分析する
2.1 データの抽出
作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、標準偏差によるバラツキを調べてみる。例えば、A:五感(1視覚と2それ以外)、B:ジェスチャー(1直示と2隠喩)、C:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
場面1 求道生活の転機
言ってみれば、この世で望める限りの幸福を一心に集めていたわけだ。しかし彼は老人を見て、人間の衰えゆく姿を思い、葬式を見て、人の命の有限なることも思った。そしてある夜ひそかに、王宮も王子の地位も、美しい妻も子も棄てて、一人山の中に入ってしまった。A1 B1 C2 D1
つまり釈迦は、今まで自分が幸福だと思っていたものに、むなしさだけを感じ取ってしまったのであろう。伝導の書といい、釈迦といい、そのそもそもの初めには虚無があったということに、わたしは宗教というものに共通する一つの姿を見た。A1 B1 C2 D1
わたし自身、敗戦以来すっかり虚無的になっていたから、この発見はわたしに一つの転機をもたらした。
A1 B2 C2 D1
虚無は、この世のすべてのものを否定するむなしい考え方であり、ついには自分自身をも否定することになるわけだが、そこまで追いつめられた時に、何かが開けるということを、伝導の書にわたしは感じた。
A1 B2 C2 D1
この伝導の書の終わりにあった、「何時の若き日に、何時の造り主をおぼえよ」の一言は、それ故にひどくわたしの心を打った。それ以来私たちの求道生活は、次第にまじめになっていった。A1 B2 C2 D1
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
2.1 データの抽出
作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、標準偏差によるバラツキを調べてみる。例えば、A:五感(1視覚と2それ以外)、B:ジェスチャー(1直示と2隠喩)、C:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
場面1 求道生活の転機
言ってみれば、この世で望める限りの幸福を一心に集めていたわけだ。しかし彼は老人を見て、人間の衰えゆく姿を思い、葬式を見て、人の命の有限なることも思った。そしてある夜ひそかに、王宮も王子の地位も、美しい妻も子も棄てて、一人山の中に入ってしまった。A1 B1 C2 D1
つまり釈迦は、今まで自分が幸福だと思っていたものに、むなしさだけを感じ取ってしまったのであろう。伝導の書といい、釈迦といい、そのそもそもの初めには虚無があったということに、わたしは宗教というものに共通する一つの姿を見た。A1 B1 C2 D1
わたし自身、敗戦以来すっかり虚無的になっていたから、この発見はわたしに一つの転機をもたらした。
A1 B2 C2 D1
虚無は、この世のすべてのものを否定するむなしい考え方であり、ついには自分自身をも否定することになるわけだが、そこまで追いつめられた時に、何かが開けるということを、伝導の書にわたしは感じた。
A1 B2 C2 D1
この伝導の書の終わりにあった、「何時の若き日に、何時の造り主をおぼえよ」の一言は、それ故にひどくわたしの心を打った。それ以来私たちの求道生活は、次第にまじめになっていった。A1 B2 C2 D1
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
三浦綾子の「道ありき」から見えてくるバラツキについて2
1.2 標準偏差
標準偏差は、グループの全ての値によってバラツキを決めていく。グループの個々の値から算術平均がどれだけ離れているのかによって、バラツキの大きさが決まる。
グループd(1、1、4、7、7)の算術平均は4である。それぞれの値から算術平均を引くと、1-4=-3、1-4=-3、4-4=0、7-4=3、7-4=3となる。この算術平均から離れている大きさを平均してやると、バラツキの目安が求められる。しかし、-3、-3、0、3、3を全部足すと0になるため、さらに工夫が必要になる。
例えば、絶対値をとる方法とか値を2乗してマイナスの記号を取る方法がある。2乗した場合、9、9、0、9、9となり、平均値を求めると、5で割って7.2となる。但し、元の単位がcmのときに、2乗すればcm2となるため、7.2を開いて元に戻すと、√7.2 cm2≒2.68 cmというバラツキの大きさになる。
(1) 標準偏差の公式
σ=√Σ (Xi−X)2/n
次にグループe(1、4、4、4、7)について見てみよう。算術平均は4である。それぞれの値から算術平均を引くと、1-4=-3、4-4=0、4-4=0、4-4=0、7-4=3となる。この算術平均から離れている大きさを平均すると、バラツキの目安が求められる。しかし、-3、0、0、0、3を全部足すと0になるため、それぞれを2乗して、9、0、0、0、9として平均値を求め、5で割って3.6を求める。
但し、元の単位がcmのときに2乗すれば、cm2となるため、3.6を開いて元に戻すと、√3.6 cm2≒1.90 cmというバラツキの大きさになる。従って、グループdの方がグループeよりもバラつきが大きいことになる。
以下では、標準偏差(1)の公式を使用して、作成した三浦綾子の「道ありき」のデータに関するバラツキから見えてくる特徴を考察していく。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
標準偏差は、グループの全ての値によってバラツキを決めていく。グループの個々の値から算術平均がどれだけ離れているのかによって、バラツキの大きさが決まる。
グループd(1、1、4、7、7)の算術平均は4である。それぞれの値から算術平均を引くと、1-4=-3、1-4=-3、4-4=0、7-4=3、7-4=3となる。この算術平均から離れている大きさを平均してやると、バラツキの目安が求められる。しかし、-3、-3、0、3、3を全部足すと0になるため、さらに工夫が必要になる。
例えば、絶対値をとる方法とか値を2乗してマイナスの記号を取る方法がある。2乗した場合、9、9、0、9、9となり、平均値を求めると、5で割って7.2となる。但し、元の単位がcmのときに、2乗すればcm2となるため、7.2を開いて元に戻すと、√7.2 cm2≒2.68 cmというバラツキの大きさになる。
(1) 標準偏差の公式
σ=√Σ (Xi−X)2/n
次にグループe(1、4、4、4、7)について見てみよう。算術平均は4である。それぞれの値から算術平均を引くと、1-4=-3、4-4=0、4-4=0、4-4=0、7-4=3となる。この算術平均から離れている大きさを平均すると、バラツキの目安が求められる。しかし、-3、0、0、0、3を全部足すと0になるため、それぞれを2乗して、9、0、0、0、9として平均値を求め、5で割って3.6を求める。
但し、元の単位がcmのときに2乗すれば、cm2となるため、3.6を開いて元に戻すと、√3.6 cm2≒1.90 cmというバラツキの大きさになる。従って、グループdの方がグループeよりもバラつきが大きいことになる。
以下では、標準偏差(1)の公式を使用して、作成した三浦綾子の「道ありき」のデータに関するバラツキから見えてくる特徴を考察していく。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
三浦綾子の「道ありき」から見えてくるバラツキについて1
1 簡単な統計処理
1.1 データのバラツキ
グループa(5、5、5、5、5)とグループb(3、4、5、6、7)とグループc(1、3、5、7、9)は、算術平均がいずれも5であり、また中央値(メジアン)も同様に5である。算術平均やメジアンを代表値としている限り、この3つのグループは差がないことになる。しかし、バラツキを考えると明らかに違いがある。グループaは、全てが5のため全くバラツキがない。グループbは、5が中心にあり3から7までばらついている。グループcは、1から9までの広範囲に渡ってバラツキが見られる。グループbのバラツキは、グループcのバラツキよりも小さい。
次に、グループd(1、1、4、7、7)とグループe(1、4、4、4、7)だと、どちらのバラツキが大きいことになるのだろうか。グループdは、中心の4から3も離れた所に4つの値がある。グループeは、中心に3つの値があって、そこから3離れたところに値が2つある。
バラツキの大きさを定義する方法で最も有名なのが、レンジと標準偏差である。レンジはグループの最大値から最小値を引くことにより求めることができる。グループdは、7-1=6で、グループeも7-1=6となる。レンジだけでバラツキを定義すれば、グループdとグループeは同じことになるが、グループ内の最大値と最小値だけを問題にするため、他の値が疎かになっている。そこでもう一つのバラツキに関する定義、標準偏差について見てみよう。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より
1.1 データのバラツキ
グループa(5、5、5、5、5)とグループb(3、4、5、6、7)とグループc(1、3、5、7、9)は、算術平均がいずれも5であり、また中央値(メジアン)も同様に5である。算術平均やメジアンを代表値としている限り、この3つのグループは差がないことになる。しかし、バラツキを考えると明らかに違いがある。グループaは、全てが5のため全くバラツキがない。グループbは、5が中心にあり3から7までばらついている。グループcは、1から9までの広範囲に渡ってバラツキが見られる。グループbのバラツキは、グループcのバラツキよりも小さい。
次に、グループd(1、1、4、7、7)とグループe(1、4、4、4、7)だと、どちらのバラツキが大きいことになるのだろうか。グループdは、中心の4から3も離れた所に4つの値がある。グループeは、中心に3つの値があって、そこから3離れたところに値が2つある。
バラツキの大きさを定義する方法で最も有名なのが、レンジと標準偏差である。レンジはグループの最大値から最小値を引くことにより求めることができる。グループdは、7-1=6で、グループeも7-1=6となる。レンジだけでバラツキを定義すれば、グループdとグループeは同じことになるが、グループ内の最大値と最小値だけを問題にするため、他の値が疎かになっている。そこでもう一つのバラツキに関する定義、標準偏差について見てみよう。
花村嘉英(2020)「三浦綾子の『道ありき』から見えてくるバラツキについて」より