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2024年09月17日

人文科学から始める技術文の翻訳13

 次の文は、自動車やオートバイなどに使用されているディスクブレーキに関する明細書の一部分である。複雑な文章の構造や専門用語を素早く理解した上で、特許文の文体に合わせて翻訳をつけていく。

【独文】
(7)Die Erfindung bezieht sich auf eine mechanische Betätigungsvorrichtung für eine Teilbelagscheibenbremse, bei der durch Verschwenken eines Betätigungsbehegels in einer zur Bremsscheibe parallelen Ebene die beiderseits der Bremsscheibe angeordneten Bremsbacken gegensinnig bewegt und dadurch gegen Umwandlung der Schwenkbewegung des Betätigungsbehegels in eine zu seiner Schwenkebene senkrecht stehende Bewegungsrichtung zum Andrücken der Bremsbacken zwei nacheinander wirksame Übersetzungsstufen vorgesehen sind, von denen, gleich Schwenkbereich des Hebels vorausgesetzt, die erste Stufe einen größeren und die zweite Stufe einen kleineren Bremsbackenweg liefert.(ドイツ連邦共和国特許庁 公開資料1264176)

@用語
特許文に慣れるまで専門の辞典を何度も繰り返して調べるとよい。ここでは、Betätigungsvorrichtung(作動装置)、Betätigungsbehegel(作動レバー)、Bremsscheibe(ブレーキディスク)、Bremsbacken(ブレーキシュー)、dadurch(全文を受けて、それによりとする)、gegen Umwandlung(逆らって向きを変え)、zu seiner Schwenkebene senkrecht stehende Bewegungsrichtung(旋回レベルと垂直となる方向)、vorsehen(装備する)、vorausgesetzt(〜を前提にして)、Bremsbackenweg(ブレーキシューの経路)を挙げておく。
A構文
この文は、Teilbelagscheibenbremse(部分コーディングのディスクブレーキ)を先行詞とする関係代名詞bei derが二つの従属文を従えていて、そのうち後者はÜbersetzungsstufen(ギア装置)を先行詞とする関係代名詞von denenが後続の説明をしている。これは途中にピリオドのない特許文特有の長い一文になっている。

B英語に準ずる考察 表11
2段階の処理法 例えば、bei der以下の関係文の主部の「die beiderseits der Bremsscheibe angeordneten Bremsbacken」は「ブレーキシューがブレーキディスクの両側に配置されると」にし、述部は「逆方向への動きが生じ」にする。
態の用法 同じ関係文の述部にbewegt (ist) やvorgesehen istが使われている。他動詞の過去分詞とseinの人称変化との組み合せは、状態の受動を表している。
否定構文 なし
時制 現在形

全体の訳は次のようになる。

【和訳】
(8)本発明は、ブレーキディスクと平行レベルで作動レバーを回すことにより、ブレーキディスクの両側に配置されたブレーキシューが逆方向に働き、それにより、作動レバーの旋回が旋回レベルと垂直になるブレーキシュー加圧の方向へ変更することに逆らって、並列に作用する二段式ギア装置が装備された部分コーティングのディスクブレーキ用のメカニカルな作動装置に関する。レバーの回転範囲が同じことを前提に、二段式ギア装置のうち一段目はこれまでよりも大きなブレーキシューの経路を、そして二段目はこれまでよりも小さなブレーキシューの経路を提供する。

花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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