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2024年09月15日

リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて5

4 マクロの一例−Lの比較

 作家の執筆脳を研究しながら、これまでにトーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖、川端康成を題材にして、作家が試みるリスク回避について論じてきた。(花村2017、花村2018)今回は、中島敦の「山月記」を取り上げる。人間の人生を語った内容は、しばしば教材にも取り上げられている。
 心の表出とされる精神活動は、脳により生まれている。脳の活動は、体内部のみならず、体外部のもの、環境、社会、文化などから様々な影響を受けているため、心の病気も様々な原因が絡み合って発症している。
成人病予防協会(2014)によると、心の病気の原因には、心理的なストレスや環境が要因となる心因(性格の変化)、生まれつきの体質が原因とされる内因、身体的な病気や中毒性物質が脳に影響する外因に分けられる。
 心の健康を管理するには、心が病気になるとどのような症状が出るのかを把握しておくとよい。例えば、五感を伴う意識、感情、記憶、意欲、知能などに障害が出るという。これまで作家の執筆脳を分析しながら、リスク回避の問題を取り上げる際に、これらの症状が問題解決のヒントを示してくれた。(花村2018)
 魯迅は、中国人民の精神的な病を小説で治療しており、そこから魯迅とカオスというシナジーのメタファーを作った。ナディン・ゴーディマは、アパルトヘイトからの脱出が白人の精神的な動脈硬化を予防すると訴えたことから、彼女の執筆脳を意欲と組み合せ、井上靖は、実母の認知症が招く家庭崩壊の危機を細かく描いているため、ゴーディマと脳の活動で性差を説明できるように連合野のバランスと組を作った。
 また、対照言語のドイツ語と日本語では、トーマス・マンのイロニーがファジィ推論と相性が良いことを説明する一方で、ドイツの発展が止まることを危惧して小説や論文を書いたことに言及した。さらに森鴎外についても明治天皇や野木希典大将の死後、歴史小説を通して世の中に普遍性を残そうとしたことにも触れた。
こうして考えると、20世紀前半の作品であれば戦中戦後の話が中心となり、社会とシステムの枠組みでストーリーが展開していく。通常、情報科学では、社会とシステムと医療と情報が大きなセパレートになる。しかし、文学の世界で別段分ける必要はない。高齢化社会の昨今、老人を抱える家族であれば日本でも中国でも家庭崩壊の危機はある。

花村嘉英(2005)「リスク社会論からトップダウンで作家の執筆脳を考える−中島敦の「山月記」を交えて」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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