1973年、大学1年生だった僕は、音楽クラブのバンド仲間と一緒に、そのアルバムのことについて熱っぽく語りあった。荒井由美という無名のシンガーソングライターが出した「ひこうき雲」というアルバムは、それまで出会ったことのない音楽センスにあふれた衝撃的なアルバムだった。コード進行もメロディラインもすべてが新鮮だった。そして、詩のリリカルなことと、何よりも淡々として、ちょっと乾いたユーミンの声。バックのベースやドラムのやっていることやアレンジも新しいスタイルの音づくりばかりだった。
「すごいな、このベース、カッコいいよな、ドラムの、この裏で入ってくるチッツチッツ〜ていうたたき方、ミノちゃんやってくれよ・・」などなど、どの曲も驚くことばかりだった。今の若い人たちが感じるものとは全然違うインパクトだった。
あれから50年以上の時間が経った。ユーミンと僕は同い年である。一緒に人生を歩いてきたような感覚がある。恋の思い出から、仕事で悩んだ時などなど、いつもユーミンの曲がそばにあった気がする。
ランチに何を食べようかと思いながら、キッチンのパソコンを起動した。
ひき肉の残りを片づけないといけないので餃子を焼くことにした。radikoで、先週金曜のユーミンの番組を聞き始める。ユーミンの晩夏が流れた。これも大好きな曲だ。それを聞きながら、餃子の皮に具材を詰めていく。昨日作ったパテの残りのひき肉だから、4つか5つくらいだなと思いながら作っていくとちょうど5つできた。父は、餃子ですら、もう噛むのが大変そうだし、あまり好きではないので、これは私が食べる。あとは、ひやむぎをラーメン風のにゅう麺にして食べるつもり。
番組が終わったので、久しぶりに「ひこうき雲」をかける。
静かなピアノから曲が始まる。本当にストイックだよな、と思いながらフライパンに餃子を入れて焼き始める。50年以上、人生を一緒に歩いていくミュージシャンに、これからの若い人たちは果たして出会えるだろうか?ユーミン、そして竹内まりやと山下達郎、イェローマジック・・・同時代を半世紀以上も共にしてきたミュージッシャンがいることは、本当に幸せなことだと思う。
餃子が焼きあがった。僕の人生は、まだまだ焼きあがってはいない。
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