TKGという言葉まで生まれるほど、生卵をご飯にかけて食べる美味しさを、日本人は当たり前に味わってきた。しかし、生卵をそのまま食べる国というのは、実は世界的にはそれほど多くはない。大半の国では、加熱せずに鶏卵を食べれば、病気に感染する可能性も高いことから、卵は加熱して食べる食品なのである。そんな卵の品質を、安全で美味しくすることを追求し、生産管理から出荷までの体制を改良しながら発展してきたのがイセ食品である。結果的には、アメリカやアジアで、そのノウハウを活かした事業を成功させ、創業家出身の伊勢前会長は、大成功を収め大きな富も得て、町では成功者として有名であった。
(北日本新聞)
また、伊勢氏は、美術好きで、コレクターとしても世界的に有名で、そのコレクションを集めた個人美術館も作ったほどであった。
ところが、事業拡大路線による借入増の一方で、コロナ禍による飲食業の業績悪化などの影響による業績不振から債務超過に陥り、11日に債権者からの訴えにより、会社更生法の手続きに入ったと発表された。ただ、前会長は、これを不服として訴えを起こしている。
実は、私がこのニュースを聞いて懸念したのが、伊勢氏の美術品コレクションのことであった。ピカソを始め世界的に著名な画家たちの作品を数多く所有し、一部は法人化した団体が管理している。町にとっても将来にわたって大きな文化財産だと思っていたのだが、会社がこうなると、あの美術品を手放すということも、もしかするとあり得るだろうか、とそのことを個人的に懸念していた。
そして、今日になって、やはり次々と美術品をオークションで転売しているというニュースがローカル紙で報道されていた。ああ、やっぱりそうなったか、と残念な思いもあったが、伊勢氏の会社をつぶさないため、というコメントも胸に響いた。
人生をかけて集めた美術品を手放すことは、誰よりもご本人が、一番つらいことだろう。
伊勢氏の美術コレクションについては、これまで賛否両論様々な意見もあったが、これだけの世界的コレクションが、小さな町にあることは、やはりすごいことである。それが散逸していく。やはり残念なことで、個人的にはとても複雑な心境である。少しでも、コレクションが残ることを望むけれど、会社の存続もまた大切な課題である。
近所のスーパーで買って毎日食べている卵は、もちろんイセの卵である。
今朝も卵を焼きながら、テーブル脇に置いてある新聞の、この記事のページをそんな思いで眺めていた。
#イセ食品
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