雪岱といっても、ご存知ない方もあるかもしれないが、大正から昭和にかけて活躍した画家である。資生堂の、ちょっとあやういようなほっそりとした線の文字デザインなども手掛けている。画も書けば、本の装丁デザインもやり、舞台美術までこなしている。画家と言うよりも、いわば、デザインプロデューサーのような人である。今で言えば、佐藤可士和のような存在かもしれない。
私は、ずいぶん前に、細い線で描かれた和傘の画を見て心を動かされ、小村雪岱という人を知った。資生堂の書体デザインのことを知ったのも、たぶんその頃だと思う。
今回、展示会を訪れ、原画を間近に見て、その繊細な筆遣いの力にあらためて心を動かされた。私が最初に出会った傘の画が、おせんというタイトルで、小説の挿画であることを学んだ。いくつになっても勉強することは多い。
彼のデザインは、非常にソリッドだ。ちょっとクールな世界観で、彼の書くまっすぐな線には、とても現代的なニュアンスを感じる。
優れたデザインが持つ力は、例えば小説の世界のイメージを何倍にもふくらますかもしれない。泉鏡花が、彼に本の装丁を連続して依頼しているのも、その世界観が持つ力を感じたからだろう。
日本におけるデザインという概念の日本語は、「図案」であった。しかし、デザインは、図案にとどまらない。そこには、暮らし方や思想や、思いが込められる。コンセプトを具体的にアウトプットするものがデザインである。
雪岱の画を眺めていると、泉鏡花の世界観や、里見惇の思いが感じられた。
グラフィカルアートは、時に文学をも凌駕するかもしれない。
#小村雪岱
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