実は、エルビスプレスリーが歌う「ハウンドドッグ」という曲の、 ” You ain’t nothin’ but a hound dog. Cryin’ all the time ” 〜 という最初のフレーズである。
子供の頃、ラジオかテレビで初めてこの曲を聴いた時、私の頭には、「ユエンナツバラ」=「湯煙夏原」という言葉の記憶が形成された。以来、しばらくの間、私の中では「ユエンナツバラ」という不可思議な響きが、不思議な言葉の記憶としてメモリーされた。後にどなたかのエッセイを読んでいて、私と同様に、「湯煙夏原」というイメージで記憶したということを書いていた人がいて、我が意を得たりと膝を打ったことがある。
今朝、ラジオを聞いていたら、映画「タイタニック」についての話題の中で、タイタニックが作られたのが、アイルランドのベルファストだと紹介されていた。
ベルファスト、という言葉を聞いたとたんに、私の記憶の中で、何かひっかかるものがあった。スパイ映画か何かの中で登場したベルファストが、その言葉の響きから、私の記憶に妙に残っていたようだ。ラジオを聞きながら、しばらく私の脳細胞は、古いメモリーの上をスキャンしていた。
言葉の記憶とは不思議なものだ。その人の感じ方や、その人を取り巻くエピソードなどとシンクロしてメモリーされる。言葉の響きの面白さだったり、その時の映像の記憶だったりが、言葉を印象づける。
しかし、言葉の記憶よりも、映像の記憶のほうが、実はより強いのだという。昔の知り合いに町で偶然出会った時に、顔は覚えているけれど名前が出てこないということがある。これがまさに、そうした記憶のメカニズムを象徴しているのだという。
とはいえ、言葉の記憶も不思議なものだ。昔、台所で料理をしている時に、突然天啓のように、「チャガタイオゴタイイルキプチャク」という言葉が降りてきて、口をついて出てきた。チンギス=ハン没後のモンゴル帝国が、4つの国に分裂した時の名前である。(ちなみに、この原稿のために調べてみたら、現在では、4ケ国でなく3ケ国=3つのハン、と教えられているそうである)
世界史で習った時に、その不思議な呪文のような語感が、鮮烈に記憶に刷り込まれた。それが、突然数十年後に、記憶の底から蘇って口をついて出てくる。
ハウンドドッグを聴くたびに、私の頭には、箱根のような山の温泉の夏の原っぱが脳裏に広がってくる。
#ユエンナツバラ #湯煙夏原
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