真面目そうだけどどこか不安定な印象のある青年が、電車の駅とおぼしきところを歩いている。サイモンとガーファンクルが歌う「サウンドオブサイレンス」がオーバーラップして流れ出す。’Hello darkness my old friend. I’ve come to talk with you again〜
名門大学を優秀な成績で卒業したと思われる主人公、しかし、どこか将来への不安を抱えている。そんな心の闇をあらわすかのようなポールサイモンの歌詞が、あらためて映画を見ていると沁みてくる。
私が、この映画を見たのはいつだったろうか?日本で公開されたのは1968年。なんと今や半世紀以上も前になる。私は田舎の中学生から高校生という頃なので、おそらく公開直後には見ていないと思う。しかし、高校生になって、サイモンとガーファンクルのこの映画の曲は、ほとんどの友人が聞いていて歌うこともできたし、デュオを組んで学園祭で歌っていた同級生もいた。たぶん映画は、高校生の終わりか、大学生になって名画座で見たのかもしれない。その後何度か見ていると思う。
主人公を誘惑するアンバンクロフトは、ちょっと大人の危険な女性として強烈に心に刺さった。今見ても、あらためて魅力的なキャスティングだと思う。(そういえば、高校生の頃から、アンバンクロフトとアヌークエーメが好きだったな。)
1968年前後といえば、アメリカではベトナム戦争が時代に不安な影を落としていた。
メキシコオリンピックとグルノーブルオリンピックが開催されているけれど、日本ではどんな時代だったかといえば、川端康成氏がノーベル賞を受賞し、あの3億円強奪事件が起きている。
日本経済はイケイケ状態で、GNPは、なんとアメリカについで世界第2位になっている。経済成長の象徴でもある日本初の超高層ビルとなった霞が関ビルが68年に完成している。
国会では、石原慎太郎や青島幸男、横山ノックなどのタレント議員が話題になっていた。
メディアでは、深夜放送の草分け、オールナイト・ニッポンが始まり、のちに日本最大の発行部数記録も打ち出したお化け雑誌、少年ジャンプが創刊している。
経済成長と社会不安がないまぜになり、音楽や文化においても、次々と新しい動きが生まれていた時代。「オーモーレツ!」の小川ローザのCMは69年の作だ。
50年以上を経て、あの時代のことを回想してみると、この映画の虚無感と不安のようなものがアメリカの中で広がっていたことが、理解できる気がしてくる。まだ若かった私は、当時この映画は、どうもピンと来なかったように思う。(まあ、女性のことなどもまだあまりわからない10代の少年だからしかたがないけれど)
結婚式場から花嫁を略奪した主人公が、バスに飛び乗って二人でやったと興奮しているのもつかの間、次第に二人の表情になんとも言えない不安の影が浮かんでくる。
それは、50数年を経た現在にも共通する、時代の不安感のようにも思えた
#卒業 #マイクニコルズ監督 #サイモンとガーファンクル
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