彼女については、その当時、ファンというほどではなかったけれど、私も比較的好意的に見ていた。まず歌がうまかった。それから真面目で常識のあるお嬢さんという印象で、落ち着きも感じられた。三浦友和との結婚によって引退するというニュースは、大きな話題になった。そんなこともあって、今日の放送をあらためて見ていた。
引退した時に21才だったということにまず驚かされた。今どきの21才に、こんなにしっかりしたお嬢さんは少ないのではないか?そして、彼女が話すコメントのシナリオは、当然ちゃんと用意されていたとは思うが、3時間近い長丁場のコンサートを、たった一人で歌いながら、その合間のしゃべりを、自分の言葉としてきちんと消化して語ることのできる能力の高さにも感嘆した。次々と演奏されていくヒット曲を、高い歌唱力を維持しながら歌い続ける能力の高さ、そして堂々たるステージパフォーマンス。最後にマイクを静かに置いてステージを去る彼女の姿は、歌姫と呼ぶにふさわしい見事な存在感であった。
そんな山口百恵のことを、篠山紀信が「時代と寝た女」と称した。可憐な彼女に対して、ずいぶん失礼な表現だなと思ったけれど、彼女は確かに、昭和という時代の中で、他の誰よりも時代をとらえたタレントであったことは事実だろう。美空ひばりは大スターだが、テレビ以前の時代に、映画俳優でありスーパースターであったひばりは、民衆とは別格の存在であった。しかし、テレビ全盛の時代をむかえ、身近な存在となったアイドル歌手の中で、昭和という時代を象徴した点において、百恵という才能は、やはり傑出していたのではないか?
彼女の魅力にいち早く気づいて何年も彼女を撮り続けてきた紀信さんだからこそ、そう感じたのだろう。百恵ちゃんの力は、まさに昭和を動かす力だった。猥雑な意味でなく、時代を押し倒すような力があった、という意味で紀信さんはこう言ったに違いない。それが言い得て妙だからこそ、この言葉が何年も生き続けているのだろう。
紀信さんはこう語っている。
「昭和という時代が、山口百恵を必要としていた。
山口百恵は、昭和の高度成長期における公の存在物であった。
誰しもが昭和という良き時代を振り返る時、そこには山口百恵がいる。」
百恵のピークから引退までを、同時代で感じてきた私にとっても、この言葉はとても説得力がある。昭和という時代の中で、彼女は間違いなく稀代のスーパースターであり、「時代と寝た女」である。
引退ライブの終わり、最後の曲を歌い終えると、彼女はマイクを真正面に構えたあとで、静かにそれを床に置いてステージを去った。1980年。あれから41年の時間が過ぎた。
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