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2024年09月13日

高行健の「車禍」で執筆脳を考える9

4 まとめ   

 高行健の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「車禍」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。   
 高行健の短編小説集に収録されている他の作品を見ると、例えば、「円恩寺」の中で新婚旅行にありがちな一場面を実現し、カップル以外の登場人物も読者に身近な存在で、小説の中の名称に対し作者の内心を投射している。また、「朋友」の執筆脳で見た「命の尊さと楽天」は、「車禍」のシナジーのメタファーとした楽天知命故不憂を反映している。 


参考文献
 
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日语教学研究会上海分会論文集 2021
高行健 高行健短編小説集 聯合文學 2008
高行健 母(飯塚容訳)集英社 2005
高行健 Wikipedia 

高行健の「車禍」で執筆脳を考える8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
C 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 1、情報の認知3 2
E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1

A:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
B:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
C:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
D:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。     

結果      
 高行健は、この場面で交通事故の原因をいろいろと考える。夫婦仲はどうなのか、生活は幸せだったのか、なぜ注意散漫になったのか、心配事があって悩んでいたのか。だとすると、大きな不幸を免れ得ない定めだったことになる。確かに交通事故はどこの都市でもなくならない。しかし、それを回避することはできると説いているため、購読脳の「創造性と偶発」から「不運と偶然」という執筆脳の組を引き出すことができる。

花村嘉英(2022)「高行健の『車禍』で執筆脳を考える」より

高行健の「車禍」で執筆脳を考える7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「高行健の『車禍』で執筆脳を考える」より

高行健の「車禍」で執筆脳を考える6

分析例

1 交通事故の原因をいろいろと考える場面。
2 この小論では、「車禍」の購読脳を「創造性と偶発」と考えているため、意味3の思考の流れ、放浪に注目する。
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3不運@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし
1 人工知能 @不運、A偶然 
 
テキスト共生の公式     
 
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「創造性と偶発」を作る。
ステップ2:交通事故の原因をいろいろと考える。夫婦仲はどうなのか、生活は幸せだったのか、なぜ注意散漫になったのか、性格が弱いのかもしれない、心配事があって悩んでいたのか。だとすると、大きな不幸を免れ得ない定めだったことになる。しかし、回避はできたと考え、執筆脳に「不運と偶然」という組を作り、解析の組と合わせる。    

A:@視覚+B哀+Aなり+@直示という解析の組を、@不運とA偶然という組と合わせる。
B:@視覚+B哀+@あし+@直示という解析の組を、@不運とA偶然という組と合わせる。  
C:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@不運とA偶然という組と合わせる。 
D:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@不運とA偶然という組と合わせる。  
E:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@不運とA偶然という組と合わせる。    

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「高行健の『車禍』で執筆脳を考える」より

高行健の「車禍」で執筆脳を考える5

【連想分析1】

表2 受容と共生のイメージ合わせ
交通事故の原因を探る場面

A 清洗路面的工人也未必知道在几小时之前,这里发生过一件车祸,有位不幸的受难者在这里死去。而这位死者又是谁?意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能 1

B 在这个数百万人口的城市里只有他的几位亲人和一些熟人才知道,而此刻他们还未必知道,如果死者身上没有带著能够查明他的身份的证件的话。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

C 他的孩子,他大概是者孩子的父亲,清醒过来,或许能说出他父亲的姓名,那么,他就应该也有个妻子。他尽了孩子的母亲的责任,他是好父亲也应该是个好丈夫。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

D 他既然爱孩子想必也爱他妻子,而他的妻子是否也爱他?既爱他又为什么不完全攎当起做妻子的责任?他的生活也许是不幸的,否则他为什么那样恍惚?意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

E 也许是他性格上的弱点,遇事优柔寡断?也许他有事荣绕在心而不能排解?那么他就注定免除不了这更大的不幸。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

花村嘉英(2022)「高行健の『車禍』で執筆脳を考える」より

高行健の「車禍」で執筆脳を考える4

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】  

表1 「車禍」のデータベースのカラム
文法1 態 能動、受動、使役。  
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 不運ありなし 。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の接点。購読脳「創造性と偶発」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。その際、未知の情報については、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 不運と偶然 エキスパートシステム 不運とは、運がないこと、不幸なことをいい、偶然とは、因果関係がなく予期せぬ出来事が起こること。

花村嘉英(2022)「高行健の『車禍』で執筆脳を考える」より

高行健の「車禍」で執筆脳を考える3

実際に「車禍」の中身を見てみよう。

下午五点种,コ胜大街这边一家无线电修门前,公共汽车越加逼近了。一辆加了林轮子掛著个幼儿子车头的自行车从街边写斜过马路。骑车的是个四十才上下的中年人。头蓬里坐著个孩子,也就两,三才。从保育院回家。
午後5時、徳勝大街のラジオの修理屋の前の路上で路線バスが横断してきたベビーカー付きの自電車に近づいていく。40歳ぐらいの男がこいでいる。ベビーカーには2、3歳の子供が乗っている。保育園帰りである。(1)

汽车同自行车就几乎接触到了,车头就飞开了。从车座上仰面倾倒,立刻被挤压到汽车轮子下面去了。他汽车的那轮自行车扭曲著,甩出去十多公尺远。
バスと自転車がぶつかり、ベビーカーは吹き飛ばされ、男はサドルから落ち、バスの下敷きになる。自転車はひん曲がり、弾き飛ばされる。(1)

最先接近的是从车上开门跳下来的司机。周围一片喃呐声。空中瀰漫著一股血腥味。从窒息中终于迸发出来的孩子的哭声。
最初に下位に近づいたのは、バスの運転手である。周囲の人垣からも反応がある。血なまぐさい臭いがあたりに立ち込める。子供が窒息状態から解放される。(1)

警车来了。四位民警,立刻把人群往外ー。穿白大褂的医务人员正往车里抬死体。司机被推上了警车。
パトカーが到着し、4人の警官が交通整理をし、現場検証を始める。白衣を着た係員が死体を車内に運ぶ。バスの運転手はパトカーに乗せられた。(1)

出事的现场照片也拍完了。民警把自行车的残骸和车头也抬上了车,便同民警都撤了。
現場検証の写真撮影が終わった。自転車の残骸とベビーカーを車に乗せ、警官たちは引き上げて行った。(1)

他的生活也许是不幸的,否则他为什么那样恍惚。也许他有事萦绕在心而不能排解。那麽他就注定免除不了这更大的不幸。
注意散漫になったのは、生活が不幸であったからか。心配事があって悩んでいた。大きな不幸を免れ得ない定めであった。(3)

死亡是人人无法避免的,但过造的死可以避免。还没有能免除车祸的城市。每天总有人
会遇上这种不幸。如果他当时神情不那麽恍惚,可以避免。
死は回避できないが、早すぎる死は回避できる。交通事故のない都市は存在しない。誰かがそうした不幸に見舞われる。しかし、注意散漫になっていなかれば回避できた。(3)

《车祸》偶然发生的一椿车祸。
「車禍」は、偶然起こった交通事故の経過を描いている。(2) 

 読み終えてからLの分析をすると、購読脳については、交通事故という日常の一大事にたまたま遭遇するため、「創造性と偶発」にする。一方、執筆脳は「不運と偶然」とし、購読脳と執筆脳を合わせたシナジーのメタファーは、「高行健と楽天知命故不憂」にする。どうして自転車の男は注意散漫になったのか。天命を知り、転職を得れば、楽しく過ごすことができ、憂いはなくなる。ここでいう前件が満たされなかったためである。高行健の「車禍」に対する基本姿勢も内心の感情を外界へと投射する主観の調節が大切である。  

花村嘉英(2022)「高行健の『車禍』で執筆脳を考える」より

高行健の「車禍」で執筆脳を考える2

2 「車禍」のLのストーリー 

 高行健も自身で作家について考え、私もシナジーのメタファーで作家の執筆脳について考えている。平たくいえば、問題は、作家の頭の使い様である。
飯塚(2005)によると、高行健の小説を書くための基本姿勢は、1非ストーリー性、2人称の変化、3主観の表出である。

1 非ストーリー性とは、ストーリーを語る意図がなく、所謂プロットがない。つまり、主題を中心とする登場人物の性格や心理描写が限られている。小説という言語の芸術は、現実の模写ではなく、言語の実現を意味する。
2 人称の変化とは、人物形象の描写に頼ることなく、異なる人称を使って、読者の受け取りに角度を与えている。角度は転換することができ、角度と距離を変えて観察し体験することができる。 
3 主観の表出は、環境に対する純然たる客観描写を排除しているため、内心の感情を外界へと投射する。

花村嘉英(2022)「高行健の『車禍』で執筆脳を考える」より

高行健の「車禍」で執筆脳を考える1

1 はじめに

 シナジーのメタファーという作家の執筆脳を研究するためにマクロの分析方法を研究している。作家について研究するという意味では、高行健(1940−)の文学の理由も参考にしてみたい。作家が発する声とはそもそもどういうものなのか。作家にとって文学とはどんな意味があるのか。 
最初にこれらのことを考えてから、次に「車禍」執筆時の高行健の脳の活動について考える。この分析は、購読脳の組み合わせと二個二個になるように執筆脳を調節し、それらをマージしながら最後に高行健と〇〇というシナジーのメタファーを考える。これは何も「車禍」だけではなく、短編集に含まれる同列の小説についてもいえることである。
 中国文学の研究は、私にとり文献学上の比較の作業である。対照言語がドイツ語と日本語のため、北米や欧州のことばは勿論のこと、東アジアの国地域とも比較ができるように一応調節している。これまで魯迅の「狂人日記」や「阿Q正伝」そして莫言の「蛙」をシナジー共生で分析しており、その流れで今回は高行健の「車禍」を考察したい。高行健は、1962年に北京外国語大学フランス語科を卒業し、文革で下放している。下放とは、思想改造のため、地方の農村や工場へ行くことである。現在は、フランスのパリに在住である。 

花村嘉英(2022)「高行健の『車禍』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える9

4 まとめ   

 高行健の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「円恩寺」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
 短編小説集の他の作品を見ると、例えば、「車禍」の中でも日常の交通事故にありがちな一場面を実現し、登場人物も読者に身近な存在で、小説の中の名称に対し作者の内心を投射している。また、「朋友」の執筆脳で見た「命の尊さと楽天」から高行健のシナジーのメタファーとした楽天知命が反映されている。 

参考文献
 
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日語教学研究会上海分会論文集 2021
高行健 高行健短編小説集 聯合文學 2008
高行健 母(飯塚容訳)集英社 2005
高行健 Wikipedia 

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知1 2、情報の認知1 1
B 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知1 2、情報の認知1 1
C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知1 2、情報の認知1 1
D 表2と同じ。 情報の認知1 1、情報の認知1 2、情報の認知1 1
E 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知1 2、情報の認知1 1

A:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。   
B:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
C:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
D:情報の認知1は@ベースとプロファイル、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
E:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。     

結果   
 高行健は、この場面で苦難の日々が水と共に流れ去り甘く切ない思い出と自分たちの愛情だけが残っていると楽観しているため、購読脳の「創造性と放浪」から「幸せと楽天」という執筆脳の組を引き出すことができる。   

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。  

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える6

分析例

1 二人が円恩寺の山門に到着する場面。  
2 この小論では、「円恩寺」の購読脳を「創造性と放浪」と考えているため、意味3の思考の流れ、放浪に注目する。   
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3放浪@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし、人工知能 @幸せA楽天。  
 
テキスト共生の公式     
 
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「創造性と放浪」を作る。
ステップ2:二人で円恩寺を目指して山道を歩く間は、怪我などしても楽しい。新婚旅行も放浪していれば、新しいことを生むことにもなる。従って、運命を信じ現在置かれている地位境遇に安んじ楽観する「幸せと楽天」という組を作り、解析の組と合わせる。

A:[@視覚+A聴覚+D触覚 ]+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。   
B:A聴覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。  
C:@視覚+C楽+@あり+A隠喩という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。 
D:@視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。  
E:@視覚+C楽+@あり+@隠喩という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。    

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える5

【連想分析1】  
表2 受容と共生のイメージ合わせ

円恩寺の山門に到着する場面

A 方方从一塊石头跳到另一塊石头上,我一直牽著她的手,还时不时断断读读哼著哥。过了河难,我们就又笑著叫著往山坡上跑。意味1 1+2+5、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

B 方方又扎破了脚,我心疼得不得了,她有安慰我说,没关系,穿上鞋就没事了。我说都时我不好,她说只要我快乐她就愿意,扎破脚也情愿。意味1 2、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C 行了,我不说了。因为你们是我们最要好的朋友,为我们分擔过忧患,我们的幸福也应该让你们分享。
意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 2、人工知能 2

D 就这样,我们终於爬到了上刚岗上,到了庙前那坐白石砌得上山门下。倒塌了的院牆内有一條水渠,水渠里流著排瀼站得水管由抽上得流水。断牆内,寺庙原先的大院里,有一片菜地。意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

E 紧挨著菜地还有个粪窖。我们有回想到在,在农村插队落户时掏粪坑得岁月,如月,那些跟难的日子都随著涢涢流水淌走了,只乘下有些忧伤卻也甜蜜的回忆,还有我们的爱情。意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 2、人工知能 2

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える4

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】  

表1 「円恩寺」のデータベースのカラム
文法1 態 能動、受動、使役。  
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 幸せありなし。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の接点。購読脳「創造性と放浪」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。その際、未知の情報については、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 幸せと楽天 エキスパートシステム 幸せとは、運が向いてくることであり、楽天とは、人生を楽観し、あくせくしないことをいう。 

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える3

 実際に「円恩寺」の中身を見てみよう。

结婚是人生大事,我们这短短的一生中,幸福本来就不多。我们是足有半个月的假期,即使这蜜月只有一半,对我们来说,也再甜蜜不过了。我呢吧报答你们的是我们的幸福。
 結婚は一生の大事である。新婚旅行も短い生涯の中で幸せを感じる良い機会である。半月であれ、蜜月はこの上なく甘いものである。迷惑をかけた分は、幸せで答えたい。(3)
我们来到这座县城也完全是偶然的。迎面走来了人打量了一下我和方方,便热心指点给我看。要去,只有座大庙,在城西的山头上。
 円恩寺がある県城には全く偶然辿り着いた。通りすがりの男に宿泊所と名所を尋ねる。郊外にある山寺を紹介してくれた。(1)
在我们的蜜月中,就连扎脚也是种幸福的感觉。我,方方,我们,人称变化。单数,复数,在有幸福。
 主人公の新妻方方への気配りが幸せに映る。ぼく、ぼくたちそして方方という具合に人称が変わる。単数でも複数でも幸せがそこにある。(2)
我们到了庙前那座的山门下。便躺在树荫里的荒草地上休息。这是一种难以言传的幸福,幸福得这样宁静。
 山寺に辿り着き、木陰に横たわる。方方が彼に寄りかかる。二人はことばにできない幸せを感じる。(3)
是个个子高大的中年人,头发蓬髭,满脸没刮的落腮胡子,面色隐沉。外地来玩的。他却把香瓜朝我扔了过来。我堂兄弟的孩子。我象把他收做我的儿子,只要他肯跟我过。
 男が現れる。背の高い中年で、神はボサボサ、無精ひげを生やし、沈痛な面持ちである。旅人と分り、持っていたウリをくれた。従兄弟の子供と遊んでいた。激しい感情の波が渦巻く。(3) 

 読み終えてからLの分析をすると、購読脳については、新婚旅行という月並みではあるが人生の一大事を作り、たまたま辿り着いた町を放浪することから「創造性と放浪」を考える。執筆脳は「幸せと楽天」となり、購読脳と執筆脳を合わせたシナジーのメタファーは、「高行健と楽天知命」にする。高行健の「円恩寺」に対する基本姿勢も内心の感情を外界へと投射する主観の調節が一番多い。

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える2

2 「円恩寺」のLのストーリー 

 高行健も自身で作家について考え、私もシナジーのメタファーで作家の執筆脳について考えている。平たくいえば、問題は、作家の頭の使い様である。
飯塚(2005)によると、高行健の小説を書くための基本姿勢は、1非ストーリー性、2人称の変化、3主観の表出である。

1 非ストーリー性とは、ストーリーを語る意図がなく、所謂プロットがない。つまり、主題を中心とする登場人物の性格や心理描写が限られている。小説という言語の芸術は、現実の模写ではなく、言語の実現を意味する。
2 人称の変化とは、人物形象の描写に頼ることなく、異なる人称を使って、読者の受け取りに角度を与えている。角度は転換することができ、角度と距離を変えて観察し体験することができる。 
3 主観の表出は、環境に対する純然たる客観描写を排除しているため、内心の感情を外界へと投射する。

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える1

1 はじめに

 シナジーのメタファーという作家の執筆脳を研究するためにマクロの分析方法を研究している。作家について研究するという意味では、高行健(1940−)の文学の理由も参考にしてみたい。作家が発する声とはそもそもどういうものなのか。作家にとって文学とはどんな意味があるのか。 
 最初にこれらのことを考えてから、次に「円恩寺」執筆時の高行健の脳の活動について考える。この分析は、購読脳の組み合わせと二個二個になるように執筆脳を調節し、それらをマージしながら最後に高行健と○○というシナジーのメタファーを考える。これは何も「円恩寺」だけではなく、短編集に含まれる同列の小説についてもいえることである。    
 中国文学の研究は、私にとり文献学上の比較の作業である。対照言語がドイツ語と日本語のため、北米や欧州のことばは勿論のこと、東アジアの国地域とも比較ができるように一応調節している。これまで魯迅の「狂人日記」や「阿Q正伝」そして莫言の「蛙」をシナジー共生で分析しており、その流れで今回は高行健の「円恩寺」を考察したい。高行健は、1962年に北京外国語大学フランス語科を卒業し、文革で下放している。下放とは、思想改造のため、地方の農村や工場へ行くことである。現在は、フランスのパリに在住である。

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える16

4 まとめ   

 高行健の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「朋友」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 短編小説集の他の作品を見ると、例えば、「円恩寺」の中で新婚旅行にありがちな一場面を実現し、カップル以外の登場人物も読者に身近な存在で、小説の中の名称に対し作者の内心を投射している。「朋友」の執筆脳で見た「命の尊さと楽天」から高行健のシナジーのメタファーとした楽天知命が反映されている。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日语教学研究会上海分会論文集 2021年
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
高行健 高行健短編小説集 聯合文學 2008
高行健 母(飯塚容訳)集英社 2005
高行健 Wikipedia 

高行健の『朋友』で執筆脳を考える15

表3 情報の認知

A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 1、情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
B:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
D:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。    

結果  高行健は、この場面で写真の原版のネガは黴が生えているも存在し、銀紙に巻かれ塗料を塗った袋にあり、それが経歴の時代の写しで大切に楽観すると説いているため、購読脳の「創造性と真実」から「命の尊さと楽天」という執筆脳の組を引き出すことができる。 

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える14

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える13

分析例

1 友人と共に文学を学ぶ計画があると説明する場面。  
2 この小論では、「朋友」の購読脳を「創造性と真実」と考えているため、意味3の思考の流れ、真実に注目する。   
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3真実@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし    
5 人工知能 @命の尊さ、A楽天  
 
テキスト共生の公式     
 
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「創造性と真実」を作る。
ステップ2:友人と共に文学を学ぶ計画があると説明する場面は、友が反駁するも、社会が前進すれば突進せず、文化大革命後に深刻な文学はなく、前路は太平なため、創造性を働かせる必要を説く。従って、運命を信じ現在置かれている地位境遇に安んじ楽観する「命の尊さと楽天」という組を作り、解析の組と合わせる。   

A:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@命の尊さとA楽天という組と合わせる。
B:@視覚+B哀+Aなし+@直示という解析の組を、@命の尊さとA楽天という組と合わせる。  
C:@視覚+@喜+@あり+@直示という解析の組を、@命の尊さとA楽天という組と合わせる。 
D:@視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@命の尊さとA楽天という組と合わせる。  
E:@視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@命の尊さとA楽天という組と合わせる。    

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える12

【連想分析1】

表2 受容と共生のイメージ合わせ
友人と共に文学を学ぶ計画があると説明する場面

A 「你记得阿,托两斯泰的【苦难得历程】吗?」我问。「考大学之前,我们不是争论过究竟应该报考什么专业?我企图说服你同我一起学文学。你反驳我说;社会前进的道路已经不用我们来闯了。大革命的时代完成了,没有巨大的社会变革就不会有深刻的文学,32页 我们面前的路太平坦了,时代留给我们的只剩下创造性的劳动。你记得不?」意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

B 「我们不争论了。」你把手一挥・。「谈谈你的情况。」「我没什么好谈的,没被枪毙过,也没有被批门过,只因为一度捲进派性里去,办了我一个月的学习斑,连上厕所都有尾巴跟著。怕我串联,如此而已。」
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C 「对了,天安门事件的时候你在北京吗?」「在。」「六九年枪毙我的时候,我道没什么痛苦。只是后来,政治变动反反覆覆,没完没了,什么事情也不能做,那才受不了,可我从广播中听到【天安门暴乳】的时候,我倒突然看到了希望。我当时想,要能见到你,我一定要问问当时的真实情况。」
意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

D 「我倒是天天去,还拍了很多照片。」「冯直觉,我就想到,你在北京的话,一定会去的!你这个搞文学的人,怎么能放过这个场面?」我笑了说・・・「有时为了选镜头,不得不登高,站到栏杆上,爬到燈柱子上去,被盯梢上了。」「你怎么发现的?」「我天天去,他们也天天在。在加上他们那身公家发的蓝大衣,彼此都面熟了。」「后来没查到你?」意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

E 33页 「我毕竟不是小孩子,我把自行车的拍照下掉了。」你呵呵大笑。「不过,事后一个月我没骑过自行车上街。第二个月就请探亲假回来,混了近两个月才回的北京的。」「你那写照片还在?」「底片都在,不过有些霉点。我当时包上锡纸,装在塑料口袋里,埋在花盆的泥土里。」你点点头・・・这就是我们经历的时代。我明白你的意思。意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える11

4 データベースの作成・分析  

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】  

表1 「朋友」のデータベースのカラム
文法1 態 能動、受動、使役。  
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 真実ありなし。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の接点。購読脳「創造性と真実」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。
情報の 認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。その際、未知の情報については、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の 認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 命の尊さと楽天 エキスパートシステム 命の尊さとは、人の命を敬い重んじることであり、楽天とは、人生を楽観し、あくせくしないことをいう。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える10

●天安门事件的时候你在北京吗?在。六九年枪毙我的时候,我倒没什么痛苦,只是后来,政治变动反反覆覆,没完没了,什么事情也不能做,可我从广播中听到「天安门暴乱」的时候,我一定要问问当时的真实情况。
 天安門事件(1989)のとき、君は北京にいた。1969年私の原稿が没になったとき、苦痛はなく、政治の変動が繰り返された。完了せずどんな仕事も出来なくなり、天安門の暴乱を聴いたとき、必ず真実の状況を問わねばならないと思った。(3)
●天安门事件之后,我一个晚上全部烧掉了。那稿子将近四十万字。
天安門事件後、一晩で原稿を全部燃やしてしまった。原稿は40万字に及んだ。(3)
●最后一章的结尾是・・主人公在大山里走了很久,疲倦极了,躺在看山人用巴茅草搭的窝棚里。没有鸟雀叫,也没有昆蟲嘶鸣,四下十分寂静,只有两峰之间一片异常明洁的天空。顶峰之下,荆棘叢生。这是很美的。你因该把它重新写出来!用手擦去玻璃窗上的水气,凝望著窗外。下雪了。街上没有风。雪花无声无息落在衣领子上。我们一同上小学,随后又一同上中学。那当然,你这条命可是捡来的。你没有骂出口,我们就笑了。
 最後の章で、主人公は山中を長いこと歩き、疲れて横になり山を見ている。鳥や雀の泣き声も虫や興梠の泣き声もしない。静寂で峰の間に奇麗な天空がある。峰の下には茨が生えている。とても美しい。書き残すべきである。手でガラス窓を擦り、目を凝らしてみる。雪である。街に風はなく、雪花は声も息もなく襟にある。我々は共に小学、中学へ毎日歩いて通った。命は拾ってきた。罵ることなくすぐ笑った。(3)
 
 読み終えてからLの分析をすると、購読脳については、文化大革命と天安門事件をキーワードとし、「創造性と真実」を考える。執筆脳は「命の尊さと楽天」となり、購読脳と執筆脳を合わせたシナジーのメタファーは、「高行健と楽天知命」にする。高行健の「朋友」に対する基本姿勢は、内心の感情を外界へと投射する主観の調節が一番多い。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える9

●我想起十三年前你最后给我的呢封信・・・我没有立刻回你这封信,可我一直想婉转提醒你,书信也好,说话也好,不要带这分俏皮,因为那时候政治气氛已经十分紧张了,免得惹来麻烦。两个月后,这场翻天覆地的文化革命便爆发了,谁也不知道谁的命运如何,我预感到你得灾难,而后你果真音讯全无。
 13年前私に送った最後の手紙を思い出す。すぐに返事は出さなかった。婉曲した言い方で手紙を書くのは良いし話をするのもよいけど、洒落ている必要はない。その時の政治気分が十分に緊張していたため、煩わしさを避ける狙いがあった。間もなく天地を翻す文化大革命(1966−1976)が爆発した。誰も人の運命のことはわからない。君に災難が降りかかる予感がし、果たして音信は不通になった。(3)
●死并不可怕,只不过是一种遗憾。面对死亡不会这样平静,我要喊叫,要抗议这种愚蠢荒谬的死亡。
 死は恐れるに非ず、但しある種の遺憾はある。死に面して冷静ではいられない。叫びながらこの種の愚かで間違った死に抗議しろ。(3)
●我哼了这个中那个苦苦探索,热切追求的主题,你连连点头。那是个急速上升,又中断了,又急速上升的旋律。那是对未来,对理想对一种灿烂的生活的激情的呼唤。它默燃过我,默燃过你。这就是相隔了十三年,你我经历了生离死别,我们之间却依然息息的相通的精神。
 鼻歌を歌い曲の中の苦しみを探し、主題を追求する。君は頷く。旋律は、中断したり上昇したりする。未来に対し、理想に対し、一種の光輝く生活の激しい感情の叫び。私を燃やし君を燃やす。13年の隔たりは、生まれ離れ死で別れることになる。我々の間で相通した精神は後退する。(3) 
●我企图说服你同我一起学文学。你反驳我说。社会前进的道路已经不用我们来闯了。大革命的时代完成了,没有巨大的社会变革就不会有深刻的文学,我们面前的路太平坦了,时代留给我们的只剩下创造性的劳动。
 私と一緒に文学を学ぼうと説得したことがある。君は反駁した。社会が前進する道路は、すでに我々の突進を必要としない。文化大革命の時代は、完成した。巨大な社会の変革はなく、深刻な文学もない。前途は太平であり、時代が我々に残したものは、創造性の労働である。(3)

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える8

●而十三年年后,你依然是你,我也没变?你又笑了。你已经有了白头发了,两髭和前额都分明夹杂著根根白发。你只不过比我大两才。领导班子里六十多才还算年轻。
13年経っても君は変わらずに君である。私も私のままなのか。君はすでに白髪がある。髭にも額にも白髪がある。私より2つ年上でもう中年の域である。しかし、指導者として60歳はまだ若い。(3)
●毛毛刚考上了研究生,当太学生。你又哈哈大笑。居然还这样乐天。真枪毙过你?差点没到马克思老人家那里报道去。你说得很认真。
研究生の試験に合格し、大学生になった。以外にも大笑いで楽天的である。君は銃殺されたのか。銃殺された、もう少しでマルクス老人の家に至らず出頭する所であった。笑いはない。(1、3)
●死真不是滋味,不过,死并不可怕。问题是死得这样年轻。冤鬼多著呢,我算不了什么。十五年前,我们刚大学毕业。
死はどんな味なのか。偽の銃殺である。死は味などなく恐れるに非ず、何もしやしない、無実の罪の幽霊が非常に多くて計算しきれない。15年前、大学を卒業した。(3)
●他们把我带到我们地质队的东方红革命造反司令部,就好比战争时期得前线指挥部,而是在食堂隔壁,审完了吃消夜方便。你还像中学时代一样。
東方紅革命造反司令部に私を引き連れ、戦争時期の前線指導部と好んで比較し、食堂にいても夜食を食べるのに便利かどうか審査した。中学時代のことである。(2) 

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える7

3 「朋友」のLのストーリー 

 高行健も自身で作家について考え、私もシナジーのメタファーで作家の執筆脳について考えている。平たくいえば、問題は、作家の頭の使い様である。
 飯塚(2005)によると、高行健の小説を書くための基本姿勢は、1非ストーリー性、2人称の変化、3主観の表出である。

1 非ストーリー性とは、ストーリーを語る意図がなく、所謂プロットがない。つまり、主題を中心とする登場人物の性格や心理描写が限られている。小説という言語の芸術は、現実の模写ではなく、言語の実現を意味する。
2 人称の変化とは、人物形象の描写に頼ることなく、異なる人称を使って、読者の受け取りに角度を与えている。角度は転換することができ、角度と距離を変えて観察し体験することができる。 
3 主観の表出は、環境に対する純然たる客観描写を排除しているため、内心の感情を外界へと投射する。
実際に「朋友」の中身を見てみよう。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える6

 作家は、創生の主役を担わない、また自己精神を錯乱させて狂人に変え、現世を幻に変え、体以外のものは全て浄罪界になり、自然と降りることはない。他人はもちろん地獄で、自我が制御できなければ、どうしてこのようにならないのか。未来のために自分を祭りの品にし、人を犠牲にする必要はない。
 作家は、預言者ではない。人を騙さず、妄想を失くし、同時に自我を審査する。自我が混沌となり、質疑の下、世界が他人を興すと同時に自己を回顧してもよい。災難や圧迫は、外部から来て、自身の臆病は苦痛を深刻にし、他人に不幸をもたらす。
 作家は、真実を提言する。作家は、真実の洞察力を把握し、作品の品格の高低を決定する。作家は、粗探しをしながら独特の叙述方式の過程の中で感知を実現する。
 作家は、報酬を計算せずに自分の必要を書き、自身を肯定するだけでなく、社会に対して挑戦するのも自然である。作家個人の感情は、作品の中で解けて文学になる。作品が社会に対する挑戦となる。不朽の名作とは、時代や社会の有力な回答である。喧しいことは消え、読者が繰り返して読むことにより作品の中の声が残る。文学は、正に歴史の補充である。 

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える5

2.3 作家と読者の関係

 高行健は、10年前「霊山」の後、短文を書いている。文学はもともと政治とは無縁で、単に個人の事情であり、まずは観察で経験に対する回顧となり、憶測や感受も心態の表現で思考に対し満足する。
 作家は、ただ話して書く際、一個人であり、他人は、聞くも聞かないもでき、読むも読まないもできる。作家は、人民に命じる英雄でなく、偶像崇拝に値せず、罪人や民衆の敵でもない。権力や勢いが敵人を作り、民衆に注意を移すと、作家はある種の犠牲品になる。不幸のために眩暈がする作家は、以外にも祭品に当たり光栄となる。
 作家と読者の関係は、作品を通じて精神的に交流するだけである。読み書きは、自分で感じ自分で願う。そのため、文学は大衆においてどんな義務にも負けない。作家は、創作に従事する。難を持って生を維持するもある種の贅沢として精神的に満足する。出版作業は幸せである。社会の認可を求めず、報奨を望まない精神活動だからである。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える4

2.2 第三の眼

 現在、一人の作家は、意を刻み、民俗文化を強調し、総じて疑いもする。私の出生、使用言語、中国の文化伝統は、自然と身の上にあり、文化も総じて言語と密に創刊し、感知を形成し、ある種の思考や表現は、隠れた特殊方式を比較する。しかし、作家の創造性は、この種の言語で言い過ぎたところから始まり、この種の言語で十分に表現しないところは、訴えていう。言語芸術の創造者として自己に民族意識を張らなければならない。 
 文学作品の超越した国境は、翻訳や語種を越え、地域や歴史を越えて形成する特定の社会習俗や人間関係、深く染み出る人間の性質は、人類普遍が互いに通じ合う。作家は、誰でも民族文化の外にある多重文化の影響を受け、民族文化の特色を強調し、旅行業で広告を考慮しなければ人生を疑う。
 文学は、人の生存に対し苦難の世話をしてくれる。文学に対する限定は、総じて文学以外の政治、社会、倫理、習俗の企画が文学に鋏をのせ、各種の枠組みに至り、装飾として好まれる。
文学は、権力を飾り付けず、社会の風雅に非ず、自ら価値判断を有する。つまり、審美を理解する。審美は相関し、文学ならではの判断になる。文学を通じて良く影響され、鑑賞力が身に付く。閲覧中から作者に詩意の興味を与え、崇高が笑いを生み、悲しみが怪談となり、幽黙は嘲諷になる。
 詩意は、抒情より来て、作家の無節制による自変は、幼稚病であり、初めて学んで書くときはこれを免れない。抒情には多くの区切りがある。詩意は、隠れていて距離を持って注視する。この注視は、作家本人を審査し、著作の人物を越え作者の上にあり、作家の第三の眼となる。
 文学は、芸術と同じではあるが、モダンで年と共に変わり、価値判断は、時代の流行を区別することに等しく、芸術において新たなものになる。作家の価値判断が市場の行動を追従するならば、文学の自殺行為になる。 

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える3

 作家がもし思想の自由を要すると思うならば、それはすでに逃亡になる。黙っていれば自殺と同じで、当否は、自殺を封じる。さらに自分個人の声を発する作家は、逃亡するしかない。毛沢東の時代には、逃亡を続けることもできなかった。個人で独立志向を保持したければ、自言自語は可能でも秘密裏に行う。自言自語は、文学の起点であり、感受を起して思考を言語の中に注入し、書面を通して文字に訴えると、文学が成立する。 
高行健の執筆の履歴は、文学が根本的に自身に対する価値の確認になり、書く際にすでに肯定がある。文学は、まず作者自身が満足を要求し、社会の効果の有り無しは、作品完成後のことであり、作者側が決めることではない。
 言語は、人類の文明による結実であり、精微であり、難を持って理解し、利用できる機会を使い、感知を貫通し、感知の主体に対し世界の認識を同封しリンクを張る。書き留めた文字を通過するとまた奇妙になり、孤立した個人に任せ、異なる民族や異なる時代の人でも橋渡しをする。文学の執筆や閲覧の現実性が他と同様に恒久の精神価値を有し、こうしたリンクがともに起こる。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える2

2 文学の理由−20世紀の中国文学

2.1 文学と作家

 高行健は、文学の理由として一人の作家の声について説明する。作家も人民の代弁者とか正義の化身として説けば、微弱ではない。個人の声は、真実に至る。彼の言い分は、文学も個人の声であり、国家の頌歌や民族の手本となり、伝搬手段を用いて勢いが増し、天地を覆いつくすも、すぐに本性を喪失し権力や利益の代用品に変わる。 
 この一世紀、文学は、不幸に見舞われた。政治の権力が深まり、作家は甚だしく迫害を受けた。文学は、自身の存在理由を擁護し政治の道具にならないようにする。そして、個人の感受を出て、文学が政治を離脱するとか政治に口出しし、関連する所謂傾向性や作家の政治傾向など、これに類する論戦も20世紀ならではの文学の病気といえる。こうした相関が起す伝統の革新や保守革命は、文学の問題を進歩に変え、反動の争いを起し、皆の意識形態を怪しくする。意識形態が権力と結合し、現実の勢力に変わり、文学は、個人が共に災いを被るようにする。  
 20世紀の中国文学の災難は、文学の革命が個人を死地に置いたことであり、革命の名義を持って中国の伝統文化の盗伐が公然と禁書や焼書をもたらした。作家は、殺害を被り監禁され、放流そして罰せられ、苦役をもってこの百年に関し計算するものがなくなり、中国の歴史上、一時代では比較の仕様もなく無比の苦難に満ち、自由な創作がさらに難しくなった。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の『朋友』で執筆脳を考える1

1 先行研究

 シナジーのメタファーという作家の執筆脳を研究するためにマクロの分析方法を研究している。作家について研究するという意味では、高行健(1940−)の文学の理由も参考にしてみたい。作家が発する声とはそもそもどういうものなのか。作家にとって文学とはどんな意味があるのか。
 最初にこれらのことを考えてから、次に「朋友」執筆時の高行健の脳の活動について考える。この分析は、購読脳の組み合わせと二個二個になるように執筆脳を調節し、それらをマージしながら最後に高行健と○○というシナジーのメタファーを考える。これは何も「朋友」だけではなく、短編集に含まれる同列の小説についてもいえることである。   
 中国文学の研究は、私にとり文献学上の比較の作業である。対照言語がドイツ語と日本語のため、北米や欧州のことばは勿論のこと、東アジアの国地域とも比較ができるように一応調節している。これまで魯迅の「狂人日記」や「阿Q正伝」そして莫言の「蛙」をシナジー共生で分析しており、その流れで今回は高行健の「朋友」を考察したい。高行健は、1962年に北京外国語大学フランス語科を卒業し、文革で下放している。下放とは、思想改造のため、地方の農村や工場へ行くことである。現在は、フランスのパリに在住である。

花村嘉英(2021)「高行健の『朋友」』で執筆脳を考える」より

高行健の文学の理由−20世紀の中国文学6

 作家は、創生の主役を担わない、また自己精神を錯乱させて狂人に変え、現世を幻に変え、体以外のものは全て浄罪界になり、自然と降りることはない。他人はもちろん地獄で、自我が制御できなければ、どうしてこのようにならないのか。未来のために自分を祭りの品にし、人を犠牲にする必要はない。
 作家は、預言者ではない。人を騙さず、妄想を失くし、同時に自我を審査する。自我が混沌となり、質疑の下、世界が他人を興すと同時に自己を回顧してもよい。災難や圧迫は、外部から来て、自身の臆病は苦痛を深刻にし、他人に不幸をもたらす。
 作家は、真実を提言する。作家は、真実の洞察力を把握し、作品の品格の高低を決定する。作家は、粗探しをしながら独特の叙述方式の過程の中で感知を実現する。
 作家は、報酬を計算せずに自分の必要を書き、自身を肯定するだけでなく、社会に対して挑戦するのも自然である。作家個人の感情は、作品の中で解けて文学になる。作品が社会に対する挑戦となる。不朽の名作とは、時代や社会の有力な回答である。喧しいことは消え、読者が繰り返して読むことにより作品の中の声が残る。文学は、正に歴史の補充である。

参考文献

高行健 高行健短編小説集 聯合文學 2008
高行健 母(飯塚容訳)集英社 2005
花村嘉英 高行健の「朋友」の執筆脳について ファンブログ 2022
 

高行健の文学の理由−20世紀の中国文学5

3 作家と読者の関係

 高行健は、10年前「霊山」の後、短文を書いている。文学はもともと政治とは無縁で、単に個人の事情であり、まずは観察で経験に対する回顧となり、憶測や感受も心態の表現で思考に対し満足する。
 作家は、ただ話して書く際、一個人であり、他人は、聞くも聞かないもでき、読むも読まないもできる。作家は、人民に命じる英雄でなく、偶像崇拝に値せず、罪人や民衆の敵でもない。権力や勢いが敵人を作り、民衆に注意を移すと、作家はある種の犠牲品になる。不幸のために眩暈がする作家は、以外にも祭品に当たり光栄となる。
 作家と読者の関係は、作品を通じて精神的に交流するだけである。読み書きは、自分で感じ自分で願う。そのため、文学は大衆においてどんな義務にも負けない。作家は、創作に従事する。難を持って生を維持するもある種の贅沢として精神的に満足する。出版作業は幸せである。社会の認可を求めず、報奨を望まない精神活動だからである。

花村嘉英(2022)「高行健の『朋友』の執筆脳について」より

高行健の文学の理由−20世紀の中国文学4

 文学は、権力を飾り付けず、社会の風雅に非ず、自ら価値判断を有する。つまり、審美を理解する。審美は相関し、文学ならではの判断になる。文学を通じて良く影響され、鑑賞力が身に付く。閲覧中から作者に詩意の興味を与え、崇高が笑いを生み、悲しみが怪談となり、幽黙は嘲諷になる。
 詩意は、抒情より来て、作家の無節制による自変は、幼稚病であり、初めて学んで書くときはこれを免れない。抒情には多くの区切りがある。詩意は、隠れていて距離を持って注視する。この注視は、作家本人を審査し、著作の人物を越え作者の上にあり、作家の第三の眼となる。
 文学は、芸術と同じではあるが、モダンで年と共に変わり、価値判断は、時代の流行を区別することに等しく、芸術において新たなものになる。作家の価値判断が市場の行動を追従するならば、文学の自殺行為になる。 

花村嘉英(2022)「高行健の『朋友』の執筆脳について」より

高行健の文学の理由−20世紀の中国文学3

.2 第三の眼

 現在、一人の作家は、意を刻み、民俗文化を強調し、総じて疑いもする。私の出生、使用言語、中国の文化伝統は、自然と身の上にあり、文化も総じて言語と密に創刊し、感知を形成し、ある種の思考や表現は、隠れた特殊方式を比較する。しかし、作家の創造性は、この種の言語で言い過ぎたところから始まり、この種の言語で十分に表現しないところは、訴えていう。言語芸術の創造者として自己に民族意識を張らなければならない。 
 文学作品の超越した国境は、翻訳や語種を越え、地域や歴史を越えて形成する特定の社会習俗や人間関係、深く染み出る人間の性質は、人類普遍が互いに通じ合う。作家は、誰でも民族文化の外にある多重文化の影響を受け、民族文化の特色を強調し、旅行業で広告を考慮しなければ人生を疑う。
 文学は、人の生存に対し苦難の世話をしてくれる。文学に対する限定は、総じて文学以外の政治、社会、倫理、習俗の企画が文学に鋏をのせ、各種の枠組みに至り、装飾として好まれる。

花村嘉英(2022)「高行健の『朋友』の執筆脳について」より

高行健の文学の理由−20世紀の中国文学2

 20世紀の中国文学の災難は、文学の革命が個人を死地に置いたことであり、革命の名義を持って中国の伝統文化の盗伐が公然と禁書や焼書をもたらした。作家は、殺害を被り監禁され、放流そして罰せられ、苦役をもってこの百年に関し計算するものがなくなり、中国の歴史上、一時代では比較の仕様もなく無比の苦難に満ち、自由な創作がさらに難しくなった。
 作家がもし思想の自由を要すると思うならば、それはすでに逃亡になる。黙っていれば自殺と同じで、当否は、自殺を封じる。さらに自分個人の声を発する作家は、逃亡するしかない。毛沢東の時代には、逃亡を続けることもできなかった。個人で独立志向を保持したければ、自言自語は可能でも秘密裏に行う。自言自語は、文学の起点であり、感受を起して思考を言語の中に注入し、書面を通して文字に訴えると、文学が成立する。 
高行健の執筆の履歴は、文学が根本的に自身に対する価値の確認になり、書く際にすでに肯定がある。文学は、まず作者自身が満足を要求し、社会の効果の有り無しは、作品完成後のことであり、作者側が決めることではない。
 言語は、人類の文明による結実であり、精微であり、難を持って理解し、利用できる機会を使い、感知を貫通し、感知の主体に対し世界の認識を同封しリンクを張る。書き留めた文字を通過するとまた奇妙になり、孤立した個人に任せ、異なる民族や異なる時代の人でも橋渡しをする。文学の執筆や閲覧の現実性が他と同様に恒久の精神価値を有し、こうしたリンクがともに起こる。

花村嘉英(2022)「高行健の『朋友』の執筆脳について」より

高行健の文学の理由−20世紀の中国文学1

1 文学と作家

 高行健は、文学の理由として一人の作家の声について説明する。作家も人民の代弁者とか正義の化身として説けば、微弱ではない。個人の声は、真実に至る。彼の言い分は、文学も個人の声であり、国家の頌歌や民族の手本となり、伝搬手段を用いて勢いが増し、天地を覆いつくすも、すぐに本性を喪失し権力や利益の代用品に変わる。 
 この一世紀、文学は、不幸に見舞われた。政治の権力が深まり、作家は甚だしく迫害を受けた。文学は、自身の存在理由を擁護し政治の道具にならないようにする。そして、個人の感受を出て、文学が政治を離脱するとか政治に口出しし、関連する所謂傾向性や作家の政治傾向など、これに類する論戦も20世紀ならではの文学の病気といえる。こうした相関が起す伝統の革新や保守革命は、文学の問題を進歩に変え、反動の争いを起し、皆の意識形態を怪しくする。意識形態が権力と結合し、現実の勢力に変わり、文学は、個人が共に災いを被るようにする。  

花村嘉英(2022)「高行健の『朋友』の執筆脳について」より

莫言の「蛙」でオッズ比を考える5

3 まとめ

 莫言の「蛙」の既婚正義の読みと既婚不正の読みで計画出産に関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連を計算した。オッズ比で事象の起こりやすさを計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。オッズ比の分析に関心がある人は、是非試してもらいたい。

参考文献

中村好一 基礎から学ぶ楽しい保険統計 医学書院 2016
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 莫言の「蛙」で執筆脳を考える ブログ シナジーのメタファー 2020
花村嘉英 莫言の「蛙」でファイ係数を考える ブログ シナジーのメタファー 2020
オッズ比 Wikipedia 

莫言の「蛙」でオッズ比を考える4

表3
既婚正義 計画出産あり3 計画出産なし1 計4
既婚不正 計画出産あり2 計画出産なし4 計6
計画出産あり 既婚正義3 既婚不正2 計5
計画出産あり 既婚正義1 既婚不正4 計5

要因Aありのオッズ=3/2=1.5
要因Aなしのオッズ=1/4=0.25
オッズ比=1.5÷0.25=6 オッズ比は、6ということになり、既婚正義の計画出産の方が起こりやすいことがわかる。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でオッズ比を考える」より

莫言の「蛙」でオッズ比を考える3

2 莫言の「蛙」でクロス集計表を分析する

表2
姑姑,要不就让她生了,我沮丧地说,党籍我不要了,职位我也不要...。
出産計画(正義)2、出産計画(不正)1
姑姑猛拍桌子,震得我面前水杯中的水溅了出来。出産計画(正義)1、出産計画(不正)2
你太没出息了!小跑!姑姑说,这不是你一个人的事!我们公社,连续三年没有一例超计划生育,难道你要给我们破例?出産計画(正義)1、出産計画(不正)2
可她寻死觅话,我为难地说,要真弄出点事来可怎么办?出産計画(正義)2、出産計画(不正)2
姑姑冷冷地说:你知道我们的土政策是怎么规定的吗?-喝毒药不夺瓶!想上吊给根绳。
出産計画(正義)1、出産計画(不正)2

 指数のため、既婚(正義)は、計画出産あり3なし2、既婚(不正)は、計画出産あり1なし4になる。表2に数字を(1)を公式に当てはめてオッズ比を計算する。 

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でオッズ比を考える」より

莫言の「蛙」でオッズ比を考える2

 オッズ比が1とは、対象とする事象の起こりやすさが両群で同じということであり、1より大きいとは、事象が第1群(第2群)でより起こりやすいということである。オッズ比は必ず0以上である。第1群(第2群)のオッズが0に近づけばオッズ比は0(∞)に近づく。但し、bやcが0の場合、オッズ比の公式の分母に0が入るため、オッズ比が無限大(∞)になり95%信頼区間もできなくなる。そこで4つのセルに0.5を加えて、(a+0.5)x(d+0.5)/ (b+0.5)x(c+0.5)をオッズ比とする。これは、ウォルフ−ハルディンの補正と呼ばれている。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でオッズ比を考える」より

莫言の「蛙」でオッズ比を考える1

1 オッズ比とは

 ある事象の起こりやすさを二つの群で比較する統計の尺度である。オッズ比の考え方は、2x2分割表であり、a/bが要因Aあり群の要因Bのオッズ、c/dが要因Aなし群の要因Bのオッズで、両者の比(a/b)/(c/d)=ad/ bcがオッズ比である。

表1
要因A あり a b a+b
要因A なし c d c+d
要因B あり a c a+c
要因B なし b d b+d

n=a+b+c+d
要因Aありのオッズ=a/b
要因Aなしのオッズ=c/d
オッズ比=(a/b)/(c/d)=ad/bc

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でオッズ比を考える」より

莫言の「蛙」でカイ二乗検定を考える4

まとめ

 莫言の「蛙」の既婚正義の読みと既婚不正の読みで計画出産に関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連を計算した。カイ二乗検定で帰無仮説を棄却できるかいなかを計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。カイ二乗検定の分析に関心がある人は、是非試してもらいたい。

参考文献

中村好一 基礎から学ぶ楽しい保険統計 医学書院 2016
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?   新風舎 2005
花村嘉英 莫言の「蛙」で執筆脳を考える ファンブログ 2020
花村嘉英 莫言の「蛙」でファイ係数を考える ファンブログ 2020
いちばんやさしい、医療統計 カイ二乗検定 best-biostatistics.com

莫言の「蛙」でカイ二乗検定を考える3

表3 期待度数

既婚正義 計画出産あり2、計画出産なし3
既婚不正 計画出産あり2、計画出産なし3

カイ二乗検定は、表2と表3の差を計算する。(観測データ−期待度数)2 / 期待度数の公式で各カテゴリーを計算すると、表4になる。

表4 差の計算

既婚正義 治療あり0.5、治療なし0.33
既婚不正 治療あり0.5、治療なし0.33

カイ二乗検定は、表4の値を全て足したものになる。0.5+0.5+0.33 +0.33=1.66
カイ二乗値、つまり、観測と期待度数の差は、1.66になる。なお自由度は1のため、有意確率は、約0.5となり、5%以上のため、帰無仮説で差がないとなる。

花村嘉英(2021) 「莫言の『蛙』でカイ二乗検定を考える」より 

莫言の「蛙」でカイ二乗検定を考える2

カテゴリーとして、既婚正義と既婚不正で計画出産があるかどうかの件数。 

表2 観測データ

既婚正義 計画出産あり3、計画出産なし2、縦計5
既婚不正 計画出産あり1、計画出産なし4、縦計5
横計   計画出産あり4、計画出産なし6、縦計10

@ 既婚正義で計画出産ありのカテゴリー。10 x 5/10 x 4/10 = 2  
A 既婚正義で計画出産なしのカテゴリー。10 x 5/10 x 6/10 = 3 
B 既婚不正で計画出産ありのカテゴリー。10 x 5/10 x 4/10 = 2
C 既婚不正で計画出産なしのカテゴリー。10 x 5/10 x 6/10 = 3

花村嘉英(2021) 「莫言の『蛙』でカイ二乗検定を考える」より 

莫言の「蛙」でカイ二乗検定を考える1

カイ二乗検定とは

 カイ二乗検定とは、カテゴリーデータを対象とし、期待値に対し実測値の編りを調べるために使用する検定方法である。実測値は、莫言の「蛙」の一場面から作成した。期待値は、そこから一つ一つ計算している。 

莫言の「蛙」でクロス集計表を分析する

表1
姑姑,要不就让她生了,我沮丧地说,党籍我不要了,职位我也不要...。
姑姑猛拍桌子,震得我面前水杯中的水溅了出来。
你太没出息了!小跑!姑姑说,这不是你一个人的事!我们公社,连续三年没有一例超计划生育,难道你要给我们破例?
可她寻死觅话,我为难地说,要真弄出点事来可怎么办?
姑姑冷冷地说:你知道我们的土政策是怎么规定的吗?-喝毒药不夺瓶!想上吊给根绳。

花村嘉英(2021) 「莫言の『蛙』でカイ二乗検定を考える」より 

莫言の「蛙」でファイ係数を考える5

3 まとめ

 莫言の「蛙」の正義の読みと不正の読みで計画出産に関しクロス集計表を作成し、行要素と列要素の関連の強さを計算した。ファイ係数から感度や特異度そして正確度や適合度も計算し、統計データから得られた数字の意味を考えた。ファイ係数にまつわる分析に関心がある人には、是非試してもらいたい。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 莫言の「蛙」で執筆脳を考える ファンブログ 2020
https://best-biostatistics.com/design/kouraku2.html (いちばんやさしい医療統計)
https://ash-d.click/2018/01/08/st_0108/(性別と購入の関連性)
https://www.cresco.co.jp/blog/entry/5987/(感度とか特異度)

莫言の「蛙」でファイ係数を考える4

連関を見るため、表3の数字を加算する。さらに表4の数字を公式(1)に当てはめてファイ係数を計算する。

表4
    計画出産あり 計画出産なし 計
既婚正義  4     1      5
既婚不正  2     9      11
計     6     10      16

(2)4 x 9 -1 x 2/√6 x 10x 5 x 11 = 34 / 57.4 =0.59

 ファイ係数、即ち、行要素と列要素の関連の強さは、弱い関連があるになる。次に、その他の関連する数字を見てみよう。

感度= a ÷ (a + c)のため、3÷ (3+2)=0.67。計画出産ありの真性の割合である。
特異度 = d ÷ (b+ d) のため、4÷ (1+4)=0.9。計画出産なしの真性の割合である。
正確度=(a + d)÷(a +b+ c + d) のため、(3 + 4)÷(3 +2+ 1+ 4) =0.81。全体の真性の割合である。
適合度= a÷(a +b) のため、3÷ (3+1)=0.8。既婚正義と判定したものが正解である割合である。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でファイ係数を考える」より

莫言の「蛙」でファイ係数を考える3

2 莫言の「蛙」でクロス集計表を分析する

姑姑,要不就让她生了,我沮丧地说,党籍我不要了,职位我也不要...。
出産計画(既婚正義)2 出産計画(既婚不正)1
姑姑猛拍桌子,震得我面前水杯中的水溅了出来。
出産計画(正義)1 出産計画(不正)2
你太没出息了!小跑!姑姑说,这不是你一个人的事!我们公社,连续三年没有一例超计划生育,难道你要给我们破例?出産計画(正義)1 出産計画(不正)2
可她寻死觅话,我为难地说,要真弄出点事来可怎么办?
破例?出産計画(正義)1 出産計画(不正)2
姑姑冷冷地说:你知道我们的土政策是怎么规定的吗?-喝毒药不夺瓶!想上吊给根绳。
出産計画(正義)1 出産計画(不正)2

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でファイ係数を考える」より

莫言の「蛙」でファイ係数を考える2

 感度とは、ある対象に与えた刺激とそれに対する応答の関係に関わる指標である。 感度 = a ÷ (a + c)で計算できる。問題があることを見逃さない割合ともいえる。
 特異度とは、臨床検査の性格を決める指標の1つで、ある検査について「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」として定義される値である。特異度 = d ÷ (b+ d)で計算できる。問題のないことをむやみに疑わないことを表す指標である。
 正確度とは、全体の正解率であり、(a + d)÷(a +b+ c + d) で計算できる。正答の数を全体の数で割る。
 適合度とは、問題ありとなったとき、それがどれだけ実際に問題があるのかを表す指標である。適合度 = a÷(a +b) で計算できる。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でファイ係数を考える」より

莫言の「蛙」でファイ係数を考える1

1 ファイ係数

 ファイ係数は、2行x2行のクロス集計表における行要素と列要素の関連の強さを示す指標である。例えば、

表1
    肺がんあり 肺がんなし 計
喫煙     A      B    N1
非喫煙     C     D   N2
計      M1    M2   MN

ファイ係数は、次の式で求められる。絶対値が大きいほど連関が強い。
(1)φ = A x D – B x C / √M1 x M2 x N1 x N2

表2
係数(絶対値)評価
〜0.2 殆ど関連なし。
0.2〜0.4 弱い関連あり。
0.4〜0.7 中程度の関連あり。
0.7〜1 強い関連あり。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でファイ係数を考える」より

心理学統計の検定を用いて莫言の「蛙」を考える7

3 まとめ 

 莫言の「蛙」の伯母と小跑についてデータベースから心理学統計による評価をしてみると、差がないことが分かった。

参考文献

大山正・中島義明 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風社 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019    
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2020
花村嘉英 莫言の「蛙」の執筆脳について ファンブログ 2020

心理学統計の検定を用いて莫言の「蛙」を考える6

1 最初は伯母と小跑とで満足度に差がないと予測する。両者の平均値を取ると、作者1.7、父1.1になる。この差は誤差の可能性がある。  
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう満足度の大小は、従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値である満足度が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
[満足度のt検定]
作者1.7、父1.1、よってt値=0.6。 
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は0.2にする。ここでは5%未満のため、対立仮説を採用し有意な差があると考える。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて莫言の『蛙』を考える」より

心理学統計の検定を用いて莫言の「蛙」を考える5

表2 具体度

我眼含着泪说:姑姑,您别说了,我认识他...姑姑,谢谢您,我已经怀孕・・・小狮子:姑姑,这个孩子,很快就要降生了,他的爹是一个剧作家,他的妈妈是个退休的护士・・・→伯母強い満足2、小跑弱い満足2

先生,我对您写这些,您会不会认为我是痴人写梦?我承认,姑姑的心理,确实发生了一些问题,我太太因为盼子心切,神经也有写不太正常,但我希望您能谅解她们,理解她们。→弱い満足1、弱い満足1 

一个自认为有罪过的人,总要想办法宽慰自己,就像您熟知的鲁迅小说(祝福)中那个捐门榄的祥林嫂,清醒的人,不要点破她的虚妄,给她一点希望,让她能够解说,让她夜里不做噩梦,让他能够像个无罪感的人,一样话下去。→弱い満足1、弱い満足1 

嘲笑我,那些站在道コ高地上的人会批判我,甚至会有个别有觉悟的人会像有关方面控告我,但我也不想改变,为了这个孩子,为了姑姑小狮子这两个从事过特殊工作的女人,我宁愿就这样愚昧下去。→強い満足2、強い満足2

那天,姑姑拿出听诊器,煞有个事地为小狮子听诊。小狮子袒腹仰躺,满面幸福;姑姑凝神细听,神情严肃。听诊完毕,姑姑用她那只被我母亲多次赞誉过的手,抚摸着小狮子的腹部。姑姑说:有五个月了吧?挺好,胎音清晰,胎位正确。→強い満足2、強い満足2

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて莫言の『蛙』を考える」より

心理学統計の検定を用いて莫言の「蛙」を考える4

2.3 「蛙」の登場人物間で満足度を問う 

 「蛙」は、中国の国策である計画出産を描いた作品である。ここでは、この小論の研究テーマ、伯母と小跑の満足度に関し違いがあるかどうかについて作成したデータベースを基に考察していく。

解答 伯母と小跑の満足度に関し差がない。

表1 具体度

还有这个,姑姑指着一个头鸡眼泥娃娃说,原本应该降生在东风村张拳家,但是被毁了,虽然不能全怨姑姑,但姑姑由责任。这小子1995年7月降生在东风村张拳的二闺女张来娣家。→伯母弱い満足1、小跑満足なし0

张来娣来找我,她已经生了两个女孩,再生就是超 计划生育,姑姑虽然当年被她爹打破过头,说不尽的恩恩怨怨,但姑姑还是将这个本来应该由他娘生的孩子还给了她。→強い満足1、弱い満足1 

他本来是她的弟弟,现在却成了她的儿子。这秘密也只有姑姑知道,现在透漏给你们,你们要守口如瓶。→強い満足2、弱い満足1   

这小子是个坏种,知道姑姑怕青蛙,曾经用纸包着青蛙将姑姑吓晕过去,但姑姑不恨他,花花世界,缺一不可,好人是人,坏种也是人・・・→強い満足2、弱い満足1 

最后,姑姑指着刚刚放进木格子里那个泥娃娃,说:你们认知他吗?→強い満足2、弱い満足1 

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて莫言の『蛙』を考える」より

心理学統計の検定を用いて莫言の「蛙」を考える3

2.2 実験計画 
 
【研究テーマ】 
質問 伯母と小跑の満足度に関し差がある。  
帰無仮説 伯母と小跑の満足度に関し差がない。 
対立仮説 伯母と小跑の満足度に関し差がある。 
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて莫言の『蛙』を考える」より

心理学統計の検定を用いて莫言の「蛙」を考える2

2 心理学統計

 心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

2.1 有意性検定

 科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女の性差で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

 ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて莫言の『蛙』を考える」より

心理学統計の検定を用いて莫言の「蛙」を考える1

1 先行研究との関係

 データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、莫言の「蛙」を使用して作者と父の不安度に関し差があるかどうか考えていく。  

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いて莫言の『蛙』を考える」より

莫言の「蛙」の多変量解析−クラスタ分析と主成分7

6 まとめ 

 データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。

【参考文献】
片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 ヘルスケア出版 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 テキスト3 心の健康管理 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2020
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−自然や文化の観察者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2020
花村嘉英 莫言の「蛙」の執筆脳について ファンブログ 2020 

莫言の「蛙」の多変量解析−クラスタ分析と主成分6

◆場面3 

我眼含着泪说:姑姑,您别说了,我认识他...姑姑,谢谢您,我已经怀孕・・・小狮子:姑姑,这个孩子,很快就要降生了,他的爹是一个剧作家,他的妈妈是个退休的护士・・・A1、B1、C2、D1
先生,我对您写这些,您会不会认为我是痴人写梦?我承认,姑姑的心理,确实发生了一些问题,我太太因为盼子心切,神经也有写不太正常,但我希望您能谅解她们,理解她们。A1、B2、C2、D2
一个自认为有罪过的人,总要想办法宽慰自己,就像您熟知的鲁迅小说(祝福)中那个捐门榄的祥林嫂,清醒的人,不要点破她的虚妄,给她一点希望,让她能够解说,让她夜里不做噩梦,让他能够像个无罪感的人,一样话下去。A1、B2、C1、D2
我顺从着她们,甚至也努力地去相信她们所相信的,应该是正确的选择吧。A2、B1、C2、D1
嘲笑我,那些站在道コ高地上的人会批判我,甚至会有个别有觉悟的人会像有关方面控告我,但我也不想改变,为了这个孩子,为了姑姑小狮子这两个从事过特殊工作的女人,我宁愿就这样愚昧下去。A1、B2、C2、D1

【カラム】
A平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0 
B平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0 
C平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0 
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.4普通、標準偏差0.5普通、中央値1.5普通、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.6普通、標準偏差0.5普通、中央値1.5普通、四分位範囲1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Aの中央値が低く、Cの中央値が高いため、視覚の新情報が多い。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。  
@ 5、視覚、直示、新情報、解決 →伯母に妊娠した報告をする。
A 7視覚、隠喩、新情報、未解決 →心理面に問題はあるが、理解してほしい。
B 6、視覚、隠喩、旧情報、未解決 →罪を犯した人は、己を慰めようとする。
C 6、視覚、直示、新情報、解決 →二人の信じることを自分も信じたい。
D 6、視覚、隠喩、新情報、解決 →特殊な仕事に関わってきた二人のために愚昧でいる。
【場面の全体】
 全体で視覚情報が8割であり、脳に届く通常の入力信号の割合に近いため、視覚の情報が重要となっている。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

莫言の「蛙」の多変量解析−クラスタ分析と主成分5

◆場面2 

办完王仁美的后事,安顿好家人,我匆匆ー回部队。一个月后,又一封电报到来:母亡速归。我拿着电报去向领导请假时,同时递交了一份请求转业的报告。A1、B1、C2、D2
将母亲安葬后那天晚上,月光皎洁,院子里一片银辉。女儿睡在梨树下一张草席上,父亲挥着扇子,替她驱ー蚊虫。蝈蝈在扁豆架上响亮地鸣叫,河里转来流水的声音。A1+2、B1、C2、D2
这是找个人吧,父亲长叹一声,道,家里没个女人,就不像个家了。我已向上级交了转业报告,我说,等回来再说吧。本来过的好好的日子,一转眼就成了这个样子,父亲叹息着说,也不知道该怨谁。A1、B1、C2、D2
其实也不能怨姑姑,我说,她也没做错什么。我也没有怨她,父亲说,这是命。没有像姑姑这样一批忠心耿耿的人,我说,国家的各项政策还真落实不了。A1、B1、C1、D1
理儿是这么个理儿,父亲说,可为什么偏偏是他呢?看着他被人家用刀子戳的血流满地的样子,我也心疼,华竟是亲堂妹妹。这就没有办法了,我说。A1、B1、C1、D1

【カラム】
A平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0 
D平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0  
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.2低い、標準偏差0.22低い、中央値1.0低い、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.6普通、標準偏差0.55普通、中央値2.0高い、四分位範囲1.0低い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Aの中央値が低く、Cの中央値が高いことから、視覚の新情報が多い。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。  
@ 6、視覚、直示、新情報、未解決 →軍に戻るとまた電報が来た。
A 8、視覚+それ以外、直示、新情報、未解決 →母の葬式の夜、月は輝いていた。
B 6、視覚、直示、新情報、未解決 →家に女子がいないが、小跑が戻ってからにする。
C 4、視覚以外、直示、旧情報、解決 →伯母のことは恨むでない。間違っていない
D 4、視覚、直示、旧情報、解決 →血だらけになると心が痛む。
【場面の全体】
 全体で視覚情報は8であり、脳に届く通常の信号の割合に近いため、視覚情報が重要となっている。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

莫言の「蛙」の多変量解析−クラスタ分析と主成分4

◆場面1 

姑姑,要不就让她生了,我沮丧地说,党籍我不要了,职位我也不要...。A1、B1、C2、D2
姑姑猛拍桌子,震得我面前水杯中的水溅了出来。A1、B1、C2、D2
你太没出息了!小跑!姑姑说,这不是你一个人的事!我们公社,连续三年没有一例超计划生育,难道你要给我们破例?A1、B1、C1、D2
可她寻死觅话,我为难地说,要真弄出点事来可怎么办?A1、B1、C2、D2
姑姑冷冷地说:你知道我们的土政策是怎么规定的吗?-喝毒药不夺瓶!想上吊给根绳。A1、B2、C2、D2

A平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0  
B平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0    
C平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0     
【クラスタABとクラスタCD】 
AB 平均1.1低い、標準偏差0.22低い、中央値1.0低い、四分位範囲1.0低い
CD 平均1.9高い、標準偏差0.22低い、中央値2.0高い、四分位範囲2.0高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Aの中央値が低く、Cの中央値が高いことから、視覚の新情報が多い。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。   
@ 6、視覚、直示、新情報、未解決 →生ませてやってほしい。 
A 6、視覚、直示、新情報、未解決 →叔母が机を激しく叩く。
B 5、視覚、直示、旧情報、未解決 →計画出産を超過した例がない。
C 6、視覚、直示、新情報、未解決 →死ぬの生きるので困惑した。
D 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →この土地の政策を知らないのか。 
【場面の全体】
 全体で視覚情報は10割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも多いため、視覚の情報が重要である。 

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

莫言の「蛙」の多変量解析−クラスタ分析と主成分3

3 多変量の分析

 多変量を解析するには、クラスタと主成分が有効な分析になる。これらの分析がデータベースの統計処理に繋がるからである。
 多変数のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。また、クラスタ分析は、多変数のデータを丸ごと扱う最初の作業ともいえる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
 作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A五感(1視覚と2それ以外)、Bジェスチャー(1直示と2隠喩)、C情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。 
 まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
 最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるのであろうか。  
「蝿」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとラインの特徴を表している。
 なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野2018)  

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

莫言の「蛙」の多変量解析−クラスタ分析と主成分2

2 国策重視

「蛙」は、眼の大きな一匹の蝿が蝿の眼で田舎の宿場の様子や乗客たちを分析するときの話である。
 山東省にある片田舎の婦人科の女医が「蛙」の主人公である。彼女の名前は万心で、登場人物の名前が身体の部位や人体の器官から取られている。こうした風習は、母と繋がっているという意味であろうか。新中国成立後、1970年代に始まる政策の一つに出産の規制がある。この計画出産は、吉田(2011)によると増加率が年20%を越えた人口問題に対応するための国策であり、30年の月日を経て人口の増加はようやく鈍化した。
 万足の最初の妻王仁美が密かに二人目を孕む場面や王胆が月足らずで陳眉を出産する場面、食用蛙の養殖工場の裏にある代理出産センターを舞台にした陳眉と小獅子による親権争いなど、出産に纏わる筋立てでストーリーが展開し、最後に代理ではあるが、小獅子と万足夫婦が子供を授かるところで終わる。
 莫言(1955年−)の「蛙」の購読脳を「計画出産と現実」にする。計画出産は、上述のように中国の国策である。正義または正義感は、平等であることをいう。資本主義であれば、確かに法のレベルで形式的に平等があり、一方、社会主義の場合は、その実現があって初めて平等が主張される。
 自由の平等は、自分と相手が合意可能な正義とし、正しい社会の調節を社会経済の平等と置き換えることも可能である。そこで「蛙」の執筆脳は、「正義と平等」にする。正義に纏わる脳の活動は一徹である。一筋に思い込んであくまで強情に押し通そうとする性質または頭の使い様のことである。
 「蛙」の購読脳を「計画出産と現実」、執筆脳を「正義と平等」にすると、シナジーのメタファーは「莫言と正義」になる。これは、リスク回避にも通じることである。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

莫言の「蛙」の多変量解析−クラスタ分析と主成分1

1 先行研究との関係 

 これまでに莫言(1955年−)の「蛙」の執筆脳を「正義と平等」としてシナジーのメタファーを作成している。(花村2020) この小論では、さらに多変量解析に注目し、クラスタ分析と主成分について考察する。それぞれの場面で莫言の執筆脳がデータベースから異なる視点で分析できれば、自ずと客観性は上がっていく。この小論では、シナジーのメタファーといえば「莫言と正義」を指す。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

莫言の「蛙」の相関関係について5

4 相関係数を言葉で表す

数字の意味を言葉で確認しておく。

-0.7≦r≦-1.0 強い負の相関がある
-0.4≦r≦-0.7 やや負の相関がある
0≦r≦-0.4 ほとんど負の相関がない
0≦r≦0.2 ほとんど正の相関がない
0.2≦r≦0.4 やや正の相関がある
0.4≦r≦0.7 かなり正の相関がある
0.7≦r≦1 強い正の相関がある

5 まとめ

 莫言の「蛙」のデータベースのうち、言語の認知のカラム、出産計画が1ある、2ないと、情報の認知のカラム、人工知能で正義が1ある、2ないは、正の強い相関があることがわかった。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 莫言の「蛙」の執筆脳について ファンブログ 2020
前野昌弘 回帰分析超入門 技術評論社 2012
莫言 蛙 浙江文芸出版社 2017

莫言の「蛙」の相関関係について4

表2 計算表

A 3 2 5
偏差  0.5 −0.5 0
偏差2 0.25 0.25 0.5
B 3 2 5
偏差  0.5 −0.5 0
偏差2 0.25 0.25 0.5
AB偏差の積 0.25 0.25 0.5  

◆相関係数は、次の公式で求めることができる。

相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
√(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和

上記計算表を代入すると、

相関係数 = 0.5/√0.5 x 0.5 = 0.5/0.5= 1

従って、正の強い相関があるといえる。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の相関関係について」より

莫言の「蛙」の相関関係について3

3 小説の場面に適用する

表1

A 姑姑,要不就让她生了,我沮丧地说,党籍我不要了,职位我也不要...意味出産計画2、人工知能正義2
B 姑姑猛拍桌子,震得我面前水杯中的水溅了出来。意味出産計画1、人工知能正義1
C 你太没出息了!小跑!姑姑说,这不是你一个人的事!我们公社,连续三年没有一例超计划生育,难道你要给我们破例?意味出産計画1、人工知能正義1
D 可她寻死觅话,我为难地说,要真弄出点事来可怎么办?意味出産計画2、人工知能正義2
E 姑姑冷冷地说:你知道我们的土政策是怎么规定的吗?-喝毒药不夺瓶!想上吊给根绳。意味出産計画1、人工知能正義1

A 言語の認知(動から静への思考):1ある、2ない →3、2
B 人工知能:1認識、2心的操作 →3、2
 
◆A、Bそれぞれの平均値を出す。
Aの平均:(3 + 2)÷ 2 = 2.5 
Bの平均:(3 + 2)÷ 2 = 2.5
◆A、Bそれぞれの偏差を計算する。偏差=各データ−平均値 
Aの偏差:(3 – 2.5)、(2 – 2.5)= 0.5、-0.5 
Bの偏差:(3 – 2.5)、(2 – 2.5)= 0.5、-0.5
◆A、Bの偏差をそれぞれ2乗する。
Aの偏差2乗 = 0.25、0.25 
Bの偏差2乗 = 0.25、0.25 
◆AとBの偏差同士の積を計算する
(Aの偏差)x(Bの偏差)= 0.25、0.25 
◆AとBを2乗したものを合計する。
Aの偏差を2乗したものの合計 = 0.25 + 0.25 = 0.5 
Bの偏差を2乗したものの合計 = 0.25 + 0.25 = 0.5
◆Aの偏差xBの偏差の合計を計算する。0.25 + 0.25 = 0.5

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の相関関係について」より

莫言の「蛙」の相関関係について2

2 相関の作り方

 シナジーのメタファーのために作成しているデータベースは、データの種類で見ると、俗に言う測れないカテゴリーデータからなる。数量データといわれる身長、体重、気温、湿度などとは異なり、値が連続ではなく飛び飛びで離散的となる。前野(2012)によると、カテゴリーデータは、対象の性質を表したり、現象や区別を表したりする。性別、好き、嫌い、うまい、まずい、おもしろいなどあるものの性質や現象が示される。
 相関とは原因から結果が生じ、それが互いに関係しあっていることをいう。また、相関関係があるとは、ある測定値の変化に対して他の測定値も変化する場合に使われる。相関の強さは、ピアソンの相関係数で表す。合わせて共分散という統計用語が重要になる。 

(1) 共分散の公式
共分散=[(xの各データ−xの平均値)x(yの各データ−yの平均値)]の和/データ数
   =[(xの偏差)x(yの偏差)]の和/データ数
   = xとyの偏差積の和/データ数

正の相関があると0より大きく、負の相関があると0より小さくなる。

(2) 相関係数(ピアソン)
相関係数=XYの偏差平方和/√(Xの偏差平方和)x(Yの偏差平方和)

「蛙」の問題解決の場面を使用して、簡単な例を見てみよう。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の相関関係について」より

莫言の「蛙」の相関関係について1

1 先行研究  

 莫言(1955年−)の「蛙」は、主人公が山東省にある片田舎の婦人科の女医万心である。問題の設定は、人口増加に対する国策の順守にある。この小論では、自作のデータベースを使用して相関関係を調べていく。言語の認知のカラムは、出産計画が1ある、2ない、情報の認知のカラムは、人工知能の正義、1ある、2ないである。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』の相関関係について」より

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて9

3 まとめ
 
 リレーショナルデータベースの数字及びそこから求めた標準偏差により、「蛙」に関して部分的ではあるが、既存の分析例が説明できている。従って、この小論の分析方法、即ちデータベースを作成する文学研究は、データ間のリンクなど人の目には見えないものを提供してくれるため、これまでよりも客観性を上げることに成功している。

【参考文献】

大村 平 統計のはなし−基礎・応用・娯楽 日科技連 1984
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 莫言の「蛙」の執筆脳について ファンブログ 2020
莫言 蛙 浙江文芸出版社 2017
莫言 蛙鳴 吉田富夫訳 東京 中央公論新社 2011

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて8

◆グループC:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)
場面1(特性1、1個と特性2、4個)の標準偏差は、0.4となる。
場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、0.49となる。
場面3(特性1、1個と特性2、4個)の標準偏差は、0.4となる。
【数字からわかること】
場面1、場面2、場面3を通して、新情報が多いため、ストーリーがテンポよく展開していることがわかる。

◆グループD:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)
場面1(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、0.4となる。
場面2(特性1、2個と特性2、2個)の標準偏差は、0.49となる。
場面3(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、0.49となる。
【数字からわかること】
莫言は、「蛙」執筆中、場面の最後で問題解決を試していることから、場面単位で作品の構成を考えている。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』から見えてくるバラツキについて」より

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて7

2.2 標準偏差による分析

 グループA、グループB、グループC、グループDそれぞれの標準偏差を計算する。その際、場面1、場面2、場面3の特性1と特性2のそれぞれの値は、質量ではなく指標であるため、特性の個数を数えて算術平均を出し、それぞれの値から算術平均を引き、その2乗の和集合の平均を求め、これを平方に開いていく。
求められた各グループの標準偏差の数字は、何を表しているのだろうか。数字の意味が説明できれば、分析は、一応の成果が得られたことになる。 

◆グループA:五感(1視覚と2その他)
場面1(特性1、0個と特性2、0個)の標準偏差は、0となる。
場面2(特性1、0個と特性2、0個)の標準偏差は、0となる。
場面3(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、0.4となる。
【数字からわかること】
場面1、場面2、場面3を通して、視覚情報が多いため、「蛙」は、五感の中で視覚の情報が鍵になる作品といえる。

◆グループB:ジェスチャー(1直示と2隠喩)
場面1(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、0.4となる。
場面2(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、0となる。
場面3(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、0.49となる。
【数字からわかること】
「蛙」は、国策の計画出産を推進する立場であるため、各場面を通して、比較的隠喩が少ないことがわかる。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』から見えてくるバラツキについて」より

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて6

場面3

我眼含着泪说:姑姑,您别说了,我认识他...姑姑,谢谢您,我已经怀孕・・・小狮子:姑姑,这个孩子,很快就要降生了,他的爹是一个剧作家,他的妈妈是个退休的护士・・・A1、B1、C2、D1

先生,我对您写这些,您会不会认为我是痴人写梦?我承认,姑姑的心理,确实发生了一些问题,我太太因为盼子心切,神经也有写不太正常,但我希望您能谅解她们,理解她们。A1、B2、C2、D2

一个自认为有罪过的人,总要想办法宽慰自己,就像您熟知的鲁迅小说(祝福)中那个捐门榄的祥林嫂,清醒的人,不要点破她的虚妄,给她一点希望,让她能够解说,让她夜里不做噩梦,让他能够像个无罪感的人,一样话下去。A1、B2、C1、D2

我顺从着她们,甚至也努力地去相信她们所相信的,应该是正确的选择吧。A2、B1、C2、D1

嘲笑我,那些站在道コ高地上的人会批判我,甚至会有个别有觉悟的人会像有关方面控告我,但我也不想改变,为了这个孩子,为了姑姑小狮子这两个从事过特殊工作的女人,我宁愿就这样愚昧下去。A1、B2、C2、D1

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』から見えてくるバラツキについて」より

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて5

場面2

办完王仁美的后事,安顿好家人,我匆匆ー回部队。一个月后,又一封电报到来:母亡速归。我拿着电报去向领导请假时,同时递交了一份请求转业的报告。A1、B1、C2、D2

将母亲安葬后那天晚上,月光皎洁,院子里一片银辉。女儿睡在梨树下一张草席上,父亲挥着扇子,替她驱ー蚊虫。蝈蝈在扁豆架上响亮地鸣叫,河里转来流水的声音。A1、B1、C2、D2

这是找个人吧,父亲长叹一声,道,家里没个女人,就不像个家了。我已向上级交了转业报告,我说,等回来再说吧。本来过的好好的日子,一转眼就成了这个样子,父亲叹息着说,也不知道该怨谁。A1、B1、C2、D2

其实也不能怨姑姑,我说,她也没做错什么。我也没有怨她,父亲说,这是命。没有像姑姑这样一批忠心耿耿的人,我说,国家的各项政策还真落实不了。A1、B1、C1、D1

理儿是这么个理儿,父亲说,可为什么偏偏是他呢?看着他被人家用刀子戳的血流满地的样子,我也心疼,华竟是亲堂妹妹。这就没有办法了,我说。A1、B1、C1、D1

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』から見えてくるバラツキについて」より

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて4

2 場面のイメージを分析する

2.1 データの抽出

 作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、標準偏差によるバラツキを調べてみる。例えば、A:五感(1視覚と2それ以外)、B:ジェスチャー(1直示と2隠喩)、C:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。

場面1

姑姑,要不就让她生了,我沮丧地说,党籍我不要了,职位我也不要...。A1、B1、C2、D2

姑姑猛拍桌子,震得我面前水杯中的水溅了出来。A1、B1、C2、D2

你太没出息了!小跑!姑姑说,这不是你一个人的事!我们公社,连续三年没有一例超计划生育,难道你要给我们破例?A1、B1、C1、D2

可她寻死觅话,我为难地说,要真弄出点事来可怎么办?A1、B1、C2、D2

姑姑冷冷地说:你知道我们的土政策是怎么规定的吗?-喝毒药不夺瓶!想上吊给根绳。A1、B2、C2、D2

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』から見えてくるバラツキについて」より

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて3

 次にグループe(1、4、4、4、7)について見てみよう。算術平均は4である。それぞれの値から算術平均を引くと、1-4=-3、4-4=0、4-4=0、4-4=0、7-4=3となる。この算術平均から離れている大きさを平均すると、バラツキの目安が求められる。しかし、-3、0、0、0、3を全部足すと0になるため、それぞれを2乗して、9、0、0、0、9として平均値を求め、5で割って3.6を求める。
 但し、元の単位がcmのときに2乗すれば、cm2となるため、3.6を開いて元に戻すと、√3.6 cm2≒1.90 cmというバラツキの大きさになる。従って、グループdの方がグループeよりもバラつきが大きいことになる。
 以下では、標準偏差(1)の公式を使用して、作成した莫言の「蛙」のデータに関するバラツキから見えてくる特徴を考察していく。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』から見えてくるバラツキについて」より

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて2

1.2 標準偏差

 標準偏差は、グループの全ての値によってバラツキを決めていく。グループの個々の値から算術平均がどれだけ離れているのかによって、バラツキの大きさが決まる。
 グループd(1、1、4、7、7)の算術平均は4である。それぞれの値から算術平均を引くと、1-4=-3、1-4=-3、4-4=0、7-4=3、7-4=3となる。この算術平均から離れている大きさを平均してやると、バラツキの目安が求められる。しかし、-3、-3、0、3、3を全部足すと0になるため、さらに工夫が必要になる。
 例えば、絶対値をとる方法とか値を2乗してマイナスの記号を取る方法がある。2乗した場合、9、9、0、9、9となり、平均値を求めると、5で割って7.2となる。但し、元の単位がcmのときに、2乗すればcm2となるため、7.2を開いて元に戻すと、√7.2 cm2≒2.68 cmというバラツキの大きさになる。
 
(1) 標準偏差の公式
σ=√Σ (Xi−X)2/n

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』から見えてくるバラツキについて」より

莫言の「蛙」から見えてくるバラツキについて1

1 簡単な統計処理

1.1 データのバラツキ

 グループa(5、5、5、5、5)とグループb(3、4、5、6、7)とグループc(1、3、5、7、9)は、算術平均がいずれも5であり、また中央値(メジアン)も同様に5である。算術平均やメジアンを代表値としている限り、この3つのグループは差がないことになる。しかし、バラツキを考えると明らかに違いがある。グループaは、全てが5のため全くバラツキがない。グループbは、5が中心にあり3から7までばらついている。グループcは、1から9までの広範囲に渡ってバラツキが見られる。グループbのバラツキは、グループcのバラツキよりも小さい。  
 次に、グループd(1、1、4、7、7)とグループe(1、4、4、4、7)だと、どちらのバラツキが大きいことになるのだろうか。グループdは、中心の4から3も離れた所に4つの値がある。グループeは、中心に3つの値があって、そこから3離れたところに値が2つある。 
 バラツキの大きさを定義する方法で最も有名なのが、レンジと標準偏差である。レンジはグループの最大値から最小値を引くことにより求めることができる。グループdは、7-1=6で、グループeも7-1=6となる。レンジだけでバラツキを定義すれば、グループdとグループeは同じことになるが、グループ内の最大値と最小値だけを問題にするため、他の値が疎かになっている。そこでもう一つのバラツキに関する定義、標準偏差について見てみよう。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』から見えてくるバラツキについて」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える14

5 まとめ

 莫源の「蛙」の執筆時の脳の活動を考察するために、購読脳の「計画出産と現実」と執筆脳の「正義と平等」からなるLのイメージを作り、データベース上でカラム同士の交わりに関し実験を試みた。長編小説のため、多くの場面で実験を試みる必要がある。興味のある方は、試してもらいたい。双方をまとめたシナジーのメタファーは、「莫源と正義」にする。
 最後に、小狮子の妊娠が代理出産によるものとした理由を説明する。小狮子が勤め先の蛙の養殖場の裏で営まれる代理妊娠センターで、万足から取ったオタマジャクシを陈眉に代理で出産してもらうように手配し、生まれた子供の親権を巡って双方で裁判沙汰にまでなるからである。判決では小狮子の子供になるが、時期が来たら万足も本当のことを話すとしている。
 中国の計画出産への取り組みと結婚した女性の子供を望む気持ちが交錯するストーリーは、資本主義の法律による形式的な平等から社会主義による社会や経済の平等という実践を経て、多くの登場人物により巧みに構成されている。

参考文献

片野善夫 ほすぴ162号、163号、164号、165号、166号 日本成人病予防協会 2018
神島裕子 正義とは何か 中公新書 2018
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019    
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る 
ブイツーソリューション 2022 
莫言 蛙(吉田富夫訳)浙江文芸出版社 2017
魯迅 祝福(竹内好訳)魯迅简节文集 民族出版社 2002

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える13

表5 万足が愚昧を語る場面

表2Aと同文。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
表2Bと同文。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Cと同文。情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 2
表2Dと同文。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
表2Eと同文。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1

A 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
B 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
C 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
D 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。
E 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は1計画→問題解決である。

結果

 この場面は、万足と小狮子夫妻の代理出産に関する話であり、確かに小狮子も姑姑も些か精神的に正常ではない。しかし、罪を犯した人間は、何とか己を慰めようとする。(魯迅「祝福」)虚妄をばらしたりせず、希望を与え、罪意識から解放させ、罪悪感無き人のようにしてあげても罰はあたらない。そこで、万足は、後妻の小狮子の言うままになり、愚昧であっても二人が信じることを信じようと努力するため、情報の認知3は、計画→問題解決となる。故に、「正義と平等」という推論が続いている。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える12

【連想分析2-2】

情報の認知1(感覚情報)
 
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、B条件反射である。
 
情報の認知2(記憶と学習)
 
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、経験を通した学習となり、カテゴリー化される。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)
 
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画→問題解決、A問題未解決→推論である。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える11

分析例

1 万足の後妻の小狮子がまもなく出産するとした場面。
2から5までは連想分析1-1と同じである。

テキスト共生の公式

ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「計画出産と現実」を作る。
ステップ2 姑姑の一徹から「正義と平等」という組を作り、解析の組と合わせる。

A 1視覚+1喜+1計画出産あり+1直示という解析の組を、正義1あり+平等1ありという組と合わせる。
B 3哀+1視覚+1計画出産あり+2隠喩という解析の組を、正義1あり+平等1ありという組と合わせる。
C 3哀+1視覚+2計画出産あり+2隠喩という解析の組を、正義1あり+平等1ありという組と合わせる。  
D 4楽+2聴覚+2計画出産あり+1直示という解析の組を、正義1あり+平等1ありという組と合わせる。 
E 4楽+1視覚+1計画出産あり+2隠喩という解析の組を、正義1あり+平等1ありという組と合わせる。

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える10

【連想分析2-1】

表4 万足が愚昧を語る場面

A 我眼含着泪说:姑姑,您别说了,我认识他...姑姑,谢谢您,我已经怀孕・・・小狮子:姑姑,这个孩子,很快就要降生了,他的爹是一个剧作家,他的妈妈是个退休的护士・・・
意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 1、正義1、平等1
B 先生,我对您写这些,您会不会认为我是痴人写梦?我承认,姑姑的心理,确实发生了一些问题,我太太因为盼子心切,神经也有写不太正常,但我希望您能谅解她们,理解她们。
意味1 3、意味2 1、意味3 1、意味4 2、正義1、平等1
C 一个自认为有罪过的人,总要想办法宽慰自己,就像您熟知的鲁迅小说(祝福)中那个捐门榄的祥林嫂,清醒的人,不要点破她的虚妄,给她一点希望,让她能够解说,让她夜里不做噩梦,让他能够像个无罪感的人,一样话下去。
意味1 3、意味2 1、意味3 2、意味4 2、正義1、平等1
D 我顺从着她们,甚至也努力地去相信她们所相信的,应该是正确的选择吧。
意味1 4、意味2 2、意味3 2、意味4 1、正義1、平等1
E 嘲笑我,那些站在道コ高地上的人会批判我,甚至会有个别有觉悟的人会像有关方面控告我,但我也不想改变,为了这个孩子,为了姑姑小狮子这两个从事过特殊工作的女人,我宁愿就这样愚昧下去。
意味1 4、意味2 1、意味3 1、意味4 2、正義1、平等1

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える9

表3 万足が姑姑に相談する場面

表2Aと同文。情報の認知1 1、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Bと同文。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Cと同文。情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 2
表2Dと同文。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2Eと同文。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A 情報の認知1は1ベースとプロファイル、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
B 情報の認知1は3条件反射、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
C 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は1旧情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。
D 情報の認知1は3条件反射、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。 
E 情報の認知1は2グループ化、情報の認知2は2新情報、情報の認知3は2問題未解決→推論である。

結果 

 この場面は、万足の妻の出産に関する相談で、姑姑は、計画出産の順守を説く。彼女は、共産党員で計画出産委員会の副会長であり、万足の見解が立場に反するため、問題未解決→推論になる。故に、情報の認知3は、「正義と平等」という推論が続いている。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える8

【連想分析1-2】

情報の認知1(感覚情報)
 
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、B条件反射である。
 
情報の認知2(記憶と学習)
 
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、経験を通した学習となり、カテゴリー化される。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)
 
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画→問題解決、A問題未解決→推論である。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える7

分析例

1 妻の王仁美のお腹の子供のことで万足が姑姑に相談している場面。
2 この小論では、「蛙」の購読脳を「計画出産と現実」、執筆脳を「正義と平等」と考えているため、意味3の思考の流れ、計画出産のありなしに注目する。
3 現実を弁えた上で姑姑が万足に計画出産という国政の正しさを説明する。
4 意味1 1視覚2聴覚3味覚4嗅覚5触覚、意味2 1喜2怒3哀4楽、意味3 計画出産1あり2なし、意味4振舞い 1直示2隠喩
5 人工知脳(正義) 1ある2なし、人工知脳(平等) 1ある2なし

テキスト共生の公式

ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて、解析の組「計画出産と現実」を作る。 
ステップ2 姑姑の一徹から「正義と平等」という組を作り、解析の組と合わせる。

A 1視覚+3哀+2計画出産なし+1直示という解析の組を、正義2なし+平等2なしという組と合わせる。
B [1視覚+2聴覚]+2怒+1計画出産あり+1直示という解析の組を、正義1あり+平等1ありという組と合わせる。
C 1視覚+2怒+5触覚+1計画出産あり+1直示という解析の組を、正義1あり+平等1ありという組と合わせる。 
D 1視覚+3哀+2計画出産なし+1直示という解析の組を、正義2なし+2なしという組と合わせる。
E 1視覚+2怒+1計画出産あり+2隠喩という解析の組を、正義1あり+平等1ありという組と合わせる。

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える6

4 分析

【連想分析1-1】

表2 万足が姑姑に相談する場面

A 姑姑,要不就让她生了,我沮丧地说,党籍我不要了,职位我也不要...
意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、正義2、平等2
B 姑姑猛拍桌子,震得我面前水杯中的水溅了出来。
意味1 1+2、意味2 2、意味3 1、意味4 1、正義1、平等1
C 你太没出息了!小跑!姑姑说,这不是你一个人的事!我们公社,连续三年没有一例超计划生育,难道你要给我们破例?
意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 1、正義1、平等1
D 可她寻死觅话,我为难地说,要真弄出点事来可怎么办?
意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、正義2、平等2
E 姑姑冷冷地说:你知道我们的土政策是怎么规定的吗?-喝毒药不夺瓶!想上吊给根绳。
意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 2、正義1、平等1

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える5

3 データベースの作り方

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】

表1 「蛙」のデータベースのカラム

文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 計画出産のありなし。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の接点。構文や意味の解析から得た組「計画出産と現実」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 正義 一筋に思い込んであくまで強情に押し通そうとする性質。
人工知能 平等 自由の平等、社会経済の平等。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える4

2.2 愚昧と甘受

 愚昧は、愚かで道理がわからず、鋭敏さに欠け、滑稽なことをいう。一方、甘受とは、与えられたものをやむを得ないものとして逆らわずに受け入れることである。致し方ないともいえる。現状からの回避が困難で逃れようがなく受け入れざる負えない状況にある。万足と小狮子夫妻の代理出産に関する場面でこれらの違いを説明しよう。
 小狮子も姑姑も些か精神的に正常ではない。小狮子の側から見ると、もう年をとって自ら出産することはできないが、代理出産により子供を授かることは一理ある。しかし、闇の取引であり、若い女が子供を欲しがるような振舞いを見ると、愚かで滑稽な面がある。
 夫の万足から見るとどうであろうか。代理出産で親権を争い、裁判沙汰になっても譲ることなく赤ん坊を我が子として可愛く思う妻がいる。あれ程までに出産に関してうるさく口やかましくいってきた姑姑さえも一線を退いてからかつての面影はない。そうした状況で、万足としては、代理出産による赤ん坊を受け入れざる負えない立場にあり、甘受といえる。これにより子供を授かるという平等が実現され、法のレベルのみならず社会主義でいう平等に一応到達している。
 ストーリーをまとめるために、万足は、魯迅の「祝福」を例に引く。自ら罪を犯した人間は、己を慰めようとする。祥林嫂は、生涯を見れば幸不幸の連続である。奉公に出て給金を貰い結婚もし子供にも恵まれた。しかし、丈夫な亭主がチフスで亡くなり、門外で豆剥きをしていた子供が狼に食べられた。一寸闇に闇がある。  
 春に獣が出るとは知らずとか子供が生きていたらと皆が聞き飽きるほど繰り返す。心的外傷後ストレス障害(PTSD)である。そのため、罪悪感から落ち込み不安にかられる。罪滅ぼしのために土地の廟へ行き、入り口の閾を寄進し、一応罪の意識から解放される。しかし、風紀を乱したため雇い主から好かれることもない。冬至祭りでも仕事がなく失神して気力がなくなる。死後の魂や家族そして地獄を問う末期の血の気のない痩せた女が愚昧に加味されている。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える3

 莫言(1955−)の「蛙」の購読脳を「計画出産と現実」にする。計画出産は、上述のように中国の国策である。正義または正義感は、平等であることをいう。資本主義であれば、確かに法のレベルで形式的に平等がある。一方、社会主義の場合は、平等が実現して初めて平等だと主張される。
 昔から不安な時代に自分自身がどのように人生の舵取りをするかというテーマは重要であった。先行きへの不安は確かなものであり、場合によって虚無的で無力にもなってしまう。そうなったとき自分が生き延びるために、リスクを最小に抑えた生活を送ったり、人生に迷う理由を他者の存在に委ねることで自己を肯定したりする。
 神島(2018)によると、正しい社会のあり方を追求する正義の理論は、自分と相手が合意可能な正義を求め、正しい社会の調節から個人に幸せが齎される。しかし、領域が拡大したら、正しい社会のあり方は、綿密に考察する必要がある。
 「蛙」の内容で見ると、不安な時代は、1949年に人民共和国が成立した当時の人口約5億4千万人から毎年急増した30年間であり、1981年には10億人を超えている。増加の一途を辿れば、国家破産というシナリオも考えられる。国家破産ともなれば、誰もが虚無で無力になってしまう。一方、増加を抑制できれば、リスクが回避され、他の項目、経済や技術の分野との相乗効果も期待できる。
 神島(2018)が説くアメリカの哲学者ジョン・ロールズ(1921−2002)は、正義の原理に二つのプリンシパルを持つ。一つは、基本的な自由の平等であり、また一つは、できうる限りの社会的で経済的な平等である。自由の平等は、自分と相手が合意可能な正義とし、正しい社会の調節を社会経済の平等と置き換えることも可能である。つまり、皆が満足するように調整できれば、ロールズの原理に近づいていく。そこで「蛙」の執筆脳は、「正義と平等」にする。
 正義に纏わる脳の活動は一徹である。一筋に思い込んであくまで強情に押し通そうとする性質または頭の使い様のことである。「蛙」の購読脳を「計画出産と現実」、執筆脳を「正義と平等」にすると、シナジーのメタファーは「莫言と正義」になる。これは、リスク回避にも繋がっていく。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える2

2 Lのストーリー 莫言と正義

 山東省にある片田舎の婦人科の女医が「蛙」の主人公である。彼女の名前は万心で、登場人物の名前が身体の部位や人体の器官から取られている。こうした風習は、母と繋がっているという意味であろうか。新中国成立後、1970年代に始まる政策の一つに出産の規制がある。吉田(2011)によると、この計画出産は、増加率が年20%を越えた人口問題に対応するための国策であり、30年の歳月を経て人口の増加はようやく鈍化した。
 出産の関連用語に堕胎がある。堕胎とは、生命のある胎児を自然の分娩期に先立って、人為的に母胎外に排出させることである。また、堕胎罪は、堕胎を実行することによって、成立する犯罪である。但し、優生保護法に基づく人工妊娠中絶などはこれに該当しない。人工妊娠中絶は、妊娠の持続が母体にとって危険である時などに、手術によって流産または早産させることである。
 「蛙」は、万足の最初の妻王仁美が密かに二人目を孕む場面や王胆が月足らずで陳眉を出産する場面、食用蛙の養殖工場の裏にある代理出産センターを舞台にした陳眉と小獅子による親権争いなど、出産に纏わる筋立てでストーリーが展開し、最後に代理ではあるが、小獅子と万足夫婦が子供を授かるところで終わる。
 この小論でLの信号の流れは、縦横何れも分析→直観→エキスパートとしたい。縦は、言語の認知により構文と意味の分析があり、横は、情報の認知による情報の捉え方や記憶そして問題解決・未解決の分析が来る。
 小説の問題解決の場面を対象にし、信号が問題解決に届いたら、その信号が体全体に回るかどうかを考える。感覚は、感覚器官や神経そして脳の連動から生まれるためである。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

莫言の「蛙」でシナジーのメタファーを考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

花村嘉英(2020)「莫言の『蛙』でシナジーのメタファーを考える」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について16

6 まとめ

 シナジーのメタファーを作家個人の脳の活動だけではなく、集団の脳の活動として考察するために、つまり、狭義ではなく、メゾのデータを束ねた広義の意味で考察するために、作家の条件に自然や文化の観察者を設け、エキスパートとして自然や文化に触れる社会学的な方法について考察した。その際、ミクロ、メゾ、マクロの3つのレベルで調節できることが分析方法の質を高めることになる。特に、メゾの部分でデータを束ねながら解析を重ねことにより、社会学の観点でマクロの文学分析が意義あるものになっていく。

【参考文献】

岡田光弘 2017 学習の社会学−レントゲン写真について「考える人」からそれを「読む人」へ 社会イノベーション研究12・2  
片野善夫 2018 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 日本成人病予防協会 
加藤剛 2013 多変量解析超入門 技術評論社
橋爪大三郎・大澤真幸他著 2016  社会学講義  ちくま新書 
花村嘉英 2005 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎
花村嘉英 2015 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む  華東理工大学出版社
花村嘉英 2017 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 
花村嘉英 2018  シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集
花村嘉英 2018  从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 
花村嘉英 2019 「川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−無と創造から目的達成型の認知発達へ」 中国日語教学研究会上海分会論文集
花村嘉英 2020  社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集
花村嘉英 2020  島崎藤村の「千曲川のスケッチ」の執筆脳について−自然や文化の観察者の立場から ファンブログ シナジーのメタファー
花村嘉英 2020  志賀直哉の「城の崎にて」の執筆脳について ファンブログ
花村嘉英 2020  国木田独歩の「武蔵野」の執筆脳について ファンブログ
花村嘉英 2020  横光利一の「蝿」の執筆脳について ファンブログ
花村嘉英 2020 エリアス・カネッティの「マラケシュの声」の執筆脳について ファンブログ
花村嘉英 2020 フランツ・カフカの「変身」の執筆脳について ファンブログ

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について15

 観察者として作家の執筆脳を考察するシナジーのメタファーに関し、この小論の分析から見て社会のあらゆる側面を考察の対象にする観察社会学的な意義を以下にまとめる。

◆作家の執筆脳の分析は、まだ世界的に実例が少ない。自分の専門や比較が中心で、共生を交えたマクロの研究が乏しいためである。人文以外の系列がブラックボックスからグレーになる位で調節するとよい。Lのフォーマットでスライドする際に信号が通るようになってくる。信号が通らなければ、執筆脳は、見えてこない。
◆執筆脳が見えてくると、専門のみならず副専攻も含めた様々な研究を縦横にまとめることにもなり、広義、狭義を問わず、シナジーのメタファー全体のバランスが整ってくる。
◆文学研究についても社会学同様に、ミクロとマクロのみならず、その中間に当たるメゾのデータが増えれば、研究の幅が広がり密度も濃くなり、実験が複雑で多様になる。
◆作家が観察者として自然や文化に触れるときは、いずれも五感と連携があり、言語、記憶、感情、思考、判断、意欲、適応能力(知能)などが考察の対象になる。これが特にメンタルヘルスの枠組みで人文と医学の組を成し、シナジーのメタファーの研究を個人(狭義)でも集団(広義)でも有意味なものにしてくれる。
◆学習を通して観察社会学でいう目が輝く瞬間とシナジーのメタファーの信号の流れでいう何かの分析→直観→エキスパートの接点は、身体全体の信号の流れが掴めれば、興味深く詳細に記述できる調整所になる。 
◆この小論で取り上げた作家群の分析から予測できることは、共生について調節に遅れがみえる人文科学でも文理に通じるデータベースを作成する文学分析が近い将来専門家の共通認識(コンセンサス)になることである。そうなれば、比較と共生による調整は、加速するであろう。
◆文芸を広義にとらえた場合、アニメーションの宮崎駿監督もトトロの森に生息する虫の目を通して現実の社会を観察するテーマで研究を続けている。観察社会学でいう目が輝く瞬間は、ここにもあるに違いない。

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について14

5 観察と社会−社会学的な意義 

 作家としての人間の条件に自然や文化の観察者を設定し、社会と観察という観点に立って、シナジーのメタファーから集団の脳の活動について社会学的な意義を考察している。
 岡田(2018)による観察社会学は、考える、見る、気づく、見える、読むという流れで学習者の目が輝く瞬間を捉えることが目標である。これは、何も医学の教室で医学生だけに当てはまることではなく、作家の学習にも該当する。花村(2020 b)の中で後天的に経験を通して行動が変化する過程を学習と呼び、実際に自分で行動せず、外的刺激や他者の行動を追うときは、観察とした。
 例えば、藤村であれば、信州の旅を重ねることで学習や観察に至り、一方、直哉は、療養による心の静止があり、独歩の場合は、傷心な中にも内面の写し絵がある。また、カネッティは、異文化に触れながら内容を読み取り、カフカは、多少ずらした現実の中で自分探しを試みている。
 こうした集団の活動に教室で参加者の目が輝く瞬間を捉える観察社会学の分析を適応していく。文学作品に描かれている学習の様子は、目が輝く瞬間の情報を提供してくれる。そこが執筆脳の抑えどころとなり、それがAIであれ医学であれ何に該当するのか説明できれば、観察社会学は、シナジーのメタファーの役に立つ。
 観察社会学の計算でみると、当初は個人的な問題に影響していたものが、次第に組織やその運営に関わるということから統計で表示できる観察になり、予測可能なできごとになっていく。花村(2020 b)は、予測可能なできごとが個人レベルを越えた学習、観察、研究のための基本的なルールに属すると指摘している。つまり、低レベルの専門知識ではなく、高度で専門的な合理性が重要となり、他の専門家が計算した結果も問題にすることができる。

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について13

 島崎藤村と同様に他の作家についても多変量を計算し比較してみる。志賀直哉、国木田独歩、横光利一、エリアス・カネッティそしてフランツ・カフカのデータベースから、通常の脳に届く視覚情報に対し、各場面の情報量がどのくらいなのか調べていく。観察者としての作家の役割を考えるための材料になる。

表3
島崎藤村(1874−1943)
「千曲川のスケッチ」の烏帽子山麓の牧場と炬燵話の場面で見ると、視覚情報は、通常よりも多いまたは少ないである。従って、観察の際に、視覚以外の五感情報も使われている。シナジーのメタファーは、「島崎藤村と観察に基づく思考」である。
志賀直哉(1883−1971)
「城の崎にて」の蜂の死骸、魚串の鼠そしてイモリの場面で見ると、直哉の観察は凝視故に、各場面で視覚情報が10割となり、他の五感情報はあまりない。シナジーのメタファーは、「志賀直哉と心的操作としての思考」である。
国木田独歩(1871−2008)
「武蔵野」の林、武蔵野の春、夏、秋、冬そして多摩川の場面で見ると、独歩の観察は内面を持つ新しい個人の出現を目指しているため、各場面で視覚情報が大分多く、他の五感情報はあまりない。シナジーのメタファーは、「国木田独歩と内面の写し絵としての思考」である。
横光利一(1898−1947)
「蝿」に描かれた馬車道の滑落事故の場面で見ると、横光は、文化社会論のカテゴリーにおける現実を蝿の目で観察しようと試みているため、視覚情報が多い。シナジーのメタファーは、「横光利一と観察としての思考」である。
エリアス・カネッティ(1905−1994)
「マラケシュの声」の聖なる男マラブとその一週間後の場面で見ると、カネッティの観察は文化圏の違いもあり、各場面で五感情報が多く、中でも視覚情報が多い。シナジーのメタファーは、「カネッティと直感に基づく思考」である。
フランツ・カフカ(1883−1924)
「変身」の大きな害虫に変身したグレゴール・ザムザが家族の様子を観察する場面で見ると、カフカは、虫の目を通して多少ずらしながら家族の現実を描いているため、各場面で視覚情報が多く、接続法の表現も多々見られる。シナジーのメタファーは、「カフカと適応」である。 

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について12

【カラム】
A平均1.4 標準偏差0.55 中央値1.0 四分位範囲1.5
B平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.2 標準偏差0.45 中央値1.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.3低い、標準偏差0.45普通、中央値1.0低い、四分位範囲1.25低い
CD 平均1.6普通、標準偏差0.2低い、中央値1.5普通、四分位範囲1.5 普通
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
信州の冬の様子を説明しており、情報は新だが、問題は解決に向かっていく。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 6、視覚以外、隠喩、新情報、解決 → 信濃の冬の厳しさと趣。
A 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → 冬の厳しさが身体に変化をもたらす。
B 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → 刺すような快感を覚える。
C 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 武蔵野との木々の違い。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 皆厳しい冬にも臆するところがない。
【場面の全体】
視覚情報が6割で通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚以外の情報が問題解決に効いている。

データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析が文理共生のための調節になっている。

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について11

◆場面2 炬燵話

私が君に山上の冬を待受けることのいかに恐るべきかを話した。しかしその長い寒い冬の季節が又、信濃に於ける最も趣の多い、最も楽しい時であることをも告げなければ成らぬ。A1 B2 C2 D1

それには先ず自分の身体のことを話そう。そうだ。この山国へ移り住んだ当時、土地慣れない私は風邪を引き易やすくて困った。こんなことで凌いで行かれるかと思う位だった。実際、人間の器官は生活に必要な程度に応じて発達すると言われるが、丁度私の身体にもそれに適したことが起って来た。次第に私は烈しい気候の刺激に抵抗し得るように成った。東京に居た頃から見ると、私は自分の皮膚が殊に丈夫に成ったことを感ずる。
A2 B1 C2 D1

私の肺は極く冷い山の空気を呼吸するに堪えられる。のみならず、私は春先まで枯葉の落ちないあの椚林を鳴らす寒い風の音を聞いたり、真白に霜の来た葱畠を眺めたりして、屋の外を歩き廻る度に、こういう地方に住むものでなければ知らないような、一種刺すような快感を覚えるように成った。A2 B1 C2 D1

草木までも、ここに成長するものは、柔い気候の中にあるものとは違って見える。多くの常磐樹の緑がここでは重く黒ずんで見えるのも、自然の消息を語っている。試みに君が武蔵野辺の緑を見た眼で、ここの礫地に繁茂する赤松の林なぞを望んだなら、色相の相違だけにも驚くであろう。A1 B1 C2 D2

ある朝、私は深い霧の中を学校の方へ出掛けたことが有った。五六町先は見えないほどの道を歩いて行くと、これから野面へ働きに行こうとする農夫、番小屋の側にションボリ立っている線路番人、霧に湿りながら貨物の車を押す中牛馬の男なぞに逢った。そして私は――私自身それを感ずるように――この人達の手なぞが真紅まっかに腫るほどの寒い朝でも、皆な見かけほど気候に臆してはいないということを知った。
A1 B1 C2 D1

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について10

A平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.2 標準偏差0.4 中央値1.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.0低い、標準偏差0低い、中央値1. 0低い、四分位範囲1低い
CD 平均1.5普通、標準偏差0.4普通、中央値1.5普通、四分位範囲1.5普通
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
A、B、C、Dのバラツキが比較的小さいため、作者の考察は一定である。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 5、視覚、直示、新情報、解決 → M君やB君が画学を教えに来た。
A 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 卒業生の〇の近況。
B 4、視覚、直示、旧情報、解決 → 千曲川沿岸の女性について。
C 5、視覚、直示、新情報、解決 → 千曲川のパノラマ。
D 5、視覚、直示、新情報、解決 → 草の上での酒盛り。
【場面の全体】
 全体で視覚情報は10割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりもかなり高いため、視覚の情報が問題解決に効いている。

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について9

「千曲川のスケッチ」の二つの場面を使用して、簡単な例を見てみよう。

◆場面1 烏帽子山麓の牧場
水彩画家B君は欧米を漫遊して帰った後、故郷の根津村に画室を新築した。以前、私達の学校へは同じ水彩画家のM君が教えに来てくれていたが、M君は沢山信州の風景を描いて、一年ばかりで東京の方へ帰って行った。今ではB君がその後をうけて生徒に画学を教えている。B君は製作の余暇に、毎週根津村から小諸まで通って来る。A1 B1 C2 D1

土曜日に、私はこの画家を訪ねるつもりで、小諸から田中まで汽車に乗って、それから一里ばかり小県の傾斜を上った。根津村には私達の学校を卒業したOという青年が居る。Oは兵学校の試験を受けたいと言っているが、最早もう一人前の農夫として恥しからぬ位だ。私はその家へも寄って、Oの母や姉に逢った。Oの母は肥満した、大きな体格の婦人で、赤い艶々とした頬の色なぞが素樸な快感を与える。A1 B1 C2 D2

一体千曲川の沿岸では女がよく働く、随がって気性も強い。恐らく、これは都会の婦人ばかり見慣れた君なぞの想像もつかないことだろう。私は又、この土地で、野蛮な感じのする女に遭遇であうこともある。Oの母にはそんな荒々しさが無い。何しろこの婦人は驚くべき強健な体格だ。Oの姉も労働に慣れた女らしい手を有もっていた。A1 B1 C1 D1

私はB君や、B君の隣家の主人に誘われて、根津村を見て廻った。隣家の主人はB君が小学校時代からの友達であるという。パノラマのような風光は、この大傾斜からほしいままに望むことが出来た。遠く谷底の方に、千曲川の流れて行くのも見えた。A1 B1 C2 D1

私達は村はずれの田圃道を通って、ドロ柳の若葉のかげへ出た。谷川には鬼芹などの毒草が茂っていた。小山の裾を選んで、三人とも草の上に足を投出した。そこでB君の友達は提て来た焼酎を取出した。この草の上の酒盛の前を、時々若い女の連つれが通った。草刈に行く人達だ。A1 B1 C2 D1

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について8

4 多変量なデータの解析 

 観察のために多くの変数があると手のつけようがなく、どこから始めればよいのか思いつかない。ここでは、似た者同士を集めたクラスタと主成分が有効な分析になる多変量解析を試みる。これらの分析がデータベースの統計処理になり、客観性をもたらしてくれるからである。
 多変量のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
 作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A五感(1視覚と2それ以外)、Bジェスチャー(1直示と2比喩)、C情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
 まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
 最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるであろうか。「千曲川のスケッチ」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとライン双方の特徴を表している。
 なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野2018)

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について7

 例えば、円山川の中の物を人が眺めている。首に七寸の魚串が刺さっている鼠が川に投げ込まれ、子供や車夫が石を投げていた。なかなか当たらない。鼠は石垣へ這い上がろうとする。しかし、魚串が痞えてまた水に落ちた。直哉がここで見たものは、物体から跳ね返ってくる光を受け取り物体の色や形、大きさ、立体感などの認識になっている。直哉の観察は、凝視である。
 国木田独歩は、作品中に誠実な目で天地自然の存在を見出し、その存在感を指摘している。文体は、言文一致の「武蔵野」でも誠実な自分が語り手のため、主観も客観も描写が可能であった。内面を持つ新しい個人の出現や独歩の内面の写し絵として武蔵野の自然を使用した。独歩は、生涯を通じて社会に関心があり、文学の手法は想像力を基礎とし、作者自身に関わる作品を正当とした。「武蔵野」は、独歩自身を最も慰めてくれる自然の物語であり、言文一致の成功例として同じ気持ちを持つ人間たちに向けて語りかけている。
 エリアス・カネッティは、「マラケシュの声」の中でこの町のアラブとユダヤの街区を通り、不思議な匂いを嗅ぎ、値切り商人と香ばしいパンの売り子を観察し、スラムで盲人、乞食、身体が不自由な障害者の声を聞いた。駱駝の前では屠殺係りの肉屋と一緒に頼りない創造性と間近の臨終を感じ取り、多くの哀れなユダヤ人の顔に驚き、親密な人間関係の証人となり、悪意、貧窮、売春を見て、より良い生活への羨望を感じた。控えめな主観性による散文集の中で、現実の背後にあるファイナルを解き明かすその声や行動に文化の観察者としての五感が冴え渡る。

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について6

3 自然や文化の観察者としての作家の役割

 島崎藤村は、写生という学習により物を観察し記憶することで自然に近づいていった。稽古としての写生は、研究であり、小諸で観察した事柄を素直にスケッチしている。
 視覚情報もさること、叫びや臭い、味、接触といったその他の感覚情報も考察の対象になっている。藤村自身の日々学習をしながらの観察である。後天的な経験を通して行動が変化する過程は、学習と呼ばれ、自分で行動せずに、外的刺激や他者の行動を追うときは、観察になる。藤村の場合、「若菜集」から「千曲川のスケッチ」へ至る時期が詩から散文へコースを変更するための研究期間であり、藤村の学習と観察双方を考察することができる。つまり、学習と観察の上位概念として研究がある。
 志賀直哉については、交通事故の怪我を治癒する目的で但馬・城の崎を舞台にした「城の崎にて」を考える。直哉の固有の資質は、清澄した目である。凝視により認識したものは、落ち着いた気持ちの中で怪我の養生という課題と相互に作用する。

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について5

 小説のデータベースを作成するプロセスについては、これまで何度も学会で発表し、著作や論文の中で説明している。(花村2005、花村2015、花村2017、花村2018、花村2019、花村2020)その際、狭義のシナジーのメタファーは、縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージとした。また、信号の流れは、縦横ともに何かの分析→直感→エキスパートである。双方の脳の活動は、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探すことによりマージができ、ミクロとマクロの中間にあるメゾのデータになる。そして、Lのイメージを安定させるためには、人文と社会、人文と情報、文化と栄養そして心理と医学さらにブラインドで社会とシステムといった共生の組み合わせが必要になる。
 この小論では、広義のシナジーのメタファーを考察するため、個々のデータベースを束ねたネットワークの構築とその評価について検討していく。例えば、自然や文化の観察者としての作家の執筆脳を社会学の観点から集団の脳の活動と見なし、人文科学が研究対象とする個人の脳の活動と組にする。
 通常、ネットワークの構築は、ネットワークエンジニアによりローカルとグローバル双方で行われる。ローカルは、居住区とか社内のネットワークのことであり、一部に限定されたイメージである。一方のグローバルなネットワークは、地球規模を想定した広域なイメージである。ここでは、何かと地球規模を想定しているため、グローバルなネットワークを安定させるための方法やローカルとの連携などが考察の対象になる。
 社会学のデータ処理は、3つの段階がある。橋爪他(2016)によると、@アンケートや世論調査といった独自の方法を通したデータの収集、A集めたデータの背後に隠れている情報を見出すデータの解析、B質的データや量的データに対する社会学的な意義の提出が条件になる。(4データの収集と解析および5社会とリスクを参照すること。)

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について4

2 ネットワークの構築

 社会学の考え方として、多方面に渡って人間相互のネットワークを分析することにより、人間の条件を理解するというものがある。橋爪他(2016)は、社会のごく一面に注目して研究を進める政治学や経済学や法学とは異なり、社会学こそが社会全体を丸ごと研究する学問とし、人間と人間との関係こそが社会であると考えている。政治も経済も法律も確かに人間と人間との関係を扱っている。しかし、いずれも権力や金や法律による関係であって、特殊なものである。一方、社会学は、多様な関係のより一般的な在り方を研究する学問である。
 作家の執筆脳を理解するとき、文理に通じるようにシナジーのメタファーという用語を使用している。作家が自身で執筆していれば、読者に伝えようと思っている情報が小説の中に必ずあるはずである。例えば、定番の読みといわれるもの、トーマス・マンならばイロニー、魯迅ならば馬虎(詐欺をも含む人間的ないい加減さ)、川端康成であれば無と創造がそれに当たる。
 そもそも作家の執筆脳は、人の目には見えないものである。執筆脳の研究をするとしたら、理系の研究者の場合、生存者の脳波を取り、反応している部位の細胞を調べていくであろう。一方、人文の研究者は、あくまで文献学が専門のため、亡くなった作家についても自分で書いていることを条件にデータベースを作成しながら研究するとよい。 

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について3

マクロの文学のイメージ

 イメージ図を考えてみよう。人文と社会の間には文化があり、人文と医学の間にはカウンセリングがある。そして、人文と情報の組で見ると、例えば、コーパス、パーザー、機械翻訳、計量言語学(いずれも購読脳)さらには小説のLのデータベース(執筆脳)があり、一方で社会や医学と情報システムが組をなして全体的にバランスを取っている。図の中央にある縦横のシナジーの目は、脳科学の役割を果たし、司令塔としてそれぞれの系列に指示を出すイメージである。
 無論、イメージ図の中には地球規模として東西南北からオリンピックにまで広がる国地域があり、また、Tの逆さの認知科学の定規と縦横に言語や情報の認知を取るLの定規、さらにはロジックを交えたメゾの箱が含まれている。こうした地球規模とフォーマットのシフトを条件とする、総合的で学際的なマクロの文学研究が人生をまとめるための道標として人文科学の研究者たちにも共通認識になるとよい。

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について2

 作家の担う役割として自然や文化の観察者を想定し、島崎藤村の「千曲川のスケッチ」、エリアス・カネッティの「マラケシュの声」、志賀直哉の「城之崎にて」、国木田独歩の「武蔵野」を用いてデータベースを作成しながら、平易な統計分析、例えば、バラツキ、相関関係、多変量そして心理学によるデータ分析を行っている。こうすると文学や言語学に関するミクロの研究や国地域の比較に加えて、トップダウンからの観察社会論に基づくマクロの研究と共に、中間に位置するメゾの研究を処理することができるからである。
 また、人の目のみならず虫の目による観察もこのカテゴリーに入れることができる。例えば、田舎の馬車道での滑落事故を描いた横光利一の「蝿」や主人公が大きな目をした害虫に変身して目覚めるフランツ・カフカの「変身」などである。
比較でみると、国地域に関して言語や文化による分け隔てはなく、地球上のどこもが研究の対象になるため、 シナジーのメタファーは、すべての言語に適応可能な研究方法といえる。因みにこれまで筆者が研究した作家の国地域を見ると、東アジア(森鴎外、井上靖、川端康成、小林多喜二、中島敦、芥川龍之介、坂口安吾、有島武郎、三浦綾子、佐藤愛子、幸田文、魯迅、莫言)、ヨーロッパ(トーマス・マン、ハインリッヒ・ベル、ペーター・ハントケ)、南アフリカ(ナディン・ゴーディマ)であり、さらに北米や南米など他の国地域の作家たちにもシナジーのメタファーの研究を適応させていきたい。

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より

社会学の観点から文学をマクロに考えるー自然や文化の観察者としての作家について1

1 はじめに

 この論文は、小説のデータベースを作成しながら、作家の執筆脳を集団の脳の活動として広義に説明するために、前回に引き続き、社会のあらゆる側面を考察の対象にする社会学の観点に基づいたマクロの文学分析を試みる。
 これまでは作家の執筆脳としてシナジーメタファーを作家毎に狭義で研究してきた。今回は、作家としての人間の条件に自然や文化の観察者というエキスパートとしての資質を設け、社会と観察という観点に立ち、シナジーのメタファーから集団の脳の活動について考察していく。
 岡田(2017)によると、観察社会学は、学習としての同一体(例、レントゲン写真)の推移に従い、ローカルな現場で学習が達成されることを目指す。つまり、医学教室で学生の目が輝く瞬間を捉えるえる試みである。目の前にあるレントゲン写真について、学習者が考える人、見る人、気づいた人、見えている人、読む人になっていく。文化とか自然の観察者も自身の知識で調節ができることを前提に、考える人から読む人になり、目が輝く瞬間が来る。この小論でいう観察者は、観察社会学に依拠した役割を担う。こうした作家の役割には、他にもリスクの管理者あるいは歴史の伝承者、書き手としての医者などが考えられる。 

花村嘉英(20202)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー自然や文化の観察者としての作家について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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