アフィリエイト広告を利用しています

広告

この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。
新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
posted by fanblog

2019年02月08日

クロア篇−3章6

「この人はティオさんって言うんです!」
 レジィは二匹の鼬を抱えながら、弓を携える男性を紹介した。ティオという弓士は思いのほか年少だ。正面から見てみると、青年というよりはまだ少年な雰囲気がある。
(レジィと同じ年頃?)
 クロアは彼を十五歳前後の若者だと思った。その若さでは実戦経験を期待できず、即戦力になるか疑念が湧く。
(でもいいわ、傭兵になれなくても武官として育てられれば……)
 その算段を秘めておき、クロアはティオの意思を確認する。
「ティオさんはレジィから依頼の件をお聞きしましたの?」
「ああ! 賊の集団をとっちめるっていうんだろ?」
「そうなのです。手伝ってくださるのね?」
「やるとも! 弓を活かせる仕事がなくて、がっかりしてたところなんだ」
 少年はやる気満々で答えた。クロアはその気鋭に水を差したくなかったが、必要な注意事項を述べる。
「けれど、無条件で雇うことはできませんの」
「まずは力比べをやるんだってな。弓だと、なにやるんだ? 的当て?」
 クロアは答えられない。今朝、頑固な老爺が試験内容を決めるように話し合ったばかりだ。具体的な試験内容は皆目見当がつかないし、そもそもまだ決まっていない可能性もある。適当なことを言うわけにはいかず、正直に事情を明かす。
「お教えしかねますわ。わたくし以外の者が取り決める手筈になっていますので──」
「じゃあ行くっきゃないんだな」
 ティオはあどけない笑顔でそう言った。クロアも同感だ。ただちに馬車に乗ろうと思ったが、なにかをやりわすれた気がして、足が止まる。
「んー、ほかに用事があったような……?」
 レジィが「組合の人へのたのみごとですか?」と言った。まさしくそれだ、とクロアは膝を打つ思いで従者を見る。
「そうだったわ。戦えそうな人がきたら、わたしの依頼を伝えてほしいとたのみたかったの」
「あたしが話しておきました」
「あら、気が利くわね」
「ティオさんに事情を話すのといっしょに、受付の人も話を聞いてくれたんです。きっとこちらの気持ちは伝わったと思うんですけど、たしかめておきます?」
「今日はいいわ。またきたときにたずねてみましょ」
 クロアはティオの情熱が冷めないうちに移動したいと考えた。さっそく屋外へ出る。組合の庭に停めた馬車へ向かった。車外で待機していたエメリと合流する。
 クロアはエメリに帰宅を要請したかった。だが御者の視線がクロアの後方にあるのを気にかけて、話しそびれた。すると後方から「うわ!」という少年の声があがる。
「なんでエメリがここにいる?」
 ティオはエメリと顔見知りらしい。当のエメリは「勤務中よ」と簡潔に言った。
 クロアとレジィはこの二人の関係を知らないので、会話に加われない。クロアがエメリに仔細を問おうとしたところ、ティオが「だって」と話を続ける。
「仕事中は屋敷の厩舎にいるんだろ?」
「外へ出る用事がなければ、ね」
「外出するときはお偉いさんを送るときだけだって……」
「貴人はあなたの目の前にいらっしゃいます」
 ティオが目を大きくしてクロアとレジィを見る。交互に二人を見たのち、クロアの全身を注視する。
「え? じゃあ……こっちの背の高い女の人が、剛力無双のクロア公女?」
「そのとおり、わたしがアンペレの第一公女ですわ」
 少年は呆けた様子で、事実を飲みこめないでいた。クロアはてっきりレジィが紹介したものだと思っており、彼女の横顔を見つめる。
「言ってなかったのね?」
「あ、そうみたいです……」
「べつにいいわ。自己紹介はいつでもできるもの」
 クロアは次なる紹介をたずねにかかる。
「ところでエメリたちはどういう間柄なの?」
 エメリが「夫の弟なんです」と答えた。クロアはその続柄に違和感をおぼえる。
「エメリの夫は馬具工房の跡取りでしょう。その兄弟も職人になるのではなくて?」
 工房の息子が戦士を目指す、という事態が現実に無くはないだろうが、アンペレの通論では少数派だ。エメリは「おっしゃることはもっともです」とクロアの認識を肯定する。
「ティオは家業を手伝いたくないんですよ」
「あら、職人にならないつもりなのね」
「はい。昔から学舎の訓練場で矢を撃ったり、友だちと剣の稽古をしたり……体をうごかすのが好きなんです」
「じっとしていられない性分なのね。なんだかよくわかるわ」
 クロアもティオと同様、武芸を好む。その性情をよく知るエメリはなつかしそうに笑う。
「お嬢さまもお裁縫や楽奏の練習より、武術の鍛錬を好まれましたね」
「まあね、戦うことがわたしの天職だと思っているもの」
「ティオも、そうなのかもしれません。うちの弟のいい稽古相手でしたよ」
 エメリには歳の離れた弟がいる。彼は将来有望な武官だ。この町における数少ない優秀な戦士である。そんな人物と親しく稽古に励んでいたというティオも、同等の強さが期待できるかもしれない。そう思ったクロアは「よくわかったわ」と機嫌よく答えた。

タグ:クロア
posted by 三利実巳 at 02:22 | Comment(0) | 長編クロア
プロフィール
画像は親戚のトイプードルの頭頂です。クリックしても全体像は見れません
三利実巳の画像
三利実巳
最新記事
<< 2019年02月 >>
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28    
お知らせ
21-5-16,3月以降更新停止していますが生きてます。今は他のことを手掛けているのでそっちが飽きたら戻ってきます
検索
タグクラウド
カテゴリーアーカイブ
月別アーカイブ
2022年10月【1】
2021年03月【1】
2021年02月【2】
2021年01月【1】
2020年12月【1】
2020年11月【4】
2020年10月【3】
2020年09月【2】
2020年08月【1】
2020年07月【1】
2020年06月【1】
2020年05月【1】
2020年04月【1】
2020年03月【3】
2020年02月【5】
2020年01月【3】
2019年12月【1】
2019年10月【1】
2019年09月【1】
2019年08月【2】
2019年07月【5】
2019年06月【2】
2019年05月【21】
2019年04月【15】
2019年03月【12】
2019年02月【14】
2019年01月【18】
2018年12月【15】
2018年11月【11】
2018年10月【14】
2018年09月【6】
2018年08月【12】
2018年07月【21】
2018年06月【9】
2018年05月【9】
2018年04月【5】
2018年03月【8】
2018年02月【11】
2018年01月【8】
2017年12月【21】
2017年11月【21】
2017年10月【21】
リンク集
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。