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2021年12月05日
落選した候補者「立憲は連合の政党なのか?」
「立憲は連合の政党なのか?」
保守的な農村選挙区で敗れた立憲・候補が口にした本音
文章 InFact編集長 立岩陽一郎 12/5(日) 7:33 12-5-7
写真 つのだよしお アフロ 12-5-1
立憲民主党(以後・立憲)は泉健太代表による新執行部での体制が始まった。しかし先の選挙での敗戦を総括しないと再生は難しい。その際に避けて通れ無いのは、保守的な有権者が多い農村部での選挙対策だ。和歌山で敗れた候補者は「立憲は連合の政党なのか?」と選挙戦を通じて感じて来た疑問を口にした。
農村地帯から為る和歌山2区
和歌山県は広い。その広い面積は農村部が占めて居る。梅・柿・みかん・・・全国にその名を知られる果物王国だ。そして、ソレは農村部特有の保守王国でも在る。3区の二階俊博氏はその象徴かも知れ無い。その和歌山県かつらぎ町に藤井幹雄さん(61)を訪ねた。藤井さんは2区に立憲から出て敗れた。自宅のリビングで向き合って選挙に付いて尋ねると直ぐに出たのは次の一言だった。「選挙って理屈じゃ無くてイメージ」
藤井幹雄さん(61)12-5-2
今回の選挙を数字で見よう。
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自民党の現職に対してダブルスコアでの敗北と為った。藤井さんは振り返った。「出来る事は遣った。立候補を表明して1年在って、準備はして居た」
藤井さんは和歌山市内に事務所を構える弁護士だ。地元から東大法学部に進み弁護士と為った。和歌山県の弁護士会長も経験。加えてトライアスロンや水泳のマスターズに出るスポーツマン。候補者として申し分無い人材だ。2019年の参議院選挙に立憲から出て敗れた。それが最初の選挙。今回は満を持しての選挙だった。
「参議院選挙の時は準備も十分では無く、兎に角出て頑張ったと云うだけだった。今回は自民党を批判する声も多く、勝つ事を意識して選挙を戦った」
しかしこの結果だった。
「矢張り私には組織が無かった。自民党は『面』で選挙して居る。立憲は『点』でしか出来ていない。『点』と『点』を繋げられ無かった」
吹っ切れた表情で淡々と語った。
保守的な地域で戦うとは
2017年の選挙結果を見てみたい。
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自民党が常に7万を超える票を持つ。そして、自民党以外の浮動票も基本的に保守なのが判る。但し、共産党も手堅い票が有る。希望と維新の票も含めて、典型的な農村部の有権者の動向を見て居る感じだ。だから、此処で如何戦うか、否、如何負けたかを分析する事は立憲に取って重要だ。
藤井さんが今回の選挙で善戦して居た事もこの数字から判る。しかし仮に、希望・共産・維新の票を足し上げても6万に届か無いのも事実だ。此処で勝つには、自民の票を切り崩さ無ければいけ無い。藤井さんは選挙戦で何を訴えたのか?
「地域の代表として、この地域を如何するのかを訴えた。それと、嘘誤魔化しが罷り通る様な日本で良いのか。正常な日本に戻そう。当たり前の政治に戻しましょう」
そう訴えた。そして、地域の地場産業で在る農業振興 「私は(実家が)農家。私は農業に一番近い政治家だと訴えた」
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勿論、藤井さんは弁護士としてジェンダーの問題や格差の問題に強い関心を持って居る。しかし、この選挙でそれを第一に主張しても有権者には届か無い。それが農村の選挙だ。或る意味で立憲的な部分を封印しての選挙だったと言える。
野党共闘の在り方
では、野党共闘は藤井さんの選挙には如何云う意味を持ったのか?
「当然、候補者調整は重要です。共産党は私の事務所に入って居ませんでしたが、共産党の票は(私に)入って居ます。もし共産党が候補者を立てて居たら最初から勝負には為ら無いでしょう」
しかし、それだけでは勝て無いのも事実だ。「保守層をヒックリ返すと云う事を目指したが、それが出来無かった」
農村部に於いては、想像以上に共産党アレルギーが強かったとも感じて居る。「自民党では駄目だと言う人は多かった。そうした人が私を応援して呉れて居た」
処が選挙戦の後半で、少し風向きが変わって来たと云う。藤井さんへの支持が浸透し自民党が慌て始めた時期、共産党が「選挙区は藤井、比例は共産」と連呼し始めた。すると・・・「これ迄支持して呉れて居たで在ろう人が離れ始めたんです。『藤井さん、共産党の候補なんか』と」
応援して呉れる共産党の人には申し訳無いと思いつつ、共産党との距離を置か無いと拙いと云う思いが強く為ったと云う。では、連合は?
「私は連合の推薦ですし、ビラの投函やポスターの張り出しは連合の方が遣って呉れました。事務所にも連合の人が来て呉れました」
しかし「集票に繋がると云う事は少無かったと思う」と話した。「この地域には連合の組合員が少ない。元々連合の役割が選挙戦を左右すると云う地域では無いんです」
冒頭の「選挙って理屈じゃ無くてイメージ」に付いて尋ねた。すると藤井さんは或るエピソードを語った。
「朝日新聞のアンケートが在って、色々な論点をイエスノーで答える訳です」そこで「北朝鮮には圧力か?」と問われる。藤井さんは圧力だけでは拉致問題も核問題も動か無いと考える。だから「ノー」と答える。
「防衛費を増額すべきか?」と問われる。藤井さんは安全保障は防衛費の増額だけでは無いと考えて「ノー」と答える。すると、紙面に出るのは、それ等に「イエス」と答えた他の候補と、それ等に「ノー」と答えた藤井さんと云う構図に為る。
「それを見た人は『藤井は共産党やないか』と為る」
メディアも「理屈じゃ無くイメージ」に加担した形だ。ソコに共産党の「選挙区は藤井、比例は共産」が加わるから、益々、共産党のイメージが強く為る。そして後半に失速。
立憲は如何したら勝てるのか?
では、どうすれば立憲は農村部で勝てるのか?
「先ず、選挙協力は共産党と遣ら無ければいけ無い。それを遣ら無ければ、国民民主と同じ規模の政党に為ってしまう」
しかし、それは候補者調整のレベルに留めるべきだと藤井さんは話した。
「共産党とは選挙協力は必要に為って来るが、それに依ってウイングは左に広げる形に為った。では、右に広げる努力は如何だったのか?」
特に農村部の選挙は保守を取り込まないと勝て無い。藤井さんは「保守を切り崩す」と表現した。元来が保守的な地域では、保守層への食い込みが選挙戦で求められる。それは風頼みでは不可能だ。しかし、右に広げると共産党の協力は得られ無いのではないか?
「共産党が(票を)入れ易い構図を作ると云う事だと思います。小選挙区で在る以上、野党共闘は当然です。それは共産党に取ってもマイナスでは無い」
処が、先の選挙では選挙協力以上の議論に焦点が当たってしまった。例の「共産党は閣外協力」だ。自公から「立憲は政権を取ったら共産党との連合政権に為るのか?」と問われ、立憲も共産党も「閣外からの協力」を強調。それが苦し紛れの印象を与える結果に為ったとは、私も思って居る。藤井さんは同感だと話した。
「閣外協力等、ソモソモ言う必要は無かったんです。選挙協力をすると云う事は、自ずと合意出来る部分が有ると云う事です。それは合意出来無い部分も有ると云う事でも在る。それを素直に言えば良かった。
そして、先ずは与野党が拮抗した緊張感有る国会を作る。その為に野党は選挙協力をしたと云う事を主張すれば『閣外か閣内か』と云った論争には為ら無かったと思います」
「私は連合の候補者では無い」
立憲は泉健太氏を代表とする新執行部が動き出して居る。新執行部に求める事は何か?
「立憲の立つべき処を明確にする」
そして、選挙戦を通じて感じて居た違和感を口にした。
「立憲は連合の政党なのか?と云う事です」藤井さん自身、連合推薦の候補者だ。「しかし(私は)連合の候補者では無い」と言い切った。
「連合は立憲のサポーターでは在る。最大のサポーターでしょう。ポスターを貼るのも大変ですから、そのサポートは助かる。しかし、立憲は連合の政党では無い」
サポーターで在る事と、そのものの政党で在る事は違う。連合に何か言われれば執行部が動揺する様では野党第一党としても心許無い。
「立憲は国民の生活に目を向ける政党です。その対象は労働組合員だけでは無い。自営業者もそうだろうし、身体を使って額に汗して働く全ての人の側に立つ。そう云う政党で無ければいけ無い。マネーゲームで儲けて居る人達の為の政党では無い」
確かに、今回の選挙で立憲と共産の関係がクローズアップされた原因の1つに、連合の対応が在る。芳野友子氏が会長に就任するや、共産党との野党共闘を批判する主張を展開。自公の攻撃を受けて居ると思ったら後ろから撃たれる形と為った。
そして「閣外協力」と云った苦しい説明を展開し、それが注目される結果と為った。それを考えると、連合に掻き回されて敗北したと云った印象さえ受ける。藤井さんは自分為りに選挙を総括した書簡を党の執行部に送って居る。そこには次の様に書かれて居る。
「連合だけの顔色を見て居るだけでは、本来のターゲットにすべき無党派・中間層へのアプローチが遅れてしまう様に思います」
藤井さんは選挙にはもう出無いと言った。
「私の役目は終わりました。家族にこれ以上の負担は掛けられ無い。国会が解散する前に、藤井家が解散してしまいます」
新体制発足早々に連合に芳野会長を訪ねた泉代表に、果たして藤井さんの声は届くのだろうか?
InFact編集長 立岩陽一郎 12-5-6
InFact編集長 アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー 1991年一橋大学卒業 放送大学大学院修士課程修了 NHKでテヘラン特派員 社会部記者 国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使って居る実態を暴き随意契約原則禁止の切っ掛けを作った他、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害(たんかんがんひがい)が発生して居る事をスクープ 「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職 著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」 「NHK記者がNHKを取材した」 「ファクトチェック・ニッポン」 「トランプ王国の素顔」など多数 日刊ゲンダイにコラムを連載中
【管理人のひとこと】
公表される記事の中で、落選候補を取り上げるものは数少ない。筆者はその数少ない貴重な記事を書いて呉れた。東大出の弁護士・・・地方では名士として尊敬された人物なのだろう。しかし、二度の選挙で落選し〈気力も財力も使い果たした・・・〉のだ。
何せ、立候補するだけで何百万と取られ比例に重複すると更に何百万・・・選挙運動をするには、事務所や車両・応援員を何十人と・・・恐らく何千万と云う費用が必要と為る。コンナ選挙制度も問題だが、それを勝ち上がってコソの議員である。
人の為に仕事したい・・・その思いは掛け替え無く高尚で立派なのだが、人には向き不向きもあり政治以外の面で人の為に働く・・・そんな弁護士は絶対必要とされる。政治だけが仕事では無いのだから。